男「今年こそサンタを捕まえる!」(122)

※この物語はフィクションです。登場する団体名・人物はすべて架空のものであり、
 現実とは一切関係ありません。


男「細工は流々……あとは待つだけだ。」

男「元旦から一日一膳、早寝早起きを徹底したのもすべて今夜のため。」

男「積年の恨み、今年こそ晴らしてやる。」

男「俺の新たな人生はこの復讐から始まるのだ。」

男「……消灯。」


男(そろそろか?)

《屋上感圧センサーに反応アリ》

男(到着したか)

《サーモグラフィーにより、人と断定》

男(間違いない。来たのだ、サンタが)

《赤外線センサーに反応》

男(やはり煙突から進入か)

《目標、煙突内を依然降下中。暖炉まで2m》

男(あと数十秒でここに到達するな)


?「メリークリスマース……」

男「Zzz……」

?「ふむ、よく寝てますね。」

男「……」

?「今年一年、いい子にしてたご褒美をお届けに参りましたー。」

?「えーと、この人のプレゼントは・・・・・・うん、これですね。」

?「むう……靴下がありませんね。枕元に置いておきましょうか。」

男「かかったな!」

?「え!? きゃあ!」


男「ふん、寝たふりも見抜けないとは、サンタも堕ちたものだな。」

女「ちょっと! この手錠はずしてください。プレゼントあげませんよ!?」

男「え? 女の子?」

女「女がサンタやって何が悪いんです!? 早く外しなさい。」

男「白ひげのジジイじゃないのはともかく、女とはね。」

女「サンタ界隈も人手不足なんです。この地区は私の担当で……」

男「まあいいだろう。サンタに変わりはないようだしな。」

女「今ならまだ許してあげます。プレゼントも差し上げますから、外してください。」


男「それはできないな。」

女「まだまだ配りに行かなきゃいけないプレゼントがあるんです。」

男「あきらめろ。」

女「洒落や冗談では済まなくなりますよ?」

男「覚悟の上だ。」

女「国際サンタ協会が黙っていませんよ?」

男「組織の威を借りて脅迫か、滑稽だな。」


男「へっ、国際サンタ協会? サンタに人権は無い。そうだろう?」

女「それはそうですが……」

男「規約はあっても法的拘束力は無い。」

女「うう……」

男「だからサンタに何をしても刑事罰の対象にもならない。」

女「あなた、何者ですか?」

男「どこにでもいる、ただのいい子だよ。」

女「いい子はこんなことしません!」


男「人権が無いということは、裏を返せば、サンタは他人の人権を尊重しなくてもいい。」

女「確かにそうですが、普通のサンタは尊重してます。」

男「また、サンタはどんな法的拘束も受けない。刑事罰の対象にもなりえない。」

女「それは、仕事柄どうしても不法侵入にあたるわけですから……」

男「仮にサンタが人を殺しても、人がサンタを殺しても、裁かれることは無いわけだ。」

女「でも、世間体には影響します。それが抑止力になってるわけで……」

男「復讐を思い立った人間が、そんなことを気にすると思うか?」

女「変な人のところへ来ちゃったなぁ……」


女「そもそもなんでこんなことするんですか?」

男「お前らサンタが憎いからだよ。」

女「そんな、サンタはみんなに愛されるお仕事です。恨みなんて買いません。」

男「自分たちに都合のいい所しか見てないからそう思うだけだ。」

女「そりゃあ、プレゼント貰えなかった逆恨みはあるかもしれませんが……」

男「黙れ。」

女「本人はいい子にしてたつもりでも、協会の査定は厳しいんです。それを恨んでも……」

男「黙れと言っている!」

女「ぐふっ!」


女「げほっ……うえっ……」

男「今、自分が置かれている状況を理解しろ。次は顔面にお見舞いするぞ?」

女「ううっ……」

男「俺の許可なく発言することは禁止する。分かったな?」

女「…………」

男「返事しろや、おらぁ!」

女「おぼっ!」

男「おっと、みぞおち入ったか?」

女「かはっ……カヒュッ、ヒュー……」

