まどか「これからも私達…」杏子「ずっと友達だ!」(642)

カツーン


杏子「グリーフシードいただきっ…と」

杏子「はぁ…」

杏子「だいたいこのあたりの魔女は狩りつくしてしまったな…」

杏子「ったく、見滝原にはあんなに魔女がいるのに、こっちの風見野にはさっぱりだな…」

QB「だったら、見滝原の方にも足を伸ばしてみたらどうだい?」

杏子「ばーか、他のやつの縄張りを荒らしに行くなんてご法度もんだろーが」

QB「そうは言っても、今現在この街から魔女の気配は感じられない」

QB「見滝原まではいかなくとも、ここにももう少し魔女がいたはずなんだけどね」

QB「ひょっとしたら、他の魔法少女が風見野の魔女を倒してしまっているのかもしれないよ」

杏子「まじかよ…」

杏子「そんな様子、ほとんど感じなかったぞ?」

QB「まぁ、とりあえずは使い魔が成長して魔女になるまで待つしかないね」

QB「ただ、こんな状態が続けば、君のソウルジェムを維持するためのグリーフシードが不足してくるだろう」

杏子「ちっ…、だけどな」

杏子「他のやつならまだしも、マミのテリトリーだからな…見滝原は」

QB「余計に都合が良いじゃないか」

QB「見つかったところで、彼女と戦闘になるとは思えないからね」

杏子「その方が余計にたちが悪いっつーの」

QB「やれやれ、君は強情だね」

杏子「ふん、言ってな」

QB「それじゃぁ、とりあえず様子見だけでもしておいたらどうだい?」

杏子「様子見?」

QB「見滝原には今どのくらいの数の魔女がいるのかとか、その範囲はとか」

QB「万が一、巴マミが何らかの理由で戦闘できなくなることも考えられるわけだしね」

杏子「あのマミが、ねぇ…」

QB「いくらマミでも、広範囲にわたる探索を毎日できるわけじゃない」

QB「ひょっとしたらマミが見滝原にいない時だってあるかもしれない」

QB「彼女がいない間にこっそり魔女を倒せば良いのさ」

杏子「このあたしにこそドロのようなことをしろって言うの?」

QB「いつもどおりのことじゃないか」

QB「そのりんごはどうやって手に入れたのかい?お風呂はいつもどうやって入ってるのかい?」

QB「それに、他の魔法少女も同じようなことをしているかもしれないんだ」

杏子「…チッ」

QB「まぁ、ためしに一度行ってみるといい。面白い発見があるかもしれないよ?」

杏子「…」

杏子「てめーの口車にのってやるよ」

杏子「見てまわるだけなら別に問題はねーからな」

杏子(見滝原か…、最近は全然行かなくなったな…)

杏子(こっちの使い魔共が魔女になるまでの間、下見でもしておくか…)

~見滝原市~

杏子「懐かしいな…」

QB「たしか杏子は、前にもここに来たことがあったようだね」

杏子「ああ、あの時は…、いや、もう昔の話はどうでもいい」

QB「そうかい…」

QB「で、どうするんだい?」

杏子「とりあえず市内をぐるっとまわっていくよ」

キィィィン

杏子「!?こいつは…」

QB「近くに魔女の結界があるね」

杏子「ちっ、早速かよ」

QB「どうする?杏子」

杏子「どうするって言っても、ね…」

杏子「マミがなんとかするだろう」

杏子「私の出る幕じゃねーよ」

QB「意外だね、昔の杏子ならいの一番に飛び込んでたのに」

QB「愛と勇気が勝つストーリー、だっけ?杏子の望んでいた世界は」

杏子「黙れ」

QB「やれやれ、取り付く島も無いか」

杏子「…待て」

杏子「ここ、病院じゃねーか…」

QB「そうだね、おそらくかなりの人数が、結界内に迷い込んでいる可能性が高い」

QB「おまけにここには、体や心が弱った人間がたくさんいる」

QB「魔女にとって格好の餌場というわけだ」

杏子「くっそ、よりにもよってこんなところに魔女がいんのかよ」

QB「こんな場所だからこそ、の間違いじゃないかい?」

杏子「…」

杏子「QB、ちょっと外見張ってろ」

QB「いいけど、どういう意味だい?」

杏子「マミのやつが来たら知らせろ。結界内で隠れて事が済むのを待つ」

杏子「来なければこの魔女はあたしがぶっ倒す」

QB「いいのかい?」

杏子「かまわないさ。いくらあたしでも、一度にこれだけの人数を見殺しにするのは、さすがに寝覚めが悪いからね…」

QB「わかった。健闘を祈るよ」

杏子「はぁっ」ヘンシン!

パァァァ

杏子「行くぞっ」

~魔女の結界内~

杏子「チッ、使い魔どもがうじゃうじゃいやがる」

杏子「ハッ」

ザシュッ

使い魔「ッ……」

杏子「ったく、きりがねーな」

杏子「とりあえず今のところ死人がいないだけましか。孵化したばっかの魔女みたいだし」

杏子「ここに迷い込んじまった患者達を移動させて…」

杏子「一塊にあつめて…」

杏子「よしっ、結界で囲んだし、使い魔共も手出しできないだろう」

杏子「…」

杏子(ここまでする必要はねーんだがな…)

杏子(他のやつの縄張りに入っている以上、最低限の礼儀ってもんがあるからな…)

杏子「あとは魔女をぶっ倒して終わりだな…ん?」

杏子「奥の方にまだ一人動いているやつがいるじゃねーか」

杏子「おいっ、そこの車椅子!危ねーからこっちに来い」

???「…」

杏子「おいこらっ、聞こえねーのか!?」

???「ほっといてくれよ…。僕はもう生きる意味を失ったんだ」

???「このまま死ねるのなら本望さ…」

杏子「チッ」

ガシッ

杏子「あんたが勝手に死ぬのは別にかまないけどさ」

杏子「せめてここから出てからにしてくれない?」

杏子「あたしの目の前で死ぬとかやめて欲しいんだけど。気持ち悪いから」

???「…」

杏子(何なんだ?こいつ…。調子狂うなぁ…)

杏子「…」ぺちぺち

上条「!」

杏子(正気に戻ったか?)ジーッ

杏子「ウエジョー、コースケ?」

上条「…上条恭介(かみじょうきょうすけ)、だよ」

杏子「んなことどうでもいいんだよ」

上条(間違った上にどうでも言いなんて、理不尽な人だな…)

杏子「さっきはああは言ったけどさ」

杏子「何があったかしらないけど、自殺なんてやめときな。ろくなもんじゃねーぞ」

杏子「さっさとあっちの患者達と一緒に結界内に入ってな!」

上条「君こそ、さっきから聞いていれば…」

上条「自分の意見ばかり押し付けるのは、やめておいた方が良いよ」

杏子「!」

上条「僕はね、昔からずっとバイオリンを弾いてきたんだ」

上条「コンクールに出て賞だっていくつももらってた」

上条「これから先も大好きなバイオリンと共に生きて行こうって思ってたんだよ」

杏子「…」

上条「でもね、ある時交通事故にあっちゃって、この様さ」

上条「足だけならまだ良かった。でもね、もうこの腕は動かないんだよ…」

バシッ

上条「ほら、痛みすら感じない。もう大好きなバイオリンを弾けないんだよっ!」

杏子「言いたいことは、それだけか?」

上条「こんな不条理なことが起きたんだ!もう何もかも投げ出したくなって当然だろ?」

杏子「甘ったれんじゃねーっ!」

上条「!?」ビクッ

杏子「てめーは好きなことができなくなっただけで、人生諦めんのか!?」

杏子「他の道を探そうともせず、ただの不条理って言葉に押し付けて逃げるんのか?」

上条「そんなことは…」

杏子「世の中ってのはなぁっ、不条理だらけなんだよ!」

杏子「それでも生きてかなきゃいけねーんだよ!たとえ一人になったとしてもな」

上条「…」

杏子「…(ハッ)」

杏子(チッ、ついイライラして反吐が出そうな台詞しゃべっちまったな…)

杏子「誰かのために何かしろ、なんてえらそーな事はことは、あたしは言わないよ」

杏子「むしろそんなこと言うやつはぶん殴ってやる」

杏子「だけど、それでも死にたいってんのなら、もう止めはしないよ」

上条「それは…」

ガコォォォン

上条「!?」

杏子「ようやく最深部か、さて、魔女はどんなやつだ…?」

シャルロッテ「(ちょこーん)」

杏子「!?」

杏子(想像してたのとだいぶ違うな、これは)

杏子(なんつーか、人形みたいなやつだな)

杏子(こんな外見のやつほど実はやばい魔女っていう可能性もあるしな)

杏子「はぁっ」

ザクザクッ

シャルロッテ「」

杏子「!?え?」

杏子「なんだよ、やけにあっさりしすぎてんじゃねーか」

杏子「ま、いっか。とどめさしとくか」

上条(あの子は一体何をしてるんだ?変な格好して槍を振り回しているようだけど…)

杏子「じゃあな、可愛い魔女さん」

シャルロッテ「」モゴモゴ

シャルロッテ(第2形態)「」にょろっ!

杏子「!?(な、何!?)」

ガキィィィン

杏子「っっっ!!?」

杏子(危ねえっ!食われるところだった!?)

杏子「くっ、このっ」

ザン!ザシュッ

シャルロッテ(第2形態)「」にょろにょろ

杏子「ちっ、きりがねえ!切ったそばから再生しやがる…」

杏子「…似たような性質の魔女、どこかで見たことがあるような…」

杏子「!あたしが初めて戦った幻術を使う魔女か!あの時はたしか武器と思っていた斧が本体だったな…」

杏子「ならっ」バッ

杏子(どこかこの空間に、魔女の本体と思わせない異物があるはず)

杏子(あの椅子の上のか!)

杏子「ハァァァァッ」

バシュッ

シャルロッテ(本体)「っっ……」

杏子「終わりだよ!」

シャルロッテ(第2形態)「…  … …」


~見滝原市病院外庭~

杏子「ふぅ、他のやつらが来る前に無事仕留められたな」

QB「お疲れ様、杏子」

上条「君は…一体…」

杏子「なんだ、あんたまだいたのか」

杏子「もうさっきの空間は無いよ。安心しな」

上条「どうやら僕は君に助けてもらったようだね」

杏子「おいおい、あの状況見てよくそんな当たり前の台詞がはけるな…」

上条「いや、ごめん。まずはありがとうと言っておくべきだったね」

杏子「…まぁ気にすんな。あたしはあたしで目的を果たしただけだし」

上条「…」

上条「あの…」

杏子「あぁ?」

上条「良かったら、少し話相手になってくれないか」

杏子「…はぁ?」

上条「ここ最近、ずっと荒れててね。自分で言うのもなんだけど、ほとんど誰ともまともに話してないんだ」


上条「少し気がおかしくなってきてね。気がついたらあの空間にいた」

杏子「まぁ、弱ってるやつらほど、あっちの世界に取り込まれやすくなるからね」

上条「さっき聞いた君の言葉、とても堪えたんだ。迷惑でなければでいいんだけど」

杏子「お断りだね」

杏子「生憎あんたみたいな坊やと話してる暇なんて無いんだよ」

上条「…」

杏子「悪いけど…」

ぐぅぅぅぅ

杏子「」

上条「…お腹がすいているようだね。お見舞いの果物とかなら食べてもらっても良いけど」

杏子「くどい。あたしはいかないよ」

上条「メロンとかケーキとか、食べ切れなかったんだ」

杏子「…」(ゴクリ)

上条「このままだと捨てなくちゃいけなくなる」

杏子「おいコラ!食い物を粗末にするんじゃねえ!」

上条「でも、他に食べてくれる人はほとんどいないんだ」

杏子「…わかったよ」

杏子「しょうがねぇ、ちょっとだけ付き合ってやるよ」

QB「…(本当に食べ物に弱いな、杏子は)」

杏子(あくまで食い物を貰いに行くだけだからな…)

杏子(捨てるだなんてふざけたこと、絶対にさせないよ)

~上条の病室~

杏子(シャクシャク)

杏子「やっぱうまいな、贈答品は」

上条「いろいろな人が持ってくるけど、なかなか食べ切れなくてね」

上条「君みたいな子が食べてくれると助かるよ」

杏子「ふん!こういうのなら、いつでも食べに来てやるよ」もぐもぐ

上条「…君は一体、何者なんだい?」

杏子「ん?ああ、あたしは魔法少女だ」しゃくしゃく

上条「あまりふざけないで欲しいんだけどな」

杏子「ふざけてなんかいないよ。正真正銘、事実だ」

杏子「さっきの空間でのあたし、あんたも見てただろーが」

上条「そうなんだけどね。いまいち現実味に欠けるというか」

杏子「まー、普通の人間にとっちゃそうなんだろうけどね」

QB「普通の人間には僕や魔女の姿はほとんど見ることができないからね」

杏子「たしかにな…」

上条「?(さっきからたまに独り言をしゃべってるけど、何だろう?)」

杏子「ま、あんたは気にする必要はないさ」

杏子「今までどおりに暮らせばいい」

上条「…」

杏子「っと、悪い」

上条「いや、いいんだ。君に言われて今までのモヤモヤが少し晴れた気がする」

杏子「?」

上条「バイオリンが駄目なら…、他にも道はあるのかな…」

杏子「あるさ。あると信じるんだよ。信じることで夢が現実になることだってある」

上条「何か宗教みたいだね」

杏子「まぁ、うちはもともと教会だったからね」

上条「もしかして、隣街のかい?」

杏子「!あんた知ってるのか!?」

上条「小さい頃に何度か行ったことがあるよ」

上条「たくさんの信者の方で賑わってた。神父さんも優しそうな方だった」

上条「とても人当たりの良い人だったような気がするけど、さすがにそれ以上のことは覚えてないよ」

杏子「…」

杏子「そっか、そうなんだ ///」

杏子(親父のこと褒めてくれる人間がいたとはね //// )

QB((何を照れてるんだい?杏子))テレパシー

杏子((うっさい、だまれQB))

上条「今はどうなってるのか、良ければ教えて欲しいんだけど」

杏子「…」

杏子「親父や家族の皆はもう死んだよ。教会ももう潰れた」

上条「!」

上条「ごめん、悪いことを聞いてしまって」

杏子「いいって、ことさ。さっきのとおあいこだ」

上条「…」

杏子「あたしはさ、もともとは親父のために頑張ろうって気持ちで戦ってたんだ」

杏子「だけどいろいろあってさ、今はもう、自分のためだけにこの力を使おうと決めてる」

杏子「本当はここの魔女も倒すつもりは無かったんだけどね」

上条「…それでも君は患者達を助けたじゃないか」

杏子「ついでだよ!ついで」

上条「君の言動からは、とてもいい加減な気持ちで助けていた様には見えない」

上条「皆を助けたいという思いが強くにじみ出てたよ」

杏子「…」

杏子(そんな風に見てくれるやつもいるのか…)

杏子「そう言われると、少し胸のつかえが取れた気がする」

上条「それは良かった」

杏子「ふふ、それにしてもあんたって、変なやつだな」

上条「それはお互い様じゃないか」

杏子「違いないね」

コンコン

看護師「上条さん、リハビリのお時間ですよ」

上条「あ、はい」

杏子「おっと、長居しちまったな」

杏子「…また来てもいいかい?」

上条「歓迎するよ。今度は別の果物でも用意しておくよ」

杏子「そいつは楽しみだな、じゃーなっ」

ガラッ

上条「窓から!?ここは…」

上条「?あれ?もういない…」

上条「不思議な子だったな。でも、何だかさやかに似てる気がする」

上条「さやか、どうしてるだろうな…」

上条「だいぶ酷くあたってしまってたからな…」

上条「…」

~風見野 杏子拠点:テント内~

杏子「あー、疲れた」

杏子「さっさと飯…もいらないか。たらふく食わせてもらったしな」

杏子「…」

杏子(上条って言ってたか)

杏子(なかなか面白そうなやつじゃないか)

杏子(食い物もただでくれるし)

杏子(親父のことも良く言ってたしな)

QB「…子」

杏子「…」

杏子(明日も、行ってみるか)

QB「杏子!」

杏子「っ!な、なんだよQB!?」

QB「どうやらこの街から魔女の気配を感じる様になった。早くも使い魔から成長したようだね」

QB「どうする?明日はこの魔女を倒しに行くかい?」

杏子「…」

杏子「考えておくよ」

QB「わかった。それにしても杏子、そんなに今日の出来事が面白かったのかい?」

杏子「はぁ?」

QB「珍しくずっと笑ってるみたいだからさ」

杏子「!」

杏子「そんなことねーよ!」

QB「…まぁ、別に僕にとってはどうでもいいことなんだけどね」

杏子「ふん」

杏子「疲れた、もう寝るぞ」

QB「おやすみ、杏子」

杏子「…」

=====
==
杏子父「杏子は将来、どんな人になりたいんだい?」

杏子「父さんみたいに皆を助ける人になりたい!」

杏子父「はっはっはっ、それは簡単なことじゃないぞ?」

杏子「大丈夫だよ、だってあたし父さんの子なんだから…」
==
=====

~翌朝~

杏子「むにゃ…」

杏子「…朝、か…」

杏子(懐かしい夢を見てたよーな、見なかったよーな)

杏子(…)

杏子「ご飯食べよ…」ゴソゴソ

杏子「あった。うんまいぼう…」モグモグ

QB「やぁ杏子、おはよう…って、またそんなもの食べてるのかい?」

杏子「ほっとけ」

QB「まぁ、君達魔法少女にとって栄養バランスが魔力に影響を及ぼすことは無いけど」

QB「もうちょっと他のものも食べた方が良いんじゃないかい?」

杏子「他のものか…」

杏子「…」

スッ

QB「おや?どこかでかけるのかい?」

杏子「昨日の坊やの所さ。まだまだ見舞いの果物がいっぱいあったからね」

QB「そうかい。それじゃ、僕はマミが近くにいないか見張っておくとするよ」

杏子「好きにしな」

QB「ちなみに面会時間というものがあるから気をつけたほうがいい」

QB「行ったところで門前払いなんてことになっては困るよね?」

杏子「…時間まで見滝原市内を散策してるから良いよ」

杏子(…)

~お昼過ぎ:見滝原市病院 上条の病室~

ガラガラ

杏子「邪魔するよ」

上条「やぁ、君か」

杏子「今日もそこの果物、もらえると嬉しいんだけど」

上条「どうぞ、好きなだけ食べていいよ」

杏子「ありがとっ」

杏子「♪」

しゃくしゃく

上条「…」ジーッ

杏子「?」

上条「君の表情は面白いね。見ていて飽きないよ」

杏子「そうかい?あたし自身はそんな風には思わないんだけどね」

上条「鏡でもない限り、自分で自分の表情を見て取るなんてできないからね」

杏子「ふーん…」

上条「…」

杏子「んまんま」もぐもぐ

上条「よかったら、君の事を話してくれないかな?」

杏子「あたしのこと?」

上条「ああ、まだ名前も聞いてなかった気がするから」

杏子「っと、悪い」

杏子「杏子だ、佐倉杏子。宜しくな」スッ

上条「上条恭介。あらためて宜しく」スッ

ガシッ

上条「女の子なのにしっかりとした手だね」

杏子「…デリカシーの無いやつだな、女に向かってその台詞は無いと思うけど」

上条「ごめんごめん、知り合いに似たような子がいてね」

杏子「ふーん、まぁ、いいや」

上条「君はどこの学校に通ってるんだい?」

杏子「学校?あたしは通ってないよ」

上条「?それはどういう…」

杏子「ギムキョーイクは小学校までしか受けてないってことだよ」

上条「中学も義務教育のはずだけど?」

杏子「言っただろ?家族皆死んでしまったって」

上条「でも、どこか親戚の家にいるんじゃないのかい?」

杏子「…」

上条「…ごめん、施設、だったりする?」

杏子「…そこでもないよ」

上条「?」

杏子「そんなこと、どうだっていいだろ?」

上条「変なこと聞いちゃったね、ごめん」

杏子「あんたも謝ってばかりだな、もっとシャキッとしろよな、男なんだし」

上条「ははは、たまに言われるよ」

杏子(本当、変なやつだな…)

上条「ところで、佐倉さんのお父さんの話を少し聞きたいんだけど」

杏子「!(え?)」

杏子「親父…の?」

上条「昨日話したと思うけど、小さい頃数回あっただけだけど、とても優しそうな人だったからね」

上条「実のところ、あの人がどんな信仰をしていたのか知らなかったんだ」

上条「だからそのあたりの話を、一度佐倉さんにして欲しいと思ってね」

杏子「親父の…教えか…」

上条「変な質問でごめん。思い出したくないなら別に…」

杏子「いいよ。『一人でも多くの人に親父の話を聞いて欲しい』」

杏子「それがあたしの願いだったからさ…」

上条「…」

杏子「親父はね、正直過ぎて、優し過ぎる人だった。」

杏子「毎朝新聞を読む度に涙を浮かべて、真剣に悩んでるような人でさ…」



杏子「…というのが事の顛末だ」

杏子「親父の新しい信仰はようやく受け入れられたけど、説教にのめりこみすぎた親父は気がおかしくなってしまった」

杏子「最後は一家揃って無理心中さ。あたしをひとり残してね」

杏子(一部、嘘なんだけどね)

