少年「そうだ、俺の名は……」 (33)



ーー1908年8月12日ーー


これより三ヶ月前の五月、大陸東側の【アレギア】と西の大国【フラガナウ】の戦争が始まった。

戦争の発端はフラガナウ側の侵略行為。

三年前の1905年にフラガナウの国王・ルーカス・ベルヴァルトが死去。

新たに国王の座に就いたのは彼の息子ユリエル・ベルヴァルトである。

ユリエルは以前から大陸統一を父・ルーカスに訴えていた。

ルーカスはその事で随分と悩んでいたらしく、
アレギアの国王ウェルナー・ブランデルとの二者対談でも度々口にしている。

ユリエルは非常に有能で紳士的だが、
同時に軍事主義者としても有名であった彼は、ルーカス死後間もなくして軍事拡張に着手。


その後、巧みな話術と演説で国民と戦争反対を表明していた政治家の心を掴むと、大陸統一へ乗り出した。


国土の多くはフラガナウ領である為、アレギアは圧倒的に不利と言えたが、
守備に徹し無理に進軍はせず、夜戦や奇襲を仕掛ける事で何とか凌いでいた。




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9月2日 19時48分ーアレギア領・カルセダ市街


ー最前線【グレスカ】への物資供給中継地として欠かす事の出来ない重要拠点であるー



兵士「三ヶ月……また増員されるって話しもある。グレスカも流石に限界かもな」


カウンターで一人酒を飲む二十代の兵士。最近カルセダへの配属が決まり、今朝方到着したばかりである。


店主「おいおい兄ちゃん、そんなしけた面すんなよ。オレ達一般人にはアンタら兵隊さんが頼りなんだからよ」

店主「それに、グレスカにはカルヴァート大佐が居るんだぜ?」


ージェイク・カルヴァート大佐ー

老年でありながら両国に知らぬ者無しと言われるアレギア最高の兵士。

敵軍の攻撃を読み、夜襲・奇襲を仕掛け未だ進軍を阻んでいる。


グレスカが突破されていないのはカルヴァートの戦術に因る所が大きいと言える。



兵士「確かに大佐は凄い。でも、幾ら大佐が居たって一人じゃ厳しいだろ? 兵士全員が大佐なわけじゃないんだから……」

店主「確かにそうだ。でもな、あんまこんなこと言いたかねえが例え……その…負けるとしても」

店主「戦わなけりゃ守れねえだろ? オレは兵士じゃねえから難しい事は分かんねえけど……」


恰幅の良い店主はそう告げると俯いてしまった。此処に来る兵士達は彼の人柄や笑顔に魅せられ、この酒場に通う。

今朝方転属された彼には知る由もなく、周囲の兵や客からは非難の視線が突き刺さる。


兵士「あぁ、悪い。そんなつもりじゃ無かったんだ。でも店主の言う通りだよ……戦わなければ守れはしない」

店主「………ぷっ…はははっ!! アンタ、戦争に向いてねえよ。騙され易い顔してるし」


伏せた顔を上げると店主は満面の笑み、周囲の兵士や客も大笑いしている。


戦時で緊張感の漂う中、彼のような存在は周囲からすれば唯一の救いであった。



兵士「全く、皆もグルになってガキみたいな真似すんなよ……本気にするだろうが」


からかわれた事に気付き顔を赤くしながら俯く兵士。周囲からは悪い悪いと笑い混じりの声が聞こえる。

戦時だということを忘れられるような空間。此処に来る者達はそれを求めて来ているのかも知れない。


店主「いやぁ笑った笑った。ところで、アンタ名前は? オレはロドニー・カーター。ロドニーって呼んでくれ」

兵士「宜しくロドニー。俺はクレイグ、クレイグ・ガーランド」

ロドニー「クレイグ、この街を宜しく頼む。フラガナウも怖いけど、いかれた奴もいるんだ……」


カウンターに身を乗り出し真剣な面持ちで話すロドニー。どうやら今度は冗談では無いらしい。


クレイグ「いかれた奴ってのは?」


ロドニー「グレスカから運ばれてきた孤児達を……その、殺したりする奴等が居るらしい」




クレイグ「そいつ等、傭兵か?」

ロドニー「ああ、街を守るって名目で居座ってるから質が悪いんだ」

クレイグ「そいつらは今此処に居るのか?」

ロドニー「実際誰がやってるのかは分からねえんだ。でも、平気な面してオレの店に来てると思うと……」