――――――――――

女「はっ! 私は・・・・・・え? なにこれ?」

男「起きたか? 悪いが、寝ている間に縛らせてもらった。」

女「いけない。今夜中にプレゼントを配り終えないと・・・・・・」

男「まだそんなこと言ってるのか。」

女「あ! ごめんなさい! もう殴らないで!」

男「ああ、さっきはちょっと頭に血が上りすぎていた。それは謝る。」

女「ついでに縄も解いてもらえると助かるんですが。」

男「それはできないな。それに、トナカイは綱を切って逃がした。ソリはもう動かせない。」

女「何て事を……」


男「ま、配りたければ徒歩で行くんだな。もっとも、まだ解放してやる気はないが。」

女「あなた、私になんの恨みがあるんですか?」

男「君個人を恨んでいるわけじゃない。初対面なわけだしな。」

女「私も恨みを買うようなことをした覚えはありません。」

男「まあ、この地域の担当だったことを呪えばいいさ。」

女「そんなにサンタが憎いんですか? サンタだったら誰でもよかったと?」

男「そういうことだな。うちに来たのが女の子だったのは嬉しい誤算だ。」

女「あ……」


男「そう身構えなくてもいい。今のところ襲う気はない。保証はしないがな。」

女「こんな人のお手紙を受理してしまうなんて、協会もずさんだわ……」

男「サンタさんへのお手紙に年齢制限はないし、俺は今年数え切れない善行を積んだ。」

男「それに、俺はサンタの存在を疑ってはいない。つまり、協会に落ち度はない。」

女「でも、こんなことをする人だと見抜けなかった。」

男「紙面からどうやって見抜くっていうんだ? それに、今や手紙の仕分けも機械化してるんだろ?」

女「効率化の代償だというの?」

男「そんなことはどうだっていいがな。今、大事なのは復讐の機会を得たことだ。」

女「なぜ、サンタをそんなに恨んでいるのですか?」


男「サンタが恨まれるのが不思議でしょうがないみたいだな。」

女「当然です。サンタは子供に夢や希望を与え、大人にとって躾けの助力となる誇り高いお仕事です。」

男「――と、協会から刷り込みされているだけだとしたら?」

女「そんなことはありえません。おねだりのお手紙はもとより、感謝のお手紙もたくさん届いています。」

男「そんなものが心の支えか? 恨みを書いた手紙など上が握り潰せるし、感謝の手紙も偽造は簡単だ。」

女「平行線ですね。水掛け論にしかなりません。」

男「だが、恨んでいる男がここに居る事実は揺るがない。それは否定しないな?」

女「そうですね……」


男「よっ……と。」

女「どこ触ってるんですか! あ、いやっ!」

男「こら、大人しくしてろ。」

女「んっ!! あふぅ……」

男「何を期待してる? これを取りたかっただけだぞ。」

女「期待なんて――え? あ! 私の認定証!」

男「国際サンタ協会・アジア支部・JPN事業所所属:準一級奨宅員……新米か。」

女「返してください。」

男「こんな経験の浅い若造に任せるから、悲劇が起こるんだ。」

女「経験の差は装備で十分に補っています。」


男「装備ねえ……これのことか?」

女「あ! 私のメリ・クリ☆ガジェット! 返して!」

男「大層な名前だな。ただのGPS付きデータベースだろう。」

女「なんで知ってるんですか?」

男「復讐のためにいろいろと調べさせてもらったよ。当然この機械についてもな。」

女「それにはいろんな個人情報が入ってるんです。あなたが見ていいものではありません。」

男「認定証が認証キーになっていることも調べはついている。」

女「ああ、駄目……やめて。」


男「安心しろ。他人の情報なんかに興味はないさ……」

女「それでも見ちゃだめですってば。」

男「あったあった、これだな……やっぱりか。ほれ――」

女「え? なんですか? 私に読めって言うんですか?」

男「ああ、読め。これは15年前の俺のお手紙だ。ちゃんとデータベースに入っていたようだな。」

女「さんたさんえ ぼくは くりすますぷれぜんとに かわいい いもうとがほしいです……」