杏子(魔法の力、願い事の事は伏せさせてもらうよ…)

杏子(正直、余計な詮索はされたくない)

上条「…」

上条「とても残念な結末になってしまったんだね」

杏子「…」

上条「音楽の世界でもそうさ」

上条「いつの時代も新しいものが受け入れられるには時間がかかる」

上条「死後何十年とたって、ようやく評価されることだってある」

杏子「…」

上条「君のお父さんの教えは、存命のうちに受け入れられたんだよね。それはとても幸せなことじゃないかな」

杏子「…ああ」

杏子(結局は奇跡の力によるものなんだけどな)

上条「それにしても、君は本当にお父さんのことが大好きなんだね」

杏子「!な、な、何でだよ!?」

上条「とても嬉しそうに話してるよ。他の話をしている時よりも」

杏子「… /// 」

上条「君のお父さんはうらやましいよ」

杏子「?死んじまったのにか?」

上条「いや、自分の信念を成し遂げたからさ」

上条「僕だって、この腕さえ動けば…」

グググッ

杏子「…」

杏子「あんたはさ、少し違う方向に目を向けてみたらどうだい?」

上条「?違う方向?」

杏子「たとえば歌、とかさ」

上条「歌?」

杏子「そうさ。あんたの声、悪くないと思う」

杏子「だから、音楽の道を諦められないなら、そういった選択肢もあるってことさ」

上条「歌…か」

杏子「作曲家でも他の楽器でもいい」

杏子「音楽の世界で挑戦することで、今までの夢を受け継げば良いじゃないか」

上条「でも、僕にはバイオリンしかなかった」

上条「他の道なんて考えられない」

上条「まして、今更遅すぎるよ…」

杏子「…まーたすぐにあきらめんのか?」

上条「…」

杏子「…はぁ」

杏子「賛美歌とか」

上条「え?」

杏子「教会関係の歌なら、ちょっとくらい教えられるぞ」

杏子「小さい頃はよく聞いてたし、歌ったこともあったしな…」

上条「ふふっ」

杏子「な、何がおかしいんだよっ」

上条「君が賛美歌を歌ってるところを想像するとね」

杏子「むかつく反応だな~」

上条「でも、そうだね。歌も良いかもしれない」

ガタッ

杏子「!」

上条「昨日君に助けられて思ったんだ」

上条「僕は本当にこのままでいいのか、ってね」

上条「バイオリンに固執しすぎて周りが見えてなかったから、あんな所に迷い込んだのかもしれない」

杏子「…」

上条「君のお父さんみたいに、とは違うかもしれないけど、新しい何かに取り組んでみるのも悪くは無いかな」

杏子「…そ、そっか。うん、その方がいいと思うぞ」

杏子「んじゃ、早速明日にでも教えてやるよ!」

上条「!い、いきなりかい?」

杏子「テツハアツイウチニ何とかっていうじゃねーか!」

上条「鉄は熱いうちに打て、だね」

杏子「そうそう、それそれ!」

杏子「それじゃ、明日は覚悟しとくんだね!」

上条「ああ」

???「!」

ダダダダッ

杏子「?」

上条「どうかしたのかい?」

杏子「いや、今…」

杏子「…なんでもない」

杏子「それじゃーな、キョースケ」

上条「うん、さようなら、佐倉さん」

ガラガラ ピシャッ

杏子「…」

杏子「…」ドキドキ

杏子(何だよ?この高まりは)

杏子(笑ってるのか?あたし)

杏子(…)

杏子(っと、こうしている場合じゃないな)

杏子(さっさと準備しないとな!)

ダダダッ

~病院外庭~

???「ハァッ、ハァッ」

???「何?何なのよ、あの子」

???「恭介に変なこと吹き込んで…」

???「恭介の腕がもう動かないからって、バイオリンを諦めさせる気!?」

???「ううん、そんなの、あたしが許さない」

???「私は、もう一度恭介のバイオリンが聞きたい」

???「それに私は…」

???「…」

???「QB!」

QB「呼んだかい?美樹さやか」

さやか「願い事、決まったよ」

さやか「だから私と契約して!」

QB「わかったよ、さやか」

QB「言ってごらん?君はどんな願いでソウルジェムを輝かせるのかい?」

さやか「私はっ…」

~風見野~

杏子「おい、QB!QB?」

QB「なんだい杏子。魔女退治かい?」

杏子「金が必要なんだ。例のアレ、やるぞ」

QB「…気が進まないんだけどなぁ」

杏子「つべこべ言わずに準備しろ!」

QB「…君のことだから、別にお金を稼ぐ必要は無いと思うんだけどなぁ」

ゴスッ

QB「きゅっぷい!」



杏子「さぁ皆、注目しな」

ざわざわ

一般人A「何だ?」

一般人B「何か今から芸でもするのか?」

杏子「今からこのボールをハンドパワーで宙に浮かしてやるよ!」

一般人A「どうせ紐かワイヤーでもついてんじゃねーか?」

杏子「おっと、そこのあんた。疑うんならまずこいつを見てくれねーか」ポン

一般人A「…たしかに何もついてないな…」

フワッ

一般人達「!?」

一般人A「ボ、ボールが勝手に!?」

一般人B「浮いた?というか飛んだ!?」

杏子「ま、ざっとこんなもんだよ」

一般人C「すげー、ねーちゃんやるじゃねーかよ」

ざわざわ

杏子(まぁ、普通の人間には見えなくて当然だよな)

杏子(何せそのボールを動かしてるのはQBだからな…)

QB(何で僕がこんなことをさせられるのかって思ったけど)

QB(素質のある子がカラクリを見破ってくれたら、僕はその子に契約を迫ることができる)

QB(わざわざ広い街中を探し回る必要がないってことだね)

杏子「続いては何も無いところから水がでるぞ!」

一般人達「おおーっ」

杏子((ほら、QB!さっさと水を口にふくみな))
QB((…))

~夜~

『アリガトウゴザイマシター』

杏子「ま、こんなところかな」

QB「古本屋になんか寄って何の本を買ったんだい?」

杏子「てめーに教える筋合いはねーよ」

QB「でも、さっきのおひねりは僕の働きがあってのものだからそれくらいは…」

杏子「QB、あんたのものはあたしのもの、あたしのものも、あたしのもの。わかったかい?」

QB「わけがわからないよ!」

杏子「さて、飯…はさっき貰ったお菓子とかですませたからいっか」

杏子「…」

くんくん

杏子(もう4日も風呂入って無かったっけ…)

杏子「…」

杏子「風呂、入りに行くか…」

杏子「ちょっくら銭湯行ってくるよ」

QB「いつもは民家に侵入して風呂に入ったりする杏子が銭湯だなんて、珍しいね」

杏子「ばーか、たまにはちゃんと金払って入るんだよ」

QB「でもそれ、僕も一緒に稼いだお金だよね」

杏子「QB、もう一回忠告しておこうか?」

QB「…それじゃあ僕は先に寝るからね…」

~銭湯~

かぽーん

杏子「ふぅ…」

杏子「広い風呂はいいなぁ…ゆったりと足を伸ばせる」

杏子「…」

杏子(カミジョーキョースケ、か)

杏子(親父の話、まともに聞いてくれた人なんてほとんどいなかったのに)

杏子(あんなに真剣に聞いてくれて)

杏子(いいやつだな…)

杏子「…」

杏子(明日も行こう。本も買ったことだし)

杏子(そういや、服も5日ほど洗ってなかったな…)

杏子(金もまだ残ってるし、コインランドリーにでも行くか…)

杏子(におったりすると、変だしな…)

杏子「…」

杏子「っはっ!な、何考えてんだ、あたしは… /// 」

杏子「…」

杏子「…で、出るか」

杏子「お、コーヒー牛乳なんてあるのか」

杏子「1本150円か…」

ジャラッ

杏子(コインランドリーで洗濯乾燥すること考えたら80円足りないな…)

杏子(我慢しなきゃ駄目か…)

杏子(…)

少女「ママー、これ飲んでいいー?」

少女の母「いいわよ」

少女「わーい。おばちゃんこれ1本―」

番台「あいよ」

少女「ごくごくごく、おいしーっ!」

杏子(ごくり)

???「ちょっとそこの人、買わないのならどい…」

杏子「あ、ああ、悪い」

???「…っ、あなた…」

杏子「?」

杏子(誰だ?こいつ。えらく長い黒髪。目つき悪いし。どこかの学校の制服か?ありゃ)

???「…まぁ、いいわ。それよりあなた、何をじっと見てたの?」

杏子「コーヒー牛乳買うのに80円足りないなーって思ってたら…って、何を言わせるんだよ!」

???「80円ね…。まぁ、あなたならありえなくも無いわね」

杏子(ぴきっ)

杏子「おい、あんた。その言い方はなんだよ?」

スッ

???「…これでいいのかしら?」

杏子「!?これ…」

???「2人分お願いするわ」

番台「あいよ、ありがとね」

杏子「な、なんのつもりだよ」

???「お近づきの印」

杏子「そ、そっか。ありがとう…」

杏子(変なやつだな…)

ごくごくごく

杏子「う、うまい…」

???「そうね。でも、こうして毎日乳製品を飲んでるのに、なかなか胸が大きくならないのはどうしてかしら」

杏子「?胸?」

杏子「…」

杏子(あたしより、無いな)

???「今、『私より、無いな』って、思ったでしょう」

杏子「そそそそんなことないぞ!」ぶんぶん

杏子(エスパーかよ!)

???「まぁいいわ」ファサッ

???「またいずれどこかで会うでしょうから、その時にでも150円は返してもらえばいいわ」

杏子「おごりじゃねーのかよ!」

???「冗談よ」

杏子「…(調子狂うな、こいつ…)」

杏子「それじゃ、ありがとな」

ほむら「さよなら、杏子」

ガラガラッ

杏子「ああ…って、今何て!?」

杏子「…」

杏子「…あれ?もういない…」

杏子「何だったんだ、あいつは…」

杏子「まぁ、いっか。コインランドリー行って帰ろう」

杏子(明日が楽しみだな…)

杏子(もう何年も歌ってないけど、うまく教えられるもんなのかな…)

杏子(…)

=====
==
杏子「きゃっ」

杏子父「…っ、よくもこんな事をしてくれたなっ!」

杏子父「お前は父さんを侮辱する気か!」

杏子「そ、そんなんじゃないよ、父さん」

杏子「私はただ、父さんの話を皆に聞いて欲しくて…」

杏子父「黙れ!この魔女が!」

杏子「っ…」
==
=====

~翌朝~

杏子「…」

杏子(何か最悪の夢を見た気がする…)

QB「やぁ、おはよう杏子」

杏子「…飯」

QB「とりあえずその頭を何とかした方がいい」

QB「とても見ていられないよ」

杏子「!?」わしゃわしゃ

杏子(寝る前に頭乾かすの忘れてた…)

杏子(こんな爆発状態じゃあいつのところになんて行けないぞ…)

QB「やれやれ、君がそんな失敗をするなんて珍しい」

QB「昨日何か考え事をしていたのかい?」

杏子「…んなことはねーよ」

QB「そうかい。それじゃぁ早く支度して」

杏子「?」

QB「この地区の魔女の数が順調に増えてきた」

QB「2、3体なら倒しても差し支えは無いだろう」

杏子「…今晩な」

QB(ここ2,3日、杏子の行動原理が読めないね)

QB(どうしたっていうんだろう?)

QB(実に興味深い状態だね)

~昼:見滝原市病院 上条の病室~

ダッダッダッ

杏子「はぁっ、はぁっ」

杏子(例の本は持ったし、髪も着替えも問題ない)

杏子(…こほん)

杏子「よし…、ん?」

???「~~~」

上条「~~~~」

杏子(誰か先客?何話してるんだ…?)

さやか「そっか、それじゃぁその腕、治ったんだね」

上条「うん、先生も言ってたけど、何で治ったのかまったく理由がわからないんだってさ」

杏子(!?たしか医者からも、絶対に治らないって言われてたんじゃないのか?)

さやか「ふふ」

上条「さやかの言ったとおり、奇跡だよね」

さやか「そうそう、この世には奇跡も、魔法もあるんだよ!」

杏子「!?(まさかっ)」

ガラガラッ

さやか「!」

上条「やぁ、佐倉さん」

杏子「…」

杏子「そこの青いの、ちょっと面かしてくれる?」

さやか「…私のことかな」

上条「佐倉さん、一体どうして…」

杏子「変な事はしないよ。ちょっとだけ、聞きたいことがあるだけさ」

さやか「それなら別にここでも…!?」

さやか(あれ…ソウルジェム!?)

さやか「…わかった。恭介、ちょっと待ってて」

上条「うん、わかったよ、さやか」

杏子(…名前呼びかよ…)

~廊下~

さやか「で、あんたは一体何の用なの?」

杏子「単刀直入に言うよ。あんた、魔法少女になったのかい?」

さやか「…やっぱり、さっきのソウルジェム、本物だったんだね」

杏子「こいつが何かわかってるって言うことは、魔法少女になってるんだな」

さやか「それで、その魔法少女が何か用なの?」

杏子「…」

杏子「あんた、他人のために願い事を使っただろ」

さやか「…それが何か?」

杏子「あのなぁ、魔法少女になるときに叶えられる願い事はたった一つなんだぞ?」

杏子「なのにあんたは何で自分のためでなく、他人のために願い事を使ったんだよ!?」

さやか「まるで自分のため以外に使っちゃ悪い、みたいな言い方してるみたいだけど」

さやか「私はそうは思わない」

さやか「恭介の腕が治って、またバイオリンを聴けるなら後悔することなんて何もない!」

杏子「ちっ…、あんた何もわかってない。魔法少女になるって言うことがどんなに…」

さやか「さっきから聞いてれば、あんたひょっとして恭介の腕が治ったことが不服なの?」

杏子「はぁ?何でそうなるんだよ!」

さやか「昨日聞いちゃったんだよ、あんたと恭介の会話」

杏子「!(あの駆け足の音はこいつのだったのか)」

さやか「はっきり言って、迷惑だよ」

杏子「…何、だと?」

さやか「恭介はバイオリン一筋でここまで頑張ってきたの」

さやか「それなのにあんな事故に遭って、ひどく気がめいってた」

さやか「そんな心の隙間につけこんで、あんたが恭介にわけのわからない宗教の話だの他の道があるだの言うから…」

ガシッ

さやか「!??うっ…」

ギリギリギリ

杏子「親父の話を馬鹿にするんじゃねえ。殺すぞ?」

さやか「ぅ…かはっ」

上条「佐倉さん!」

杏子「っ!」パッ

さやか「う…げほげほっ… はぁっ」

杏子「…悪い」

上条「何があったのか知らないけど、暴力はやめて欲しい」

杏子「…」

上条「大丈夫かい?さやか」

さやか「…うん」

杏子「…ごめん」

さやか「いいよ、私も言いすぎた」

上条「仲直りしてくれたかな」

杏子(…どういうことだよ、おい)

上条「そういえば、今日も果物食べに来たのかい?」

杏子「!あ、そうだ、昨日言ってた歌の話だけどさっ!」

上条「ああ、ごめん、その話はもういいんだ」

杏子「…え?」

上条「こうして腕が治った以上、やっぱり僕はバイオリンを弾いていきたい」

杏子「…」

さやか「そうだよね、私恭介の弾くバイオリン、今すぐにでも聞きたいな」

上条「さやかはせっかちだな。でもあれはもう捨てて欲しいって父さんに…」

さやか「へへー、実はねー…」

杏子(何だよ、これ…)

上条「え?今から屋上に?」

さやか「そう!ちょっと外の空気を吸いに行こう?」

杏子(昨日までのは何だったんだよ…)

さやか「うん。そのままでいいから」

上条「ああ。ごめん、佐倉さん、僕はちょっとさやかと屋上の方に行くから…」

杏子「…」

上条「佐倉さん?」

杏子「そ、そーか!悪かったな、邪魔して」

上条「果物だったらまだそこにたくさんあるから、良かったら持って帰って…」

杏子「じゃーな!」

ダダッ

上条「?どうしたんだろう」

さやか「…」

杏子(はぁっはぁっ)

杏子(何だよ!何やってんだよ、あたしは!)

杏子(一人でうかれて、一人で突っ走って…)

杏子(これじゃぁまるで、ただの馬鹿じゃねーかよ! …っく)

杏子(一体何を期待してたんだよっ)

杏子(あたしに友達なんか、好きなやつなんかできるわけないじゃないか!)

ガッ

杏子「ハァッ、ハァッ」

杏子「…くそっ …っく」

ガコン!

QB「君としたことが物を捨てるだなんて、もったいないじゃないか!」

杏子「いいんだよ、あれは食いもんじゃない」

杏子「もう用のない物だ」

QB「『ゴスペル入門』『発声練習の仕方』か。あの少年にあげるんじゃなかったのかい?」

杏子「黙れ」

QB「…まぁ、君自信が買った物だし、僕がどうこう言う筋合いはないけどね」

杏子「行くぞ」

QB「?どこにだい?」

杏子「風見野の魔女、全部狩りつくす」

QB「やっとやる気になったようだね。でも全部というのは…」

QB「…行っちゃったか」

QB「穢れが溜まってきているようだ」

QB「どうやら次に魔女になるのは彼女かもしれないね」

~2日後:見滝原市~

まどか「さやかちゃんおはよー」

さやか「おはよう、まどか!」

まどか「さやかちゃんご機嫌だねー」

さやか「おっ、わかるー?」

まどか「勿論だよ♪」

さやか「さすがは私の嫁ー」

グリグリ

まどか「きゃー」

仁美「もう、お二人とも、学校に遅れますわよ」

まどか・さやか「「はーい」」

まどか「あれ?あそこにいるの上条君じゃない?」

仁美「本当ですわね」

さやか「ほんとだ、おーい」

まどか「上条君、退院できたんだ。よかったー」

仁美「…」

~風見野~

杏子「これで、ラストー!」

ドガッ

魔女「…   …」

杏子「くっ…  ハァッハァッ」

QB「無茶しすぎじゃないかい?もう丸2日近く戦い続けているじゃないか」

QB「おかげでまたこの街の魔女を倒しきってしまったじゃないか」

杏子「そんなら… ハァッハァッ 見滝原に、行けばいーんだろ?」

QB「おや?君は別の魔法少女の子の担当地区で魔女と戦うのはご法度だと…」

杏子「うるさい」

QB「…」

~見滝原~

さやか「それじゃ、今日も一日張り切って行こう!」

まどか「うん」

まどか「今日は見つかると良いね、魔女」

さやか「おいおい、簡単に言ってくださんな、まどかさん」

まどか「ご、ごめん、さやかちゃん」

さやか「一応、命がけなんだからね!」

まどか「うん…」

まどか「あのね、さやかちゃん」

さやか「何?まどか」

まどか「やっぱり私も…」

さやか「本当に叶えたい願い事、決まったの?」

まどか「それはまだ…なんだけど」

さやか「じゃぁ駄目。まどかはまだ魔法少女になっちゃ駄目だよ」

まどか「でも…」

さやか「私もなってみて初めてわかったんだけど、魔女と戦うって、すっごく怖いんだよ」

まどか「うん…」

さやか「そんな命がけの戦いに身を投じても叶えたい願いがあったから、私はこうして魔法少女になってるんだ」

さやか「まどかもさ、いつかそんな願い事がみつかるからさ」

さやか「それまではこの魔法少女さやかちゃんに、まどかのことガンガン守らせてちょうだいよ!」

まどか「うん、ありがとう、さやかちゃん」

まどか「ところでさ、学校から帰る前に仁美ちゃん何か言ってたの?」

さやか「うん、何か今晩相談したいことがあるんだって…」

キィィィン

まどか「!これって…魔女の…」

さやか「いや、これは使い魔の結界みたい」

さやか「でも、放ってはおけないよね!」ヘンシンッ

さやか「よっしゃ、それじゃあいっちょ行きますか!」

まどか「うん!」

さやか「このっこのっ」

使い魔「」スカッ スカッ

さやか「くっそー、すばしっこいやつだなぁ」

使い魔「!?」

さやか「止まった!?今だ!」

ギィィィンッ

杏子「ちょっとちょっと、何やってんのさ、あんた達」

さやか「!?お、お前はこの前の!?」

杏子「…なんだ、あんただったのか」

さやか「今日は何の用だよ!?」

杏子「あんた達が今狩ろうとしてたのは使い魔だよ?」

さやか「…それが何か?」

杏子「何かって…わからないのか?あいつはグリーフシード落とさないんだよ?」

杏子「何人か人間食わせて魔女になったところを倒しちまえばいいじゃないか」

杏子「そうすりゃグリーフシードだって落とす。ちゃんとメリットが生まれるわけだ」

さやか「なっ」

さやか「あんた、なんてことを…」

杏子「まさか、やれ人助けだの正義だの、その手のおチャラケた冗談かますために戦ってるんじゃねーだろうな?」

さやか「…あんたとは話が合わないようだね」

チャキッ

杏子「違いねえ」

ジャラッ

まどか「え?ちょ、ちょっとまってよ、さやかちゃん」

まどか「あの子、魔法少女だよ?魔女じゃないんだよ??」

さやか「あいつの言ってることは魔女のそれと同じなんだよ!」

まどか「でも…」

さやか「まどか、どいててっ」

ドンッ

まどか「きゃっ」

杏子「言って聞かせてわからねえなら、ぶん殴っちまうしかねえよな」

さやか「ふん、やってみな!はぁっ」



さやか「あうっ」

ガゴン!

