ジャン「もう一人の親友」(325)


今日の訓練はいつにも増して疲れた。


はじめて立体機動装置を使った森での訓練。

俺はどうやらこの訓練との相性は悪くないらしい。

それでも木にぶつからないようにするので精一杯だったが。

他の奴らは木にぶつかったり怖がって中々飛び出せない…と言うのが多かった。

…いつか死人が出そうだな。

そんな中、羽が生えたように自在に立体機動装置を使いこなしていたのはやっぱり…

美しい黒髪をなびかせたミカサだった。


―――

訓練が終わるとミカサがきょろきょろと周りを見回していた。

いつもの事だ。

きっと死に急ぎ野郎でも探してるんだろう。

羨ましい…

そんな事を考えてるとミカサは人目を避けるように森の中に消えてしまった。

死に急ぎ野郎はアルミンと談笑していた。

なんだ、死に急ぎ野郎を探していたわけじゃないのか。

何をしに森に入って行ったんだ?

…俺は好奇心に抗えずミカサの後をこっそりつけてしまった。


ミカサは俺に気づいた様子もなくずんずんと森を進んで行く。

この森で訓練を行ったのは今日がはじめてだ。

訓練でこの森を一通り見たものの、なんとなくしか道は覚えていない。

というか上から見下ろす森と地面を歩く森では全然印象が違う。

…俺は帰りに迷わないかと心配になった。

しかしミカサはそんな俺の心配とは裏腹に迷いなく進んでいくのである。


しばらく後を追いかけているとミカサは立ち止まり、再び辺りを見回し座り込んだ。

見つからないように距離をとってるのもあり何をしているのかよく見えない。

うずくまっているようにも見える。

まさか…まさか…!

見てはいけない光景が目に浮かび、罪悪感と後悔が胸に広がった。

引き返すべきか…でも迂闊に動くと気配に敏感なミカサに気付かれないか?