男「どう思う? 馬鹿な子供のお願いだと思うか?」

女「いえ……お金やゲーム機を求めるよりは、子供らしい純粋な願いだと思います。」

男「そうだな。データを見る限り、受理も認可もされている。」

女「妹さんが可愛くなかったから恨んでるって言うんですか? 完全な逆恨みじゃないですか。」


男「何も知らないんだな。いいだろう、じゃあ翌年も見るがいい。」

女「サンタさんへ、ぼくはもうなにもほしがりません。だから、お母さんをかえしてください?」

男「何があったか想像してみろ。」

女「…………」

男「どうした? 何か言えよ。」

女「……わかりません。」

男「わからないで済ますの? そんな軽い覚悟で今夜中に~なんて言ってたんだ?」

女「私、去年からプレゼント配る担当になったので、昔の事は……その……」

男「無責任だよね? 誇り高い仕事とか言っておいて、昔のことは知らないで済ますの?」


女「その、何があったんですか?」

男「妹が欲しいという手紙は受理もされたし認可もされた、だが、履行はされていない。」

女「悪い子になったから?」

男「平たく言えばそういう事だ。いじめにあって仕返しをしただけなのにな。」

女「……え?」

男「4針縫う怪我を負わされた。子供は残酷だ。程度がわからない分、余計に。」

女「…………」

男「仕返しに上履きを隠しただけなのに、告げ口されて俺は悪い子。」

男「かたや主犯は、俺に怪我を負わせた事も含め、お咎めなし。」

女「あんまりじゃないですか!」


男「確かに俺のやったことは褒められたことじゃない。だが、妹が何をしたというんだ?」

女「まさか、妹さんは……」

男「お手紙の詳細を見ろよ。」

女「素行不良ニ付キ、胎内ヨリ没収トス……」

男「妹は生まれる前に死んだ……殺されたんだ。お前たちにな。」

女「ひどい……」

男「……妊娠7カ月の母親を道連れにしてだ。」

女「!!」


男「お母さんを返してっていう手紙も受理されてるよな?」

女「はい。でも、認可はされていません。」

男「なんで認可されなかったかわかるか?」

女「死者を生き返らせることはできないからです。」

男「受理された手紙の意向に沿えない場合、どう対処してるか知ってる?」

女「意向に近い代替品をプレゼントします。」

男「その年に俺がもらったのは、オセロだったぜ。マグネット入りのな。」

女「そんなの、そんなのってないです……」


男「ま、そのデータを見なければ、運が悪かったで納得したかもしれないが、これで確信したわけだ。」

女「だからサンタに復讐しようと?」

男「確信の無い事で復讐なんてしないさ。妹の件はいわばついでだ。上乗せ分は増えたがね。」

女「まだ、何かあるんですか……」

男「世間体が抑止力になるって言ってたよな?」

女「ええ。」

男「母が死んでから、親父は再婚もせずに俺を育てていた。」

女「それはとてもご苦労なさったでしょうね。」

男「上辺だけの同情なんていらないね。」


男「仕事ばかりであまり遊んでもらえなかったが、子供ながらに父には感謝していたよ。」

女「…………」

男「そんな父が俺を喜ばせようと、クリスマスプレゼントを買ってくれたんだ。」

女「いいお父さんですね。」

男「ああ、いい父親……だった。」

女「まさか――」

男「サンタ偽称罪。お前らが言いふらした親父の罪名だ。」

女「なんですかそれは!?」

男「俺が知るか。ただ、そのせいで親父の評判は地に落ち、仕事も切られ、首を吊った。」

女「ひどすぎます!」

男「息子を喜ばせようとした父親を自殺まで追い込むなんてヒドイ奴らだよね?」


男「親父は、用意したプレゼントを25日に枕元に置いただけなのにな。」

女「…………」

男「さて、納得してもらえたみたいだし。復讐を再開させてもらおうかな。」

女「うっ……うっ……」

男「泣くなよ。復讐のし甲斐がないだろ?」

女「だって……あなたは……」

男「とりあえず、袋の中のプレゼント、全部ラッピングはがしちゃおう。」

