エーブ「狼より愛を込めて」 (43)


+クメルスン・アマーティ編+


ガヤガヤ…


アマーティ「ロレンスさん!」

ロレンス「…」モグモグ

ロレンス「…」ゴクン

ロレンス「なにか?」

ホロ「ぬしは緊張感の欠片もないの…」

ロレンス「お前に言われたくないな」

ホロ「なんじゃとー」バシ

ロレンス「いて」

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ロレンス「ふむ」

ホロ「…何かや」

ロレンス「ずいぶんいろいろと頂戴したようだな?」ニヤニヤ

ホロ「…。まあの」フン

アマーティ「あ、あのー…私の話を聞いて頂きたいのですが…」


ロレンス「はあ…」モグモグ

アマーティ「ど、どうしました?」

ロレンス「いや…やはりクメルスンで魚取引を行うアマーティさんのことです」

ロレンス「羽振りがよく好況らしい。私のようなしがない行商人には眩しい限りです」

アマーティ「そ、そんな。とんでもない」テレ

ホロ「なにを照れておるんじゃたわけ」バシ

アマーティ「す、すいません」

ロレンス「こら。誰彼構わず叩くんじゃない」パシ

ホロ「いたっ!? ぬ、ぬしよ、わっちの頭を気安く叩くなと言っておろう!」


ギャーギャー


ノーラ「…」クピクピ

ノーラ「(ぶどう酒がおいしいです)」ニヘラ

ロレンス「それで…私のような一介の行商人に、アマーティさんほどのお方が一体何の用でしょうか」

ホロ「!? わっちを無視するでない!」

アマーティ「ええと、ですね」ゴホン


アマーティ「ホロさんはロレンスさんに莫大な借金を抱えていると聞きました」

ロレンス「…。はあ」グビ

アマーティ「私も商人ですから正義漢というわけではありません。ですが」チラ

ホロ「くふ?」

アマーティ「このようなか弱い女性に助けを求められ手を差し伸べないほど、冷血なわけでもありません」

ロレンス「…はあそれで」パク

アマーティ「ホロさんの借金は私が肩代わりします。そしてその上で」

アマーティ「彼女に結婚を申し込みたいと思うのです!」

ロレンス「…」モグモグ


ロレンス「ええと、林檎が十五個」

アマーティ「…え?」

ロレンス「それから小麦パンが五つ。上等な葡萄酒が皮袋四つ分。露店などでの飲食代は…まあ概算でお伝えすればよろしいですかね」

アマーティ「…そ、それだけ…ですか…?」

ロレンス「ええ。これだけです」モグモグ

ロレンス「いや私の財布にしてみれば莫大な借金と形容して差し支えのない飲食代ですよ。アマーティさんからすれば芥子粒ほどの金額かもしれませんが」ハハ

ホロ「…ぬ、ぬしよ一体何を…」ヒク

ロレンス「よかったな賢狼様。俺よりよほど気楽にねだれる相手が見つかったようだ」ニコ


アマーティ「…」ポカン

ロレンス「お幸せに」

ホロ「…」

ホロ「…の、のう。いくらなんでもわっちの扱いが軽すぎやしないかや…」

ロレンス「もともと借りを返すまでって話だったろう?」

ホロ「(それは言葉遊びというか、建前みたいなものじゃろうが!)」

ロレンス「それに」チラ

ノーラ「…」チビチビ

ノーラ「?」

ノーラ「えへ」ニコ

ロレンス「…」ニコ

ロレンス「旅の連れはノーラさんで間に合っている」

ホロ「…なぁ…」


ホロ「(こ、この賢狼が…わっちが、こんな、どこにでもいるような羊飼いの小娘に劣っておるとでも言うのかや!)」

アマーティ「…」

アマーティ「よ、よろしいのですか、あの」

ロレンス「無論です。まさしくこいつに食われた多少の財産をアマーティさんに代わりに返済して頂けるのであれば、私には露ほどの異論もありません」

ホロ「…のう」

ロレンス「うん?」

ホロ「ぬしはそれ本気で言っておるのかや…?」

ロレンス「? うん」

ホロ「そ、そうかや…」シュン


ロレンス「御者台には二人くらいがちょうどいい。わびしい行商人の財布としてもな。そう言うことだ」

ガタン

ロレンス「ではわれわれは失礼します。請求はまた後日」

ロレンス「ノーラさん、行きましょうか」

ノーラ「あ、はい」ガタン

ノーラ「あの、ホロさん

ホロ「ん?」

ノーラ「どうかお幸せに」ニコ

ホロ「…」イラ

スタスタ


アマーティ「…あ、あの。ホロさん」

ホロ「…」

アマーティ「事が全部済みましたら、正式に、ホロさんに結婚を——」

ホロ「そんなものいらぬ」

アマーティ「…、え?」

ガタッ

アマーティ「ホ、ホロさん?」


スタスタ

ホロ「…」

ホロ「あの、…この、くそ! なんなんじゃ一体!」

ホロ「わっちがこれほどまでにこけにされたのは、は、初めてでありんす!」

ホロ「…」

ホロ「(こけにされたというか袖にされたというか…)」

ホロ「…はっ」ブンブン

ホロ「あ、ありえん。そんなことありんせん!」

ホロ「わっちをこんな風にぞんざいに扱おうなど、…」

ピタ

ホロ「…。そうじゃ」



ホロ「故郷の…仲間ぐらいのものでありんす」



+クメルスン・アマーティ編・完+

今さらですが
ノーラ「羊飼いと行商人と、狼」
という作品の続編、という形になります。

続き、+レノス・エーブ編+を今日の夜投下予定です。

エーブだ珍しい

エーブさんとは解ってる>>1だな

期待

乙でござる!