っていうか今までよく気付かれなかったな…


―パキッ

…その時、俺は間抜けにも枯れ木を踏んでしまう。

枯れ木は音を立て真っ二つに割れ、渇いた音が響いた。

「誰!?」

ミカサの声が響く。

「わりぃ…何してるのか気になって後をつけちまった」

「ジャン…」

そっけないミカサの声。

少しばつが悪そうだ。


「もうすぐ飯の時間だしはやく行かないと食いっぱぐれるぞ」

「わかってる。すぐ行く」

「べ、便所なら寮にもあるだろ?なんでこんな所でわざわざ…」

「な、何を勘違いしているの!?」

珍しく顔を赤らめて俺に食って掛かるミカサ。

そうか…便所じゃなかったか…

やばい…かわいい。


「私は土を見に来ただけ!」

「土?」

「これ…」

ミカサは胸ポケットに手を突っ込み中の物を俺に見せた。

「種?」

「そう。野菜の種。今日の立体機動の訓練の時にこの種が育ちそうな土が見えたから…」

…今日の訓練中にそんな余裕があるとは…

俺は木にぶつからないようにする事で精一杯だったのに…

さすがミカサだ…


「どうしたんだその種?」

「荷物を整理したら出てきた」

山育ちで野菜を作っていた事、両親がいた事、住んでいた家の事などポツポツとミカサは俺に語った。

ミカサが自身の事を語る事などなく、そもそも俺と話す事はあまりない。

…死に急ぎ野郎との仲裁として話す事はあるが。

今日のこの幸運に感謝した。


「私はこの種を育ててエレンとアルミンに食べさせたいと思ってる」

…まぁ結局はそこに行きつくんだけどな。

「そうか。でもなんで隠れてこそこそしてるんだよ」

「……驚かせたいから」

そう言うとミカサは盛大に照れた。

ちらりと俺を見る。

「らしくないと思うでしょう?」

「いや、そんな事ねぇよ!」

ミカサに見とれていたのを誤魔化すように大げさに否定する。


「それじゃあこの事は秘密で」

ミカサは口元に手を持って行き人差し指を立てた。

少しだけ微笑む。

「お、おう…秘密だ」

ミカサって意外とお茶目なところがあるんだな…

頬を赤らめたままぼんやりと考えていた。

見切り発車しちゃった
後、園芸などの知識が皆無なのでその辺はフィーリングで。
そして色々模索中。

***

風邪をひいて3日寝込んでしまった。

その間にたくさんの人が見舞いに来てくれた。

純粋な見舞いではなく珍しい物見たさで来た人も何人かいたが。

…とにかく嬉しかった。

自分で思っていたより人間関係良好なのかもしれない。

中でも特に嬉しかったのはサシャだ。


なんとサシャはパンを私に持ってきたのだ。

あのサシャが。

途中でよく食べなかったと感心したものだ。

そう言うとサシャは「私だってこれくらいしますよ!」などと言ってプリプリと怒っていた。

差し出されたパンは4分の1ほどだったがサシャにしてはすごい事だ。

なぜかその場にいた人から拍手が巻き起こった事が忘れられない。

すごく楽しかった。


風邪が治った今日、一日訓練しないと三日分は他の人に置いて行かれると思えと教官に言われた。

ごもっともである。

その事をエレンに話すと「おまえが寝込んでる間に立体機動がうまくなったんだぞ!」と勝ち誇った顔をしていた。

…そんなエレンがかわいい。

アルミンは笑っていたが直後にエレンに向かって「僕もだよ!」と背中を叩いて言った。

アルミンにしては珍しい行動だった。

こっちは微笑ましい。


その時教官から集合の合図があった。

訓練兵が集まり列を作る。

ふと気付くと前の列にジャンがいた。

背中を伸ばして立っている。

…たった3日だがジャンを見たのは久しぶりのような気がした。


ジャンは私の見舞いに来なかった。

…別に来る理由はないのだが…

なんとなく寂しかった。

エレンは家族なのでアルミンしか友人と呼べる人はいない。

他の人の事はわからないが友人が倒れたら見舞いに来る、と言うのが当たり前なのかと思っていた。

私が一方的にジャンを友人と思っていたのかもしれない…

風邪が治ったばかりなのに胸の奥が痛い。

「次、アッカーマン!」

そんな思考は教官の声にかき消された。


「あー!今日も疲れた。薄いスープと固いパンが待ってるぜ」

「そんなテンション下がるような事言わないでよー」

訓練でかいた汗をぬぐいながらエレンとアルミンが話していた。

私はキョロキョロと辺りを見回す。

ジャンの姿はなかった。

着替えて食堂に行ったか、それともあの場所にいるのか。


「おい、ミカサ。どこに行くんだよ」

「少し忘れ物をした」

「晩飯に遅れたらサシャに持ってかれるぞ」

「わかっている。大丈夫」

