翔「アリエッティ、君たちのために畑を作ったよ」(153)

翔「もう君たちの借りパク暮らしはおしまいだ」

アリエッティ「え?」

翔「君たちの畑だ、君が耕せ」

アリエッティ「はい!」

―完―

本編

翔「小人だ!?」

アリエッティ「見つかったから出てくわ」

翔「わかった」

ー完ー

翔「怖がらないで」

アリエッティ「お前マジキモいから出てくわ」

翔「君は僕の心臓の一部だ」

ー完ー

ガシャン

アリエッティ「あっ!?」

翔「キミたちは本当に愚かだね。まさかこんなに簡単にひっかかるなんて」

アリエッティ「ここから出して!檻に閉じ込めてどうするつもりなの!?」

翔「はい。これ」 スッ

アリエッティ(私のまち針…?)

翔「コロシアム、って知ってるかい?」

アリエッティ「コロシアムって…まさか…」

翔「そう。キミには今日から剣闘士として生きてもらう」

アリエッティ「いや!そんなの嫌よ!」

翔「キミが戦わないと、代わりにキミのお父さんとお母さんが虫たちのエサになっちゃうけど。いいのかな?」

アリエッティ「え…?」

翔「僕が用意する動物たちを全部殺せたら、キミたち家族を解放してあげるよ」

アリエッティ「嘘!」

翔「嘘だと思うならそれでもいいさ。断るのならキミの目の前で両親を殺すことになるけど」

アリエッティ「!」

翔「どうするの?アリエッティ」

アリエッティ「…私が勝ったら…」

翔「ん?」

アリエッティ「本当にみんな帰してくれるのね?」

翔「うん。約束するよ。ただし…」






翔「勝てたら、の話だけどね」ニヤリ

ホミリー「ああ…アリエッティ…」

ポッド「く…!」

ハル「あんたら幸せ者だねえ。あの坊ちゃまと遊んでもらえるなんて」





翔「まずは一戦目…んー。最初の相手だし、まずは簡単なのからいこうか」ポイッ

アリエッティ「!」

ボトッ

ダンゴムシ「…」ガタガタ

翔「さ。アリエッティ。そいつをキミの剣で倒すんだ」ニコリ

興味深いです

アリエッティ「…ごめんね」チャキ

ダンゴムシ「ヤメテ!!」カサカサ

翔「…」

アリエッティ「はっ!」

プスッ

ダンゴムシ「キャアアア!!」ゴロンゴロン

アリエッティ(大丈夫…。背中を軽く刺しただけだから大丈夫…)ドクンドクン

翔「自分の置かれてる立場を理解してくれたんだね。うれしいよ」

ダンゴムシ「イタイ!!イタイヨ!!」ガサガサ

アリエッティ「…」ピタッ

翔「どうしたのアリエッティ?」

アリエッティ「…今ので勝負はついたわ。この子にはもう戦う意思はない」スッ

翔「優しいんだね。アリエッティは」

アリエッティ「…ふん。それより次の相手は?」

翔「うん。ちょっと待っててね」



翔「ハルさん!」

ハル「はいはい。ただいま」

コトリ

アリエッティ(ダンゴムシが入った小瓶…?)