杏子「ったく、ずぶの素人だな」

さやか「くっ…(強い…)」

まどか「だ、大丈夫さやかちゃん!?」

さやか「うん、平気だよ」

杏子「ちっ…(あの回復力、厄介だな)」

さやか「この超回復がある限り、あんなやつには負けないよ!」

杏子(ぴき)

杏子「もういいよ、あんた。楽にしてあげるよ」

さやか「何よ、私はまだまだ…」


ぞわっ


さやか「!??(な、何この殺気!?)」

まどか「さ、さやかちゃん、逃げて!」

まどか「あなたも、お願いだから魔法少女同士で戦わないでっ」

杏子「もう遅いよ、あんた達」

杏子「終わりだよ」

さやか「…っ(まどかだけでも守らないと!)」


???『そこまでにしてもらえるかしら』

杏子「!?なっ」

シュルルルル

ギシッ

杏子(このリボンによる拘束、まさか…)

さやか・まどか「マミさん!」

マミ「間一髪、ってところね」

杏子「くっ」

マミ「佐倉さん、どういう理由かはわからないけれど」

マミ「彼女達を傷つけるのはやめて欲しいの」

杏子「…」

マミ「一応、私の大事な後輩だから」

さやか「一応って、マミさんひどいよっ」

マミ「くすくす、ごめんなさい」

杏子「…」

杏子「おい、マミ。何であたしだけを拘束してるんだよ」

杏子「戦ってたのは、あいつも一緒だろ?」

マミ「…明確な殺意があったのはあなたの方からだけだったわ」

マミ「それに、あなたとは随分会ってなかったから、ちょっと警戒してたの。ごめんなさいね」

杏子(警戒?あたしを?何で?)

杏子(そりゃぁ、あんな別れ方したんだ。マミのやつが怒ってるのはわかる)

杏子(でも、少しの間だけとはいえ、一緒に戦った友達じゃなかったのかよ…)

杏子「…」キッ

マミ「そうにらまないで、これ以上戦わないというのなら、拘束を解くわ」

杏子「…」

まどか「マミさん、あんまり酷いことしちゃ…」おろおろ

マミ「大丈夫よ鹿目さん、そんなにきつくは縛ってないわ」

マミ「彼女が反省してくれたら、ちゃんと解放するから」

まどか「…はい」

杏子「つまんねー」

マミ「?佐倉さん?」

杏子「ハァッ」

ザザシュッ

マミ「!そんな、槍で自分ごとリボンを!?」

さやか「お、おい、なんでそんな無茶なこと…」

杏子「…じゃあな」

マミ「あ、佐倉さん、待って!佐倉さん!」

マミ「あ…」

さやか「マミさん、あいつと知り合いなんですか?」

マミ「うん、昔ちょっとね…」

まどか「…」おろおろ

~見滝原市内商店街~

杏子「くそっ」

ガンッ

QB「荒れてるね、杏子」

QB「その表情、久しぶりに見たよ。昔マミと別れた時と同じだね」

杏子「…」ギロッ
QB「そんなににらまないで欲しいな」

杏子(結局、あたしには仲間と呼べるやつ、友達と呼べるやつは一人もいなかったんだ…)

杏子(あたしが勝手に友達だって思い込んでただけかよ…)

ぐうううう

杏子「…」

杏子「久しぶりにやるか…」

『イラッシャイマセー』

杏子(腹が膨れそうなものは… このくらいのパンでいいか)

杏子(カメラは…死角だな。店員は…誰も見てないな)

杏子(よしっ)ゴソゴソッ

杏子(…)

杏子(問題なさそうだな、さっさと外に出るか)

『アリガトウゴザイマシター』

杏子(ちょろいな…)


ガシッ


杏子「!??」

杏子(な、何だ!?掴まれた?腕を?)

杏子(もしかして、バレた!?)

杏子(そんなはず…いや、それよりも今は…)

???「今さっき隠したの、出しな」

杏子「っっっ!」

杏子「うっせえ!」ブンッ

???「っとぉ、危ない危ない」

杏子(!?避けやがった?しかも腕をつかんだまま…)

店員「お客様、どうしました?」

杏子(ぐっ、店員がきやがった)

杏子(やばいやばいやばいやばい…)

杏子(つかまる… 変身して逃げれば… 一般人の前で…? もう顔見られてる…)

杏子(指名手配…? 犯罪者になるのか?あたし… 嫌だ! 早く魔法を… )

???「あー、ごめんねー。うちの親戚の子がすんごい空腹みたいで。レジ通す前に食べようとしちゃったみたい」

杏子(!?は?)

店員「はぁ…でもここ店の外ですよね」

???「そうそう!この子さー、うちでも似たような事しててさ。冷蔵庫から持ち出しては台所から逃げるように出て行って!」

店員「…」ジーッ

???「えーとぉ、聞いてます?(やっぱ疑われてるなー)」

ぐぅぅぅぅぅぅきゅるるるる…

杏子(あ… /////)

???「ぷ」

???「はははははっ」

店員「くすっ」

店員「気をつけてくださいよー。君も、お店のものはちゃんとレジを通してから、お店を出るようにねっ」

杏子「う、うん…」

『アリガトウゴザイマシター』

杏子「あ、あのさ」

???「んー?」

杏子「あ、ありがと」

???「あなたも、もうあんなことしないでよ?見つけたのが私みたいなおばさんだったから良かったものの」

杏子「それじゃ…」

ガシッ

???「ちょっと待って」

杏子「!??な、何だよ!」

???「あなた、女の子なんだからもうちょっと身だしなみに…っていうか敬語を使え!」

ビシッ

杏子「あたっ」

杏子(???何なんだこの女は…)

???「それにちょっとにおうわね。お風呂ちゃんと入ってる?」

杏子「…」ごにょごにょ

???「え?」

杏子「2日前に…」

???「家は?」

杏子「…ない」

???「はぁー…家出少女かー」

杏子(家無き子のほうが正しいんだけど)

???「とりあえずうちに来な」

杏子「えっ!?」

???「大丈夫、うちにもあなたと同じ年くらいの娘がいるから。きっと仲良くできるぞ」

杏子「いや、そういう話じゃなくて…」

???「返事は?」

杏子「…わ、わかったよ…」

???「…」

杏子「わ、わかりました」

???「よしっ」

杏子(色々な親を見てきたけど、今までで一番変なやつだな…)

???「っと、あなたの名前、聞いてなかったっけ」

杏子「杏子、佐倉杏子だ…です」

???「杏子ちゃんか、うん、杏子ちゃん、よろしく」

ギュッ

詢子「私は詢子、鹿目詢子だ。よろしくね」

杏子「はぁ…」

杏子(鹿目…?どっかで聞いたような…)

~鹿目家~

詢子「たっだいま~」

知久「おかえり、今日は早かったんだね。おや?そちらはお客さんかい?」

杏子「さ、佐倉杏子、です。どうも…」

知久「宜しく、佐倉さん。どうぞ上がって」

杏子「は、はい…」

杏子(うー…他人の家っていうのはどうも緊張する…)

ぐいぐい

杏子(?誰だ?ズボンの裾ひっぱるのは…)

タツヤ「だれ?」

杏子「あ…」

知久「こら、タツヤ、ご挨拶は?」

タツヤ「こんちわ!」

杏子「こんにちは、あたしは杏子、佐倉杏子だ」

タツヤ「キョーコ姉ちゃ!キョーコ姉ちゃ!」

杏子「!」

杏子(何か懐かしいな…)

杏子(モモも小さいときはこんなんだったよなぁ…)

タッタッタッ

まどか「おかえりママー。今日は早かったんだねー…って、ええっ!?」

杏子「!?あ、あんたは…」

詢子「おんやぁ?まどか、あんたこの子と知り合いなの?」

まどか「お知り合いっていうか…その…今日のお昼にね、初めて会ったんだけど…」

詢子「そんじゃぁ、もう友達ってことだな」

杏子「え!?」

詢子「んー、まどかが友達じゃ不服かー?」

杏子「そ、そうじゃなくて…」

詢子「まどかも早くこっち来な」

まどか「う、うん…」おそるおそる

杏子(仕方ねーよな…あんなの見せられた後じゃな)

杏子(こいつはどうやら魔法少女にはなっていないようだし)

まどか「わ、わたし鹿目まどか。まどかって呼んで」

杏子「きょ、杏子だ。佐倉杏子。宜しくな」スッ

まどか「あ」ぎゅっ

まどか「うん、宜しくね、杏子ちゃん!」

杏子(ドキッ)

杏子(同年代からちゃん付けなんて初めてだぞ…)

杏子(なんかもう友達みてーじゃねえか…)

詢子「そんじゃ、親睦を深めるってことで、二人とも、風呂に入って来い」

杏子「え!?ふ、二人でか!?…二人でですか?」

詢子「そりゃそーでしょ。お互いのことをもっと良く知るなら、裸の付き合いが一番だぞ」

杏子「…(どんな理屈だよ…)」

まどか「えっと…」

杏子(そりゃこいつも恥ずかしいに決まってるだろーが…)

まどか「杏子ちゃん、一緒に入ろ?」ニコッ

杏子「…(親子ってこう似るものなんか…?)」

~お風呂~

杏子「…」そわそわ

まどか「どうしたの?杏子ちゃん」

杏子「あー、誰かと入る風呂っていうのが、落ち着かなくてね」

まどか「いつも一人で入ってたの?」

杏子「そりゃあ、昔は家族で一緒に入ってたこともあったけど…って、待て」

杏子「あんたは今も一緒に入ってるのか?」

まどか「えへへ、時々ママとね」

杏子「仲、良さそうだな。あんたと、あんたの両親」

まどか「うん、パパもママも、それにたっくんも、皆自慢の家族なんだ!」

杏子「…」

杏子(あんなことになる前は、あたしも親父やお袋、モモが自慢の家族だったんだけどな…)

まどか「杏子ちゃん?」

杏子「なんでもない。あがるよ」

ザバッ

まどか「杏子ちゃん待って!」

杏子「?」

まどか「まだ体も、髪もちゃんと洗ってないよ?」

杏子「いーんだよ、適当で」

まどか「そんなの駄目だよっ、杏子ちゃんの髪綺麗なのに」

杏子「あたしの髪が?んなことねーよ」

まどか「ほんとだよ?」

まどか「私はうらやましいなあ」

まどか「長くてつやつやしてて」

杏子「…あんたの髪も十分綺麗だよ」

まどか「えへへ、ありがと」にこっ

まどか「じゃぁ、お礼に髪の毛洗ってあげる!」

杏子「わっ、ちょっとよせって!こらっ」

まどか「杏子ちゃんおとなしくしてて!」

杏子「…」

わしゃわしゃわしゃ

杏子(なんだか懐かしいな…)

杏子(親父やお袋に洗ってもらってた時のこと、思い出すな…)

杏子(そう、こうやって体全体も…)

杏子「っておいっ!髪だけじゃねーのかよっ!? ///// 」

まどか「うん、体のほうも流してあげるね」

杏子「自分でやるからいいって」

まどか「そんなこと言って杏子ちゃん、ちゃんと洗わずに出ていく気でしょ?」

杏子(こいつはあれだ…。よくわからねーやつには警戒心が過ぎるが、心を許せるやつにはとことん絡んでくるタイプってやつか…)

杏子(…)

杏子(あたしには心を許してるってことか?まさかね…)

杏子(たった数時間でそんなに状況が変わるわけないっての…)

~食卓~

一同『いただきます』

知久「今日はたくさん作ったから、いっぱい食べていってね」

杏子「おぉぉ…(すげえ…)」

杏子「い、いただきますっ」

パクパク もぐもぐ ごくごく

杏子「っ…!おいしい…」

知久「そうかい、それは良かった」

まどか「パパのお料理って、すっごくおいしいんだよ!ねー」

詢子「そうだぞー、杏子ちゃんは幸せもんだぞー?」

タツヤ「えびふりゃー」

まどか「あ、こらたっくん、杏子ちゃんのエビフライとっちゃ駄目でしょ?」

タツヤ「えー」

杏子「いいよ、他にもまだこんなにご馳走があるんだし、あんたにあげる」

タツヤ「ありがとー キョーコ姉ちゃん」

杏子「どういたしまして…  あ」

杏子(何だ、これ。あたしはどこかでこんな光景を目にしたことがある)

杏子(マミさんが初めてうちに来て…親父やお袋、モモたちと一緒に食事…して…)

まどか「杏子ちゃん?杏子ちゃん??」

詢子「ちょ、ちょっと、大丈夫か?」

タツヤ「姉ちゃ、どしたの?」

知久「な、何か嫌いな料理でもあったかな?」

杏子「…」ぽろぽろ

杏子「いや、違…います。ちょっと、昔のことを思い出して…」

杏子「生きていると、皆でこんなにおいしい料理が食べれるんだって…」

杏子「家族や友達との食事が楽しいんだって…」

杏子「ご、ごめん。また変なこと、しゃべっちまった」

まどか「…ううん、そんなことないよ」

詢子「何かしら事情があるのかもしれないけど、良かったらしばらくはうちにいな」

杏子「え?」

知久「使ってない部屋があるから、そこでゆっくりしていったらいいよ」

杏子「で、でも…」

まどか「だってさ、杏子ちゃん!しばらくは一緒にお泊りだね!」

杏子「あ、う、うん…」

タツヤ「おとまりー」

杏子(何だよ、何なんだよこの家族は…)

杏子(何であたしみたいなよくわからないやつに、こんなに優しくしてくれんだよ…)

杏子(あたし一人、悩んでて。馬鹿みたいじゃねーか…)

~寝室~

知久「それじゃあ、こちらの部屋に布団敷いておいたから」

杏子「ありがとう、ございます」

知久「おやすみなさい」

杏子「おやすみなさい」

杏子(久しぶりに布団か…)もそもそ

杏子「…」

杏子(ふかふかだ…気持ちいい…)

杏子(これならすぐに眠く…)

ごそごそ

杏子(?)

まどか((杏子ちゃん、杏子ちゃん))

杏子((?どうした?何かあったか?))

まどか((杏子ちゃんに、聞きたいことがあって…))

杏子((良いよ、何でも言ってみな))

まどか((昼間の事なんだけど…さやかちゃんも、マミさんも、悪気は無かったんだよ?))

杏子((…あいつらはあたしが邪魔なだけだ))

まどか「そんなことない!」

杏子「!?」(ビクッ)

まどか((あ、ごめん…))

まどか((でもね、あの後二人とも、杏子ちゃんのこと心配してたんだよ?))

杏子((ふん…))

まどか((だから…))

杏子((もう寝な。明日も学校なんだろ?))

まどか((うん…))

杏子((…おやすみ、まどか))

まどか((うん…おやすみ…え?今さっき!?))

杏子((…))

まどか((くすっ、おやすみ、杏子ちゃん))

=====
==
杏子父「マミさん、どうかこれからも杏子と仲良くしてあげてくれませんか?」

マミ「はい、私なんかでよければ…」

杏子「マミさん…」

あたしの憧れの師匠、マミさん

あんなことが無ければ、きっと今でも…
==
=====

~翌朝~

杏子「…」

杏子(昔の夢…?)

杏子「…重い」

タツヤ「キョーコおきてー、あさだよー」

杏子「起きるからどいてくれねーかな?」

タツヤ「キョーコおきたー」

タツヤ「ママおこすー」

ドタドタドタ

まどか「あ、杏子ちゃん、起きた?」

杏子「ああ、さっきあの子に起こしてもらった」

杏子「ふふっ、元気な弟だね」

まどか「うん!私の可愛い自慢の弟だから!」

杏子「そっか」

まどか「朝ごはんできてるから、着替えたら下りてきて」

杏子「おう」

杏子(さて…着替えるか…)がさがさ

杏子(…)

杏子「なっ!?」

ダダダダ

知久「下りてきたみたいだね。おはよう、佐倉さ…うわっ」

杏子「何なんだこの服はっ!?」

まどか「きゃっ!?きょ、杏子ちゃん、早く服を着て! /// 」

詢子「おー、杏子ちゃんの服、洗濯してるから代わりの服を用意しておいたぞー」

杏子「代わりのって…この全身ピンクの…、ふりふりみたいなのもついてて…、スカートだし…」

詢子「まどかの服だからなー」

まどか「きっと杏子ちゃんにも似合うよ!」

杏子「…無責任な台詞はやめてくれ…」

杏子「あたしに似合うわけ、無いじゃないか…」

まどか「いいからいいから」

杏子「…」

知久「あのー、そろそろいいかな…?」

まどか「パパはもうちょっとあっち向いてて!」



まどか「杏子ちゃん可愛い!」

詢子「うんうん、似合ってる似合ってる!」

知久「とてもいいと思うよ」

杏子(こ、こいつら人事だと思って…)

ぐいぐい

杏子「?」

タツヤ「姉ちゃん、きれー」

杏子(ぽかーん)

杏子「ふふ、ありがとう、タツヤ」なでなで

タツヤ「へへへー」

杏子(仕方ねえ、今日一日、これを着るしかないか…)



詢子「それじゃぁ、行ってくる」

まどか「いってきまーす」

知久「いってらっしゃい」

タツヤ「いってらっしゃーい」

杏子「あ…いってらっしゃい…」

バタン

杏子(…)

杏子(気まずいな…)

杏子「あの…、あたしもちょっと、外に出てきます…」

知久「あ、ちょっと待って」ごそごそ

杏子「?」

知久「はい、お小遣い。少ないけど、大事に使ってね」

杏子「そ、そんなのもらえな…もらえませんよ」

知久「何かに必要になるときが来るかもしれないから、とっておいて」

杏子「は、はい…」

杏子(2000円も貰ってしまった…)

杏子(こんだけあればうんまいぼうもポッチーも買える…)

杏子(いやいや、そんなものに使って良い金じゃねーな、これは…)

杏子(もしものために、大事にとっておこう…)

~学校~

まどか「さやかちゃん、あのね、昨日ね…」

さやか「悪い、まどか。ちょっと一人にしてくれない?」

まどか「え?あ、うん…」

まどか(どうしたんだろう、さやかちゃん…)

まどか(仁美ちゃんも席にいないし…)

まどか(皆どうしたんだろ?)