私は手を振りエレンに気取られないように少しだけ遠回りをした。


「なぁ、アルミン。最近ミカサの奴おかしくねーか?」

「…………気のせいじゃない?」

「そうだよな…気のせいだよな…」


……………

………

息を切らしていつもの場所にやってきた。

…少しだけ期待をしていた。

ここにジャンがいる事を。

会わなかったのはたまたまであると思いたかった。


ふと目線を落とす。

3日ぶりに見たのもあり芽は、随分成長してるように感じた。

私がいない間水をやってくれてたのがなんとなくわかる。

雑草も綺麗に取り払われていた。


…よくわからない。

私に言語力がない事を自覚している。

知らないうちに私はジャンを怒らせてしまったのだろうか。

それでも水やりなどをしてくれるのはどう意図なのだろうか。

「はぁー…」

私は大きくため息をついた。

話があまり動かない。

仕事の修羅場とイベントの原稿で遅くなってしまった…
もう少しちまちますると思う。

支援ありがとうー
落ちてるかもと思ってたからありがたい。


――――

あの場所に行かなくなって何日か経った。

今日も訓練の後ミカサがこっそりとあの場所に行くのを見た。

その時にふと目線があったが俺はすぐにそらしてしまった。

…なんてあからさまな態度をとってしまったんだ…

ミカサにしたら知らぬ間に俺に避けられるようになって落ち込んでるだろうな…


いや、落ち込んでない。

きっと落ち込んでない。

そもそもなんで俺に避けられて落ち込むんだよ。

ミカサにとって俺は村人Aだ。

いや、村人Bか村人Cか…どうでいいな…

いずれにせよ俺はミカサにとって名も無きモブなのだ。

死に急ぎ野郎とアルミンがいればそれでいいんだ。

俺がこういう状況になったのも二人がいたからだ。

期待するな。

何も期待するな。

期待するほど現実との落差にやられてしまう。


それでも―…

あの場所に行くのが楽しみだった。

楽しそうに野菜をそだてるミカサの横顔がかわいかった。

どうやって野菜を料理するか語るミカサの楽しそうな声が心地よかった。

微かに笑いかけてくれるミカサが…………好きだった。


ああ、俺の足はあの場所に向かって駆け出していた。


ミカサの後ろ姿が見えた。

芽に…いやもう『苗』か。

水をやっているところだった。

最近ミカサを避けていたのでどう声をかけていいのかわからない。

しばらくその後ろ姿を見つめる事になった。


「ジャン?」

俺の気配に気づいたミカサが振り向く。

「よ、よう…」

我ながらぎこちない挨拶だ…

「…………………」

「…………………」

気まずい沈黙。

切り出したのはミカサからだった。


「もう来ないかと思ってた」

「いや、色々考えてて…な」

「そう…」

ミカサが地面に視線を落とす。

俺の顔を見なかった。


「私は…」

「え?」

「ジャンを怒らせてしまったの?」

「何の話だ?」

「ジャンが避けていたのに気付かないほど私はバカじゃない。知らない間にジャンを傷つけていたの?

それとも何か気に障った?どうか答えてほしい。私に悪いところがあったのなら直す努力をする」

ミカサが一気にまくし立てる。

普段口数の多くないミカサ。

こんな風になるとは予想外だった。

「ち…ちょっと落ちつけよ…」


「別にミカサを避けて――…はいたけど、俺の勝手な嫉……都合なんだ。ミカサが悪いとかそんなんじゃない」

言葉選びに慎重になる。

ああ、心拍数が上がっているのがわかる。

「俺の方こそ悪かった。…ミカサがそんな風に考えてたとは思わなかった」

「そう、それならよかった。安心した」

ミカサがホッと胸を撫で下ろした。

少し微笑んでいるのがわかる。


さきほどのネガティブな思考がすべて吹っ飛んでしまう程の破壊力を目の前のミカサは秘めていた。

かわいい……

ああ、幸せだ…

なんて幸せなんだ…

これ以上の幸せがあるわけない!

もしこれ以上の幸せがあるなら俺の体はどこかに吹っ飛んでしまう。

何を言ってるんだ…

ふわふわする。


「ジャン」

ミカサが俺の名前を呼んだ。

「ジャンがいなくて少し寂しかった」

次の瞬間俺の体は吹っ飛んだ。

いや、正確にはミカサに背を向け全力疾走していた。

ミカサがぽかんとした顔で俺を見ている。

風を切るこの瞬間の俺は世界中の誰よりも早い気がした。


きっとミカサは大した意味で言っていない。

多分いいところで「友人として」だろう。

それでも俺はいい。

今はそれでいいんだ。

ジャンフィルター!

完結はさせるよ。
事故って死なない限りはそのつもり。
後あんまりプレッシャーかけるなよ!
嬉しいだろうが!バカ!


