キョン「さて、ゴミを捨てにいくか」(441)

~放課後 部室~


ハルヒ「キョン、ちょっとゴミ捨ててきて」

キョン「はぁ? ゴミ?」

ハルヒ「うん。ドアの外の所に置いてあるから」

キョン「何で俺が」

ハルヒ「ざ・つ・よ・う・が・か・り」

キョン「はぁ、分かったよ」ガチャ


キョン「えーと、この半透明の袋のだな。うわ、いろいろゴミが詰まってるな」

キョン「何でお菓子の箱や袋がこんなに大量にあるんだよ。勝手に飲み食いでもしてるのかアイツ」


ボトッ・・・


キョン「……ん? もう1つあるな。黒いゴミ袋? こっちは中身が見えないな」

キョン「何か得体の知れないものでも入ってるんじゃないだろうな? ま、どうでもいい」

キョン「さて、ゴミを捨てにいくか」

~焼却炉前~


キョン「せーの、よっと」ポイッ


ゴオオオオオオオオオ・・・


キョン「おお、燃えてる燃えてる。もう1つの黒いゴミ袋も……」


ドクン


キョン「ん? 何だ……? 今、変な感じが……」

キョン「……こいつか? この黒いゴミ袋を捨てようとしたら、何か嫌な予感が……」

キョン「本当に何なんだこれ……? まさか中に本当に変なものが……」

キョン「…………って、考えすぎか。とりゃ、投入!」ポイッ


キョン「これでよし。部室に戻るか」

~部室~


キョン「ただいまー」ガチャ

ハルヒ「お帰りー」

長門「……」

古泉「やあ、どうも」

キョン「おう。2人とも来てたのか。あれ?」

古泉「どうかしましたか?」

キョン「朝比奈さんはまだ来てないのか。今日はずいぶんと遅いな」

古泉「朝比奈さん、ですか?」

ハルヒ「何言ってるのよキョン」





ハルヒ「みくるちゃんならたった今、あんたが捨ててきたじゃない」

キョン「はぁ? 何言ってるんだ」

ハルヒ「……」

キョン「冗談も大概にしろ、まったく」

古泉「……」

キョン「何黙ってるんだよ。ドッキリならもうちょっとうまく仕掛けろよな」

長門「……」

キョン「おい、もういいって。朝比奈さんはどこだ?」

ハルヒ「……」

キョン「お、おい……」


キョン(な、何だよこの空気……まさか……いや、ないだろいくら何でも)

キョン(しかし……相手は何でもありのハルヒだ……まさか……まさか本当に……)


ハルヒ「……ひひひ」

キョン「ひっ!」

みくる「こんにちは~。遅れちゃってごめんなさい」ガチャ


キョン「わあああ! お化けー!? って、あ、あれ?」

みくる「どうかしたんですかキョンくん?」

キョン「あ、朝比奈さん……?」

ハルヒ「ぷっ、くくくく……あーっはっはっは! 引っかかった引っかかった!」

キョン「ぐ……やっぱりドッキリだったか、ちくしょう。深読みしすぎた……」

ハルヒ「『ひっ!』だって!? 情けない悲鳴上げちゃって! うっひゃっひゃ!」

キョン「うるせえ! 笑いすぎだ!」

ハルヒ「あんな単純なドッキリに引っかかるなんて、あんたも馬鹿ねぇ。あー面白かった」

古泉「すみません。涼宮さんに言われて断れなかったのですよ」

長門「……」

キョン「お前らもグルだったのか。まったく……」

みくる「えっと、何があったんでしょうか……?」

キョン「はぁ、もういい。怒るのも馬鹿らしくなってきた……あれ?」ゴソゴソ

ハルヒ「どうしたのよ?」

キョン「カバンに入れといたCDがない。おかしいな。確かに入れといたはずなんだが」

ハルヒ「間違って捨てたんじゃないの?」

キョン「んなわけあるか。くそ、買ったばかりだってのに……」

みくる「キョンくん、お茶です」

キョン「あ、どうも。ありがとうございます」

みくる「あ!!」ガッ


バシャア!


キョン「ぎゃあああ! 腕に!? あちゃちゃちゃちゃ!?」

みくる「きゃあああ! ごご、ごめんなさいキョンくん!?」

ハルヒ「いいわねみくるちゃん! うっかりコケてお茶をぶっかけるなんて、さすがドジっ娘メイド!」

キョン「アホか!?」

古泉「これはこれは。すぐに手当てをしましょう」

みくる「本当にごめんなさい! あたしったら何てことを!」

キョン「あ、ああ、いいですよ。わざとやったわけじゃないですし」

みくる「はぁ、あたしって何でこんなにドジなんだろう……キョンくんを傷つけて……」

キョン「そんなに自分を責めないでください。俺ならこれくらい全然平気ですから」


キョン(それにしても、朝比奈さんのドジっ娘ぶりも筋金入りだな。まさかここまでとは)

キョン(いつか命に関わるほどのドジをやらかしたりは……それはさすがに嫌だな)


  『そんな危なっかしい朝比奈さんはいらないな…………捨ててしまうか』


キョン「な!!」ガタッ

古泉「どうしたのですか? 急に立ち上がったりして」

キョン「あ……いや、何でもない」

ハルヒ「そろそろ下校時刻ね。みんな帰りましょう。最後の人は戸締りよろしく」

キョン「あ、ああ、分かった」

~夜 キョン家~


キョン「ふう、だいぶ痛みも治まってきたな。よかったよかった」

キョン「…………それにしても、何だったんだあの声は」


  『そんな危なっかしい朝比奈さんはいらないな…………捨ててしまうか』


キョン「いきなり頭の中に響いてきたが、あの声は……」

キョン「まさか、また何かよくないことが起きる前触れなのか……?」

キョン「……」

キョン「はぁ、考えすぎか。今日はドッキリやら火傷やらいろいろあったからな」

キョン「それで若干まいってるんだろう。こういう時はさっさと寝るに限る」

キョン「よし、おやすみ」ボフッ

キョン「……」

キョン「そういや、結局CD見つからなかったな。まだ封も開けてなかったのに。ちくしょう」

~翌日 放課後 部室~


キョン「うぃーす。って、あれ? 俺が1番乗りか」


ボトッ・・・


キョン「あれ? 今何か音が…………ん? これは……黒いゴミ袋?」

キョン「ハルヒの奴、またゴミを出したのか。まったく」

キョン「しょうがない。命令される前にさっさと捨てに行ってくるか。よいしょっと」グッ

キョン「む、昨日のゴミ袋よりも重たいな。中に何が入ってるんだ?」

キョン「ま、俺が気にすることでもないか。さっさと行ってくるとしよう」




~焼却炉前~


キョン「そいやっと。おー、よく燃えるな」

キョン「これでよし。またハルヒが悪巧みを考える前に、部室に戻るとするか」

~部室~


キョン「うぃーす。お、もうみんな来てたか」

古泉「どうも」

長門「……」

ハルヒ「キョン、あんたどこ行ってたのよ?」

キョン「どこって、ゴミ捨てだよ。またお前がゴミ袋を置いてただろう?」

ハルヒ「ゴミ袋? あたしそんなの知らないわよ」

キョン「はいはい。ドッキリはもういいって。あれ?」

ハルヒ「今度は何よ?」

キョン「朝比奈さんはまだ来てないのか。今日も遅れてるのか?」




ハルヒ「はあ? 朝比奈さんって誰よ?」

キョン「はぁ、またドッキリか。もういいっての」

ハルヒ「だから何のことよ?」

キョン「はいはい。どうせ昨日と同じで少し遅れてるだけなんだろ」

ハルヒ「こら、話を聞きなさい!」

キョン「よいしょっと。古泉、今日は将棋か? オセロか?」

古泉「……」

キョン「何だよ?」

古泉「あの……僕も朝比奈さんという方には心当たりがないのですが」

キョン「お前も律儀だな。そこまでハルヒの言うことに従わなくてもいいだろうに」

古泉「いえ、僕は本当に……」

ハルヒ「はぁ。まぁいいわ。キョンが変なことを言い出すなんて、今に始まったことじゃないしね」

キョン「お前が言うな」

長門「……」

~夕方~


ハルヒ「今日はここまで。みんな、じゃーね」

キョン「……結局、朝比奈さん来なかったな。何かあったのか?」

古泉「ですから……その朝比奈さんとは誰なのですか?」

キョン「まだ言うか。ハルヒはもう帰ったんだから、もういいだろう」

古泉「どうも話が噛みあいませんね」

キョン「こっちのセリフだ。同じSOS団の仲間のことをそんなふうに言うんじゃねえよ」

古泉「SOS団の仲間? はて」

キョン「何だよ?」

古泉「SOS団は涼宮さんとあなた、それに長門さんと僕の4人のはずですが?」

キョン「…………もういい。気分悪い。帰る」スタスタ

古泉「あ……」


キョン(たく、いつまでドッキリを続ける気なんだか。しかし、何で朝比奈さんは来なかったんだ?)

キョン(ま、以前ハルヒにセクハラされた時も来なかった時があったしな。そんなこともあるだろう)

~翌日 朝 キョンの部屋~


キョン「ムニャ……あー、もう朝か。起きないと……」

キョン妹「キョンくーん、おっはよーう!」ボスッ!

キョン「ごふっ!? お、お前、飛び乗ってくるんじゃ……ゲホッ! グホゴホッ!」

キョン妹「きょ、キョンくん!? どうしたの!?」

キョン「ガホッ! お、お前の膝がみぞおちに……ジャストミートして……グッホガハッ!」

キョン妹「ご、ごめんね。痛かった?」

キョン「はぁ、はぁ、まったく。起こしてくれるのはいいが、もう少し起こし方を考えてくれ」

キョン妹「はい、ごめんなさい……」


キョン(まったく。元気なのは結構だが、いい加減もう少しおしとやかになってほしいもんだな)

キョン(いつまで経っても手間のかかる妹だ。ミヨキチみたいな妹だったらよかったんだが)


  『あんな騒がしいだけの妹はいらないな。捨ててしまうか』


キョン「な! 今の声、また……」

~北高 放課後~


キョン(今朝聞こえてきたあの『声』、何だったんだろうな?)

キョン(いや、今朝だけじゃない。昨日も……ただの空耳か?)