~見滝原市内~

QB「いやぁ、馬子にも衣装とはこういうことをいうんだね」

ゴスッ

QB「きゅっぷい」

杏子「てめーに言われるとなんか腹が立つ」

QB「わけがわからないよ!」

杏子「それにしても…」

ジロジロ ジロジロ

杏子「何か目立ってるな…」

QB「それは、杏子が一般的に見て可愛いと思われる部類に入るからじゃないかい?」

杏子「どういう判断基準でそうなるんだよ」

杏子「あー、失敗した。家にいづらいからって外に出てくるんじゃなかった」

杏子「こんなところ、誰か知り合いにでも見られたら…」


ドサドサッ


杏子「!?」

マミ「さ、さ、さ、佐倉さん!?」

杏子「げっ、マミ!?」

杏子「あんたはたしか、学校に行ってるはずじゃ…」

マミ「今日は3年生は高校受験のガイダンスだけだったから、1限で終わりだったんだけど…」

杏子(そんなの聞いてねーぞ!てか、この格好は…)

マミ「佐倉さん、だ、大丈夫?その、そんな服着ているの初めて見るから…」

杏子(イラッ)

杏子「あたしがこんな服着たら、変なのかよ?」

マミ「そ、そんな意味じゃないの!とっても可愛いから、びっくりして…」

杏子「いいよ、どうせ似合ってねーし…」

マミ「…」

マミ「ねぇ、佐倉さん。久しぶりにうちでお茶会しない?」

杏子「はぁ?何言ってんだよ、マミ。もうあんたの家には行かないって言ってただろ?」

マミ「でも」

マミ「昨日久しぶりに会って、あなたを見て思ったの。もう一度昔のように一緒に戦いたいって…」

杏子「今更もう遅いよ」フイッ

マミ「佐倉さん…」

杏子(昔のようになんて…できるわけないじゃないか…)

マミ「待ってるから!あなたがまた私達と一緒に戦ってくれるの、待ってるから!」

杏子「…」



杏子「…はぁ」

QB「どうしたんだい?ため息なんかついて」

杏子「あたし、何やってるんだろうな、って」

QB「?散歩しているんじゃないのかい?」

杏子「…」

杏子(ジョークのつもりか?こいつなりの)

杏子「あたしは魔法少女で、魔女を倒すための存在なのに」

杏子「やらなきゃいけないこと放り投げて、こんなひらひらの服着て、一日中ぶらぶらしてるなんてさ」

QB「魔法少女といっても、息抜きは必要なんじゃないかな?」

QB「あまり自分を追い詰めてもいいことは無いと思うけどね。ソウルジェムに穢れも溜まるし」

杏子「…」

杏子「…そろそろ学校が終わる時間だ。帰るか」

~見滝原市内 公園~

仁美「~~」

上条「~~~」

仁美「!~~~」くすくす

上条「~~~~」ハハハハ

仁美「~~~」ふふふ


さやか「…」

さやか「…」ぎりっ


フラッ

~鹿目家~

杏子「ただいま~」

タツヤ「おかえりー」

杏子「おー、タツヤ、元気にしてたかー?」

タツヤ「おー」

杏子「ふふふ」

杏子(本当に、モモみたいなやつだな)

知久「おかえり。タツヤ、すっかり佐倉さんに懐いたみたいだね」

杏子「あたしにも、妹がいましたから…」

知久「…そっか」

知久「とりあえず手を洗っておいで。お茶入れるから」

杏子「ありがとう」

まどか「ただいまーっ、ってあれ?杏子ちゃんもう帰ってたの?」

杏子「ついさっきな」

知久「おかえり。まどかも一緒にお茶飲むかい?」

まどか「うん!おねがい!」

まどか「…あ」

まどか((杏子ちゃん、あとでちょっとだけお話があるんだけど))ヒソヒソ

杏子((ん?いいよ。暇だし))

まどか((うん、ありがとう…))

杏子(?)

知久「…うーん」

まどか「どうしたの?パパ」

知久「どうもガスの調子が悪いみたいでね」

知久「今日はお風呂とかもちょっと駄目かな…」

まどか「ええー」

知久「食事は出前をとることにするから、二人とも、後で銭湯に行っておいで」

まどか「銭湯?」

杏子「ああ、たしかに近くにあったなー」

知久「パパはママとタツヤと一緒に行くから」

知久「まどかは佐倉さんと先に行ってきなさい」

まどか「はーい。それじゃ、準備しよっか」

杏子「おう」

杏子(風呂あがりのコーヒー牛乳、良かったよな…)

杏子(お金持っていこう…)

~銭湯~

かぽーん

杏子「はー」

まどか「広いお風呂だと泳ぎたくなっちゃう気分、なんだかわかる気がするなぁ」

杏子「昔泳いだら怒られたけどな」

まどか「えっ?本当に泳いだの!?」

杏子「…そこでその返しはないんじゃねーか?」

まどか「えへへ、ごめん」

杏子「…」

まどか「…」

杏子(話、ってなんだろうな)

まどか「あのね、杏子ちゃん」

杏子「ん?」

まどか「私の友達がね、今ちょっと大変なことになってるみたいなの」

杏子「大変?」

まどか「うん。昨日までは何ともなかったんだけど」

まどか「今日朝学校で会ったら、とても怖い顔してて、口もきいてくれなくて」

まどか「怒ってるっていうよりも、何か焦ってるって感じなの」

まどか「それでね?さっき、心配だからその子の家の近くまで行ったんだけど…」

まどか「理由はわからないけど、お昼よりもずっと悲しい顔してた…」

まどか「大事なお友達なのに、私何も力になれなくて…。どうしたらいいかわからなくて…」

杏子「その友達ってのは、あの青い髪の…たしか、さやかっていったか?」

まどか「え!?あ、うん、そうなんだけど」

まどか「すごいね、杏子ちゃん。すぐにわかっちゃうんだ」

杏子(まぁ、あたしには他に思い浮かぶあてがいないからな…)

まどか「杏子ちゃん、魔法少女、なんだよね?」

杏子「ああ、そうだよ」

まどか「こんなこと、私が頼むの駄目なのかもしれないけど…」

まどか「さやかちゃんのこと、一緒に励ましてくれないかな?」

杏子「はぁ?何であたしがあいつのことを心配してやらねーといけないんだ?」

まどか(ビクッ)

杏子「あんたも見てただろ?あたしとあいつが戦ってるところ」

杏子「今のあたしとあいつじゃ、根本的に考えが違うんだよ」

杏子「あんたの頼みでも、それだけは無理だな」

まどか「…ごめん」

???「あなたは、友達のお願いも聞いてあげられないのかしら?」

まどか「!?え?」

杏子「げっ、て、てめーは」

ほむら「久しぶりね。杏子」

まどか「杏子ちゃん、この子お知り合い?」

ほむら「…」

杏子「ああ、何日か前に、ここで初めて会ったんだが…」

杏子「てか、何であたしの名前知ってたんだ?」

ほむら「…企業秘密よ」

杏子「毎日ここに入りに来てるのか?」

ほむら「…企業秘密よ」

杏子「さっきの友達って、どういうことだ?」

ほむら「読んで字のごとくよ。あなた、まどかは友達じゃないの?」

杏子「えっ?それってどういう…」

ほむら「少なくとも、まどかはあなたのことを友達と思っているはずよ」

杏子(友達…)

杏子「そ、そうなのか…って、どうした?まどか」

まどか「私の名前なんで知って…」

ほむら(しまった…)

まどか「あの…どこかで私と会ったことありますか?」

ほむら「…… 企業秘密…よ」

杏子(…どんだけ秘密持っているんだよ…)

ほむら「お話の邪魔して悪かったわね、先にあがらせてもらうわ」

ザバッ

杏子(…)

杏子「あたしたちも、そろそろあがるか」

まどか「…」

杏子「まどか?」

まどか「あ、うん」


ほむら(さっきはついうっかりしゃべってしまった…)

ほむら(今回はできるだけ彼女達に干渉しないようにしなければ…)

ほむら(まどかとお話できないのは辛いけれど)

ほむら(私が関わることで、まどかの結末に悪影響を及ぼすというのなら…)

ほむら(私は影となって、あなた達を支える方にまわるわ…)

杏子「おばちゃん、コーヒー牛乳2つとフルーツ牛乳1つ」

番台「ありがとね」

杏子「ほら」

まどか「え?いいの?」

杏子「わたしのおごりだ(といっても、もらったお金なんだけど)」

まどか「ありがとう!杏子ちゃん」

杏子「ほら、あんたも」

ほむら「?これは?」

杏子「これで貸し借りなし、だな」

ほむら「ふふ、そうね。頂くとするわ」

ごくごくごくごく

まどか「はー、私もマミさんみたいに胸が大きくなればいいのになぁ…」ぐいぐい

ほむら「ぶばっ」

杏子「!?きったねーな、おい!」

ほむら「…」

まどか「あ、あの、大丈夫ですか?鼻血、出てますよ…?」

ほむら「大丈夫よ、のぼせただけ」

杏子(…こいつもちょっと変なやつみたいだな…)



まどか「ちょっとコンビニ行って来るから、待っててくれるかな?」

杏子「おう」

タタタッ

ほむら「…佐倉杏子」

杏子「?なんだ?」

ほむら「あなたに一つだけ、聞いておきたいことがあるの」

杏子「人に話をきく前に、まずあんたの名前くらい聞かせてくれてもいいんじゃねーか?」

ほむら「暁美ほむらよ」

杏子「ほむら、ね。聞いた事ねーな」

ほむら「単刀直入にきくわ」

ほむら「まどかは魔法少女になりたがっているの?」

杏子「!?」ズザッ

杏子「てめえ、魔法少女のこと、知ってるのか?」

ほむら「そう警戒しないで。私も魔法少女よ」

杏子「なっ!?」

ほむら「詳しいことは話せないのだけど」

杏子(この街にマミとさやかというやつ以外に魔法少女がいるなんて話、QBからは聞いてねーぞ?)

ほむら「で、どうなの?まどかは魔法少女になろうとしているの?そうじゃないの?」

杏子「…答える前に一つだけ聞かせろ」

杏子「あんたはまどかの何なんだ?」

ほむら「…」

ほむら「友達、よ」

ほむら「私にとってただ一人の、かげがえのない、友達」

杏子「…」

杏子「あんた自体は信用ならねーが、その言葉に嘘はなさそうだ」

杏子「大丈夫だよ、あの子はまだそのつもりは無いようだ」

ほむら「…そう、それを聞いて安心したわ」

ほむら「この事は、あの子には他言無用よ」

ほむら「杏子、どうかこれからもあの子を守ってあげて」

ほむら「魔法少女にだけはさせないようにして…」

杏子「それならあんたが直接言えばいいじゃねーか」

ほむら「それは…」

まどか「杏子ちゃんおまたせー、って、あれ?さっきの人?」

ほむら「お邪魔したようね。それじゃぁ、さようなら」

まどか「うん、さようなら!」

ほむら「…」

ザッザッ

杏子(まどかを守る…か)

杏子(あいつの目は…あの諦めに満ちた目は、あたしのと同じだ…)

杏子(あいつもあたしと同じ、いや、それ以上の人生を送ってきたのかもしれないな…)

まどか「杏子ちゃん!」

杏子「ん?」

まどか「私たち、友達だよね?」

杏子「!お、おい、いきなり何言って…」

まどか「さっきの人も言ってたよね。杏子ちゃんは、どう思ってるのかな…」

杏子「…」

杏子(あたしは…)

杏子「あたしには友達なんて呼べる人、マミ以外いなかったからな…」

杏子「友達になるのって、どういうことかいまいちよくわからねーんだ…」

まどか「友達になるの、すごく簡単だよ?」

杏子「簡単…?」

まどか「そう!まずは、お互い名前で呼ぶの!」

まどか「それでね」

ギュッ

杏子「あ…」

まどか「こうやって、一緒に手をつなぐの!」

杏子「…」

まどか「これでお友達だね!杏子ちゃん!」

杏子「…うん /// 」

まどか「杏子ちゃん♪」

杏子「まどか…」

まどか「ウエヒヒヒッ♪」

杏子「ありがとう、まどか」

まどか「うん!杏子ちゃん!」




ぎぎぎぎぎぎぎ(歯軋り)

ほむら「まどかを守ってとはお願いしたけど…」

ほむら「誰もまどかといちゃいちゃしていいなんて、言ってないわよぉ…(ぴきぴき)」


=====
==
杏子「心配するなよ、さやか」

杏子「一人ぼっちは、寂しいもんなぁ」

杏子「いいよ、一緒にいてやるよ…」
==
=====

~翌日~

まどか「行ってきま~す」

詢子「おう、行ってらっしゃい。って、私も行かなきゃ」

知久「いってらっしゃい」

タツヤ「らっしゃーい」

杏子「気をつけてな」

杏子「…(今日も変な夢を見たな…)」

知久「今日も出かけるのかい?」

杏子「うん、夕方までには戻るから」

知久「お小遣いは足りてる?」

杏子「ありがとう、大丈夫です」

知久「そうかい。それじゃ、いってらっしゃい」

タツヤ「姉ちゃんいってらしゃーい」

杏子「行ってきます」

~見滝原市市街地~

杏子「やっぱり着慣れた服が一番だなぁ」

QB「その姿の方がしっくりくるね」

杏子「…QB、あんたいたんだ」

QB「…出番が少ないからって忘れるなんて、ひどいよ杏子」

杏子「そのまま『ふぇーどあうと』してってくれれば一番なんだけどね」

QB「わけがわからないよ!」

キィィィン

杏子「!?」

QB「魔女の結界…いや、これは使い魔のものだね」

杏子「なんだ、使い魔か」

QB「いつもどおり放っておくかい?」

杏子「…」


ほむら『杏子、どうかこれからもあの子を守ってあげて』


杏子「いや、潰しておく」

QB「!杏子にしては珍しい判断だね」

杏子「たまにはそういう気分にもなるんだよ!」ヘンシン!

パァァァ

杏子「!だれか戦ってるな。まさかマミか!?」

~結界内~

ザン!ザン!ザン!

さやか「うわぁぁぁぁぁ」

使い魔「 …  …」

さやか「消えちゃえ消えちゃえ皆消えちゃえええっ」

杏子「あいつ、たしかさやか…」

さやか「はぁっはぁっはぁっ」

杏子(それにしても、なんて滅茶苦茶な戦い方してやがるんだ…)

使い魔「」ぞわぞわぞわ

さやか「!?あっ」

杏子「危ねえ!」

ズバッ

さやか「え!?」

使い魔「 …ッ」

杏子「なーにちんたら戦ってんだ?このトーシロが」

さやか「…」ギロッ

杏子「!(な、なんだこの目つきは…?)」

杏子「あんた、一体何があっ…」

さやか「うわぁぁぁぁぁっ!」

杏子「!?ちょっと待てっ…」

ガギィィン

杏子「てめえっ、いきなり切りつけんじゃねーよ!」

さやか「うるさいうるさいうるさいうるさいっ…」

杏子「おとなしく…しやがれっ!」

ガンッ

さやか「あっ…」ガクンッ

杏子「…ったく、一体何があったっていうんだよ?」

QB「結界が解ける。使い魔が逃げて行ったようだね」

杏子「チッ」

杏子「まぁ、仕方ないさ。今回ばかりは、ね」



さやか「ハッ」

杏子「気がついたか?」

さやか「ここ…は…」

杏子「あんた、覚えてねーのか?魔女の使い魔と戦ってたの」

さやか「…そうだった、ね…」

さやか「あんたも一応助けてくれたんだったね。ありがと」

さやか「だけど、私はこの前のこと忘れたわけじゃないよ」

さやか「だからあんたと話すことは、もう無いから」

さやか「じゃーね」

杏子「お、おい、ちょっと待てって」

さやか「何よ?またやろうっていうの?」

杏子「そうじゃない。あんた、一体どうしたんだ?」

さやか「あんたには関係ないでしょ」

杏子「(ムカッ)」

杏子「チッ、勝手にし…」


まどか『さやかちゃんのこと、一緒に励ましてくれないかな?』


杏子「…」

杏子「この前のことは、その、謝るよ。ごめん」

さやか「! …」

杏子「それ以外にも、あんたとはカミジョーキョースケの件でごたごたがあったけどさ」

杏子「そいつは抜きにして、話くらい聞かせて欲しい」

さやか「もうあいつの名前は出さないで!」

杏子「?あいつ?カミジョーキョースケのかい??」

さやか「っ」ブンッ

杏子「わっと、おいおい、いきなり殴るやつがあるかよ!?」

杏子「おい・・・」

さやか「っく」

さやか「ひっく」

さやか「ふぅぅぅぅぅぅぅぅううううう…」ボロボロ

杏子「…何があった?」

杏子「あんたとあいつは少なくとも仲のいい友達だと思ってた」

杏子「恋人同士かよって、思ったこともあったぞ」

杏子「そんなやつの名前を聞いただけで泣き出すってことは、あいつはあんたを裏切ったんだな?」

杏子「だとしたらあたしはあいつを許さない」

杏子「あんたに対しては少なからず妬みがあったが、そんなの関係なく、な」

さやか「違うの、恭介は悪くないの」

杏子「は?」

さやか「悪いのは全部私なんだから…」

QB「わけがわからな…」

ゴスッ

QB「きゅっぷい!」

杏子「わけがわかんねーから、ちゃんと話せ」

杏子「でないと、あたしは今からあいつのところに殴りこみに行かなきゃなんねー」

さやか「…」

さやか「わかった、話すよ」



さやか「一昨日ね、恭介が退院して、学校に来たの」

さやか「私はうれしくってはしゃいでたんだけど、もう一人ね、恭介の退院を喜んでた人がいてね」

さやか「その日、その子から言われたんだ」

さやか「『私、上条恭介君のこと、お慕いしてましたの。』」

さやか「『私は明日、彼に告白をします。それまでの間に、あなたはどうするか考えておいてください』って」

杏子「…で、あんたはどうしたんだ?」

さやか「…」

さやか「何も、しなかった…」

杏子「はぁ?何それ」

さやか「だって、いきなり告白って言われても…」

さやか「もしかしたら恭介は、音楽の話をする友達が欲しかっただけかもしれないし」

さやか「幼馴染だからっていう理由で、仲良くしてただけかもしれないし…」

さやか「告白して、断られたらどうしようって…そればかり頭によぎってさ…」

杏子「…」

さやか「それで昨日、その子が恭介に告白した」

さやか「今日見た感じだと、多分うまく行ったみたい…」

さやか「とても楽しそうにおしゃべりしてた」

さやか「なんでかな、なんでこうなっちゃったのかなぁ…」

さやか「恭介がまだ入院してたら、こんなことにならなかったのかなぁ…」

さやか「だったら、私、あんたの言ってたとおり、願い事叶えなきゃ…」

杏子「馬鹿やろう!」

さやか(ビクッ)

杏子「あんたはあいつのバイオリンをもう一度聞きたかっただけじゃなかったのか!?」

杏子「自分の意気地なさを棚に上げて、他人のせいに、願い事のせいにするのか!?」

杏子「ふざけんじゃねーっ!」

さやか「…ごめん」

杏子「あたしはたしかに、自分のためではなく他人のために願い事を叶えるってやつが許せない」

杏子「自分自身が痛い目にあったから、特にな…」

さやか「あんた、まさか…」

杏子「でもな、そうまでしても叶えたい願いを叶えたのに、今更やっぱり無かったことにしたいなんてぬかすやつはもっと嫌いなんだよ」

さやか「…」

杏子「あんたも、そんなにあいつのことが好きなら、最後までその想いを守り通せ!」

杏子「あいつが、カミジョウキョースケがあんたを好きでなかったとしても、あんたの想いが否定されるわけじゃねえ」

さやか「…うん」

杏子「自分の想いに、願いに自身を持て」

さやか「…うん、ありがとう…」

さやか「あんた、結構いいやつだったんだな」

杏子「いや…使い魔云々の件はあたしのほうが悪かったよ」

さやか「…それでも今回は助けてくれたんでしょ?色々言って、ごめん」

杏子「…あたしは人に謝られるほどいいやつじゃないよ」

杏子「あたしだって、あんたと似た様なものだから…」

さやか「…」

杏子「それにしても、あんたといい、あのカミジョーキョースケといい、物事をあきらめるのが早すぎるぞ?」

さやか「え?恭介も?」

杏子「ああ、あいつはこの前、後少しのところで魔女の結界の中で死んじまうとこだったんだぞ」

さやか「!?そんなこと、初めて聞いた」

杏子「その時も『僕はバイオリン以外の道考えられない』なんて諦めきった面しやがって」

杏子「あたしが助けなかったら今頃魔女の腹の中だっつーの」

さやか「あんたが…恭介を助けてくれた…?」

杏子「おいおい、あの坊やはそんな事もあんたに言ってなかったのか」

杏子「だんだんと腹が立ってきたぞ…」

さやか「…そっか、あんた、恭介の命を助けてくれたんだ…」

さやか「ありがとう」

さやか「そうだよね。ある日突然あんたみたいな女の子と恭介が仲良く会話するなんて、夢にも思わなかったから…」

杏子「…」

杏子「それでも、あいつは一度は違う道を見つけようと前に踏み出した」

杏子「結果的に腕は治って元通りってことになっちまったけど、それでもあいつは勇気を出して前に進もうとしたんだ」

杏子「あんただって、できるだろ?」

さやか「…うん、そうだ。そうだよね」

さやか「私がどんなにうじうじしてても、私の気持ちが恭介に伝わるわけがないんだ」

さやか「たとえ駄目でもいい。拒絶はちょっと怖いけど…」

さやか「それでもちゃんと気持ちを伝えなきゃ、私、一生後悔することになるんだよね」

杏子「ああ」

さやか「…ありがとう」

さやか「なんか少し吹っ切れた」

さやか「私、恭介に告白するよ」

さやか「告白して、想いを告げる」

杏子「よし、それじゃぁ」

ガシッ

さやか「!?ど、どうしたの?いきなり手なんか掴んで」

杏子「さやか」

さやか「!?え?ちょ、ちょっとあらたまって何なの??」

杏子「手を繋いで、お互いの名前を呼び合う」

杏子「これであたしとあんたは友達だ!」

さやか「!あんた…」

杏子「あんたは、さやかはまどかの友達だ。だからあたしも、さやかと友達になりたい」

さやか「…うん、そうだね。私もあんたと友達になりたい」

さやか「杏子」

杏子「ああ、さやか」

さやか「行って来るね!恭介のところに!」

杏子「行って来い!駄目だったら少しくらい胸を貸してやるよ」

さやか「言ったな~、見てろよ!このさやかちゃんの勇姿を!」

ダッダッダッ


さやか「もしもし?恭介?うん、あのね、今からちょっと公園まで来て欲しいんだ…」

杏子「…」

杏子「はぁ、行っちまったな」

杏子「大丈夫だ、あいつはさやかのこと、少なくとも嫌いじゃない」

杏子「多分好きに近い部類だと思うよ」

杏子「…」

杏子「はぁ、あたしもちょっとはキョースケのこと、気になってたんだけどなぁ…」

QB「意外だね、君が愛だの恋だの色恋沙汰に関わるなんて」

杏子「どぉいう意味だ?おい」

QB「全く男っ気がなかったじゃないか。むしろ同姓から好意を持った目で見られることのほうが多かった気がしたんだけど?」

杏子「…」

杏子「ま、あたしのことはどうでもいい。あとはさやかがうまくやってくれれば…」

杏子「…」

杏子「おい、QB」

QB「うん、あれは間違いなくグリーフシード。孵化しかかっているね」

杏子「もうすぐ魔女の結界ができあがるってわけか」

杏子「さやかには無駄な心配は掛けたくない。あいつにはあいつのやるべきことをやってもらわねーとな」

~見滝原市公園内~

さやか「…」そわそわ

さやか「…」チラッ

さやか「あと10分か…」

さやか「う~緊張するな~」

さやか「本当にちゃんと言えるのかな…、好きだって…」

さやか「ううん、ちゃんと言わなきゃ。あいつと約束したんだ!」

ィィィン

さやか「!?この反応、遠くから感じる…魔女の結界!」

さやか「あの方角って…さっき私が来た方向…」

さやか「杏子のいる所!?」

さやか「ど、どうしよう、あいつ一人で大丈夫かしら…」

さやか「…」

さやか「だ、大丈夫よね?あいつ私なんかよりもずっと強いし」

さやか「私なんかいたところで足手まといなだけだよね!」

さやか「それに、杏子は私に告白頑張れって言ってくれた…」

さやか「ここで告白放り投げて助けに駆けつけたりしたら、あいつ怒るよね」

さやか「そんなことしたら、友達裏切っちゃうことになるもんね」

さやか「…」チラッ

さやか「あと5分…」

さやか「…」

さやか「っっっ」

ダッ

さやか(違うでしょ!?友達ってそうじゃないでしょ!?)