***

家族であるエレンや幼い頃から一緒だった親友のアルミン以外と深い関わりを持った事がなかったが

訓練兵になり、少しだが人間関係と言うものができた。

エレンが一番である事、その次がアルミンと言う事は変わらないがここで得た人間関係を大切にしていきたいと思った。

中でも最近関係が深くなったと思うのはジャンだ。

ジャンの第一印象は『エレンに絡んで余計な事をする鬱陶しい人』だった。

だが、彼と接していくうちに彼の誠実さや、努力をしている事、意外な知識欲など、ジャンの人間性を目の当たりにした。

彼に対する認識を改めねば…と思った。


先日の事だがジャンとの関係に亀裂が入るという事があった。

その時この心地よい人間関係が壊れるかもしれないと言う恐怖を感じた時、

ジャンが私にとって素晴らしい友人だったのだと思い知った。

エレンとは「家族」という絶対の結びつき、アルミンとは幼い頃からある信頼関係があったが

ジャンとは何もない事に気がついた。

そして友人関係とは脆いものだと思ったものだ。

その後私はジャンに自分の素直な気持ちを言った。

色々と私の勘違いがあったらしいが元の友人関係に戻る事ができた。

他人であり、友人である人との『仲直り』は初めてだったので嬉しかった。


「ミカサ」

訓練前の待ち時間、声をかけてきたのはアルミンだった。

挨拶もそこそこアルミンは私の隣に立つ。

何か言いたげな様子だ。

「どうしたのアルミン?」

私から話題を振った。

「最近ジャンと仲がいいよね。エレンも言っていたよ」

前にも言われた事があった。


「ジャンと友人になったから」

「そっか。ミカサはエレンや僕しか交友関係がないと心配してたから少し安心したよ」

アルミンが柔らかく微笑む。

…その笑顔はいつも私に安心をくれる。

「でも…少しだけ寂しいな」

「どうして?」

「いや、これは僕のわがままだから」

そう言うとアルミンはもう一度微笑んだ。

その笑顔は少し固い。


「そういえば知ってる?エレンが女の子に告白されたらしいよ」

アルミンは唐突にそんな話題を振った。

心臓がドキンと跳ねた。

その割に心臓が自分の体から離れた所にあるような感覚。

「やっぱり上位組になるとモテるんだね。将来性とかかな?」

「そう…。エレンの魅力を知ってもらえるのはいい事」

私は精一杯強がった。

そう、人間関係が広がる事はいい事なのだ。

私自身がそう思ったから間違いない。

醜い嫉妬でエレンの人間関係を邪魔するわけにはいかない。

…絶対と思っていた「家族」という結びつきは意外と脆いものだと思ってしまった。


「エレンはどう返事するんだろうね」

「…私はエレンが幸せならそれでいいと思う」

「…強がってるよね」

「強がってない」

「嘘だ」

「嘘じゃない」

「だって泣きそうな顔してるじゃない」


アルミンに指摘をされた。

鏡を見なくてもわかる。

顔の筋肉が引きつっている。

人に見せられるような顔じゃない。

…アルミンの前だからこんな顔をしてしまうんだろう。


「僕は…少し寂しいんだ。おかしいよね。エレンもミカサも新しい人間関係を作って…」

「喜ぶべきなのに素直に喜べないんだ。…ひどい話だろ?」

「僕も僕で新しい人間関係が出来てる。友人も増えた」

「その分だけ二人と離れていってしまうような感覚になるんだ」

「兵団に入ってからは倍に近い速度を感じる」

「いい事の筈なのに…ね…」


アルミンが淡々と話しているのを聞いていた。

「私は…」

―カンカン

言葉が訓練を告げる鐘に遮られた。


―さきほどのアルミンとの会話が頭から離れない。

新しい人間関係が出来る事によって私達の距離は開いているのかもしれない。

自分が楽しいだけで、嬉しいだけで、考えた事もなかった。

その間アルミンはそんな事を考えていたのだ。


訓練後。

女子寮のドアに手をかけた。

「あいつうざくない~?」

中から声が聞えた。

漏れ出る声から中で2、3人が会話しているんだろうと言う事がわかる。

