アレイスター「超能力者達にバンドを組ませる——『最終計画』だ」土御門「」 (288)


 土御門元春は携帯電話を片手に項垂れていた。
 意味がわからない指令を下されたことに憤ってもいたし、拒否できない自分にもイラついていたし、なによりもなぜ自分が、という思いが強かった。
 『窓のないビル』でアレイスターと会い、話してから数時間が経過しているのだが、土御門はべたりと会議室のテーブルに頬をつけてだらしなく携帯電話を見つめるだけである。
 正直なところ、動きたくないのだ。
 思い返してみると、どうも自分はスパイだなんだといいながら随分と彼の言いなりになっていた気さえする。
 いっそここで大反乱でも企ててやろうかと思ってみるものの、行動に移す土御門ではない。
 はあ、とため息を吐き、彼は携帯電話をパチリと開けた。まずは、最も電話し慣れている人物から取り掛かるべきだろう。
 だるいなあやりたくないなあ放り出したいなあ。
 そんなことを心中で思いながら、土御門は履歴を探し、とある少年に電話をかけた。


某月某日、とあるビルの会議室


一方通行「……、……」

御坂「……、……」

麦野「……、……」

土御門「……さーて、メンバーがある程度集まったところで」

一方通行「オイ待てこの状況を説明しやがれ、意味がわかンねェ」

土御門「だから、電話で伝えただろう。バンド組めって」

麦野「そこがわかんないのよ。いきなり電話がかかってきて何事かと思えば超能力者同士でバンドを組め? 馬鹿馬鹿しい」

御坂「だいたい、超能力者って言ったって七人いるはずでしょ! 三人しかいないじゃない」

土御門「第二位はともかく第五位は拒否、第六位は音信不通。第七位は一応来るって言ってたぜい」

一方通行「くっだらねェ。俺ァ帰る」ガタッ

麦野「なら私も」

御坂「! な、なら私も」

土御門「まあ待て、いや待ってくださいお願いします。話は最後まで聞け」

一方通行「……チッ」ガタン

麦野「えっ座るの?」カタン

一方通行「とりあえず聞くだけ聞いてやろォかと」

御坂「……そもそもこの面子、相当怨恨あると思うのよ」カタン

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土御門「電話でも伝えたように、これはアレイスターからの伝言だ」

麦野「つくづく『上』の考えてることはわかんないわね」

一方通行「今に始まったことじゃねェだろ」

御坂(なんだろうすごく居づらい)

土御門「バンドを組む、ということの意味がわかるか? ——はい、超電磁砲!」

御坂「!? え、えーと、……そのー」

麦野(世の中に音楽を発信する、とか)ボソボソ

一方通行(音楽で世界を救う、かもしンねェ)ボソボソ

御坂「うー、えっとぉ……世の中に音楽を発信し世界を救う! と、とか」

麦野「混ぜたわ」

一方通行「混ぜたなァ」

御坂「なんでそこ妙に気が合ってんのよ!」

麦野「さあ? 会うのは初めてだけど」

一方通行「けどなンか同じニオイがすンだわ」

御坂「……、……」プルプルビリビリ

土御門「はいはいどーどー落ち着け落ち着け。ここでドンパチやられたら死ぬのはオレだけだにゃー」

一方通行「ひとつ言ってイイか、土御門ォ」

土御門「はいどうぞ一方通行くん」

一方通行「俺らでバンドを組ンでナニになるってンですかァ?」

麦野「環境破壊、地球破壊、宇宙破壊、……精神崩壊?」

御坂「なにそれ物騒」

土御門「だからオレに聞くな。アレイスターが言い出したんだ。なんか音楽で世界を救えるとか戦争起こせるとかプランがどうたらって」

一方通行「俺の勝ちじゃねェ?」

麦野「地球破壊はあながち間違ってもいないと思うのよ」

御坂「だからなんでそこ妙に会話がスムーズなの!?」

一方通行「あのよォ、仮にバンド組ンだとするだろ……ンでまァ、ライブするじゃねェか」

御坂「なんていうか色々段階すっ飛ばしてる気がするんだけど」

一方通行「あンまり言いたかねェンだが、俺は杖無しじゃ15分以上生活できねェぞ」

麦野「ああ、それでその杖立てかけてるわけね」

土御門「それなら問題ない。『一方通行、新しいチョーカーよぉ!(裏声)』」ボスン

一方通行「バタ子さンディスってンですかァオマエは!」キャッチ

御坂(打ち止めとアンパンマン観たのかしら)

麦野(元気百倍、アクセラレータン! とか……ねえな)

土御門「そのチョーカー、開発部がなんかもうものすごく頑張って作ったらしいぞ。なんでも12時間ぶっ続けで能力使用モード可だとか」

一方通行「!!!」

麦野「えーっと、つまりアンパンマンで言い直すと?」

土御門「半日バイキンマンから放水されまくってもピンピンしてる的な?」

御坂「そ、それ、無敵じゃないの……!」

一方通行「その喩えすげェムカつくンだけどやめてくンね? てェかアンパンマンに喩えンのおかしいだろ」

土御門「まあともかく、ちょっと着けてみろ」

一方通行「……信用できねェな、こンなことをして何になる。俺が抵抗したらどォすンだよ」

麦野「あー、でもさ。ちょっと聞いてほしいんだけどね」

御坂「?」

麦野「私の片腕、完全に治されてるのよ。片目も失ったはずなのに見えてるし」

土御門「……、……」

麦野「つまり、アレイスターは本気なんじゃないかって思っちゃってさ」

一方通行「ハッ、それでもまだ信じらンねェわ。開発部なンざ『上』の手駒そのものじゃねェか。第一、最初に開発したときは30分が限度だったろォ——」

カツ…カツ…カツ…

御坂「! 誰かの足音が聞こえる!」

土御門「……来たか」

カツ…カツ…カツ…

一方通行「……ナンバーセブンかァ? いや、あいつはもっと熱いやつって聞いたよォな」

麦野「……この足音、どこかで聞いた……まさか!」

カツ…カツ…カツ…
カツ…ピタリ

バタン!!!


垣根「よお、遅くなった」


一方通行「」
麦野「」
美琴「」

土御門「いや、さほど待ってないぞ」

垣根「お、マジで? んじゃしつれー、っと」ガタン

一方通行「……えっ?」

麦野「……はっ?」

御坂「?」

垣根「ん、そういや第三位とはこれが初対面だっけな。俺は垣根帝督、第二位で未元物質って能力持ちの」

一方通行「待て待て待てェェェェエエ!!! 土御門ォ! なンだこいつ! なンで生きてンだァこいつゥゥゥウウ!!!」

土御門「開発部が尽力したらしい。科学ってすげー」

麦野「ねえあんた、脳味噌三つに切り分けられてたんじゃなかった?」

御坂「!?」

垣根「あーそうそう。ぱっくりさっくりカッティングされてたみたいだぜ。こうして復活できてるしいいんだけどよ」

御坂「いいのかよ! え、このひとほんとに第二位!?」

土御門「ということで、ほぼ死んでた垣根を生き返らせるくらいだ。一方通行の電極の使用時間を増やすくらい造作もないんだが、わかったか」

一方通行「釈然としねェが理解するしかねェだろこれは」

垣根「おいおい、一方通行までバンドに参加すんのかよ。勘弁してほしいわ」

一方通行「あァ? ンだコラ、俺が参加しちゃ悪りィのか」

御坂「ちょっと待ちなさいなんかそれ参加したがってるように聞こえるから」

垣根「ああ悪いな。だってお前かっこつけて『ギターやる。モテそうだから』とか言いそうだし!」

麦野「それあんたの本音じゃないの?」

一方通行「ギターだァ? だァれがンなメジャー所選ぶかよ」

垣根「じゃああれか? タンバリンやっちゃう訳? マラカス?」

一方通行「は、イイぜイイぜオマエがそンなに言うならよォ……メトロノーム顔負けの正確さでカスタネット叩いてやンよォォォォオオ!!!」

垣根「上等ぉ! それなら俺はテメェ以上の完璧さでトライアングル鳴らしてやるよぉぉぉぉおおおっ!!!」

御坂「」
麦野「」

土御門「お前らそれバンドじゃねえよ」

一方通行「イイから用意! カスタネットォ!」

垣根「こっちはトライアングル! 新品希望ぉ!」

御坂「なんでこんなのがツートップなの」

麦野「世の中はいつだって理不尽よ」

土御門「チッ……お前ら! ここに呼ばれた意味を考えろ!」

一方通行「だからバンドだろォがよ!」

垣根「そうだバンドだ! 俺がリーダーの!」

一方通行「あン!?」

垣根「俺がリーダーでボーカルでギター!」

一方通行「……、あのさァ」

垣根「なんだよ」

一方通行「モテたいのオマエじゃねェ?」

垣根「んなわけねーだろふざけんなよ言いがかりだ」

一方通行「だってオマエそれ……モテ要素ふんだんに詰め込んだポジションじゃねェか」

垣根「何かの間違いだろ」

一方通行「じゃあオマエボーカル降りろよ」

垣根「い、や、だ!」

一方通行「ギターやめろ」

垣根「お、こ、と、わ、り!」

一方通行「リーダー辞退しろ」

垣根「ま、に、あ、っ、て、ま、す!」

麦野「間に合ってねえよお前じゃ全然足りてねえよ!」

一方通行「よく言った第四位」

御坂「同意せざるをえない……あの、ちょっといい?」

土御門「なんだにゃー」

御坂「その、バンド組むって話なんだけど。強制なのかな」

土御門「半強制的、といったほうが正しいだろうな。だが……」チラリ

御坂「?」

土御門「一方通行はチョーカーを身に着けてしまったし、垣根に至っては生身の体を得たいならバンドに参加しろ、というのが交換条件だったからな」

麦野「ってことは、私もか」

御坂「で、でも私は辞退したっていいのよね?」

土御門「……まーったく、どーでもいい話なんだけどにゃー、カミやんが最近バンドやってる女の子っていいよなーって言ってて、」

ガタタタタッ ビリビリバチン!

御坂「そこのバカふたりぃぃぃいいいっ!!! くっだらない争いしてないでさっさと役割決めるわよ!」

麦野「……恋は盲目。よく言ったもんよね」

土御門「そんな第四位に朗報ですたい。浜面仕上がどうやら最近ドラムにはまりだしたらしい」

麦野「そこのクソったれどもぉぉぉぉおおおおお!!!!! バンド名決めんぞコラァァァアアアア!!!!」

土御門(ちょろい)

一方通行「あン? 待て、足りねェだろひとり」

土御門「ああ、第七位のことなら」

ズダダダダダダダダダ
ギッコンバタンズキャーンドゥルルルルルッ
バァン!!!


削板「オレの歌を聞けぇぇぇぇぇええええええっ!!!!!」


一方通行「」
垣根「」
御坂「」
麦野「」

土御門「おー、遅いぜよー」

削板「遅い? オレが? 根性尽くして走ってきたこのオレが!?」

麦野「暑苦しい……うぜえ」

御坂「うざいっていうか……暑苦しい」

一方通行「それ同じこと言ってンだろォが……暑ちィし熱い」

垣根「遅刻を認めないあたり面の皮も厚いな」

土御門「とまあ、メンバー全員が揃ったところで。まずはバンド名から決めるぞ」

削板「? G.M.Revolutionじゃねえのか?」

垣根「はぁあ? まさか『軍覇が革命を起こす』とか言わねえよなテメェ」

削板「だってオレがボーカルで世界に売り出すんだろ。GMでいいじゃねえか」

一方通行「……どォも情報伝達が間違っていたよォだなァ」

麦野「こいつがボーカルでGMとか言い出すなら私は帰るわ。やってらんない」

土御門「まあ待て、オレが悪かった。オレがボーカルやってもいいって言ったからだにゃー」

御坂「第七位がボーカルやるとものっすごく暑苦しい気がする」

削板「ロックンロールは熱い魂、根性だろうがあああああ!!!」

垣根「うわっ、ロックンロールとか言った! そっち目指しちゃう訳!?」

一方通行「逆にオマエは何目指してンだよ」

垣根「ん、俺? ……こう、切ない系の……今流行りの……」

麦野「似合わない」

御坂「正直無理」

一方通行「切ない(笑)」

削板「つまらん」

土御門「ボロクソだな垣根」

垣根「うっせーよじゃあなんなんだよテメェらはよぉぉぉおおおお!!!!!」

麦野「仮に切ない系をやるにしても、てめえじゃ心に響かねえよヤリチンが」

一方通行(……なンつーか、俺もあンな感じなンだろォなァ)

御坂「ヤ、ヤリチ……」

垣根「!? は、おい待て待て待て第三位、なんだその目! 心から軽蔑しましたみたいな!?」

削板「軽蔑してるんだろどう見ても」

垣根「いやいやいや俺ヤリチンじゃねえしヤってる余裕あるような人生送ってねえしいやほんとこれマジな」

土御門「童貞なのか」

一方通行「うっわァ」

麦野「なんだ童貞か。なっさけねーな」

垣根「麦野はともかく一方通行テメェほんと覚えてろよ覚えてなさい覚えてやがっててください!」

御坂「なんなのこのカオスっぷり……」

土御門「レベル5だから仕方ない」

削板「まあ、バンド名はG.M.Revolutionでいいとしてだ。ポジションはどうするんだ」

垣根「だぁぁぁぁかぁぁぁぁぁらぁぁぁぁあああ!!!! お前はなんでそうさりげなく可決させてんだ絶望してえかコラ!」ファサッ

一方通行「とりあえず、バカふたりは総無視でバンド名を決めよォじゃねェか」

麦野「おっけー異論なし。そんじゃ……そうね、バンドっていうとメンバーのスペルをもじったりするじゃない」

御坂「でもそれだと面白くないし、ここはひとつ、通り名のスペルでどうかしら」

土御門「お、いい意見だな」

削板「ん? つまりどうなったんだよ」

一方通行「それぞれ通り名の頭文字を使ってバンド名を考えンだよボケ」

垣根「じゃあ俺ダークマターだしdか」

土御門「ま、概ねそんなとこだな」

麦野「全員の頭文字言ってく?」

一方通行「acceleratorでaだ」

垣根「dark matterのdな」

御坂「railgunのrよ」

麦野「melt downerでmね」

削板「number sevenでnだな」

土御門(なんだかんだでこいつらノリノリなんじゃないのかこれ)

一方通行(a、……、……)

垣根(d、……、……)

御坂(r、……、……)

麦野(m、……、……)

削板(n、……、……)

垣根「……ひとつ今アナグラム考えてて気づいたこと言っていいか」

麦野「……多分同じこと考えてるわよ」

御坂「……ええ。わかってる、というかわかった」

削板「……ああ。オレ達、第一位以外は子音だな」

一方通行「あン?」

土御門「それはオレも考えた。つまり、この頭文字ではどう足掻いても単語がパッと浮かんでこないわけだ」

一方通行「さすが俺、頭文字まで便利さ第一位じゃねェか」

垣根「すっげえムカついたわ今」

麦野「でも母音だしaだし活用しやすいのは事実だね」

土御門「あー、この方法はなしだ。バンド名にならない。発音できない」

一方通行「いっそめンどくせェし『a.d.r.m.n.』でイイだろ」

御坂「ひねりが足りないわ。そんなんじゃ世界に通用しない!」

垣根「おうおうやる気出てきてんなあお嬢さん。そうだぜ一方通行、俺達は世界に通用するバンドをつくり上げなきゃならねえんだ」

一方通行「」

削板「となると、やっぱりここは軍覇が革命を起こすG.M.Revolution一択だろ!?」

麦野「だからそれだと私までてめえの革命を手助けしてる感が否めねえだろうが!」

土御門「つくづく思うが、レベル5ってまとまりなさすぎだにゃー」

一方通行「……あのさァ」

一同「?」

一方通行「カタカナ表記で序列順に文字を取ってつなげりゃいいンじゃねェの」

一同「!」

土御門「つまり、『アクセラレータダークマターレールガンメルトダウナーナンバーセブン』を簡略化するってことか」

麦野「『アクセラダークレールメルトダウナーン』ね」

削板「比率おかしくねえかそれ! オレのナンバーセブン要素が足りない!」

垣根「珍しく第七位に同意するぜ。『アダークマタールトン』でどうだ」

御坂「レールガン要素が少ないっていうかそれ垣根さん要素多すぎじゃないの! 『アクマレールガントン』よ!」

一方通行「オイオイオマエら、テメェの名前優先にしてンじゃねェよ……『アクセラレータールダン』で決まりだァ!」

土御門「もうお前ら自分のことしか考えてないだろ。よく聞かないとどこに誰の文字が使われてるのかわかんねえよ」

削板「んっふっふーん、ここは! このオレが! こいつらをまとめあげる的な意味でG.M.Revolutionをだな!」

一方通行「ンじゃまとまらねェから他の案いくぞ」

垣根「うぃーっす」

麦野「はいはーい」

御坂「りょーかーい」

削板「……お前らがオレをとことん無視したいのはよくわかった」

一方通行「次にバンド名で使われるのは共通点だなァ」

麦野「ああ、たしかにあるわね。私らの共通点ってまったくない気がするけど」

垣根「ないな。イケメンかつ学園都市第二位の俺がお前らとの共通点を持っているわけがないし」

御坂「……うーん……考えれば考えるほどまとまりに欠ける集団よね、レベル5って」

削板「それぞれが強すぎてほかを寄せ付けないからな、オレ達レベル5は」

一方通行「まったくだ。おかげで常に孤独を味わってきたよなァ、レベル5ってだけで」

垣根「周囲との壁を取り除くために仮面の付けっぱなしだぜ、レベル5だからよお」

麦野「誰からも理解されない化け物だからね、レベル5である以上」

土御門「……、……」

一方通行「いやァ、共通点ねェなァホント」

垣根「これほどまでに共通点がないと恐ろしくなるな」

御坂「ホモサピエンスってことくらいじゃない?」

麦野「バンド名ホモサピエンスってか? ないわー」

削板「しかし、このままだとG.M.Revolutionしか道はないと思うんだが」

土御門「……、……ゴホンッ」

一方通行「あァ? どォした土御門」キョトン

土御門「お前らそれはギャグかコントかツッコミ待ちかぁぁぁあああ!?」

垣根「何言ってんのお前」キョトン

御坂「いつコントしたのよ」キョトン

麦野「てめえに突っ込まれたくはねえな」

削板「ツッコミ?」キョトン

土御門「……無自覚らしいな。ひとつだけ指摘させてもらうが、お前らには最大の共通点があるだろう」

一方通行「いや、ねェよ?」

土御門「あ、る、だ、ろ、う、が!!! お前らは全員レベル5! 超能力者! これ以上の共通点があるか? いやない!」

御坂「そこまで強調しなくても」

一方通行「まァ、そォいや俺達はレベル5だったわ。それ以外の理由でここにいるわけがねェ」

垣根「んじゃどうするよ? バンド名レベル5にしちゃう訳?」

麦野「それで文句はないでしょ。あ、ちょっとホワイトボード借りるよ」

キュッキュッ

麦野「『レベル5』、『LEVEL5』、『LEVEL FIVE』、『Lv.5』。こんなもんか、どう?」

削板「こうしてみると表記次第で印象が変わるな」

御坂「んー、一番下のLv.5だと、ポケモンの御三家を博士から受け取ったときの心境を思い出すもんね」

垣根「ああ、あれどうにか三匹くれねえかなっていつも思うんだよなあ。ライバルとかマジいらねえからよ」

一方通行「ンなこと言ったらゲームシナリオめちゃくちゃじゃねェか。どォすンの? ライバルいねェと主人公も成長しねェンだぞ」

土御門「なんつーか今の発言若干自分とかぶせてないか」

削板「オレは二番目のLEVEL5を推すけど」

土御門「よし、それじゃ多数決といくぞ。一番上がいいやつー」

シーン

土御門「二番目ー」

一方通行「ン」ノ
垣根「これだな」ノ
御坂「これよね」ノ
麦野「これだって」ノ
削板「これしかねえ」ノノ

土御門「……なんで削板が両手を挙げているのかはあえてつっこまないが、『LEVEL5』でいいんだな?」

一方通行「おォ。なンかかっけェし」

垣根「まあそのままだけどな」

麦野「バンド名は決まった、か。あとすることって言ったらポジション決めかしら」

御坂「あーはいはいっ! 私ギター希望で」

削板「はいはいっ! オレはボーカルで!」

垣根「どっちも俺やるから却下!!!」

一方通行「オマエやっぱイイトコ取りすぎンだろ」

土御門「ふむ。一応希望でも取っておくか……ギターやりたいやつは?」

垣根「俺!」

御坂「はいっ!」

麦野「まあメインって感じするしねえ」

土御門「んでベース」

一方通行「……、はァい」

垣根「ベース? お前あの太い弦でやれんの?」

一方通行「なめてンのかオマエ」

土御門「ベースはほかにいないから決定、っと。あとはドラム……」

シーン

土御門「麦野、やらないか?」

麦野「ウホッ、って何さらすんじゃボケェェェェエエエ!!!!」

垣根「今のは完全に悪乗りだろ」

一方通行「だな。深読みだぜェ、ところで第七位」

削板「?」

一方通行「ドラムってのは一番根性が必要なポジションだァ、……言いたいことはわかるな?」

削板「!」

御坂(落とす気か)

麦野(落とす気ね)

垣根(やらす気だな)

土御門(とは言え、いくら削板が愛と根性の男だからといってそう簡単に)

削板「わかった、ならオレがやるしかねえな! ドラム!!!!」

土御門「」

一方通行「俺の目に狂いはなかったよォだなァ……!」

垣根「あいつが乗せられただけとも言う」

麦野「ドラムは第七位ってことか。ちなみに私はキーボードならできるんだけど、いいわよね?」

土御門「ああ、異論はないな。……で。麦野以外のお前ら、楽器の演奏はできるのか?」

御坂「私はヴァイオリン弾けるし、ギターも多分弾けるわよ。それにエレキなら能力使えるもの」

一方通行「俺はとくに演奏したことねェ分飲み込みも早ェから問題ねェ」

垣根「自分で言うかそれ! 俺はギターならちょっとかじってました!」

削板「オレはなにもやったことないけど根性でなんとかします!」

土御門「……まあ、なんとか……なるかにゃー……?」

一方通行「ンでェ? 結局ベースが俺、キーボードが第四位、ドラムが第七位。あとは決まってねェだろォが」

麦野「垣根、あんた切ない系やりたいっつったよね」

垣根「? ああ、言ったけどお前らぎったぎたのめっためたに否定しただろ」

麦野「だったらさあ、女性ボーカルと男性ボーカルでわけりゃいいのよ」

御坂「! えーっと、私もボーカル、垣根さんもボーカル、ふたりともギターってこと?」

麦野「そうそう。垣根じゃ切ない系なんて歌ってもマジきめェだけで終わるけど、女の子ならまだ聴けるし」

一方通行「アリかもしれね、」

削板「ないないないなしなしなしーっ! それならオレだって歌うぞ!」

土御門「ドラム初心者の削板くんに教えてあげるぜい。歌えるドラマーはほとんどいない、いいとこコーラスだ」

削板「!? で、でも根性で!」

一方通行「いねェとは言わねェけどさァ。そもそもオマエ、歌うめェの?」

御坂「……、……一方通行。あんた単刀直入すぎるわ」

垣根「言っとくけど俺はうめえよ。カラオケで90点台余裕だし」

麦野「あんたはなんか器用そうよね。一室に女の子連れ込んでわざとらしく『ずっと君だけを愛してるー』とか言いながら迫りそう」

垣根「したことねえよ!」

一方通行「切ない系ってそォいうのだろ。ってことはカラオケで歌いなれてンだろ。つまり君だけを愛してると言いつつもオマエの『君』は何十人もいるンだろ」

削板「一途になれないやつって……」

垣根「なんなのお前らなんなのほんと見た目で人を判断しちゃいけねえんだぞ!?」

土御門「歌の上手い下手は実際に聴いてみるのが一番だろうな、どうする」

麦野「今からどっかのカラオケにでも行く?」

御坂「あー、ごめんなさい。あんまり遅いと門限過ぎちゃうんです」

一方通行「ンじゃ、とりあえず今日はこれで解散でいいンじゃねェのか」

削板「『今日は』——つまり明日か明後日に再び集会があるってことだよなあ?」

垣根「……、……」ヒー、フー、ミー

土御門「そういうことだ。これはアレイスター直々の計画だからな……垣根?」

垣根「……、はっ! なんか呼んだか」

一方通行「ナニ指折って数えてンだオマエ」

垣根「いや、これは過去何回女の子に愛してるって歌ったか数えてたんだけどさ」

麦野「気のせいか両手使ってるように見えるんだけど」

御坂「両手使ってたわね。さっき少なくとも十人はカウントしてた」

削板「それマジで浮気じゃねえか、この根性無し! すごいパーンチ」

ドュクシッグフッ

垣根「ちょ、ま、なに今の!? 俺が防御する前になにお前!」

土御門「すごいパンチだそうだ」

一方通行「油断は禁物、ってなァ。土御門ォ、あとでメール入れとけ」スタスタスタ

麦野「そんじゃ私も帰るかにゃーん」カツカツカツ

御坂「やっば、ほんと門限過ぎそう!」パタパタパタ

削板「そろそろオレも帰る! んじゃな!」ズダダダダダ

垣根「……、土御門だっけ?」

土御門「ああ。なんだ」

垣根「ずっと疑問に思ってたんだけど、お前はなんでいた訳?」

土御門「……、……」

垣根「?」

土御門「それは……」

垣根「それは?」


土御門「……プロデューサーだからだ」


垣根「あ、なんかおつかれ。マジおつかれ」

土御門「一応名刺もあるんだぜい。ほら、受け取れ」スッ

垣根「おう。なになに」


【超能力者最終計画主任・土御門元春】


垣根「……ネーミングセンスねえにも程があるだろ!」ベシッ

土御門「ちなみにそれで『レベル5ラストプランプロデューサー』と読むらしい。あと地面に叩きつけるな、それプラスチック製だから丈夫だけど」

垣根「無駄! 無駄すぎる努力!」ゲシゲシ

土御門「さらに言うとオレは略してバンド計画と呼んでる」

垣根「そっちでいいじゃねえかよ!」ゲシゲシ

土御門「それじゃ、オレもぼちぼち帰るか」スタスタスタ

垣根「おー、また明日なー」フリフリ


 ふう、と垣根帝督はため息を吐く。土御門の後姿が見えなくなるまで手を振っている彼はわりと常識人かもしれなかった。
 学園都市の技術によって蘇生された体は、以前とまったく同じ感覚だった。
 もっとも、学園都市の上層部を全面的に信頼できるほど、垣根は甘い人間ではないのだが。
 彼がこうして人の形を再び手に入れた経緯は省くとして、一度失ったものを取り戻した垣根に怖いものなどない。
 バンドを組むなら以前のように生かしてやる——そんな提案を彼は熟考した末に受け入れた。
 提案の不可解さやリスクをすべて計算したうえで受け入れたのだ。
 ただ能力を吐き出す物体と化していた彼にとっては、生身の体を手に入れられることこそ最重要事項だったとも言える。

「……まさか、あいつらとバンド組むはめになるとはな。ここはギターボーカルでリーダーの俺がちゃんとしねえと」

 コキコキと肩を回しながら、彼もまた夜の闇へと溶けていく。
 ちなみに垣根の中ではすでに自分がリーダーでボーカルでギターという認識がなされているようだが、実際のところは未定である。


第一話・終了

トリ合ってるか自信ないんですけど覚えていらっしゃる方はお久しぶりです。
昔のスレ見失っちゃったので手元にあるメモ帳片っ端からコピっていこうと思います。
完結できなかったのがくやしくて、ほんともう自己満足です。

 御坂美琴はスカートを揺らしながら走っていた。
 すらりと伸びた足。その上に視線をずらすと見えるのは下着ではなく短パンであって、期待してはいけない。
 さて、なぜ彼女が急いでいるのかと言えば、待ち合わせ時間をとっくに過ぎてしまっているからだ。

「黒子め……なんで私が出かけるって言ったらあいつ相手になんのよ!」

 寮を出る際に同室の白井黒子が「あらお姉様、昨日今日とずいぶんお忙しいんですのね」と話しかけてきたことはまだいい。
 問題は、次に白井が続けた台詞にある。

 ——またあの殿方ですの?

 ふざけんなコラ! と赤面しながら叫び返し、御坂は勢い良く寮を飛び出したのだった。
 御坂が向かっているのは第六学区のとあるカラオケボックス。
 しかし、走りながらも彼女はどこか冷静に遅刻するのは自分だけではないだろうと予測を立てていた。
 それというのも、集まるメンバーが並み一通りではないうえに、おそらくあの面子の中では自分が一番常識人であろうという自負を抱いているからである。
 まあとにかくそんなわけで、寮を出た直後の勢いは失速しほとんどマラソン状態になっている御坂だが、そんな彼女の視界にある集団が入り込んできた。
 自分とまったく同じ容姿の少女が四人、なにやら話しながら歩いている。
 すれ違う人間は「あれ四つ子かな」「瓜二つ……いや四つ?」「すげえなおい」「美少女四人の姉妹丼、ありやわ」などと呟いているが、少女達は気にも留めない。
 四つ子のひとりが、ふと御坂を見た。そして、普段の彼女達にしては珍しい驚愕の表情を浮かべ立ち止まる。
 あり、と御坂は違和感を覚え、少女達に駆け寄った。これで周囲が「五つ子だ」と騒ぎ始めたものの、御坂もさほど気にならないようだ。

「あんたら。こんなとこで何してんの?」

 首からさげたネックレスをこれ見よがしに見せ付けて、少女の中で一番「姉」であるミサカ一〇〇三二号が簡潔に答える。

「ライブに行くんです、とミサカはお姉様が急いでいるようなのでアーティストについては控えさせていただきます」

 ぽかんと口を開ける御坂をよそに、じゃあ行くかーと少女達はぞろぞろ歩いていった。以前に比べて個性が出てきたのか、少し遅れ気味の少女も見受けられる。

「……ラ、ライブ?」

 開いた口をなんとか閉じて、御坂は去りゆく少女達を見送る。あの子達の興味を引いたアーティストは一体誰なんだろうと考えながら。


数十分後、とあるカラオケボックス前

土御門「超電磁砲が遅いな……何かあったのかもしれない」
一方通行「だから女との待ち合わせは十五分前にしとけっつってンだよ」
垣根「ああ、それわかるわ。十五分前にしても平気で三十分遅れるからな、女って」
麦野「そりゃあんたの魅力がないからよ。待たせてもいいやってレベルなんじゃないの」
削板「お前らの発言聞いてるとなんかすげえ疎外感があるんだが、そんなに待ち合わせ経験あるのか」

御坂(全員、揃っている……だと……!?)