キョン(ま、いいか。ハルヒに立て続けに変な事されたから疑り深くなってるだけだろ)


キョン「うぃーす。あれ? また俺が1番乗りか?」


ボトッ・・・


キョン「ん? って、また黒いゴミ袋……おいおい、いくらなんでもゴミ出しすぎだろ」

キョン「まーた俺が捨てに行かないといかんのか? 面倒くさいな……」

キョン「……はぁ、どうせ断っても無理矢理行かされるんだろうな。はいはい、捨ててきますよ」

キョン「よっと。本当に何が入ってるんだこのゴミ袋? どうせろくなもんじゃないだろうが」

キョン「ま、下手に詮索しない方がいいな。ちゃちゃっと行ってくるか」

~焼却炉前~


キョン「到着っと。何で3日連続でこんなところに来ないといけないんだ」

キョン「はぁ、愚痴ってもしょうがないか。せーの……」


 タスケテェ・・・・・・ダレカァ・・・・・・


キョン「ん? 今何か声が聞こえたような。また例の空耳か?」


 クライヨォ・・・・・・ココカラダシテヨォ・・・・・・


キョン「いや、あれとはまた違う感じだな。何て言ってるのかは聞きとれんが……」

キョン「……あれ、聞こえなくなったな。やっぱり空耳か」

キョン「どうも最近空耳が多いな。よいしょっと」ポイッ


ゴオオオオオオオオ・・・


キョン「相変わらずよく燃えるな。これでよしっと」

~夕方 帰り道~


キョン「結局今日はみんな用事があるとかで、俺とハルヒしか来なかったな」

キョン「おかげでやることがありゃしない。俺は毎日何しに部室へ行ってたんだっけ?」


ガッ!


キョン「おわ! とっとっと!」ビターン

キョン「いってぇ……何かが足に引っかかって……紐? 電柱と電柱の間に紐が……」

谷口「わっはっは! 引っかかったなキョン!」

キョン「谷口! これはお前の仕業か!」

国木田「あーあ、見事に転んじゃったね、キョン」

キョン「国木田まで……」

谷口「くっくっく、あんな単純な仕掛けに引っかかるとはな。いやー、面白いもんが見れた」

キョン「お前なぁ……くだらんイタズラしやがって……」

国木田「大丈夫、キョン?」

キョン「お前もこんな馬鹿のやることに付き合うなよ……」

国木田「僕は止めたんだけど、谷口が無理矢理……」

キョン「ったく、どいつもこいつも」

谷口「そう怒るなよ。友達だろ? 今度何か奢るからさ」

キョン「なーにが友達だ。いけしゃあしゃあと」


  『こんな馬鹿な友達はいらねえな。2人とも捨ててしまおう』


キョン「な!!」

キョン(聞こえた! 確かに聞こえた! 空耳なんかじゃない、ハッキリと聞こえた!)

キョン(何なんだ! 何なんだよこれ!?)


谷口「おーい、どうしたんだ? 急に黙り込んで」

キョン「あ、いや、何でもない! じゃあ俺は帰るから!」ダダダッ

谷口「あ、おい! 何だぁあいつ?」

~キョン家 キョンの部屋~


キョン(あの声は空耳なんかじゃなかった。しかも、どうやら俺にしか聞こえていないらしい)

キョン(何と言うか、頭の中に直接響いてくるというか……それにもっと気になるのが……)

キョン(響いてきた声が……どこかで聞いたことがある声なんだよな。うーん、誰だったか……)

キョン(あの声は何と言ってた? 確か誰かを捨てるとか言ってたような……)

母「晩御飯できたわよー。下りてらっしゃい」

キョン「ああ、今行くー」

キョン(気になる。とりあえずメシ食ってじっくり考えてみるか)


キョン「ああ腹減った。あれ?」

父「どうした?」

キョン「何で食事が3人分? あいつのは?」

母「あいつって誰よ?」

キョン「妹のだよ。今日はどっか泊まりにでも行ってるとか?」

母「何を寝ぼけたこと言ってるの。あんたに妹なんていないでしょ?」

キョン「は? え……え?」

母「あんたは1人っ子でしょうが。何? あんた妹が欲しかったの?」

キョン「いやいやいや。何言ってるんだよ。あんな騒がしい奴を忘れるなんてこと……」

父「お前……まさか妙な漫画だとかアニメを見て、妹がほしいとか言ってるんじゃないだろうな?」

キョン「違う違う! そういうんじゃない!?」

キョン(これは……どうなってる? 2人とも嘘を言ってるようには……)

キョン(そうだ、確か朝比奈さんの時もそうだった。みんなが朝比奈さんの事を知らないと……)

キョン(俺は勝手にドッキリだと決めつけてロクに話を聞かなかったが、まさか本当に……)

母「どうしたのよ。さっきから様子がおかしいわよ」

キョン「ごめん! ごちそうさま!」ガチャ ダダッ

母「ちょっと! 一口も食べてないじゃないの!」


キョン「嘘だろ……家中から妹の写真がなくなってる……」

キョン「いや、写真だけじゃない。妹がいたという痕跡がまったくない」

キョン「まるで……最初から妹なんていなかったかのように……」
  

~キョンの部屋~


キョン「くそ、もっと早く事態に気づくべきだった。なんてマヌケなんだ俺は!」

キョン「頭の中に響く声。それにあの黒いゴミ袋も、今思えば怪しすぎる」

キョン「いつからだ? いつから異変は始まってた?」

キョン「確か……そうだ、朝比奈さんにお茶をかけられて……その直後に声が聞こえてきて……」

キョン「それから次の日に部室に黒いゴミ袋が……それを捨てに行って、その日から朝比奈さんは来なくて……」

キョン「それから妹に変な起こされ方された直後にも声が……その日も部室に黒いゴミ袋があって……」

キョン「そうだよ。あの黒いゴミ袋を捨ててからだ。2人が忘れ去られたのは……」

キョン「……待てよ、黒いゴミ袋を捨てて、姿が見えなくなって、みんなに忘れ去られて」

キョン「まさか…………まさかあのゴミ袋の中身は…………」

キョン「いやいやいや! 何怖いこと考えてるんだ俺は!」

キョン「そういや、あの大きさのゴミ袋にしてはやけに重いなと……うぎゃああ! 考えるな俺!?」

キョン「と、とにかく、また厄介なことになったな。どうする? これからどうする?」

キョン「ん? 待てよ……そうだ! 谷口と国木田!」

キョン「あいつらといる時にあの声が聞こえたということは……くそ! 電話!」ピッ

キョン「頼む、出てくれ! 無事でいてくれよ……」

谷口『おうキョン、どうしたんだ?』

キョン「谷口! お前大丈夫なのか!」

谷口『はぁ? 大丈夫って何がだよ?』

国木田『何? キョンから電話?』

キョン「この声は……国木田も一緒なのか?」

谷口『おうよ、宿題を写させてもらうために、国木田の家に泊まりにきてるんだよ』

キョン「そっか、よかった……」

谷口『なぁ、何が「大丈夫か」なんだよ。気になるじゃないか』

キョン「え? ああ、お前の頭が大丈夫なのか気になってな」

谷口『何だとこの野郎!』

キョン「やかましい! あんな変なイタズラ仕掛けやがったくせに偉そうに言うな!」

キョン「ふう、とりあえず2人は無事だったか。しかし朝比奈さんと妹は……」

キョン「いや、まだ最悪の事態だと決まったわけじゃない。まだ2人を取り戻す方法はあるかもしれない」

キョン「何たって何でもありの存在が身近に何人かいるからな。あまりそいつらに頼りすぎても駄目だが」

キョン「何にせよ、まずは事態の把握からだ。まだ何が起こってるのかハッキリと分からないからな」

キョン「情報は少ないが……まとめると……」

キョン「謎の声が頭に響いて……黒いゴミ袋が出現……それを焼却炉に捨てると……存在の消滅……」

キョン「もし俺の想像していることが正しいとしたら、やはり俺が焼却炉に捨てたゴミ袋には……」

キョン「いや、考えるな! そこを深く考えたら進めなくなる! 今は事態の解決が先決だ!」

キョン「やはり分からないことが多いな。俺の頭に響いてくる声は何なのか。何者かの仕業なのか」

キョン「その何者かはいったい何が目的なのか。はぁ、本当に厄介だな」

キョン「いや、弱音を吐いてる場合じゃない。何としても朝比奈さんと妹を取り戻さないと!」

キョン「とりあえず、明日長門か古泉に相談だな。何とか協力してもらわないと……」

~翌日 朝 教室~


キョン「いっけね。考え事してたらすっかり夜更かししちまった。遅刻ギリギリだ」

ハルヒ「おはよキョン」

キョン「おう、おはよう……あれ?」

ハルヒ「どうしたの?」

キョン「国木田……谷口もか。2人ともまだ来てないな」

ハルヒ「そういえばそうね。遅刻かしら?」

キョン(いや、谷口はともかく国木田が遅刻は考えにくい。まさか……)


岡部「みんな席に着けー。今日はHRの前に言っておかないといけないことがある」

岡部「実は谷口と国木田なんだが、昨日の夜から行方が分からなくなっているらしい」

キョン「な、何だと……?」

岡部「谷口が泊まりに行って2人一緒に勉強してたらしいんだが、途中から消えるようにいなくなっていたらしい」

キョン(まさか……嘘だろ……そんな……)

キョン「くそ……くそ! どうなってるんだよ!」ダダッ

岡部「あ、おい!」

ハルヒ「ちょっとキョン! どこ行くのよ!?」



~部室前~


キョン「谷口……国木田……昨日電話した時は元気だったじゃないかよ……」

キョン「くそ、頼む。外れててくれ……」ガチャ


ボトッ・・・ ボトッ・・・


キョン「……」

キョン「は……はは……黒いゴミ袋が2つ……か……」

キョン「今までゴミ袋は必ず部室にあったからひょっとしてと思ったが……見事に大当たりかよ」

キョン「本当に……本当に谷口と国木田なのか……? この黒いゴミ袋が……」

キョン「……ん? ゴミ袋から何かはみ出てるな。何だこれ?」グイッ

キョン「よっ、この、何かに引っかかって……よし、取れた!」

キョン「これは……携帯? この携帯、確か……」

キョン「そうだ。この携帯、谷口のだ…………つまり、このゴミ袋の中にはやっぱり……」

キョン「う、うわ、うわああああああ!?」

キョン「嘘だ! このゴミ袋、人が入るにはあまりにも小さいんだぞ! それなのに……!」

キョン「くそ! 何でこんなことに! くそ! くそぉ! 今出してやるぞ2人とも!」グググ・・・

キョン「……駄目だ、全然破れねぇ……何でできてるんだよ、このゴミ袋は!」

キョン「は! いかん、取り乱すな。落ち着け、落ち着け……」

キョン「とりあえず……この2つのゴミ袋はどうする? このままここに置いておくわけには……」


ドクンッ


キョン「あ……」

キョン「そっか……そうだよな……ゴミは……ちゃんと捨てにいかないと……」ズリ・・・ ズリ・・・

~教室 授業中~


キョン「……」ボー・・・

キョン(何だ……? 何か……何かを忘れてるような……?)