さやか(私のために、皆のために戦ってる人を見過ごして、何が友達なのよ!)

さやか(こんなところで立ち止まってちゃ駄目!あいつを助けなきゃ!)



きゅっきゅっ

上条「用事って何だろう?さやか…」

上条「ん?あっちで走ってるのって、さやかじゃないか?」

上条「公園とは、逆方向だよな…」


~魔女の結界内~

杏子「このっ」ブンッ

ガィィィン

魔女「―――」

杏子「くそっ、こいつ硬すぎる!」

QB「どうやら杏子の武器では、あの魔女の身を固めている鎧を突き崩すのは難しいようだね」

杏子「なんだよ、このわけわかんねー魔女は!?」

杏子(頭、肩、胸、腹、腕、腰、足…全てがくまなく鎧の様なもんで覆われてやがる)

杏子(唯一防御のない所…弱点は顔か!)

杏子「ならばっ」ジャキッ

杏子(槍を1本化してやつの顔に1点集中で貫く!)

杏子「うぉぉぉぉぉっ」

ぐにゃぁぁっ

杏子「はぁ!?」

杏子(何だ!?こいつの顔、弾力がありすぎて貫けない!??)

ガシッ

杏子「くそっ!抱きつくな!離しやがれ!」

魔女「------」 が ぱ

杏子「え?」

杏子(何こいつ、あの病院での魔女みたいに口広げやがって…)

杏子(ひょっとして…こいつあたしを、食べ…!!?)

杏子「や、や、や、やめろぉぉぉぉ」

魔女「―――――」

杏子「や、やだっ…    …っっ!!!」


さやか「杏子ぉーーーっ!」


ズバッ!!!!

魔女「ッッッッ!??」

杏子(拘束が緩んだ!?…でも体がうごかな…)

さやか「杏子を…離せぇぇぇ!」

ズバズバズバ!

魔女「 …   ッ」

QB「すごい!さやかの攻撃が効いている!」

QB「そうか!あの魔女の弱点は口の中、体内ということか!」

QB「相手を捕食する時しか口を開かないから、今までダメージを与えられなかったということだね」

杏子「さ、さ、さ、さやかっ!?」

さやか「大丈夫!?杏子!」

杏子「こ、この格好…」

さやか「あー、お姫様抱っこ、初めてだった?」

杏子「っ… /// っつーか、あんた告白どうしたんだよ!?」

さやか「放ってきた」

杏子「ちょっと、おい、あんたっ…」

さやか「友達を助けることより優先しなきゃいけないことなんて、ないから」

杏子「さやか…」

スタッ

さやか「立てる?」

杏子「あ、うん…」

さやか「よし!それじゃあ、一気に片付けちゃいますか」

杏子「…え?」

さやか「なーに呆けてんのさ!一緒にあの魔女を倒すんでしょ!?」

杏子「…ああ、そうだな」

魔女「―――――!!!」

杏子「あたしがあいつの口を開かせる!さやかはそこを狙ってくれ!」

さやか「よっしゃぁ、まかせといて!」

杏子・さやか「「うおぉぉぉぉぉっ!」」



カツーン

さやか「やった!勝ったよ!杏子」

杏子「ああ、あんたのおかげだよ、さやか」

杏子「…このグリーフシードは、さやかにあげる」

さやか「え!?いいよ、私は。それより杏子が使いなよ」

さやか「あんた結構魔力使ってたじゃない」

杏子「ううん、あたしは大丈夫なんだ。だから、あんたが…」

さやか「それじゃぁ、二人で今すぐ使おう」

杏子「え?」

さやか「2人分の穢れくらいなら、吸い取れるよね!」

杏子「あ、ああ、そうだな」

シュゥゥゥゥゥゥ

さやか「…」

杏子「…」

QB「あ、もうそのグリーフシード危ないよね!僕がちゃんと処分してあげる!ほら、貸して!ぽいっ!…きゅっぷい!」

さやか「QB、出番欲しいだけじゃないの?あんたは」

QB「そんなことないよ、これは僕の大事な仕事の一つさ!」

杏子「ありがとう、さやか」

さやか「もう、そんなの気にしなくていいからさ!」

杏子「でも… あっ」

さやか「きょ、恭介…」

上条「やぁ、君達がまた口論になってるのかと思ってたけど」

上条「仲直りどころか、すっかり仲良くなったみたいだね」

さやか「ははは、そ、そうなんだ!あは、あはは」

杏子「さやか」

さやか「あ…うん」

さやか「あのね、恭介…」

上条「何だい?さやか」

さやか「…すー」

さやか「…はー」



さやか「私は、私は恭介のことが好き」



上条「…え?」

さやか「私、美樹さやかは上条恭介のことが好きです!」

杏子「ひゅー」

上条「さ、さやか?」

さやか「ごめんね、恭介。恭介と仁美が付き合い始めたのは知ってる」

さやか「だけど、この気持ちだけはどうしても伝えたかった」

さやか「嘘偽りの無い、本当の気持ち」

さやか「私は恭介のことが大好きなんだ!」

上条「さやか…」

杏子「…」

さやか「…」

上条「…」

上条「あのね…」

さやか「あーーーごめん!本当このタイミングで迷惑だったよね!」

さやか「仁美はさ、とってもいいやつだよ。私が保証する!」

さやか「だから、大事にしてあげて欲しいな。恭介」

上条「あのね、さやか、僕は…」

さやか「わーーーーもういいから、本当にごめんって!」

上条「さやか!」

さやか(ビクッ)

上条「僕の話を聞いて欲しいんだけど」

さやか「…」こくん

上条「今僕は2つ驚いたことがある」

さやか「…うん」

上条「一つは、僕と志筑さんが付き合っているということ」

さやか「?」

上条「いったいいつから僕が彼女と付き合っていることになってるんだい?」

さやか「…へ?」

さやか「だ、だって昨日、仁美が恭介に告白するって言ってたし、実際とても楽しそうにおしゃべりしてたから…」

上条「覗き見は感心しないな」

さやか「…ごめんなさい」

上条「たしかにね、志筑さんは魅力的な女の子だと思う。とても人付き合いの良い優しそうな子だ」

さやか「…」

上条「でもね、やっぱり僕は、僕の進んでいる道を理解してくれる子のほうが良いんだ」

さやか「…え?」

上条「志筑さんはいろいろとお稽古事を習っているようだけど、僕の携わる音楽の道からは離れている」

上条「いろいろな会話は弾むけど、ただ楽しそうに感じる、というだけなんだ」

さやか「…」

上条「だから、僕は志筑さんの申し出をお断りさせてもらったよ」

さやか「嘘…!?」

上条「そして二つ目」

上条「さやかが僕のことを異性として意識していてくれたこと」

さやか「…へ?」

上条「いつも気軽に話せる友達みたいな感じで話をしていてくれたから、今までそんな風に思ってくれているとは思わなかったんだ」

さやか「は、ははは、そ、そうなんだ」

杏子「さやかもがさつい所あるからなぁ」

QB「杏子もね」

ゴス!

QB「きゅっっ」

上条「だから、僕はさやかのことが本当の意味で好きなのかどうかが、まだよくわからないんだ」

さやか「…そうなんだ」

上条「でもね、一つだけ、確かなことがあるよ」

さやか「?」

上条「さやかとは、これからもずっと一緒にいたいんだと思う。これが本当の気持ちだ」

さやか「恭介ぇ…」

ギュッ

さやか「恭介恭介恭介恭介!」ギュウウウ

上条「これからも宜しくね、さやか」

さやか「うん!」

杏子「ふふ、良かった。さやかがあんなにくしゃくしゃに笑ってるところ、初めて見たよ」

杏子「良かった、本当に良かった…」

~帰り道~

さやか「ねー、杏子」

杏子「なんだ?さやか」

さやか「…ありがとね」

杏子「ははっ、気にすんなって」

杏子「貸し1だな!」

さやか「それじゃぁ、早速借りを返そうかな?」

杏子「は?」

まどか「杏子ちゃーん!さやかちゃーん!」

さやか「おー、まどかー。こっちこっちー」

杏子「?まどか、どうしてこんな所に?」

まどか「え?私、さやかちゃんと杏子ちゃんと3人でマミさん家に行くって聞いてたから…」

杏子「!?」

杏子「さやか…」

さやか「…」

杏子「帰る…」

ガシッ

杏子「おい、手を離…」

さやか「杏子、あんたも逃げようとするのか?」

杏子「え?」

さやか「あんた、言ってたよな。自分から逃げるなって。あれ、杏子自身にも言えるよな」

杏子「あたしは別に逃げてなんか…」

さやか「そういう態度がもう逃げてるんだよ!」

杏子「…」

さやか「私、マミさんから聞いたよ。あんたとマミさんの過去」

杏子「…」

さやか「たしかにあんたには辛いことがあったのかもしれない」

さやか「マミさんと別れた時じゃ、まだ心の整理がついてなかったのかもしれない」

さやか「でもさ、もう大丈夫だろ?」

杏子「あたしは、まだ…」

ぎゅ ぎゅっ

杏子「え?まどか?さやか?」

まどか「杏子ちゃんには私がついてるよ!」

さやか「私だって一緒なんだ!もう一人で苦しむ必要は無いじゃない!」

杏子「まどか…さやか…」

杏子「でも、マミはあたしのこと、許してくれないと思う…」

さやか「そんなわけ無いって」

まどか「マミさんいつも佐倉さん佐倉さんって言ってるから、ちょっと嫉妬しちゃってるんだよ!」

杏子「そ、そうなのか…?」

杏子(そういやこの前も、ずっと待ってるって、言ってくれてたっけ…)

さやか「だからさ、もう一度始めようよ!」

まどか「ね?」

杏子「うん…、ありがとう、まどか、さやか」

杏子「キョースケもさやかも前に進んだんだ。あたしだけ立ち止まってちゃ駄目だよな!」

QB「ようやく素直になったようだね、杏子も」

杏子「…」

さやか「…」

まどか「…」

QB「何だい?僕が出てきたことが何かおかしいのかい?」

さやか「それじゃ、行こっか」

杏子「ああ」

QB「ちょっと、僕を無視しないで欲しいな」

ひょい

QB「あ」

まどか「行こっ、QBも」

QB「そうだね!まどか!」

~マミハウス~

マミ「…」

マミ「はぁ…」

マミ(佐倉さん、やっぱり戻ってきてはくれないのかしら…)

マミ(この先の戦いのことを考えると、勿論戦力的な意味でも大きく違ってくるのだけど)

マミ(やっぱり私は、個人的な付き合いとして彼女と仲直りがしたい…)

マミ「はぁ…」

ピンポーン

マミ「?こんな時間にだれかしら」

インターホン『こんばんは、マミさん。私です、さやかです』

マミ「あら、美樹さん!いらっしゃい。ちょっと待っててね」

ばたばたばた がちゃ

マミ「いらっしゃい、美樹さん。あら?」

まどか「えへへ、お邪魔します」

マミ「鹿目さん!ええ、大歓迎よ。さぁさぁ、入って入って」

まどか「あのぉ、もう一人、いるんですけど大丈夫ですか?」

マミ「もう一人?(お友達かしら?)」

マミ「ええ、いいわよ」

まどか「だって、杏子ちゃん」

マミ「…え?」

杏子「よ、よぉ…」

マミ「佐倉…さん」

杏子「この前は、悪かったよ、マミ」

杏子「あれからいろいろあってさ、あたし」

杏子「だから、その…  あっ」


ギュッ


マミ「佐倉さんっ…」

杏子「ちょっ、マミ、苦しいって」

マミ「良かった…佐倉さんがうちに来てくれた…」

マミ「あの時、もううちには来ないって、そう言われたから…」

杏子「…」

杏子「マミ…さん」

マミ「え?」

杏子「マミさん、あたし、もう一度でいいから、また皆と一緒に戦いたい」

マミ「佐倉さん…」

杏子「あたしはマミさんと別れてずっと一人だったから、皆と一緒にいる時の気持ちをすっかり忘れてしまってた」

杏子「でも、まどかが友達になってくれた。さやかが友達になってくれた」

杏子「だから、あたしはマミさんとももう一度友達になりたい」

マミ「ええ…私も、私も佐倉さんともう一度お友達になりたいの」ぐすっ

さやか「へへ、良かったね、マミさん、杏子!」

まどか「わたし…もらい泣きしちゃったよぉ… ひっく」

杏子「ありがとう、まどか!さやか!マミさん!」

マミ「こちらこそ、皆、ありがとう。これで、もう何も怖くないわ!」

さやか「魔法少女トリオ結成だね!」

まどか「なんだかすごい感じがするよぉ… ぐすっ」

さやか「まどかもいい加減泣き止めよー」

まどか「ええー」

杏子「はははは」

マミ「くすくすくす」



杏子(これって、奇跡だよな…)

杏子(あたしなんかがこうしてまた、マミさんと一緒にいられる時が来るなんて)

杏子(まどかやさやか達と友達になれるなんて)

杏子(やっぱり、神様はちゃんと見ていてくれていたのかな)

杏子(あんなに諦めに満ちていたあたしを救ってくれるなんて…)

杏子(…)

杏子(諦めに満ちた、目)

杏子(そうだ、あいつも救ってやらねーといけないんだ)

杏子(まどかを友達と言った、あの黒髪の女、暁美ほむらを)

杏子(でもどうやって…)

杏子(…とりあえず、やるべきことはあれしかないか)

杏子「マミさん、まどか、さやか、ちょっとお願いがあるんだ」

マミ「何かしら?」

さやか「恭介はやらないぞ!」

まどか「ははは、さやかちゃんったら」

杏子「この後なんだけど…」

~見滝原市 銭湯~

かぽーん

ほむら「…」

ほむら「はぁ…」

ほむら(風見野の魔女の数を減らして、佐倉杏子を見滝原に誘導することには成功した)

ほむら(運よく杏子があのお菓子の魔女を倒してくれたおかげで、巴マミの命は繋がった)

ほむら(美樹さやかが魔法少女になってしまったのは誤算だったけど)

ほむら(どうやら、上条恭介との仲に問題はなさそうね。これなら彼女が魔女になることはない)

ほむら(まどかも今のところは魔法少女になる気配はない)

ほむら(あとはあの3人がワルプルギスの夜を倒してくれれば…)

ガラガラッ

ほむら「…」

ほむら(せっかく貸しきり状態だったのに、こんな時間に入ってくるのは誰かしら?)

まどか「わー、やっぱり広いお風呂はいいよね!」

ほむら「!☆△■◎!?」

ほむら(ま、まどかの…アソコが……)

杏子「こらこら、あんまりはしゃぐと他の客に迷惑だぞ?」

まどか「はーい」

ほむら(佐倉杏子、また入りに来たのね…)

ほむら(できればこれ以上関わらないようにしたいのだけど… あれ?)

ほむら(あのシルエット、タオルで隠しようのないあの品のない胸…まさか…)

マミ「私、銭湯なんて初めてだわ」

さやか「えー、本当っすか?マミさん」

マミ「ええ。それにしても、本当に大きいわね」

さやか「こういうところに来ると、泳ぎたくなっちゃうよね!」

マミ「ええ、そうよね!」

杏子「…」

まどか「…」

さやか「あ、あれ?二人とも、どうしたの?」

杏子「何でもねーよ…」

ほむら(あの子達が気がつかないうちに…)コソコソ

まどか「あ、あの時の!」

ほむら(ビクッ)

杏子「よぉ、ほむら。また会ったな」

まどか「こんばんは!ほむらちゃん!」

ほむら「!」

ほむら(あぁ、まどか…またほむらちゃんって、呼んでくれた…)

さやか「何々~?二人に知り合い?」

マミ「お友達かしら」

ほむら「…こんばんは」

杏子「こいつは、あたし達と同じ、魔法少女だ」

マミ・さやか・まどか「「「!?」」」

ほむら「ちょっと、杏子!あなた何考えてるの!?」

杏子「詳しいことはあたしも知らねえし、こいつも話そうとはしてくれない」

杏子「でもな、こいつの目だけは別だ」

杏子「ほむら、あんたは何でいつもそんなに全てを諦めきった目をしてるんだ?」

ほむら「っ!それは…」

ほむら「あなた達には関係ないわ」

杏子「まどかにも、か?」

まどか「…え?」

ほむら「…その事は話さないでって言ったはずだけど」

杏子「そんなの記憶にないね」

ほむら「…」

マミ「暁美、さん…だったかしら?あなたも魔法少女って、本当なの?」

ほむら「ええ、そうよ。だったら… はぁ?」

マミ「(にこにこにこにこ)」

さやか「うわぁ、マミさんすっかり獲物を見つけたときの笑顔だ」

まどか「私達と会ったときも、こんな感じだったよね…」

マミ「暁美さん!私達と一緒に戦ってくれないかしら!ぜひお願いしたいの!!」ぐいぐい

たぷたぷ むにゅぅぅ

ほむら「…(胸をおしつけないで…嫌がらせなの!?)」

まどか「あの、ね、ほむらちゃん」

ほむら「…何かしら、まどか…  あ」

まどか「ふふ、やっぱり。ほむらちゃんは私のこと、知ってるんだよね?」

ほむら「…ええ、そうよ」

まどか「だったら、私もほむらちゃんのこと、もっと良く知りたいな?」

ほむら「それは…」

まどか「だって不公平だよ!ほむらちゃんばっかり私のこと知っているなんて」

まどか「それに、私ほむらちゃんともお友達になりたいの!」キュッ

ほむら「あ…」

まどか「だからね?皆とお友達になって、くれないかな?」

ほむら「まどか…」

ほむら(どうしよう…、せっかくここまで直接会うことはしないようにしてきたのに…)

ほむら(でも、佐倉杏子と巴マミが共存し、美樹さやかも危機を脱出した)

ほむら(それなら、一緒になっておいた方が、ワルプルギスの夜を倒せる可能性がグッとあがるということなのかしら。だったら…)

ほむら「…わかったわ、まどか、杏子、美樹さやか、巴マミ」

さやか「なんで私とマミさんは苗字付き?」

マミ「シッ、そんなこと些細なことよ?美樹さん!」

ほむら「これからしばらくの間、私はあなた達に協力させてもらうわ」

まどか「ほんと?ほむらちゃん!」ブンブン

ほむら「ええ、本当よ(ああ、まどかが私の手を握って…)」

杏子「それじゃ、これから宜しくな、ほむら!」

ガシッ

ほむら「ええ、杏子」

杏子「(ニカッ)」

ほむら「…何を笑っているのかしら?」

杏子「あんたとも、これで友達同士だなっ、て思ってな」

ほむら「…(どういう根拠かしら…?)」

さやか「私、美樹さやか。親しみを込めて『さやかちゃん』って呼んでくれていいよ!」

ほむら「ええ、わかったわ、美樹さやか」ファサッ

さやか「超クールだよ!あんた!」

マミ「(にこにこにこにこ)」

ほむら「よ、宜しくね、巴マミ」

マミ「ええ!(新しい仲間がこんなにもたくさん!もう何も怖くない!)」



マミ「それじゃぁ、私たち5人の出会いに、乾杯!」

杏子「やっぱコーヒー牛乳だよな!」

ほむら「…(あと何回飲めば巴マミの様な胸になるのかしら…)」

まどか「フルーツ牛乳、ありがとうございます!」

マミ「うふふ、いいのよ。皆の分くらい私におごらせて頂戴!」

さやか「さっすがー、マミさんふとっぱらー」

QB「ねえ、マミ。僕の分はあるのかい?」

マミ「?(にこにこにこ)」

QB「だから、僕の分は…」

杏子「はー、うまかったな!」

さやか「それじゃ、帰ろっか」

マミ「そうね!皆、行きましょう!」

QB「…」

まどか「QB、私の残り、あげる」

QB「ほ、本当かい!ありがとうまどか!」

ほむら「!」ヘンシン!