翔「これが何か分かるかい?」

アリエッティ「…ダンゴムシでしょ。次は二匹相手にすればいいの?」

翔「ははは。アリエッティは素直で可愛いなあ」

アリエッティ「違うの?ならなんで…」

翔「ギャラリーが僕だけじゃつまらないだろう?」

アリエッティ「え…?」

ポッド「…!外道が…!」ギリッ

ホミリー「え?え?な、何なのあなた?」

ハル「おやおや。そっちの小人は勘が鋭いねえ。まあ、気付いたところで…」



アリエッティ「大丈夫よパパ!1対2だって負けないから!」

翔「ぷ…くく…あはは!はははは!」

アリエッティ「何がおかしいの!?」

ハル「まだ気付かないのかい?このダンゴムシたちはアンタが戦ってるダンゴムシの両親なんだよ」

アリエッティ「…え」

ダンゴムシ「パパ!! ママ!!」

ダンゴムシ母「ボウヤ!!」

ダンゴムシ父「オネガイデス!! ムスコヲコロサナイデクダサイ!!」

翔「さあアリエッティ。そのダンゴムシの両親が見てる目の前で、そのダンゴムシにとどめをさすんだ」

アリエッティ「い…嫌!できない!そんなこと!!」カラン

翔「ふうん。僕のルールに従えないんだ。…ハルさん」

ハル「はいはい」カチッ

シュゴゴゴ…

ホミリー「ひいっ!?あ、あなた!!助けて!アリエッティ!!熱いわ!!」

翔「可愛そうに。あのままだとパパもママもビンの中で焼肉になっちゃうね」

アリエッティ「パパ!ママ!!やめて!やめてよ翔!!火を止めて!!」

翔「ハルさん。もういいよ。ただの見せしめだからね」

ハル「はぁーい」カチリ

ホミリー「ああ…」ガックリ

翔「キミが僕のルールに逆らった場合、そのペナルティは全部キミの両親が負うことになる。覚えておくといい」

ダンゴムシ母「ヤメテ…ヤメテクダサイ…」

翔「何をためらっているんだい?…ハルさん」

ハル「はいはい」カチリ

アリエッティ「やめて翔!…やるわ」

ポッド「アリエッティ!!止せ!!」

アリエッティ「…」ジリジリ

ダンゴムシ「コナイデ!!」

アリエッティ「…ごめんなさい」シュッ

ブツッ

ダンゴムシ「イタイ…イタイヨ…タスケテヨ…」

アリエッティ「…」

ドスッ ブツッ


翔「…ハルさん。録画は?」

ハル「そりゃもうバッチリ撮ってますよ。もちろん互いの両親も」

翔「さすがだね」ニコリ

ダンゴムシ「ママ…パパ…」ガクッ

ポッド「アリエッティ、お前…!!」

パチパチパチパチ

翔「おめでとうアリエッティ。キミの勝ちだよ」ニコッ

アリエッティ「……」フラフラ

ダンゴムシ母「ヒドイ!! ヒドスギル…!!」

ダンゴムシ父「ムシゴロシ!! ヨクモ ムスコヲコロシタナ!!」

翔「次の試合は10分後にしよう。それまでは休憩するといい。そこに家も置いておいたから」

アリエッティ「……」フラフラ

バタン

翔「ふふ…アリエッティ。絶望するのはまだまだこれからだよ…」





アリエッティ「うぅ……ごめん…ぐすっ…ごめんなさい……ひぐっ…ぐすっ…ごめんなざいぃ……」ポロポロ

翔「次はどの虫にしようかな…」

ハル「坊ちゃん、これなんかどうでしょうかね」

翔「!へえ。でも二戦目にしては少しハードルが高すぎるんじゃないかな。きっと殺されてしまうよ」

ハル「ですからそこを…」ゴニョゴニョ

翔「…ああ。なるほど。ハルさん頭いいね」





アリエッティ「ひっく……」

コンコン

アリエッティ「!」

翔「アリエッティ?そろそろ時間だよ」

ガチャリ

ポッド「…」

アリエッティ「パ、パパ!?どうして!?」

翔「次はタッグマッチ戦なんだ。キミたちは協力して相手を倒せばいい」

アリエッティ「本当!?本当にいいのね!?」

翔「もちろんさ。キミのパパにも同じまち針を持たせてある。今のうちに作戦でも立てておいたらどうだい?」

アリエッティ「うん…うんっ!!」ダッ

アリエッティ「パパ…!」ギュッ

ポッド「アリエッティ…!」ギュッ

翔「それじゃあ、僕は次の対戦相手を連れてくるよ」




翔「ハルさん!」

ハル「準備はできてますよ。ここに」

翔「ずいぶんと大きいね…。それが噂に聞いた――――」

ハル「――――えぇ。『インドネシアの悪霊』です」

ズシン…

アリエッティ「!」

翔「さあ。次の選手入場だ」

ズシン…

ポッド「馬鹿な…!?こいつは…!」


ホミリー「な、何なのあの化物…!」

翔「あれはインドネシアの悪霊と呼ばれている獰猛な巨大コオロギさ」

翔「ダンボール程度なら噛み千切ってしまうくらいだから」

翔「きっとあの子たちもつかまったらバリバリと噛み砕かれてしまうだろうね」ニヤリ

エミリー「そんな…!」ゾワリ

ハル「今日はまだ餌を食わせてないんだよ。いやあ、運が悪いねえ」ニヤニヤ




リオック「キ…キキ……」

ポッド「くそう…。初めから私たち親子を処刑するつもりだったのか…!!」シャキン

Ho

アリエッティ「あ…ああ…」ガクガク

ポッド「恐れるなアリエッティ!早く剣を構えて私の後ろ――――」

ボキリ!!