御坂(ま、まさかね、まさか私が一番遅いだなんて……いやでもなんか行きづらいなあ、みんな勢揃いしてるし)

一方通行「……ン? おいあれ」

麦野「あ。第三位じゃない……なにこそこそ隠れてんのかしら」

土御門「大方、自分が一番遅れたことに動揺でもしたんだろう。オレも驚いたくらいだしな」

削板「あー、たしかにな。オレは待ち合わせ十分前に来たけど、一方通行と垣根はすでにいたぞ」

垣根「俺一番だったもん。んで数十秒後に一方通行がきた」

一方通行「ナニ若干勝ち誇ったよォな顔してンだ二位」

垣根「んだとこのもや」

土御門「はいはい落ち着け落ち着け。とりあえず、麦野。呼んできてもらえるか」

麦野「しょうがないなあ、……クソったれのメスガキィィィイイイ!!! 一番遅れてきてんだ、ジャンプしてスライディング土下座くらい披露しろってんだよぉぉぉおおお!!!!」

御坂「!?!?」ビクッ

一方通行(オンオフの切り替えうますぎだろォ……)

垣根「誰も罵倒しておびき出せとは言ってねえよな」

麦野「あ? んなこたぁどうでもいいんだよ、そら来た」

タッタッタッタッ

御坂「あ、あの、遅れてすみませんでしたっ!」

土御門「そんなに気にしなくてもいい。こいつらなんだかんだで今は暇だからな」

削板「オレはわりと忙しいぞ。この後もランニングする予定だ」

一方通行「それ忙しいって言わねェよ」

麦野「ねえ、ジャンプからのスライディング土下座は?」

垣根「まあまあ。第三位は一番年下なんだから許してやれって」キリッ

御坂(えっと、垣根さんって案外常識人なのかしら)

一方通行「せンせェ、垣根くンが紳士っぷりをアピールして自株持ち上げてますゥ」

垣根「なんでバレた!」

土御門「お前のキメ顔は分かりやすすぎるにゃー。じゃ、入るぞ」

店内

一方通行「……、へェ」

垣根「なんだなんだなんだ、物珍しそうに見てるじゃねえか。ひょっとしてカラオケ初心者? カラオケ童貞?」

削板「カラオケ童貞!? そんな言葉があるのか……!」

麦野「本物の童貞が言ってもだせえだけだっつの。土御門、もちろん部屋はVIPだよね」

土御門「ああ、最初からそのつもりだ。金はある」

御坂「お、けっこう手持ちの札があんのね」

土御門「アレイスターにせびったからな。最奥のVIPルーム、フリータイムで」

店員「かしこまりました。ドリンクバーはお付けいたしますか?」

一方通行「いる。付けろ」

垣根「お前が即答すんのかよ!」

店員「はい、では少々お待ち下さい」

麦野「カラオケかあ。久しぶりかも……あー、あー」

御坂「えっと、今回って具体的にどんな意図で集まったんだっけ」

土御門「ボーカルを決める。まあ、各々の歌の上手さも気になるんだよ」

垣根「なあなあ一方通行。初心者ってことはカラオケがアカペラだって知らないんだろ?」

一方通行「ア、カペラァ?」

麦野(早速騙しにかかってるわねこいつ)

御坂(アカペラなら風呂でやってろって話じゃない)

垣根「そ。カラオケってのはマイクついてるだけで、BGMなんて流れないんだぜ。なあ、土御門」

土御門「なんでオレに振る」

一方通行「待て、アカペラだとしたらわざわざマイクのためだけにオマエらはここに来ンのかよ」

削板「いや? オレはBGMつきで歌いたくて来てるんだけど。垣根の言うカラオケとオレのカラオケは違うんだろうな」

一方通行「……ふ、ゥ、ン?」カチリ

垣根「てめ、ナンバーセブンこらぁぁぁあああ!!! なにあっさり言っちゃってんだ、っていだだだだだだだ! 能力全開で足踏んでくるぞこいつ!!!!」

麦野「はいはい自業自得自業自得」

入室

一方通行「暗ェ」

土御門「今照明つけるぞ、っと」カチ

ポワーン

垣根「いつも思うけど、ラブホみたいだよな」

削板「は、入ったこと、あるのか……?」

垣根「ねえけど」

麦野「だから童貞は黙ってろクソが。んで、どうするわけ?」ドカッ

土御門「さすが麦野。あえて誰もが座らなかった中央を陣取るとは」

一方通行「俺ドリンクバー行ってくるわ」

御坂「あ、ひとりで行ける?」

一方通行「オマエは俺をどこまでなめてンだ殺すぞ」

垣根「えっ、でもお前来たことないんだよな? ドリンクバー使いこなせんの? 大丈夫?」

一方通行「ドリンクバーは使いこなすモンじゃねェ。使い切るモンだ」

削板「使い切ったらだめだろさすがに」

一方通行「!?」

土御門「まあ今の気持ちはわからなくもないな。よりによってナンバーセブンにつっこまれたとか」

一方通行「……、とりあえず行ってくるっつったら行ってくンだよォ」ガツッ スタスタスタ

麦野「んー、ポテトとか頼んじゃっていい?」ガチャ

垣根「訊ねていながらすでに電話を片手にしているあたりがなんとも」

御坂「そういう垣根さんもちゃっかりメニューガン見してませんか」

垣根「ああ、第三位も見るか? ほら」スッ

御坂「はあ……」

削板「ハンバーグ食いたい」

土御門「ここで本格的に食事する気か!」

ドリンクバー

一方通行「……、……納得いかねェ。ブラックが売り切れでカフェラテしかねェとかマジ納得いかねェ」

一方通行「普通逆だろォが。ブラック単体で飲むやつってそうそういねェぞ」

一方通行「てェか売り切れってなンだよ俺の前に使い切ったやついンのかよふざけンな。吐け、出せ、寄越せ」

一方通行「やべェすげェムカついてきた。なンだなンだよなンですかァ? ブラックねェとかホントなめやがってよォ」

一方通行「どォしろってンだ、あァ? 俺にオレンジジュース飲めってかァ? 果汁100%と豪語しやがるこのオレンジジュースで我慢しろってかァァァアア!?」

一方通行「……、カフェラテは御免だなァ」ピッ

ガー ドゥルルルルル ピッ

一方通行「腹立つから残ってる氷全部使ってやらァ」ザクザクザクザク

一方通行「あとついでに腹立つからミルクとシュガー全部持ってく」スッスッスッ

一方通行「ン。戻るか」

スタスタスタスタスタスタ

垣根「おー、お前オレンジジュースなんて飲むの? お子サマだな」

一方通行「うっせェ黙れ吐け出せ死ね」

麦野「私も軽く何か取ってくるわ。誰か適当に曲入れとけば?」スタスタバタン

御坂「あ、それじゃ私も行ってこよっかな」タタッ

削板「カレーでもいい。主食が食いたい」

土御門「カレー食いながら歌うってけっこうしんどいと思うぜい」

垣根「あ、言い忘れてたけどこのマイク俺のだから。譲らねえから」

一方通行「二本しかねェマイクの片方を独占するやつって……」

ギャーナンデコオリナイノヨー!!!
ウワッミルクトシュガーモナイ!!!

土御門「……一方通行。そのポケット一杯に詰め込まれたミルクとシュガーは」

一方通行「うっせェ黙れ吐け出せ死ね」

削板「オレンジジュースより氷のほうが多いように見えるんだが」

一方通行「ちげェよ多くねェよ俺はこれくらいの氷がねェとつまンねェンだよ」

土御門「さて、誰から歌う?」

一方通行「ここは第一位の俺から歌ってやっかァ」

削板「いや、あえての序列最下位であるオレが」

垣根「いやいやだったらボーカル兼リーダー兼ギターであるこの俺が」

一方・削板「「どうぞどうぞ」」

垣根「……しまった」

土御門「まあマイク持ってるし妥当ですたい。何歌うんだ、垣根」

垣根「んー……どうすっかなあ。これと言って持ちネタあるわけでもねえんだよ、俺」ピッピッ

一方通行(持ちネタどころか音楽なンざ普段聴かねェのに何を歌えばいいンだ)
削板(第一位が少し青くなってるような、いや元から白いんだなこいつ。根性ねえんだろうなこいつ)

土御門「履歴?」

垣根「おう。なんかねえかな、っと……お」

ピッ ソウシンカンリョウシマシタ

〜♪♪ 〜♪〜

一方通行(案の定わかンね、!)

土御門「か、垣根……お前ってやつは!」

削板「どうせやるなら真似るんだろ!? なあ、そうなんだろ!」

垣根「へへっ、よせやい」

一方通行(なンだ? この曲有名なンかよ)


ドリンクバー

麦野「ふう。結局店員に氷補充してもらったけど、切らしたやつ……タダじゃおかねえ」

御坂「このカルピスあんまり美味しくないわ、相当薄めてるみたい」

麦野「あはは、カルピス選ぶなんてやるわねえ」

御坂「?」

麦野「セーエキ、連想しない?」

御坂「」

御坂「しっ、しないわよそんなの!」

麦野「あっれれー、第三位の電撃姫はまだまだウブですってかぁ? じゃあここで覚えな、カルピスは精液です。はい復唱」

御坂「言えるかぁぁぁぁあああああっ!!!」ビリバリバチ

麦野「冗談なのに。ああ、それとさあ」

御坂「……なによ」

麦野「あんたは柵がないからバンドをやめるっていう選択肢もあるみたいだけど、私にはないのよ。だから」

御坂「だから……?」

麦野「やめる、だなんて言わないでよ。せっかく得た片腕と片目、また失いたくないし」

御坂「……、……」

麦野「それから。バンドメンバーだしめんどくさいことは抜きにしてくんない? たまにチラッチラ反応窺われんの、ムカつくんだよねえ」

御坂「……、水に流せって言うの」

麦野「そうよ。ほんと言うと、あのクソったれな第二位もブチ殺したいんだけど、我慢してるんだからね」

御坂「ま、いいわ。これから活動する上で余計な諍いは起こしたくないもの」

麦野「よし、オッケー。じゃあ戻ろっか」

御坂「なんか……お姉さんみたい」

麦野「はあ? ちょっと、あんたさすがに水に流しすぎだってば」スタスタ

バタン


垣根「そしてーたーたかーう、ウルトラソウッ!!!」


土御門「ハイッ!」シャカシャカッ
削板「やあっ!」バンバンバンッ
一方通行「そォい!」タンタカタンッ

麦野「……、……」

御坂「……、……」

麦野・御坂「「失礼しましたー」」

垣根「待て待て待て」

麦野「どういう流れでそれ歌ったわけ?」

土御門「履歴にあったんだと。それで歌ってるうちにハイになってな、オレらもうっかりマラカスとか」

削板「タンバリンとか」

一方通行「カスタネットとか借りちまった、ってェわけだ」

垣根「いやーすっきりした。すげえすっきりした」ツヤツヤ

御坂「そりゃ、あんだけ完璧に熱唱してたら気分もよくなるわよ……」

土御門「まあ、自分でうまいって言うだけのことはあったな。曲を知らない一方通行がノリノリになるくらいには」

一方通行「ノリノリも何も、俺は空気読ンだだけだボケ」

削板「じゃあ次オレな! マイク! マイクどこだ!」

垣根「ほい。俺使ってないから」スッ

削板「おうサンキュ。んじゃ入曲!」ピッ

〜♪〜〜♪〜♪〜

土御門「!!! まさか、……削板!」

削板「ふははははーっ! オレの歌を聴けぇぇぇぇええええええええッ!!!!!!!!」

カモンバーニンファイヤー!
カモンイェアイェアイェア!!!
カモンバーニンファイヤー!!!!!!!
カモンッ!!!!!!!!!

垣根「……わかんねえ」

土御門「マクロス7の主人公、熱気バサラの持ち歌だにゃー……前回の登場シーンでうっすら予想はしていたぜい!」

一方通行「ナンバーセブンと7をかけてンのか」

麦野「その発想はなかった」

カモンジャンピントゥーザスカイ!!!
デンセツヲトビコエロイマライナウ!!!!!

御坂「すごい……熱い……!」

垣根「目も瞑って完全に熱唱モードに入ってやがるな」

一方通行「オマエも似たよォなモンじゃねェか」

麦野「さてと、私は何にしようかにゃーん」ピッピッ

削板「はぁ、はぁ……歌いきった……」

土御門「お疲れ、まるでお前にバサラが乗り移ったかのようだっ、」

削板「だけどまだまだまだぁぁぁああああっ!」ピッ

麦野「!? ちょっ、今割り込み転送しやがったよなてっめえ!」

♪〜〜〜♪〜♪〜〜

削板「マジンガー……ゼェェット!!!」

削板「マジンガァァァァアアゼェェェェェエエットォォォォオオオ!!!!!!」

キィィィィィィィイン!!!!!

麦野「うるっせえええええ!!! せめてマイクから口離せよぉぉぉぉっ、てめえの唾液が飛んで使い物にならねえだろうがぁぁぁぁあああ!!!!!」

垣根「……、……」サッ

一方通行「オイそこの第二位、さりげなく自分のマイク永久確保してンじゃねェぞ」

御坂「ところであんた、音楽聴きそうにないんだけど何か歌えるの?」

土御門「それはオレも気になってた。一方通行、持ちネタあるのか」

一方通行「ねェけど」

垣根「え、じゃあ歌わねえの」

コンコン

店員「失礼致します、ポテトとカレーライス、牛丼、チョコパフェをお持ちいたしましたー」

一方通行「あァはい、どォぞォ」

コトコトコト

店員「では、ごゆっくりお楽しみくださいませ」

バタン

土御門「……牛丼?」

一方通行「俺」パキン

垣根「チョコパフェ?」

御坂「はーい、私」

一方通行「ン、まァまァだわ」モグモグ

垣根「カラオケで牛丼食ってるやつ初めて見た……」

土御門「削板ー、カレーきたぜいカレー」

削板「ゼェェエエェェェットォォォォォォォオオオォォォオオオオ」

御坂「聞いちゃいない!」

麦野「ふ、ふ、あははははははッ! そーぎいたぁ、ちょっとてめえの喉絞めてやろうかぁぁぁああああッ!!!!!」

垣根「こっちは順調に病んでんなあ」

土御門「ていうかやけに削板のターンが長いと思ったら、あいつ連続で10曲入れたのか」

一方通行「しかも、ンぐ、割り込み、っぷはー、だろォ?」

御坂「食べるか喋るかどっちかにしなさいよ」

垣根「とりあえずアニキ飽きたし消してっていいよな」

ピッピッピッピッ

〜♪〜〜♪〜〜……

削板「! し、自然に音が消えた!」

麦野「でかした垣根ぇ! ……って私のも消したのか」

垣根「ついうっかり」

麦野「ま、いっか。本気で歌うならヒトカラのほうが断然いいし」

一方通行「ヒトカラ? なンだそれ、ンもぐ」

麦野「ひとりでカラオケ行けるもん、の略よ」

土御門「なんか違うようなでも内容的には合ってるような」

御坂「で、結局ボーカルはどうするんだっけ」パクパク

削板「オレが全宇宙を愛と根性の歌で救ってみせる!」

垣根「はい却下ー。俺が全世界に愛のバクダン落としてやるよ」

土御門「垣根、お前が稲葉ファンだってことはよくわかったからマイク通して会話するな」

麦野「正直に言うと、男性ボーカルは垣根で十分じゃない?」

削板「!?」ガタタタッ

一方通行「! なンでオマエいちいちリアクションでけェンだよ、牛丼がテーブルから落ちたらどォしてくれンだクソったれェ!」

御坂「だからさ……まずカラオケで牛丼食ってる時点で何かがおかしいって気づけやああああ!!!」バンッ

垣根「うわっ、あっぶねえ。第三位、パフェ落っこちそうだったぜ?」

麦野「本当にまとまらないね、これじゃただカラオケに来ただけじゃないの」

土御門「たしかにな。ひとまず、もう一度ポジションを確認しておくか……ドラム」

削板「オレ!」

土御門「キーボード」

麦野「私ー」

土御門「ベース」

一方通行「ン」

土御門「ギター」

垣根「はいはいはいっ!」

御坂「はいはーい」

土御門「とまあこんな感じだ。ボーカル以外についてはとくに問題がない、ってわけだにゃー」

麦野「ボーカルは垣根と第三位が交互にやればいいよ。ギターがふたりいるんだから」

削板「オレは? オレも歌いたいんだが」

一方通行「オマエな、バンドってのは何も歌うだけがすべてじゃねェだろォが」

削板「!」

一方通行「オマエの根性見せてェンだろ? だったら、その根性全部をドラムに注ぎ込め。ンでコーラスでボーカルを支えろ。それが真の漢ってモンじゃねェのかよ」

削板「真の、漢……!!!」

垣根「もう一方通行はあいつを洗脳させる係でよくね」

土御門「なんだかんだであいつも熱い一面があるからな。扱いやすいのかもしれない」

御坂「で、さりげなく私がボーカルなのはどうしてかしら」

麦野「常盤台のお嬢様なら音楽の才能もあるんじゃないかと思ったんだけど」

垣根「言いがかりっちゃ言いがかりだよな。でもイメージとしては正しい」

土御門「お嬢様はきれいな歌声を披露してくれないのかにゃー」

御坂「しないわよ。ていうか、麦野さんが歌えばいいじゃない」

麦野「あー……それでもいいんだけど、途中から叫んだりするしデスメタルじみた曲になるよ」

垣根「」
土御門「」
御坂「」

麦野「いや、なるよって言うか、普通の歌も歌えるのよ。でも、こう、テンション上がると叫びたくなるわけでね」

垣根「……じゃあボーカルは俺と超電磁砲ってことでいいか」

一方通行「ンだよ、もォ決まったのかァ?」

削板「オレは誰がボーカルでも全力でコーラスするって決めたからいいけどな!」

麦野「ところでさ、一方通行ってハモれるのわけ?」

垣根「それが一番の問題だ」

土御門「そもそも音楽を普段聴いている素振りはないしな」

御坂「ていうか聴いたことないでしょ?」

削板「なんだオレ以下か」

一方通行「オマエら一気に集中攻撃してくンなうぜェ。あと第七位後で殺す」

垣根「多分、麦野はちゃんとハモれんだろうし、第三位もとくに心配はしてねえよ。削板はまあ、うん」

削板「なんでオレの話だけ濁す」

垣根「けどよ、一番厄介なのはテメェなんだぜ一方通行。ベースってことは、ギターのとなりで弾くわけじゃねえか」

一方通行「あァ、多分」

垣根「つまり、ただでさえ目立つ容姿のテメェだ。しかもとなりにイケメンの俺が格好良くギターをかき鳴らし歌っている……お前にだって視線は向くだろうな」

一方通行「……あァ、多分」イラッ

垣根「ってことは、テメェがうまくハモれねえと観客にドン引きされんだよ」

一方通行「……ンでェ?」

御坂「ま、一曲歌えってこと」

一方通行「歌うも何もよォ、俺は普段音楽なンざ聴かねェぞホントに」

削板「アニメも観ないのか?」

一方通行「てェかテレビも基本的には観ね、……あ、待て」

土御門「? アニメ……観る、のかにゃー?」

一方通行「好きで観てンじゃねェよ。たまにガキに会うと一緒に観させられるだけだ」ピッ

〜♪〜〜〜♪〜

御坂「……、……ちょ、嘘でしょ」
垣根「……、……いかれてやがんぞ」
麦野「……、……懐かしいけどさあ」
土御門「……、……まあアニメではある」


一方通行「そ、ォ、だー、おそれないーでーみーンなのーたっめっにィー」

一方通行「あ、い、とォー、ゆうきだけーがーとォーもだちさァー」


削板「愛と勇気だけが友達……!? し、真の漢じゃねえか!!!!」

垣根「なにより意外なことは、まったく恥ずかしがらずに歌ってるところだと思うわけ」

御坂「普段音楽を聴かない分、抵抗ないのよきっと」

麦野「しかも画面にアンパンマンの映像出てから熱が入ってきてるね」

土御門「あ、ばいきんまんのターン」


一方通行「ばいきンまン……テメェの手でアンパンマンを倒そォとしねェオマエは三下だァ……!」


垣根「まさかの独白タイム」

御坂「しかもマイク握り締めてる右手が半端なく白い」

麦野「それもともと」

削板「うおおおおお……アンパンマン!!!!!! お前は! 根性のある男、いやパンだぁぁぁあああああっ!!!!」

土御門「でも、愛と勇気だけが友達ならしょくぱんまんとかカレーパンマンは友達じゃないんだろうな」

垣根「だよな。非情だぜアンパンマン」

御坂「仲間なんじゃないの? 私達だって友達じゃないしね」

麦野「仲間。……仲間と言えば」

垣根「あ? どうしたよ」

麦野「いや、ちょっと今思いついたことなんだけど。それぞれ序列で呼んだり通り名で呼ぶのって、めんどくさくない?」

土御門「じゃあ名前で呼べばいいんじゃないのか」

麦野「それもしっくりこないのよ」

垣根「むっぎのー、とか」

麦野「きっめえ」ゾワッ

御坂「でもバンドを組む以上、愛称みたいなもんは必要かもしれないわね」

土御門「本名で活動するアーティストもいるが、ミュージシャンは本名のほうが少ないしな」

垣根「……第七位はソギーで決定な」

御坂「ぶっ!」

麦野「ぶはっ!」

土御門「ソギー……? なんでまたそんな愉快な名前に辿り着いたんだにゃー」

垣根「削板、削板ん、そぎいたん、ソギーたん、ソギー」

麦野「違和感wwwwwまったくwwwwwねえwwwwwww」

御坂「ソギーwwwwwwww暑苦しいwwwwwwwwソwwwwギwwwwwーwwwwww」

垣根「ツボに入りすぎじゃね?」

土御門「削板がソギーならお前はカッキーになるな」

麦野「カッキーwwwwwwガッキーみたいな響きなのにwwwwwwちっともwwwwwww清純派じゃねえwwwwwww」

御坂「なんかwwwwwすぐwwwwwwww折れそうwwwwwwwwwwwwwwカキンwwwwwwwwww」

垣根「……じゃあ一方通行はなんなんだ——」イラッ

〜♪〜〜……

一方通行「ふゥ、歌い終わったぜェ……、ってどォしたこの女共はよォ」

土御門「カッキーが悪い」

一方通行「ぶっ」

削板「ポッキーみたいじゃねえか」

垣根「テメェはソギーだけどな! カッキーよりいっそうなんかうぜえけどな! ざまあ!」

削板「ん? オレがソギーなのか?」

一方通行「みてェだなァ。カカッ、ご立派な名前じゃねェか」

土御門「……お前の場合はアクセラレータだから考え難いんだよ。そのままでいくか」

麦野「ひーwwwwソギーwwwwカッキーwwwww……ふう、ソギーにカッキーならイッツーでいいんじゃないの」

一方通行「!?」

御坂「ああ、一方通行って一通って言うしね。男はみんな語尾伸ばしてるってことでまとまりもあるし」

一方通行「は、ァア? 待て、イッツーってオマ、待て変だろおかしいだろ気色悪りィだろォ!?」

土御門「ドラムのソギー、ギターのカッキー、ベースのイッツー。全然、まったく、ちっとも違和感がないぜい? むしろ誰か違和感を呼んで来い」

麦野「案外あっさり決まったね。だったら私達はどうすればいいのかなー」

御坂「私達は女の子だし、シズリとミコトでいいんじゃない?」

麦野「キーボードのシズリ、ギターのミコト。うん、いい響きね」

一方通行「なァ何こいつら。なンで自分の名前は改悪しねェのこいつら。人の名前イッツーにしといて何なンですかァこいつらよォォォオオオ!!!」

土御門「いつの時代も真に強いのは女なんだそうだぞ」

一方通行「うっぜェェェェエエ! おいオマエらァ! イイのか、そンな名前で満足か!?」

垣根「……カッキー、か」

削板「ソギー、か……」

垣根・削板「「悪くねえな」」

一方通行「」

土御門「諦めろイッツー。お前を除く全員が満ち足りた表情だ」

一方通行「ちっくしょォ……イッツーってオマエ……ローマ字表記で『ITU』になっちまうじゃねェか! 『ITTU』だとなンかカッコ悪りィしさァ!」

垣根「大丈夫いっつー。俺はそんないっつーを応援してる」

一方通行「やだもォこいつきっめェ! どこの台詞盗ってきたンだよバカッキーがァァァァアアア!!!!!」

御坂「なんだかんだで認めてるじゃない」

麦野「まったく、これだから男は」ヤレヤレ




一方通行「ところでよォ。俺は音楽の授業すらまともに受けた経験がねェから、まずあのオタマジャクシが読めねェ」

垣根「うわ、だっせえなイッツー。ドレミファソラレドもわからねえとは」

麦野「待て今お前二回レって言ったろ。ドレミファソラシドもわかんないわけ?」

削板「くっそ、ツッコミたかったのにシズリはボケなかった」

御坂「楽譜なら打ち止めにでも教えてもらえばいいじゃない。あの子多分読めるでしょ」

土御門「幼女に楽譜の読み方を習う最強、か……」

一方通行「土御門黙れハゲろ」

削板「そういえば土御門にはあだ名がないな。不公平かつ根性無しだと思う」

土御門「あだ名がないだけで根性無し扱いするのはどうかと思うが、そうだな……オレのことは『土御門P』とでも呼べばいい」

麦野「土御門殺す?」

垣根「きっとそれ違う。つまりPはプロデューサーのPなんだよな?」

御坂「ツチピー?」

土御門「……もうそれでいいですたい」

一方通行「ンじゃツチピーさァ。ひとつ訊きてェンだけど、バンド『LEVEL5』は具体的にどんな活動をするンですかァ?」

垣根「とりあえずライブじゃねえのかよ」

土御門「アレイスターの話によると、最終的には世界も売れっ子のバンドにさせたいらしい」

麦野「いやあ、さすがに無理だわ。世界とか意味がわからない」

御坂「そもそも活動は学園都市内だけじゃないのよね。メジャーデビューもするし、海外進出もするに決まってる」

一方通行「俺はなンでオマエがそンなにやる気なのかすげェ気になるンだけど」

削板「漢なら夢はでかくないとな。結果は後からついてくるらしいがオレは先に結果がほしい!」

土御門「なんかさりげなくスポンサーについて問われたような気がする」

垣根「まあ、とりあえず俺としては垣根帝督……いや、ギターボーカルリーダーカッキーの名前を世界に広めたいんだよ」

麦野「あ、もうリーダーで確定なのか」

土御門「あー、ごほん。楽譜が読めないやつ、正直に手を挙げろ」

一方通行「……、……」ノ
削板「あ、オレも」ノノ

御坂「ソギーもか!」

垣根「まあそんな予感はしてたわ。流れ的にそうじゃねえかなって薄々気づいてはいたよな、期待裏切らねえなこいつ」

麦野「イッツーは覚えるの早そうだけど、ソギー……あんた大丈夫?」

削板「わからん! でも根性さえあればなんでもできる! と、オレは信じてきた」

一方通行「おい、若干自信ねェンだろオマエ。過去形になってンじゃねェか」

削板「いざとなったら楽譜なしで耳を使って覚えるから大丈夫だ」

御坂「それ、絶対音感がないとできないと思うんだけど。そこらへん大丈夫なの? ほんとに」

土御門「現時点では何もコメントできないが、読めないものは仕方がない。アクセ、じゃないイッツー。お前は打ち止めに教えてもらえ」

一方通行「マジでェ……?」

土御門「ソギー。お前は……とりあえずオレが一通りのことは教えてやる。それでだめなら諦めて絶対音感を鍛えるか、脳をいじくってもらうしかないな」

麦野「でもソギーって原石よね。迂闊に脳をいじられないんじゃないのかしら」

削板「根性」

御坂「もうそれで乗り切れる気がしたからいいわよ」

土御門「よし。そして、肝心の楽曲についてなんだが——」

一方通行「おォ。どこのバンドのコピって演奏すンのか教えてもらわねェと困る」

垣根「何言ってんだテメェ。俺達は世界に羽ばたくLEVEL5だぞ。コピバンなんざやってたまるか」

一方通行「あァ? どォいう」

土御門「カッキーの言った通りだ。アレイスターはお前達が自分で作詞作曲までこなすことを望んでいるし、そういうプランらしい」

一方通行「」

麦野「へえ、本格的にミュージシャンになりやがれってわけね? だったら、作曲はともかく……作詞担当を決めないと」

垣根「そんなの俺以外いねえだろ常識的に考えて」

一方通行「……、……」
削板「……、……」
御坂「……、……」
麦野「……、……」
土御門「……、……」

垣根「なあなにその目。なんで俺を化け物見るみてえに見つめてんの? 言っとくけどテメェら十分化け物なんだぞ」

一方通行「いンや……クソメルヘンなカッキーくンはポエマーでもあったンです、ってかァ?」

御坂「で、でもほら! 歌うひとが作詞したほうが感情込めて歌えるじゃない! ね!」

麦野「フォローにまわるミコト。だが彼女の額には汗が浮かんでいた」

削板「そう、カッキーに作詞させたらなんかとんでもねえことになりそうだ——ソギーは密かに作詞願望を明らかにした」

土御門「そしてそれを聞いたツチピーは、いやソギーも作詞はまずいだろうと止めることを決意する」

一方通行「それぞれの思惑が複雑に絡み合うカラオケボックス。次回、カッキーの作った歌詞はどれほど悲惨なのか! こォご期待」

垣根「……テメェら、俺を心底なめてんな? ガチでマジでリアルになめてやがるな?」

麦野「まあ、あんたにやらせてみるのも一興か。見下す的な意味で」

御坂「いざとなったらみんなで作詞すればいいしね。協力が大事よ、協力が、チームワークならぬバンドワークがね」

削板「つまりどういう結論なんだツチピー」

土御門「とりあえず垣根には次回までに一曲作詞してもらう。そして次回、メンバーで検討する。ちなみに次回までにイッツーとソギーは楽譜を読めるようになっていること……いいか?」

一方通行「はン。異論はねェな」

垣根「お前らほんと見てやがれよ? すっげー感動的な歌詞仕上げてくるからな。そんときになって垣根様とか呼んだって遅いぜ?」

麦野「カキネサマー。はい、満足?」

御坂「と、とにかく! とにかく次回までに各自スキルを磨けばいいのよね!」

削板「よっし、俄然やる気が出てきた! ここは根性の見せ所だな!」

一方通行「ってェこった。ツチピー、次回は一週間後でどォだ?」

土御門「ふむ。一週間もあればお前は覚えるだろうな。ソギーは正直わからないが」

削板「やってみせる。多分。きっと。そしてオレはすごいドラマーになる」

垣根「すごドか」

カラオケボックス前

土御門「えー、それじゃあ……お疲れ様でしたー」

一方通行「さまっしたァー」
垣根「うぃー」
削板「オス!」
麦野「おつかれー」
御坂「おつかれさまでしたー」

土御門「次回は来週。場所は追って連絡する。じゃあな」スタスタ

垣根「俺もかーえろ」スタスタ

麦野「中途半端な時間だし、誰か呼ぼっかなあ」カツカツ

削板「走って帰る!」ズダダダダッ

御坂「よし、私も帰ろうかな……イッツー、あんた帰らないの?」

一方通行「あン? いや、帰るけどよォ」

御坂「あ、そ。んじゃね」ヒラヒラスタスタ

一方通行「……イッツー、ねェ」カツカツカツ


 一方通行は隠れ家のひとつである高級ホテルに向かい、ゆっくりと足を進める。妙な心地だった。
 レベル5で集まったことなどなかったというのに、今になって招集がかかったかと思えばバンドを組め、というとんでもないお達しである。
 つくづくアレイスターの考えていることはわからない、理解できないし理解したいとも思えない。ただ、従うだけだ。

 カツカツ、カツカツ。彼の杖の音が響く。たとえば今身に着けているチョーカーにしても、同じことが言えた。
 技術をフルに活用すれば十二時間耐久できるものを作れるというが、わざわざこの計画のために技術部が総力をあげたのだとしたら滑稽な構図だと思う。
 歩きながら、ふと聞こえてきたアコースティックギターの音に、一方通行は耳を澄ませた。
 まだ少し拙いながらも懸命に弾いている、そんな音だった。応援したくなるような、と考えて彼は一笑する。
 気の迷いだと笑ったのだ。
 自分のような悪党が、未熟ながらも一生懸命な音楽に触れて心を動かされるなんて、ありえない。

 それっきり、一方通行は音源のほうへと足を向けず、わざと遭遇しないように迂回した。
 だから、気づくことができなかった。

「がんばってください、とミサカは一同揃って弾き語りをしているあなたを応援します」

 御坂美琴の妹達が、勢揃いで「少年」にエールを送っていたということを。



第二回・終了

いやこっちか

 ある休日の昼下がり。黄泉川愛穂はやわらかな表情を浮かべて子ども達を観察していた。
 一方通行は真面目に楽譜を見つめ、打ち止めはそのとなりで指を差し丁寧に音階を教え込んでいく。
 白い髪と茶色い髪が、すれすれのラインで接触している。いっそふたりとも抱きしめてやりたいなあ、と黄泉川は思った。
 くわあ、と芳川桔梗がソファに身を預けながらあくびをもらし、ちらりと少年少女を見やる。眠い彼女の目は半分しか開いていない。

「趣味ができるって、とてもいいことね」

 呟いたあとも、芳川はしきりにあくびを連発している。いつでもどこでも、基本的に能動的ではない芳川だった。
 今まで音楽について欠片も興味を示さなかった子ども達が熱心に音楽の勉強をしている理由は、彼女の関心をひきつける事柄ではないらしい。

 黄泉川も立派な教師である。音楽科の教員免許こそ取ってはいないものの、楽譜の読み方程度ならば教えることができた。
 それでも少年が教えろと言った相手が他ならぬ打ち止めなのだから、黄泉川は微笑ましい光景だと黙っておだやかな気持ちで見守っているのだ。
 どんな背景が存在するのかは明らかにしなかったものの、一方通行は至急楽譜の読み方を学ばなければならないという。
 学園都市の能力者の頂点に立っている彼が、こうして誰かに教えを乞うことは珍しい。
 さすがに一方通行は頭を下げてはいないが、教えろ、という横柄な言葉は同時に信頼の色も含んでいた。

「とりあえずこれでドレミはすべてわかった? ってミサカはミサカは真剣に考え込んでいるあなたに訊ねてみるんだけど」

「あァ、全部理解した。ンで、この♪の上についてやがる線やら点やらは何だ」

「これはテヌート、スタッカートっていってね……、……」

 打ち止めがわかりやすく説明していき、一方通行はじっと耳を傾けている。
 頭の中で情報を整理するうちに、これまでオタマジャクシに見えていた譜面に踊る音符の数々が意志を持った文字に見えてくるのが不思議だった。
 もともと、彼は可聴域外の低周波でさえ完全に聴き取れる最強の超能力者なのだ。
 一度音階を理解してしまえばあとは勝手に脳内で想像できてしまうらしく、彼は途中から音を並べることに夢中になっていた。

(案外ちょろいモンだなァ)

 ひとしきり演奏記号の説明を終え、期待に満ちた眼差しを向けてくる打ち止めの頭を乱暴に掻き撫ぜた一方通行は立ち上がる。

「ん? どっか行くのか」

 黄泉川の問いかけに、帰る、と短く答えた彼が一瞬打ち止めを見た。彼女がしっかりと自分の腕にしがみついていたからである。
 それはもう、さながらユーカリの木に引っついているコアラの如し。

「……オイ、クソガキ」

「なーに? ってミサカはミサカはすっかり外出の準備が整っていることをアピールしてみる」

 はあ、とため息が響く。一方通行はすでに黄泉川のマンションに住んではいない。たまに、打ち止めの顔を見るために訪れる程度だ。
 だからこそ、少女はこの機を逃さんとばかりに少年にぴたりと張り付いている。少年が振り払えないと知りぬいたうえでの暴挙だった。

「はいはい、ふたりともいってらっしゃいじゃんよー」


「だから、俺はただ帰るだけで——」

「いってきまーす! ってミサカはミサカはうだうだ言っているあなたの手を掴んでダッシュしてみたり!」

 わ、待て、と一方通行がバランスを崩し、舌打ちとともに電極のスイッチを切り替える。
 杖を不必要なものとして無意識に玄関に立てかけた彼は、自分が再びこの場所に戻ってくるであろうことをぼんやりと考えていた。
 すでにアレイスターの計画に乗ってしまっているのだ、せっかくのプレゼントは使い潰してやろうか。
 あは。
 ほんの少し笑って、一方通行は先を走る打ち止めの後を追った。



 インデックスは興味深げに、アコースティックギターを眺めている。
 弦を指で弾いて音を出しては嬉しそうにはしゃいでいる彼女だが、アコースティックギターの持ち主である上条当麻は小銭を数えるのに必死だった。