レス感謝です。ぼちぼち続きを投下して行きます。


+レノス・エーブ編+


エーブ「どうだ。あんたオレに金を貸さないか。なに」グイ

エーブ「あんたの連れをボラン家の名を冠して質草に出せばいいだけさ」フー

ロレンス「…それはできません。あの方は…」

エーブ「商売上の協力関係と聞いたぜ。なら構わないだろう?」

エーブ「本人もそばで小僧のように素直に頷いているじゃないか」

ロレンス「本人?」

ホロ「…」コクコク

ロレンス「…」

ホロ「…」コクコクコクコ

ロレンス「おい」ガシ

ホロ「んむ?」


ロレンス「なぜお前がここにいる」

ホロ「くふ?」

ロレンス「くふじゃないが」

エーブ「? どうかしたか」

ロレンス「あ、いえ」


ホロ「安心して話に乗るとよい」コソ

ロレンス「どうしてそう言える」

ホロ「詳しくはあとで話そう。じゃがわっちにはあの女狐が何を企んでおるか知れておる」

ロレンス「…ほお」

ホロ「ぬしはわっちを利用する気でおればよい。何の心配もありんせん」

ロレンス「俺がお前の思惑に納得できたらな」スッ

ホロ「くふ」

ロレンス「分かりました。エーブさんそのお話乗らせて頂きます」

エーブ「そいつは何より」フゥ







ロレンス「それでなんだって?」

ホロ「んむ! 聞いて驚くがよい——」

ロレンス「待った」コツ

ホロ「ふぎゅ」

ホロ「い、痛い? 急に、た、叩かないでくりゃれ?」オロオロ

ロレンス「静かに」


ノーラ「…くぅ」スヤスヤ

ロレンス「ノーラさんはもう眠っているからな。起こしてはだめだ」

ナデナデ

ノーラ「…えっへへ…」スヤスヤ

ホロ「…」ジンジン

ホロ「う、うむ。分かったでありんす」コク







ロレンス「なるほど。つまりエーブは俺を無知のまま盾にしてずいぶん無謀な取引を行うつもりでいたわけだ」

ロレンス「ありがとう。聞けてよかった。そんな取引に乗るわけにはいかない」

ホロ「え。な、なぜじゃ?」

ナデナデ

ノーラ「…」

ロレンス「俺が抱えているのは一人分の命ではないからな」

ホロ「…」

ロレンス「それに無関係のお前まで巻き込むわけにはいかない」

ホロ「…」

ホロ「そ、そうかや」パタパタ


ロレンス「なあ」

ホロ「んむ?」ニコ

ロレンス「…」

ロレンス「それだけの情報を集めるとなると相当な労力が必要だったはずだ。いや知恵も。エーブにまったく嗅ぎつかれることなくお前はやってのけたんだからな」

ホロ「んむ! わっちは賢狼じゃからな!」フンス

ロレンス「ない胸を張ってもみっともないだけだぞ」

ホロ「なっ」


ホロ「そ、その小娘よりはあるじゃろ!」

ロレンス「どうしてノーラさんが出て来るんだ」

ホロ「…っ、う、うるさい! 知らぬ!」

ロレンス「(理不尽な)」

ロレンス「まあどんな手段を使ったかはあえて聞こうとは思わないが…」

ホロ「賢明じゃな」

ロレンス「だがどうして? なぜ俺のためにそこまでした」

ロレンス「それに——まず失敗がないとは言えお前が自分の身を賭ける理由は何もないだろう」

ホロ「…そうじゃのー…」


ホロ「実はわっちにもよく分からぬ」

ロレンス「…」

ホロ「ただの」

ロレンス「ただ?」

ホロ「むかついたから」

ロレンス「…?」


ホロ「のうぬしよ」

ロレンス「おう」

ホロ「ぬしはどうしたらわっちを——」

ロレンス「…」

ホロ「…」

ホロ「何でもありんせん」フイ

ロレンス「なんだよ」

ホロ「何でもないと言っておる!」


バサ

ホロ「まあ…とにかくそういうことでありんす」

ホロ「取引を反故にするなら早い方がよい。五十人会議の結果が公布されてしまえばあの女もどんな手を使って来るか」

ロレンス「あの人相手だと、もう十分言い出すのがおそろいいくらいに足を突っ込んでしまった気もするがな」

ホロ「違いない」クス







エーブ「ふうん。俺の見込み違いだったか」

ロレンス「挑発には乗りませんよ」

エーブ「…なああんた本当にそれでも商人か」