女「やめて! それを包むの大変なんです! 中身丸出しのプレゼントなんて!」

男「そうそう、やっぱりそういう反応が無いとね。」


女「ああ、全部剥がされてしまった……」

男「はっはっは、ナニコレ、商品丸出しで貰ってもぜんぜんドキドキしねえよ。」

女「なんてことを……また包み直さないと……」

男「まだそんなこと言ってるの? これを子供たちに無事届けられるとでも思ってる?」

女「なんとしても届けます。それが私の誇りなんです。」

男「じゃあ、せいぜい頑張ってね。縛り付けられたままじゃ、何もできないだろうけど。」

女「うう……」

男「そうだ、全部に俺の名前書いちゃおう。貰った子供達びっくりするだろうなぁ。」

女「なんて恐ろしい事を思い付くんですか! あなたという人は!」


男「どうせこれ、いろんなメーカーから落ちる寸前の在庫を貰っただけだろ。」

女「え?」

男「サンタのくせに何も知らないんだな。」

女「私達は……その、世界のいい子達が笑顔になれるように……」

男「戦隊モノの超合金、変身ヒーローのベルト、魔女っ子ヒロインのステッキ、どれも旬を外してる。」

男「番組終了や、主役交代で売れなくなるものばっかりだ。」

女「そんなこと……」

男「シリーズものや、ペアのものは、一つ与えれば他のも欲しいと子供がせっつく。」

男「お前らの上の連中はそういうの見越してメーカーと癒着してるんだよ。」


男「ゲーム機だってそうだ。遊ぶためのソフトを子供がねだるのは織り込み済みだ。」

女「中にはソフトだって混じってるはず……です。」

男「訴えが弱々しくなったな。混じってるソフトがワゴンで見かけるようなのばっかりだしな。」

女「私にも……わからなってきました……」

男「おいおい、復讐はまだ始まったばっかりだぜ?」

女「でも、あなたの言っていることも、なんとなく納得できてしまうんです。」

男「ちっ、面白くねえな。もっと嫌がれよ!拒絶しろよ!」


男「そうだ、白い袋じゃ味気ないから、唐草模様をプリントしてやろう。」

女「駄目です! それはサンタのアイデンティティーなんです!」

男「そのサンタに復讐してるんだぜ? 願ったり叶ったりじゃないか。」

女「そんなことしたらコントの泥棒になってしまいます!」

男「余所宅に不法侵入して気付かれずに出て行く。お前らにぴったりじゃん。」

女「しよ、職務質問されてしまいます!」

男「危機感が感じられないな。俺の溜飲を下げようと嫌がってるふりしてんのか?」

女「うっ!」


男「図星かよ。わかり易いねー。」

女「すみません。あなたの身の上を知ったから、仕方ないとさえ思っています。」

男「でも、それじゃあ意味が無いんだよなぁ。」

女「復讐なんて、もうやめませんか? 私はあなたも笑顔でいて欲しいんです。」

男「開き直って説教かよ?」

女「私にできる事はそう多く無いですが、私が償います。だから……」

男「しょうがねーな、その気は無かったけど。お前のこと犯すわ。」

女「……どうぞ。」

男「なんだよ……嫌がれよ。泣いて許しを請えよ。」

女「それで償い切れるとは思いませんが、好きにしてください。」


男「くそっ!できないとでも思ってんのか!?」

女「いいえ、私はこの仕事に誇りを持っています。私を抱いてあなたが笑顔になれるのなら……」

男「ふざけんなよ……そんなんで、俺の気が済むわけないだろう……」

女「もちろんです。それ以外にも、たとえ少しずつでも、償っていく覚悟はありますから。」

男「黙れよ! 殴るぞ?」

女「構いません。そのかわり復讐なんてもう忘れてください。全部私が受け止めて――」

男「!」

女「ん?」

男「ぎいぃいいぃぃぃぃっ!?」


女「所長!?」

長「おう、無事か? 護身用にスタンガンくらい持ち歩けといつも言っているだろう?」

女「どうしてここに?」

男「う……あ……」

長「電圧が低かったか? まだ多少は動けるようだな。」

男「な、に……?」