ポッド「――――に……っ!?」ズル…

 殺し合いにゴングなど無かった。

 ポッドがリオックから目を放した次の瞬間、
 恐るべき跳躍力でポッドに飛び掛ったリオックは既に彼の腕へとかじりつき、
 強靭すぎる咀嚼力でその片腕を食い千切らんとしていたのだ。

ポッド「ぐ…あああ!!」

 頑丈な、まるで鋼鉄でできた虎バサミのようなリオックの歯がゴリゴリと音を立てる。
 本人にも見えぬが、その凶刃はきっと肉を裂いて神経を断ち骨にまで達しているであろう。
 苦痛に歪むポッドの表情と悲鳴はアリエッティを竦みあがらせた。

 餌にかぶりついたリオックがグチ、グチと音を立ててポッドの腕をミンチへと変えていく。
 だが反撃の力と手段を残していたポッドが一転、攻勢へと打って出た。
 狙いをすまして振り下ろした彼の針がリオックの左目を貫く。
 痛みを堪えつつ、彼は自らの片腕と引き換えに悪霊の片目を潰したのだ。
 ポッドが針をぐり、とかき回して引き抜くと、リオックから気味の悪い体液が飛び散った。

 これにはたまらず悪霊も飛びずさり、残された片目でポッドを見据えながら荒々しく威嚇を始めた。
 手痛い一撃を警戒してか、先ほどの獰猛さと積極性は影を潜めていた。

アリエッティ「パ…パパ…?」

 荒ぶる吐息を押し殺し、彼は今にも泣き出しそうな表情で震える娘へと、優しく笑いかける。

ポッド「大丈夫だ。――――心配ない」

 ――――だが隻腕となり血にまみれた父の言葉が真実ではないのは明白だ。




翔「へえ。すごいねハルさん。リオックってあんなに強いんだ」

ハル「甲虫や毒虫を除けばあれに敵う虫なんてそうそういやしませんよ」

 片目を潰され闘争心を殺がれたとはいえ、リオックはアリエッティたちを諦めたわけではない。
 チッ、と血漿交じりの液を口から吐き出すとすぐに、飛びかかる姿勢へとシフトしていた。

 なまじ知能を持たぬ虫にとって、旺盛な食欲は死の恐怖心にも勝る。
 もぎ取った片腕をあっという間に胃に納めてしまった悪霊が、再び親子めがけて跳躍をしたのだ。

 ところが、これはまったくのめくら打ちとなって終わることとなった。

 片目となった悪霊は彼らとの距離を測りきることができなかったのだ。
 この距離感の喪失こそが、アリエッティらに残されたわずかな血路とも言えるのだが。

 全体重をかけて飛び出したリオックは親子の大分手前へ着地し、畑の土を巻き上げた。
 間合いを詰められてしまった親子は降りしきる土の雨に身をうたれながら、
 背を向けぬようジリジリとゆっくり後退し、再びリオックとの間に距離をとる。

アリエッティ「!パパ…血が…!」

 未だ留まることなく流れ続ける血液はポッドの生命力を容赦なく奪い取っている。
 視界がうっすらとぼやけ始め、胸郭を叩く鼓動が次第に弱まってきていることをポッド自身も感じ取っていた。

 おそらくはもう十分と経たぬうちに失血死を迎えることとなろう。

ポッド(止血したところで無駄……だな……)