ハルヒ「ちょっとキョン」ヒソヒソ

キョン「え? あ、な、何だ?」

ハルヒ「あんた今日はどうしたのよ? 血相変えて飛び出したかと思ったら、ボーっとした様子で戻ってきて」

キョン「え? 俺そんなことしてたのか?」

ハルヒ「してたのかって……あんた頭大丈夫?」

キョン「頭? 頭大丈夫……何かを思い出せそうな……」


 (谷口『なぁ、何が「大丈夫か」なんだよ。気になるじゃないか』)

 (キョン「え? ああ、お前の頭が大丈夫なのか気になってな」)

 (谷口『何だとこの野郎!』)


キョン「……そうだ! 谷口! 国木田!」ガタン

ハルヒ「わっ! 急に立ち上がらないでよ! びっくりするじゃない!」

キョン(何で俺は忘れてたんだ! いつからだ? いつから記憶が……?)

キョン(そうだ、部室で2つの黒いゴミ袋を見つけて……それがハッキリ谷口と国木田だと分かって)

キョン(それから……それからの記憶がない……俺はどうしてたんだ……)

教師「おいお前、俺の授業の邪魔をするとはいい度胸じゃないか」

ハルヒ「本当にどうしたのよキョン? 何かあったの?」

キョン「あ、いや、谷口と国木田のことが気になってな。HRで行方不明だって言ってただろ?」

ハルヒ「……誰よそれ?」

キョン「へ? いやいや、今日のHRで岡部が……」

ハルヒ「今日のHRは席替えについての話をしただけじゃない。だからその谷口と国木田って誰よ?」

キョン(おいおい、どうなってる? 今朝までは確かにみんな覚えてたはずなのに……)

キョン(……そうだ。よく考えたら、今まではゴミ袋を焼却炉に放り込んだ時点で存在が消失していた)

キョン(しかし、今日俺は2人のゴミ袋を見つけただけだ。焼却炉には行っていない)

キョン(すると、俺が記憶を失っている間に誰かが……いや待て。また何か記憶が……)

 (キョン「ふう、ふう」ズル・・・ ズル・・・)

 (キョン「いやぁ、2人分も運ぶとなると大変だなぁ……」)

 (キョン「よし着いた。じゃぁな、谷口、国木田」ポイッ ポイッ)

 (ゴオオオオオオオ・・・・・・)

 (キョン「お~、よく燃えるよく燃える。ゴミはちゃんと捨てないとなぁ……」)


キョン(うわ!! な、何だよこの記憶!? 俺はこんなことをした覚えは……)

キョン(まさか……無意識に? 俺は無意識に2人を焼却炉に……)

キョン「う、うわあああああああああ!!」

ハルヒ「きゃ! もう! いい加減にしなさいよ!」

キョン(俺は……俺はこの手で谷口と国木田を! 親友2人を!)

キョン(いや、谷口と国木田だけじゃない……朝比奈さんも妹も、みんなみんな俺がこの手で!?)

教師「あーもう、誰かそいつを保健室に連れて行け」

キョン「はっ! す、すみません! 大丈夫です! 大丈夫ですから!?」ガタンッ

キョン(落ち着け! 取り乱してる場合じゃない! 何とか……何とかしないと!)
 

~放課後~


ハルヒ「キョン、あたし掃除当番だから遅れ……」

キョン「……!!」ガラッ ダダダダッ・・・

ハルヒ「あ! もう、人の話を聞きなさいよ!」



~部室~


キョン「……!」バァン!

古泉「うわっと、びっくりした。どうしました? そんなに血相を変えて」

キョン「お前1人か。長門は?」

古泉「まだ来ないですね。クラスの方で何か用事でもあるのでしょう」

キョン「……まあいい。古泉、お前に話がある」

古泉「話、ですか?」

キョン「ああ、今から言うことは冗談でもなんでもない。力になってくれ」

古泉「……どうやら只事ではなさそうですね。分かりました、聞きましょう」

古泉「ふむ。黒いゴミ袋に焼却炉、そして存在の消滅ですか……」

キョン「ああ。もうすでに何人も消されてる」

古泉「そういえば以前も言ってましたね。朝比奈さんというSOS団メンバーがいると」

キョン「そうだ! 確かにいたんだ! お前らが忘れちまってるだけなんだよ!」

古泉「僕の記憶では、SOS団は最初から4人だけなのですが……ふぅむ」

古泉「谷口さん、国木田さんという方も僕は知らないですし、機関の調査ではあなたは1人っ子のはず」

キョン「だーかーら! それは忘れられてるだけで!」

古泉「あなた1人が虚構の記憶を植え付けられているという可能性は?」

キョン「ない! 世界中のみんなが忘れても、俺だけは覚えてる!!」

古泉「…………」

キョン「…………」

古泉「……分かりました。信じましょう」

キョン「本当か!?」

古泉「ええ。あなたの必死な様子を見ていると、嘘をついているようには見えませんからね」

古泉「そうと決まれば早速調査に行きましょう」

キョン「おう。あ……」

古泉「どうしました?」

キョン「教室に鞄を忘れてきた……慌てて来たから……すまん、取りに行ってくる」

古泉「分かりました。万が一先に涼宮さんが部室に来たら、うまく言っておきますね」

キョン「頼む」バタン


キョン「ふぅ、よかった。あいつは記憶がないから説得にもっと苦労するかと思ったが」

キョン「普段はニヤケ面で胡散臭い奴だが、こういう時は頼りになる。よーし……」


  『あんなニヤケ面した気持ち悪い奴なんかいらねえよ。とっとと捨てちまおう』


キョン「はっ!? ま、また!?」


古泉『うわあああああああああ!?』


キョン「い、今の悲鳴は! 部室から!? 古泉!!」

キョン「おい古泉! どうしたんだ! 何があったんだ!」ドンッ! ドンッ!

古泉『うわああああああ! があああああああああ!!』

キョン「くっそ! ドアが! ドアが開かない!?」ガチャガチャガチャ

古泉『がふっ! げぼぉっ!? ぁぁぁぁぁぁぁぁ……』


ミシ ミシミシ ミチッ バキッ! メリメリメリ・・・ グチャ・・・ グチャ・・・


キョン「何だよ……何だよこの音!? 古泉! 古泉!!」ガチャガチャガチャ!!


バタンッ!


キョン「うわぁ!?」ドシン!!

キョン「いってぇ……急にドアが開いて……はっ! そ、それより!?」

キョン「古泉! いったい何があった…………あれ?」

キョン「古泉? おい、どこだ? どこに行ったんだ古泉!」

キョン「おかしい……さっきまで声がしてただろうが! 古泉ぃー!!」

ボトッ・・・


キョン「今の音……まさか……」クルッ

キョン「はは……やっぱり……黒いゴミ袋……か……」

キョン「おい、古泉……お前……そこにいるのか……?」

キョン「……」

キョン「嘘だろ……さっきまで普通に話してたじゃないかよ……」

キョン「何でだ……何でだよ……俺が……古泉が……何したっていうんだよ……」

キョン「古泉…………ちきしょう……」


ドクンッ


キョン「……あ…………」

キョン「そうだ……いっけね、忘れるところだった」

キョン「ゴミ……捨てに行かないとな……」


ズル・・・ ズル・・・

~廊下~


キョン「ふふ……ふふふ……」ズル・・・ ズル・・・

阪中「あれ? キョンくん?」

キョン「おーう、阪中か」

阪中「こんな所でどうしたの? どこかに行く途中?」

キョン「ああ……ちょっと焼却炉までな……」

阪中「焼却炉? その手に持ってるのって……」

キョン「ああ……中にな……古泉が入ってるんだ……」

阪中「古泉くんが? どういうこと?」

キョン「今から古泉を捨てに行くんだ…………ん?」

キョン「古泉を……………………捨てに?」


ドクンッ


キョン「…………はっ! あれ? 俺は……俺は何を……?」

キョン「そうだ……俺は確か部室で…………まさか! また無意識に!?」

阪中「何だか顔色が悪いよ。本当にどうしたのキョンくん?」

キョン「すまん阪中! 俺用事があるから!」ダッ!

阪中「あ! キョンくん!」

キョン「おっと! 言い忘れてた!?」

キョン「阪中、ありがとな! お前のおかげで正気に戻れた! 本当に助かったよ!」

阪中「……え? あたし何かした?」


キョン「はあ、はあ、くそ、完全に正気を失ってた。俺は無意識のうちに古泉を……」

キョン「谷口と国木田の時もそうだった。途中で記憶が途切れて……」

キョン「だが、何とか今回は踏みとどまった。しかし……」

キョン「このゴミ袋、どうすればいいんだよ。まさかそこら辺においとくわけにもいかないし」

キョン「とにかく、いったん部室に戻ろう。長門が来てくれてればいいんだが」

~部室前~


キョン「着いた、な。ハルヒがいたらどう言い訳するか……」

キョン「悩んでいてもしょうがない。入るか」ガチャ


ゴオオオオオオオオオ・・・


キョン「…………え?」

キョン「あれ? え? 何で…………何で目の前に焼却炉があるんだ……?」

キョン「俺は確か部室のドアを開けて…………なのに、何でいつの間にか外にいるんだよ!」

キョン「テレポートでもしたのか俺! もう何が何だか訳がわからん! とにかくもう1度部室まで……」

キョン「……………………あれ? 何か違和感が……ああ! ゴミ袋! ゴミ袋がない!?」

キョン「さっきまでこの手に持ってたはずなのに!? どこだ! どこにいった!?」


ゴオオオオオオオオオ・・・


キョン「…………焼却炉の蓋が…………開いてる……」

キョン「おい……嘘だよな……?」

キョン「…………」

キョン「そうだ……携帯……」ピッ

キョン「…………」

キョン「古泉の番号が……消えてる……」

キョン「……は…………はは……」

キョン「そうか! つまり俺は、まーた無意識のうちに捨てちまったんだな! 古泉を!」

キョン「はは、ははははは! ちきしょう! 何やってるんだよ俺は!」

キョン「くそ! くそくそくそ! くそっ!!」

キョン「ぜえ、はあ、お、落ち着け。大丈夫だ、まだ……まだ何とかなるはずだ……」

キョン「……そうだ……長門……まだ長門がいる……!」

キョン「長門なら……この状況を何とかしてくれるはずだ!」

キョン「長門…………長門ー!!」ダッ

~部室~


キョン「長門! いるか!?」バァン

長門「……」

キョン「おお、いてくれたか! ハルヒは……いないようだな。ちょうどいい」

キョン「大変なんだ! お前の力がいる! 助けてくれ」

長門「……」

キョン「実はだな……」


キョン「――――――――というわけなんだ」

長門「……」

キョン「ひょっとして、お前も記憶を失ってるのか? 朝比奈さんや古泉のことを覚えていないのか?」

長門「……」

キョン「それならそれで仕方ない。でも全部本当のことなんだ! 何とかしてくれ!」

長門「……」

キョン「おい、聞いてるのかよ長門!」

長門「……」

キョン「……長門? 何でさっきから黙ったままなんだ……?」

長門「……」

キョン「おい……おい! 長門! お前が無口なのはよく知ってるけどよ! 今は非常事態なんだ!」

キョン「頼む! 何か喋ってくれ! もうお前しか頼れる奴がいないんだ!」

長門「……」

キョン「おい、いつまで黙ってるつもりだ! いい加減にしろよ!」

長門「……」

キョン「くそ! この! こっちを見ろ!」ユサユサ!