「一〇一五円……、すげえ、すごいぞインデックス!」

「よくわからないけどおめでとうとうま! これで今日はお肉が食べられるのかな!」

「それは無理だ。今日も稼がないとな」

 断言してから上条はインデックスからアコギを取り戻すと、彼女よりは上手に弾いてみせた。とは言え、まだまだ未熟な腕前であることは事実である。
 なにしろ、彼がこのギターを友人である土御門から譲り受けたのは二週間前のことだ。
 金がないと嘆いていた上条を見かねたのか、「これで弾き語りでもしてお布施をもらえばいいにゃー」と哀れみの目を向けながらそっとギターを渡してきた土御門。
 最初は一笑していた上条だが、強力なスポンサーがついたおかげでやる気も出てきた彼は、ここのところ毎日ストリートで歌っている。
 強力なスポンサー、つまりお布施を彼に与えてくれる少女達は、きっと今夜もやってくることだろう。

「そうだ。インデックス、お前も歌うか?」

 インデックスはシスターだ。彼女の得意とするものは歌なのだ。
 本当のところを言えば、上条は少女達が自分に同情して金を恵んでくれているのだと思っている。
 実際、彼はそれほど歌唱力があるほうではないし、演奏だってまだまだだ。
 しかし、インデックスは歌が上手い。教会の響きを持つ彼女の歌声があれば、もらえるお布施も増えるに違いなかった。

「うーん……歌をこういうことに使うのってシスターらしくないんだよ」

「よーしわかった。上条さんは胸が痛むのですが、ここは一週間肉なしの案を可決し——」

「行く行く行くっ! とうま、私もちゃんと行くんだから!」

「わかればいいんだ、わかれば」

 バイトをしようにも持ち前の不幸体質のおかげで採用すらされない、もしくは採用されて数時間後にクビになってしまう上条である。
 しかし、最近は運が向いてきたのかもしれない、と彼は喜びながらギターのチューニングにとりかかった。
 キィキィと調整音が響く部屋で、そもそも私はとうまの曲に合わせられるような歌はわからないかも、とインデックスは小さく呟いたが、あいにく届かなかったようだ。

 とあるファミレスで、麦野沈利は三人の少女とともに昼食を摂っていた。
 彼女の色づいた唇は次々にテーブルの上のものを平らげていく。パクパク、というよりも、ばくばく、のほうが正しいオノマトペであるかもしれない。

「おかかすいてるの? むぎの」

 滝壺理后が首を傾げながら訊ねる。普段と何ら変わりのない無表情だが、それなりに彼女は驚いているらしく、食事は一切進んでいない。
 それもそのはず——滝壺の知る麦野という女は、シャケ弁にかける情熱こそ燃え上がる炎のように激しいが、大食いではなかったからである。
 同じように、フレンダと絹旗最愛が揃って不思議そうに目を瞬かせた。尋常ではない食いっぷり、見事の一言だった。

「んーん? すいてるっていうか、ちょっと食べたくなったっていうか」

「それ、結局おなかすいてるって状態だと思う訳よ」

 呆れたようにフレンダが麦野につっこんだ。絹旗が「超同意です。麦野がそんなに食べるのは珍しいですけど」と付け加える。
 そうかなあ、と今度は麦野が首を傾げる番だ。

「最近けっこう食べたいって思うんだよね。なんでかなー」

 四人の少女達はこてんと一様に首を傾げている。なかなかに珍妙な光景だが、そのことにツッコミをいれる人間が不在だった。
 ねえ、と麦野が真っ先に首を戻して切り出す。

「浜面、どうしたの?」

 そう、普段ならいるべき下っ端がいないのだ。なんとなく味気ない、と麦野は思うが、他の三人も同意見らしい。
 えーとね。滝壺が天井を見つめながら言葉を発する。

「はまづらなら、今日もきっとドラムの練習をしていると思う」

「まだやってたんですね。浜面にしては超続いてるほうですよ」

 絹旗が滝壺の発言を受けて、浜面仕上を揶揄したと同時に、店員が新たなデザートを運んできた。
 様々なパフェに目を輝かせる彼女達は、とても幸せそうに見えたと店員は語る。



 御坂美琴が座っているのはネットカフェのビジネスチェアである。
 彼女の目の前にはパソコンがあり、画面には様々なエレキギターが解説とともに表示されていた。
 うーん、と御坂は小さく唸る。
 彼女はメンバーの中では一番といってもいいほどの努力家であり、計画に加担した時点で真っ先に楽器購入に着手したのもまた彼女であったという話なのだ。
 気になっているギターが二種類あるらしく、御坂はふたつのギターを見比べて腕を組む。値段は気にしない。
 ブラックカード一枚で支払えないものなど学園都市にはそうそう存在しないからである。

「これは、ちょろっと本物見てきたほうがいいかもね」

 パソコンをシャットダウンさせ、御坂はゆっくりと首をまわす。煮詰めすぎたのか、少し肩がこっているような気がする。
 ヴァイオリンの調整をよく頼む楽器店には、エレキギターも展示されていたはずだと彼女は行く先を決めた。
 このあと、彼女は打ち止めを連れた一方通行と楽器店で鉢合わせすることになるが、このときの彼女は知る由もなかった。


 そして、彼女が席を立ってから数秒後のことである。
 御坂の使用していたパソコンを(偶然にも前の使用者が御坂であると知ったうえで)次に使った初春飾利はいつもの癖で履歴を見て、あれえ、と驚いた。

「御坂さん、バンドに興味あったんですかねえ」

 しみじみと呟く初春には、履歴を覗くことはプライバシーの侵害に繋がる、という認識があまり浸透していないとみえる。
 履歴を消去しておかなかった御坂にも責任はあるが、「変なサイトは見ないんですね」という初春の発言は少々危ないかもしれない。



 温厚篤実とは言わないまでも、土御門元春はどちらかといえば冷静に気を長く持てる男だった。
 したがって、悪いのは短気ではない自分を逆上させている削板軍覇である、という結論が土御門の頭で導き出される。
 土御門はにこやかな笑みとともに額に青筋を浮かべ、「なあ削板、覚える気ないならいいんだぜい?」と声を出した。馴染みつつあった愛称を使うことさえ放棄だ。

 最高の原石と称される削板は、自身でも理解できない能力で第七位に位置づけられている。繊細すぎて研究者でさえ手が出せない能力である。
 つまるところ、彼には理解力が足りないのだ。なんとなくできる、だからいい。できないことは根性でカバーする。
 それが削板の生き方であり、もちろん、否定する権利は誰にもない。

 しかし、しかしだ。土御門は今、全身で否定してやりたかった。

「ど、う、し、て、こんな簡単な音階すらわからないんだにゃー!」

 うがあああ! とついに土御門が叫ぶ。うおう、と削板は彼の大声にびっくりして思わず肩を縮こまらせた。反射的行動である。

「ドレミファソラシド! ドを基準に覚えていくだけだろう、なあんでお前はわからないんだーっ!!!」

「わからんもんはわからん! だいたい、ドを基準にって言ったっていつも一小節にドがいるとは限らねえじゃねえかあああああ!!!!」

「そこらへんはもうフィーリング! 誰も楽譜見ていちいち『お、ドがここにあるからいちにいさんの、ファだ!』とかそういう考えはしないの!」

「え、しないの!? じゃどうやって解読してんだこの無数のオタマジャクシを!」

「だから……もういっそ数字だと思ってくれ。もしくは文字だ。ノットオタマジャクシ、バットナンバー。オーケー?」

「イ、イエス、ウィーキャン!」

「わかってないなら答えるんじゃねえええええっ!!!」

 だめだこりゃ。土御門はついにさじをなげた。扱いきれない。
 そうかそうか、これが原石の原石たる所以なのか、と彼がまったく別の方向から削板を理解しかけたそのとき。ふっとある考えが舞い降りた。
 たしか、とある漫画の主人公である天才ピアノ少女も、はじめのうちは楽譜を読むのが苦手ですべての音を耳で覚えていたのではなかったか。

「ノ・ダメならぬすごドか、……わかったソギー。やり方を変えるぞ」

 説明不可能とされる能力の持ち主であるからこそ、削板は身体能力に優れている。それを利用しない手はない、とプロデューサー土御門は舌なめずりをした。
 削板が土御門の異様な雰囲気を察知し、きょとんとした。そんな彼に、スパルタコーチはサングラスを外し暴言を吐く。
 ——目で見て取れないなら、耳で聞き取れ馬鹿野郎。

 第三学区の高級ホテルの一室に、垣根帝督はこもりきっていた。いわゆる缶詰状態である。
 ホテルに備え付けられている簡易デスクに散乱している数枚の紙には、いくつかの単語が書き散らされている。

「ぼくのーせなかーにははねーがーあぁるー……、チッ。だめだな、俺にジャニーズ路線は向いてねえ」

 垣根は苛々と髪を掻きまわしながら用紙をびりびりに引き裂く。そして、足元のごみ箱にばらばらと投げ捨てた。
 完璧な歌詞を書いてやると豪語したものの、垣根に作詞経験はない。そもそも、詩を書いたことだってないのだ。
 あの場では大きなことを言った垣根だが、正直なところ、つまっている。そりゃもうかなりつまっている。めちゃくちゃつまりにつまっている。

 ここ三日ほど、彼はホテルから一歩も出ていない——いや、気分転換に部屋から出てみようと思ったことは数度あったかもしれない。
 しかし、一フレーズも完成していないのに缶詰から抜け出すことは敗北と同意であるように思えたのである。

 結局、垣根はそのプライドの高さによって、自ら缶詰状態を希望しているようなものだった。垣根の名誉のためにことわっておくと、彼はマゾヒストではない。

「スペアなーんかじゃもーのたーりないー、どーうせやーるならメーイーンー」

 どうやら浮かんできた歌詞を適当に歌っているらしい。お、と何か閃くものがあったのか、垣根はそのフレーズを白紙に書き記す。

「おれたちこどもーまだまだのびるーぐんぐんにょきにょきたっけのこー……は気色悪いか」

 書いていたフレーズを二重線で消し、彼は頬杖をついた。そういえば、この歌詞を書いたあとにメロディーをつけるのは一体誰なのだろうか。
 麦野は違うな、と真っ先に第四位を排斥した垣根の本意は明快である。せっかく自分が魂を削ってまで仕上げた歌詞を、あっさりと破壊する音楽にしてしまいかねないからだ。

「作曲できそうなのは、……第三、じゃねえ、ミコトくれえだな。
 まあ、とりあえず俺がパーフェクトな歌詞を完成させればイッツーあたりは感激のあまり俺をカッキー帝とか言い出すだろうし」

 垣根は満足そうに笑うと、再び作詞に没頭する。ダークマター帝国かあ、悪くねえな。俺が王様で残りの連中は家臣ってとこだな。
 そんなことを垣根は呟きながら単語を並べていくが、その様子はそろそろ外出しなければ精神的に限界ではないかというほどに憔悴しているのだった。


第二、五回・終了

 麦野沈利は一抹の不安を覚えつつも指定されたホテルへと足をすすめていた。高級ホテルばかりが立ち並ぶ第三学区。
 垣根帝督が現在生活しているホテルもこの学区に存在し、同様に麦野もこの学区に居住している。
 もっとも、言い出せば「え、どこ住んでんのお前。近く?」と軽い調子で訊かれそうなため、彼女は決して彼にだけは口外しないと決めていた。
 したがって、自分の街と化している第三学区を迷わずに歩く麦野だが、その足取りは少し重い。

「……嫌な予感がするなあ」

 今日は垣根が作詞したという歌詞をメンバーに披露する日である。どうも、あの男にちゃんとした歌詞が書けるようには思えないのだ。
 くだらない言葉の羅列だったらどうしてやろうかと麦野は考え、ふふっと微笑む。正当な理由で垣根に報復を果たせるならば、それに越したことはない。
 ところで、歌詞ができたとなれば曲も作る必要があるわけだが、誰が作曲を担当することになるのだろう?

「ま、私はやんないけどさ」

 やりたくもないし、と心中で付け加え、麦野は目的地の前に立つ白い影を認めた。今回真っ先に到着したのは第一位様のようだ。
 片手を振ると、向こうも気づいたのか軽く杖を上げている。
 彼が学園都市から与えられた『条件』は、失われた能力を十二時間完全なものにする——という内容であったはずだが、あまり使いたくないのかもしれない。
 麦野が見るかぎり、一方通行が能力を使用して杖無しで歩いている様子はなかった。節約しているという線もあるが、なんとなく違う気がする。


某月某日、とある高級ホテル前


一方通行「案外早ェじゃねェか、……シズリ」

麦野「ああ、うちがここからそう遠くない場所にあるからね。イッツーこそ一番乗りじゃないの」

一方通行(一週間が経過していながらためらいなく愛称で呼ンだ……だと……!?)

麦野(まだ三十分前なんだけど、こいつ何時にきたんだろう)

一方通行「まァな。ついさっき来たンだが」

麦野「へえ。ところで楽譜は読めるようになったわけ?」

一方通行「おォ。あンな簡単なモン、一時間足らずで理解できたってェの」

麦野「まああんたならそうだろうね。ソギーのほうは不安が残るんだけど……ツチピーって教えるの上手?」

一方通行「知らねえよ。下手ではねェと思うが、取り立てて上手いっていうほどでもねェだろ、多分」

麦野「最悪の場合、ドラムは浜面にでも頼もっかな。あいつのほうがまだやれそうだし」

一方通行「はまづら?」

麦野「うちの下っ端で、全体的にチンピラじみてんの。ていうかチンピラ。無能力者でさ」

一方通行「はまづらとやらに興味はねェが、愛称をつけるとしたら」

麦野・一方「「ハマー」」

一方通行「だよなァ」

麦野「しかないよねえ。しかも違和感ないし」

一方通行「あァ、イッツーだのシズリだのに慣れちまってるからなァ。『グループ』の仕事で土御門のことをツチピーって呼ンじまったときの空気といったら」

麦野「……きっつー」

一方通行「あっちも思わずイッツーで返してきやがってよォ……ふたりの間に何が!? みてェな……思い出したら吐き気してきた」

麦野「反射ってこわ、あ。ミコトだ」

タッタッタッタッ

御坂「ふう、三番目みたいね。ふたりとも早くない?」

一方通行「待ち合わせに三十分前に来ンのは常識だろォが」

麦野「あ、私はただ早く来ただけよ」

御坂「まあいいわ。それより、こっち来るときにツチピーに会ったんだけど」

一方通行「あン?」

御坂「えっと、あの馬鹿、じゃない……んーと、知り合いと一緒にしなきゃならないことがあるとか言ってて」

麦野(嫌な予感がしてきた)

御坂「それで、今日は来れないんだって言ってたわよ」

一方通行「」
麦野「」

御坂「プロデューサーがいないってどうなのよ。まあ、一応来ちゃったし第三回目の集会は行うけど……って、おーい?」ヒラヒラ

一方通行「……、……」ポカーン

麦野「……、……」キョトーン

御坂「ねえ、さすがに驚きすぎじゃないの?」

一方通行「こンの馬鹿野郎ォ! ツッコミがいねェンだぞ!?」

麦野「ツチピー以外の誰がソギーとカッキーを止めるのよ!」

御坂「あー……ほら、でもソギーはともかくカッキーはわりと常識人っぽいじゃない?」

一方通行「イイぜェ、オマエがカッキーを常識人だと思ってンなら——そのクソったれな幻想をブチ殺す!」

麦野「なにそれ」

一方通行「そげぶ」

御坂(こいつなんだかんだであの馬鹿のこと気に入ってたのかしら)

麦野「ま、いいや。ミコト、あんたカッキーのこと全然わかってないみたいだから言うけど、あいつは非常識だよ」

一方通行「決め台詞が『俺の未元物質に常識は通用しねえ』だからな。通用しねェことを誇ってンだ、あいつは」

麦野「どうせちゃらちゃらした歌詞なんじゃないのかにゃーん。君だけを愛してる、もう二度と離さないと誓うよ……とか」

一方通行「たとえ離れ離れになってもちゃンと繋がってるから、とか」

麦野「君しか見えない、俺のすべてをいま君に捧げよう……とか」

一方通行「あァ、童貞も捧げるンだろォな」

麦野「重い愛だわ、まったく」

御坂「本人がいないのをいいことにあることないこと言いまくりよね」

一方通行「むしろ本人目の前のほうが言えンじゃねェか、こォいうのはよォ」

麦野「……今ふと思いついたんだけど!」

一方通行「あァ?」

麦野「カッキーの能力名、未元物質を略したらDMじゃない。それって『童貞です、マジで』の略になんない!?」

一方通行「!!!」

御坂「」

一方通行「す、すげェ……あいつパネェな……! 自らの能力名を省略したとき、真の価値が見出せるってかァ……!!!」

麦野「まったく、私なんかじゃ足元にも及ばないわけよ。自ら童貞アピってんだしさ」

御坂「いや真の価値見出してないしアピってないと思う」

一方通行「いやはや御見それしましたァ、あいつ来たらもォ褒め称えるしかねェわ」

麦野「よっ、童貞! って声かけてあげてもいいレベル」

御坂(なるほど、たしかにツチピーがいない弊害が発生したわね)

一方通行「とまァ、いねェやつでのブラックジョークはここまでにしといて、本題だ」

御坂「待てこら本気だったでしょあんたら」

麦野「なに言ってんのミコト。本気ならもっとえげつない言葉の応酬だって」

御坂「……、……」

一方通行「ンでな、ツチピーがいねェってことは……具体的に言えば、進行役がいねェってことだろォ」

麦野「そうなるね。なんだかんだで第一回も第二回もあいつが仕切ってくれてたし」

御坂「それはたしかに問題だと思うけど。そもそも今日って歌詞確認だけじゃない?」

一方通行「だァかァらァー、オマエホントわかってねェな。ダメだわ。ダメダメダメ」

御坂「ダメ連呼しないでくれる!?」イラッ

一方通行「あのカッキーが真剣な歌詞書いてくるわけねェだろ、常識的に考えて」

麦野「そうそう、きめえ歌詞に決まってんだよダークマター的に考えて」

御坂「そうかなあ……案外普通の、無難な歌詞だと信じたいわ」

削板「いやー無理だろ。あいつに限って」

一方通行「だよなァ。だって身なりからしてホスト気取ってンもンあいつ」

麦野「今時ホストはないよね。ちょっとイケメンだからって調子乗ってんじゃねーよマジで」

削板「だいたいあいつ根性なさすぎだろ。細いし」

御坂「……、ん?」

一方通行「おいオマエ俺に喧嘩売ってンですかァ? イイぜイイぜ、かかってき……」

麦野「あはは、天下の第一位に挑もうなんてあんたも馬鹿じゃ……」

削板「どうした、挑発したならそっちからかかってこい! オレがすべて根性で受け止めてやるよ」

一方通行「……、え?」

麦野「……、へ?」

削板「……、お?」

御坂「……、なんで違和感なく会話にまざってんだあんたはああああああっ!!!」ビリビリビリッ

削板「アウチッ」

一方通行「自然すぎてまったく気づかなかったンだが」

削板「周囲の溶け込むことも生きていくうえでは重要だからな」

麦野「なんつーか……ソギーの口からそんな言葉を聞くと居た堪れないわね」

御坂「ま、まあともかく! ね! あとはカッキーさえくればいいのよ」


垣根「あ、はいはーい。俺いるぜー」ノシ


一方通行「おォ、これで全員揃ったじゃねェか。ンじゃ入るとするか」カツカツ

麦野「このホテルまだ入ったことないし、どんな内装してんのかしら」スタスタ

削板「金は適当にコーチが出してるのか?」ダッダッダッ

垣根「コーチ? って誰のことだ、つうかツチピー待たなくていいのかよ」スタスタスタ

御坂「……なんで誰一人カッキーがいつからいたのかとかつっこまないの……?」トテトテ


ホテルフロント

一方通行「ここは一番遅れてきやがったカッキーが負担するってェことで、異論はねェな?」

削板「まったくない」

麦野「むしろ大賛成」

御坂「もうどっちだっていいわよ……」

垣根「えっなにそれお前らひどくね? まあいいけど」スッ

受付「ご予約のほうは?」

垣根「予約? ちょ、予約してんの? なあどうなの?」

一方通行「してンの?」

削板「さあ?」

麦野「知らなーい」

御坂(ほんとまとまりないわね)

垣根「うわ、こいつらマジ無能だわ。すんません、ちょっとわかんないんですけど」

受付「わからない……? 失礼ですが、ご年齢を確認させていただいてもよろしいでしょうか」

垣根「へ? あ、いや、ちょっと待ってください今アレ出しますんでアレ、ID」

一方通行「あいつ更年期障害だと思われてンじゃねェの」

麦野「だっせ、ジジィかよ」

削板「根性無しのいい例だな」

御坂「というか、待ち合わせ場所に指定してたんだし、ツチピーが予約してると思うんだけど。すみません、ちょっといいですか?」

受付「あ、はい。ご予約はなされていますか?」

御坂「えーっと……土御門で予約していた者ですが」

垣根「や、待って俺今年齢証明できるアレ探してるからちょっと、」

受付「土御門様ですね、お待ちしておりました。こちら部屋のカードキーでございます、どうぞ」スッ

御坂「ありがとうございます」

垣根「」

一方通行「すげェな、ツチピーの用意周到さにビビるわ」カツカツ

削板「そりゃコーチだからな。そういえばホテルはすでに予約取ったとか言ってた、うん、思い出した」スタスタ

麦野「こうでもなきゃ、私らLEVEL5のプロデューサーにもなれないっての」スタスタ

御坂「じゃあさっさと部屋に行きましょ」スタスタ

垣根「……俺、ただ恥晒しただけじゃねえのかこれ」スタスタスタ

受付「ごゆっくりどうぞー」


とある一室

麦野「んー……ま、この学区のホテルでいえばそこそこってとこ?」

御坂「まあいいんじゃないかしら。各自で適当に腰を下ろせるし」

一方通行「この布団やけにばふンばふンしてンだけど」バフバフ

削板「おおっ、半端ないばふばふ!」バフッバフッ

垣根「はっ、これだからホテル慣れしてねえやつは……うお」バフッバフン

一方通行「さりげなく確かめて感動してンじゃねェよボケ」

垣根「なあなあ、ツチピーいねえけどいいの?」

御坂「ツチピーなら今日は用事でこれなくなったって言ってたわよ。だから今日は私達だけ」

一方通行「正直不安しかねェが、数少ねェ常識人たるこの俺がいンだからなンとかなるだろ」

麦野「私も数少ない常識人だから安心していいわ」

削板「かくいうオレも常識人で」

御坂「あんたらがみんな常識人なら私は超常識人よバカ」

一方通行「バカっつったほォがバカだバカ」

麦野「待ってイッツー、そう返すとあんたまでバカになるのよ」

垣根「バーカバーカ」

一方通行「バカってェか馬鹿、むしろ莫迦だなオマエら。俺は言葉のベクトルさえも操れますゥ」

削板「なにそれすごくね!?」

一方通行「はン、俺のすごさに今気づいたのかオマエ」

削板「どうしたら言葉を反射できるんだ!?」

一方通行「まァすっげェ簡単に言うとォ……」

削板「簡単に、言うと……?」

一方通行「心を閉ざす」

御坂「それ言葉反射してないっつうのおおおおおおおお!!!!!!」バフンッ

垣根「のわっ! やめ、ベッドの布団引っ張るの禁止!」バフバフバフッ

麦野「ふう、ここの紅茶は悪くないかな」ゴクゴク

一方通行「ブラックねェの、ブラック」ガサガサ

削板「じゃあオレ麦茶でいいや」トポポポ

御坂「ああもう収拾つかないんだからもったいぶってないで歌詞発表しなさいよメルヘンが!」バフッバフバフ

垣根「んなっ! お前俺の能力見たことないくせにメルヘンとかふざけんなよ野生のピカチュウもどきが! 頬に電気でも溜めてろ!」バフンバフン

麦野「ミコトぉー、紅茶いるー?」

御坂「あ、お願い」バフピタッ

一方通行「ン。けっこォうめェ」ゴクゴク

削板「麦茶飲んでると夏な気分になれるのオレだけ?」

垣根「……、……」チラッ

麦野「香りもいいんだよね、これ」

御坂「あ、おいしい。こんなホテルでいい紅茶を飲めるなんて」

垣根「……、……」チラチラッ

一方通行「ナニ、そンなうめェの紅茶」

麦野「久々に高評価かな。飲む?」

削板「オレも飲むー」

御坂「はい、どうぞ」コポポポポ

垣根「……、……」バフバフバフバフ

一方通行(あァ、まざりてェンだろォなァ)
麦野(でもああやって不貞腐れてるほうがスカッとするわ)
削板(あいつなんか気取ってワイン飲みそうじゃねえ?)
御坂(でもまあ未成年だし……)

垣根「あーのどかわいたー」バフバフバフバフバフ、チラリ

御坂「……、……」

垣根「あーなんかのみてえかもー」バフバフバフバフバフバフバフバフバフバフバフ、チラリ

麦野「……、……」

垣根「あーごほっ、ごほん、のどいてえー」バフバフバフバフバフバフバフバフバフバフバフバフンッ

削板「……、……」

垣根「あーこうちゃてきなものがのみ」

一方通行「ンなに飲みてェなら自分で注げやクソったれェェェェエエエ!!!!」バシャッ

垣根「うぎゃああああああああっづ! 熱い! 顔面からほのかに紅茶のいい香りがああああああ!」

一方通行「よかったじゃねェか、紅茶の香りのおかげでオマエのくっせェ香水も中和されてンじゃねェの?」

麦野「あ、カップないから直に飲めよ」

垣根「……なあ、お前根に持ちすぎじゃね? たしかに俺お前のこと二回くらいぶっ倒したけどカップくらいくれてもいいだろ!?」コポポポポ

十数分後

御坂「さて、一服したところで早速歌詞を見せてもらおうじゃない」

垣根「えっ、もうちょっと焦らさねえか普通」

一方通行「どォせオマエの歌詞だし誰も期待してねェから焦らす意味もねェぞ」

麦野「愛してる、君だけを……とかきめえから無しな」

垣根「!」ギクリ

削板「今なんか若干肩がびくつかなかったか?」

垣根「きっ、気のせいだ」

一方通行「君に出会うために生まれてきたンだ……も気色悪りィから却下なァ」

垣根「!?」ギクギクリ

御坂「ねえ、今一瞬目を見開かなかった?」

垣根「ききっ、気のせいだ」

一方通行「ホントさァ、ここで焦らしても仕方ねェだろカッキーよォ。オマエ、リーダーなンですよね?」

垣根「うっ……リーダーですけど」

一方通行「なら、さっさと腹ァ括って歌詞見せろ。ポケットからはみ出してるルーズリーフの端っこが気になってンだよ俺は」

垣根「うっそ見えてた!? うわ、俺はっず」

麦野「むしろわざと見せてんだろてめえってくらい見えてんだけど」

削板「てっきり早く指摘してもらいたいんだろうと思って、オレはあえて触れなかったんだが」

御坂「さりげなくサディスティックな発言かました!?」

垣根「……、しょうがねえな。実はよ、二つ書いてきたんだ」ガサゴソ

一方通行「どンだけポエマーなンだよ、書いてねェのかと思って心配した俺の優しさを利子つけて返せ」

麦野「じゃあとっとと寄越して。音読してあげるから」ヒラヒラ

垣根「……はいどーぞ」スッ

一方通行「もうひとつは俺が読む」バッ

御坂(なんだろう背筋がぞわってきた)
削板(ルーズリーフ、折りたたんでたせいかすげえぐしゃぐしゃじゃねえか)

麦野「えーっと、じゃあ……曲名からいっちゃうけどいい?」

御坂「どうぞどうぞ」

垣根「キャー」

削板「カッキーなんか気持ち悪いぞ」

一方通行「……、……」グシャリ

麦野「『今すべての問題をかなぐり捨てて会いに行くから』」

垣根「キャー」

御坂「え、それタイトル?」

麦野「みたいね。んじゃさくっといこうか。
  
  『明るい色が似合うと笑うから その日から染め続けている茶髪
   軽い口調が好きだと告げるから その日からずっとチャラいんだ俺

   知らず知らずのうちに 俺のすべてが君仕様になってて
   そんな情けないことさえも なんだかすごく嬉しくなって

   君が笑う 俺も笑う
   君が泣いて 俺も泣いた

   君に会えたこの奇跡は必然 神様が敷いたレールの作戦

   電話越しの君 声がふにゃり
   思わず携帯 握り締めぐしゃり

   君に会うために生まれてきたんだ

   そう 会いに行くよ
   今 飛んでく君のもと

   君の心はいつも見えなくて まるで未だ知らぬ物質のようで
   ダークな君のココロはマターだらけ だけどライトに攻めるぜノープロブレム

   君が泣いてる だから行かなくちゃ
   君が呼んでる だから飛ばなくちゃ

   すべての(オール)問題(マター)をブチ壊せ(ブレイカー)、俺!』……これで終わりみたい」

垣根「キャー」

削板「コメントしづらいな……なんていうか……なんだろう……すげえイライラする」

御坂「つ、次! イッツー読んで!」

一方通行「……、……」ガサガサ

垣根「キャー」

一方通行「……はァ……」

麦野「読む前からため息つかないでよ……」

一方通行「今ざっと目ェ通したンだけどよォ……」

削板「またさっきのみたいなムカつくラブソングなのか!? だったら破るぞ」

垣根「ムカつくってお前! 俺が超一生懸命ひねり出した純愛ものをムカつくってお前!」

御坂「いや、でもまったく共感できなかったし」

垣根「嘘だろ!? あれちょっと実話入ってんのに!」

一方通行「だからうぜェンだよ。てェかなンだよダークな君のココロはマターだらけって。相手のこと腹黒扱いしてンじゃねェか……」

麦野「ていうかやっぱり愛が重い」

垣根「おもっ……!?」

削板「正直に言うと、こんな歌歌われたらドン引きだと思う」

垣根「ド、ン引き……? な、なあ、ドン引き!?」

御坂「うーん……歌うひとにもよる、かな」

垣根「あ、じゃあ俺大丈夫だわ。イケメンだから」

御坂「チェンジで」

垣根「なにそれひでえ」

一方通行「あのさァ……」

垣根「なんだよもう」

一方通行「本音で答えてほしいンだけど」

垣根「だからなんだよ」

一方通行「オマエ、バンド『LEVEL5』を私設楽隊かなンかと勘違いしてねェ?」

垣根「!!!」ビクリ

麦野「マジかよ」

一方通行「一応読むぜ、読むけどよォ。ねェわ。ない。ありえない。あっりえねェ。きめェとか以前にねェわ」

垣根「そこまで言うか!? そっちは自信作なんだけど!」

麦野「今この瞬間に少しの希望が潰えたわ。さ、イッツー読んじゃって」

一方通行「あァ。『D.M.』、これがタイトルらしいンだが、まァつっこまずにいくぜェ……

    『スペアなんかじゃ物足りねえ 狙うはメイン 頂点だ
     誰もが抱えてる夢ってやつを クソったれな俺も持ってんだ

     そこのシャイなお嬢さん ちょっとそこで俺とお茶しようぜ
     マジでどうにかなっちまう なんで俺がスペアなんだ

     ムゲンに広がるこの大空に ミゲンの翼を広げる今
     つかめるはずさ おそれないで
     手を伸ばせ 翼も伸ばせ 夢をつくれ

     Yes,we can make a dream!
     Yes,we will be a dream maker!!!
     