カシャ



カシャ

まどか「はいっ…て、あれ?さっきまで残ってたのに…」

ほむら「げふっ」ファサッ

QB「わけがわからないよ!」

~帰り道~

マミ「それじゃあ、おやすみなさい」

さやか「おやすみー」

まどか「おやすみ、さやかちゃん、マミさん!」

ほむら「それじゃぁ、私もこれで」

まどか「うん!ほむらちゃん、おやすみ!」

ほむら「ええ、おやすみ、まどか」

ほむら「…佐倉杏子」

杏子「?あたしに用かい?」

ほむら「あなたには、感謝しているわ」

杏子「なんだい、改まってさ」

ほむら「あなたは巴マミを助け、美樹さやかを助けてくれた」

杏子「?ああ」

ほむら「そして、私のことまで助けようとしてくれているのね」

杏子「まぁな」

ほむら「だったら、私のことはいいから、どうかまどかのことを助けてあげて」

杏子「その話だったら前も聞いたぞ」

杏子「ちゃんとまどかのことも守ってやる」

杏子「だから、あんたはあんたがやらなきゃいけないことだけをやればいい」

杏子「あるんだろ?あんたにも」

ほむら「…ええ」

ほむら(まどかを救う、私にとってたった一つだけ、最後に残った道標…!)

ほむら(必ず貫き通してみせる!)

まどか「杏子ちゃん?」

杏子「ああ、今いく」

杏子「じゃぁな、おやすみ、ほむら」

ほむら「ええ、さよなら、杏子」

=====
==
杏子「足手まといを連れたまま戦わない主義だろ?」

杏子「いいんだよ、それが正解さ」

杏子「ただ一つだけ、守りたいものを最後まで守り通せばいい」

ほむら「杏子…」
==
=====

~翌朝~

ちゅんちゅん

杏子「……」

杏子「また、夢か…」

杏子「ほむら…あいつはどうして、あそこまでまどかを守ろうとするんだ?」

杏子「あいつがまどかを守る理由…」

まどか「むにゃ…杏子ちゃん?」

杏子「あ、ああ、おはよう」

まどか「てぃひ!おはよう、杏子ちゃん」

まどか「?何か怖い夢でも見たの?」

杏子「いや、何でもねーよ」

まどか「そう?変な杏子ちゃん」

杏子「…」

杏子(…)

杏子(あいつはきっとまだ何か隠してる)

杏子(そいつを聞き出して解決しねー限り、あいつを救うことにはならねーんだよな…)

TV『明日夕方から夜遅くにかけて、見滝原周辺は大荒れの天気となるでしょう…』

詢子「明日は早く帰ってこないとダメみたいだなー」

タツヤ「タイフーきたー?」

和久「佐倉さん、コーヒーのおかわりはどう?」

杏子「…」

和久「佐倉さん?」

杏子「あっ、ああ、いただきます」

まどか「?(どうしたんだろう…?)」



まどか「行ってきまーす」

和久「今日は早めに帰ってくるんだよ?」

まどか「はーい」

タツヤ「いってらっしゃいー」

バタン

杏子「さて、と…」

杏子(ほむらに問い詰めねーといけないな)

杏子(しかし、あいつの住んでいる家なんて知らねーぞ?)

杏子(またあの銭湯にいかねーと駄目か…。できるだけ早いうちに聞いときたかったんだけどな…)

クイクイ

杏子「?」

タツヤ「どったの?姉ちゃん。おなかいたい?」

杏子「!(そんなに怖い顔してたのか?あたし)」

杏子「大丈夫だよ、タツヤ」なでなで

タツヤ「へへへー」

杏子「それじゃ、あたしも出かけてきます」

和久「行ってらっしゃい。遅くならないでね」

杏子「はい」

杏子(とりあえず、マミさんに相談してみるか)

杏子(あー、でもマミさんも学校じゃねーか…)

杏子(…)

杏子「一度風見野の方に戻ってみるか」

~風見野~

ほむら「消えなさい」

魔女「 … ・ ・」ヒュゥゥゥ

ほむら「ふぅ」

カツーン


ほむら「これで18個目。あいつを倒すにはまだまだ足りないわね」

杏子「風見野の魔女を狩ってたのはあんただったのか、ほむら」

ほむら「…杏子」

ほむら「ごめんなさい、あなたはこういうことされると怒るのだったわね」

杏子「いいさ」

杏子「あたしたちはもう風見野と見滝原の両方を管理するチームみたいなものだ」

杏子「気にする必要はねーよ」

ほむら「なら助かるわ」

杏子「…ほむら、あんたに話がある」

ほむら「何かしら?私は早くグリーフシードを集めないといけないの。手短にね」

杏子「ほむら、あんた一体何を隠してやがる」

ほむら「…別に、何も隠してなんかいないわ」

杏子「あんたがそこまでまどかに固執する理由、一体何なんだ?」

ほむら「…それを知って、あなたはどうしようというの?」

杏子「あんたを助ける」

ほむら「あなたにそこまでしてもらう義理はないわ」

杏子「いや、あるよ」

杏子「ほむら、あんたはあたしの友達だからな」

ほむら「友達…だから?」

杏子「まどかやさやか、マミさんはあたしのことを救ってくれた」

杏子「だから今度はあたしがあんたを救う番だ」

ほむら「救う救うって…」

ほむら「簡単に言わないで。本当にそれができるのなら、私はもうとっくの昔に救われているわ」

杏子「たしかに、この前までのあたしじゃ、あんたを救うことはできなかったと思う」

杏子「でも、今のあたしなら…」

ほむら「救える、とでも言いたいの?」

杏子「…ほむら、あんたもちょっとは他のやつらを頼れよ?」

杏子「さやかだっている、マミさんだっている。もちろん、あたしも…」

ほむら「魔法少女の真実を知ったとしても、まだそんなふうにいられるのかしら」

杏子「?魔法少女の、真実?なんだ?そりゃ」

ほむら「私に聞くよりも、そこにいる白い悪魔にでも聞いた方が早いと思うわ」

QB「…」

杏子「てめー、いたのかよ…」

杏子「それよりも、魔法少女の真実って、どういうことだ?おい」

QB「…聞きたいかい?」

杏子「…」

QB「やれやれ、暁美ほむら、君はどうやってその情報を手に入れたのかわからないけど」

QB「魔法少女達の中で、一番僕達のことを知っていることは確かだ」

ほむら「…」

QB「あのね?杏子。僕達が契約の際に、何でも1つ願い事を叶えてあげているのは知ってるよね?」

杏子「ったりめーだろ。そんなこと、あたしが魔法少女になる時点でわかってることだろーが」

杏子「…待て、僕達って、どういうことだ?」

QB「どういうことも何も、今ここにいる僕は、あくまでこの宇宙に存在するインキュベーターの1個体でしかないということだよ」

杏子「インキュ…ベーター…!?」

ほむら「そいつらは『願い事』という甘い餌をぶら下げて契約を迫り、私達を魔女化という絶望へと落としいれようとしているのよ」

QB「餌だなんて失礼な言い方だね。これはあくまで対価と言って欲しいところなんだけど」

杏子「魔女…化!?おい、一体どういうことだ」

QB「君達魔法少女は魔力を使い切ったり、負の感情によってソウルジェムに穢れを溜めきったとき…」

QB「そのソウルジェムをグリーフシードへと変化させて魔女へと成長するのさ」

杏子「何…だと…!?」

QB「その際に発生するエネルギーこそが、僕達の本来の目的、宇宙を救うための大事な要素なのさ」

杏子「…QB、てめー何でそんなに大事なことを今まで黙っていやがった?」

QB「聞かれなかったからさっ!」ドヤァ

杏子「…」

ほむら「そいつには何を言っても無駄よ。『聞かれなかったから』の一点張りだから」

杏子「くそっ」ガンッ

杏子「ほむら、あんたはそのことを知っているから、まどかのことを…」

QB「でも、どうして君はそのことを知っているのかな?」

杏子「!そうだよ!あんた、こいつが喋ってないっていう情報、何で知ってるんだよ!?」

ほむら「…」

ほむら「あるところに、一人の女の子がいた」

杏子「おい、ほむら。何を言って…」

ほむら「心臓の病気でずっと入院をしていたせいか、体も弱く、頭も良くない女の子」

ほむら「眼鏡をかけたその女の子は、新しく転校した学校での生活がとても不安だった」

ほむら「その不安は見事に的中して、クラスの中では浮いた存在になってしまった」

ほむら「結局、自分は何のために生きているんだろう?周りに迷惑かけてばかりなんじゃないか」

ほむら「そう思ってしまった女の子は、魔女の結界へと迷い込み、魔女に襲わてしまったわ」

ほむら「…」

杏子「…?そいつは一体どうしたんだよ…?」

ほむら「そんな時、二人の女の子が、私を助けてくれたの」

ほむら「一人は金髪の格好良いお姉さん、もう一人は…」

ほむら「ピンクの髪をしたちょっと元気なクラスメイト」

杏子「!それって、まさか…」

ほむら「その日から、女の子はそのクラスメイトとお友達になった」

ほむら「とても仲良くなり、女の子はこんな幸せな日がずっと続くと思ってたわ」

ほむら「だけど、ある日巨大な魔女がやってた」

ほむら「女の子を助けてくれたお友達は、最後までその女の子を守り続けようとして、死んでしまった」

ほむら「女の子はとても悔しかった、悲しかった。最後まで守られるだけで何もできなかった自分が許せなかった」

ほむら「だから女の子はQBと契約をしたの。女の子が守れなかった、大切な友達を救うために、もう一度出会いをやり直したいと…」

杏子「…まさか、その女の子ってのは…」

ほむら「そう、鹿目まどかとの出会いをやり直し、いつか必ず救い出す」

ほむら「それが魔法少女、暁美ほむらの願い」

杏子「…」

QB「なるほどね、君は時を繰り返して来たというわけか。どうりで僕が契約をした記憶が無いわけだ」

ほむら「それからは、何度も地獄を見てきた」

ほむら「ある時は、最初と同じようにまどかは魔女に殺された」

ほむら「ある時は、まどかは魔女へと変貌してしまった」

ほむら「ある時は、まどかが魔女になる前に、私の手でまどかを殺した…」

杏子「っ…!」

ほむら「どうすればまどかが助かるのか、どうすれば運命を変えられるのか、その答えだけを探して、何度も始めからやり直して…」

杏子(何だよ、これ…)

杏子(こいつは、ほむらはあたしらとは桁外れに深い絶望の中で生きてきたってことかよ…)

杏子(…)

ほむら「佐倉杏子、私を救ってくれるというのなら、お願いだからまどかを守ってあげて」

ほむら「まどかの幸せ。それが、私の幸せでもあるのだから…」

杏子「…」

杏子「巨大な魔女、そいつが一番の壁というわけだな」

ほむら「…ええ、たしかにそうね」

ほむら「ワルプルギスの夜」

ほむら「私の知りうる限り、これまでで最強の魔女よ」

ほむら「あいつだけは、私が、私達が何度戦っても勝てなかった…」

ほむら「だから、いつもそこで終わってしまうの」

ほむら「たとえまどかが、その時点で魔法少女になっていなかったとしても」

ほむら「ワルプルギスの夜を倒す力を願い、魔法少女なってしまう」

ほむら「そして、ワルプルギスの夜を倒した瞬間、その魔力を使い果たし一瞬のうちに魔女になってしまう」

杏子「もうすぐ来るのか?そんな化物が」

ほむら「…ええ、そうよ」

ほむら「私は、できる限りの戦力が整うように影で動いてきた」

ほむら「今回はあなたも、美樹さやかも、巴マミも生きている。少しは希望が持てるわ」

杏子「本当に、か?」

ほむら「…」

ほむら「今は、まどかは魔法少女になろうとはしていない」

ほむら「これで私たちが負けるようなことになれば、まどかは間違いなく魔法少女になってしまう」

ほむら「私たちを助けるため、ワルプルギスの夜を倒す力を求めて」

杏子「…」

ほむら「もう、まどかがあんな姿になるのを見るのは嫌…。もうあの子が苦しむ姿…見たく…ない…」

ほむら「だんだんと…あの子が死んでいく姿を見るのに慣れてきてしまうのではないか、そう考えるだけで…もう、耐えられないの…」ぽろぽろ

杏子「ほむら…」

ギュッ

ほむら「きょ、杏子!?」

杏子「絶対に、まどかを助けるぞ」

杏子「それで、ほむら、あんたも助ける」

ほむら「…え?」

杏子「魔女化のことはさやかやマミさんには何とかごまかしてくれ」

杏子「さやかはともかく、マミさんがこの事を聞いたらどうなるかわからない」

杏子「誰一人欠けても駄目だ」

杏子「絶対に5人そろって、ワルプルギスの夜を乗り越える!」

ほむら「杏子、あなた…」

杏子「だから教えてくれ。あいつを倒すには、どうすればいいのかを」

杏子「あんたの力を、あたしたちに貸してくれ」

杏子「頼む…」

ほむら「杏子……」

ほむら「ええ、わかったわ。私にも、あなた達の力を貸して…」ギュッ

杏子「…」

杏子(皆が幸せになることが親父の教え、願いだった)

杏子(あたしも皆が幸せになる道を目指したい!)

QB「…」

QB(ワルプルギスの夜を相手に君達だけで勝てるとは思わないけど…)

QB(まどかへの契約の催促はぎりぎりまで待ってあげるよ)

QB(君達がどこまで運命を覆すことができるのか、僕達も見届けたくなったよ)

~夕方 マミハウス~

さやか「ということで、今からワルプルギスの夜対策作戦会議を始めちゃいますよ!」

杏子「さやか…、なんであんたが仕切ってるんだよ」

さやか「さやかちゃんが進行役じゃ不服というのかな?杏子君」

杏子「…さやかの場合話が先に進まない進行役じゃねーか」

さやか「何をー!?」

マミ「はいはい、二人ともそこまで」

マミ「相手は最強の魔女なのよ?ふざけてると痛い目合うわよ」

さやか「うん、そうだね」

杏子「ああ、気を引き締めねーとな」

まどか「本当に、大丈夫?皆…」

マミ「うふふ、大丈夫よ、鹿目さん」

さやか「そーだよ!まどか。私達4人の力が合わされば、どんな魔女相手でもへっちゃらさ!」

杏子「まどかは心配しなくていいよ。あたしらのことを信じて待っていてくれ」

まどか「…うん」

ほむら「まどか…」キュッ

まどか「ふ、ふぇぇ!?ほむらちゃん!? /// 」

ほむら「大丈夫よ、まどかのことは、私が必ず守るわ」

まどか「あ…、う、うん /// 」

マミ「…(いつの間にあんなにラブラブに…)」

さやか「それで、そのワルプルギスの夜って、いつくらいに来るの?」

ほむら「今の様子だと、多分明日の晩くらいね」

さやか「早っ!」

杏子「明日の晩、大荒れの天気になるって言ってたか。関係あるのか?」

ほむら「ええ、普通の人間からすれば災害として認識されるのがやつよ」

ほむら「あいつが通ったあとには瓦礫しか残らない…」

さやか「…(ごくり)」

マミ「それで、その魔女を倒す有効な手段っていうのはどういうのかしら?」

ほむら「それは…」

一同「~~~」

まどか「…」

まどか(私にはただ皆を見守るしかできないのかな…)

まどか(マミさん、さやかちゃん、ほむらちゃん、それに杏子ちゃん…)

まどか(私だって、皆の役に立ちたい。皆を守りたいよ…)

QB「…」ジーッ

QB(やはりまどかは自分も何かしたいって考えているようだね)

QB(4人が何とかできるのならそれにこしたことはない)

QB(どうしてもという時は、まどかに契約をうながすしかないね)

QB(…)

QB(まどかが契約すればノルマを達成するくらいのエネルギーが回収できるかもしれないというのに)

QB(あまり乗り気になれないのはどうしてだろう…)

QB(わけがわからないよ)



マミ「それじゃぁ明日の夕方、また、ここでね」

さやか「はい!ごちそうさまでした、マミさん」

まどか「おやすみなさい!」

ほむら「さようなら」

杏子「明日も美味しいケーキ頼むよ!」

~帰り道~

さやか「じゃぁ、私こっちの方だから」

まどか「あれ?さやかちゃん家って逆方向じゃなかったっけ?」

さやか「へへ、ちょっとね」

まどか「あ…。そっか、頑張ってね! /// 」

さやか「おう! /// 」

杏子「?」

ほむら(上条恭介のところね…、全く…)

ほむら「それじゃぁ、私もこのあたりで」

まどか「ほむらちゃん!今日は私の家に泊まって行ってくれないかな?」

ほむら「!どうしてかしら」

まどか「私、まだほむらちゃんとあんまり話せてないから」

まどか「いっぱいおしゃべりしたいなって思って」

ほむら「…ごめんなさい、明日も早いから…」

まどか「そっか…ごめんね」シュンッ

杏子「…」

杏子((おい、今日くらいいいじゃねーかよ。まどか、寂しがってるぞ?))

ほむら((今ここであの子の家に泊まったら… あの子とこれ以上仲良くしたら…))

ほむら((私はもう戦えなくなってしまうかもしれない))

ほむら((私の心はそんなにも強くないのよ…))

杏子((…そっか、ごめん))

ほむら((いいえ、気にしないで))

杏子「…じゃあな、ほむら」

ほむら「ええ、明日、頑張りましょう」



まどか「…」

杏子「…」

まどか「ねぇ、杏子ちゃん」

杏子「?何だ?まどか」

まどか「魔法少女になるって、どんな感じ?」

杏子「!?」

杏子「…やめときな。そんなにいいもんじゃねーよ、魔法少女ってのは」

まどか「でもさ、杏子ちゃんは魔法少女になったんだよね?」

杏子「…それは」

まどか「さやかちゃんも、マミさんも、ほむらちゃんも」

まどか「皆、どうして魔法少女になったのかなって思って…」

杏子「皆、それぞれ譲れない願いがあったんだよ」

まどか「譲れない…願い?」

杏子「ああ、そいつにとって一番大切なこと」

杏子「戦いを受け入れてまでも守りたい願いさ」

まどか「…」

杏子「あんたもいつかはそんなモノが見つかるかもしれない」

杏子「だから、それまでは我慢しな」

杏子「あたし達に、あんたを守らせて」

まどか「杏子ちゃん…」

まどか「うん…、わかった」

杏子「よし。まどかはいい子だ」ナデナデ

まどか「ふふっ、それしても杏子ちゃん、さやかちゃんと同じこというんだね!」

杏子「はぁ?あたしがさやかと?」

まどか「うん!そっくり」

杏子「なんだかちょっとショックだな~」

まどか「てぃひひ!」

杏子「ははは」

杏子(この笑顔、絶対に守ってやらなくちゃいけない)

杏子(この子の家族のため、ほむらやさやか、マミさんのため)

杏子(それに、あたし自身のためにもな!)