 それを悟ったポッドは、網の外でやや退屈そうに観戦を決め込んでいた少年に、しゃがれ声で語りかけた。

ポッド「……少年よ、ひとつ提案がある」

翔「?」

ポッド「お前の望みはアリエッティが絶望するところを見ることのはずだ……違うか……?」

翔「結論だけ言うとそうなるね。それで、提案って?」

ポッド「……なら俺にだけ戦わせろ。もしここで先にアリエッティが死ねば、お前の望みは叶わなくなるぞ……」

アリエッティ「パパ!?」

ポッド「家族を殺されたものがどれだけ絶望するか……さっきのダンゴムシの家族を見て分かっただろう……」

翔「……」

ポッド「この試合中はアリエッティをギャラリーにする……悪い条件じゃないはずだ」



ハル「おやおや。麗しい家族愛だこと。どうしましょうね坊ちゃん」

翔「……いいよ。その代わり、こちらも条件がある」

翔「難しいことじゃないよ。対戦相手の交代さ」

ポッド「…」

翔「リオックって、強くてワイルドだけどあまり見栄えがしないんだよね」

翔「苦しい戦いかもしれないけど」

翔「リオックよりは品のある相手を用意すると誓うよ」

ポッド「分かった……」

翔「よし。決まりだ」

アリエッティ「駄目よパパ!翔はもっと恐ろしい奴と戦わせるに決まってる!!」

カサッ

翔「それで止血するんだ。すぐに用意するから」

アリエッティ「パパ! パパぁ!!」

ハル「あんたはこっちさね」ヒョイッ

アリエッティ「放して!放しなさいよっ!!」シャキン

ハル「もしあたしの手をその針で刺したら、あんたのママをミキサーに入れてひき肉にしちまうからね?」

アリエッティ「…っ!」

ハル「そうそう。大人しくしてりゃ悪いようにはしないよ」

ホミリー「ああ……あなた……アリエッティ……」





翔「それとこの試合、キミが負けて殺されてもアリエッティの戦績にはならないから」

ポッド「……そうか」ギュッ

翔「安心して死んでね」ニコッ

先の展開少し考えて書きためてくる

 そこから怒涛の快進撃、ポッドはわずか数分のうちに3連勝を納めることとなる。

 リオックの代打として起用されたヒヨケムシをはじめ、トビズムカデといった毒虫たちを次々に血祭りにあげたのだ。
 無論、無傷で勝利というわけにはいかなかったものの、リオック戦で受けた傷以外に痛手となるものはこれといって受けてはいない。

 特に三戦目などはハルまでもが思わず息をのむ一戦となった。
 相手としてリングに降り立ったのはなんとスズメバチだったのだ!

 ところがポッドはまったく怯むことなく、冷静にスズメバチの飛翔を見切り、
 敵が攻撃を仕掛けてきたところに強烈な石飛礫を見舞ったのだ。
 顔めがけて投擲された石はスズメバチの脳天を打ち、脳震盪を引き起こした。

 搦め手を弄し、隙を作り出した彼は瞬間にして間合いを詰めた。
 すかさずスズメバチの毒針が伸び、大顎が襲いくるもポッドはこれを紙一重で回避。
 
 そのまま掻い潜った彼はスズメバチの脳髄を一突きにし神経節を切断。
 見事なまでの手際で、あっさりとスズメバチを地に沈めたのだ。


ポッド「残念だったな……。この程度のスズメバチなら今までに何匹も倒している……」

パチパチパチ

翔「おめでとう。次で5戦目だよ」

ポッド「はぁ……はぁ……うくっ……!」ガクッ



アリエッティ「パパ!!」

ポッド「まだ……まだ大丈夫だ……」グググ…

ホミリー「あなた……あなた……頑張って……」グスッ

アリエッティ(パパ……!負けないで……!!)