ぶるっと身体を震わせ怯えた表情のロドニー。

孤児達を殺したその足で酒場にやって来ると思うと、気が気でないのだろう。

酷く寂しそうに深い溜め息を吐いた後、
ぱっと顔を上げ笑顔に戻り、辛気臭くして悪いなと、クレイグのグラスに酒を注ぐ。


クレイグ「……教えてくれて助かった。覚えとくよ」


注がれた酒を一気に飲み干すと立ち上がり、カウンターに金を置く。

しかしロドニーは、アンタは初めてだから金はいらないと金を返し、また来てくれよと笑顔で見送った。



20時27分


クレイグ「……守るべき自国の民を殺す? 確かに狂ってる」


酒場から出て足を進めるが彼は兵舎へ向かわず、この時間帯なら誰もが避ける暗がりの路地裏を進む。

先程までからかわれていた若者とは思えぬ表情。

醸し出す雰囲気は新兵などではなく、戦地に身を置き続けた兵士のそれだ。


クレイグ「当たりだな……」


曲がり角から顔を出し確認すると、少女が男に押し倒されている。

声を出せぬのは、頭に銃口を突き付けられているからだろう。
少女は抵抗すら出来ず、衣服を剥ぎ取られてゆく。

血走った眼をした傭兵と思しき男は薄ら笑いを浮かべ、少女に卑猥な言葉を投げかける。


傭兵「ひひっ、一緒に気持ち良くなろうぜ? パパとママが居なくて寂しいだろうけどオレが忘れさせてやるよ」


少女「ひっ…ぁ…うぅっ…」




ぎゅっと瞳を閉じ涙を流す少女。それは何かに祈るような、そんな表情。

男の方は今からどう嬲るか、それを考え恍惚とした表情。だが、そんな男の表情はすぐに消える。


傭兵「ひゃっ?」


少女の下腹部に手を掛けようとした瞬間首を切り落とされ、男の表情は文字通り消えた。

首から噴き出す鮮血が狭い路地を染め上げ、少女は生温かい何かに気付き瞳を開ける。


少女「ひっ!!」


其処に在るのは自分に覆い被さったまま動かない首のない男。
少女は必死に這いずり男から離れると、更に驚愕した。

自分を犯そうとした男の死体。

その後ろには大型のナイフを持った男が立ち尽くしていたからだ。

その男はナイフを仕舞うと、両手両足を突いた男の死体を蹴り飛ばし少女へと近付く。


少女は動けない。その男の発する何かが、動くことを禁じている。



クレイグ「居るのは分かってる。姿を見せろ」

少女「えっ?」


声を掛けたのは少女ではなく、その背後、暗闇に向けてそう告げると白髪頭の少年が現れた。


少女「あっ……この前の…きゃっ!?」


少年は何も語らず、突如少女を飛び越え壁を蹴り、クレイグへ殴り掛かる。

その動きに違和感は無く、慣れているようだった。
クレイグは側面から拳を叩き軌道を変え、宙に浮く少年の腹に膝蹴りを放つ。


少女「危なっ……え?」

クレイグ「お前、一体何人殺した?」


空中で更に壁を蹴り、膝蹴りを躱した少年へ訊ねるが答えは無い。

瞳は純粋な殺意に染まっている。

この路地で動ける範囲は限られている為、避ける事は難しい。
加えて男の死体も戦闘の妨げとなっている。


壁を蹴る移動方は小柄な少年だからこそ出来る。対するクレイグはその場で対処するしかない。




壁を巧みに利用し、左右から襲い掛かる少年と、それを防ぐクレイグ。

その攻防は暫く続いたが決着は一瞬だった。

同じように殴り掛かる少年の腕を取り背負い投げ、仰向けになった所を踏みつける。

少年の左腕を取った状態から右足で喉元を踏みつけ、制止。


クレイグ「何で俺を襲った?」

少年「殺すから」

クレイグ「誰が誰を殺す?」

少年「兵隊が優しい人を殺す」

クレイグ「俺は殺さない。その子を襲った奴は殺したけどな」

少年「そうなの?」

少女「へっ!? あ、うん。助けてくれたのかは……ちょっと分かんないけど、多分助けてくれた」


組み伏せられた状態から訪ねると、
目の前で起こったサーカスのような戦闘で自身が血塗れだという事実を忘れているのか、少女は普通に返答。


少年「そうなんだ……後、ご飯ありがとう」

少女「あ、うん」


クレイグ「……まあ、誤解が解けて良かった。今から手を放すけど暴れるなよ? お前の相手は結構疲れる」


少年「うん、分かった」




20時57分