…人の悪口の最中に部屋に入るのは気まずい。

少し時間をおいて戻ってこよう。

「ミカサでしょう?」


自分の名前があがっていた。

時間をおいて戻ろうと思ったものの、やはりその内容が気になったので聞き耳を立ててしまう。

「この子、エレンに振られたんだって。多分ミカサのせいだよ」

「嘘~信じらんない。××はこんなにかわいいのに」

この部屋の中にエレンに告白した人がいるのか…

そして『振られた』という事に安堵している自分がいた。


「ミカサは主席候補だからっていつも威張っててさ」

「何考えてるかわかんないよいね」

「いつもエレンにベッタリだし…」

「案外エレンに私以外の女と仲良くしないでとか言って脅したんじゃない?」

「あり得るあり得る!」

聞くに堪えない事実無根の噂話だった。

…私はそんな事をした覚えはない。

新しい人間関係が増える一方でこう言った話の的にされてしまう。

難しいものだ。

しかし、幸いな事に的にされているのは私だけ。

それなら別に構わない。


「アルミンもミカサの事好きだったりするのかな?」

「どうだろ?アルミンって気弱そうだし成績も悪いし将来性なさそうー」

「座学の時だけだよね。元気そうなの」

「やだ~オタクって奴~?」

「ミカサにつまみ食いとかされてたりしたら笑えるよね!」

「『僕にはエレンが…!やめて…!ミカサ…!』とか?」

「ホモじゃん!」

ぎゃはぎゃはと聞える下品な笑い声に耳を塞ぎたくなる。

…悪口がアルミンにまで及んでしまった。

どうしてアルミンの事何も知らないのに勝手な妄想で悪く言うの?


「そういえばあいつ、最近ジャンとも仲いいよね」

「あー…そういえばそうだわ」

「女の友達いないの?」

「男しか友達にしませーん!」

「なにそれミカサのモノマネ?うけるー」

「ジャンもとんだピエロだよね」

「どうせミカサはエレンしか見てないのに」

「ミカサマジビッチ!」

…ビッチってなんだろう。今度アルミンに聞いてみよう。

どこか頭の一部分。

冷静な自分が遠くでそんな事を考えていた。


「誰かいるの!?」

気付かないうちに物音を立ててしまったらしい。

私は急いで柱の影に隠れた。

ドアが激しく開かれる。

「…誰もいない…気のせいか」

ゆっくりと閉じられた。

今度こそ私は女子寮を後にした。

久しぶりに風邪をひいた。
ので、誤字脱字があったら風邪のせいです(震え声)


モブっ子の悪口書くのが楽しかったとか言えない…
そろそろ話を畳む準備を始めます。
もう少しミカサ視点が続くんじゃよ

久々の更新おつ
エレン、アルミンには言ってたんだな

良かったらもうひとつ書いてるスレ教えてほしい

―――

~回想~

「そういえば話の流れからわかったけど厳密に『ピエロ』とはどういう意味なんだろう」

「ああ、多分俺がミカサの事好きだけどミカサは死に急ぎ野郎の事しか見てないから滑稽って意味じゃないか?」

「………………」

「………………」

「………………え?」

「………………あ…」

~回想終わり~

そう、何日か前俺はミカサに間抜けな告白めいた事を言ってしまった。

言うつもりなんてなかった。

その時俺の心臓は別の生き物になったんではないかと思う程激しく存在を主張した。

せっかくミカサから「友人」と言うありがたいお言葉をもらったりどさくさに紛れて憧れの黒髪を撫でたりした。

そんな幸せがこの告白によりすべてがぶっ壊れたと思った。

…が。

「おはよう、ジャン」

「お、おうミカサ…おはよう」

「さっき教官がジャンを探していた」

「そ、そうか…」

「? どうしたの?」

「いや…別に…」

…普通の態度であった。

それはもういたって普通すぎる態度であった。

ミカサの態度は何も変わらなかった。

俺の浅い知識では女は男から告白されたら少なからず動揺して顔を赤らめたりぎこちない態度をとったり…

そんな事が起きると思っていた。

もしかして俺は友人なので男として見られていないのか?

それともあの発言を告白として捉えられてないのだろうか?