長「お前のGPSがずっと動かないままだったからな……この、このクズが!」

男「ぐふっ!うえ……」

女「やめてください、この人は――」

長「サンタ監禁未遂の下衆だろう? プレゼントまで台無しにしやがって。」


女「大丈夫です、これはまだ包み直せば届けられます。」

長「まあいい、換えはいくらでもある。すぐに用意させよう。」

女「え? そうなんですか。」

長「全部包み直す時間もない。持って帰って破棄するぞ。」

女「そんな!」

男「ま、て……」

長「サンタさんはみんなのものだよー? 独り占めしようとした悪い子は……死んでも仕方ないよね?」

女「待ってください。私は何ともないですから。早くプレゼントを配りに戻りましょう。」

長「こいつの家系はサンタブラックリストに載せる。子子孫孫までプレゼントは無しだ。」

男「……くそ……」



※風呂入ってくる

※再開

――――――――――

男「…………」

男「畜生……」

男「あのまま気を失ってたのか。」

男「ちっ、完璧に風邪ひいたな。布団もなしで寝てれば当たり前か……」

男「中途半端に終わっちまったな……」

男「いい線いってたと思ったのにな。」

男「頭いてえ。とりあえず寝よう。」


――――――――――

男「今年もあと4日か……」

男「熱が全然下がらんな。」

男「まあ、ろくに食ってないしな。」

男「もしかして、俺、このまま死ぬのかな?」

男「どうだっていいか……」

男「復讐もできなかったし。生きてたってしょうがないんじゃね?」


――――――――――

男「今日って何日だっけ?」

男「頭、朦朧としてんな……」

男「あ……なんか、冷たくて気持ちいい。」

男「だいぶ腹減ってるな。けど、作る元気もないわ。」

男「あれ? なんで俺、寝てるんだっけ?」

男「そういえばひどい風邪ひいてたな。」

男「そろそろおしぼり換えるか……」

男「ていうか、いつおしぼりなんて乗せたよ?」

男「もう、考えるのもめんどくせえ……」


――――――――――

男「外が暗いな。夜か……今何時だ?」

男「そう言えば、少し熱下がったか。」

女「あ! 起きましたか?」

男「楽になった気がしたが、どうやら気のせいだな。幻覚が見える。」

女「それは大変ですね。何か滋養の付くものを――」

男「お前のことなんだけどな。」

女「私は幻覚じゃないですよ。」

男「酔っ払いは酔ってないって言い張るもんだしな。」


女「ん……熱は下がったみたいですね。よかった。」

男「感触がある……という事は本物か。」

女「はい。本物です。」

男「今年のクリスマスはもう終わっただろ。」

女「今日はオフですよ。GPSも持ってませんし、赤い制服も着ていないでしょう?」

男「サンタにもオフとかあるのな。」

女「日本のサンタは25日が最盛期ですけど、国や宗教圏によっていろいろです。」

男「ああ、玩具じゃなくてお菓子を配る地域もあるんだっけな。」


男「で? そのオフの日に何してるんだよ。」

女「看病です。来てみたら高熱にうなされててびっくりしました。」

男「それは成り行きで、だろ? もともとは何をするつもりで来たんだよ?」

女「えと、それは――」

男「仕返しに来たのか? そんなことしなくても、俺はほっといたらたぶん死ぬぞ。」

女「それじゃ困るから、こうして看病してるんじゃないですか。」

男「そうだな。反応見れなきゃ仕返しの実感もないもんな。」

女「仕返しなんか考えてません。私、償いをするって言いましたよね?」

男「ああ、そんなこと言ってたな。でも、俺は償ってもらうとは言ってない。」


女「もう復讐なんてやめてください。時間はかかっても私が責任をもって償いをします。」

男「もう復讐もどうでもいい。いっそ殺せ、出来ないなら帰れ。」

女「なんてこと言うんですか? 私がどんな覚悟でここへ来たと思ってるんですか。」

男「お前の覚悟なんぞ知るか。そもそも頼んでもいないし、承諾もしてない。」

女「あ……そうですね。押しつけがましかったです。すいません。」