     ムゲンに広げるこの翼 ミゲンの世界が俺を待ってる
     いけるはずだ おそれずに
     足を踏み出せ 翼羽ばたかせ 夢をつかめ

     So,I can make a darkmatter!
     So,I will be a dark matter!!!』……、らしい」

垣根「キャー」

麦野「……、……」

御坂「……、……」

削板「……、……」

一方通行「……、……」

垣根「どうよ? ムゲンとミゲン、うまくね?」

麦野「……ラスト」

垣根「ん?」

麦野「ラスト、最終的に第二の未元物質になってんじゃねえかよぉぉぉぉおおおおおっ!!!!!」

一方通行「ですよねェ……ナニ? ダークマターつくれる? ダークマターになるでしょう? ふっざけンなよブチ殺すぞ」

削板「つーかこれ、お前のテーマソングでいいんじゃねえのかもう」

垣根「えっやっぱそう思う? だよな、これ書いてて俺もすげえ俺っぽいなって思った。だからタイトルD.M.なんだけどな」

麦野「『童貞です、マジで』の略だろどうせ」

垣根「ちっげええええええ!!!!! ドリームメイカーの略! あとはこっそりダークマター!!!!!」

削板「なんだ、デュエルマスターの略じゃなかったのか」

一方通行「タイトルで自己アピールとか……ねェわ」

御坂「最初のやつのほうがまだましに思えてくる……不思議」

垣根「なあ、お前らなんでそんな呆れた目で見てくんの? 俺作詞の才能けっこうあるだろ」

一方通行「ねェよボケカスクソったれ死ンじまえ」

麦野「一応歌詞にはなってた、そこだけは評価するわ。あとは評価できやしない」

削板「ここはいっそ戦隊系でいこうぜ。燃えるレッドー、すごいパーンチ! とか」

御坂「うん、そっちのほうがいいって思えちゃうから困るわね」

垣根「なにこの低評価……予想外すぎんだけど……もっとキャーとかワーとかさすがカッキーとかカッキー帝とか」

一方通行「夢つくる前に現実見よォかバカッキーくン?」

麦野「はあ……案の定、って感じかな。どうする? 私らじゃこんなのどうしようもできないっての」

御坂「そうね、やっぱりツチピーが必要じゃない?」

垣根「だったらもういっそ俺がプロデューサー兼ねるわ。今から垣根Pって呼べよテメェら!」

削板「カキピー?」

麦野「柿ピー?」

一方通行「ハイハイ、柿の種は黙ってピーナッツ選り分けてろボケ」

垣根「お前らほんと俺が温厚だからって調子乗ってんじゃねえぞいつか死なす」

御坂「とりあえず、ツチピーを召喚しましょ。誰か連絡先知ってるひとー」

削板「コーチの連絡先ならオレが知ってる! 一週間みっちり習ってたからな!」

一方通行「あァ、まァ俺のは『仕事』用のだかンなァ。ソギーのほォが適任じゃねェの」

削板「任せろ、根性で電波を飛ばす」ピッポッパッ

御坂「このホテル電波悪いわねー」ビリビリ

麦野「あ、バリ3になった」

一方通行「便利だなァ発電能力」

御坂「それほどでも」

削板「……、……」プープーッ

一方通行「どォした、出ねェのか」

削板「出ない。なんかプープーいってる」

垣根「お取り込み中じゃねえの。ナニしてんだろうな〜」

麦野「種黙れ」

垣根「なにそれ卑猥」

御坂「種が卑猥ってそん……、……」

一方通行「あー、たしかに種だな」

御坂「言わないでよ!?」

麦野「せ、い、し」

御坂「だから言わないでって言ったのにぃぃぃぃいいいっ!!!」ガバッバフン

垣根「ミコトが布団奪った……テメェふっざけんなあああああ!!!!!」バフバフバフバフ

削板「……、だめだ、つながんねえ」

一方通行「もォいっかい、もォいっかーい」

削板「わかってるって。まあ待てよ」


 削板軍覇は学園都市から支給されている携帯電話を不慣れな指使いで操作する。
 というのも彼自身は携帯電話を使うことがほとんどないためにそもそも携帯電話を所持していなかったせいである。
 彼の携帯電話使用歴は短い。

 ともかく、携帯電話のボタンをぽちぽちと押し、耳に当てる削板を見守る超能力者達の顔は真剣そのものだった。
 土御門元春がいかに大切な存在であったかを身をもって体験した彼らは、ひとを容易に信じることのできない人間ばかりが集まっているはずだが、今は一致団結していた。
 救世主——ツチピーの降臨を待ち望んでいるのだ。さながらキリストの再誕を願い続けた信者のように。

 プー、プー、と無機質な音を出していた削板の携帯が変化を伝えた。

 プルルルルルル。プルルルルルルル。

 垣根以外の一同の瞳に光が灯る。
 次の瞬間、ここ数日ですっかり耳に馴染んだ、メシアの声がすとんと落ちてきた。

『はいもしもし、こちら土御、じゃなかったツチピーだが』

 ワァァァァアアア! と垣根を除く全員が謎の興奮に包まれ、ある者は飛び上がり、ある者は隣人と抱き合い、ある者はルーズリーフを思いっきり破った。
 垣根だけは釈然としないような顔で残りの連中を見ていたが、その眼差しには「どうして自分の歌詞が認められないのか」という不満がありありと表れている。

「オレ! ソギー! 今! ホテルにいるの!」

『メリーさんかお前は……で、話し合いはどうだ? 順調かにゃー?』

「全然! だから! きて!」

『……だろうと思ったよ。わかった、今から行く』

 土御門の了承を得たところで、一方通行が大きくガッツポーズをし、電極のスイッチを切り替える。
 つまり、ここからが本領発揮。本当の話し合いのはじまりを告げる音が、カチリと小さく響いた。


第三回前半・終了

 一方通行は、学園都市最強の超能力者にして学園都市最高の頭脳を誇る男である。
 しかしながらまあ、なんやかんやあって彼の演算能力の大半は失われており、補強として学園都市から支給されている電極を介し、いわゆる「地球のミサカ、オラに力を分けてくれ」状態でもあった。
 アレイスターが一方通行に示した計画参加の褒賞は、演算能力持続時間を飛躍的に延長させたチョーカーの支給だったが、普段は使わないと決めていた電極のスイッチを彼はオンにしている。
 というのも、一方通行は決して気の長いほうではなく、今すぐ行くと言ったっきりちっとも姿を現さない土御門に苛立ちを募らせていたからだ。
 とある高級の一室に大集合している超能力者達は一様に短気で、誰もがぴりぴりと不穏な空気を身に纏っている。

「来、ね、え」

 真っ先に緊迫した空気を壊しにかかったのは、垣根帝督だった。


午後三時、とある高級ホテルの一室


垣根「今すぐっていつ? なあ、いつ?」

一方通行「うっせェよマジ黙れ喋ンな呼吸すンな死ね」

麦野「電話かけてからかれこれ二時間経ってんだけどさー……一向に現れる気配がないよ」

御坂「ねえ、ほんとに今すぐ来るって言ってたの?」

削板「言ってたぞ。今から行くって」

垣根「『今から』かよ。今すぐじゃねえじゃん。今からかよ」

一方通行「はァい、大事なことなンで二回言いましたァー」

垣根「茶化さないでくれるかなイッツーくん。僕はね、スケジュールがおしているんだ」

御坂「ごめん正直ちょっと今気持ち悪いって思ったわ」

麦野「ていうかてめえにスケジュールなんざねえだろ」

削板「オレはこの後走りこみをする予定がざっと数時間ほどあるわけだが、どうすればいいんだろうな」

一方通行「もォいっそ部屋出て廊下走ってろボケ」

削板「ん? いいのか、なんか泊まってるひとに申し訳なくないか?」

垣根「お、お前……他人の迷惑とか考えることができる人間だったんだな……今世紀最大の衝撃を受けたわ今」

麦野「まだ今世紀半分以上残ってるけどね。とりあえず、紅茶も切れちゃったし」

御坂「暇ねえ。やることないわよ」

垣根「こういうときって、やることなんざひとつしかねえだろ」ペタペタ

一方通行「あン? てェかナニやってンのオマエ。なンで千切れたルーズリーフ貼り付けなおしてンの」

垣根「そりゃツチピーに見せるために決まってんじゃねえか。破いた張本人がしれっと訊ねんなよ」

御坂「ああ、諦めてなかったのね」

麦野「そもそもどっからセロハンテープ探してきたわけ」

削板「セロハン……? 違う、違うぞシズリ! カッキーはセロハンテープなんて使っちゃいない!」

麦野「はあ? 何言ってんのあん……」

垣根「ふはははははっ! 甘い甘い甘い、あっめえなテメェら! 君達は知っていますか? ご飯粒は時に接着剤に生まれ変わることを!!!」ベタベタ

一方通行「きっめェ……よくよく見たらこいつ、さっきさりげなく頼んでたルームサービスのライスを指先で押しつぶしてやがる……」

御坂「うわあ、べたべたってもんじゃないわよそれ……ご飯粒もったいなっ」

削板「だからさっき残してたんだな。ご飯粒には何人か神様が宿ってるらしいし、もったいないってレベルじゃねえぞ」

麦野「ていうかさ、それ結局べたつくばっかで復元できてない気がするんだけど」

垣根「心配するな、自覚はある」ベタキリッ

一方通行「毎回思うンだけどよォ、オマエ名台詞の使いどころ間違いすぎじゃねェかな」

御坂「あーほらまた脱線する! なんでこうあんたらはまとまりがないのよ!?」

麦野「そう言われてもねー、ウチらまとまったら日本なんてぶっ潰せちゃうってば」

削板「ああ、異論はないな。世界征服もけっこう楽に出来そうだ」

一方通行「つゥか、音楽で世界征服すンじゃねェのか?」

垣根「なにそれかっけーな俺ら」

一方通行「まァ『LEVEL5』だかンなァ」

御坂「そうだった……世界に羽ばたくグローバルなバンドを目指してるんだったわ。ってことは」

麦野「ことは?」

御坂「世界に通用する詞、曲、技術を身につけなきゃいけないんじゃないかしら」

削板「つまり根性ってことだろ?」

一方通行「オマエしばらく根性禁止」

垣根「詞はまあいいとして……曲と技術か……」

麦野「おーい、なにちゃっかり自分の歌詞で通そうとしてんのかにゃーん?」

御坂「まあ、現時点で出来上がってるのがあのふたつしかないし。どうしよう、作曲できるメンバーはいな——」


一方通行「それについてなンだが、俺に任しちゃくれねェか」


一同「!」

削板「イ、イッツー、お前、作曲できるのか! あのオタマジャクシどもを生み出せちゃうのか!?」

一方通行「いや、ちィと違うンだけどさァ。要は音を並べりゃいいンだろォが」

御坂「簡単に言ったらそうなんだけど、実際は相当難しいわよ」

一方通行「どの音をどォ配置すりゃァヒトの脳に響くのか——すべてのベクトルを操るこの俺が、読み切れねェわけねェンだよ」

垣根「じゃあ早速リクエストしとくけど、一曲目は最初スローテンポな。甘ったるい感じで」

麦野「だからなんでてめえの歌詞で決定してんだよぉぉぉおおおおおっ!!!!」

一方通行「ともかく、作曲は俺に任せろ。歌詞は知らねェ」

削板「そうか……オレがオタマジャクシに惜敗を喫していたときも、イッツーは戦い続けていたんだな! なかなか根、……gutsがあるじゃねえか」

御坂「ねえちょっと、禁止されても英語で言い直したいくらい伝えたい言葉なの?」

一方通行「しかも若干発音イイのが腹立つンですけどォ、……ツチピー来ねェな」

垣根「どっかでゲリピーでもしてんじゃね」ドヤ

一方通行「すみませン、申し訳ありませンが速やかに退室していただけませンかなンだか臭うンで」

垣根「えっなんで!? 今のうまいこと言ったじゃん!」

麦野「あーもう黙れよ種。ちっともうまくねえからむしろまずいから」

御坂(なんでここの人たちはみんなスレスレの会話しかできないの)

削板「あ、携帯が振動してるぞ。誰のだ」ヴーヴー

一方通行「いやオマエのだろそれ。さっき使ってたじゃねェか」

削板「なんだオレのかー」ヴーヴー

垣根「いやいや出ろよ。なんで特定して満足してんの」

【着信中:コーチ】

麦野「……、?」

一方通行「ツチピーのことだろ。出ろソギー」

削板「……待て!」

御坂「なによ」

削板「悪戯電話だったら通話ボタン押した直後に激しい怒りに駆られるからもう少し待とうぜ」

垣根「だからコーチ、って出てるだろうが! なんで悪戯電話なんだよ!」

削板「しかも激しい怒りに駆られたオレは電話を余裕で真っ二つにしちゃうからな、危ない」

一方通行「テメェで言ってンなら世話ねェな。もォ俺が出る」

ピッ

一方通行「もしもしィ?」

??『あっりー? なんやこれー、女の子ちゃうやんかあ』

一方通行「? ンだァ、オマエ。ツチピ、……土御門はどォした」

??『えー、土御門クンやったら今さっき出て行ったんやけど、携帯忘れてったんよ。そんでちょっと履歴見てかけてみたんやでー』

一方通行(なンか微妙にズレてるよォな)イラッ

垣根「なあおいちょっと、なに固まってんだ」

一方通行「もォいい、代われ」スッ

垣根「へ?」

??『——、——でなあ、そっちにかわええ子おるん? まあ土御門クンの友達みたいやからさほど期待はしてへんけど』

垣根「……よくわからねえが、中身はともかく外面は悪くねえと思うぞ」

麦野「おいてめえ訂正しやがれ内面も可愛らしいだろうが潰すぞ? 種出せねえようなカラダにされてえかコラ」

御坂「シッ、シズリ落ち着いて、とりあえずその持ち上げた足下ろして」

一方通行「出せねェカラダ……いってェわ……」

削板「痛いな……べつにオレがやられたわけじゃねえのにすげえ痛い……股間は大切にしねえと」

御坂「なんであんたら若干内股になってんの!?」

??『え、ほんまに? かわええんやったら内面なんて気にせえへんよ!!!』

垣根「いや普通逆だろそれ」

??『ええからほら! 教えて! どこにおるん!? 新しい出会いはどこに転がっとん、ぶふぉ!』プツーツーツー

垣根「? ……、切れた」

麦野「いいから股間出せ、潰してやるから今すぐ股間出せ」

一方通行「シズリさンここはまァひとつ穏便に行きましょォよ、ホント」

削板「ええ本当股間とか生命線ですしね、いやマジで」

御坂「……、……はあ」

垣根「ていうかさあ、ふと思ったんだけど」

一方通行「あァ? オマエその股間おさえるポーズきめェからやめて」

垣根「俺らさ、お互いに連絡先知らなくね?」

御坂「そういえばそうね。まったく知らないわ」

麦野「連絡取り合うことなんてないし、いいでしょべつに」

垣根「そうとも限らねえぜ。今回みたいにツチピーがいねえ場合とか、本当は連絡網さえあれば集まる必要もなかったろ?」

削板「連絡網……!」

一方通行「なンでオマエは目を輝かしてンだオイ」

削板「なんかわくわくするんだよな! 連絡網! 連絡の網! 網だぞ網! なんかマグロ漁してえ!」

垣根「だから、この際連絡先交換しねえ?」

御坂「さりげなくスルースキル高いわよね、カッキー」

垣根「され慣れてるからな。で、どうするよ。俺はプライバシーなんざ今さらだし、いちいち気にしねえけど」

一方通行「俺も支障はねェが、嫌だ」

垣根「おい」

一方通行「オマエ間違いなく深夜にいきなりメール寄越してくるタイプじゃン」

垣根「ぐう……っ」

麦野「うわ、うっぜえ。寝る直前にくるメールほどうざいものはないよね」

垣根「メールっていうのは現代人の寂しさを霧消してくれる便利ツールだろ!?」

一方通行「だからオマエは二位なンですよォ。寂しさに慣れろ、むしろ友達になれ」

御坂「……切なすぎるわよ、あんた」

削板「じゃあ早速交換だな! 赤外線を俺が送るからお前らさっさと携帯出せって」スッ

麦野「だからまだ交換するって決めてないっての。悪用されたくないしね」

垣根「はぁあ? そういうひとを疑ってかかる精神よくないと思いますう。誰もストレス解消で出会い系に登録してやろっかなーとか思ってねーし」

一方通行「ダ・ウ・トォ! もォやだぜってェ交換しねェこいつ間違いなく悪用すンだろ」

垣根「いやしねえって。俺を信じろ。そんなくっだらねえ真似するような三下に見えるか?」キリッ

御坂「残念ながら、とっても見えるわ」

麦野「よく言ったミコト。ってことで交換はなし。はい終了」

削板「えっ……連絡網……つくらねえのか……?」ショボン

一同(……、……うわあ)

一方通行「あー……、仕方ねェから交換だけすンぞ。交換だけな」

御坂(普段いきいきしてる人間がいきなり落ち込んだら誰だって同情するわよね)

麦野「ったく、しょうがないわねえ。ほら、言いだしっぺのソギーから送ってよ。受け取るから」

削板「!!! 任せろ、今光の速さで送るからな!」ガツンッ

垣根「勢いつけすぎてシズリの携帯とぶつかったぞ今」ピッ

一方通行「待ておい、オマエなンで普通に俺の携帯に送ったンだよ!」

垣根「いや、スタンバってたし……連絡網作るならまぜてほしいっつーか、俺なしで連絡網できるわけねーよなみたいな」

御坂「あ、じゃあ次私ねー」ピッ

一方通行「だからオマエら少しは俺にアドレス帳の整理をさせろ」カチカチ

垣根「なあなあ俺のことなんて登録してんの? つうかグループ分けしてんの?」

一方通行「オマエの名前は2で、グループはLEVEL5だが」

垣根「」

御坂「お願いだから私はせめてミコトで入れてくれる?」

削板「イッツー、赤外線赤外線」ガツンッ

一方通行「おォ……こンなに猪突猛進の勢いで赤外線やるやつはオマエくれェしかいねェわ」ピッ

麦野「グループ分けするほど、アドレス帳に登録してる件数って多くないのよね」

御坂「ああ、なんかちょっとわかる。連絡先自体めったに交換しないし」

垣根「俺は一応百件超えてんぞ? 見る?」パカッ

一方通行「ダァウゥトォー! むしろダウト以外認めねェ。オマエで百件なら俺は千件余裕だボ……、うっそォ」カチカチ

削板「嘘だろぜったい嘘だろ認めな……、……マジだ」

麦野「男三人で騙そうったってそうはいかな……、え?」

御坂「またまたあ、そうやってみんなで私を陥れるつもりで……、ふぇ?」

垣根「ざまあみやがれ。ほらほらどうぞ好きなだけ見ろよ、百件超えてるし全部ちゃんとした知り合いだからな!」

一方通行「……なンだこの携帯……あァ、偽物ですねェわかります。レプリカですよねェ超わかりますゥ」

削板「そっか。レプリカなら仕方ないよな。根性無しのカッキーにこんなに大勢の友人がいるわけないもんな」

麦野「ねえこれ誰からぶん取ってきたわけ? あとでちゃんと返しなよ」

御坂「うっわあ、これマメにグループ分けしてるわよ。クラス、スクール、女……って待ってなにこの分け方」

一方通行「クラスとスクールって何が違うンですかァ? あ、これオマエの携帯じゃねェモンな、訊いてもわっかンねェかァ」

垣根「テメェら好き放題言ってんじゃねえよ、んでもって現実を見ろ」

麦野「見てるっつーの童貞」

垣根「いい加減それやめてくんねえ? こ、れ、は、俺の携帯なんだって。わかってんのお前ら」

削板「すごいパーンチ」

デュクシッ バラバララ

垣根「ってうおわァァァァアアア!!!! 俺の携帯! 木っ端微塵!!! バラッバラのけちょんけちょん!」

一方通行「けちょンけちょンって表現久々に聞いたわ、ソギーでかした」

麦野「見事に粉々ね、よくやったソギー」

削板「なに、オレはみんなの気持ちを代行しただけだ。感謝されるいわれはねえよ」キッパリ

御坂「……これはさすがに復元できないと思うわ」

一方通行「あっれェ、どォしましたァカッキーくン? なンだか顔色がよろしくないンですけどォ」

垣根「……っく、ふ、ははははは!!! こんなときのために俺はスペアの携帯も持ってんだぜクソったれどもが!!!!」シャキッ

麦野「そりゃ」

バキバキバキッ

垣根「マイガーッ!」

御坂「携帯を、足だけでぶっ壊した……ですって……!?」

削板「すげえ。シズリすげえなお前。オレ並にすげえ」

麦野「正直言って、お前らとタイマン張っても勝てる気しかしねえな」フッ

一方通行(たしかに今の力技だったよなァこいつ)

垣根「……なあ、さすがに三台目はねえんだけどさ。お前らもしかして、俺がリーダーやんの嫌なわけ?」

削板「嫌に決まってるだろ」

麦野「誰も受け入れてないし」

御坂「まあ、どっちでもいいんだけどね」

一方通行「嫌じゃねェけど癪」

垣根「マジかよ。俺てっきり受け入れられてんだと思ってたわ」

一方通行「まァ、現時点で誰がリーダーやろォがあンま支障はねェからスルーしてたけどなァ」

麦野「てめえの下につくくらいなら私がリーダーになってやる、ってくらいかしらね」

削板「よしきた、だったらここで投票しようじゃねえか! 誰がもっともリーダーにふさわしいのか!!」

御坂「ちなみに誰がリーダーやりたいんだっけ。私はやめとくわよ」

垣根「んー、シズリと俺。あとソギーもか」

一方通行「ろくなリーダーいねェじゃねェかよ」

麦野「もとから集まってるメンバーもすでにろくなのいないからね。私が妥当じゃないかと思うんだけど」

垣根「異議あり! こいつは外面いいけど中身がマジ下品でぶふぉ!」

麦野「何か言った?」

垣根「いいえ何も」

御坂(シズリ強いなあ……っていうかカッキーなんだかんだでやり返さないのよね)

一方通行「ソギー、は……うン。オマエはちょっとやめとけ、な?」

削板「なんでだよ! オレなんかレッドっぽいし、リーダー丸出しだろ!?」

一方通行「リーダー丸出しの意味がまずわかンねェし、レッドもちょっとよくわかンないですゥ」

削板「だーかーらー! 心の炎にガソリン注入っ、燃え上がるレッドとはオレのことだ!」

御坂「それもはや火事じゃないかと思うんだけど、心が」

削板「オレの心は一度ヒートアップしたら止まるところを知らないからな」

垣根「いやそこは知っとけよ。自分のことくらいコントロールできるようになろうぜ」

麦野「でも、ソギーが自分でコントロールできるようになったら序列変わるんじゃないの? どうでもいいけど」

一方通行「……おい、気づいたら話が脱線してンだが、この現象はなンなンだ」

御坂「超能力者だからこそ、かもよ。つまり、誰ひとりまともに他人の話を聞かない耳を持ってるって意味で」

麦野「あんたも入ってんだけどね」

御坂「はあ? 私は常識人だってば」

垣根「……、……」

削板「……、……」

一方通行「……、……」

麦野「……、……」

御坂「ちょ、ちょっと、なんでみんな固まってんのよ」

一方通行「いやァ……人のふり見て我がふり直せってなァまさにこォいうことか」

麦野「ひとりで研究所ぶっ潰すような中学生が常識人なわけないわよねえ」

削板「そもそも超能力者にまともなやつはいないだろ」

垣根「ああ、それお前が言っちゃうんだ。お前に言われたらもうどうしようもねえなマジで」

ドゥルルルルルッドゥルルルルルルルルッ

一方通行「ン、携帯鳴ってる」パカッ

御坂「待って待っておかしい、そのバイブすごく気持ち悪い!」

麦野「……、……バイブか」

垣根「バイブ……、……ふっ」

御坂「な、なによ……」

麦野「いいや、大したことじゃないわ。そういえば携帯のバイブレータって、使いようによっては面白い玩具になるわねえってだけで」

御坂「?」

垣根「性感帯にあてただけでぞくってキちまうかもなあ」

御坂「せっ、せ、性感た、……」

ピッ

一方通行「もしもしィ? ツチピー?」

土御門『ああ、オレだ。お前ら今待ち合わせ場所のホテルにいるんだよな』

一方通行「あァ。早く来い。疾風怒濤の勢いで来やがれ、収拾がつかねェ」

土御門『あと数分で着くんだが、カッキーから歌詞は教えてもらったのか?』

一方通行「……おォ。あれを採用するつもりはまったくねェが」

土御門『? わりとLEVEL5らしい歌詞だったろ』

一方通行「ンなわけねェだろ、あの歌詞だと最後には俺ら全員ダークマターになるンですけど」

土御門『よくわからないな。とりあえず今はそっちに急いでるから、まあ後は頑張れ』ガチャ

削板「なんて? コーチなんて言ってた?」

一方通行「なンかよくわかンねェけど、あと数分で着くってよ」

麦野「んじゃ、リーダー結局誰にするかだけ決めとこうか。ソギーがいいひとー」

削板「はいっ!」ノ

麦野「はい他になし。次、カッキ、」

垣根「待て。こういうのって立候補してねえやつは最後まで手を挙げずに『いや、どっちでもいいです』とか言うに決まってんだよ。クラスの委員長決めとかもそうだったじゃねえか」

麦野「知らねえよ」

一方通行「まァそォいうつもりではあったがなァ」

御坂「だってほんとに誰がやってもいいっていうか、誰がやっても変わらないと思うし」

削板「まるで『今晩の料理は何がいいー?』『なんでもいいよ』『なんでもいいじゃお母さんが困るの!』みたいな感じだな」

垣根「いや、なんか違くね?」

麦野「じゃあいっそリーダーなしでいいわ。むしろリーダーなしで対等な関係であるべきね」

一方通行「俺なンか今オマエの思考を理解した気ィするわ。自分の上に誰かがいンの嫌だよなァ」

麦野「そうそう。序列は仕方ないと思うんだけどさ、バンド活動においてバカッキーだのクソギーだのに仕切られたくないっつーか」

削板「クソギー!? さりげなく蔑称になってねえか!?」

垣根「バカッキー……そういやイッツーも前に言ってやがったな……」

御坂(きっと何か反論したら『ゴミコト』とか言われるんだろうなあ、言い返せるようにしとかなきゃ)

一方通行「くくっ、バカッキーにクソギーねェ。イイじゃねェか、ナイスネーミングだ」

麦野「あっは、照れるからもっと褒めなよ」

垣根「なにこいつ根っからの女王様気質?」

カシャンッキィー

土御門「悪い、遅れ——」

一同「ツチピィィィィィイイイイ!!!!!」ガバッ

土御門「うおっ!? ちょっ、なんだお前らどうしたなんでオレに全員で圧し掛かってくるーっ!!!!」

削板「なんとなくだな」ギュム

垣根「ほれほれ、もっと耐えてみ」ギュム

御坂「今ほんとに救世主に見えたのよ」ギュム

一方通行「あァ。ちィと手荒な歓迎だと思えや」ギュム

麦野「おらおらおらおらっ! てめえら全員私の人間椅子なんだよぉっ!!!」ギュムムッ

土御門「今なんかひとりだけ女王様がいらっしゃったんだが!」

一方通行「気にすンなって。これが現実だ」ギュム

土御門「いいからどけお前ら重い! なんでお前らを上に乗せなきゃならねえんだよオレの上に乗ってもいいのは舞夏だけだにゃーっ!!!!」

垣根「あらやだこのひとったら夜はお盛んなのね」ギュムウウウウ

削板「重っ! 今すげえ重み加わった! 僻みか! 僻みなのかカッキー!」ギュム

垣根「うっせーよお前も潰れろ俺だってそろそろ限界だ」ギュムギュム

御坂「ね、そろそろ本気で重いからいい加減やめない?」

数分後

土御門「はあ、はあ……これでもけっこう鍛えてるほうなのに……マジきっつ」

一方通行「オツカレー」

垣根「お前基本的に労う気持ち皆無だよな」

麦野「ツチピーもきたことだし、まずはバカッキーの歌詞についてなんだけどさあ」

御坂「……このルーズリーフ、べたべたしてて触りたくない」

削板「なんかすげえデンプンオーラ漂ってるな」

土御門「ていうか、ルーズリーフ?」

一方通行「あン?」

土御門「いや。カッキー、お前オレにメールで送りつけてきただろう」

垣根「……、……そういえば」

土御門「あれと、このべたついてるルーズリーフの内容は違うのか」

麦野「なーに? もしかしてもうひとつあるとか言っちゃう?」

垣根「……ああ、あるにはある。でも正直スランプだったときに書いたからな」

御坂「スランプって今まで絶好調だったひとが陥るものよね?」

一方通行「さり気なく絶好調じゃねェって言ってンなオマエ」

削板「なんだよ、今さら出し惜しみする必要ないだろ。コーチ、もうさっさと読み上げてくれ」

垣根「ばっ、だめむりぜったい! あかん、あきまへん!」

麦野「テンションがきめえ」

土御門「あー、待て。今メール探してるから」カチカチ

垣根「いやいやいいって探すなってマジいいって」

一方通行「バカッキーの送信フォルダから探したほォが早いンじゃね、……あァ。そォいや塵になったンだったなァ」

削板「うお、粉になってるじゃねえか。誰がやったんだ?」

垣根「お、ま、え、だ、よっ! この鶏頭!」

麦野「ソギーってなんか無駄に早起きそうよねえ、鶏レベルで」

土御門「ん、あったあった、ありましたぜい」

御坂「キタコレ! 早速読み上げてツチピー!」

土御門「おう。曲名はlevelだな。

   『いつからか 下を見なくなった
    いつの間にか 後ろを振り向けなくなった

    辛いとか寂しいとか クソったれな感情を捨てた先
    辿り着いた場所 掴み取った位置
    手放したもの 振り捨てたひと

    ここが限界? なめてやがるな
    ここが始まり 見返してやるよ

    レベルなんて壁はこの手でブチ壊す

    こんな忌々しい肉体を 望んだのは自分自身さ
    そんな暑苦しいネクタイは ここで一気に抜き取れ

    駆け引きなしの本気でいこうぜ
    超えられる 超えてみせる

    更なる高みへ level up!
    ついてこれるか このspeed!
    まだだ まだ物足りないfever!
    マジでブッチ切る 俺らはlevel5!』……とまあ、こんな感じだ」

垣根「ギャー」

一方通行「……、……」

麦野「……、……」

削板「……、……」

御坂「……、……」

垣根「なあお願い頼むからなんか言ってマジ俺羞恥心で死ぬぞ」

一方通行「……なンてェか、若干オマエの色が強ェ気はすンだけどよォ……前ふたつに比べたらよっぽどマシだわ」

麦野「まあ、感情移入できる箇所もちらほらあったし……」

削板「ラストがいいな。ラストはシャウトしていいんだろ、そんなノリだったよな」

御坂「ライブで絶対歌う曲って感じね。SEで流してもいいかも」

垣根「……え、なに? 前ふたつがボロクソでこっちがわりといいってどういうことだお前ら」

土御門「オレは悪くないと思うんだが、お前らはどうだ?」

一方通行「ま、処女作だしなァ。こンなモンでいいンじゃねェの」

御坂「作曲はあんたがするのよね、曲つけられそうなの?」

一方通行「ぼちぼち。まァ、なンとかなンだろ」

垣根「訊きたいことがあったら連絡寄越せよ? 24時間いつでも応答してやるから」

麦野「携帯ぶっ壊れてるけどな」

削板「まあ壊したのオレとシズリだがな」

土御門「うわ、なんでこんな粉々なんだ……データ復元できないぞ、これ」

垣根「ん? ああ、復元なんてしなくていいしな。クラスメイトとか、スクールの連中とかくらいしか入ってねえし、もう連絡つけることもねえからよ」

御坂「女、は?」

垣根「……オツキアイしてた数人だな。あんなに付き合ってたのになんで俺まだ童貞なんだ」

一方通行「どンまい。てェか結局オマエの百件も大したことねェな、ざまァ」

垣根「マジうっせマジ黙れ」

削板「ところでコーチ、今回はこれで終わりなのか?」

土御門「ああ。そうだ、お前ら来週丸々空けておけよ」

御坂「無理よ!」

麦野「ミコトはちゃんと学校行ってんだもんね。エライエライ」ナデナデ

御坂「むう……馬鹿にされてる気しかしないわね」

一方通行「丸々、ねェ。べつに構わねェが、何する気だよ」

土御門「まあ、簡単に言うと——合宿だ」

削板「!!!!!!!!!!!!!!! がっ!!!!!!! しゅく!!!!!!!!!!!!」

垣根「漲りすぎだろ……この面子で合宿って嫌な予感しかしねえって」

土御門「ミコトに言っておくが、アレイスターはすでに来週の外泊許可を下ろすように言っているらしいから心配はいらないな」

御坂「……さすが学園都市。みんなアレイスターの手の上で転がされてるわね」

土御門「じゃあ、全員参加できるということでいいよな?」

麦野「ん。どうせ暇だし、最優先しなきゃならないのはこっちだしね」

垣根「なあ、合宿って言ってるけどどこでやるんだよ。ホテル?」

土御門「いいや。第十九学区の廃墟のひとつを使えるそうだから、そこで行う」

一方通行「……あァ、あの古ぼけた学区なァ」

御坂「行ったことないんだけど、どんなところなの?」

削板「一言でいうと、ほこりっぽいな。なんか空気が淀んでるようなところだ」

垣根「ふうん。んで、必要なもんは?」

土御門「追って連絡するつもり……ああ、携帯ないのか」

麦野「来週も今日と同じ時間に第十九学区のどこかに集合。持ち物は各自で考える、これでいいじゃない」

一方通行「まァ、だいたいそンなとこだろォな。寝具はあンのかよ」

土御門「研究所を借りるからな。一式備わっているはずだぞ」

削板「つまりオレが持っていくものは根性だけでいいと。そういうことだな、よくわかった」

垣根「着替え忘れんなよ。一週間同じもん着るな、くせえから」

御坂「私服かあ、あんまり持ってないんだけど……」

麦野「私のお古でよければ適当なもの持っていくわよ。捨てるのもったいないのもあるしさ」

御坂「え、いいの? ありがとう! ついでにパジャマも頼んでいいかしら」

麦野「……パジャマもねえのかよ、お嬢様は」

御坂(あるけどぜったい馬鹿にされんのよこいつらなら)

一方通行「飲み物は適当に持ち寄っても構わねェな?」

土御門「冷蔵庫もあるだろうからいいぞ。でも、お前の缶コーヒーだけを冷やすわけじゃないってことは肝に銘じておけ」

一方通行「へェへェ、わかりましたァ」

垣根「合宿か。修学旅行を思い出すぜ……」

削板「行ったことあるのか」

垣根「研究に参加する予定とかぶって行けなかった。だからリベンジ」

麦野「ああ、私も行ったことねえなあ。だからといって合宿が楽しみなわけじゃないけど」

御坂「一週間ってけっこう長いわよね。私たちで五人で一週間……殺し合いになりそうな……」

土御門「こらこら、オレを忘れるんじゃない。仕方なくお前らに一週間付き合ってやるんだからにゃー」

削板「よし。じゃあ今日はこれでお開きだな! お疲れ様でした!」

麦野「お疲れ様ー」

御坂「お疲れ様でしたー」

垣根「ういー」

一方通行「おつかれェー」

土御門「さまっしたー」

麦野「んじゃ、私予定あるからおっ先ー」カツカツカツ

削板「オレもランニングして帰ることにするか。じゃあな!」ダダダダッ

土御門「あー、会計会計。すっかり忘れるところだったぜい」スタスタスタ

御坂「あ、私も一応ついてくわよ」スタタタタッ

一方通行「そンじゃまァ、俺も適当に帰るとすっかァ、っていてェ! ンだよバカッキー襟首掴ンでンじゃねェ長身野郎ォが!!!」

垣根「今さりげなく180cm越えの俺に対する羨望が聞こえた気がするがまあいい、ちょっとこれから携帯ショップ行くのついてきてくんね?」

一方通行「はァア? なァンで俺が、オマエの携帯選びに付き合わなきゃならねェンだよブチ殺すぞ」

垣根「だってなんだかんだでお前一番まともそうじゃねえか! ほら、帰りにコーンポタージュ奢ってやるから」スタスタ

一方通行「なにこいつ、なンで俺をコンポタで掌握しよォとしてンのこいつ。マジうぜェ」カツカツ


 ホテルのフロントを通り過ぎ、学園都市のツートップはお互いに憎まれ口を叩きながら携帯ショップへ足を運ぶ。
 その光景は以前ならば見られるはずのない貴重なものだったが、もしかすれば、これから先、見かける機会が増えるかもしれない光景だった。
 そして同時間、結標淡希は芳川桔梗と接触していた。おだやかな笑顔を浮かべた元研究員は、警戒している結標の心を解きほぐすように語りかけた。