長門「……」ガクガク

キョン「おい……長門……何でだ……? 何で何も言ってくれないんだ……?」
 
長門「……」

キョン「分かった…………分かったよ、長門」

キョン「そうだよな……何でもかんでもお前に頼るのはよくないよな……」

長門「……」

キョン「いつもいつも最後にはお前に頼っちまう。『いざとなれば長門がいるさ』ってな」

キョン「そんな甘ったれた考え方じゃいけないよな……」

長門「……」

キョン「すまなかったな長門。取り乱していたとはいえ、怒鳴りつけたりして」

キョン「何とか……何とか自力で頑張ってみるよ…………じゃあ……」スタスタ


  『そうだな。長門がいるからいつまでも甘えちまう。それなら長門なんて……』


ボトッ・・・


キョン「長門!!」クルッ


キョン「あ…………黒い…………ゴミ袋……」

キョン「は、はは……長門もかよ……最後の望みが……絶たれちまった……」

キョン「もう……どうしようもない……ふひ、ふはは、ははははは……」

キョン「はははははは! はははははははははははははは!?」

キョン「もうどうでもいい! もうどうにでもなれよ!」


ドクン!


キョン「おっと、そうだ。忘れちゃいけないな。ゴミを捨ててこないと」

キョン「はは! ちゃちゃっと行ってくるか! はっはっは!」



~焼却炉前~


キョン「そーらよっと!」ポイッ

キョン「ははは! 燃えろ燃えろ! 何もかも燃えてしまえ!」

キョン「うひゃひゃひゃひゃ! ひひひひひひひひ!?」

キョン「はは……ははは…………」

~夕方 キョン家~


キョン「ただいま……」

母「あら、おかえり」

父「ずいぶんと遅かったな」

キョン「ああ……メシ……いらないから……」

母「どうしたのよ? 何か様子がおかしいわよ」

父「何かあったのか?」

キョン「何でもない……もう寝るから構わないでくれ……」

母「何でもないわけないでしょ。凄い顔してるわよアンタ」

父「こら待ちなさい。話を聞け」

キョン「うるさいな! 構わないでくれって言ってるだろ!」ダッ

母「あ! ちょっと!」

父「何だ、何があったんだ……?」

~キョンの部屋~


キョン「はぁ、はぁ、まったく! 煩わしい! こっちはそれどころじゃないってのに!」

キョン「ああもう! 腹立つ! ムカつく!!」


  『あんな空気の読めない親なんかいらねえよ! 捨てちまえ!』


キョン「あ……」

キョン「また……か……何度同じ事を繰り返せば気がすむんだ、俺は……」



キョン「2人とも、いるかー?」ガチャ

キョン「…………はは、やっぱりな。黒いゴミ袋が2つ」

キョン「俺は……あと何人捨てればいいんだ……?」 

キョン「大切な人たちを……1人残らず捨てるまで終わらないのか……?」

キョン「もう……喚く気力もねえよ……」

キョン「あー……マジでもうどうでもよくなったな……」

キョン「あ、そういえば、このゴミ袋どうしようか……」

キョン「…………へいへい、捨てに行けばいいんだろ。どうせ無理矢理にでもそうさせるくせに」

キョン「しかし……今から学校まで行くのは面倒くさいなぁ……」ズル・・・ ズル・・・

ガチャッ


ゴオオオオオオオオオ・・・


キョン「はは……またドア開けたら、目の前に焼却炉か。うちのドアはいつからどこでもドアになったんだ?」

キョン「まぁいい。手間が省けた。さて……と……」

キョン「…………」

キョン「おい、どうした? いつもなら捨てる段階になって無意識状態にさせて捨てさせてただろうが」

キョン「さっさと無意識にしろよ。いつの間にか捨ててましたーってな」

キョン「…………」

キョン「はっ…………自分の意志で捨てろってことか」

キョン「分かったよ。やるよ。やりゃいいんだろ」

キョン「蓋を開けて。よいしょっと……」

キョン「よーし。さっさとゴミ袋を放り込んで…………放り込んで……」

キョン「…………」

キョン「できるわけ…………できるわけないだろうが!!」

キョン「くそ! このゴミ袋は絶対に…………あ、あれ?」

キョン「ゴミ袋…………ゴミ袋はどこに…………あ……」


ゴオオオオオオオオオオオ・・・


キョン「……」

キョン「……ふん。手間を省いてくれてありがとよ」

キョン「あーあ、家に帰るか。疲れちまった……」

キョン「あ、そういえば、学校から家まで歩いて帰らないといけないのか。面倒くせーな……」

キョン「ひひ……ひひひ……」

キョン「あー……そういや晩飯どうしようかなぁ……? もう作ってくれる人がいなくなったんだよなぁ」

警官「こら、そこの君。ちょっと」

キョン「あー? お巡りさんが俺に何の用ですかぁ?」

警官「制服を着ているということは君は学生だな。こんな時間に外をうろつくんじゃない」

キョン「こんな時間~?」

キョン(あらら……真夜中の2時……いつの間に……)

警官「どうも様子がおかしいな君。まさか薬でもやってるんじゃないだろうね?」

キョン「なぁーんもやってないですよ。じゃ俺はこれで」スタスタ

警官「こら、まだ話は終わってないぞ」ガシッ

キョン「うるせえなゴラァ! 俺は帰るっつってんだろうが!」

警官「わっ!」パッ

キョン「まったく。それじゃ、さよーなら」スタスタ


警官「……あー、びっくりした。ああいう面倒くさい奴には関わらないでおこう」

~キョン家~


キョン「ただいま~っと。おっと、もう誰もいないんだっけ」

キョン「いやー、家の中真っ暗だな! 当たり前か! はっはっは!?」

キョン「あー……はぁ……」ペタン

キョン「…………」

キョン「は……はは……みんな…………みんな消えちまった……」

キョン「俺が……この手で捨ててしまった……大切な人たちをみんな……」

キョン「どうすりゃいいんだよ…………いや……もう、どうしようもないか……」

キョン「はぁ……このまま俺1人がのうのうと生き残っててもいいのか……?」

キョン「いっそのこと俺も……」

キョン「…………」

キョン「面倒くさい。明日にしよう」ゴロン

ボウッ!


キョン「…………ん? 何だありゃ?」


ユラ・・・ ユラ・・・


キョン「何か火の玉みたいなのが……はは、遂に幻覚まで見えるようになったか……」

キョン「ひょっとして人魂か? お迎えにでも来てくれたのかー?」

キョン「はは、どうでもいいか。寝よ寝よ」

キョン「…………」


キョン(あの火の玉……どこかで見たことあるような……?)

キョン(確か……夜の北高……閉鎖空間……ハルヒと2人…………!!)

キョン「思い出した!!」ガバァ!!



キョン「古泉!! お前、古泉なのか!?」

キョン「間違いない! かなり小さいが、あの時と同じ赤い球だ!」

キョン「古泉! 聞こえてるか! 古泉!!」

キョン「お前、完全に消えたんじゃなかったのか? いったいどうやって……」


ユラ・・・ ユラ・・・


キョン「何で何も答えてくれないんだ! あの時は俺にアドバイスをくれたじゃないか!」

キョン「……まさか、喋れないのか? お前にはもうそれだけの力も残っていないのか?」


 ・・・・・・・・デ・・・・・・サイ・・・・・・


キョン「……え? おい! 今何か言ったのか!」


 『諦めな…………くださ……………………信じ…………す……』


キョン「古泉…………」

シュウウウウウウウ・・・・・・


キョン「え? おい、まだ消えないでくれ! 古泉! 古泉!!」


シュンッ・・・・・・


キョン「消え……た……」

キョン「古泉…………お前…………」

キョン「最後の力を振り絞って…………俺のことを励ましに来てくれたのか……?」

キョン「はは……ここは閉鎖空間じゃないんだぞ。無茶しやがって……」

キョン「……………………」

キョン「くそ…………くそくそくそ!!」ガンッ! ガンッ!