~翌日~

放送『住民の皆さんは速やかに所定の場所に避難してください』

詢子「今日は会社もお休みだってさ」

和久「それは良かった。早いうちに非難した方がよさそうだね」

タツヤ「お泊りー」

和久「そうだよ。今日はお外でお泊りだー」

タツヤ「わーい」

詢子「まどかも学校休みなんだろ?一緒に行くぞ」

まどか「あ、う、うん…」

まどか(やっぱり、ついていっちゃ駄目なのかな…)

詢子「杏子ちゃんも急げよー」

杏子「あ、はい。あたしは先に荷物を回収してこないといけないので」

詢子「荷物?」

杏子「前に住んでた所のです。大事なものがあるので」

詢子「…避難場所はわかる?早く帰ってこれるか?」

杏子「はい、約束します」

詢子「…わかった。本当に気をつけるんだぞ」

杏子「ありがとうございます」

タツヤ「…キョーコ姉ちゃん…」

杏子「ふふ、大丈夫だよ」ナデナデ

杏子「ちゃんと戻ってくるから、安心しな」

タツヤ「うん…」

まどか「杏子ちゃん…気をつけて」

杏子「…ああ」

ギュッ

まどか「杏子ちゃん? ///」

杏子「ありがとう、まどか」

杏子「行ってきます」

まどか「…うん、いってらっしゃい」

~マミハウス~

マミ「皆、準備はいいかしら」

杏子「問題ないよ」

さやか「いよいよ決戦か~。く~、緊張するな~」ツヤツヤ

ほむら「あなたからはあまり緊張感を感じられないわね」

さやか「ほむら、あんた何気に毒舌だよね」ツヤツヤ

ほむら「あら、そうかしら?」

マミ「ふふ、ほらほら喧嘩しないで」

マミ「作戦は昨日たてた通りだけど…」

杏子「大丈夫、もうちゃんと頭の中に入ってるよ」

さやか「え?杏子が?本当に?」ツヤツヤ

ぽかっ

さやか「あいた!」ツヤツヤ

杏子「…さやか、殴るぞ?」

さやか「殴ってから言うなよ~!」ツヤツヤ

マミ「ふふふ、こらこら」

ほむら「…」

ほむら(これから生きるか死ぬかの戦いだというのに、変に気負った所が無い)

ほむら(これなら自然体で戦える…、少しは勝ち目があるかもね)

マミ「それにしても、さやかさん。今日はとってもつやつやしてるわね…」

杏子「ほんとだな、心なし血色がいいみたいだぞ」

さやか「へへへ~わかっちゃうかな~ /// 」ツヤツヤ

ほむら「そういえば昨日は…はっ、まさかあなた、昨日あの後上条恭介と…」

さやか「へへへ~」

マミ「ま、まさか、一線を越えたの?」

さやか「うん!恭介ったら恥ずかしがってて…って、もう!マミさんったら!変なこと言わせないで下さいよ!」

マミ「きゃっ、美樹さんすごいわ! //// 」

ほむら「嘘、私ですら(まどかとの一線は)まだだというのに…」

杏子「一線?何だそりゃ」

マミ「一線を越えるって言ったらアレしかないわよね?アレしか!」

ほむら「ええ、アレしかないわね」

杏子「?」

さやか「さっすが二人とも、やっぱりわかっちゃうか!」

さやか「恭介とキスしたこと!」

マミ「え?」

ほむら「は?」

杏子「おお、やるじゃねーか、さやか!」

さやか「ふふふふ、すっごく緊張したんだよ!…って、二人とも、どうしたの?」

マミ「い、いえ…」

ほむら「何でもないわ…」

杏子「??」

~見滝原 避難所~

ビュゥゥゥゥゥ

知久「風が強くなってきたね」

詢子「懐中電灯とか非常食とかちゃんと場所覚えといてよ」

まどか「うん、ママ」

タツヤ「わかたー」

詢子「それにしても、杏子ちゃん遅いね」

まどか「そうだね…(杏子ちゃん…)」

知久「もしかしたらどこかで迷ってるかもしれないね」

詢子「ちょっと私探してくる」

まどか「あ…」

詢子「まどかも来るか?」

まどか「ううん、今はここで待ってる」

まどか(杏子ちゃん、皆…)

~見滝原 ワルプルギスの夜出現予想地点~

杏子「いよいよだな」

ほむら「ええ…」

マミ「本当にここにワルプルギスの夜が現れるの?」

ほむら「ええ、予測では」

さやか「現れた瞬間に速攻で斬りかかっちゃえばいいんじゃないの?ほむら」

ほむら「そう簡単に近寄らせてくれる相手ではないわ」

ほむら「とにかく、昨日も話したけど、今までの魔女のことは忘れておいた方がいいわ」

さやか「忘れる?どういうこと?」

ほむら「それだけ規格外ということよ」

さやか「…」(ぶるっ)

さやか「だ、大丈夫だって!今までだって何とかしてきたんだから!」

さやか「それに今日は4人もいるんだし!」

さやか「絶対に勝って…って、みんなどうして黙ってるの?」

杏子「…」ビリビリ

マミ「…」ビリビリ



ほむら「…   来る!」


『5』

『4』



『2』

『1』


ゴゥンゴゥンゴゥンゴゥン…

ワルプルギスの夜「…HA」

ワルプルギスの夜「HAHAHAHA…」


ワルプルギスの夜「KYAHAHAHAHAHA」

さやか「な、な、な、何よ、あれ…」

マミ「あ、あれが」

杏子「ワルプルギスの夜…」

ほむら「生半可な攻撃は魔力の無駄遣いと覚えておいて!」

ほむら「最初から全力で行くわよ!」

マミ「え、ええ!」

さやか「だだだだだ大丈夫!」

ほむら(まずいわね…早くもやつの圧倒的な威圧感に飲み込まれている…)

杏子「さやか!マミさん!」

ガシッ

さやか「杏子!?」

マミ「ど、どうしたの?肩なんか組んで」

杏子「怖いのは皆一緒だ。だけど、ここであたし達がふんばらねーと見滝原は終わってしまう」

杏子「まどかも、ほむらも、助けられなくなる」

さやか「…うん」

マミ「…そうね」

杏子「絶対に、勝つぞ」

さやか「勝つぞ!」

マミ「勝ちましょう!」

ガシッ

ほむら「皆、力を貸して」

杏子「よしっ!」

マミ「見滝原マジカルヒロインズ、ファイトッ、オー!」

さやか「…」

杏子「…」

マミ「あ、あれ?」

ほむら「くすっ」

ほむら「ええ、行きましょう」

ほむら(そう、今度こそ終わりにするわ)

ほむら(この4人でなら…きっと…)

~見滝原 避難所~

詢子「やっぱり変だ。杏子ちゃん全然戻ってこない」

知久「どこか外で取り残されたり怪我してるのかも…」

詢子「私ちょっと見てくる!」

知久「駄目だよ!詢子さんまで危なくなる」

詢子「でも…」

タツヤ「ママー、パパー、のどかわいたー」

知久「ああ、うん。ちょっと待っててね」

まどか「あ、ジュースなら私買ってくる」

まどか「おトイレも、行きたいし…」

知久「それじゃぁ、お願いするよ」

詢子「早く戻ってこいよ」

まどか「うん!」

タッタッタッ



まどか「…」

まどか「ねぇ、QB」

QB「…、何だい?」

まどか「杏子ちゃんたち、本当に勝てるのかな…」

QB「…その目で直接見て確かめてもらうのが一番早いんだけどね」

まどか「それって、どういう…」

QB「…」

QB「暁美ほむら、美樹さやか、巴マミ、そして佐倉杏子」

QB「この4人はおそらくワルプルギスの夜には勝てないだろう」

まどか「!?そ、そんな!どうして!?」

QB「この4人に限ったことじゃない、世界中のどの魔法少女もあの魔女には勝てないだろうね」

まどか「だったらどうして?どうしてQBは止めてくれなかったの!?」

まどか「『その魔女には勝てないから逃げたほうがいい』、って!?」

QB「彼女達がこの見滝原を、細かく言えば君を守ろうとしているからだよ」

まどか「え?」

QB「まぁ、彼女達に何か言ったところで、その考えは変わらなかっただろうけどね」

まどか「そんな…」

QB「残念だけど、諦めるしかないよ」

まどか「ねぇ、QB」

QB「…何だい?」

まどか「私なら、私だったら、その魔女からこの街を守れるのかな?」

QB「…」

まどか「私だったらさやかちゃん、マミさん、ほむらちゃん、杏子ちゃんを助けられるのかな!?」

QB「…君の持つ魔法少女としての資質は絶大なものだ。願い事によってはおそらくどんな不条理であっても覆ることができるだろう」

まどか「だったら…」

QB「君は、本当にそれでいいのかい?」

まどか「え?」

QB「…まぁ、口出しするのは良くないよね。わかったよ、まどか」

QB「ただし、契約は彼女達の戦いを見届けてからにして欲しい」

まどか「ど、どうして?」

QB「彼女達、特に暁美ほむらと佐倉杏子は君が魔法少女になることを拒んでいる」

まどか「…」

QB「勝手に契約をしてしまったら、彼女達がどういう行動に出るかわからないからね」

まどか「…う、うん」

QB「それじゃぁ、ついて来るといい」

QB「魔法少女達の宿命の地へ」

QB(僕にできるのは契約を先に引き伸ばす様うながすことだけだ)

QB(暁美ほむら、佐倉杏子、あとは君達で何とかするといい…)

~ワルプルギスの夜~

ワルプルギスの夜「HYAHAHAHAHAHA」

さやか「マミさん!右狙って!右!」

マミ「狙ってる…わ!さっきからずっと…!!でも当たらないのっ」ドンッドンッ

ワルプルギスの夜「AHAHAHAH」

杏子「ちくしょう!何も効かねーじゃねーかよ!」

ドドドドドドド!

ほむら「残弾200っ…早く動きを止めて!」

ほむら(時間停止を使いたいけど、もう砂がほとんど残ってない…)

ほむら(最初の攻撃…時間停止による迫撃砲、タンクローリー、ミサイルの猛攻でも全くの無傷だったのが誤算だわ…)

さやか「くそ!当たれー!!!」

ワルプルギスの夜「HAHA…HAHAHAHAHA」

マミ「ああもう!どうしたらいいのよ!」

マミ「ティロ・フィナーレ!!」

ドゴォォォォン

ほむら「残弾120…巴マミ、それではただの無駄撃ちよ!」

杏子「ロッソ・ファンタズマ!」

杏子「多方向からの攻撃なら動きを止められる!」

ほむら「!駄目、杏子!危ない!!」

使い魔「キャハハハハハ」

杏子「な!?何だよ!?こいつら!」

バキィッ

杏子「ぐぁぁぁっ」

さやか「杏子!?こ、こいつらぁぁぁ!!」

ほむら「残弾50っ… 美樹さやか!怒りに身を任せて攻撃しては駄目!」

使い魔「キャハッ」

さやか「!?ひっ」

シュルン!

さやか「リ、リボン!?ありがとう!マミさん!」

マミ「気をつけて、美樹さん!」

ほむら「ぐっ、ラスト…」

ドンドンドンドン…


ワルプルギスの夜「A^HAHAHAHAHAHA」

QB「どうやら趨勢は決したようだね」

まどか「そ、そんな…」

マミ「う…、み、皆、大丈夫…?」

さやか「ぎ、ぎりぎり なんとか」

杏子「くそっ、何なんだよ、あれ」

ほむら「…」

杏子「ほむら、他に有効な方法ってのはないのか?」

ほむら「…」

杏子「おい、ほむら!聞いてるのか!?」

ほむら「…どうして、どうしてあいつが倒せないの」

杏子「?ほむら?」

ほむら「何度やっても…」

ほむら「何度やっても何度やっても何度やってもあいつに勝てないっっ!」

杏子「おい!ほむらしっかりしろ!」

さやか「ちょっと、ほむら!」

マミ「暁美さん!?どうしちゃったの!?」

ほむら「もう駄目なの!やっぱりあいつは倒せないの!私にまどかを救うことなんてできないんだわっ!!!」

杏子「あきらめんな!」

さやか「そうだよ!まだ何か方法がある!」

マミ「だから暁美さん、頑張りましょう?」

ほむら「あなた達にはわからない!私が、私が何度あいつと戦って、その度に絶望し、繰り返してきたかを!」じわ

杏子「ほむら!」

ほむら「もういいの、結局私が繰り返してきたことなんて…意味が無かったの!」じわじわじわじわ

杏子「ほむ…」





まどか「ほむらちゃん!」



さやか「え?」

マミ「か、鹿目さん?」

杏子「まどか…何でここに…」

ほむら「まど…か?」

まどか「…」

ほむら「まどか!ここは危険よ!遠くに逃げて!」

杏子「ぐっ、あたしがなんとかする!」

まどか「ほむらちゃん、杏子ちゃん…」

まどか(今私がここであの言葉を口にすれば、ほむらちゃんや杏子ちゃんはきっと怒っちゃう…)

まどか(さやかちゃんやマミさんだってきっと止めようとする…)

まどか(ここにいることが、すごく怖い…)

まどか(だけど、何もできずに皆が死んじゃう姿を見るのなんてもっと怖い…)

まどか(自分勝手だってわかってる)

まどか(それでも私は、皆を守りたいの…)

まどか(皆を、守らせて欲しいの…)

QB「…(まどか…)」

まどか「…さやかちゃん、マミさん」

まどか「ほむらちゃん、杏子ちゃん…」

さやか「まどか!」

マミ「鹿目さん!」

杏子「まどか!」

ほむら「まどか!」

まどか「皆、最初で最後の、私のわがまま、聞いてくれるかな?」

ほむら「!?」

杏子「!?まさか」



まどか「ごめんね」



まどか「…私、魔法少女になる!」



杏子「なっ…おい!ちょっと待て!」

ほむら「な、何言ってるの?まどか…」

ほむら「まどか!そんなの駄目よ!あなたは魔法少女になってはいけない!」

まどか「ありがとう、杏子ちゃん、ほむらちゃん」

まどか「お話はね、QBから聞いたんだ。全部」

まどか「ほむらちゃんが私をずっと守ってきてくれてたこと」

まどか「杏子ちゃんがそのほむらちゃんを救おうとしてくれてたこと」

まどか「全部」

杏子「っ!QBぇ!」

QB「…僕は話してはいけないとは聞いてないよ?」

ほむら「この…」

QB「仮にこの話をしていなくても、まどかの意思はかわらないと思うけどね」

ほむら「そんなわけ…」

まどか「ううん?ほむらちゃん。本当だよ」

まどか「私が皆を守りたい気持ちは、皆の思っている気持ちと同じなの」

まどか「だから、私も、皆と同じ様に魔法少女になり、皆を守るの」

杏子「だからって…、あんたが魔法少女になっちまったらほむらが…」

まどか「大丈夫、私はほむらちゃんが悲しむような結末には絶対にさせない」

ワルプルギスの夜「HAHA…     ∀H∀H∀H∀H!」

マミ「!?ワルプルギスの夜の雰囲気が、変わった!?」

QB「まどかの魔力を察して攻勢に出てくるようだね。最早一刻の猶予も無い」

さやか「そんなっ…」

まどか「本当に、ごめんね…」

ほむら「まどか…」

まどか「QB!」

QB「…鹿目まどか、君はどんな願いでそのソウルジェムを輝かせるのかい?」

まどか「…私は…」

ほむら(駄目!時間を止めてまどかを…)

まどか「この街と皆を…」

カシャン




シーン

ほむら(え…?そんな、砂が…!?)

まどか「ワルプルギスの夜から守りたい!」

QB「君の祈りはエントロピーを凌駕した…さぁ、解き放ってごらん、君のその新しい力を…」

パァァァァァァァァァ

ほむら「まどかぁぁぁぁぁっ!!」



杏子「ちくしょう…まどか…なんであんたまで…」

まどか「…ごめんね、杏子ちゃん。いろいろ心配かけちゃって」

杏子「あたしはいいんだよ!それよりほむらの方が…」

まどか「ほむらちゃん…」

ほむら「っく、どうして…どうして魔法少女になっちゃったのよ…ひっく」

まどか「ごめん、ほむらちゃん。あなたが今まで何度も私のことを助けてくれたこと、聞いたよ」

まどか「あなたと初めて会った日から、いろいろ心配してくれてたことも、知ってるよ?」

ほむら「ぐすっ… まどかぁ…」

まどか「だから、泣かないで?ほむらちゃん」

さやか「まどか…」

マミ「鹿目さん…」

まどか「さやかちゃんも、マミさんも、ありがとうございます」

杏子「…」

まどか「杏子ちゃん…」

まどか「大丈夫だよ!私、絶対に皆を守るから!」

杏子「まどか…」

QB「まどか、急いだ方が良い。ワルプルギスの夜がこちらに向かってくる」

まどか「うん!」

バシュッ

マミ「これが鹿目さんの武器…」

さやか「綺麗…」

ほむら(…まどかの矢…何度見ても綺麗…)

ほむら(だけど、この輝きを見た後にはいつもまどかとの別れが待っている…)

ほむら(まどか…)

杏子「…」

杏子(結局、あたしじゃまどかを助けることはできなかったのか!?)

杏子(まどかだけでなく、ほむらも…)

杏子(救うだなんて、えらそーなこと言って、結局この様かよ…)