クレイグ「で、名前は? 俺はクレイグ・ガーランドな」

少女「シ、シャノン・カラックです」


彼等の現実離れした戦闘後、
シャノンは我が身に起きた事を思い出し錯乱したが、今は落ち着きを取り戻しつつある。


少年「僕は名前無い」

クレイグ「出身は?」

少年「グレスカ」

クレイグ「じゃあ、これからはルイで通せ。面倒だから」

ルイ「分かった」


簡単に名を決められ、それを受け入れる少年、ぽかんとするシャノン。

中々満足しているのかクレイグはご機嫌である。


しかしそれも束の間、彼は我に帰り本題を告げる。



クレイグ「シャノン、急で悪いけど兵舎に来てくれ。『そのまま』で」

シャノン「あの、なんでですか?」

クレイグ「質の悪い傭兵を殺………懲らしめる。だから、君には証言して貰いたい」

シャノン「……!! はいっ、分かりました」


血塗れの服など今すぐ脱ぎ捨てたいだろうが、彼女はクレイグの頼みを承諾した。

それは、クレイグの頼みがこれ以上の被害者を出さぬ為だと知ったからだろう。


クレイグ「お前も着いて来い。色々と聞きたい事がある」


ルイ「分かった」


この辺で終了します。指摘などありましたら宜しくお願いします。

>>2の訂正 9月2日ではなく8月12日です。すいません。



8月12日 19時48分ーアレギア領・カルセダ市街


ー最前線【グレスカ】への物資供給中継地として欠かす事の出来ない重要拠点であるー



兵士「三ヶ月……また増員されるって話しもある。グレスカも流石に限界かもな」


カウンターで一人酒を飲む二十代の兵士。最近カルセダへの配属が決まり、今朝方到着したばかりである。


店主「おいおい兄ちゃん、そんなしけた面すんなよ。オレ達一般人にはアンタら兵隊さんが頼りなんだからよ」

店主「それに、グレスカにはカルヴァート大佐が居るんだぜ?」


ージェイク・カルヴァート大佐ー

老年でありながら両国に知らぬ者無しと言われるアレギア最高の兵士。

敵軍の戦術を読み、夜襲・奇襲を仕掛け未だ進軍を阻んでいる。


グレスカが突破されていないのはカルヴァートの戦術に因る所が大きいと言えるだろう。



シャノンとルイを兵舎に連れて行き、傭兵による孤児殺害が事実だと上官に告げたクレイグ。

シャノンの証言により、クレイグの行為は強姦殺人を未然に防ぐに当たり正当なものだとされた。

孤児殺害の件は単なる噂話で真偽不明だったが、

シャノンの一件で明らかになった為、隊としても一層の警戒と取り締まりが決定。

その後シャノンは女性兵士に現在孤児施設として扱われている教会へ送られ、

ルイは資料室でレイグから事情を問われていた。


クレイグ「グレスカから此処へ運ばれたということは、家族は砲撃でやられたか?」

ルイ「違う。親は居ない」

クレイグ「どうやって生きてきた」

ルイ「お爺ちゃんお婆ちゃんにご飯貰ったりした」



クレイグ「そうか。しかし何故戦える? 開戦前からそんな生活をしていたのか?」

ルイ「戦争が始まって、僕にご飯くれたお爺ちゃんが目の前で殺された。その時、何かよく分からなくなって、兵隊を殺した」

クレイグ「(それを見て心が壊れたのか? こうして平然と話せることが、まずおかしい)」

クレイグ「カルセダに来てからはどうだ」

ルイ「教会の人とか、お兄ちゃんお姉ちゃんが優しくて好き」

クレイグ「あの路地に居たのは?」

ルイ「あの子の帰りが遅いから、捜してた」

クレイグ「何故」

ルイ「分かんない。でも僕達みたいなのを殺す人がいるって噂を聞いたから」

クレイグ「聞いたから、何だ」

ルイ「そういうのは、もう見たくない」

クレイグ「そうか……」


ルイに何を質問しても、心の機微や起伏が見られない。

紛れもなく戦争による心的外傷と思われるが、完全に心が破壊されたわけでは無いようだ。

受け答えはするし、声も発せられる。


視点が定まらない・身体を揺さぶる等といった症状も見られなかった。



クレイグ「ルイ、歳は幾つだ」

ルイ「十二」

クレイグ「身体が小さいからもっと幼いかと思っていたが……そうか、十二か」

ルイ「どうしたの」

クレイグ「いや何でもない。ルイ、唐突で悪いが兵士にならないか」