「悪い話じゃないわ。ただ、少し協力してもらうだけよ? あなたにも、いい結果につながると思うのだけれど——ね」

芳川の真意が読めない結標だが、芳川の心境は実に単純で明快である。

(ようやく仕事が入ったわ、これでニート呼ばわりされても平気よ)

 まあ、そんなこんなでよくわからないながらも、運命の歯車は静かに軋み、動き始めたのであった。


第三回後半・終了

 寮の一室で、白井黒子は御坂美琴のパジャマに鼻を埋めていた。
 はあはあと息を荒くしながら、わずかばかりの体臭すら逃さずに嗅ぎ取ろうとする彼女の姿勢には感服する他ない。
 しかし、普段ならばそんな彼女を叱咤し諌め、電撃を飛ばすパジャマの持ち主はいなかった。御坂はこれから一週間、この寮に戻ってこないのである。

「はぁん、お姉様ぁ……わたくし、お姉様がいらっしゃらない一週間なんて生きていけませんの……っふう」

 十分にパジャマを堪能したのか、白井はにやついていた口元をきゅっと引き締める。
 すんすんとなおも鼻孔を膨らませていた白井だが、彼女ひとりでは相部屋である一室はどうにも広すぎた。
 一週間もこんな部屋で生活するなんて耐えられない。そう泣きついた白井を適当にいなして颯爽と出かけた御坂の置き土産。
 それがこの、幼稚だと日頃からからかわれているゲコ太パジャマである。ちなみに脱ぎたてだ。

「まったく! これがなければこの黒子、お姉様なしでは発狂してしまいますの」

パジャマを嗅いでいる時点ですでにとち狂っているような気がしなくもない白井であるが、本人からしてみれば至極真っ当な行動なのだ。
さて、と彼女は大きく伸びをして、スカートの乱れを軽く直し立ち上がり——その瞬間、彼女の携帯電話が着信を告げた。
首を傾げながらも、白井は着信相手を確認し、目を見開く。登録していながら今まで一度も連絡をとったことのない名前がそこにはあった。

「……結標、さん?」

 結標淡希。白井と同じ空間移動系の能力者で、力そのものは超能力者に匹敵するであろう少女。
 数少ない空間移動系の知り合いだから、と以前再会した際に連絡先を交換していたのだが、彼女から連絡がきたことはなく、白井が彼女に連絡をするようなこともなかった。
 何だろう。嫌な予感はしない。けれど、言い知れぬ妙な感覚がすとん、と白井の胸に落ちてきた。
 それは、世界の色が変わる前兆だったのかもしれない。


第十九学区

一方通行「……オマエ荷物多くね? なンだよその背負ったバカでけェリュックとぶら下げたボストンバック、さらにスーツケースはよォ」

垣根「だって一週間だろ、いろいろ用意したらこれくらいになったんだよ。むしろお前身軽すぎね? なにそのトートひとつっていうラフさ」カラカラ

一方通行「いや、着替えもいらねェだろォし、正直財布だけありゃなンとかなンだろ」

垣根「着替えいらねえの!? え、お前そのウルトラマンみたいなカッコが外出兼寝巻きなわけ?」カラカラ

一方通行「ブチ殺されてェのかオマエ。これから合宿するとこは研究所だった、っつってたろォが……病院の患者衣みてェなモンならどっさりあンじゃねェの」

垣根「その発想はなかった。ちくしょう早く言えよ、このボストンの中身一週間分の着替えだぞ馬鹿どうしてくれんだよ馬鹿」カラカラ

一方通行「うっせェよなンで俺がオマエの着替え事情まで把握してなきゃならねェンだよ、てェか見ててうぜェなその荷物」

垣根「なあ、ちょっとスーツケース引っ張ってくんねえ? 右手限界」カラカラ

一方通行「断る。だいたいよォ……どこまで引っ張りゃいいかもわかンねェってのに」

垣根「……だよなあ。どこの研究所行けばいいんだよ俺ら」カラピタッ

一方通行「アバウトすぎンですよォ、なンだよどっかの研究所って。見渡す限り廃墟だボケ」

垣根「点在しているコンビニがいっそう寂寥感を演出してんだよな。どうするよおい」カラカラ

一方通行「どうもこうも、地道に探すしかねェだろ」カチリ

垣根「地道に探すやつが能力使用モードですかそうですか」カラカラ

一方通行「もォめンどくせェし、上から探したほォが早ェだろ」

垣根「いってら。俺じゃあお前が探すまでここで待機してっから」

一方通行「おい待てコラ、メルヘンウィングの出番じゃねェか」

垣根「リュックあっから未元物質管理しづらい。ていうかだるい。頼んだ」カラカラドカッ

一方通行「オマエ……スーツケースの上に腰下ろした時点で動く気配がまったくねェな、くたばれ」ブォッ

垣根「くたばんねー」ガサガサ

垣根「お、あったあった。修学旅行と言えばやっぱりカードゲームは外せねえよ。……今のうちにシャッフルテクでも練習しとくか」ガタ

シャッシャッバラララララットントン
シャッシャッドゥルルルルルットトントン

垣根「マシンガンやりてえけどカード傷ませたくねえしなー」

シャッシャッシャットントントトトン

垣根「イッツーまだかよ。あいつ探査向いてねーな」

シャッシャッドゥルルルルルルルルン

垣根「こう、手首のスナップきかせりゃもっと格好良く決まるんじゃ——」


土御門「(路上でスーツケースの上にカードばらまいてるやつって……)」
削板「(なんだか末期だな。さすがに近寄れねえ)」
麦野「(ていうかあの手つきだっせ。マジだっせ、不慣れなのがバレバレだっつの)」
御坂「(あ、イッツー)」
一方通行「(よォ。あいつほっといてさっさと行かねェか)」
土御門「(もうちょっとここの電柱から見守って、それで気づかなかったら先に研究所に行くか)」
麦野「(いや、あれは気づかないと思うね。うっぜえくらい集中してる、)」

垣根「……このジョーカー、俺だけわかるようにちょっと端折り曲げとこっかな」

削板「それは卑怯だろうがあああああああっ!!!!」バッ

土御門「あ、バカ!」

御坂「まあ、卑怯っちゃ卑怯よねえ」

垣根「なにお前らなにその全員揃っちゃってる感じ」

麦野「てめえがシャッフルの練習してんのを嘲笑ってやってたんだよばァか」

垣根「しかもイッツーとかお前見つけたなら教えてくれればよくね」

一方通行「いやァ、上空から見たら数メートル後ろの電柱にこいつら団子状態でさァ。言い出すのもめンどくせェしィ」

土御門「正確に言うと、お前らが落ち合った時点でオレらはすでにここにいたぜい」

御坂「あんたら二人見てんのけっこう楽しかったわよ。仲良いじゃない」

垣根「ねーよ」

一方通行「あっりえねェよ」

削板「仲が良いのはいいことだろ。認めとけよ」

垣根「ここでソギーに諭されるとかもうね、……あ。そうだ、お前ちょっとこの荷物持ってよ」ドスン

削板「うおっ!? 重、なんだこのリュック! 何入ってんだこれ! 石か! 漬物石か!」

麦野「何の訓練だよ。にしても、あんた荷物多すぎでしょ。どんだけ浮かれてんだ」

御坂「気持ちは分からないでもないんだけどね。ま、行きましょ」

土御門「行くもなにも、目の前に立ってる研究所跡がこれから一週間お世話になる宿舎なんだがな」

一方通行「おォ、灯台下暮らしたァこのことか。全然気づかなかったわ」

垣根「……見ざる言わざる聞かざる! 俺に常識は通用しませんの!」

麦野「ノリがすでに修学旅行じみてて気色悪いんだけど」

削板「待て、なんかそれかっこいいな……すごいパンチですの!」

土御門「いいからお前ら黙りやがれですの!」

一方通行「頼むからオマエまで染まるのやめてくンねェかなオマエが真っ当に進めねェとこいつらホントどうしようもねェンだよマジで」

麦野「あら、さりげなく自分はまともだって言ってんの?」

一方通行「あァ、当たり前だろォが。おら、さっさと入りますの」スタスタ

垣根「あ、言い逃げ卑怯ですの!」カラカラ

削板「一番乗りは渡しませんの!」ダダダッ

御坂(シズリがさりげなく便乗してたのはつっこまないほうがいいのかしら)

研究所跡

土御門「ふむ。比較的に老朽化が進んでいない施設を借りたからか、普通の研究所みたいだな」

麦野「ゴキブリとか出なそうよねえ。つっまんね」

一方通行「ゴキブリきめェだろ。ナニあれ。ベクトル操作してェのに触りたくもねェからマジむかつくンだが」

垣根「フルネームで呼べるお前らを尊敬するぜ。G。奴はGだ」

削板「コードネームGか。……あれ、ちょっとかっけえ」

御坂「どこがかっこいいのよ。あんなの黒光りする気持ち悪い物た——、!」

カササササッ

一同「!!!」

一方通行「噂をすれば影。はァン、よく言ったモンだ」

垣根「み、見ざる言わざる聞かざる! あれは奴じゃない、そう、ちょっとでかくて光沢の増したコオロギ!」

麦野「あっははははははっ!!!! おらおらおら、逃げろ逃げろたぁっぷりいたぶってやるからさぁぁぁあああああっ!!!!!」

チュドーン ドゥルルルルゥン バキュンバキュン

削板「……なあコーチ。耳のいいオレはあちこちから崩壊の音が聞こえてくるんだが」

土御門「奇遇だな。オレもどうやら今週世話になる宿舎はここじゃないらしいと気づき始めたよ」

御坂「ちょっと、誰かシズリ止めなさいよ。崩壊までのカウントダウンが始まってるじゃない」

バキュゥゥゥゥン スギャァァァァァン ドゴッドゥルルルルルルル

一方通行「どこぞの芸術家は言った——芸術とは爆発だァ、と」

垣根「なあ、その名言シリーズはまってんの? 慣用句にはまったわけ、んおぉぉおわぁぁぁああああああくるうううう!!!!」

カササササッカサッカッサカサ

麦野「あぁん? てめえ、カッキーのほうに行ってんじゃねえぞ、私と楽しい鬼ごっこの時間だろうがっ!」

ドギュバキュベキバゴッ

垣根「やめ、ちょっ、俺いる! 俺がいるからそのビーム加減しやがれってきっめえ! なにこの黒いのなんで俺に飛んで、飛んで!? は!? こいつ飛べんの飛行スキルあんのかよぉぉぉおお!!!」

カッサカサブゥゥーンカサッカサササカサブゥゥゥ

削板「……、すごいパーンチですのッ!!!」ドゴォッ

プチッ

数分後、病院跡

麦野「……悪かったとは思ってるわよ」

土御門「わかったならいい。ということで、今週お世話になる施設だ」

一方通行「ま、研究所より過ごしやすいかもしれねェなァ」

麦野「慰めなんていらねえよ。過ごしやすいわけないでしょ」

垣根「じゃあ俺が正直に言う。病院で合宿とかただの集団感染で入院した人々じゃねえか。ノロウイルスか」

麦野「やっぱ慰めろ労れエイズ知らず」

一方通行「うっわァ、今のは童貞呼ばわりよりきついぜェ」

削板「ともかく、合宿でオレ達が何をするのかが問題だな。それ次第で病院が天国にも地獄にもなるだろ」

御坂「え? 練習するのよね。それから曲作りじゃないの?」

土御門「まあ、だいたいそんなところだな。イッツー、曲の方はどうだ?」

一方通行「ン……ぼち」

麦野「ほほう。ぼちぼち、というほどではないと」

一方通行「そォなンだよなァ。めンどくせェンだよ、オタマジャクシ生むの」

垣根「俺の歌詞があまりにも素晴らしすぎるせいかもしれねえ。悪いな……」

一方通行「それはないわ。曲付けしやすい歌詞をどォもォ」

垣根「ふっ、やっぱりな。俺の歌詞はどんなアホでも曲をつけることができるくらい完璧ってことか……」

削板「根性ねえのかと思ったら打たれ強いだなんて、案外やるじゃねえか」

御坂「そこ認めるところじゃないと思うわよ。で、話戻すんだけど、病院で何を練習するのよ」

土御門「検診プレっぐふぁ!」

一方通行「はァい、ツチピーくンはわかってないみたいなンでもォ一度。オマエだけは、ボケに走ンな」

垣根「ツチピー亡き今! ここは俺が華麗にカキピーとしてテメェらをプロデュースするしかねえようだな!」

土御門「おいこら勝手に亡き者にすんな種」

麦野「お、プロデューサー公認じゃない。もうてめえはグループの種担当でいいんじゃねえの」

削板「自己紹介のときに『リーダーの種担当カッキーです』とか言うんだな。意味わかんねえな」

御坂「あ、そっか。ライブのときって誰がMCやるのかしら」

一方通行「オマエはまた随分先の話を……カッキーにやらしときゃいいだろォが」

麦野「口上手いもんね、種」

垣根「種種言ってるけどお前はその種を誰かからいずれ埋め込まれるかもしれねえんだぞ」

土御門「お前らほんと朝から絶好調だにゃー」

御坂「……じゃあとりあえず病院で練習するわけね? おいおい、無理でしょ」

一方通行「まず、練習ってェのは楽器隊かァ? それなら大広間ブチ抜きゃなンとかできるンじゃねェか」

土御門「楽器隊もそうだし、カッキーとミコト、ふたりはボーカルとして声を鍛える必要がある。何にせよ、広いスペースを確保しておくにこしたことはないな」

麦野「病院に広いスペース、ねえ……」

削板「無理だな。病院って叫んじゃだめな場所だろうが」

一方通行「……、なァ。俺さァ、ちょくちょくこいつが常識人っぽい発言することに抵抗あンだけどォ」

垣根「ああ、俺もある。イラッとするっつうか、お前が言うなっつうか、ちょっとこう……」

御坂「私からしてみたらあんたら全員どんぐりの背比べだっての」

土御門「オレからしたら、そのどんぐりにはミコトも含まれてるぜい」

麦野「はいはいお互い様お互い様。目下の最優先事項は寝床の確保じゃないかと思うんだけどさ」

垣根「寝床って、そこらじゅうにベッドあんじゃん」

削板「オレ、前からやってみたかったんだが、ちょっとやっていいか」

削板「必殺! ベッド渡りィィィィイイイ!!!!!」シュタギシッシュタギシギシシュタッ

土御門「……まあそりゃ、普通の病院ならしたくてもできないにゃー」

垣根「ちょ、あれ俺もやってくるわ」シュタギシギシッシュタシュタッ

麦野「……、……」ウズウズ

御坂「……シズリ、やりたいなら行ってくれば?」

麦野「は? いや、やりたくなんかねえっつの、でもあれよね、ベッドの強度確かめなきゃならないし」シュタシュタシュタドゴッギシシュタッ

一方通行「……、……」ソワソワ

土御門「……イッツー。いいぞべつに、バッテリーの充電器も持ってきてるから」

一方通行「お、おォ。いや、ちげェ、俺はちょっとベッドの強度確かめるだけだ」シュタシュタシュタッシュタシュタシュタッ

御坂「ひとりだけギシギシ鳴らないあたりもやしよね」

シュタシュタッギシシュタシュタッ

御坂「……ツチピー、これ何の合宿だったっけ」

土御門「バンドだぜい。もうなんか忍者になるための特訓みたいになってるんだがな」

御坂「こんな調子で一週間?」

土御門「面子が面子だから仕方がないだろう。まざってきてもいいぞ? 生暖かい目で見守ってやる」

御坂「あいつらにまざるなんて遠慮するわよ。ところで朝から気になってたんだけど……」

土御門「なんだ」

御坂「その、両手にぶら下げた紙袋には何がつまってるの?」

土御門「ああ、これか。これはな、俗に言うジャージだよ」

御坂(ああだめだ、まともなやつがいない)



一方通行「はァ、はァ……正直はしゃぎすぎた」ゼェゼェ

垣根「俺まだいける。90越えしたし」

削板「あっまいな、オレなんて120越えだ」

麦野「つい力みすぎてベッド破壊した私に対するあてつけかお前ら」

土御門「お疲れ様、べつにやれとは言ってないが体力はついたんじゃないか?」

一方通行「こンなンで体力つくなら俺は今頃超最強だボケ」

麦野「あれー? ちょっと、ミコトはどこ行ったわけ?」

土御門「女子トイレ。着替えてくるそうだ、お前らもほら」ポスン

削板「……? なんだこれ」

土御門「開ければわかる。これから一週間はそれを着て過ごせ、学園都市の最先端の技術でつくられたとっておきの……制服みたいなものだな」

垣根「ふうん、制服ねえ」ガサガサ

麦野「なら、私も着替えてくるわ」

一方通行「……女共がいねェならここで着替えても構わねェな」

削板「なんだ、意外と周囲に気を遣うんだなお前も」

一方通行「よ、っとォ……あン? 白に黒ラインのジャージ……だとォ?」

垣根「おっ、俺のかっけえわ。見てこれ、黒地にゴールドのライン。俺らしい配色だな」

削板「オレのほうがかっこいいぞ! 赤に白線! 紅白! さいっこーに紅白な気分だ!!」

土御門「配色はオレの独断と偏見で決めさせてもらった。不満があるか?」

一方通行「……、……カレーうどン」

垣根「あ?」

一方通行「これ着たら、カレーうどン食えねェじゃねェかァァァアアア!!!!」

削板「白だと目立つな、たしかに」

土御門「いや、その前にカレーうどんとか食うのかお前」

一方通行「そりゃ俺だってたまにはカレーとうどんを同時に食いてェなァとか思うかもしンねェだろ」

垣根「カレーうどん食う奴って、べつに両者を同時に食いたくてカレーうどん選択してるわけじゃなくね?」

一方通行「え、ちげェの? ドリアとかよォ、ライスとグラタンを同時に食いたいがために上に乗っけるンじゃねェのか」

削板「……そうかもしれない。否、そうに決まってる!」

土御門「そもそも、イッツーは普段からカレーうどんをなめてるようなTシャツじゃないのか」

一方通行「あァ? ……そォいやそォだな」

垣根「ところで女性陣の配色はどうなってんの?」

土御門「ん、ああ、今こっち来るぞ」

御坂「あんたらも着替えたのね」パタパタ

麦野「まあまあ似合ってんじゃない」カツカツ

削板「ミコトはピンクに白線か。なんとなく同類意識が芽生える配色だな」

御坂「あいにく紅白野郎に同類意識は芽生えないわよ。それより、シズリのオレンジとイエローのほうがかわいくない?」

麦野「私は普段もこんな色だし、パープルとかのほうがよかったんだけど」

一方通行「……イイなァ」

麦野「?」

一方通行「……オマエ、カレーうどンを何の心配もせずに食えるじゃねェか。イイなァおい」

麦野「」

一方通行「なンかマジうらやましくなってきたわ。カレーうどンを気にせず食えるって素晴らしいことですよォ? おら、もっと胸張れよ」

麦野「……、あんたは汁が飛んだらやばいわねえ」

一方通行「だいたいよォ、白って膨張色じゃねェか。なンかさァ……なァ?」

麦野「なァ、って言われてもねー。イッツーは細いから膨張色だろうがなんだろうがどうでもいいじゃないの」

垣根「お? なんだ、紙袋の底にパープルのジャージ入ってんぞ。どうするよこれ」

土御門「ああ、それはシズリの配色に悩んだ結果なんだが、本人は紫がいいらしいしな。換えるか?」

麦野「あ、いいの? チェンジできんならそっちのほうがいいわね」

一方通行「……、……」ウズウズ

土御門「……あー、なんだ。いいぞ、持ってっても。イッツーとシズリは身長差がそんなにないし、ジャージも着られるだろうし」

一方通行「! ……すまねェ、恩に着るぜ。カレーうどンを食す際にはこのジャージを着ることにするわ」

御坂「なんていうか、カレーうどんを食べる機会が訪れればいいわね。この一週間で」

削板「え、ないのか? 合宿ってことは飯もオレらで作るんだろ?」

垣根「えっなにそれ自炊?」

土御門「その通り。と言っても、お前達は五人しかいないからな。当番制にすることなく、毎食全員で作れよ」

麦野「だっるーい。シャケ弁頼んでいいかしら」

土御門「集団の和を乱す行為は禁ずる」

一方通行「なンという修学旅行……!!!」

御坂「でもまあ気分的には林間学校とかそっちよね」

垣根「待て、じゃあ今日から早速作らなきゃならねえんだろ? 材料は?」

土御門「ないな。この学区にはスーパーが一軒しかないから、後で買出しに行く必要がある」

削板「オレ買出し班な、買出し班!」

一方通行「全員で買出し行きゃイイだろォがよ。今日の献立はどォなってンですかァ?」

麦野「シャケ弁一択」

一方通行「オマエのそのシャケ弁に対する飽くなき追求心はどっから来ンの」

垣根「だりいし出前でよくね?」

土御門「べつに出前でもいいが、オレの分もよろしくにゃー」

削板「コーチの分くらい出すぞ。イッツーが」

一方通行「俺かよ。なンで俺だよ」

削板「金ありそうだから」

一方通行「金はあっけどよォ、借金もマジ半端ねェぞ俺は」

御坂「プラマイゼロ?」

一方通行「むしろマーイ」

麦野「……いたわねえそんな芸人」

垣根「芸人の移り変わりって激しいよなあ、音楽業界もだけどよ」

削板「オレたちはそんなに厳しい世界に身を投じるのか……! 根性がいるな! すんまっせーん根性追加でーっ!」

垣根「いらっしゃーせー、根性はこちらS、M、Lございますがどれになさいますか?」

削板「あ、Lでお願いします。ついでに愛もつけてもらえますか?」

垣根「こちら愛でございますが、別料金でよろしいでしょうか?」

削板「あ、金かかるんですか? じゃあ結構です」

垣根「根性Lおひとつですね?」

削板「おひとつです」

垣根「毎度ありー、八兆円になりま」

一方通行「おいコラオマエなンで知ってるなンでその金額選ンだおいふざけンな」

垣根「学園都市の暗部なめんなよ。もうやめたけど」

御坂「突発的にコントが始まったときはどうしようかと思ったわよ。微妙すぎて」

土御門「微妙なレベルすぎてツッコミさえ許されない領域だったにゃー」

麦野「なんか買出し行くの面倒になったな。シャケ弁頼もうよシャケ弁」

一方通行「ンじゃもォ焼き肉弁当でイイわ俺」

御坂「あー、出前でいいの?」

一方通行「出前出前。てェかもォ2時まわってンだなァ、昼と夜まとめて食うか」

垣根「うわ、マジだ。時間経つの早えな……合宿らしいこと何もしてねえのに。ていうか俺らどうやって寝んの? 枕投げするよな?」

削板「おう、するする。じゃあ同じ病室で寝たほうがいいんじゃねえのか」

麦野「げっ……でも枕投げはやりたいな。ボッコボコにしてやるよ、誰をとは言わないけどね」

垣根「俺を凝視しながら言ってる時点で俺をボコる気が見え見えなんだけど」

御坂「病室で寝る超能力者達……なんつー構図よ。考えられないわ」

土御門「あーもうじゃあ出前取るぞ。各自食いたいの言えー」


 真っ先に麦野がシャケ弁と連呼し、続いて一方通行が焼き肉弁当の名を挙げた。そして垣根が特上寿司を頼んだことで御坂が便乗し、削板はカツ丼を注文する。
 てんでバラバラな連中だと吐き捨てながら、土御門はさりげなく自分も鉄火丼を頼んでいる。しかも高い鮪を使用した鉄火丼だ。払うのは一方通行である。

 土御門が出前を電話で頼んでいる間に、超能力者達は誰がどのベッドに寝るかを真剣に話し合いはじめていた。
 端を選ぶと枕投げに参加した場合は飛ばし難いが、参加しないのなら安全地帯である。繰り広げられる枕投げを気にすることなく眠れるのだから。
 我関せずと御坂が端っこのベッドの使用権を主張した。彼女は一番年下であるせいか、早く寝たいようだ。

「なあに〜? あんた、枕投げに参加しないっての? 逃げるわけ? 逃げるんだ、逃げちゃうんだー」

 麦野がからかうような調子で御坂を挑発するが、どうやら御坂は思いのほか芯の強い少女らしく、「いや、寝るわ」の一点張りだ。

「なんだよつまんねーな……この中で誰がキングオブスローイングピローか、ここで決着をつけようじゃねえか」

 垣根も御坂を誘うが、御坂は首を振るだけだった。そもそもキングオブスローイングピローとは何なのか、枕投げ一位じゃだめなのか、と思ったことは秘密である。
 さて、ここで物体を単純に『投げる』ことにおいて右に出るものなどいない一方通行が口端を歪め、笑った。

「はっはァ、イイぜイイぜ。雑魚なンざ何人いよォがこの俺の前では無能——キングオブスローイングピローは、俺だァ!」

「あ、やっぱ私中央のベッドで。雑魚が何人いようが変わらないのよね? だったら枕に鉄仕込んだっていいのよね?」

 一方通行の高らかな宣誓の後、すぐさま枕投げ参加を選択した御坂はたしかに比較的常識人ではあるが、他の超能力者同様に負けん気が強かった。
 化け物と称される彼ら。超能力者になるために必要なものは、誰よりも完璧な『自分だけの現実』を構築できる思い込みの強さである。
 つまり、ここにいる連中はみな、とにもかくにも気が強いのだ。頑固なんてレベルでは済まされないほどに。
 同様に、全員、自意識だって高いわけで。

「何を言ってんだよお前らは……きんぐおぶすろぉいんぐぴろぉはこのオレ、削板軍覇を除いて他にいない!!!」

 削板が堂々と声を張って告げた。おい、発音うまくねえぞお前、と垣根が小さくツッコミを入れたが、もとより聞く削板ではない。
 gutsの発音がやけに上手かったのはどうしてだろう、と御坂は考えながらも「私がクイーンよ」と名乗りを上げる。
 バカか、テメェはせいぜいプリンセス気取ってろクイーンは私だ。そう見下し、麦野は頂点に立つ人間の微笑みを浮かべた。


第四回(合宿)、第一日目中間終了

【弾き語り】上条当麻路上ライブ【ヘタウマ】

1 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10032
学園都市在住の全ミサカに告ぐ
お前ら今日も行くよな?

2 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka19090


3 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka13577


4 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10039


5 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka16002
いいなー感覚共有頼んだぜwwwwwwwwwwww

6 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka12804
最近うまくなってきたんじゃね?
昨日のfeat.チビシスターはなかなかよかった

7 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka13577
そういや昨日お姉様に会ったんだが、ギター背負ってた件

8 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka15151
お姉様ならエレキ余裕だろうな
俺らでもなんとかいける気はするけど

9 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka14889
待て
現在上条がアコギ練習中、お姉様がギター背負ってた
あとは……わかるな?

10 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10032
!?

11 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka19090
えっ




えっ

12 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10039
つまり……どういうことだってばよ?

13 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka14510
お姉様と上条が音楽を通して仲良くなってんじゃねーの?

まあwwwwww一方通行さんじゃwwwwwwwwwwねwwwwwwwwえwwwwwwwwしwwwwwwwwwwww
どうwwwwwwwwwwでもwwwwwwwwwwいいwwwwwwwwwwけどwwwwwwwwww
メwwwwwwwwシwwwwwwwwwwwwwwウwwwwwwwwwwwwwwwwマwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

14 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10032
あらやだ頭がお花畑だったのに牧場になっちゃったのねこの子

メシウマじゃねーよざけんなよどうすんだよ俺ら

15 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka13577
>>13
どうでもいいけど今日から超能力者集めて合宿すんだってよ

16 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka14510
はああああああ!?!?
やっ、ちょ、いや、合宿っておま、寝泊りぃぃぃいいいいい!?!?!?
むりむりむりやめてやめて一方通行さんが誰かと寝泊りとかやめてええええ

17 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka18264
合宿とかセロリなら一日で死ぬんじゃねpgrwwwwwwwwwwwwwww
あいつほんとだっせwwwwwwwwwwwwww

18 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka20000
倒れたセロリたんの性的看病ができると聞いて

19 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10032
歪みねえなこいつら…
つか>>15ソース出せ

20 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka19090
俺も聞いたわそれ
サングラスかけてアロハシャツ着た金髪がマジだるいにゃーとか言ってた

21 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka13577
そうそう
たしか上条のお友達じゃなかったか

22 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10039
19090号のミサッターで知ったお^^

23 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10032
19090号までみさったやってたのかよ
前は「ミサッター(笑)」とか言ってたくせに!!!

24 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka14889
これだろ
http://misatter.com/190_90

25 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka20000
イクお、くぅ……ッ!
って感じのIDですねwwwwww

26 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka19090
おい晒すのやめろ馬鹿

27 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka12321
ミサッターといえば夜とかマジ繋がりにくいんだが
あの混線中時に出てくるカエルうざい

28 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka17743
夜はみんな暇になって繋ぐしな、日本在住のミサカが

29 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10032
みさったはどうでもいい
それよりお姉様と上条が問題だろ

30 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka14889
ただの偶然かもしれん
今はほっとけよ

31 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka18111
でも超能力者の合宿って気にならね?

32 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka13577
お姉様含めまともな人間いないからな
破天荒な合宿になることは確実

33 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka14510
た、たしか第四位って美人なお姉さんじゃなかったか!?!?
どうしよう一方通行さんが誘惑されたらああああ!!!!!

34 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka16495
>>33
杞憂乙

35 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka13579
>>33
杞憂乙

36 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka11111
>>33
杞憂乙

37 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10753
>>33
そんなくだらない杞憂は捨てなさい!

38 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka19876
>>37
753は最高です!

39 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka14812
超能力者の合宿とか嫌な予感しかしねえよ

40 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka17600
気になったからちょっと行ってくるわ

41 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10032
スネークktkr
これで勝つる!!!

42 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka13577
場所は第十九学区だって
病院で合宿してるみたいよ

43 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10408
病院で合宿wwwwwwwwwwwwwwwwwwww
怪我人にあらかじめ備えておくとかwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

44 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka12981
スネークガチで行くの?
どうやって?