キョン「何をしてたんだ俺は!! 勝手に絶望して! 勝手に諦めて!」

キョン「俺にはまだやるべきことがあるだろうが! へたり込んでんじゃねえ!!」

キョン「ありがとな、古泉。おかげで正気に戻れた」

キョン「必ず……必ずみんなを取り戻す! 待ってろよ!」

キョン「まずは…………冷静に考えるべきだな」

キョン「こんな胸糞悪い事を企てた犯人……こんなことができそうな奴と言えば……」

キョン「ハルヒ、か…………ハルヒの何でもありの能力を使えば……」

キョン「そういえば以前、俺に性質の悪いドッキリを仕掛けてきたな……」

キョン「朝比奈さんをゴミ袋につめて捨てさせたように思わせるというドッキリ……」

キョン「まさか、あれがきっかけでこんなことを……?」

キョン「…………」

キョン「いや、ないな。あいつが本気で人を捨てるなんてことを望むとは思えん」

キョン「特に、SOS団のみんなを消すなんてことはな……」

キョン「絶対にないとは言い切れんかもしれんが、ハルヒが犯人である可能性は限りなく低いだろう」

キョン「となると……他にこんなことができそうなのは……」

キョン「情報統合思念体……あるいは他の派閥の宇宙人ども……」

キョン「宇宙人以外にも、超能力者や未来人一派の可能性も……」

キョン「…………駄目だ、こればかりはどれだけ考えても結論は出そうにないな」

キョン「犯人が分からない以上、目的も分からんな……」

キョン「こんなことをして得をする……うーん、ただの愉快犯なわけはないと思うが……」

キョン「駄目だ。やっぱり分からん。この際、犯人や目的を考えるのは後回しだ」

キョン「問題は、どうやってみんなを取り戻すかだ。今の俺にできること……」

キョン「できること……か……」

キョン「…………」

キョン「……1つしかないな」

キョン「確かに俺はほぼ全てを失った。だが……1つだけ希望がある」

キョン「ハルヒ…………まだハルヒが残っている……最後の切り札が……」

キョン「ハルヒの能力を使えば、全てをひっくり返すことも可能だ」

キョン「ハルヒが犯人である可能性も僅かに残ってはいるが、今はもうそんなことは言ってられない」

キョン「だが…………相手はあまりに強力だ。長門ですら歯が立たなかったほどに……」

キョン「そんな奴を相手に……俺は……」

キョン「いーや! 相手が誰だろうと関係ない! いつまでもやられっ放しだと思うな!」

キョン「よし寝る! しっかり寝て明日が勝負だ!」

~翌日 朝 教室~


キョン(いよいよ……か。落ち着け、俺)

ハルヒ「おはよ、キョン。早いわね」

キョン「おう」


キョン(もしも……もしもハルヒが犯人だったら……そうだとしたら、むしろ好都合だな)

キョン(それならハルヒが意識的にやったことじゃないからな。うまく説得できれば解決できる)

キョン(得体も知れない奴が犯人よりよっぽどやりやすい。しかし……)

キョン(そううまいこといくわけはないだろうな。さて、どうなるか……)

ハルヒ「ねえキョン」

キョン「ん? な、何だ?」

ハルヒ「あたし…………何だか違和感を感じるのよ」

キョン「違和感?」

ハルヒ「SOS団って…………本当にあたしとアンタの2人だけだったかしら?」

キョン「……どういうことだ?」

ハルヒ「何か……何となくなんだけど……SOS団って他にも誰かがいたような気がするのよ」

ハルヒ「それも……凄く大切な……ああもう! 何かもどかしいわね!」


キョン(これは…………そうか、ハルヒ……)

キョン(お前……完全に忘れたわけじゃなかったんだな。微かにだが、ちゃんと覚えてたんだな!)

キョン(ハルヒの能力のおかげか? それは分からんがともかく!)

キョン(ざまあみろ! どこの誰だか知らんが、そうそうお前の思い通りにはならないんだよ!)

キョン(さすがだなハルヒ。やっぱりお前は最高の団長様だよ!)


ハルヒ「キョン、さっきから何をニヤニヤしてるのよ。あたしがこんなに悩んでるのに」

キョン「あ、ああ、すまん」


キョン(さて、喜んでばかりもいられん。これからどうハルヒを説得するか)

キョン(ハルヒにどう思わせれば全てを取り戻すことができるか。勝負だな)

キョン(ハルヒは微かにだが、SOS団員のことを覚えている。そこをうまく……)


  『……………………いらない』


キョン「なに!! これは!?」


  『俺は…………いらない…………』


キョン(ま、またこの声か! ここにきて……!)

キョン(くそ! もうこれ以上誰も消させるわけには! 何とかしないと!)


  『SOS団なんて…………いらない…………』


キョン(な、何だと!?)


  『SOS団なんて…………捨ててしまえ…………全ての人の記憶から……』

  『…………「俺」の記憶からも…………な』


キョン(俺の記憶……だと? まさか…………頭の中に響くこの声は!?)

キョン(そうだ……ずっと、思ってた。頭の中に響くこの声、どこかで聞いたことがあると)

キョン(俺はずっと、どこかの何者かの声だと思ってた。だが、違ったんだ。この声は……)

キョン(…………俺だ……この声は…………俺自身の声だ……)

キョン(つまり……今まで俺の頭の中で、みんなを捨てるように囁いていたのは……)

キョン「嘘だ…………嘘だー!!」ダッ!!

ハルヒ「あ! キョン! どこ行くのよ!」



~部室~


キョン「ぜえ! ぜえ! はあ!」バァン!

キョン「あ…………」

キョン「部室の中が……ほとんど空っぽに……」

キョン「SOS団の思い出の品が…………1つ残らず……」


ボトッ・・・

キョン「黒い……ゴミ袋……!」

キョン「…………」

キョン「入ってるのか……その中に……? SOS団の思い出…………SOS団の記憶が……」

キョン「嘘だ……確かに頭の中に響いてきた声は、俺の声だった……」

キョン「だが、だからと言ってこんなこと俺が望むわけがないだろう! これは俺の意志じゃない!」

キョン「どうせ何者かが俺の声を勝手に利用してるだけだろう! 俺を混乱させるために!」

キョン「卑怯だぞ! くそ! 俺は絶対に屈したりは…………」


ゴオオオオオオオオオ・・・


キョン「……え? 焼却……炉……?」

キョン「いつの間に外に……まさか……まさか、また意識を飛ばされたのか、俺!?」

キョン「そうだ! ゴミ袋…………は、まだあるな。また無意識のうちに捨てさせられたのかと思ったが」

キョン「どうやら場所を移しただけのようだな。驚かしやがって」

キョン「いやいや! 何を安心してるんだ俺! やばいことに変わりはないだろう!?」

キョン「逃げようとしても、どうせ強制的にこの場所に戻されるんだろうな。くそ」

キョン「失敗したな。頭の中の声なんか無視して、ハルヒの説得に専念するべきだった」

キョン「何で迂闊にハルヒから離れたんだ。俺の馬鹿……」


ゴオオオオオオオオオオオ・・・


キョン「くそ、どうする……このゴミ袋を焼却炉に放り込んだら全てが終わりだ」

キョン「頭の中の声は言ってた……『「俺」の記憶からも』と……」

キョン「つまり、今まではみんなが忘れてしまっても俺だけは覚えていたが……」

キョン「今回は俺自身も忘れてしまう可能性がある。SOS団のことを……」

キョン「そうなったら……唯一残った『希望』すらも忘れてしまう……」

キョン「SOS団の仲間を取り戻すという、モチベーションも何もかも失ってしまう」

キョン「それだけは……避けないと。くそ、どうする?」

キョン「……このままここでじっとしていてもしょうがないな」

キョン「一か八か……走るか。ハルヒの所まで。無駄なあがきかもしれないが、何もしないよりは……」

キョン「どうせまたここに戻されるだろう。だが、俺は諦めんぞ」

キョン「戻されてもまた走る! 何度でも何度でもハルヒの元へ走ってやる!」

キョン「よし…………行くぞ!」


ピキンッ!!


キョン「が……!! な……か、身体が動かん……!」

キョン「ああもう! 決意した直後にこれかよ! カッコ悪いな俺!?」


グググ・・・ ググ・・・


キョン「……ん? 身体が動く…………違う! 勝手に身体が動いてる!?」

キョン「何だよこれ!? 駄目だ、自分の意志で動けん!?」

キョン「くそ! どこに行こうってんだ!? 何をやらせるつもりなんだ!」

グググ・・・ グググ・・・


キョン「何をやらせるつもりだ……って、決まってるよなそんなこと」

キョン「やっぱり焼却炉に向かってやがる! こら! やめろ俺!?」


ゴオオオオオオオオオ・・・


キョン「やめろって言ってるだろ! このゴミ袋を捨てたら何もかも終わっちまうんだ!」

キョン「うおおおお! 止まれぇぇぇ! やっぱり止まらんんんん!!」

キョン「ええい! 何で今まで通り無意識にした上で捨てさせない!」

キョン「自分の手で捨てたとハッキリ自覚させて、絶望する顔でも見たいのか! 悪趣味だな!」


ゴオオオオオオオオオ・・・


キョン(やばいやばいやばい! 焼却炉の前まで来ちまった!)

キョン(くそ……捨ててたまるか! SOS団の……大切な記憶を!!)

キョン「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

――――――――――――――――――――

――――――――――――

――――



キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン


教師「よし、今日はここまで」

クラスメイト1「うひゃー、終わった終わった」

クラスメイト2「よう、放課後ゲーセン行かないか?」

クラスメイト3「行く行く」


キョン「……」


クラスメイト4「はぁ、今日部活でレギュラー選抜のテストがあるのよね……」

クラスメイト5「あんたなら大丈夫だって。ほら、気合い入れて!」


キョン「……」

キョン(……何か…………何かを忘れているような気がする)

キョン(とてつもなく大切な何かを…………何なんだよ、この強烈な違和感……?)


阪中「おーい、どうしたのキョンくん?」

キョン「……え? あ、え? あれ? みんなは……?」

阪中「とっくに放課後だよ。最近キョンくんボーっとしてること多いね。何か悩み事?」

キョン「ああいや、何でもないんだ。じゃあ俺帰るよ」



~廊下~


キョン(うーん、どうしても違和感が消えない。あああ、何かもどかしいな)

ハルヒ「ちょっとアンタ、待ちなさい」

キョン「ん?」

ハルヒ「アンタに聞きたいことがあるのよ」

キョン(……涼宮? こいつと俺は特に接点はないはずだが、何の用だ?)

キョン「……で、聞きたいことって何だ?」

ハルヒ「あたしね、最近アンタを見てると物凄い違和感を感じるのよ」

キョン「……はぁ?」

ハルヒ「何か凄く大事なことを忘れてる気がするのよ。何なのよこれ?」

キョン「いや、何なのよとか言われても……」

ハルヒ「アンタなら何か知ってるかと思って。教えなさい」

キョン「知るか! 用はそれだけか? じゃあ俺は帰るぞ」

ハルヒ「あ! こら待ちなさい!」


キョン(まったく、何かと思えば……違和感を感じてるのは俺のほうだっての)

キョン(ん? ひょっとして俺が感じてる違和感とアイツが感じてる違和感。何か関係があるのか?)