男「いいから、もうほっといてくれ。」

女「せめて話だけでも聞いてください。それが済んだら立ち去ります。」

男「……好きにしろ。」


女「あなたの言ったことが気になって、自分でも少し調べたんです。」

男「あれこれ言ったから、どれの事だかわかんねえよ。」

女「上層部の癒着のことです。」

男「ああ、それか……で?」

女「あの話は本当でした。日本事業所の上層部は汚職まみれです。」

女「所長は在庫の処分と、関連商品の購買促進のための撒き餌を引き受けています。」

男「今さらだな。俺はそんなことは知ってた。」

女「それだけなら、時代の流れだと納得したのかもしれません。」

女「でも、所長は成果に応じて玩具メーカーからキックバックを受け取っているんです。」

男「知らないのは現場のサンタだけってわけだ。馬鹿な話だ。」


女「私はそんなことも知らず、夢と希望を与える仕事だって舞い上がっていました。」

男「まあ、そういう大人の事情はともかく、子供は純粋に喜んでるだろうけどな。」

女「ありがとう……ございます……」

男「話は終わりか? ならもう帰れよ。」

女「あ、いえ、まだその、続きます。」

男「なら早くしろ。」


女「今の日本事業所は、サンタ協会創始者の志とは違う方向へ舵を切ってしまっています。」

女「幾度かの世代交代を経て、今の所長に交代したのが原因でしょう。」

男「そんな事が言い訳になるかよ。」

女「その通りです。そして、私は今の日本事業所に誇りを持つことはできません。」

男「もういい。話は聞くが、愚痴まで聞くとは言ってない。」

女「違います。愚痴っぽくなっちゃいましたけど、私はサンタの誇りを捨てられないって事なんです。」

男「意味がわからん。」


女「サンタが誇りを取り戻せるように、日本のクリスマスを改革しようと思ったんです。」

男「はあ?」

女「今は、どんなに誇りを持って仕事をしようと、半ば悪事に加担しているようなもの。」

女「だから、サンタ全員が胸を張れるよう、12月25日を昔のクリスマスに戻すんです。」

男「そんなことできると思ってんの?」

女「他の支部や国では、まだまだ伝統的なサンタ事業が執り行われています。」

女「20年くらい前に、今の所長になってから、日本のクリスマスは歪んでしまったんです。」

男「おかしいのは日本だけ、悪いのは所長だけってか? 虫が良すぎるだろ。」


女「そう聞こえても仕方が無いですね。」

男「実際、周りが止めなかったから、そのまま今に至ってるわけだしな。」

女「知らなかったとはいえ、私もその片棒を担いでいたことに違いはありません。」

男「そんな世間知らずのサンタがどうやったら改革なんて大それたことができる?」

女「北欧本部に日本事業所の実態を告発しました。」

男「なんだそりゃ?」

女「サンタ協会の総本山です。創始者の遺志が一番色濃く残っているところ……」

女「日本事業所の現状を快く思う人は一人としていないでしょう。」

男「そこへの告げ口がお前の責任の取り方か。」


女「近いうちに、日本のサンタは本部へ召集されると思います。」

男「皆で怒られに行くってわけか。」

女「いいえ、一人ずつサンタ裁判にかけられ、場合によって協会から罰を科せられます。」

男「人間の法で裁かれることはないが、サンタの法なら話は別なんだな。」

女「来年のクリスマスには、日本のサンタは一新されているかもしれませんね。」

男「で、俺にそれを聞かせてどうする?」

女「私も、罰を受ける可能性はあります。有罪になればサンタの認定を失効されるかもしれません。」

女「だから、もしものときは、あなたに見届けてもらいたいんです。日本事業所のサンタ達を……」


男「でも俺はサンタブラックリストに載ったんだろ? 俺はもとより、もし子供ができてもサンタは来ない。」

女「あれは所長の独断です。サンタ裁判で所長が有罪になれば白紙、それに所長はあなたに暴力を……」

男「それは俺も同じだ。お前を殴ったし、犯そうともした。」