ルイ「嫌だ」

クレイグ「(まあ、そうだろうな)」


クレイグ「言い方を変えよう。国……優しい人を守る人間になりたくはないか」




ルイ「さっきのクレイグみたいに?」


クレイグ「俺がそうなのかは分からない。俺も兵士だ、敵兵が来れば良い奴だろうが殺すだろう」

クレイグ「殺人なんてのは、守る為とは言え決して正しい行為じゃない」

クレイグ「でもな、この戦争自体が間違いなんだ。間違いは、間違いでしか正せないのかも知れない」


ルイ「クレイグが何を言ってるか分かんない」


クレイグ「だろうな。俺が言いたいのは、それも守る為の一つだってことだ。無闇やたらに傷付ける者から、優しい人を守る」

クレイグ「それが本当の兵士だと、俺は思ってる」


ルイ「僕が見たのは偽物?」


クレイグ「偽物なんてもんじゃない、あれは化け物だ。人として生きることを辞めた屑、あんなのは兵士以前に人間じゃない」




ルイ「怒ってるの?」

クレイグ「自国にあんな奴が居ると思うとな、そりゃあ腹も立つ」

ルイ「じゃあクレイグが教えて」

クレイグ「俺が? 何を?」

ルイ「本当の兵隊。優しい人を守る兵隊」

クレイグ「分かった。この街に居る間は教えてやる」


ルイ「どこか行くの?」


クレイグ「かもな。これから更に戦争は激化する……グレスカも危ういだろう」

クレイグ「いずれ俺も行く事になるかも知れない。でも、それまでは俺が教えてやる」


ルイ「分かった」

この辺りで終了します。



二日後8月14日・9時48分


教会には陽が降り注ぎ、外は快晴。窓の外からは楽しげな笑い声が聞こえる。

そんな中、教会で一人本を読む白髪の少年。

遊び回る子供達の声など耳に入っていないようで、本に向き合ったままである。

すると、教会の扉が開き少女が一人入って来た。側には女性兵士が付き添っている。

どうやら何処からか帰って来たようだ。少女を送り届けた女性兵士は、少女の頭を優しく撫でると教会を後にした。

少女の顔は優れなかったが、少年の姿を見付けると、やや安心した面持ちで近付いて往く。


シャノン「ルイ、それ何の本?」

ルイ「クレイグに貰った教科書読んでる。神父さんに少し読み方教えてもらった」

シャノン「ふーん、教科書ってどんなやつ?」


ルイ「一対多の戦闘の心得、状況判断、隊から孤立した際にするべき事、敵心理を読むには……とか」




シャノン「何か、随分難しそうな本だね」

ルイ「本にはクレイグが色々書き込んでるから、そんなには難しくない」

シャノン「ルイって変わってるね。傭兵が居なくなってから皆は遊んだりしてるのに」

ルイ「シャノンは遊ばないの? あ、もう大丈夫?」

シャノン「大丈夫……じゃない。外はまだ怖いよ」

ルイ「なら此処に居ればいい。側に居れば僕が守れるから」

シャノン「……うん、そうする。ありがとう」


その言葉を聞いたシャノンは心から安堵した表情。頬は僅かに朱に染まっている。

まだ幼いとは言え、真っ正面から瞳を見据え、貴方を守ると言われて意識しないわけが無い。


まして、そんな台詞を言わないであろう人物から出た言葉であれば尚更だろう。




ルイ「ほっぺた赤い」

シャノン「うっ…うるさいな。それより、私も読むくらいなら出来るし手伝うよ」

ルイ「読めるんだ、僕と同い年なのに」

シャノン「読めるって言っても少しだけどね」

ルイ「じゃあ、これは何て読むの?」

シャノン「避難誘導、逃げるのを助けるみたいな感じだと思う」


ルイ「そっか、ありがとう。避難経路の……」

シャノン「確保。逃げ道を用意するみたいな感じかな、多分」

ルイ「なる程。後は、情報による……よる…」

シャノン「攪乱」

ルイ「攪乱?」


シャノン「………辞書借りてくる」



同時刻・兵舎会議室


「本日深夜、孤児達を搬送する。搬送先はカルセダより南に位置する【ザレディア】だ」

「それと、カルヴァート大佐からの伝令だ」

『カルセダ東側の誘いの森を経由してフラガナウ軍が襲撃してくる可能性もある』

「だそうだ。今度も警戒を怠るな」

「「 了解!! 」」


誘いの森。この大陸を分断する山脈の麓、その総称である。