キョン(うーん、どうなんだろうな。まぁ変人で有名な涼宮の言うことだ。気にする必要もないだろう)

キョン(さて、帰るか。あ、帰りにスーパーに寄らないと)

~帰り道~


キョン(何かを忘れてる気がする。その何かはいまだに分からないが……)

キョン(覚えていることもある。最近俺の身に起きている怪奇現象……)

キョン(頭に声が響き……黒いゴミ袋が現れ……それを焼却炉に捨てると、捨てられた人間が消える)

キョン(俺は……それによって家族全員と友人を捨ててしまった……大切な人達を……)

キョン(だが……俺は他にも大事な何かを捨てたような気がする。それが思いだせん)

キョン(何よりも大切なものだった気がするんだが……くそ、やっぱり違和感を感じるな)



~キョン家~


キョン「ただいまー……って、誰もいないんだが」

キョン「このガランとした家にも少しずつ慣れてきたな……」

キョン「……」

キョン「晩飯食うか。今日は半額の生姜焼き弁当だ」

キョン「ごちそーさん。はぁ」ゴロン

キョン「こんな生活……いつまでも続けられないよなぁ……」

キョン「…………」

キョン「何とかしなきゃいけない……家族と友人を取り戻さないといけない……」

キョン「それは分かってるんだが……どうすればいいんだよ……」

キョン「こんなこと、話したって誰も信じてくれるわけないし……」

キョン「ただの一般人の俺に、こんな怪奇事件をどうこうできるわけがないしなぁ」

キョン「…………いや、方法はあったはずなんだ……それが何だったのか……」

キョン「駄目だ、やっぱり思い出せない。ここまで出かかってるんだがな」

キョン「はぁ……どうにかしようという気持ちも日に日に薄れてきたな」

キョン「何か……前は『絶対に何とかする』というモチベーションがあったような気もするが……」

キョン「いったい……俺は何を失くしたんだ……?」

キョン「あー……やっぱ答え出ねえや。もう寝よう」

~翌日 北高~


キョン「……」ボー・・・

キョン(あーあ、マジで何にもやる気がしないな。この状態、やばくないか?)

キョン(そうは思ってもな……うーむ、だんだん学校に来る意欲も失せてきたな……)

キョン(いや、学校だけじゃないな。生きる意欲が……)

ハルヒ「ちょっとアンタ!」

キョン「うぎゃ! びっくりした!? な、何だ、涼宮か」

ハルヒ「何だじゃないわよ! 昨日はよくも逃げてくれたわね!」

キョン「あー、違和感がどうのとかいう話か?」

ハルヒ「そうよ! アンタ本当に何も知らないの?」

キョン「知らねえって! 昨日もそう言っただろうが!」

ハルヒ「むー……でも、何か納得できないのよね。絶対にアンタは鍵を握ってる!」

キョン「何だよそりゃ……」

キョン(面倒くさい奴だなこいつ……ウザいからもう金輪際関わらないようにしよう)

~放課後~


キョン(はぁ……もう放課後か……)

キョン(家に……帰りたくないな……しかし、どこにも行くアテはないし……)

キョン(そういえば……最近は頭の中にあの声が響いてこないな……) 

キョン(以前は結構な頻度で聞こえてきてたような……聞こえてきたらそれはそれで困るが)

キョン(結局何だったんだろうな、あの声。ま、俺に知る術なんかあるわけないが)

キョン(…………)

キョン(お、そうだ。せっかくだから、あそこへ行ってみるか)



~焼却炉前~


キョン「着いた着いた。自分の意志でここに来るのはいつ以来だったかな?」


ゴオオオオオオオオオオオ・・・


キョン「……相変わらず、よく燃えてるな」

キョン「ここに……俺は家族や友達を捨てたんだよな……」

キョン「そして……もっと大切な何かも……」

キョン「…………」

キョン「何だろう……この火を見てると、何かを思い出しそうになるが……」

キョン「以前も……今以上に絶望した気がする……そして、誰かに励まされたような……?」

キョン「俺は……何かを強く決意したはずなんだ……しかし……」

キョン「それが何だったのか……さっぱり思い出せん……」

キョン「…………」

キョン「…………はぁ、もういいか」

キョン「もういい。もうおしまいにしよう」


キョン「おい、聞いてるか? どこかの何者かさんよ」 

キョン「もう充分だろ。俺はもう疲れた。だから……」

キョン「俺も……俺自身も、もう捨てちまえよ。みんなと同じようにな」

キョン「…………」

キョン「…………おい、どうした? 何で声が聞こえてこない?」

キョン「早くしろよ。みんなと同じように黒いゴミ袋に詰めて……焼却炉に放り込んでくれよ」

キョン「何だよ……来てほしい時に限って来ないとは、不便な奴だ」

キョン「まあいい。それなら…………自分で飛び込むまでだ」


ゴオオオオオオオオオオ・・・


キョン「……見れば見るほどよく燃えてるな。できればあまり苦しみたくないんだが」

キョン「そういえば……みんなは苦しかったのか……? 痛かったのか……?」

キョン「考えてもしょうがないか……よし、一思いに……」


ビキン!! ビキビキビキビキ・・・


キョン「いっ!! な、何だ!? 頭が! 頭が洒落にならんぐらい痛い!?」

キョン「痛い痛い痛い!? 勘弁してくれ!?」ゴロゴロ

キョン「くそ! これから飛び込もうって時に! 俺をさらに苦しめる気かよ!」


キョン(いや……俺は苦しんで当然だろうな……この手で大事な人たちを捨ててきたんだから)

キョン(家族を……友達を……SOS団のみんなを……この手で……)

キョン(…………ん? SOS団? SOS団……SOS団…………SOS団!?)

キョン「そうだ! 思い出したぞ! SOS団だ!」

キョン「長門! 朝比奈さん! 古泉! みんな……みんな思い出したぞ!」

キョン「そうだよ、俺は……古泉に励まされて奮起して……ハルヒの力で何とかしようとしたんだが」

キョン「ものの見事に返り討ちにあって、SOS団に関する記憶を捨てさせられたってわけか」

キョン「どこまで情けないんだよ俺は……まったく、みんなにあわせる顔がねえな」

キョン「ともかく助かった……あと少しで自殺するところだった……」

キョン「しかし…………何で俺は急に思い出すことができたんだ?」

キョン「何か急に頭が痛くなって……それから思い出したよな……」

キョン「いったい何で……………………あ」

キョン「…………そっか。そういうことか」

キョン「ハルヒ…………お前なんだな?」

キョン「お前が『思い出すように』と、願ってくれたんだな……」

キョン「…………」

キョン「ありがとなハルヒ……おかげで助かった。紛れもなく恩人だよ、お前は」

キョン「それにしても……古泉といいハルヒといい、俺って誰かに助けられてばかりだな……」

キョン「そのくせすぐに失敗したり諦めたり絶望したり…………情けないことこの上ないな」

キョン「だが…………もうここまでだ。ここからは俺自身が何とかしないとな!」


ビキビキビキビキ・・・


キョン「んん? あだっ!? 頭が! 頭がまだ痛い!? いだだだだ!?」

キョン「思い出したから! もう全部思い出したから! もういいって!?」

キョン「ぜえ、ぜえ、や、やっと治まった……まったく……」

キョン「ひょっとして……ハルヒなりに喝を入れてくれたのかね。って、考えすぎか」

キョン「ま、おかげで気合いが入った。絶対に仲間を取り戻すからな。待ってろよ」

キョン「さーってっと。これから何をするべきか」

キョン「…………」

キョン「不思議だな。俺って能力も何もない一般人のはずだろ?」

キョン「なのに……何となくだが分かる。感じることができる」

キョン「さっきのハルヒの能力の影響か? まぁそれはともかく」

キョン「…………いるんだろ、『そこ』に」

キョン「出てこいよ。面を見せてみろよ」

キョン「…………」

キョン「そうかよ。あくまでもダンマリを決め込むつもりか」

キョン「分かった。ならこっちから乗り込むまでだ」

ゴオオオオオオオオオオオオ・・・


キョン「乗り込むとは言ったものの、やはりこの燃え盛る炎を見ると躊躇してしまうな……」

キョン「さっき辛うじてここに飛び込むのを踏みとどまったばかりなのに……うーん……」

キョン「もしも俺の感じたことが外れだったら、俺は火達磨になって死ぬ……」

キョン「どうする……やっぱりやめとくべきか……?」

キョン「いや、ここでやめてもどのみち俺の人生は死んだも同然だ! ならば前に進むのみ!」

キョン「ハルヒの所に行こうにも、どうせここに強制的に連れ戻されるだろうからな」

キョン「よーし! 今からそっちに行くからな! 首を洗って待ってろよ!」


ゴオオオオオオオオオオオオ・・・


キョン「……」ゴクリ・・・

キョン「ええい、ままよ!」バッ!!