まどか「…杏子ちゃん」

杏子「!?な、なんだ?まどか」

まどか「あのね、一つだけ、お願いがあるの」

杏子「おい、縁起でもねーこと言うなよ…」

まどか「ふふ、ごめん」

まどか「もしもね、もしもだよ?私に何かあったら…」

杏子「おい!」


まどか「私に何かあったら、パパやママ、たっくんのこと、お願いしてもいいかな?」

まどか「私の家族を守ってあげて欲しいな」


杏子「やめろよ…そんなこと言うなよ!まどかぁ!」



ヒュッ


パァァァアアアアアア


さやか「!?まどかの放った矢が…」

マミ「街全体にドーム状になって広がっていく!?」

ワルプルギスの夜「∀H∀H∀H∀H∀H∀H!!!!!」

ほむら「…あ」

杏子「!(やつの吐く炎がほむらに向かって…!?)」

杏子「危ない!ほむらぁっ!」

シュウゥゥゥゥ

杏子「え!?」

さやか「炎が、消えた!?」

マミ「嘘!?」

ほむら「…(一体何が…)」

ほむら「やつの炎は、確かに私に直撃して…」

QB「なるほど、これがまどかの力か」

杏子「!?どういうことだ、おい!」

QB「まどかの願いは、ワルプルギスの夜からこの街とこの街の人々を守ること」

QB「したがってこの見滝原という地では、あの魔女の攻撃や影響を受けることは無いということさ」

ほむら「そ、そんなことが…」

QB「ただし、この力はあくまで見滝原限定ということになると思うよ」

QB「ワルプルギスの夜を倒すという根本的な解決には至っていない」

QB「まぁ、このままじっとワルプルギスの夜の攻撃が終わるのを待つといい」


マミ「あ…見て、ワルプルギスの夜が…」

さやか「消えていく…」

QB「次はいつどこで出現することになるかはわからないけど」

QB「とりあえずこの見滝原での危機は過ぎ去ったといっていい」

さやか「やったぁ!」

マミ「すごいわ!鹿目さん!!」

まどか「…えへへ……」

ほむら「杏子!グリーフシードを!」

杏子「わかってる!」

マミ「?どうしたの、暁美さん、佐倉さん」

さやか「あの魔女は倒せてないからグリーフシードは落とさないんじゃないの?」

ほむら「違う!まどかのソウルジェムがっ!」

まどか「よかっ…た…」

バタッ

杏子「まどかぁぁぁっ」

ほむら「っっ!!!」

さやか「嘘…ソウルジェムが…真っ黒に…」

杏子「くそっ、吸い取れ!早く吸い取れよ!!」

マミ「わ、私のも使って!」

ほむら「っ…」

まどか「あ…ごめん…ね、最後まで…迷惑…かけちゃった…」

杏子「まだだ!まだあきらめるな!」

QB「…君達の手持ちのグリーフシードでは到底足りないと思うよ」

杏子「うるせえ!」

QB「まぁ、願いが『ワルプルギスの夜を倒す力』ではなく、下位互換となる『ワルプルギスの夜による被害を防ぐ力』だったのが幸いしたようだね」

QB「少しだけだが、猶予があるようだ」

QB「おそらく前者だったら、ワルプルギスの夜を一撃で倒したと同時に、まどかのソウルジェムは…」

杏子「QB!」

QB「…まぁいいや。どうするんだい?このままなけなしのグリーフシードを無駄に消費し続けるのかい?」

さやか「私、家にあるストック取って来る!」

マミ「待って、私も行くわ!」

QB「言っただろう?君達が集めた程度の数では、まどかのソウルジェムを浄化することは不可能だって」

杏子「だったら…だったら何か手はあるのかよ!?」

QB「…方法が無いわけではないよ」

ほむら「!?」

杏子「本当か!?」

QB「だけど、それを君達に伝えるつもりはないし、それが実現するとも限らない」

さやか「ちょっと、QB!あんたまどかと友達なんでしょ!?だったら…」

QB「僕はあくまで契約を前提で彼女と共に行動をしていたんだ」

QB「その目的が叶った以上、わざわざ助ける義理は無いよ」

さやか「あんた…っ」ギリギリ

QB「…(それにしても)」

マミ「QBっ…」キッ

QB「…(やっぱり皆そろって同じ反応をするんだね)」

ほむら「(やっぱりこいつは、私達の敵…。私達をただのエネルギー源としてしか見ていない!)」ギリッ

QB「…(いつもどおりか)」

杏子「キュウべぇっ!」バッ

ほむら「!?」

マミ「さ、佐倉さん!?」

さやか「ど、どうしたの!?土下座なんてして…」

杏子「まどかを…助けて…っ!」

さやか「ちょっと…杏…」

杏子「こいつは…大切な友達なんだ…」

杏子「今まどかを失ったら、詢子さんや知久さん、タツヤが悲しむ…」

杏子「さやかだって、マミさんだって、ほむらだって…」

杏子「それにあたしだって嫌なんだ!」

QB「…」

杏子「あたしにできることなら何でもする」

杏子「何でも言うことを聞くから、何でもしてやるから…」

杏子「だから、キュウべぇ、まどかを助けてよぉ…」

さやか「私も!」バッ

さやか「お願いキュウべぇ!まどかを…まどかを助けて!」

マミ「キュウべぇ!」バッ

マミ「鹿目さんが助かるなら何でもするわ!だからお願い!」

ほむら「皆…」

バッ

ほむら「キュウべぇ…あなたはこんな私の願いなんて聞きたくないかもしれないけど…」

ほむら「私はどうなったっていい…」

ほむら「だけどどうかお願い…まどかを…皆を救って…」

QB「…やれやれ、君達人類が他人のために自らを差し出すという行為は、いまだに理解に苦しむよ」

QB「それに、まるで僕が直接まどかを救える様な話になってるみたいだけど、それは違うよ」

QB「あくまで僕はその補助をするだけだ」

杏子「…一体どういう…」

QB「さっき僕は言ったよね。君達の持っている数程度のグリーフシードでは全然足りないと」

さやか「うん…」

QB「だけど、これが世界中の魔法少女達の持つグリーフシードが集まれば話が変わってくる」

マミ「!そんなことが…」

QB「この際言ってしまうけど、僕は単一個体ではないんだよ。あくまでこの地球、この宇宙に存在する数多の同胞達の一人なのさ」

マミ「え!?それって…」

さやか「QBが何十匹も何百匹もいるってこと!?」

QB「まぁ、簡単に言えばそういう感じになるね」

ほむら「…」

杏子「なら、そいつらから少しずつでも分けてもらえれば…!」

QB「杏子、君は見知らぬ魔法少女からグリーフシードをくれと言われて、素直に渡すかい?」

杏子「あ…」

QB「他ならぬ杏子なら、これがどういうことかわかるよね」

マミ「つまり…知り合いならまだしも、一度も会った事のない魔法少女に貴重なグリーフシードなんてあげられない…ということかしら」

さやか「そんな…」

QB「まぁ、そういうことになるんだけど…」

QB「…」

QB「…やれやれ、君達人類というのはどうしてここまでお人よし…いや、情に弱いんだろうね?」

ほむら「それって、どういう…」

QB「ほむらなら知ってると思うけど、僕には過去に見てきた歴史、映像を君達に送り込めるのは知ってるよね」

ほむら「…ええ(過去の魔法少女達の悲劇をこいつに見せられたのだったっけ…)」

QB「世界中の魔法少女達に、危機に瀕しているとある魔法少女のためにグリーフシードを譲る気はあるかい、と聞いてみたところ、皆が皆出し渋ってたんだけどね」

QB「さっきの杏子の祈りを見せたとたん、こぞってグリーフシードを譲ると言い出したよ」

QB(まぁ、例外もいたけど、わざわざ話す必要もないね)

杏子「!?」

マミ「それじゃぁっ」

QB「ああ、間もなく大量のグリーフシードが届く。おそらくはまどかのソウルジェムを浄化しきるに十分な量がね」

ほむら「!まどかは…助かるの!?」

QB「あとはまどか次第だ。まどか、いままでの話、聞こえてたと思うけど」

QB「君はどうしたいんだい?」

杏子「まどか…」

ほむら「まどか…」

まどか「私は…、私はまた…みんなとおしゃべりしたリ…遊んだりしたい…な…」

まどか「だから…私は生きたい…」

まどか「皆と一緒に、生きたい…」

QB「わかったよ、まどか」

杏子「!それじゃぁ」

QB「ただし、条件が二つある」

ほむら「!?一体何が望みなの!?」

QB「…一つはまどかから得られる予定だったエネルギー源の確保」

杏子「なっ」

QB「僕達の目的はあくまでこの宇宙の救済だ」

QB「だからこの好機をみすみす逃すわけには行かない」

QB「ただ、今回のことで君たちの事をもっと観察し続けたくなった」

QB「別に今すぐエネルギーを要求しているわけではないよ」

QB「君達の子孫が魔法少女になってくれればそれでいい」

杏子「子孫?」

QB「君達の子孫なら誰でもいいよ。契約が可能な子なら問題ない」

さやか「…いいよ、私は」

マミ「私も」

杏子「…わかった」

ほむら「…わかったわ」

QB「交渉は成立だね。あと、もう一つなんだけど…」

QB「これは、まどかが助かってからでいいや」

ほむら「?」

QB「さぁ、間もなく大量のグリーフシードが届く。あとは君達が絶え間なくまどかのソウルジェムを浄化し続けるだけだ」

さやか「わかった!」

マミ「絶対に助けるわよ!」

杏子「ああ!」

ほむら「うん…まどかっ…」



まどか「…ん…」

ほむら「まどか!聞こえる?まどか!?」

まどか「ほむらちゃん…」

まどか「もう大丈夫だよ、ほむらちゃん。ありがとう」

ほむら「まどか…良かった……まどかぁ…」ギュゥゥ

まどか「ほむらちゃん苦しいよ」

さやか「まどか…本当によかった…」ギュッ

まどか「心配かけてごめんね、さやかちゃん」

マミ「鹿目さんが無事だったなら、それだけでもう十分よ」ギュッ

まどか「えへへ、マミさんも、ありがとうございます」

杏子「まどか…」ギュウッ

まどか「杏子ちゃん…ごめんね、さっきは変なこと言って」

杏子「良いよ、もう終わったことだから…」

QB「一件落着だね」

杏子「QBも…ありがとう」

ほむら「あなたのおかげで、まどかは助かった。礼を言うわ」

さやか「さっきは怒ったりしてごめん、QB」

マミ「QB、ありがとう」

QB「まったく、僕達のことを怒ったり憎んだりしたと思えば謝ったり、礼を言ったり」

QB「…君達人類は本当におかしな生き物だ」

QB「わけがわからないよ  きゅっぷい」

杏子「ふふ…」

マミ「それじゃぁ、帰りましょうか」

ほむら「ええ」

杏子「そうだな」

さやか「早く帰ろう!」

まどか「あ…  うん」

杏子「?」

~見滝原 避難所~

詢子「離して!まどかを…杏子ちゃんを探しに行くんだから!」

知久「まだ警報は解除されてない、危ないからもう少し待って…」

タツヤ「あ…姉ちゃんだ」

詢子「!?」

知久「!?」

まどか「パパ…ママ…」

まどか「心配かけて、ごめんなさい…」

詢子「こ…」

杏子「ごめんなさい、あたしが無理に付き合わせたんです」

詢子「この…」

まどか「ううん、私が勝手に…」

詢子「このバカ!」

パシン! パシン!

杏子「あ…」

まどか「ママ…」

ギュゥゥゥゥ

詢子「私とあいつが…どれだけ心配したか…っく、どれだけ怖かったか… ひっく」

まどか「ごめんなさい…ごめんなさい、ママ…」

杏子「ごめん…なさい…」

詢子「良かった…あんた達が無事で、本当に良かった…」ぐすっ

まどか「ママ… っく」

杏子「詢子さん…  ひっく」

ほむら「…」

ほむら「良かった…」

ほむら(これで、ここでの私の役目は終りね…)

ほむら(結局まどかは魔法少女になってしまった…)

ほむら(それでも幸せに生きて行けるのなら、思い残すことはないわね)

さやか「?ほむら、どこへ行くの?」

ほむら「私は…過去に戻るわ」

マミ「!?それ…どういうことかしら?」

ほむら「私の終着点はまどかが魔法少女にならずに幸せになること」

ほむら「これがなされない限り、私の戦いは終わらないの」

さやか「でも…」

QB「ああ、ほむら、ちょっといいかな」

ほむら「…何かしら。まどかを助けてくれた礼よ。話を聞いてあげる」

QB「それは助かるよ。実はね、さっき言ってた、もう一つのお願い」

ほむら「?」

QB「それは、暁美ほむら、君がこの時間に滞在し続けることなんだよ」

ほむら「!?何故そんなことを…」

QB「君がいつまでたってもやり直し続けるから、いつまでたってもこの宇宙の未来が定まらないのさ」

QB「いくらエネルギーを回収しても、最終的な未来にそのエネルギーが持ち越されないんじゃ意味が無いじゃないか」

ほむら「だからといって…」

QB「あと、ほむらがいなくなれば、まどかは間違いなくそのソウルジェムを再び真っ黒に染めることになると思うよ」

ほむら「それはっ…」

QB「だから、君にはこの時間軸でまどかと共に過ごして欲しいんだ」

ほむら「…QB、あなたの発言とは到底思えない台詞ね」

QB「全くだよ。エネルギー回収を優先するならこんなことは言わないはずなんだけどね」

QB「全く持ってわけがわからないよ」

ほむら「…まどか…」

ほむら(ここで私がいなくなったら、たしかにまどかがどういう行動に出るかわからない)

ほむら(でも…)

ほむら「そんなこと…、今まで幾多のループの中で置き去りにしてきたまどか達が…許してくれるはずなんて無いわ…」

さやか「どうして?」

ほむら「え…?」

さやか「そんなわけないじゃん、今までのまどかがどうだったかは知らないけど、ほむらのことを許さないとか絶対にありえないよ」

ほむら「どうしてそんなことが言えるの!?」

さやか「だって、あのまどかだもん」

ほむら「!」

マミ「そうよね、あの鹿目さんだもんね」

ほむら「あなた達…」

さやか「いつのどんなまどかだって、きっとほむらの幸せを望んでいるはずだよ」

さやか「だからほむらはさ、ここで、まどかと一緒に生きて行けばいいんだよ」

ほむら「本当に…本当にいいのかな…」

さやか「くどいぞ~」

ほむら「ごめんなさい…、うん、ありがとう」ぐすっ

さやか「全く、ほむらも泣き虫だなぁ」

マミ「こら、美樹さん」

ほむら「えへへ…」

マミ「!(今の暁美さん、なんだかすごく表情柔らかい…というより可愛いわ!)」キュピーン

さやか「こら、マミさん…」

マミ「な、何のことかしら…」

QB「…」

QB(暁美ほむら。たしかに、君はまどかと『QBに騙される前の私を救ってほしい』と約束を交わした)

QB(だけど、今回まどかは全てを知った上で、皆を救うために契約を交わした)

QB(君はまどかとの約束は破ってはいない…)

QB(むしろ、全てを知ったまどかに魔法少女となる決意をさせ、その願いを成就させたことで、君とまどかの約束は守られていると思うよ)

QB(だから、安心するといい、ほむら)

アナウンス『ただ今、見滝原全域に出ておりました各種警報は全て解除されました…』

まどか「よかった。これでお家に帰れるね!」

さやか「うんうん!早く恭介のところに行かなくちゃ!」

マミ「その前に皆で打ち上げでしょ?」

ほむら「だったら、上条恭介も、志筑仁美も皆呼んで、お祝いしましょう」

詢子「お、パーティーか?それなら皆うちに来な!」

さやか「え、いいんですか!?」

詢子「皆が無事に帰ることができたんだから、パーッと行くわよ」

さやか「さっすが、まどかのお母さん!」

知久「まどかにこんなにたくさんのお友達がいたなんて、びっくりしたよ」

まどか「へへへ」

知久「これは、腕を振るう甲斐がありそうだね」

マミ「私もお手伝いします」

知久「それじゃぁ、宜しく頼むよ」

ワイワイ

杏子「…」

杏子「へへっ」

タツヤ「キョーコねーちゃん、どったの?」

杏子「お姉ちゃんな、今とっても幸せなんだ」

タツヤ「しあわせ?」

杏子「ああ。友達が皆笑っててさ、家族同然の人たちも皆笑ってて、そんな輪の中で笑っていることができる自分がいる」

杏子「これこそが、親父が目指した『幸せの形』だったんじゃないかなって思ってさ」

タツヤ「わかんないー」

杏子「ふふ、あんたにもいつか、この幸せの意味がわかる日が来るよ、タツヤ」

杏子「それまでの間は、まどかお姉ちゃんや詢子ママ、知久パパがあんたのことを守ってくれる」

杏子「勿論…、あたしも守るよ。タツヤのこと」

タツヤ「うん!姉ちゃんだいすき!」

杏子「ああ、あたしも大好きだよ」

さやか「あー、杏子が3歳のいたいけな少年を誘惑してるー」

マミ「まさか…佐倉さんにそんな趣味が…」

杏子「ちょっ、おい待て!これはそういう意味じゃなくてなぁ! /// 」

ほむら「愛の形は人それぞれよ。私は応援するわ、杏子」

杏子「だーかーらー!」

まどか「くすくす」

QB「やれやれ、一時は杏子が一番魔女化に近いと思ってたんだけど」

QB「まさか、まどかという人間との出会いで、ここまで杏子の運命が変わってくるとはね」

QB「本当に人類というものは興味深い上に理解できない存在だ」

QB「これからもエネルギーを回収すると共に、君達人類の事を観察させてもらうとするよ」

QB「これからの宇宙の繁栄の為にもね!」

~Epilogue~

=20年後=

さやか・杏子「マミさん!ご結婚おめでとうございます!」

マミ「皆っ…ありがとうっ!!」

さやか「いや~、やっとマミさんも良い人を見つけられたかー」

マミ「本当…、もう年齢的に駄目かと思ったわ」

杏子「年齢って言ってもなー、あたし達は魔力である程度の老化を防いでるから見た感じ20代前半くらいなんだけどねー」

マミ「何度童顔って言われたことか…」

さやか「まーまーまー、めでたい席なんだからさ!」

さやか((あっちで燃え尽きている早乙女先生のことを考えてあげようよ…))

杏子((…たしかさやかの担任だった先生だよな…))

マミ((…))

マミ「美樹さ…じゃなかった、さやかさんは高校卒業したらあっという間に結婚しちゃうし」

さやか「へへへへ~」

杏子「キョースケ、元気にしてるか?」

さやか「うん!今日はコンサートで来れなかったけど、また今度お休みの時に遊びに来るってさ」

杏子「そっか」

さやか「杏子ってさ、実際のところ、恭介のことどう思ってたの!?」

杏子「え?」

マミ「何々、その話!(キラキラ)」

杏子「…(うぜえ)」

杏子「そりゃぁ、あたしもほんのちょっとは好きになりかけた時があったかも知れねーけどな」

杏子「あいつが入院してた時だけどさ」

さやか「そっか、なんか私がずるしちゃったのかな?」

杏子「バーカ、さやかとキョースケが話している所を見たら、誰だって割りこめねーってわかるぞ?」

さやか「へへへへ /// 」

マミ「青春ねー」

詢子「おー、杏子ちゃん達、何話してるのかなー?」

杏子「あ、詢子さん」

??「ママー」

杏子「おー、桃!いい子にしてるか?」

桃「うん!」

さやか「あ、桃ちゃん今年で3歳だっけ」

杏子「ああ」

杏子「そっくりだろ?あたしとあいつに」

さやか「本当だ。目元とか口元とか」

マミ「可愛い(キラキラ)」

さやか「でもねー、まさかあんたがあのたっくんと結婚するとはねえ…」

杏子「な、なんだよ!文句あるのかよ!?」

タツヤ「杏子姉ちゃん!」

杏子「コラ!タツヤ!いい加減姉ちゃんはやめろよ!」

タツヤ「でも、ずっとこの言い方だったから…」

杏子「全く…」

マミ「私も、ちょっとタツヤ君のこと、気になってたんだけどね」

タツヤ「えっええ!?ほ、本当ですか!?」

杏子「タツヤ…」ジトーッ

タツヤ「ご、ごめん、冗談だってば」

さやか「たっくんも大変だったよねー」

タツヤ「さやかさん…たっくんはもうやめてくださいって…」

さやか「杏子ってば、思春期の男の子がいる家の中で寝ぼけて下着姿で起きてきたり、風呂上りにパンツ一枚とかさ…」

マミ「佐倉さん…不潔ね」

杏子「しょ、しょーがねーだろ?癖だったんだからさ!」

タツヤ「 ///// 」

杏子「こら!思い出すんじゃねー! /// 」ポカッ

まどか「あー、皆もう来てるー」

さやか「おおー、まどか!」

マミ「鹿目さん、お久しぶり」

まどか「マミさんお久しぶりです!さやかちゃんも元気そうだね!」

杏子「まどか、あいつはどうしたんだ?」

まどか「あ、えーっとねえ…」

ほむら「まどか、あっちにウエディングドレスの試着コーナーがあるわ、是非着てみてもらえないかしら!」

杏子「…変わってないな」

さやか「…だね」

マミ「でもとても楽しそう」

桃「まどかおばちゃん!」

まどか「できればまどかお姉さんって、呼んでほしいんだけどなぁ」

杏子「まどか姉さん」

まどか「杏子ちゃんはそのままでいいからぁ…」

QB「桃には早く成長して欲しいんだけどね」

さやか「うわ!QBあんたもいたの?」

QB「さやかの家の子にも素質があるようだから、契約の件、覚えておいてね!」

さやか「…私、あの子を契約させる気は無いよ」

杏子「うちの桃もだぞ」

QB「え?君達、まさかあの時の約束を破る気じゃないだろうね」

さやか「そんなことないよ。ちゃんと約束は守る」

杏子「ただし、あたしらの100代くらい先の子孫でね」

QB「え!?」

さやか「だって、QB言ってたじゃん。子孫だったら誰でもいいって」

杏子「だから、あたしらのずっとずーっと先の代の子孫と、契約させてあげるって言ってるのさ」

QB「何代も先の子孫だなんて、聞いてないよ!」

さやか・杏子「聞かれなかったからね!」

QB「わけがわからないよ!!!」

さやか「それよりも、マミさん。そろそろ式の時間が迫ってきてるんじゃない?」

マミ「あら、ほんとだわ。いつの間に」

まどか「それじゃぁ、マミさん、また後で」

マミ「ええ!」

さやか「マミさん、幸せそう」

ほむら「ええ、そうね。そういうあなたも」

さやか「ほむらだって!」

ほむら「ふふ」

杏子「なぁ、まどか」

まどか「なぁに?杏子ちゃん!」

杏子「あの時のお礼、もう一度言わせてくれないかな」

まどか「あの時?」

杏子「昔、まどかがあたしのこと、友達って言ってくれた時のこと」

まどか「?」

杏子「あの時のあの言葉がなければ、多分あたしはこんなに幸せな人生を送ってなかったと思う」

まどか「大げさだよ!杏子ちゃん」

杏子「本当だぞ?」

まどか「ふふっ、それじゃぁ、もう一回しよっか」

杏子「え?」

まどか「杏子ちゃん!」ギュッ

杏子「あ…」まどかの手…暖かい…

杏子「うん!」

杏子「まどか!」

まどか「これからも私達…」

杏子「ずっと友達だ!」

=================

桃「ママー」

杏子「どうした?桃」

桃「ご本よんでほしいの」

杏子「どれどれ…って、おい桃、これ、どこで…」

桃「としょしつで見つけたの。女の子のえがかわいかったから」

『ごにんのまほうつかいのおんなのこ
        作:ほむら 画:まどか』

杏子(あいつら、いつの間に…)

桃「ママ、このご本のこと、しってるの?」

杏子「ああ。この本はな…」

杏子「愛と、勇気が勝つストーリーってやつなんだよ」

=================

~Fin~

ものすごく長文となりましたが、読んで頂いた方々、支援頂いた方々、どうもありがとうございました。

分量が多くなり、追加と修正の嵐ですっきりとした文章を書くのがいかに難しいかを実感しました。

・ワルプルギスの処理に再び苦戦しました。厄介な魔女です…

・このSSはハッピーエンドとなっています。途中までは、最終的にまどかが生きるか死ぬかで悩んでいましたが、ほむらと杏子がここまで必至に頑張ってきたことを考え、まどか生存ENDとしました。

・序盤の展開での上条×杏子ENDも少しだけ頭の中にありました。すぐに消えましたが。

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