決して越えられぬ山脈、入ったら最期、二度とは抜け出せぬと言われる森。

古くからの迷信だが、今や戦時である。フラガナウ軍が迷信を怖れるとは考えられない。

しかし、誘いの森が危険であることには変わりない。

方位磁石等は役に立たない為、安全に進むには森手前側を沿って進軍するしか無い。その場合、見つかる可能性が非常に高い。

かと言って深く入り込めば、カルセダに着くまでに隊員が減るのは確実。

だが、フラガナウ側からすれば、その危険を冒してでもカルセダを落とす価値はある。

補給経路を断てば、グレスカを落とす事は容易。


それともう一つ、カルヴァートの居るグレスカに兵を増員するよりは被害も少なく済む。



ーーーーー

ーー



クレイグ「随分急だけど仕方無いよな。此処よりは安全なわけだし」

兵舎脇のベンチに腰掛けながら、一人の少年を思い浮かべる。

本物の兵士を教えると言いながら、結局は本一冊渡しただけ。

彼自身、これ程早く別れがやって来るとは思いもしなかっただろう。


「どうしたんだ? 随分浮かない顔をしているな」


其処に現れたのは背の高い女性兵士、名はジェシカ・バセット。

彼女は衛生兵で、今現在は孤児達の精神的なケアを行っている。

彼女はそのままクレイグの隣に座ると足を組み、背もたれに腕を掛けた。


クレイグ「ジェシカさんは相変わらず背が高いですね。何を食ったらそんなに大きくなれるんですか?」



ジェシカ「例の少年か? 確かルイとか言ったな」

クレイグ「あの、少しは会話しましょうよ。背が高いの気にしてたら謝りますけど」

ジェシカ「で、どうした? 何か気掛かりでもあるのか?」


無視。自分が必要とする会話以外はしたくないのか、身長を気にしているのか……

男性兵士と比べても良い程の引き締まった身体、言葉遣い。

彼女に理想を抱く兵士は多々居るが、どれも粉々に打ち砕かれた。


クレイグ「……まあ、はい。格好付けて本物の兵士を教えるとか言っちゃったんで」

ジェシカ「それは格好悪いな」


クレイグ「そんなの、言われなくても分かってますよ」



ジェシカ「私も心配だ」

クレイグ「シャノンですか?」

ジェシカ「ああ、あの子の傷はそう簡単に癒えるものじゃない」

クレイグ「………そうでしょうね」

ジェシカ「だが命令だ。我々はそれに従うしかない。まして孤児達を安全な場所に移すのは当然だろう」

ジェシカ「此処もいずれはグレスカのようになるかもしれない。民間人や子供達が犠牲になるのは見たくない」


クレイグ「俺だって、そんなの見たくないですよ……」


膝の上に置いた拳を強く握り悲痛の表情、若干声を震わせている。

そこから感じるのは、怯えではなく決意。誰かを守る為の言葉。


クレイグ「それに、ルイには渡すものは渡したし、大丈夫だと思います」



ジェシカ「渡す物? まあいいが、あまり気を抜いてると頭を撃ち抜かれるぞ」

クレイグ「嫌なこと言わないで下さいよ……」

ジェシカ「冗談で言っているわけじゃない。上官殿も仰っていたが、誘いの森から襲撃してくる場合もある」

クレイグ「その時は大丈夫です。俺が居ますから」


悩める青年のような表情から一変。少女を救い、少年と出会ったあの夜。

慈悲も無く、躊躇いも無く首を掻き切ったあの夜と同じ表情。


暫しその顔を見つめたジェシカに怖れる様子は無い。寧ろ安堵しているように見える。



ジェシカ「そうか、お前が言うなら大丈夫なんだろう。私はそろそろ戻る」

クレイグ「あ、はい。ありがとうございました」


そう言うとベンチから立ち上がり、すたすたと去って行く。

きっと彼女なりに気に掛けてくれたのだろうと、彼女の背に向けて礼を言う。

彼女に立ち止まる気配は無かったが、ふと何かを思い出したようにぴたりと足を止め振り返り


ジェシカ「さっきの台詞、中々に格好良かったぞ」


表情はそのままに、それだけ言って去って行った。


クレイグ「………相変わらず、良く分からない人だ。『優しい人』なんだろうけど」

今日はこの辺で終了します。

みんなでくるくるしよう
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