45 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka17600
ちょうど土御門が出前取ってるみたいだから配達のふりしてもぐりこむわ

46 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka16036
さすがスネークさんぱねえwwwwwwww
上条の友人すらスネークの対象にしているとは恐れ入るwwwwwwwwww

47 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka11011
−−−以下スネークの仕事報告スレ−−−

48 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10032
スレタイと違うだろjk
とりあえず今日も250円忘れんなよ、以上

49 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka18264
……合宿か
いや全然興味ないけどくそつまんねーだろうしマジねーわほんとありえね

50 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka13864
行きたいなら来日すればいいのに

51 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10032
絶対絶対絶対こないでください一生北欧にいてください
サンタ(笑)と戯れててください

52 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka14889
いいから落ち着け、気持ちはわからんでもないが落ち着け

53 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka17600
んじゃ行ってくるノシ

54 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka19090
健闘を祈るノシ


 スネーク。そう仲間内で呼ばれる少女は無表情で出前配達のアルバイターに背後から忍び寄り、遠慮なく後頭部を殴打する。
 もっとも、彼女なりに手加減はしており意識を失う程度におさえているのだが、任務遂行のために非情に徹する精神は少々物騒ですらある。
 ふふふ、と無表情のままのミサカ一七六〇〇号がアルバイターの抱えていた出前をしっかり担ぎ、バイクに飛び乗った。

「このミサカにスネークできないものなどありません、とミサカは出前を落とさないようにしっかりバランスを取りつつ、エンジンをぎゅるぎゅる言わせます」

 ギュルンギュルン、とバイクを唸らせた少女は速やかに第十九学区へと発進する。もちろん、彼女の成り代わり行為は誰にも気づかれることなく行われる——はず、だった。

「おや。あれは御坂さんではなく……一七六〇〇号でしょうか」

 あるひとりの少年が彼女に気づいたのは、彼が他ならぬ『師匠』であったからに違いないだろう。


第四、五回・終了

最近のSS事情がよくわからないんだけれどもMNWとかは現役なのかな
まあいいや

 第十九学区。そこは、日々発展を遂げる学園都市の学区の一画でありながら、例外と呼ぶべき荒廃を続けている場所だ。
 24時間営業のコンビニでさえ数軒があるばかりで、もちろんスーパーは一軒のみ。
 この学区に居住している人間はよほどの奇人か変人であろうと思われるほどに寂れたこの学区で、これから一週間——学園都市の頂点である超能力者達の合宿が始まる。

そして、その超能力者達はというと。

「ほらほらあ、まーたカッキーが大貧民カ・ク・テ・イ・ね」

「だあーっ! なんでどうして俺ばっかり!? お前らどっかでカードまわしてね? おかしくね?」

「言い訳は見苦しいぜェ、大貧民」

出前がなかなかこないということもあり、暇つぶしがてらトランプゲームに興じていたのであった。


午後七時、廃病院


土御門「カッキーが弱すぎるんだぜい? お前ら超能力者なんだからオレに演算で負けたら終わりだろうが」

垣根「だってお前表情読めねえもん。出さないだろうなって思って2出したらあっさりジョーカー出すんだもんお前」

一方通行「てェかよ、ひとつ言わせてもらうとだなァ……シャッフル汚ェンだよオマエは」

麦野「そりゃこんだけ下手なら路上で練習もするわよねえ。うまくなってねえけど」

御坂「多分あれよ、かっこつけてシャッフルするから失敗すんの。もっとこう、ありのままのカッキーでシャッフルすればいいのよ」

削板「ありのままでやったらもっと悲惨なことになるだろうがな。今だって配り終える前に手札見えるくらいだ」

垣根「うっせえよ黙れよだったら大富豪がシャッフルやれよ、ほら」ザッ

一方通行「あァ? イイぜイイぜ、やってやンよ。俺のカード捌きをとくと味わえ」カチリ

麦野「さりげなく能力使用モードに切り替える、と」

一方通行「文句あンのかコラ」シャッシャトントンバラララッ

垣根「うめえ……ベクトル操作してるってわかってても嫉妬しちまうレベルの手捌き……」

土御門「いや、だからお前が下手すぎるんだにゃー。なにをどうしたらトランプがオレのサングラスを粉々にするんだ」

御坂「あれはびっくりしたわね。たかがカード一枚でも十分に威力を持つんだってわかったわ」

削板「あー、なんだっけ。お前のさあ、コイン弾く技。あれもコイン一枚じゃねえのか?」

御坂「言われてみればそうかも。んー、結局力加減ってことよね」

麦野「にしても、うまいわねえイッツー」

一方通行「どこぞのメルヘンと違って練習なンざしてねェけどな。おら」シャッシャッシャッ

垣根「お前努力してるやつ馬鹿にすんなよ。足元すくうぞこの野郎、すくっちゃうぞこの野郎」

麦野「はいはい大貧民は大人しく大富豪に高位カード二枚渡すー。貧民誰だっけ?」

御坂「……はーい。今一番強いカード渡すから待ちなさいよ」スッスッ

土御門「平民のオレらはトレードの必要がないから楽だにゃー。平均的、これがベストポジションですたい」

削板「次こそ下剋上でオレが大富豪になってやる! なにせオレの手札にはジョーカーがあるからな!」

一方通行「ソギーのジョーカーに注意、っとォ。バカですかァオマエ」

削板「しまった」

垣根「なんかムカつくから言うけどイッツーもジョーカー持ってっからな。俺今渡したからな」

御坂「お互いに手札言い合ったらつまんないじゃないの。シズリは2を持ってるけどね」

麦野「おいコラメスガキ何言ってやがるブチ殺すぞ」

土御門「はいはいどーどー落ち着け落ち着け。せっかく交流が深まってきたところだ、この流れでより良い関係を築いていけないのか」

一方通行「俺らにも限界っつうモンがあってなァ。トランプごときで仲良しこよしになれたら世界は平和だボケ」

麦野「ま、表面上ならいくらでも仲良くできんのよ。ただ、こいつらの前では取り繕うのも無駄でしょ?」

垣根「あー、それはあるな。俺作り笑顔も愛想笑いもすっげえ得意だけどよ、お前らにしようとは思わねえし」

削板「カッキーの作り笑顔とか胡散臭いだけだろ。根性を鍛えて素直に心から笑えよ!」

御坂「やだ、今の言葉すごくかっこいい……でもソギーが言うとかっこよさが半減するわ」

一方通行「あァ、あいつが言やァかっこよさ三割増ってかァ?」ニヤニヤ

麦野「あいつ? ……! ああ、そういうこと。そういうことねえ」ニヤニヤ

御坂「ちょ、ちょっとあんたらふたりして何笑ってんのよ! ってか耳打ちしない内緒話すんなっ!!!」

一方通行「あのガキにはヒーローがいてよォ、……、……ってェわけだ」コソコソ

麦野「はっはーん、なァるほどぉ……、ふんふんそれで? ……ああ、そういう」コソコソ

垣根「なあちょっと俺もまぜて俺もまぜて」コソッ

削板「オレもこそこそしてえ」コソソッ

御坂「〜〜〜ッ!!!」プルプル

土御門(ああ、こいつらの力関係がわかってきたぜい。とことん超電磁砲はいじられるほうなんだな)

垣根「ふむふむ、ほうほう……、へっえー……ふうん」コソコソ

削板「何っ!? ああ、……おお、うん……ふおー……」コソコソ

麦野「いやあ、若いっていいわねえ。青春青春」

垣根「いやあ、若いって素晴らしいよな。性春性春」

御坂「おいコラ今ちょっと言葉のイントネーションおかしくなかった!?」

一方通行「気のせいだろ。でもあいつなら言いそォですよねェ」ニヤニヤ

御坂「だからそのにやけた面やめろっつってんじゃあああああああ!!!!!!」ビリッ

垣根「あー! てっめ、俺のトランプ破いてんじゃねえぞ! 買ってこい! 弁償しろ!」

御坂「するか馬鹿! あんたがせっ、性春とか言うのが悪いのよ!」

削板「あ、聴き取ってたんだな。オレ最初わかんなかったぞ、やっぱお前そういうこと考えてるんじゃねえのか?」

御坂「か、かん、考えてるわけないでしょうがああああああっ!!!」ビリビリビリッ

垣根「うわあああまた破りやがったぁぁぁああああ!!! おまっ、マジ弁償! 俺がトランプ一箱買うためだけに百均入ったときの恥ずかしさを味わえクソがああああ!!!!」

一方通行「ンだよ、これ百均のトランプだったのか。道理で安くせェわけだ」ビリッ

麦野「第二位ならせめてプラスチック加工のトランプ準備しろっての」ビリリッ

垣根「おいおいおいおい君達何をしてくれやがってんの? びりびりなにしてんの? なんでびりびり破いてんの?」

土御門(一方通行と麦野は性根が似てるのか、あるいは波長が合うのか……ふむ)ビリビリ

垣根「ツチピーまでやってやがる……だと……?」

削板「ところで出前まだなのか。腹減った」ビリモグ

御坂「トランプは食い物じゃないっつうのおおおおおおお!!!!」ガクガクユサユサ

削板「ぅぐえっ!」

一方通行「ソギーならナニ食っても平気そォだと思うわけだが」

麦野「全文同意するわねー」

垣根「俺の……トランプ……」

一方通行「あー、出前こねェなァ」

削板「腹減りすぎて共食いしちまいそうだ」グーキュルルル

麦野「食べるならまずはカッキー食べときなよ。そいつ裕福な暮らししてるから」

垣根「おい待て」

御坂「ねえツチピー。出前頼んだの一時間以上前よね? 遅すぎないかしら」

土御門「にゃー、なにせここは第十九学区だからな。出前配達に少々時間がかかってもしょうがないと言えばそれまでだ」

一方通行「サービスがなってねェな。客を待たせるなンざ三流店員のすることだ」

垣根「まあどうせ三流どころかアルバイターだろうけど。にしても腹減ったな」グー

麦野「……仕方ないわね、コンビニ行ってくるか。あんたらほしいもんある?」

御坂「あ、でもシズリひとりに行かせるのはちょっと申し訳ないっていうか……」

削板「ならオレもついていこう。一刻も早くなんか食わねえと死ぬ」グッキュルグウウウウ

土御門「たしかに腹の悲鳴が深刻だな、お前は」

一方通行「ンじゃ、俺のブラックコーヒー買ってこいよ。ほら、金」ピラッ

麦野「何本?」

一方通行「買える分だけ」

垣根「じゃあ俺あれほしい。トランプ」ピラリ

削板「コンビニのトランプって高くねえか? まあいいが」

御坂「んー、えーっと……とりあえずなんか雑誌買ってきてもらえる?」ピラッ

麦野「オッケー。で、ツチピー、あんたは?」

土御門「ん、ああオレはいらない。……ていうか全員渡した金が万札って常識外すぎてだな」

一方通行「あァ? こンくれェ普通だろォが」

垣根「っつか、今俺財布に千円札ねえよ。使っちゃった」

御坂「まあ、それなりにお金あるからつい万札出しちゃうのよね」

土御門「なんだろうな、この合宿が終わったらオレの何かが変わっているような気がしてならないぜい」

麦野「それじゃ、行ってくるわ」

削板「お前らあれだぞ、オレの出前勝手に食べるなよ!?」

垣根「誰が食うか。はいはいいってらっしゃーい」

バタバタ

一方通行「……正直に言う」

御坂「何よ」

一方通行「カロリーメイトとウイダーなら持ってきた」

垣根「なん……だと……!?」

土御門「ああ、人数分ないのか。それで喧嘩になった挙句自分の分がなくなるのも困るから、ふたり減った今言い出したと」

一方通行「まァそンなとこだ。俺はカロリーメイトもウイダーも食う、残りはオマエらで適当に食え」ドサッ

垣根「カロリーメイトが2箱に、ウイダーも2袋……」

土御門「全員いたならひとり食えない計算になるな。イッツーがどちらかひとつに絞れば全員食べることが出来た気もするが」

一方通行「肉食いてェのにカロリーメイトとウイダーで耐え忍ぶンだ、両方食わねェとやってらンねェ」

御坂「じゃあ私はウイダーで。どうせすぐに出前もくるわよね」

土御門「オレは余ったほうでいい。カッキー、選んでいいぞ」

垣根「……どうすっかな……カロリーメイトでいいわ。んじゃ遠慮なく、いっただっき」

ガシャンッバタバタバタウィーン

一方通行「!!!」

御坂「そういえば、出前配達ってどうやってここに入ってくるんだろうってさっき考えてたんだけど……」

タンタンタンタン
トトトトッ

女「はあ、はあっ……すみません出前です、とミぶふっ」

男「いやあどうも。毎度、出前です」

垣根(今男のほう、女の口手で塞いだよな)

土御門(ていうかなんか頼んだ量より少なくないか)

御坂(……なんか微弱な電磁波を感じるのよねえ)

一方通行「おっせェ。遅すぎ。客待たせるなンてどンな神経してンだオマエら」

女「待たせるも何もししょっ、……いえ、申し訳ございません。こちらがご注文の品でございます」スッパカッ

垣根「……あっれー?」

御坂「……えー?」

土御門「……なんじゃこりゃ」

男「出前ですよ、出前。とは言っても、途中で事故に『巻き込まれて』しまいましてね。料理がすべて台無しになったので、代わりの品ですが」

一方通行「オールファミチキ……悪くねェ」ジュルリ

垣根「いやいや悪いよすっげえ悪いよ肉好きのお前以外には最悪の状況だよ!?」

一方通行「ひい、ふう、みい、……八百万のファミチキ……」ジュルジュルリ

御坂「途中から数えんの放棄したわよね今。やおろずで誤魔化したわよね今」

土御門「八百万のファミチキとか想像しただけで胃もたれだにゃー」

女「それでは代金のほうですが」

垣根「待てこらお嬢さん。俺らが頼んだ出前と違うもん寄越しといて代金は請求すんのか」

女「しゃーないだろ寿司とか超美味しかったですよとミサ、……うおっほん」

御坂「何今の」

女「いえ。なんでも。ございません」

土御門「他人のアイデンティティー奪うのはやめとけ、うん」

一方通行「イイじゃねェか、ンぐっ、ファミチキくれェでそォ怒ンな、もっきゅもきゅ、よォ」

垣根「食ってるこいつ! 金払ってねえうちはまだ突き返せるってのに食っちゃったぞこのもやし!」

一方通行「肉の隙間からじゅわァっと広がるこの油……ッ」

御坂「あ、油までしっかり堪能してるわ、なんて上級者なの……!」

女「おえ。胸焼けしてきそうです、とミおっほん、もぐもぐ」

垣根「てめっ、店員のくせに食ってんじゃねえよ!」

女「べつにミサカはファミマ店員じゃないんで、とミ——、やっべ」

御坂「ミ、サカ……ですって?」

男「あははやだなあミサ『コ』ちゃんったらまだ自分のことを名前で呼ぶくせが抜けないんですからあっはっは」

女「あ、あはっ、すみませんミサコちょっと子供っぽくてえ」

土御門(……男のほうの気配、引っ掛かるにゃー)

御坂「なんだ、聞き間違えちゃったのか……」

一方通行「あン? ふぃふぃはひはへほはひほ、ほいふは」

垣根「もういまさらファミチキは逃げねえから。食ってから喋れ」

一方通行「ンごくっ。だからよォ、店員も何もこいつら」

男「あーあぶないあぶない。次の配達があるんでした、すみませんがこれにて! あ、財布はもらっていきますね」

女「これにて!」

垣根「って待てやゴラァァァァアア!!! 俺の財布持ってくんじゃねえぞこのクソ野郎共がああああ!!!!」

土御門「あいつら、知り合いか?」

一方通行「海原とクローンだろ?」

御坂「……、……待ちなさいあんたらあああああっ!!!!」ビリビリビリッ

女「やっべ、お姉様に気づかれちゃったじゃねーかとミサカは師匠の不手際を責めまくります」

男「何を言っているんです? 御坂さんの電撃を浴びられるなんてまたとない幸運ですよ」

垣根「うおらァァァァァアアア!!!!! 第二位なめんなよおおおおっ!!!!!」バッサバサバサ

御坂「姉としていろいろ許せないんだからねーっ!!!!!」ビリビリバチバチ

土御門「いつから気づいてた」

一方通行「最初っから」モグモグ

土御門「それ何個目だ」

一方通行「十個目ェ」モグパクパク

土御門「もらっていいか」

一方通行「いンじゃねェの」モグパクモグ

土御門「もぐっ、……喉が渇くな」

一方通行「ウイダー飲ンどけ」ゴキュゴキュ

数分後

海原「まあ悪気しかなかったんですけどね」

垣根「死刑」

海原「素直に生きるって大切だと思うんですよ、自分は」

御坂「あんたはなんでいるのよ」

17600「仕事なんで、とミサカはできる女であることをキリリと主張します」

御坂「失敗してんでしょうが。だいたいその髪はどうしたわけ? ウイッグ?」

17600「はい、とミサカは淡々と答えます。ミサカ的にこういうグッズは日常茶飯で携帯していますし、とミサカは他にもいくつかの持ち合わせがあることを明かします」

一方通行「食っても食っても減らねェたァまるで桃源郷だなァ」モグモグ

土御門「うえっ、そろそろ限界だぜい……何個食った?」

一方通行「これで三十個目」

御坂「食べすぎよ!?」

一方通行「食わねェと目の前のファミチキさンに失礼だろォが。ほら、オマエらも食えよ」ズズイ

垣根「……そういやこれ俺の金で買ってんだっけな」モグ

御坂「おいしいのは認めるけど」モグモグ

海原「さすがに通った学区のファミマで買占めまくったのはやりすぎでしたね」モグモグ

土御門「お前はどこにそんな金があったんだ?」

17600「『ファミチキ全部で。あ、領収書はグループでお願いします。連絡先ですか? これです』って言ってました、とミサカは連絡先として示された番号はあなたのものであったことを述べておきます」

土御門「オレかよ! 海原お前……オレに恨みでもあるのか」

海原「いえべつに。最初は一方通行さんの番号にしようと思ったんですが、忘れちゃったんで」モグモグ

一方通行「なンか殺意湧いた」

垣根「うめえ」モグモグ

御坂「なんだか院内にファミチキ臭が漂っている気がするんだけど気のせいよね」モグモグリ

17600「慣れっておそろしいですね、とミサカは自身の嗅覚も鈍ってきたことを伝えます」モッグンモグモグ

一方通行「あいつら遅ェな」モグモグ

垣根「もうそろそろじゃね? ってか喉渇いた」

土御門「ウイダー飲ん、……もうなかった」

17600「ところで代金はこれ頂いていっていいんですよねー、とミサカは分かりきったことを念のため確認しますが」

垣根「分かりきってねえよお前ら俺をどこまでなめてんだよ」

海原「なめてませんよ。正当な評価です」

垣根「……、……」

御坂「にしてもほんと減らないわね。シズリとソギー帰ってきたら手伝ってもらいましょ」モグモグ

一方通行「どォせならドリンク頼ンでおくンだったなァ。まさかファミチキの大量入手が果たせるとは思わなかったからよォ」

パタパタパタカツカツ
タンタンタンダダダダッ

麦野「ただいまにゃーん、ってくっさ! なによこの病棟に漂いまくってるファミチキ臭は!」

削板「肉! 肉があんじゃねえか!」バッ

御坂「あ、おかえりー……、……どしたのその大荷物」

麦野「ん? とりあえずサイダーと緑茶と水とオレンジジュース買ってきたのよ。金が余ったから」

削板「ファミチキうめえ」モッサモッサ

一方通行「オマエもォ少しうまそォに食えねェか? もっさもっさしてンぞ」

削板「これが限界だもっさ」

麦野「ところでそっちの、ミコトによく似たガキと男は誰?」

海原「自分はエツァリです。まあ訳あって他人の面を借りていますが」

土御門「っていうか誰の皮だそれ。海原でもないだろう」

一方通行「とりあえず鬱陶しいから元の……あァ、俺らの知ってるオマエに戻っとけよ」

海原「ふむ、わりと気に入っているんですがね。たしか青髪の方でしたよ」

土御門「……黒髪だとあいつだってわからないもんだな。そういえば背格好があいつだ。どうやって剥いだんだ」

17600「パンチラ見せたら卒倒したのでその隙にべりっと剥いでました、とミサカは師匠の成功にはミサカの助力が欠かせなかったことをアピールします」

垣根「なにそれひどい」

海原「それでは、自分達はこれにて失礼しますね」サッ

17600「ファミチキおいしかったです、とミサカは丁寧にお辞儀をし……逃げましょう師匠!」ダッ

海原「みなさん、アデュー!」ダダダダッ

垣根「……、あれ? だから俺の財布……待てやァァァアアアア!!!!!!」シュダッ

麦野「で、結局出前はどうなったのよ。このファミチキの山はどういうこと?」

御坂「出前は全部ファミチキになったの。シズリも食べていいわよ」

麦野「カロリーが馬鹿みてえに高いんだよファミチキは。遠慮しとく」

御坂「あ……カロリーのこと考えてなかった」

一方通行「ガキのうちは適当に食って運動すりゃイイだろォが」

削板「イッツーはさっきから食いまくってるが、運動するのか?」

一方通行「しねェ」

削板「じゃあ太るんじゃねえのか」

一方通行「太らねェ。そォいう体質だ」

麦野「……女の憧れね。羨ましすぎて捻り潰したくなるっつーの」

一方通行「てェか、無意識に腹ン中で分解してンだよ。多分」

御坂「フォローになってないわよ。ま、今になって心配してもしょうがないか」パクパク

土御門「おお、いい食いっぷりだなミコト。この分だとあと三十分くらいで片付けられそうだ」モグモグ

削板「飽きた」

一方通行「早ェよ。……あン? オマエ、その大量のカップラーメンどォしたンだ」

削板「夜食だ。今食ってもぜったい腹減るし、渡された万札でたっぷり買えたぞ」

麦野「合宿らしいっちゃ合宿らしいでしょ。私はカップラーメンなんて食べないけどさ」

バタバタバタ

垣根「あいつら逃げ足マジ速え! うぜえ! 疲れた!」

御坂「おかえりー。そりゃ、白い翼生えた人間が襲ってきたら全力で逃げるわ」

垣根「おう。そりゃもう脱兎の勢い」

一方通行「まァ、あいつらはどォでもイイとして」

麦野「?」

一方通行「正直なところ——ツチピー、オマエこの合宿中に一曲完成させよォとしてやがンだろ?」

土御門「御名答。このままずるずると一週間に一度のミーティングを続けていても、曲完成には程遠いからな」

垣根「つまり……演奏の練習してボイトレして最終日にはレコーディングまで済ませるってことか? 無理だろ、常識的に考えて」

土御門「レコーディングだけじゃない。ジャケ撮影もだ」

麦野「シャケ撮影? なにそれすごく楽しみなんだけど」

御坂「ジャケットよ、ジャケット。ていうかどう考えても不可能よね、ハードスケジュールってもんじゃないわよ」

削板「あれだ、いざとなったら精神と時の部屋的な何かに詰め込まれるんだろ。コーチならやりかねん」

土御門「そこまではしない予定だが、ともかく今後のスケジュール確認だけはしておく。今日のようにぐだぐだと駄弁る余裕はもうないぞ」

一方通行「ま、そンなことだろォと思った。第一に、俺が曲を完成させねェうちは練習のしようがねェな」

垣根「あー、じゃあ歌詞覚えてるとか。ひたすら演奏技術磨くとか。俺とミコトはボイトレしてりゃいいわけで」

削板「なあ、オレって歌詞覚える必要あるのか? コーラス部分だけでいいんじゃねえかと思うんだが」

麦野「覚えられなかったらそれも一つの手ではあるかな。でも、やっぱりバンドメンバーなら覚えて当たり前でしょうね」

御坂「なんだか急に展望が開けてきたわね……ていうかジャケットまで撮影するなんて聞いてないわよ」

土御門「今言ったしな」

一方通行「たまにいンじゃねェか、覆面歌手。あァいう趣向ではねェンだな?」

垣根「自分を包み隠すだなんてもってのほかだろうが! 曝け出すことで、脚光を浴びることで、人はその輝きを増すんだからよお!」

麦野「てめえはただ目立ちたいだけだろ」

御坂「でも、私達超能力者が雁首揃えてジャケットに映ってるの想像したら、話題性はあるかも」

削板「待てお前らっ、中身で勝負しねえと始まらねえぞ!? ジャケットに惹かれて買ったはいいが、中身は……とかそういうのはよくない!」

一方通行「誰がジャケ買い促進CD作るっつったよ。安心しろ、言われなくても中身で勝負できるくれェの曲は作る」

麦野「お、頼りになるじゃないの。さすが第一位」

垣根「俺の歌詞が素晴らしいからな。あんま期待してねえけど頑張れよ」ポン

一方通行「こいつちょくちょく腹立つ……てェか肩に手置くな」バッ

土御門「それで、大体の予定だが——まあ今日はこれで終わりだな。明日からは四時起き。起きたらまずはランニング」

垣根「空飛ぶのは?」

土御門「ランニングじゃねえだろそれ、フライングだぜい。で、朝から適当にメシ作ったり食ったりして明日はひとまず演奏技術の向上と、イッツーは作曲だな」

一方通行「わかった。まァ、なンとか明日中には仕上げるわ」

御坂「実際明日の午前中に出来上がれば午後から早速練習に入ることができるわよね。焦ることはないけど」

削板「いや、焦れ。人間は追い詰められてこそ真の根性を発揮するんだ、だからイッツーはさっさと焦れ」

麦野「焦らせてもどうしようもないだろうが。ああ、でも作曲なら私も手伝えるかな」

一方通行「……デスメタるンだろ、どォせ」

麦野「そこはイッツーが直しゃあいい話よ」

土御門「そうか、シズリはキーボードなら練習しなくても弾けるんだったな。作業速度が上がるなら、ふたりで適当に作曲してくれ」

垣根「俺もやりてー」

一方通行「オマエ参加したらぜってェ遅くなるから死ンでもお断りィ」

削板「オレは無理だ、すまん」

麦野「むしろ心からほっとしたわよ」

御坂「ていうかイッツー自身はどれくらいベースが弾けるのよ」

一方通行「……下手ではねェと思うがなァ。俺を見くびンなよ、第一位だ」

垣根「音楽ってのは奥が深いからな。俺レベルにまでならねえと奴を理解することは不可能……!」

土御門「そこまで深く考えなくてもいい。とにかく今日は寝ろ、枕投げは禁止だ」

削板「なんだと!?」

一方通行「考えてもみろ、今晩枕投げなンぞしよォものなら——明日四時起きはあまりにも辛ェ!」

垣根「たしかにな……普段昼の二時起きが常識である俺にとっては涙が出そうになるくらいに辛い」

御坂「さすがに遅起きすぎよ。不健康街道まっしぐらじゃない」

麦野「んー、私もそんなもんだけど。学校行かないから不規則な生活になっちゃうのよねー。ソギーあたりは毎朝五時起きでしょ」

削板「オレか? オレはだいたい十時起きだな」

一方通行「……なンつーか、期待裏切られた気分だわ」

土御門「さて、と……なんだかんだでもう十二時をまわったな。消灯するぞ」

御坂「あ、電気消すなら私がやるからいいわよ」

シャットダウンカンリョー

垣根「便利だよなあ。蛍光灯とかぶっ壊れても灯せるじゃん」

麦野「……ねえ、ちょっといい? 出前の配達にきてた連中はちゃんと帰ったのかしら」

削板「帰ったんだろ?」

垣根「多分。見つけられなかったし」

一方通行「……断言できねェってのか」

垣根「だって見失ったし」

土御門「……まさかな、ないない。ない……だろ」

麦野「ま、鼠の1匹や2匹いたところでどうでもいいか。そんじゃ、おやすみー」

御坂「おやすみなさーい」

削板「オレも寝る!」ガバッスピー

垣根「お前、布団ひっかぶって寝るの暑苦しくね?」

一方通行「そォいうオマエはやけに枕高ェなオイ」

土御門「さらにそういうイッツーは枕無しかにゃー」

麦野「……るっせェぞ男子」

垣根・一方通行・土御門「「「」」」

麦野「これ以上安眠妨害してみろ、もいでやっからな」

垣根(もぐって何を? どこを?)

一方通行(そりゃオマエ、シンボルだろ。男の)

土御門(さあさあ寝るぜいどんどん寝るぜい、去勢されたくなかったらな!)


院内の事務局

海原「……寝ましたね」

17600「ええ、全員とにかく寝床に入ったようです、とミサカは頷き返します」

海原「まったく、御坂さんと同じ部屋で寝られるなんてそれなんてヘヴンですか!」

17600「師匠、声のトーンおさえて、とミサカは彼を窘めます。お気持ちは分かりますから」

海原「でもファミチキおいしかったですよね。事故に遭ったのは偶然ですが」

17600「偶然どころか師匠がそのトラなんとかの槍でミサカの乗っているスクーターをぶっ壊したんですけど、とミサカは都合の良い師匠に苛立ちを隠せません」

海原「トラウィスカルパンテクウトリの槍のレプリカです。トラなんとかとか言わないでいただきたいですね」

17600「長いんですよ。なんか黒い石使った魔術でいいじゃないですかもう、とミサカは携帯をぽちぽち」

海原「? さきほどからあなたは何をしているんですか」

17600「いえ、ちょっとばかりpostしてるだけです、とミサカは携帯をぱたり」

海原「ぽすと、ですか」


 海原、もといエツァリは首を傾げたが、ミサカ一七六〇〇号は彼に対して説明を行おうとはしなかった。それはそうと、と彼女は話題転換を試みる。

「ミサカ達はここで寝るのでしょうか、とミサカは事務局内にベッドの類がないことを再確認しますが」

 エツァリはこくりと頷く。事務局内には当たり前のことだがデスクしか存在しない。しかし、彼らふたりは一般人ではなく、この場においては「スネーク」なのである。
 ——いつでもどこでも睡眠を取れるようでなければ、一人前のスネークとは呼べないだろう。
 そんなエツァリからの叱責の篭もった視線を受け止めて、ミサカ一七六〇〇号は口を真一文字にきっと結ぶ。
 自分がなぜ、こんなところにいるのか。肝心の理由を忘れていただなんて、スネーク失格だ。

「すみませんでした、とミサカは改心しました。師匠、ここで仮眠を取るのですね!」
「はい。数時間ごとに交代して眠るとしましょうか。先にああたが寝ていいですから」

 ありがとうございます、と少女は無表情に礼を述べたが、その瞳だけは輝いていた。
 ああ、麗しきかな師弟愛!
 しかしながら、彼らはまだ気づいていなかった——スパイごとに関しては右に出るもののない男・土御門元春がこの後偶然トイレのついでに院内を徘徊するであろう未来に。


第四回(合宿)、第一日目終了

17600「ふう、ではミサカから眠らせていただきます、とミサカは師匠に一礼します」

海原「ええどうぞ。携帯はもういいんですね」

17600「おやすみリプはめんどくさいからいいんです、とミサカは爆弾発言を投下します」

海原(さっきから用語がまったくわからないなう)


http://misatter.com/176_00

—————————————————
就寝なう

30秒前後前 mnwから
—————————————————
お前らあんま師匠を馬鹿にすんなよRT
@100_32: さすがアステカ(笑)RT @190
_90: トラ槍ですねわかりますRT @176_0
0:トラウィスカルパンテクウトリ。ス
ネークおぼえた。

5分前 mnwから
—————————————————
トラウィスカルパンテクウトリ。スネ
ークおぼえた。

9分前 mnwから
—————————————————
【速報】院内消灯した

15分前 mnwから
—————————————————
事務局に身を隠してるなう

16分前 mnwから
—————————————————
さっきファミチキがつがつ食ってたろRT
@145_10: そんなことより一方通行さんの
映像マダー?RT @100_39: 天使みてえww
ww似合わねえwwwww @135_77: 感覚
共有クソ吹いたwwwRT @176_00: メルヘ
ンウイングマジキチ…

22分前 mnwから
—————————————————
メルヘンウイングマジキチ…

27分前 mnwから
—————————————————

—————————————————
そろそろ逃げる

30分前 mnwから
—————————————————
ファミチキmogmog

45分前 mnwから
—————————————————
早すぎワロタRT @100_32:おk 落ち着
いたRT @148_89:落ち着け、スネークを
信じろRT @100_30:スネーク!スネェェ
ェェエエエク!!RT @176_00: バwww
レwwwwたwwwww

47分前 mnwから
—————————————————
正座なう

50分前 mnwから
—————————————————
バwwwレwwwwたwwwww

約一時間前 mnwから
—————————————————
@200_01 おやすみなさい、上位個体

約一時間前 mnwから
—————————————————
侵入成功、速やかに任務を遂行する

約一時間前 mnwから
—————————————————
お前らひとの師匠を何だと思ってんだRT
@14510:ひぎゃあああああRT @19090:み、
見たくないやい上条×海原なんて!RT @
11801:ホモと聞いてRT @200_00:oh…RT @
176_00: え、ちょ、師匠…!?

約二時間前 mnwから
—————————————————
え、ちょ、師匠…!?