女「そんな事ありましたっけ? 私は何もおぼえていませんよ?」

男「お前……」

女「今話した事が、今の私にできる精いっぱいの償いです。」

男「……わかった。その償いを受け入れよう。」

女「もし、私が本部に許され、サンタでいられたなら、また来年会いましょう。だから……」

男「ああ……俺も、いい子にしてなきゃな。」

―――――――――― ― ― - - ・…


…・ - - ― ― ――――――――――

女「メリークリスマース……」

男「…………」

女「今年一年、いい子にしてたご褒美をお届けに参りましたー。」

男「…………」

女「ホントに寝てるんですか?」

男「夜更かしするのは悪い子じゃないのか?」

女「あ、良かった。起きてた。」

男「サンタ続けられてるんだな。」

女「うーん……ちょっとワケありなんです。」


男「ワケあり? なんか条件付きってこと?」

女「特例として、今夜限定でサンタするのを許されました。」

男「限定?」

女「はい。今夜、あなたにプレゼントを届けるのが、私の最後の仕事です。」

男「……そうか。日本事業所の方はどうなったんだ?」

女「本部の手によって、解体・再配備されました。」

男「一年でか?」

女「再配備に関しては、進行中で、まだ完了してないです。」


男「とりあえずは、マトモになったのか?」

女「ええ。私を含め、ほとんどのサンタは解雇。今のところ本部の人が兼任してます。」

男「事業所の意味が無いじゃないか。」

女「いえ、次世代を担うサンタを育成中です。研修を終え次第、現場へ逐次補充されるとか。」

男「思い切ったことをしたな。でも、そのくらいやらないと変われないか。」

女「病巣をすべて切除、これから誇り高いサンタがどんどん世に出て行くと思います。」

男「俺みたいな思いをする人間がいなくなるといいな。」

女「そうですね……」


男「で、プレゼントって何もってきたの?」

女「サンタさんへのお手紙では何をお願いしたんですか?」

男「今年は手紙は出してないけど?」

女「へぇー……じゃあ、協会の計らいですね。なかなか粋な事をしてくれます。」

男「だから何がもらえるの?」

女「遅くなりましたが、かわいい妹を届けに来ました。」

男「でも、妹は……」

女「そうですね。残念ですが、サンタ協会と言えども、死者を生き返らせることはできません。」

男「ましてや妹は生まれてもいない子だしな。」

女「ですので、代替品を持ってきました。ハイ、これ……」

男「ま、いまさら妹ができてもしょうがないよ。――ん? この箱、やけに軽いな。」

女「じゃ、確かにお届けしましたよ。」


女「これにて私はサンタ廃業です。ご愛顧ありがとうございました。」

男「おい、何も入ってないぞ? 勝手に締めくくるなよ。」

女「まだわかりませんか?」

男「?」

女「メリークリスマス! お兄ちゃん!」


――――――――――――――――――――おわり

サンタクロースに頼めば妹貰えるんだな
よしわかった、ちょっとカーチャンの肩揉んでくる

お付き合いどうもでした。

ちょっと気が早い気もするが、どうやら今年は全国的にクリスマスは中止らしい。
それがとーーーーーーっても残念で残念でならないので、真面目にふざけてみた。

不明な点があれば補足入れます。

彼女じゃなくて妹なの?

どっかで見たことある文体なんだけど、過去作ないの?

>>103
妹だ




義理のな。

>>104
ちょっと前に座敷(コタツ)ワラシの話を書いた。
もっと前は猫とか鬼とか河童とか

>>96 一応補足
作中では触れてないけど、サンタクロースってのはサンタ協会の創始者で個人名。
女と所長は「サンタ」という人間大の妖精みたいなものっていう設定。
(サンタクロースに倣ってクリスマスに活動する)
まあ、このバカフィクション内での設定なので気にしなくてもいいが……

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