思えば告白と言うには微妙な気もする…

変わらないならいいか…

振られた場合の気まずさ、1割の確率で付き合ったりとかそんな…

色々な未来を想像した。

安心したと同時に残念でもあった。

―夕方

夕食をとるため食堂に行くとミカサと死に急ぎ野郎とアルミンが座っていた。

忘れていたがミカサは二人と「距離ができた」と嘆いていたが周りからみていつもと変わらなかった。

でも俺にはわかる。

やはりミカサの言っていたようにどこか距離があり、ぎこちない。

アルミンは3人の中である意味中立なのかもしれない。

それなりにうまく立ち位置を守ってる。

問題は…死に急ぎ野郎だ。

絶妙にミカサを避けている。

やはり周りの人間は気付かないだろう。

死に急ぎ野郎は演技派なのかもしれない。

どうもひねくれた思考を持つ俺は「家族の問題を他人に干渉されたくない」

と言ってるように見えて腹立たしい。

そんな死に急ぎ野郎を見ているとミカサの泣いてる姿ばかり思いだしてしまう。

いつもなんでも涼しい顔でこなすミカサだったからこそ人間関係で泣く姿が想像できなかった。

だからこそ余計に頭から離れないんだ。

恥ずかしくなる話だが俺はミカサのために優しく…何が出来るだろうか、とかそんな事を真剣に考えていた。

「ミカサちょっといいか」

夕食後俺はミカサに声をかけた。

周りの人がいなくなるまで待つ。

みんなが寮に戻った後の食堂は静かだった。

「なに?」

「まだ死に急ぎ野郎と距離があるままなのか」

「…………」

「一度腹を割って話せばいいんじゃないか?」

「…………」

ミカサは黙ったままだった。

「少し…怖い…」

ポツリと呟いた。

「私が伝えたい事をすべて伝えたら…エレンは家族でいてくれなくなるかもしれない」

ミカサは最初死に急ぎ野郎とアルミンに野菜を食べてもらい喜んでもらいたいと言った。

それがどうしてこうなってしまったのか。

ああ、どうして俺はこう…

大きく息を吸い込み、そして軽く吐き出す。

心臓が大きな音を立てている。

「ミカサ、聞いてくれるか?」

「?」

顔を上げたミカサは俺の目を見て戸惑ってるだろう。

俺も戸惑ってる。

生まれてこの方、ここまで真剣な目をした事はなかった。

「俺はお前の事が好きだ」

―――

どうしてこのタイミングで言ってしまったのか。


――俺はおまえの事が好きだ


そんな想いを告げた場所はひなびた食堂で薄暗かった。

俺が昔思い描いていたのは青い空、白い雲、明るい太陽の下。

長い髪をなびかせ真っ白なワンピースを着たかわいい女の子に告白する未来だった。

正反対だった。

…かわいい女の子って所は当てはまるか。

ミカサはきょとんとしていた。

何を言われたかわからず突っ立っている。

「俺はおまえが好きだ」

目を覚ますようにもう一度言ってやった。

「好きだ」

さらにもう一度言う。

「え…あ…その…」

ミカサが戸惑っているのがわかる。

スカートをギュッと握り視線を宙に泳がせていた。

「もう一回言うぞ」

すぅ…と息を吸い込む。

「いや、もういい!聞いているから…何度も言わなくても…いい…」

ミカサは真っ赤な顔をして小さく叫んだ。

ミカサの目を見つめる。

一向に目を合わせてくれないが…

「で…」

決意を込めて言う。

これを聞かなければ意味がない。


「おまえは俺をどう思ってるんだ?」

ミカサは思い出したように顔を上げた。

そしてまた視線を地面に落とす。

手はスカートからマフラーに移りギュッと握っていた。

口元を隠して表情はあまり見えない。

「…それは…私が恋愛対象と言う事…?」

「そうだ」

俺は迷いなく答える。

「そんな事言われたのはじめてで…どう答えていいかわからない…」

相変わらず視線を落したままだ。

「…ごめんなさい」

そう言って駆け出した。

何に対しての謝罪なのかわからない。

「ちょ、待てよ!」

それを聞くために俺はミカサの手を掴んだ。

…が、その直後世界が反転した。

どうやら俺はミカサに吹っ飛ばされたらしい。

いつか死に急ぎ野郎がアニにされたような体勢になっていた。

そのまま駆けて行くミカサ。

この体勢ならスカートから下着が見えそうだ…

などと不埒な事を考えていた。

かっこ悪ィ…

次で終わりのはず…

>>208 エレン「歪んでしまった」ってのを書いてる。
こっちはエレミカだけど。後、気持ちエロ描写あるので苦手だったら気をつけて。

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