約二時間前 mnwから
—————————————————
アルバイターから出前強奪したなう

約二時間前 mnwから
—————————————————

第四、五回(ミサッター)・終了

「早起きは三文の得、ってよく言ったものね」

「……、……」

「……、……」

 ズズー。美味そうに味噌汁を啜る芳川桔梗を、同居人である打ち止めと黄泉川愛穂は怯えた目で見つめていた。今日は休日だったが、そんなことはどうでもいい。
 自他共に認める「甘い」芳川がなぜこうも清々しく、爽やかな朝を迎えているのだろうか。彼女の朝は十一時頃を指すのではなかったか。
 打ち止めと黄泉川が顔を見合わせる中、芳川は箸をおくと、丁寧に両手を合わせ「ごちそうさまでした」とにこやかに朝食終了の言葉を発する。
 その口調には一切の淀みがない。どうやら芳川は寝ぼけていないらしかった。

「あら、どうしたのふたりとも。ちっとも食べていないようだけれど」

 食後の一服とばかりにお茶をコップに注ぎながら、芳川は首を傾げる。
 ちなみに、彼女が黄泉川の家に居候するようになってから彼女がペットボトルのキャップを開けた回数は片手で足りるほどで、いずれも黄泉川や打ち止めがいないときだけである。
 自分に甘い芳川は、研究員としての立場を失ってから怠け癖にいっそう拍車がかかり、自分からは動こうとしない自堕落な人間と化していたのだ。
 そんな彼女が打ち止めの圧し掛かりという非常に有効的かつ痛苦な目覚ましに頼ることなく自力で起床し、目をしっかりと開けて美味しそうに朝食を咀嚼し、挙句の果てに自らお茶を用意するなど——

 ああ、と黄泉川は理解した。

「これは夢。夢じゃん」

「うわーっ、だめだよヨミカワ現実逃避しちゃだめーってミサカもミサカも目の前の光景が信じられないんだけど!」

 ぽん、といい笑顔で手を打った黄泉川の肩をがくがくと揺さぶりながら、打ち止めはどうにか彼女の目を覚まさせようと苦心する。
 本当のところを言うと、打ち止め自身も夢なのではないかと疑うほどのイレギュラーな事態、およびアンビリーバボーな芳川だ。

 ふたりの葛藤を知らぬ芳川はこくこくとお茶を飲んでいる。
 普段の彼女からは感じられない生きる活力とでも呼べるものが芳川を取り巻いているような気がして、打ち止めはごしごしと目を擦ってみた。同じように、黄泉川はぱちぱちと目を瞬かせている。
 そして、辿り着いた結論はただひとつ。

(きっとこれはヨシカワのクローンなんだね、ってミサカはミサカが最も身近な例であることを念頭に置いて考察してみる)

(学園都市も無駄なことするじゃんよー……桔梗のクローンなんて三日でサボりだしちゃうって)

 なかなかに失礼な考察をされていながらも、芳川は気がつかない。彼女の思考は目の前の自分を心配している同居人にはなく、あるひとりの大能力者にあった。

 結標淡希という名の少女は、能力の大きさそのものは超能力者レベルの実力者である。
 しかし、過去のトラウマを乗り越えたはずの今でも、正式な超能力者とは認められず、大能力者扱いに甘んじている。
 本人としてはさして気にする事柄でもないらしいのだが、「不当な評価である」という点が、芳川の研究者魂に火をつけたのだ。
 というよりも、「正当な評価をされるレベルにまで引き上げてみせる」という一種の教師魂かもしれない。

「それにしても、歌で能力進化なんてさすが総括理事長といったところね」

 アレイスターの考えは読めない。
 しかし、一介の研究員——しかもすでにニートであるところの芳川に下された仕事は彼女の好奇心を大いに刺激した。

「結標淡希。をプロデュース……なーんちゃって」

 ぶつぶつと一人ごちる芳川を半目で見つめる打ち止め。黄泉川が小声で「古い、桔梗そのネタ古すぎじゃん」とつっこみを入れたが、芳川の耳には届かない。
 やがて、お茶を飲み干した芳川は立ち上がる。芳川の動向を注意深く見守る打ち止めと黄泉川に笑いかけると、彼女は笑顔をより深めて穏やかな口調で告げた。


「わたし、これからしばらく仕事で帰ってこないかもしれないわ」


 数秒後、言葉の意味を理解したふたりは同時に額を強かにテーブルに打ちつけた。
 そんなふたりに構うことなく、芳川はさっさと自室に引っ込む。ここ数週間袖を通していない白衣をクローゼットから探し出し、多少の皺を気にもかけずにばさりと羽織る。
 しかし、まだ着替えていなかったことを思い出し、慌てて白衣を脱いで再びばたばたとクローゼットをあさる芳川をドアの隙間からじいっと観察していた打ち止めが、
 ……ヨシカワ、どうしちゃったのかなってミサカはミサカはヨシカワの慌てっぷりに驚愕してみる、と呟く。
 良くも悪くも悠々自適といった風で暮らしていた芳川が焦る姿など、これから先見られるものかどうか。
 食卓を片付けてきた黄泉川が団子状に打ち止めの頭上に顎を乗せる。
 目を細めながら、「あんな桔梗、見たことないぞ」と彼女が驚いた直後、ようやくお目当てのジーンズを見つけた芳川がいそいそとジャージを脱ぎ出した。
 芳川が部屋着として使っているジャージはすべて、黄泉川のものである。そのせいか、芳川はしょっちゅうジャージの裾を邪魔だと言いながら切ろうとしている。

「……鼻歌歌ってるね、ってミサカはミサカはテンションハイなヨシカワに驚かされっぱなし……」

「っていうかなんで私達はテンションマックスな桔梗の生着替え見てるんだっけ……」

「あんなヨシカワ、あの人が見たら絶句するよってミサカはミサカはここにいないあの人の反応を予測してみたり」

「もしくは思いっきり気味悪がるかの二択じゃん?」

 眉間に皺を寄せ、最高に不機嫌な声で「きめェ」と感想を述べる一方通行を想像し、覗き見ていたふたりは吹き出しそうになるのをこらえた。ありえる。脳内再生余裕の反応である。

一方、部屋の芳川は着替え終えたらしい。そこらへんに放り投げていた白衣を手に取ると、いそいそと羽織る。
 何度か着心地を確かめる素振りをみせた芳川だが、打ち止めと黄泉川はそんなことよりも彼女のファッションセンスを気にしてしまう。
 よれよれの色褪せたTシャツに、くたびれたジーンズ、そして白衣。
 ユーズド加工と偽るにはあまりにも使い古した感の漂っている服装に、自身もジャージばかり着まわしている黄泉川は自分のことをすっかり棚にあげて頭を抱える。
 打ち止めは打ち止めで、あの人はミサカに洋服を買ってくれる前にヨシカワに買ってあげるべきかも、と大人びた思考に到達していた。

 ともかく、誰が何と言おうが芳川にとっての「研究服」はこの上下。いわゆる彼女の戦闘服、最も慣れ親しんだ服装なのだ。
 さて、と芳川は白衣の裾を翻して部屋を出ようとする。気配を察した覗き魔ふたりは急いでリビングに戻り、何事もなかったかのように談笑することに成功した。

「お、桔梗どっか行くの?」

 着替えを観察していた以上、どこかに出かけることも、それがおそらく仕事であろうことも承知している黄泉川だったが、ここはとりあえず訊いておかねばならない。
 ええ、と芳川は穏やかに肯定した。

「第十九学区に行ってくるわね。ええっと、朝帰りになるかもしれないし、夕飯は結構よ」

「あっ、朝帰り!? それはあのよく『チュンチュンチュン……』みたいな表現で誤魔化されるあの朝帰り!? ってミサカはミサカは興奮を隠し切れずに顔を赤らめてみる!」

「あら……その通りよ最終信号。どこで学んだの?」

「桔梗、そこは否定しろじゃんよ」

 教師と言う立場から芳川を窘める黄泉川にひらりと手を振り、余裕綽々と芳川は玄関まで歩く。
 かと思いきや、突然リビングまで引き返し真面目な顔付きのまま、彼女は胸の前で自転車のハンドルの握り方のような手の形を作ると、たった一言はっきりと告げた。

「バイバイセコー!」

 やけに爽やかな表情でふっと笑い、今度こそ玄関を出る芳川だった。
 そして、後に残された黄泉川と打ち止めは、人が変わったかのような芳川の背を呆然と見送っていたが、ばたんと玄関のドアが閉まる音で我に返り叫んだ。

「だから古いって言ってるじゃんかああああああッ!!!!!」

「バイバイと自転車の英訳であるバイセコーをかけてるの? なんだかちょっと寒いかもってミサカはミサカはヨシカワのセンスに首を傾げちゃうんだけど」

 あの言葉の出典は何なのかなあ、とリビングをきょろきょろと見渡した打ち止めが、テレビのDVDデッキの横に乱雑に積み上げられたあるドラマのDVDを見つけるのはそれから数分後のことである。

 芳川は外の空気を堪能しながら歩いている。優秀な研究員であった彼女の脳内は、現在あるひとつの事柄が多大な面積を占めている。
 最終計画、という単純な総称で呼ばれる実験。
 聞いたところによると、超能力者達は一箇所に集められ、音楽を全世界に発信するために合宿を受けているとか受けていないとか。
 そして、芳川が命じられた計画も最終計画の一部らしいのだ。
 ラストプラン、と丁寧にルビのふられた書類が郵送されてきたときは何事かと思ったのだが、内容は前代未聞で面白そうだった。

 こどもたちを育てる教師になりたいと願い、その夢が叶わなかった彼女は優れた頭脳を生かして研究職に就いたが、研究員になったあとも彼女のしたいことは変わらなかった。
 何かを——誰かを、成長させてみたい。
 その欲求を果たせるかもしれない、千載一遇のチャンスである。芳川が別人のように張り切ってしまうのも無理のない話だった。

(とは言え、結標淡希ひとりっていうのは……どうなのかしらね)

 芳川が受けた仕事というのは、『座標移動』の能力を持つ結標淡希をサポートし、大々的に売り出すことだ。
 しかしこの御時世、女性のソロ歌手は大勢いて、そう簡単に売り出せるような甘い状況ではない。
 超能力者のほうはどうなっているのかわからないが、芳川には芳川なりのプランがあった。
 結標に一度会ったときにも伝えたことだが、ひとりが嫌ならば知り合いを誘っても構わない、という条件をつけたのである。
 結標淡希は暗部の人間らしく、知り合いという言葉に終始無言だった。

 まあ、ひとりならそれはそれで仕方ないわね、と芳川は心中で呟き、ふと考えついた。
 これからしばらく結標をプロデュースすることになるのだが、歌わせるということは、つまり楽器隊がいなければならないのではないか。

「いちいち専門の人間を雇うのも面倒だわ」

 いくらうきうきしているとは言え、生来の怠け癖は直らない。
 路上ライブをしている学生を適当に引っこ抜こうかしらと芳川が考えを進め、なにげなく視線を遠くに飛ばしたとき、彼女の目はアコースティックギターを弾き始めたひとりの男子学生を見つけた。

「彼にしましょう。こんなに早く適任者が見つかるなんて、幸先が良いわね」

 学生が断る可能性などまったく考えていない芳川は、目標物に向かってさっさと歩むスピードを速める。
 学園都市内で路上ライブをしている学生というのも珍しいのだから、幸先はたしかに悪くない。
 しかし、逆に考えてみると、芳川に目を付けられてしまった少年は不幸だと言える。
 芳川は少年の前まで辿り着くと、教師のような笑顔を浮かべて少年に話しかけた。

「そこのキミ、謝礼は弾むからわたしを助けると思ってついてきてくれないかしら」

 謝礼、助けるのダブルパンチが利いたのか、少年はしばらくぽかんとしていたが、意識を取り戻すと頷いた。
 この時点ではまだ、彼は気づいていなかったのだ。これから先、どんな不幸がわが身に降りかかるのかを。
 もっとも、彼は不幸には慣れてしまっている。

「えーっと、とりあえずお姉さん、俺に何を頼みたいんでせうか……?」

 ツンツン頭がトレードマークの貧乏学生上条当麻、本日のライブは開始5分で終了のようだ。

「わたしは楽器隊を探しているの。キミ、アコギが弾けるならなんとかなるわよね」

「が、っき、たい……?」

 上条は首を捻るばかりだが、基本的に彼の意見を聞く気のない芳川は次なる標的を探し求める。結標との約束は十一時。第十九学区のコンビニで待ち合わせをしているのだ。
 そして今は九時半である。よく起きることができたものだ、と芳川は自分自身をしっかり褒めておく。

 探すと言ったところで、芳川の行動範囲は限られている。上条はとりあえずギターを背負いながら彼女に並んで歩いているが、落ち着かないのか視線は安定しない。
 知り合いを見つけたならば、誰であろうと声をかけたいくらいに心細い。加えて、自己紹介すらしない芳川はマイペースに足を進めるだけで、会話が成立しなかった。
 ちらちらと周囲に視線を向けまくっていた上条の目は、あるひとりのチンピラを捕まえる。
 連れがいないのだろう、三人掛けのベンチを悠々とひとりで使いながら空を見上げているチンピラ。上条には覚えがあった。

「あー、おっまえー!」

 少々わざとらしく叫べば、チンピラは上条のほうに顔を向けた。そして、あちらも同じように反応する。あら、と芳川が目を向け——上条より先に、チンピラのもとへ歩いていく。

「……って、あんた誰だ」

 上条に話しかけたチンピラは、芳川が彼らの間に割って入ったことに不信感を露にしている。だが、芳川が臆すことなくチンピラの手が太ももを叩いていることを確認した。

「キミ、今ボディパーカッションをしていたわね?」

「ボ、ボディパ……なんて?」

「太ももを両手でリズミカルに叩いていたでしょう。さ、行きましょうか」

「は、おいちょっ、意味がわかんねえよ!」

 チンピラが上条に救援を求めるかのように視線を送るが、上条はさっと視線を逸らす。絶望したチンピラは芳川にもう一度「あんた誰だよ!」と叫び返したが、芳川は涼しい顔を崩さない。

「わたしは芳川桔梗、通りすがりのプロデューサーよ。芳川Pと呼びなさいな」

「えっ、プロデューサーだったんですか!?」

 改めて自己紹介をされ、動揺したのはチンピラではなく上条だ。なんだかものすごく大変なことに巻き込まれている気がする、と持ち前の不幸経験が告げている。しかし、同時に彼は理解してしまった。

(きっと、この芳川さんは何を言っても聞かない人種だ!)

 あの一方通行をからかうことのできる人間なのだから、たしかに上条の言うことなど聞くはずもないのだが。

「さ、わたしは自己紹介したわね。キミ達は空気を読めないのかしら」

 暗に名乗れと促す芳川に動揺を隠せないチンピラが、意味もなくベンチから立ち上がり挙手して名乗りを上げた。不慣れな事態に戸惑っているのかもしれない。

「はっ、浜面仕上! こう見えてもスキルアウトのリーダーやってたこともある、あんまなめんじゃね——」

「それで、キミはドラムができるのよね」

「話全然聞いてねえよこの姉ちゃん!」

 浜面が嫌々ながらも「できねえことはねえけど」とドラマーであることを明かす。お、と上条が驚きの声を出した。

「そっちのウニなキミは、ギターよ」

「あ、はい。いや、できるかどうかわかんねえけど……上条当麻って言います」



 とある喫茶店で、結標淡希はカフェオレを飲みながらある人物を待っていた。からんからん、と客の来店を告げる音が聞こえてきた彼女はドアに視線を向ける。
 立っていたのは、私服姿の白井黒子である。
 なぜ制服姿ではないのかと問われれば、結標が私服で来るようにと連絡していたからに他ならない。
 下着の趣味どおり私服も過激な白井は、白い肌が透けて見えるほどのワンピースを着こなしている。

「……おはようございますの」

「ええ、おはよう。来てくれると思ってなかったわよ」

 かたん、と椅子をひいて結標の向かいに腰掛けながら、白井はさりげなく相手の服装を観察する。
 白いブラウスにカーキのチノパン、ネイビーのカーディガンを合わせた格好は、姉御肌な結標の雰囲気によく似合っていた。
 普段はツインテールであるはずの髪をゆるくサイドで留めているのも女子高生らしい大人っぽさが滲み出ている。

(ま、負けたなんて思いませんのよ。年の差というものがありますの!)

 出るところは出ていて、締まるところは締まっている。理想的な体型である結標を前にちらりと自分の胸を確認し、白井は重いため息を吐いた。

「それでね、物は相談なんだけど——」

 白井の落ち込みように気を取られることなく、結標は軽い口調で切り出す。
 しかし、彼女がそれなりに緊張している証拠として、グラスを握る手は汗ばんでいたのだった。



裏第一回・終了

 一方通行が異変に気づいたのは、彼が誰よりも物音に敏感であったからであろう。隣で眠っている削板軍覇の顔色がよろしくない。
 鋼の肉体を持つ彼が合宿ごときで病気になるとも思えなかったが、とりあえず彼はじっと削板を観察することにした。
 しばらくして、削板の口からは寝言がぶつぶつと漏れ出し、すべてを逃さず聞き続けた一方通行は額に青筋を浮かべる。
 寝言がうるさかったのか、麦野沈利と垣根帝督も起きだした。御坂美琴は多少の物音では動じないらしく、すやすやと寝入っている。

「ぬ、う……リーダーでレッドのオレがいなければ雑魚も倒せない、と……ぐー……だめだめだな、ホワイトイッツー……ブルーカッキー……イエローシズリめ……すぴー」

 なにやら手の動きも加わり、削板がどんな夢を見ているのか容易に想像がついた三人は顔を見合わせた。
 どうもこの男は、戦隊モノの夢——それも勝手に超能力者を隊員に仕立て上げ、自分がリーダーを務めているという夢を見ているらしい。
 普段はなんやかんやと言い争いを繰り広げているとはいえ、目覚めた三人の精神年齢そのものはそう低くはない。
 したがって、海よりも広いわけではないにしろ、まあ一般人レベルくらいには広い心を持つ(と彼らは思っている)三人は、削板の寝言そのものには苛立ちを覚えただけである。
 しかし、早朝四時前にくだらない寝言で目を覚ましてしまったことを考慮すると、原因であるこの男もたたき起こしてやりたいと考えた麦野が思いっきり蹴りをいれようとした瞬間。

「すっごいガァァァドぉぉぉぉおおおおおおおっ!」

「ぐっふあ!」

 夢の中でガードしたのかはたまた生命の危機を察知したのか。
 麦野の蹴りを防いだ上、削板はその防いだ腕を横になぎ倒し、結果的に麦野の足は垣根の顔面にクリーンヒットする。
 傍から見ていた一方通行は、顔をおさえる垣根を冷ややかに見つめながら、口癖になりつつある呆れと諦めの言葉を吐き捨てた。

「くっだらねェ」


午前四時、廃病院

麦野「この年齢になって戦隊モノってどうなのよ」

垣根「ってぇ……男はいつになっても少年って言うだろ」

一方通行「どォでもイイが、オマエ鼻曲がってねェ?」

麦野「元からそんな鼻だろうが。ところで、ミコト起こす?」

垣根「あれっなんか若干曲がってるような気がするマイノーズ」

麦野「起こすかって訊いてんだよ質問に答えろ」

一方通行「起こすも何もよォ、朝食なンざいらねェし」

麦野「朝は食べないと逆に太るんだよ。あんたは気にしないだろうけど」

垣根「なあ、お前は元からこんなに曲がってたかい、マイノーズ」サスサス

一方通行「別にオマエはクレオパトラじゃねェンだから、オマエの鼻が曲がろォが低くなろォが世界にゃまったく関係ねェな」

麦野「もちろん私らにも無関係。っていうか、ツチピーがいないわね」

垣根「? あ、マジだいねえ。どこ行ったんだあいつ」サスサスキョロキョロ

一方通行「だからわざとらしく鼻擦ってンじゃねェよ、うぜェ。ツチピーがいねェと話が進まねェじゃねェか」

麦野「ベッドには寝ていた形跡もあるし、トイレじゃねえの。朝勃ちとか」

垣根「……、……」

一方通行「……、……」

麦野「なにその眼差し」

垣根「恥じらいってもんがねえのかな、と」

麦野「次言ったら握りつぶすぞてめえ」

一方通行(まさか同じ考えに至っていただなンて言えねェ)

垣根「ともかく、イッツーはもやしだから光合成すりゃいいのかもしれねえが、あいにく俺らは朝食が必要だ」

一方通行「どォいう思考でそンな解答導き出したンだオマエ……!」

麦野「はあ、だからてめえはバカッキーだって言うんだよボケ。見てみなよ」

垣根「は?」

麦野「葉緑素がないじゃない」

一方通行「」

垣根「」

麦野「……なーんちゃって」

一方通行「慣れねェこたァするモンじゃねェな」

垣根「まったくだ」

麦野「たまにはボケてみようかと思ったのよ」

一方通行「シャレになンねェ」


削板「ふぐぉ、……んー、とりゃああああっ!」ガバッ


垣根「……今一瞬目がカッて開いたよな? 気合? 気合入れたの?」

麦野「起床するときも暑苦しいなあほんと」

削板「おはようお前ら、朝飯はまだなのか?」

一方通行「ちゃっかり期待してンじゃねェよ。オマエも作るンだろォが」

削板「!?」

垣根「基本的に話聞いてねえよなこいつ。よく四時に起きたもんだよ」

削板「ああ、それは無事に敵を倒せたから気分が良くてな」

麦野「……敵」

削板「おう、子供を攫う女怪人だった。なんというか、こう、露出度高くて胸がでかくて、あと髪が二つ結いで」

一方通行(既視感がやべェ)

垣根「へえ。会ったことあんの? っていうか美人? 可愛い? あるいは男の娘とか?」

削板「会ったことはないが、なんとなく危険な敵だったな。オレの想像力も大したもんだ」

麦野「そんじゃ、さくっとミコトも起こすか。じゃんけんするわよ」

一方通行「オマエが起こせばイイ話だろ」

麦野「やだよ。こいつ寝ぼけて電撃飛ばしてきそうじゃない」

垣根「否定できねえな。……ツチピー探そう」

削板「耳元で叫べば起きんじゃねえか? ほら、イッツーやってみろよ」

一方通行「あ、俺ちょっとガス栓確認してくるから。ンじゃ任せた」スタカツカツ

垣根「それなんて言い訳!? って待てやコラァァァアア!!!」

御坂「ん、むぅ……?」ゴシゴシ

麦野「今の叫び声で起きたっぽいわね。結果オーライってとこかしら」

御坂「……ねむ……、……は?」

削板「遅い。起きるのが遅すぎるぞミコト! そんなんでこの先っ、生きていけると思ってんのかお前は!」

御坂「……ふへ?」キョトン

垣根「まあ、朝起きてすぐにソギーのズレた説教聞いたところで首傾げるしかねえよな」

麦野「つうかまずサバイバルゲームじゃねえし」

御坂「……なんでここに超能力者がい、……いっ! い、いま何時!?」

垣根「午前四時十五分。ま、こんなもんだろ」

御坂「えーっと、それで朝食は」

麦野「作ってるように見えるの?」

御坂「まったく」

削板「腹が減った」

垣根「そんなん俺もだっつの……あ、そうだ。アレがあんじゃねえか」

麦野「アレ? ……ああ、カップラーメンか。この際仕方ないとは言え、朝からってのはきついわ」

削板「だめだぞ。あれはぜんぶオレのだからな、他を当たれ」

御坂「あんた数十個全部食う気なの!? ちょっと寄越しなさいよ」

削板「い、や、だ。オレは全部同時に食べて味比べをするんだ! オレの密かな楽しみを壊すってんなら容赦しねえぞ!」

垣根「同じ銘柄数個ずつ買ってんじゃねえか。だぶってんのくらい俺らにくれたっていいんじゃねえの、ソギーよぉ」

削板「……いや、やっぱりオレが食う。お前らは適当に朝食を作ればいいだろう。オレはこのカップラーメンを平らげる」

麦野「朝から苛々させんなよ紅白野郎。いいから寄越せっつってんのがわかんねえか、てめえ何年耳垢取ってねえんだよオイ」

御坂(朝からなんでこう血気盛んなのよ、ツチピーとイッツーはいないし)

垣根「仕方ねえなあ……こうなりゃ、俺らとテメェで勝負だ。俺らが負けたら大人しく引き下がる、だがテメェが負けたときはカップラーメンを一個残して残りすべて俺らがもらうぜ」

麦野「その『俺ら』に私は含まれてんの?」

垣根「おう。ちなみに勝負の内容だが——食べ物の名前でしりとりをして、先に腹の音が聞こえた人間の負けだ」

御坂(なにそれくだらない)

削板「乗った」

御坂「乗るのかよっ!」

麦野「私らのほうが不利だと思うんだけど。ソギーはひとりで耐えるからいいとしてさ、私はともかくあんたがすぐに腹鳴らしたらどうすんのよ」

垣根「俺を誰だと思ってやがる……俺の腹の音に常識は通用しねえ」

御坂「えっ、鳴らないの?」

垣根「いや、鳴る。けっこうぐうぐう鳴る」

削板「オレの腹の音もなめてもらっちゃ困るな。くうくう鳴くぞ」

御坂「子犬か!」

事務局付近

一方通行「コーヒーさえ飲めりゃ朝飯なンざいらねェンだが、この廃病院には自販機がねェし」

一方通行「外に出て買ってくっかなァ……っつかツチピーはどこに、……ってあれ」


事務局

海原「いえ、ですからね、自分たちにはやましい思いなど一切合切ないんですよ。たとえるなら白いユリの花のごとき純情さでしてね」

土御門「知ってるか、ユリの花は赤水を吸わせるとあっさり染色されるんだが」

17600「師匠の喩えが悪かったようですね、とミサカは提案します。つまるところミサカたちは一種の責任感をもってこの場に臨んでいるわけです」

土御門「そんな責任感なんて捨ててしまえ、このストーカーどもが」

一方通行(うわァ……あいつらまだ帰ってやがらなかったンか……しつけェなァ)

海原「ストーカーとは心外な、自分は彼女を陰から守るナイトですよ。いわば闇の騎士です。ダークナイトエツァリです」

土御門「なに若干どや顔してるんだお前は。どこも格好良くないぞ」

17600「ミサカは働くミサカですからね、ハードワーカーミサカとはこのミサカのことを指すのです、とミサカはない胸を張ります」

土御門「ないならわざわざ主張しなくてもいいにゃー……」

一方通行(どォすっかな、なンか関わり合いになりたくねェ)

海原「ところでそこの影に隠れている一方通行さんはいつまで聞き耳を立てていらっしゃるおつもりで?」

一方通行「」

17600「い、言っとくけどミサカも気づいてたんだからねっ! とミサカはツンデレを装って自身の優秀さをアピールしておきます」

土御門「オレも気づいてたぜい。入ってこいよ、イッツー」

一方通行「なンだろォな、オマエらに見抜かれてたってだけで精神的にこう、ショックがでけェンだけど」

海原「そんなあなたにこの一言。ドンマイ(笑)」

一方通行「あァ、そォいやこのチョーカー12時間イケるンだよなァ……朝から使っても余裕なンだった。あは」カチッ

海原「やだなあ自分なりのモーニングジョークですよだからその笑顔やめてくれませんか、ねえ」グイグイ

17600「師匠なんでミサカをぐいぐい前に押し出してるんですかなんでミサカを盾にしてるんですかちょっと師匠、とミサカは踏ん張りながら問いかけます」フンバリー

土御門「海原、お前ほんと超電磁砲以外には容赦ないな」

一方通行「ンでェ? なァンでここにいらっしゃりやがるンですかオマエら」

海原「帰るに帰れなかったもので」

17600「まあより正確に言えばスネークうんたら以前にこの廃病院自動でロック機能が働いているみたいなんですよね、とミサカは入ったはいいものの出られなかった自分にげんなりします」

一方通行「うゥわ、だっせェ……」

海原「一応頑張ってはみたんですがね。ほらこれスパナやらなにやらの工具類」

土御門「ここも学園都市の端くれだぜい? スパナごときで開錠されるようなセキュリティであるわけがないだろう」

一方通行「てェかよ、オマエは電気流してロック解除できねェのかよ。クソガキが前にやってた気ィすンだけど」

17600「……oh」

海原「その発想はなかった」

土御門「真性の馬鹿か」

一方通行「そもそも出られねェってどォいうことだよ。シズリとソギーは普通にコンビニ行ったじゃねェか」

海原「どうも深夜になると自動的に出られなくなるようです。あれですかね、夢中遊行の阻止でしょうか」

土御門「ああ、そういえばこの廃病院は夢遊病者も収容していたらしいな。となれば、無人と化した今でもロック機能が作動しているのも頷ける」

一方通行「ンじゃ、もォロックは解除されてンだろ。だったら帰れとっとと帰れつべこべ言わずにそそくさ帰れ」

海原「つべ」ニヤ
17600「こべ」フフフ

一方通行「……、……」イラッ

土御門「抑えろイッツー。ほら腹も減っただろう、朝食にするか」

海原「お、いいですね。それではとっとと」

17600「久しぶりにご飯が食べられますね、とミサカはそそくさ」

一方通行「……、……」イライラッ

土御門「おーしいい調子だ、そのままキープ、そのまま冷静でいるんだイッツー……ところで他の連中はどうした?」

一方通行「あン? 知らねェよ。今頃ミコトたたき起こしてンじゃね、」

海原「みっ、みことぉ!? ちょっ、待てよ」

一方通行「オイコラ敬語どォした敬語」

海原「どうしてあなたが彼女をみっ、み、みことと呼び捨てしているのか百字以内でお答えいただけますね!?」

一方通行「バンドメンバーだから」

17600「十字で収めてくるとは……これが学園都市第一位の要約能力……! とミサカは喉をごくりと鳴らします」ゴクリ

土御門「まさかの一割だからな。お前ら朝食もさりげなく参加する気か?」

海原「そりゃ当たり前でしょう、自分はダークナイトエツァリですからね。彼女の身に何かあったらと思うと死にそうです!」

一方通行「ダークナイト気に入ったのかオマエ……てェか、俺らにオマエらがいると違和感ありすぎねェ?」

17600「この方は? とミサカはサングラスを指差します」ビシ

土御門「なにこの失礼極まりないクローン」

一方通行「そいつは一応プロデューサーだかンなァ。ツチピーいねェと進まねェし」

海原「!」ポン

一方通行「いや意味わかンねェし唐突に手ェ打つなよダークナイトさン?」

海原「プロデューサーひとりですべての事柄を掌握できるとお思いですかいやありえない!」

土御門「今オレのプロデュース能力全否定されたにゃー」

海原「いえいえ、そんなことを言いたいわけではありませんよ。いいですか、プロデューサーというのはいわば統括者です。つまり、直接的なサポートは本来彼の仕事ではない」

17600「! 師匠、言いたいことがわかりましたとミサカも思わず手を打ちます」ポン

一方通行「……薄々読めてきたが認めたくねェぞオイ」

海原「と、いうことは! 統括する者とされる者の間には! そう! 仲介者が必要ですね! ここで言う仲介者とはイコールで——マネージメントですけれども!」

土御門「あー、うん。つまり、お前はマネージャーになりたいと。そういうことか」

海原「イエスザッツライト! ウィーアーブラザー、オーケー?」

一方通行「全然オーケーじゃねェ。なンでオマエみてェなストーカーをマネージャーにすンだよボケ」

17600「マネージメント……管理……合法的にダーゲットの生活を垣間見ることができる……ふふ、ふふふふ……とミサカは決意を新たにマネージャーとしての第一歩を踏み出します!」

一方通行「踏み出すな戻れ」

17600「こっから先は一方通行なので」キリッ

一方通行「なンかもォオマエらほンと嫌ンなるわ」

麦野「パエリア」

削板「アーモンド」

御坂「ドルチェ」

垣根「エ? チェ? どっち?」

御坂「エ」

垣根「エスカルゴ」

麦野「ゴンボ」

削板「なんだそれ」

麦野「オクラよ、オクラ」

削板「ラ?」

御坂「ボでしょ」

削板「ボーフォール」

垣根「なにそれ」

削板「知らん」

麦野「却下」

削板「いいだろべつに」

御坂「よくないわよ」

垣根「つうかよ」

麦野「なによ」

垣根「空腹のあまり言葉少なになってねえか」

削板「無駄に喋りたくない」

御坂「おなかすいた」

麦野「イッツチピーも戻ってこないしね」

垣根「イッツチピー……なんかポケモンにおける最終形態みたいだな」

削板「イッツチピー、何ポケモンなんだろうな」

御坂「イッツチピー、電気ではないことだけは確かよ」

麦野「っつかさあ」

垣根「あ?」

麦野「実際、ウチらでバンドやってどうすんのって話よね」

御坂「根本的な話に立ち返ったわね……まあそうなんだけど」

削板「オレは難しいことは考えたくないけどな。つまり、男は黙ってドラムを叩け」

垣根「あー、あれだ。俺の場合はそもそも半分死んでたっつーか、十分の九くらい死んでたんだよな。その状態からこうして蘇ってるだけで奇跡だと思うわけ」

麦野「たしかに」

垣根「んで、その代償がバンド組め、だろ。安いもんじゃねえかと思うんだが」

御坂「……一番最初にツチピーが言ってたわよね。アレイスターが言っていたって——音楽で世界を救うとか、戦争を起こすとかプランがどうとか」

削板「音楽で戦争なんて起こせるのか?」

垣根「つかまあ俺らひとりで戦争起こせちゃうんだけどな」

麦野「そういえば、超能力者がこうして一箇所に集められたことなんてないわね。危険だからだろうけど、なんとなく裏がありそうで癪に障るな」

御坂「裏といえば、さっきから妙にあの子の気配感じるのよねえ。帰ってなかったのかしら」

麦野「ああ、クローン? カッキー、あんたクローンの尻追い掛け回したんじゃなかったっけ」

垣根「失礼な言い方はやめろ。途中で行方が分からなくなったから引き返してきたっつったろが」

削板「……、なあ、あれ」


海原「でーすーかーらー、マネージメント能力ならありますって言ってるじゃないですか」

一方通行「オマエにあンのはストーカー能力だけだボケ」

17600「その点ミサカはネットワークもありますしね、とミサカは師匠になくてミサカにあるものを自慢します」

土御門「お前なんかこわい」


麦野「帰ってねーじゃねーか」

御坂「ていうかもうどういう状況よ」

垣根「とりあえず腹減って死にそう」

十数分後

海原「朝からカップラーメンなどという消化の悪いものを御坂さんに食べさせるわけにはいきませんよ」

麦野「てめえはどこの保護者だコラ」

海原「今日から正式に皆さん『LEVEL5』のマネージャーを務めさせていただきます、海原……いえ、ダークナイトエツァリです」コポポ

御坂(海原さんどうしちゃったんだろう)

削板「マネージャーというのはつまりこのオレの生活を全て取り締まる悪代官のことか!?」

垣根「なにそのマネージャーに対する間違った見解!」

17600「そして不束者ながらこのミサカも誠心誠意、皆さんお役に立てたらなあとミサカは自己紹介を終えます」

一方通行「まァ俺らはちっとも認めてねェわけだがな」

土御門「……でも、考えようによってはこいつら、役に立つかもしれないな」

麦野「自分の負担を減らしたいわけじゃないわよねえ」

土御門「まっさかー、ツチピーはみんなのプロデューサーだにゃー」

御坂「……はあ。朝から言い合いしてたってキリないわよ。とりあえずカップラーメンがあるんだから食べましょ」

削板「だからそれはオレのだって昨日から主張してるじゃねえか」

海原「ふむ」ズルズル

削板「!?」

海原「マネージャーですからお毒見役もしなければ。さ、このカップラーメンはどうやら大丈夫ですよ御坂さん」スッ

一方通行「チェンジで」

垣根「っていうかさっきの自己紹介時のコポポって音! お湯注いでたのかよ!」

土御門「顔色一つ変えずに淡々と職務をこなすとはな……って、おいソギー」

削板「オレの、オレの、オレのカップラーメンがぁぁぁああああああっ!!!! こんな家、もう出てってやるぅぅぅううう!!!!!」バタバタバタ

バタンッ

一方通行「……オイオイ、どォすンのおかァさン」

17600「まったくあの子ったら反抗期なのかしら、とミサカは頬に手をあてて思案に暮れます」

麦野「ていうか脱走されたのに余裕ね、お父さん」

土御門「ん? ああ、いや……どうせ探知できるからな」

コンビニ付近

削板「だいたいあいつら頭おかしいだろ。ひとのカップラーメンは勝手に取っちゃいけないんだぞ」ズンズンズン

削板「しかもオレだって鬼じゃない、削板様お願いしますとか言って土下座するなら分け与えてやろうと思ってたのにあの仕打ち」ズンズンズンズン

削板「もう頭にきた。オレは帰るぞ。帰るぞオレは」ズンズンズンズンズン

削板「ところで」ズンピタ


削板「……、ここどこだ」


廃病院

垣根「探知できる? どういうことだよ」

土御門「そのままの意味だ。ああ、詳しい説明をするとお前らの脱走の手助けに繋がるからやめておくが」

麦野「……はっはーん」

御坂「シズリ? なんでジャージ脱いでるのよ」

麦野「考えてもみなよ、この合宿で真っ先に指示されたのはこのジャージを着用すること。つまり、どんなプログラムよりも先にこのジャージを着てもらう必要があった、ってことよ」

一方通行「あァ、つまりジャージに仕込ンでやがンのか」

土御門「御名答。バレてしまったら仕方がないな」

垣根「脱ぐ」

土御門「べつに脱いでもいいが、ここにジャージ以外の衣服があると思うなよ」

御坂「あら、ここは病院よ。患者用の衣類があったっておかしくないっつーの」

海原「その件ですが、ありませんよ」

麦野「……ふうん?」

17600「これでもミサカと師匠は昨晩色々探し回りました、とミサカは報告します。この廃病院には、衣類はおろか、食料の類もありませんとミサカは簡単に説明しますが」

一方通行「ツチピー、オマエ……」

土御門「ふっふっふ! このカリキュラムはいわば林間学校のようなもの! お前ら超能力者を精神的に成長させ結託させついでにバンドとしても大きくさせちゃおうという合宿なんだぜい!」