ロレンス「どうでしょう。しかし一部の、自殺志願者と変わらない——」

ロレンス「向こう見ずな商人気取りの方よりは。幾分かは商人らしいと思っています」

エーブ「…はっ」


エーブ「まいいさ。分かった。無理強いはしない。いやできないと言った方がいいか」

エーブ「どうやってそこまで嗅ぎつけられたか不思議で仕方ないぜ」

ロレンス「(それは私もです)」

ロレンス「それで…これからどうするんです」

エーブ「さあ。お前の知ったことではないだろうさ」

ロレンス「まさか単身で動くつもりではないでしょうね」

エーブ「無理は承知さ」

ロレンス「死にますよ」

エーブ「ああ。かもしれない」


ロレンス「やめてください」

エーブ「…。なんだと?」

ロレンス「だって死ぬかもしれない」

エーブ「さっきも聞いた。お前がなぜ俺をとめる」

ロレンス「目の前で死のうとしている人間がいてとめない人はいません」

エーブ「だったら商人は人間じゃないな」

ロレンス「だったら私は商人でなくていい」

エーブ「…は?」


ロレンス「エーブさんもどうです?」

ロレンス「旅に連れがいると人は変わります。どうやら私は羊にでもなってしまったようです」

エーブ「…」

エーブ「くっく。あははは。笑わせるなよ」

エーブ「はーあ。やはり俺の目が狂っていたってことか」

ロレンス「残念ながら、そうみたいですね」







パシ

ロレンス「では行きましょうか。次の町へ」

ノーラ「はい!」ニコ

ホロ「んむ!」ニッコー

ロレンス「…」

ホロ「?」ニッコー

ロレンス「だから何でお前がいるんだ」

ホロ「なんでじゃろか?」

ロレンス「…いや俺は知らないが」

ホロ「まあまあ」

ロレンス「…」ハア


ロレンス「いいけどお前は荷台に行け。前にも言った通り御者台は二人がちょうどいい」

ホロ「…そうは言っても」

ホロ「荷台には先客がいんす」

ロレンス「…先客?」


エーブ「…」チビチビ

ロレンス「…」

エーブ「お、そろそろ出発か?」

ロレンス「エーブさん…どうしてあなたがここに」

エーブ「いちゃ悪いか?」

ロレンス「当たり前でしょう」

エーブ「つれねぇなあ」


エーブ「旅には連れを持てとありがたいご宣託を授けたのはお前じゃないか」

ロレンス「…」ハア

エーブ「はは。一言下りてくださいって言ってくれれば下りるんだがな」

ロレンス「…」

ロレンス「…人の悪い…」

エーブ「あんたの人が良すぎるだけさ」


エーブ「よっと」

エーブ「まあ何でもない気まぐれだと思ってくれ。別に商売をやめるつもりもない。一時休業ってところだな」

ロレンス「…はあ」

エーブ「ま、とはいえ」

スス

エーブ「俺は狼だからな。安らかなひと時のために空腹を満たすくらいの労は、いとわないが」アーン

ロレンス「…食べてもおいしくないですよ」

エーブ「何事にも好みってもんがあるだろう?」

ノーラ「あ、あのー」


ギュ

ノーラ「こ、この方は、私の、…その、お人…ですからね」

エーブ「…ふん。あんたは羊飼いだったか…」

エーブ「羊飼いなら羊飼いらしく、狼から逃げおおせてみればいい」

ノーラ「分かりました」ニコ

エーブ「(自信満々だなおい)」

ロレンス「…」

ロレンス「(…前にもこんなことあったなー…)」キリキリ


ホロ「…」

ホロ「わっちは蚊帳の外じゃなー…」

ホロ「…賢狼…なんじゃけどなー…」


ロレンス「…じゃあそろそろ出します」

ノーラ「はい」

エーブ「ああ」

ホロ「い、いいかや! 日が昇り切ってからはどちらかわっちとロレンスの隣を交代するのじゃからな!」

ギャーギャー

ロレンス「…」

ロレンス「(本格的に行商は廃業かな…)」ハア


+レノス・エーブ編・完+

以上、+レノス・エーブ編+でした。
最後にもう一編投下予定です。
おそらく零時前後になるかと思います。

この空気いいわー

乙でござる!

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