ゴオオオオオオオオオオオオオオ・・・

キョン「ぎゃあああああ!! あちゃちゃちゃちゃ! って、あれ? 熱くない?」

キョン「無駄に叫んでしまった……ああ恥ずかしい……」

キョン「とにかく……飛び込んでも無事だったってことは、読みは当たってたようだな」フワフワ

キョン「っと、わっ、わっ!? 何だここ! 無重力空間か?」

キョン「身体がフワフワと……動きにくいったらないな」

キョン「しかも暗くて周りがよく見えないし…………ん?」

キョン「何か……浮かんでるな。何だあれ?」

キョン「よっ! とりゃ! ほっ、よし! 届いた」パシッ

キョン「これは…………CD? 何でこんな所にCDが?」

キョン「んん? これよく見たら……あああ! 俺がなくしたCDじゃないか!」

キョン「確か……そうだ、ハルヒからドッキリを仕掛けられた日になくなったんだっけ」

キョン「どんなに探しても見つからないと思ったら……まさかこんな所にあるとは……」

キョン「……ひょっとして、これも俺が『捨てた』のか? 俺が捨てたのは人や記憶だけじゃなかったのか?」

キョン「よく見ると、他にもあちこちに何か浮かんでるな……」

キョン「暗くて何が浮かんでるのかはよく分からないが……えらい数が多いな」

キョン「まさか……俺が覚えていないだけで、他にもいろいろ捨てていたのか……?」


???「正解」


キョン「い、今、誰かの声が!? どこだ!」キョロキョロ


???「ここには、あなたが捨てたもの全てが浮かんでいる」


キョン「は、いよいよ黒幕のお出ましか。む、北高の制服……?」


???「家族、友達、仲間、記憶、所持品……あなたが覚えていないものも含めて……」


キョン「この、顔を見せ…………ろ…………!!」




長門「あなたがここに来るとは思っていなかった。計算外」

キョン「な……長門? 何でお前が……?」

長門「……」

キョン「おい、まさか…………お前が……お前が黒幕、なのか……?」

長門「……そう」

キョン「嘘だろ…………え? マジか?」

長門「そう」

キョン「……何でだ? 何でこんなことをしたんだよ長門!!」

長門「……」

キョン「答えろ!!」

長門「これは、必要なことだった。人間の……データを得るための……」

キョン「はぁ? 何だよそりゃ?」

長門「……」

キョン「そんなことのために、俺は全てを失う羽目になったってのか?」

長門「……」

キョン「嘘だと言ってくれよ……SOS団のみんなはお前にとっても仲間だったはずだろ!」

長門「嘘ではない。これが真実」

キョン「そうかよ。ふ、はは、ふふふふ……」

長門「……」

キョン「ははは、はははははははははははは……………………何ちゃってな」

長門「……?」

キョン「なぁ」

長門「何?」

キョン「お前、俺を舐めてるのか?」

長門「……質問の意味が分からない」

キョン「あのなぁ、俺がどれだけ長門と一緒にいたと思ってるんだ」

キョン「自慢じゃないが、長門の表情を読み取れるのは俺だけなんだぜ」

長門「……」


キョン「さっさと正体を現せよ。この偽者野郎」

キョン「……」

長門「ふふ……あはは、よく分かったわね」

キョン「ふん、無表情で棒読みな喋り方をすれば騙せるとでも思ったのか?」

長門「こんなにあっさりバレるなんて。あーあ、つまんないの」


グニャアアアアアアア・・・


朝倉「はぁい」

キョン「朝倉……お前だったのか……」

朝倉「あら、わたしが朝倉涼子とは限らないわよ」

キョン「は?」


グニャアアアアアアア・・・


喜緑「ほら」


キョン「え! き、喜緑さん!?」

喜緑「さぁ、どうでしょう?」


グニャアアアアアアアアア・・・


九曜「――――」


キョン「九曜……」



みくる「姿なんて」

キョン妹「いっくらでも」

谷口「変えられるんだぜ!」

国木田「ではキョン」

古泉「本物はいったい誰でしょう?」

ハルヒ「あっはっは、何ちゃって!」


キョン「……」

朝倉「ま、この姿があなたにとって1番恐怖を感じるみたいね。これでいっか」

キョン「……ということは、お前は朝倉じゃないんだな?」

朝倉「さぁ? 朝倉涼子じゃないかもしれないし、朝倉涼子かもしれない」

キョン「何だそりゃ……まぁお前の正体なんかどうでもいい」

キョン「本物の長門はどこだ? 俺が最後に部室で会った長門は、すでにお前にやられていたのか?」

朝倉「まぁね。長門さんが1番厄介だったし、真っ先に奇襲を仕掛けて機能を停止させたわ」

キョン「……どうりで。俺の呼びかけにまったく答えなかったわけだ」

キョン「くそ、焦ってパニックになってたとはいえ、何で長門の異常に気づかなかったんだ俺は……」

朝倉「ホントよね。さっきは偉そうに『俺がどれだけ長門と一緒に~』とか言ってたのにね」

キョン「うぐ……うるせえ! お前に言われたくねえよ!」

朝倉「はいはい。あ、長門さんね、そこら辺に浮かんでると思うわよ」

キョン「何?」キョロキョロ

朝倉「他のみんなもね。一応死んではいないわ」

キョン「くそ、暗いから全然分からん……」

キョン「それで……結局お前の目的は何だったんだ? 何のために俺をこんな目に遭わせた?」

キョン「さっきは人間のデータを得るためとか言ってたが、本当にそうなのか?」

朝倉「さぁ」

キョン「さぁって……何だよそれ」

朝倉「何か壮大な目的があったのかもしれない。でもひょっとしたら、ただの暇潰しかもしれない」

キョン「お前……ふざけてるのか?」

朝倉「ふざけてるのかもしれない。でも、こう見えて大真面目なのかもしれない」

キョン「…………もういい。どうやらまともな話はできそうにないな」

キョン「とにかく! みんなを元に戻せ! 死んでないのならできるはずだろ!」

朝倉「うーん、別にいいけど……あなたはそれでいいの?」

キョン「……どういうことだよ?」

朝倉「あなた、罪悪感は感じないの?」

キョン「はぁ?」

キョン「罪悪感も何も、今回のことは全てお前がやったんだろうが!」

キョン「俺はお前に無意識の状態にされて……言わば操られていただけで……」

朝倉「確かにそうね。でも…………あなたも気づいてるはずよ」

キョン「……何がだ?」

朝倉「あなたの頭の中に響いてきた声……あれは自分自身の声だということに」

キョン「……」

朝倉「あなたは家族や友達、仲間のことを大切だと思う一方で、心のどこかで疎ましくも感じていた」

朝倉「あくまでも心の奥、いわゆる深層意識でだけどね。わたしはその深層意識を利用した」

朝倉「自分自身の心の声が頭に響くたび、あなたは大切なものを『捨てて』いった」

朝倉「つまり…………あなたは自分の意志で捨てていたのよ。わたしはその手助けをしただけ」

朝倉「でも、ショックを受けることはないわよ。人間なら誰でもそういう面は持っているから」

キョン「朝倉……」




キョン「嘘つけ」

朝倉「……は?」

キョン「なーにが自分の意志で捨てていた、だ。あれは全部お前が仕組んだことだろうが」

朝倉「はぁ、認めたくない気持ちは分かるわ。でもね……」

キョン「うるさい。全部お前が悪い。俺は悪くない」

朝倉「あのね、あなたがどんなに拒んだって、わたしが言ってることが事実なことに変わりはないわよ」

キョン「事実だろうが何だろうが、ここでお前の言うことを認めてしまったら終わりだろが」

キョン「だから俺は認めん! 何が何でも絶対に認めん!」

キョン「それに……何よりお前の思い通りに事が運ぶのが気に食わん! だから俺は悪くない!」

朝倉「もう、強情ねぇ」

朝倉「でも、さすがと言ったところかしらね。他の人間はここまでもたなかったもの」

キョン「……何? それはどういうことだ?」

朝倉「実はね、あなたの前にも何人かで試したのよ。そこら辺の生徒を適当に捕まえてね」

キョン「てめぇ……」

朝倉「人によって多少違いはあったけど……みんなほぼ同じ結果になったわ」

朝倉「家族や友人を数人捨てさせただけで、みんなあっさり発狂しちゃったわ。人間って脆いわね」

キョン「……当たり前だろうが!」

朝倉「そうそう、1人傑作な人間がいたのよ。えーと、オタクっていう人種だったっけ?」

朝倉「そいつ、自分のパソコンを捨てさせただけであっさり発狂して、自分から焼却炉に飛び込んだのよ」

朝倉「あれは見ててなかなか面白かったわ。人間っていろんなのがいるのね」

朝倉「それらに比べれば、あなたは充分に凄いと言えるわ」

朝倉「周りの助けがあったとはいえ、正気を保って今ここにいるんだから。経験が生きたのかしら?」

キョン「……戻せよ」

朝倉「ん?」

キョン「みんな元に戻せよ! その人たちもここにいるんだろ!」

朝倉「ええ、いるわよ」

キョン「何もかも元に戻せ! どんな目的にせよ、もう充分だろう!」

朝倉「うーん、別に戻してもいいけど……このまま全部消し去るのもいいかもね」

キョン(くそ、気まぐれな奴め……やはり説得は難しいか……)

朝倉「いいわ」

キョン「……え? 今なんて……?」

朝倉「元に戻してあげる。それでいいでしょ?」

キョン「ほ、本当か!」

朝倉「ええ、もちろん」

キョン(何だ、やけにあっさりだな……)

朝倉「~~~~」ブツブツ


グニャアアアアアアアアアアア・・・


キョン「うわ! 何だ!? 目の前が……グニャグニャに……――――」



キョン「――――はっ! ここは!?」ゴンッ!!

キョン「いてっ! 何だ…………って、これは、焼却炉? ということは……」

キョン「外に……出てきたのか……」

朝倉「ええ。ちゃんとあなたのお望みどおりにしてあげたわよ」

みくる「う……ん……」

古泉「うう……」

キョン「朝比奈さん! 古泉! うわ、他にもいっぱい人が! こんなにいたのかよ!」

キョン「……おい、みんな倒れてるが、本当にちゃんと生きてるんだろうな?」

朝倉「大丈夫よ、気を失ってるだけ。しばらくすれば全員気がつくわ」

キョン「それならいいが……」

キョン(これで一応最悪の状態からは脱したのか……? 何か拍子抜けするくらいあっさりだな)

朝倉「さてと、わたしはそろそろ行くね」

キョン「え? あ、ああ……」

キョン(このまま……このままこいつを逃がしていいのか?)

キョン(今回はこいつの気まぐれで助かったが、またいつ同じ事をしてくるか……)

キョン(だからと言って、俺にこいつをどうこうすることなんて……)

朝倉「うーん、やっぱりこのまま終わるのももったいないわね」

キョン「……は?」

朝倉「決めた。わたし、あなたを『捨てる』ことにするわ」

キョン「待て! お前は何を言ってる! どうしてそうなるんだ!?」

朝倉「だって、そう決めたもの。ほら」


ファサッ


キョン「わぷ! 何だ!? って、げっ! 黒いゴミ袋!?」

朝倉「さ、その中に入って」

キョン「冗談じゃない! 何でだよ! もう誰かを捨てる必要なんてないだろう!!」

朝倉「うん、必要ないかもしれないし、必要かもしれない」

キョン(駄目だ、やっぱりまともな話ができない! どうする! どうする!?)

朝倉「もう、じれったいわね。~~~~」ブツブツ


ミチ ミチミチミチ! バキッ! メリメリ グチャグチャ!


キョン「な!! うわあああああ!! あ、足が! 足がぁ! お前、何してるんだ!?」

朝倉「何って、袋に入りやすいように『小さく』してるんじゃない」

メリメリメリ・・・ ミチャ! ブチブチブチッ! 


キョン(あ、足が! 足がミンチみたいになっていく! 何だよこれ! 何だよこれ!?)