翔(大分弱ってきてるね。そろそろフィナーレにしようかな)

間違いなくこのパパならユパと互角張れる

翔「ねえ、アリエッティ」

アリエッティ「……!」キッ

翔「そう睨まないで。もしこの5戦目、キミのパパが勝ったらみんなを解放してあげてもいい」

ハル「坊ちゃん!?何をおっしゃるんですか!?」

翔「今の彼らは剣闘士なんだ。なら、それに見合う報酬が必要だよ」


ホミリー「あなた!今の言葉、聞いた!?」

ポッド「ああ、だが本当に――――」

翔「僕は約束を破らない。信じてほしい」

ハル「ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ!」

ハル「私は認めませんよ!むざむざこいつらを逃がすだなんて……!」

翔「僕が決めたことなんだ。ハルさんは黙ってて」

ハル「でも!」

翔「黙ってて」

ハル「う……。わ、分かりました……」

翔「それよりハルさん。すぐに次の対戦相手を用意してほしい」

ハル「え? あ、はい……畏まりました……」



ポッド(この少年の余裕、まさか最後の相手は――――)

翔「アリエッティ。キミのパパは本当に強いんだね」

アリエッティ「……」

翔「僕も簡単にはキミたちを手放すつもりはない。でも、約束は絶対に守るよ」

アリエッティ「翔……」



ハル「あのう、坊ちゃん。用意ができましたが」

翔「ありがとう。ハルさん」

ハル「こんな弱そうな虫で本当に……もし勝たれでもしたら……」ブツブツ

翔「さあ。もうすぐ最後の戦いが始まるよ。頑張って応援してあげるといい」

アリエッティ「……パパ」

ポッド「……任せろ」スクッ






翔「正確には、最後になる、じゃなく、最期になる、だけどね」ボソリ

バサッ

ポッド「てっきりネズミでも出すのかと思ったが……」シャキン

翔「キミはネズミとは何度も戦ってそうだからね。交戦経験があるぶん、勝率があがっちゃうと思ってさ」



翔「別 の ゲ ス ト を 用 意 し た ん だ」


ブブブ…

ブブブブブ…


アリエッティ「な、何?あのお尻の白、い大きなハエみたいなの……」

エミリー「あ、ああ……!あれは……」ガタガタ

翔「お尻のある白い綿毛がとても綺麗でしょ? 肉食性のアブの仲間なんだけど、知ってるかな?」

ポッド「肉食性……!ムシヒキアブか……!!」

 ポッドにとってムシヒキアブとの交戦は未知の領域である。
 この虫はオニヤンマのような巨躯を持つわけでもなく、オオスズメバチのように劇的な毒をもっているわけでもない。
 むしろその小柄なボディを見れば、隻腕とはいえ体格で勝るポッドが優位に立つであろうと予測をつけるものが大半であろう。
 例にならい、アリエッティなどはわずかに拍子抜けした様子で安堵に近いため息をついていた。

 だがしかし、場に居た者たちの中でホミリーだけは顔を鉛色に変え、冷や汗で濡れそぼっていた。
 憔悴しきった表情からは生気が漏れ出し、まるで死刑執行に怯える服役囚が如き相である。

 しかし、それも無理はない。

翔「ご名答。正しくはシオヤアブっていうんだけど」

 シオヤアブ――――それは、空中戦では最強と恐れられるオニヤンマや
 肉食昆虫のヒエラルキーの頂上付近に位置するオオスズメバチですら時には一食の餌と化す。

 馬鹿正直に、真正面から戦えば流石に返り討ちにされるであろう。
 が、このシオヤアブはそのような愚を決して犯すことはない。
 あくまで死角からの強襲を生業とし、口吻の針で獲物を仕留めるのだ。

 変幻自在な敏捷性と激烈な奇襲攻撃を併せ持つこのムシヒキアブの雄が、有能で狡猾なハンターであることに疑う余地はなかった。

 さらにシオヤアブには、恐るべき力が秘められている……。

ポッド「……」

 先手を打ったのはポッドであった。ハチの類とは違い、ムシヒキアブに毒針はない。
 ならばスズメバチよりも攻撃能力に劣るであろうとふんでいた。
 まち針を鋭く突き出し、シオヤアブの動きを牽制する。

 それに合わせてシオヤアブは羽の巧みに動かし、すんでのところで切っ先を避ける。
 素早い攻撃に面食らったのか、シオヤアブは飛翔をはじめ、気付けば周囲を旋回しはじめていた。

 ぐるり、ぐるりと回ったかと思えばその場でボバリングをするなど、ポッドの目にはただの奇行にしか映らない。

 たまに仕掛けてる素振りを見せることはあれども、どうにも攻撃には踏み切れないようである。
 ポッドはこれを好機と取り、針を石に持ち替え飛礫を放つ。

 が――――何度投げつけても、小石を増やしてみてもシオヤアブに当てることは叶わない。
 まるで風に吹かれる柳のように、とらえどころの無いしなやかな動きで飛礫を回避するのだ。
 
 既に勝負はポッドが飛礫を繰り出し、シオヤアブがそれをのらりくらりとよけるだけという、
 泥仕合の様相を呈し出し初めてはいたものの、翔は一人ほくそ笑んでいた。



翔(さて、そろそろ限界が来るとは思うけど)

 翔の読みどおり、俄然ポッドの動きが鈍り始めた。

ポッド(身体が……動かない……っ!!)

 連戦による疲労と多量の出血、そして、毒虫による毒素が彼の身体を蝕み始めていたからだ。
 翔が毒虫を差し向けたのも、万一ポッドが勝ち残っても毒を与えれるように計算した上でのことだ。

ポッド「う……く!」

 膝は頼りげなく揺れはじめ、太ももの筋肉が樫板のように強張りだす。
 視界は油膜を貼ったようにボヤけ、石を握る手にも力が入らない。

 この変調にいち早く気付いたのはシオヤアブである。
 動きが鈍麻した獲物の急所を穿たんと変幻自在の飛行でポッドを翻弄する。
 慌てて石を投げ捨て、まち針を構えて迎撃を試みるものの、シオヤアブの動きはそれを凌駕していた。

ホミリー「あなた!あぶない!!」

ポッド「な」

 ――――決着は一瞬であった。
 悪あがきに振り回したまち針の反動に身体を持っていかれたポッドは首筋をシオヤアブに晒してしまったのだ。

 次の瞬間、アリエッティらは背後から頭部を串刺しにされ、口を半開きにしたまま白目を剥くポッドの姿を見た。

アリエッティ「パ……パ……?」

 深々と差し込まれた口吻の針はポッドの頭蓋を貫き、脳幹まで突き刺さっている。

 勝ち鬨すらあげぬ、慎み深い暗殺者はただ静かに獲物を6本の足で抱き込み、着地した。
 そしてそのまま、ずるずると獲物の中身を吸い上げ舌鼓を打つ。

アリエッティ「パパ!パパ!!」

翔「シオヤアブは一撃必殺なんだ。見てごらん。見事に急所をついてる」

アリエッティ「返事をしてパパ!ねえ!!」

 アリエッティの声の後、ポッドの身体がびくんと脈動する。
 が、これは彼の意思によるものではなく、残された酸素と中枢を失った筋肉、神経らが引き起こした不随意運動に過ぎなかった。

翔「無駄だよ。キミのパパはもう死んでるんだから。もしかしたら心臓だけならまだ動いてるかも知れないけど」

ホミリー「あな……た……」ガクリ

翔「さあ。アリエッティ。剣を持って。次はキミの出番だ」





翔「最後の相手は……キミのママだよ」

アリエッティ「……」

翔「さあ、剣を構え――――」

プチン

アリエッティ「もういやあああ!!!ああああああああああああ!!!いやだああああああああああああああ!!!!!」ガリガリガリ

翔「うわっ!?な、なんだ!?」

アリエッティ「うぷっ!おええっ!うげえええええ!!うえええ!!!」ゲロゲロ

翔「ハ、ハルさん!これって……!?」

ハル「イジメ過ぎのようですねえ坊ちゃん。これはストレス性のショック症状かと」

翔「治らないの?」

ハル「治ることもありますが……まあ、元にはもどらないでしょうねえ……」


その後、翔の自宅にある畑は話題となり、各地から続々と挑戦者が現れた。

もちろん、小人同士を殺し合わせるという目的のもと。

かつて床下に住んでいた小人の少女は家族を失い、

畑に設けられた檻の中で、他の小人と闘い、殺し続けた。


そして、


全戦全勝のまま生涯を終えた彼女をたたえ、人々はこう呼んだ。


狩りぐらしアリエッティ、


と。







さあ胸糞悪いバッドエンドはここでおしまいにして
口直しにスレタイどおりにハートフルなイチャラブなのを誰か書いておくれよ

おそまつさまでした


いいもの見せてもらった

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