朝倉「あ、痛覚はマヒさせてあるから痛みはないわよ。安心してね」

キョン「そういう問題じゃねえ! やめろ! やめろこの野郎!!」

朝倉「駄目よ。小さくしないと、袋に入らないじゃない」


ブジュ! ヌチャッ! ゴキン! ミチャミチャ・・・


キョン「この……あ、あれ? 俺の足……いや、俺の『下半身』はどこへいった……?」

朝倉「うん、ようやく半分終了ってところね。この調子で身体全部を……」

キョン「やめろおおおおおおお!! がああああああああああ!!」ズリ・・・ ズリ・・・

朝倉「あら、そんな状態で這ってくるなんて、大したものね」

キョン「諦めて……たまるか! やめろって言ってるだろうが!!」


ボキッ! グジュグジュグジュ・・・ ミチャァ


キョン「う、腕が……」

朝倉「もうだいぶ小さくなったわね。そろそろゴミ袋に入れようかしら」

キョン「この……近づくんじゃねえよ!」

朝倉「まだ抵抗する気力があるの? 普通ならとっくに発狂してるはずなんだけど」

キョン(くそ……このまま俺は……捨てられるのか……? こんなゴミ袋に詰め込まれて……)

朝倉「ま、無駄な抵抗だけどね。それじゃあ、バイバイ」

キョン「くそ! くそ!! よせええええ!!」


ピキンッ!!!!


朝倉「が!! な、何!? 急に……身体が……!?」


キョン(……何だ? 朝倉の様子が……?)




長門「……させない」


キョン「な、長門!?」

朝倉「な、長門さん……何であなたが……わたしの能力で、まだ動くことなんてできないはず……」

朝倉「そ、それに、動けたとしても、ここまで強い力は……」

長門「……許せない」

朝倉「え……?」

長門「彼は……わたしが守る……」

キョン「長門……」

朝倉「へえ、『それ』を守るために気力を振り絞ってるの? まるで人間みたいね」

朝倉「でも無駄。わたしが本気を出せば、今のあなたなんて……」


ビキビキビキビキビキビキビキビキ!!!!


朝倉「うぐ!? が……な、何で! 全然動けない……!!」

長門「許せない。そう言ったはず」

朝倉「どうなってるの……? 何でここまでの力が……絶対におかしい……がふっ!?」

キョン(いや、俺には分かる。今の長門は…………メッチャクチャ怒ってる……)

キョン(あんな長門見たことない……すげぇ……)

朝倉「こ……の……! あぐっ! ああもう!」

長門「~~~~」ブツブツ

朝倉「……」ギチギチギチ

朝倉「……はぁ。やっぱり無理。どうやらわたしの負けみたいね」

長門「情報連結の解除開始」


シュウウウウウウウウウ・・・


朝倉「まったく、怒りでパワーアップなんて。えっと、漫画だっけ? あれのキャラクターみたいね」

朝倉「ま、いいわ。よかったね、命拾いして」

キョン「うるさい。さっさと消えろ」

朝倉「あら厳しい。うふふ、じゃあね」


シュウウウウウウウウ・・・・・・ンン・・・・・・

キョン「消えた……まったく、最後までよく分からん奴だったな」

キョン「……ん? おお! 身体が元に戻ってる! 助かった!」

長門「……」フラッ・・・

キョン「長門!?」ダッ!


ガシッ


キョン「だ、大丈夫か!? 無茶して強力な能力を使うから……」

長門「わたしがついていながら……あなたを危険な目に遭わせた……」

キョン「何を言ってるんだ。お前のおかげで助かったんじゃないか。ありがとな」

キョン「やれやれ。結局最後はお前に頼っちまったな。俺、何にもいいところなかったな」

長門「……」

キョン「それで、身体は大丈夫なのか?」

長門「平気。すぐに治る」

キョン「そ、そうか」

古泉「う……ん…………はっ!」

キョン「お、古泉、気がついたのか」

古泉「ここは…………そうか。どうやら全て終わったようですね」

キョン「ああ。そうだ古泉、ありがとな」

キョン「お前があの時に励ましてくれなかったら、俺は間違いなく狂っていた」

古泉「いえ、実はよく覚えていないのですよ。ただ無我夢中で……」

みくる「いやああああああああああああああ!?」

キョン「え!? あ、朝比奈さん!?」

みくる「あ、足が!? 身体が!? いやっ! いやああああああああ!!」

キョン「まずい、これは相当なトラウマになってる……どうすれば……」

長門「任せて。~~~~」ブツブツ

みくる「あ……――――」



みくる「あれ? ここは…………何であたしはこんなところに……?」

キョン「長門、これは……?」

長門「今回の事件に関する記憶を消去した」

みくる「あれ? みなさん、どうしてここに? あたし、何してたんだっけ?」

キョン「そうか、それがいいだろうな。古泉、お前は?」

古泉「僕はこのままで結構です。今回何もできなかった自分への戒めとして」

キョン「そうか……」

古泉「あなたこそ忘れた方がいいのでは? かなり強烈な体験だったはずでしょう」

キョン「いや、俺もこのままでいい。俺こそ忘れちゃいけないだろう」

古泉「そうですか。あなたも随分とタフになりましたね」

キョン「……ん? あれ? 他の人たちは? さっきまでそこらにみんな倒れてたのに!?」

長門「わたしが自宅まで送った。みんな記憶は消してある」

キョン「そ、そうか。サンキュー。こんなところで目覚めたら、説明が面倒だもんな」

キョン「はぁ、これで全て終わった。今回はマジで大変だった……」

みくる「あのー、何かあったんですかぁ?」

ハルヒ「あー! みんなこんなところにいた!」

キョン「ん? ハルヒ?」

ハルヒ「みんないつまでたっても部室に来ないと思ったら! こんなとこで何してるのよ!」

キョン「あー、これはだな……」

古泉「すみません涼宮さん。たまたまここで鉢合わせして、つい話し込んでしまいまして」

ハルヒ「何よそれ、まったくもう……まぁいいわ。さっさと部室に行って団活始めるわよ!」

みくる「は、はい」

古泉「了解しました」


キョン(やれやれ、とんだホラー体験だった。本当にどうなることかと思ったが……)

キョン「あ、そうだ。ハルヒ、ありがとな」

ハルヒ「は? いきなり何よ?」

キョン「何となくだ」

キョン(お前があの時、SOS団のことを思い出すように願ってくれなければ、全てが終わっていたからな)

キョン(いつもは厄介ごとばかり起こしてるお前だが……今回ばかりは感謝だな)

鶴屋「私の出番はまだかい?」

~翌日 放課後 部室~


ハルヒ「キョン、アンタに雑用を言いつけるわ」

キョン「雑用? 何だよ?」

ハルヒ「ちょっとゴミを捨ててきなさい。ドアの外に置いてあるから」

キョン「うげ、ゴミ捨て……か?」

ハルヒ「何よ、何か文句でもあるわけ?」

キョン「……いや、何でもない。はいはい、行って焼却炉に放り込んでくればいいんだろ」

ハルヒ「は? 何言ってるのよアンタ」

キョン「え?」

ハルヒ「焼却炉は随分前から故障してて使用禁止になってるでしょうが」

キョン「……マジ?」

ハルヒ「さっさと直せばいいのに、モタモタしててずっとそのままみたいよ」

キョン「そういえば、ずっと前にHRでそんなことを言ってたような……今頃思い出した……」

ハルヒ「何アンタ。その年でもうボケたの?」

キョン「失礼な。ええと、焼却炉の横のゴミ捨て場に置いてくればいいんだよな?」

ハルヒ「分かってるんだったらさっさと行ってきなさい」

キョン「へいへい」ガチャ


キョン「えーと、これか。また黒いゴミ袋かと思ったが、普通に半透明だな」

キョン「よく考えたら、黒いゴミ袋なんてもう使ってるところほとんどないよな。まぁいい」


キョン「さて、ゴミを捨てにいくか」




~焼却炉前~


キョン「本当だ。火もついてないし、最近使われた形跡もないな……」

キョン「俺は、焼却炉にも黒いゴミ袋にもまったく違和感を感じなかった……」

キョン「つまり、その時点である程度操られていたか、記憶をいじられてたんだな」

キョン「ま、今となってはどうでもいいか。さて、ゴミも置いたし、部室に戻るか」

鶴屋「やあやあキョンくん」

キョン「鶴屋さん、どうもこんにちは。鶴屋さんもゴミ捨てですか?」

鶴屋「うん。焼却炉に放り込みに来たのさ!」

キョン「え? でも今は焼却炉は故障してて…………な!!」

鶴屋「ん? どうしたのキョンくん?」

キョン「つ、鶴屋さん、その手に持ってるのって…………黒いゴミ袋……」

鶴屋「そうだよ。それがどうかしたのかな?」

キョン(か、考えすぎか。そうだよな。やっぱりちょっとトラウマになってるのかな、俺)


ゴオオオオオオオオオオオオ・・・


キョン「……………………え?」

キョン(こ、この音…………忘れもしない……まさか……まさか……!!)

朝倉「私が死んでも代わりはいるもの」

的な展開か

ゴオオオオオオオオオオオオオオ・・・


キョン「焼却炉に……火が……そんな、さっき見た時は……」

鶴屋「キョンくん、顔色が悪いよ。どうかしたの?」

キョン「……鶴屋さん、その黒いゴミ袋、中に何が入っているんですか……?」

鶴屋「うふふ、ないしょだよ」

キョン「!!」ゾクッ


キョン(これは……何がどうなってる! まさか……)


鶴屋「ねえキョンくん。そこをどいてくれないかな? あたし、ゴミを捨てに行きたいんだけど」

キョン「鶴屋さん……」

鶴屋「どいてくれないと言うのなら……」




鶴屋「キョンくんも、捨てちゃうよ?」

キョン「は、はは……マジか……」

鶴屋「ふふふ……うふふふふ……」

キョン「もう終わったと思ったのに……まだ悪夢は続いてるってのかよ……」

鶴屋「あは、あはははははははははははははは!!」

キョン「何だよ……あのままハッピーエンドでよかったじゃないかよ……何でこんな……」

鶴屋「ほぉらキョンくん……」ユラリ・・・

キョン「…………」



キョン「上等だ……」

キョン「またあいつが復活してきたのか、それとも別な奴なのか、それは分からん」

キョン「だが……諦めてたまるか! 何度来ようが、何度でも乗り越えてやる!」

キョン「来いよ! 俺には仲間もいる! 絶対にお前の好きにはさせないからな!!」



~おしまい~

逆に考えるんだ

俺たちが捨てられたのだと

>>402
違いないな

無事に投下終了

支援してくれた人
最後まで読んでくれた人
どうもありがとう

では

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