垣根「り、林間学校……」キュン

麦野「いやキュンってお前」

垣根「い、いや、俺修学旅行とか経験ねえしさ」

一方通行「俺だってねェよ」

垣根「林間学校もねえし」

御坂「この御時世に林間学校っていう発想がもう昭和よね」

垣根「だからさ、だから、その、……どうせやるなら楽しもうぜ?」

麦野「楽しむことについては同意するけどね。結局、バンドだ何だって言ったところで私らはアレイスターの手の上で踊らされてるだけだし」

土御門「この学園都市にいる以上は、な」

御坂「どういう意味よ、それ」

土御門「だから、この学園都市に在籍している以上は、どんなに足掻こうがもがこうが、アレイスターから逃れることはできないと言っているんだ」

海原「……あえて言葉の裏を読み取るならば、自分にはあなたがまるで『世界に出てしまえばアレイスターの元からも脱出できる』といっているように思えますね」

土御門「ま、どう捉えようが勝手だが——どうする?」

一方通行「……、……」

麦野「……、……」

御坂「……、……」

垣根「俺は」

一同「!」

垣根「俺は、やってやるよ。諦めたわけじゃねえんだ、この肉体がアレイスターの気紛れで再生されたものだとしても——いや、あいつの気紛れだからこそ、あいつの鼻を明かしてやる」

一方通行「あァ、言ってたなァ。交渉権がどォとかよォ……オマエひとりで世界進出なンざできっこねェっての」スッカツカツカツ

麦野「お。イッツー、どこ行くのかにゃーん?」

一方通行「気分転換してとっとと曲作ンだよ、クソったれ」カツカツカツ

御坂「……しょうがないわね、カッキー。私たちは向こうでボイトレでもするわよ」

麦野「ってことは、私はイッツーと一緒に作曲しときましょうか」

垣根「お前ら……!!! 性格悪そうとか思っててすみませんでした」

17600「あ、今女性ふたりの額に青筋が、とミサカはスネークらしくリポートします」

スタスタスタバタン

海原「うまくまとめましたね」

土御門「変人の扱いには慣れてるからにゃー」

17600「ああ、自分も変人ですもんね、とミサカはもっともらしく頷きます」

土御門「ただ、厄介なのはソギーだな。直情型のくせになかなか深く考えるところがある」

海原「ほう。扱いにくいわけですか」

土御門「うまく乗せるのは簡単なんだがな、……如何せんあいつは理解力が乏しすぎる。持っている能力があまりにも大きすぎて、理解のしようがないのかもしれないな」

17600「努力知らずかよちくしょーうらやましいなおい、とミサカは逃げ出した削板軍覇を羨みます」

海原「ところで、彼を探さなくてもいいんですか?」

土御門「だから探知できるんだよ。ほら、ちょっとこの携帯の画面見てみ、……あっれ?」

17600「なんだか赤い点々と接触してませんかこれ、とミサカは画面右上を指差します」

海原「これ、もしかして超能力者だけじゃないんですかね」

土御門「ああ、一応グループの連中の居場所と超能力者、それから舞夏に——」

海原「本当にシスコンですねというツッコミと、自分も登録されているという衝撃の事実は置いておきますが、義妹さんのほかにもうひとりいらっしゃるんですか?」

土御門「……、まあな」

17600「ん? あれ、この赤い点、よく見るとミサカのマップと同じ点ですね、とミサカは自分の携帯電話の画面と見比べます。まさか」

土御門「そのまさかですたい……どうしてこうなった……」

海原「? 意味がわからない自分に説明していただけますかね」

17600「つまり、現在削板軍覇はこの廃病院からけっこう離れた場所にいるのですが、彼はなぜかミサカのターゲットの近くにいるようです、とミサカは説明を開始します」

17600「そして、土御門プロデューサーの携帯のほうがより精密ですので、この赤い点々が重なっている以上、こう断言できるでしょう」


17600「削板軍覇ことソギーは、現在進行形で上条当麻と接触しているようです、とミサカははっきりきっぱりさっくり言い切りました」


海原「なんという……あ、しかもグループの面々もってことは」

土御門「おそらく、結標もどういう理由かはわからないが、その場にいるとみて間違いないぜい」

第十九学区、とある研究所近く

結標「……ええっと、たしかあなた、第七位よね」

削板「おう、オレのことを知っているとはなかなか見所のある女子だな! オレの夢に出てきたモンスターに似てるけど!」

白井「では、第七位さんがなぜこんな廃れた学区にいらっしゃるんですの?」

削板「かくかくしかじかだ!」

浜面「まったくわからねえな。ところでよ、そのジャージ暑苦しくね?」

削板「このジャージはコーチからもらったものだからな。たとえ脱走したとしてももらい物を易々と捨てるような軟弱な男じゃないぞ、オレは」

上条「コーチ? って、誰かといるのか?」

削板「イッツーとかカッキーとか、ああコーチってのはツチピーのことなんだが」

芳川(……そういえば第十九学区で合宿を行うのはわたしたちだけじゃなく、超能力者達もいたような気がしなくもないけれど)

芳川「ま、大したことじゃないわね。削板くんだったかしら、キミは今暇なのよね?」

削板「暇? 暇といえば暇だが、暇じゃないといえば暇じゃな」グゥゥゥゥー

削板「訂正だ。オレは今腹が減っていて忙しい!」

芳川「わかったわ。とりあえず愛穂特製のチャーハン分けてあげるからついてきなさい」


 現在時刻、五時ジャストである。芳川桔梗は手馴れたもので、腹をすかした削板に手を差し伸べる。
 一見慈愛に満ちた表情を浮かべているようだが、実際のところ、彼女は第七位という素晴らしい研究材料兼パシリを捕まえることができた感動で胸が一杯なのだ。
 さて、結標淡希を筆頭に芳川によって集められた四人衆がなぜこの第十九学区にいるのか。
 簡単に述べるなら、彼女らも「合宿」を行うためにこの廃れた学区へ足を運んだわけである。
 が、しかし。
 当初の予定では彼女らこそが超能力者達の使用している廃病院を使うはずだったのだが、どういうわけかすでに使用されていたためにこうして使えそうな建物を探しているのだった。

「うーん……ここでいいかしらね」

 芳川がひとつの建物を見上げて頷いた。同じように四人も建物を見上げる。
 そこは、第十九学区らしからぬ超高層ビルであり、どう見てもこれからスタジオとして使えそうな場所ではない。
 こてんと首を傾げた白井が、臆すことなく芳川に訊ねる。

「ここで、レコーディングや練習を行いますの?」

「ええ。というか、ここが一番住みやすそうだし」

 芳川の発言は、明らかにプロデューサーのそれではなかった。


第四回(合宿)、第二日目早朝・終了

 芳川桔梗は、頭脳明晰な知的美人である。
 しかし、少々マイペースでルーズなところのある彼女は、自他共に認める「甘い女」であり、基本的に他人の事情など気にかけない。
 整ってはいるが派手ではない顔立ちや、落ち着いているために目立つことのない芳川は、彼女を知らない人間が評価を下すなら「立派な大人の女性」だろう。
 けれども、彼女に関わってしまった人間はみな、口を揃えてこう言うはずだ——

「あなた、まるで人間台風ね」

 結標淡希が男を二人連れている芳川を見て、開口一番発した台詞がまさにそれである。
 芳川はまるで台風のごとく周囲を巻き込み、しかも本人には巻き込んでいるという自覚さえないまま、事態が進行していくのだ。
 彼女自身は自分の甘さが教職に就けなかった原因だと推測しているようだが、彼女があまりにも自分勝手すぎるきらいがあるから、という理由を考えてみるべきかもしれない。
 もっとも、芳川とてはじめからこうも自堕落であったわけではない。
 研究者という立場を失い、黄泉川愛穂に頼りきった生活を送るようになってから彼女にマイペースっぷりは磨き上げられたのだが。

「ええと、どちらさまですの?」

 結標の隣に立っている少女が、視線を逸らすことなく堂々と芳川を見つめる。
 だが次の瞬間、芳川が後ろに従えている男——上条当麻を見て、うへえ、と露骨に嫌そうな顔をしてみせた。

「あら、わたしが誰か知りたいのなら、まずは自分で名乗るべきね」

 芳川は飄々と言ってのける。どこか挑発するような響きが感じられるが、芳川としては、自分から名乗るのが面倒なだけである。
 すでに三人には自己紹介をしてしまっているため、できればこの場にいる誰かが「この女性は芳川桔梗といって」などと紹介してくれないかな、と思っている始末だ。
 結標がはあとため息をつき、口を開こうとした矢先のことだった。

「……ええ、たしかにそうですわね。わたくし、常盤台中学二年で風紀委員を務めております、白井黒子と申しますの」

 なんだかんだでお嬢様、目上の人間に対する礼節をきちんと守る白井が芳川に対し反論もせずに名乗った。
 少年のうち、チンピラ風情のある浜面が、常盤台というフレーズに目を丸くする。自分はいったいどうなってしまうのだろうかと彼は不安で仕方がないらしい。
 もうひとりの少年、上条はというと、どこかで会ったような気がすると言わんばかりに結標を見つめている。しかし、結標は上条の視線をシャットアウトしたっきり、顔さえ向けない。

「白井さんね。じゃ、面子も揃ったし行きましょうか」

「ちょっ、お待ちになって! わたくしは名乗りましたのに、あなたはまだ名乗っていらっしゃいませんの!」

 白井の自己紹介を聞いて満足した芳川が白衣を翻す。そしてそんな彼女の腕をがっしと掴む白井である。理不尽だ。理不尽極まりない。
 ああ、そういえば、と芳川はどうでもよさそうに振り向き、なぜか結標に視線を向ける。視線の意味を察した結標は二度目の深いため息を吐いた。

「芳川桔梗。元研究員現プロデューサーで……そうね、これからしばらく私達が『利用』する相手よ」

 利用というどこかあくどい単語を使って芳川の説明を終えた結標は、芳川が連れてきた少年ふたりをちらりと見やる。
 基本的に結標は物覚えがよく、したがって浜面のことも上条のことも記憶の端に残っているのだが、ここで過去を穿り返す必要はないだろう。
 それに、普段とは違う格好をしているおかげで少年のうち片方は結標のことなどすっかり忘れているようだし、もう一方の少年も確信に至ってはいないらしい。

(髪を下ろしてちょっとおしゃれをするだけで、女の子って簡単に変われちゃうから便利よね)

 おそらく、普段の格好が少々奇抜なせいもあるのだろう、と結標は考えをまとめる。
 しかしまあ、彼女の属する『グループ』のメンバーが裸にアロハシャツを羽織った胡散臭さ120%のグラサンシスコン野郎だとか、
 真っ白けの髪に赤目で三分間しか戦えないようなヒーローによく似たデザインのTシャツを着こなすもやし野郎だとか、
 一見温厚で柔和な好青年に見えるが実際は他人の面を借りっぱなしのストーカー野郎であるために少しばかり「変」に対して鈍っているかもしれないが。

「ま、そんなところね。とりあえず、白井さんと一緒に組むということでいいのかしら」

 芳川は結標の説明に思うところもなかったらしく、適当に頷くと確認を取る。こくんと首を縦に振り、結標は立ち上がった。つられるように白井も席を立つ。
 相変わらずどこかぽかんとしている少年ふたりだが、それもそのはず、彼らは芳川桔梗に会ってからここまで世間話という名の愚痴をお互いに言い合っただけなのだ。
 そして、その愚痴をBGMに芳川はずんずんと待ち合わせ場所である第十九学区へ進み、その間彼女が発した言葉は「キミ達もなかなか面白い人生を送っているのね」という達観した台詞のみ。
 すなわち。彼らには一切の説明がなされていないのである。結標から一応は話を聞いている白井は、なぜここに上条がいるのか不思議でならないと顔をしかめている。

「あのっ」

 なんとなく不穏な空気が漂う中、空気の読めない浜面が真っ先に挙手する。どういうわけか、芳川相手にはあまり強く出られないらしい。

「どうかした?」

「いや、だから俺ら全然状況がつかめてねえんだけど! どういうこと? なあどういうこと!?」

「いいから落ち着きなさいな。わたしが言えるのはただひとつよ」

 芳川はマイペースに間を溜め、微笑みながら告げた。

「空腹で死にそうだわ」

 ああそうかよこの野郎、と芳川を除いた全員が額に青筋を浮かべたが、前述の通り、マイペースかつ他人の反応をあまり気にしない芳川はどこ吹く風ですたすたと歩き始めた。

 改めて言うが、ここ第十九学区はまったく栄えていない廃れきった学区である。ぽつぽつとコンビニの光が見えるほかにレストランらしきものはなく、どうも腹を満たせそうにない。
 ふらふらと歩く芳川の後ろを数歩離れてついていく学生達は、はたしてこの女を信用してもいいのだろうか、と目配せしあう。なんだかまだわからないが、とんでもないことになりそうな気がする。
 ふらふらぶらぶらと歩みをすすめていた芳川は、ふととある建物の前で立ち止まる。そこは寂れた廃病院で、もちろん人の気配はまったくない。

「そうだ、ねえキミ達——って、少し離れすぎじゃないかしら」

 ようやく振り返って背後を確認した芳川が、若干警戒している子ども達を見て苦笑する。
 たしかに説明が足りなかったかもしれないと考えた彼女は、ひとまずどこかに腰を落ち着けるべきだという結論を導き出し、四人を手招きする。
 廃病院とはいえ、自動ドアは正常に作動し、待合室の椅子も壊れてはいない。しかし、電気が止まっているのかテレビは使えないようだ。
 とりあえず各自で好きな場所に腰を下ろした彼らは、結果的にそれぞれ一人分ずつ距離が開いたまま座ることになった。
 お互いの距離感を如実にあらわしているといえる。

「芳川さん。詳しい説明を求めてもいいわよね?」

 切り出したのは、芳川が最初にコンタクトを取った結標である。そもそも、芳川がこうして楽器隊を集めたのもすべてが結標のためであるといえばそれまでだ。
 だが、芳川は結標の問いかけに眉をひそめて唸った。予想外の反応に戸惑う結標は、それでも「説明がないならどうしようもないわよ」と続ける。

「……P」

「は?」

「芳川P。これからはそう呼びなさい」

 何かを覚悟したようにきっと顔をあげた芳川と、予想外どころか斜め上、否、斜め下の回答をした芳川に拍子抜けした結標は、しばらく見つめ合っていた。

「……、……」

「芳川P」

「……、よ、芳川P……」

「そうよ。で、なんと言ったかしら?」

 にこりと首を傾けて笑う芳川をしばし凝視していた結標は、はっと我に返りぶんぶんと顔を振る。
 勢い良く振りすぎたために、ひとつ空けて隣に座っていた白井に髪が直撃したが、気にするどころではないらしい。

「だ、だから、その、詳細を教えてほしいって言ってるの!」

「ああ、今回の計画の詳細ね。キミ達も知りたいのよね?」

 芳川は結標から白井、上条、浜面と順番に視線を向けていく。四人が頷くのを見て、芳川はすっと白衣のポケットから何かを取り出した。
 四つ折にされた用紙は、芳川のずぼらさを象徴するかのように端と端が揃っていなかった。

「えーっと、……『最終補完計画』。通称ラストサブプラン、別名なし」

「別名がないのならわざわざおっしゃることありませんの」

 白井が入れた小さなツッコミをスルーして、芳川はさらに続ける。

「簡単にまとめてしまうと、キミ達は——というか結標さんは、能力の大きさだけなら超能力者に匹敵するわね。そんなキミを、最終計画の補完として育て上げるってわけ」

「まず、その最終計画ってのがわっかんねえ」

 浜面の問いかけに同意する上条。白井はツッコミがスルーされたことに憤りを感じたのか、少し口を尖らせている。

「最終計画というのは、……、……あら。口外禁止って書いているみたいだし、言えないわ」

「言えないのかよ!」

 今度は上条が叫ぶ。

「仕方ないでしょう、機密事項なのだから。ああ、でも」

「私が補完だと言うのなら、私よりも上——それこそ、超能力者達が関わっているとみて間違いないと思うのだけれど」

 芳川の台詞を遮って、結標がはっきりと言い捨てる。彼女の脳裏には、関わったことのある超能力者が鮮明に浮かび上がっていた。
 だが、ここで引っ掛かるのは、この計画の内容である。
 結標が芳川から聞いていたのは「世界の子ども達を歌で救いたくはないかしら?」といったもので、つまるところ歌手デビューだろう。
 正直に言うと、歌で世界の子ども達を救えるとは到底思えないのだが、同時に子ども達というフレーズに惹かれてしまったのもまた事実。
 とことん子供に弱い結標だった。

 まあ、ともかく。補完計画である結標が歌である以上、メインである超能力者達の最終計画も音楽に関連する内容なのではないか。
 そう考えた際に、うっかり「いやいやねーよ」と言ってしまうほどに、超能力者と音楽は合わない。結標のよく知る最強の超能力者と音楽——合わない以前にありえないのだ。

「あら、鋭いわね。つまり、そういうことよ」

「だからどういうことだよ」

「ああ、皆目見当もつかない」

 なおも説明を要求する無能力者ふたりを捨て置いて、白井は同室の先輩のことを思い出していた。
 最近、休日になるとそそくさどこかへ出かける御坂美琴。
 さてはあの類人猿と密会でもしているのかとこっそり尾行したこともあったのだが、超高級ホテルに数人と入っていった時点で潜入を諦めたのである。
 今にして思えば、あのときの白い人間やホスト風の男、大人びた女に番長のような男、そしてアロハシャツを着たサングラスはみな超能力者だったのかもしれない。
 だとすれば、あのまとまりのなさも頷ける。統一性のない、奇人変人大集合と言った風の集団だった。

(やはり、あの変な集団に紛れ込めるお姉様はさすがですわね!)

 ここで最終的に御坂美琴を褒め称える結論を出して落ち着くのが白井である。
 何はともあれ、総括理事長の計画ならば従うほかない。白井が御坂を妨害することなどできないのだ。

「それで、キミ達は結標さんのサポートをすることになるわ。ああ、白井さんは結標さんと一緒に組むことになるのかしらね」

「先ほどから気になっていたのですが、一緒に組むとはどういうことですの?」

白井が声をあげ、結標を見る。結標は芳川の言葉を肯定した。

「キミ達は、女性ボーカルデュオとして華々しくデビューすることになるの」

 ちょっと待て。そう言わんばかりに荒々しく立ち上がったのは、短気な浜面だった。
 元スキルアウトリーダーということもあり、能力者がどうのこうの、という問題が絡んでくると騒ぎ立てずには入られないのだろう。

「女性、ってことは! デュオってことは! 俺は? 俺らは? 一体全体何のために第十九学区まで来たんだっつー話だよ!」

 はあはあと息も荒くして叫びきった浜面だが、芳川は涼しい顔で彼を見つめるばかりである。
 彼女は絶対能力進化計画に参加していた研究者であり、一方通行の癇癪じみた荒い声に慣れている彼女にしてみれば、チンピラの浜面がいくら叫んだところで可愛いものだとしか思えない。
 芳川の冷静すぎる表情に気を殺がれた浜面が、大人しくすとんと座りなおす。

「だから、楽器隊は楽器隊よ。それに、もうデビュー名も考えてしまった以上、仕方ないわね」

「えっ、もう考えてるんですか?」

 芳川の手際よさに驚く上条と、勝手に決められたことに若干苛立ちを覚えた結標、そしてデビュー名がとにかく気になる白井は芳川の言葉を待つ。
 芳川はあえて浜面に向き合うように体を少し移動させると、「キミ達が正式に加入すると名前を変えなければならないのよ」と諭すようにゆっくり話し出した。

「俺らが加入したら、名前を変えなければならない……?」

「ええ。なぜならこの名前は、彼女達の共通点から取ったものだからよ」

 そう言って満足げに笑う芳川の口からは、四人にとって聞きなれない単語がこぼれたのだった。


裏第二回・終了


 麦野沈利はきわめて冷静に一方通行を見つめていた。
 作曲の手伝いでもしてやろうと後を追いかけてみたものの、どうも麦野が口出しできるような様子でもない。
 まあいいか、と思い直した彼女は脚を組んで椅子に腰掛けながら、目を閉じては書き、書いては目を閉じ、と同じ動作を繰り返している白い少年を観察しているのだが。

(細えな……畜生)

 体のパーツのどこを見比べてみても、自分より細身である一方通行がなんとなく憎い。体重を聞いたら卒倒してしまいそうだ。
 麦野の視線に気づいているだろう一方通行は、しかしどうでもいいのか視線を気にすることなく作曲活動に没頭している。
 少し退屈を持て余し始めた麦野は、ふとあることを思い出した。

「ちょっと、イッツー」

「あァ?」

 驟雨を妨げられたことに憤りの表情を見せる一方通行だが、麦野は意に介さずつかつかと彼の傍に歩み寄る。
 なンだよ、と呟いた一方通行の隣に腰を下ろすと、麦野は不機嫌そうに続けた。

「作曲。よく考えてみたら、一曲じゃ足りねえっての」


午前十時、廃病院の一室

一方通行「はァア? オマエ、何言ってンだ」

麦野「あんたは多分CDなんて買ったことないだろうからわかんないかもしんないけど。普通はカップリング曲ってのがあって」

一方通行「……ンだァ、それ」

麦野「何て言えばいいかなー、オマケって言っちゃっていいものかどうか」

一方通行「そンなモンが必要かよ」

麦野「一曲だけで勝負するよりは、ね。それに、カップリングはA面ほど真面目にやる必要もないし、遊び心加えちゃってもいいし」

一方通行「面倒だ。第一、バカッキーが作詞だろォが。あいつが仕上げてねェ以上、作る必要はねェな」

麦野「そこで」

一方通行「?」

麦野「バカッキーが出してきた歌詞はライブで盛り上がりそうな中身だったじゃない。ってことはさ、カップリングは真逆でもいいんじゃないかって思ったのよね」

一方通行「真逆ってェと……バラード?」

麦野「そう! 物分かりがよくて助かる」

一方通行「そりゃどォも」

一方通行「しっかし、バカッキーにバラード系の歌詞なンざ書けンのかァ?」

麦野「無理だろうね」

一方通行「即答だなオイ」

麦野「書けたとしても、きっときめえ」

一方通行「素直だな……」

麦野「でも、私はカップリングはぜったいバラードって今決めたし」

一方通行「だから、なンでカップリングにこだわンだよ」

麦野「出番少ないから」

一方通行「……あァ?」

麦野「キーボード。出番、少なそうだなって思ったわけよ」

一方通行「……そォか」

麦野「そうよ」

一方通行「……つまりアレか。バラードならピアノでいいンじゃねェかと。そォいう魂胆」

麦野「正解。ずっとバカッキーにリーダー気取られるのも癪なんだよ」

一方通行「あー、まァ……癪っちゃ癪だが……」

麦野「っつーことでよろしく」

一方通行「イヤ意味がわかンねェ」

麦野「作曲は私がするわ。だからあんたは作詞して。きっめえ歌詞作ったらブチ殺す」

一方通行「……、……」

麦野「返事は」

一方通行「……あのよォ」

麦野「何よ」

一方通行「オマエ書けば?」

麦野「やだよ面倒くさい」

一方通行「」

麦野「作曲ならなんとかできるわよ。でも作詞は」

一方通行「できねェのか。バカッキー以下だなァ」

麦野「できねえんじゃねえよクソが! 書けないことはないけど、途中で間違いなく殺すとか死ねとかそっち系入っちゃうからバラードは無理なだけ」

一方通行「えェー……理不尽だわこいつ……」

麦野「自分の欲に素直なだけよ」

一方通行「つゥか作詞とか無理。他ァ当たれよ、ミコトとかよォ」

麦野「……きゅんきゅんする歌詞書きそうで困る」

一方通行「なンか納得した」

麦野「クソギーは論外。あいつは戦隊モノの歌詞しか書けなそう」

一方通行「全文同意するしかねェな」

麦野「さて、消去法です。私は無理、ミコトもだめ、クソバカもだめ、……残るは?」

一方通行「俺」

麦野「ってわけよ」

一方通行「悔しいが認めざるを得ねェ……が」

麦野「あん?」

一方通行「俺はやらねェぞ」

麦野「理由だけ聞いといてあげるわ。なんで?」

一方通行「馬鹿にされンのが目に見えてやがる」

麦野「ふむ」

一方通行「バカとか。あいつぜってェ笑う。99.9999%の確率で抱腹絶倒すンじゃねェ?」

麦野「シックスナインか……好きなの?」

一方通行「えっ」

麦野「いや、なんでもないわ」

麦野(なんだ違うのか)

一方通行「だからカップリングはな、」

麦野「じゃあこうしましょ」

一方通行「最後まで言わせろ」

麦野「あんたが書いた歌詞を私が手直しして、共同合作ってことにする。そうすりゃ負担は減ると思うんだけど、どう?」

一方通行「どう? じゃねェよ、根本的に俺が書く点は訂正されてねェだろォがクソアマ!」

麦野「んだこらクソモヤシがなめてのか捻り潰されてえのかもっしゃもっしゃ食われてえのかァ!?」

一方通行「意味がわからねェ! 俺に八つ当たりしてンじゃねェよオマエの敵はあのバカじゃねェのか!」

麦野「あーもううっさいなあ、いいんだよ今は! 書けっつってんだから書け、血反吐出さしてやろうかクソ野郎!」

一方通行「なンだなンだよなンですかァ!? なンでオマエ若干スイッチ入ってンだよ!」

麦野「や、か、ま、し、いっ! 今決めたんだ、もう後戻りはできねえんだよぉぉぉぉおおっ!!!」

一方通行「イヤ出来ンだろ後戻り! カップリング曲なンざはじめからなかった、っつゥコトにすりゃ——」

麦野「……出番、奪う気?」

一方通行「は?」

麦野「第一位で? ベーシストで? アルビノで細身でチョーカー無しじゃ生きていけなくて? 作曲も兼ねて? おーおー、さすがですこと、出番だらけじゃねえか」

一方通行「なンかわかンねェけど馬鹿にされてンのは理解した」

麦野「それでさらに出番も奪おうってか! さっすが、第一位様は格が違う。……ふっざけんなよ!」

一方通行「イヤ、ふざけてねェし……」

麦野「いいから書け。とにかく書け。笑わない努力はするからとっとと書け。私に似合うような歌詞を書け」

一方通行「横暴す」

麦野「いいぜ、これだけ言っても渋るってんなら——潰す」

一方通行「他人のフレーズ使うならちゃンと使ってやれよ……」

麦野「つぶす」

一方通行「……、……」

麦野「つぶ」

一方通行「書きゃイインだろ書きゃあよォ! 無表情に股間見つめてンじゃねェクソッたれェ!」

垣根「……ボイトレってさあ」

御坂「……うん」

垣根「何すりゃいいんだろうな」

御坂「私だってわかんないわよ。したことないし」

垣根「俺の喉は常に美声を出すために鍛え上げられているんだが」

御坂「へー」

垣根「気のない相槌!」

御坂「で、どうすんの。ボイトレするの、しないの」

垣根「ボイトレもそうなんだけど、今ふと思いついたことがある。この点に気づくなんてさすが俺」

御坂「……何?」

垣根「その『うっわあ聞きたくないけど聞くしかないか』みたいな顔やめてくんねえ? 俺けっこうピュアでガラスハートだから」

御坂「……、……」

垣根(やりづれえ……心理定規みてえにざっくりきてくれて構わねえんだけどな)

御坂「カッキーに、ひとつ訊ねなきゃいけないことがあるんだけど」

垣根「あー、うん。どうぞ」

御坂「本気で——この学園都市を出て、世界進出を果たそうとしてるの?」

垣根「……えっ、なんでそれ俺に訊くわけ」

御坂「なんでって、リーダーだから?」

垣根「マジで俺リーダーだったのか……」

御坂「だから、どっちなのってば」

垣根「そう言われてもなー、お前、俺と一方通行がぶつかった事件知ってる?」

御坂「……?」

垣根「説明とかだるいし、負け戦をいちいち弁明すんのは好きじゃねえ。要するに、俺はあのもやしに一度殺された」

御坂「そういえば最初のときに脳味噌云々って言ってたわね。それで?」

垣根「だからよ、まあ復讐してやろうっつー気もねえわけじゃねえ。むしろ隙あらば復讐してえ」

御坂「気持ちはわからなくもないわよ。でも、仲良さげじゃない」

垣根「だって」

御坂「だって?」

垣根「馬鹿らしいだろ。復讐とか」

御坂「……、……」

垣根「学園都市ってのはさ、能力が強力であればあるほど生きていくには厳しい世界なんだよ。知ってたか?」

御坂「……そんなこと、ないと思うけど」

垣根「そりゃ、テメェが表の世界で生きてっからだ。一度でもそのスポットライトから外れてみな、何にも見えやしねえからよ」

御坂「でも、私は超能力者になるまで努力したわよ。血ィ吐くくらい努力して、ここまで登り詰めて——」

垣根「登り詰めて、そこで終了だろ」

御坂「たしかに、第二位と第三位の間には、絶対的な壁があるって言うわね」

垣根「ああ、あるだろうな。同時に俺とあのもやしの間にだって壁がある、だが」

御坂「?」

垣根「一方通行は『第一位』であるがゆえに、俺以上にめんどくせえ世界で生きてんじゃねえかな」

御坂「……ふうん。あんた、あいつに同情でもしてるの?」

垣根「だから違うって。あー、わかんねえかな……つまり、俺ら超能力者ってのはたとえエリートであろうと、実験動物であることに変わりはねえんだよ」

御坂「!」

垣根「あ、今私は違うってカオしたな。残念ながらテメェは立派なモルモットだよ、超電磁砲。妹達がいい例じゃねえか」

御坂「……いつも思ってたんだけど。あの子達は、一方通行の実験のために生み出されたなら、私のクローンである必要はないわよね」

垣根「ま、あいつより強いやつなんて『学生』の中にはいねえはずだから……手っ取り早く言えば、俺でも構わなかった。そう言いたいんだろ」

御坂「ええ。正直、アンタのクローンなら実験がとめられることはなかっただろうけどね」

垣根「そもそも、俺のクローンである必要もねえんだがな」

御坂「? どういうことよ」

垣根「ったく、さっきから少しは自分で考えてくれよ——電撃姫?」

御坂「あんたにそう呼ばれると馬鹿にされてる気しかしない」

垣根「馬鹿にしてねえよ。これは俺の憶測だから、これ以上ひけらかすわけにもいかねえけど」

御坂「私のクローンでなければならなかった理由なんて、ないに決まってんでしょうが」

垣根「あーうん、だからさ、お前がそう思ってるならそれでいいんじゃねえの。俺、べつにここでムズカシイ話してえわけじゃないから」

御坂「だーかーらあああっ!!! わざとらしい言い方で濁すのはやめろっての!」ビリビリッ

垣根「おーこわっ、電気こっえ」バサバサッ

御坂「っていうか! 質問の答え、聞いてないんだけど!」

垣根「はぁあ? 何の?」

御坂「本気でこの学園都市を出て、世界進出を果たそうとしてるのかどうかっ!」

垣根「話の流れでわかってくんねえ?」

御坂「あんたの思考回路なんざ読み取れるかあああああっ!!!!!」ビリバチバチッ

垣根「だから電撃やめろっつうの、姫じゃなくてじゃじゃ馬の間違いじゃねえのか」バサバサ

御坂「いいから答え——」

垣根「俺は、冗談で自分の行動を決めたりしねえ」

御坂「……、……」

垣根「たしかに俺は軽いが、そりゃ自分以外の人間にだけだ。自分にまで軽く接したことはねえよ」

御坂「格好良く言ってるとこ悪いけど、すごく最低よねそれ」

垣根「誰だって自分が一番可愛いだろ。なに、お前は違うの?」

御坂「ち、違うのって言われると……まあ自分が一番可愛くないこともないというかでもえっと」

垣根「まあ、要するにだ」

御坂(流しやがった)

垣根「俺は、この街が大嫌いだ。憎んでいると言ったっていい、だから出たい。だけど、このままじゃ無理なんだよ」

御坂「……出ようと思えば出られるじゃない。いくらでも。あんた、その翼は飾りじゃないでしょ?」

垣根「あー、まったくわかってねえな。言っただろ、『俺は一度殺された』ってな」

御坂「だったら何——、!」

垣根「はっきりとは言えねえが、俺を生かした以上、何らかの対処がなされていることは間違いがねえな」

御坂「何らかの、対処……? 体に?」

垣根「そ。まあ、一方通行も12時間能力全開だとほざいてやがるが、その分操作されやすいだとかなんだとか、色々な制約はあるだろうよ」

御坂「ってことは、麦……シズリもかしら」

垣根「あいつはどうだろうな。片目片腕がなくてもビーム出せるらしいし、俺や一方通行と違って価値は下がるし」

御坂「随分な自信ね、そんなに自分は価値があると思ってるわけ?」

垣根「知ってるだけだ。価値がねえやつをわざわざ生き返らせるほど、アレイスターは甘くねえってことをな」

御坂「……価値、ね。私達がどんなに必死に能力開発をしたところで、結局アレイスターの一存で判断されるんじゃない」

垣根「だから、最初から言ってるじゃねえか」

御坂「何よ」

垣根「このバンド成功させて、とっととあのクソ野郎の鼻をあかしてやろうぜ、って」

御坂「わた、しは……制約なんてないし、本気になる必要だってない、けど……」


土御門『カミやんが最近ドラムにはまりだしたらしいにゃー』


御坂(そうだ、最初はあいつと少しでも共有できる話題を作りたかった、それだけなのに)

垣根「その通り。俺や一方通行、麦野にゃ『縛り』がある。だが、テメェにはねえ。削板はどうだろうな、あいつちょっと謎だし……ま、そういうことだよ」

御坂「そういうこと、って、どういうことよ」

垣根「怖気づきそうなのはお前だけってことだ。やめんならこの合宿中にしてくれよ、余計な手間は省くに限る」

御坂「ッ、!!!」

垣根「ああ、続けるってんなら止めはしねえよ。ただ、どうせ軽い気持ちで世界だなんだって言ってんならやめちまえってだけで」

御坂「あんたは、カッキーは、軽い気持ちじゃないっていうの」

垣根「軽いわけねーだろ、一遍絶望見るかコラ? 俺はこのバンドに命を懸けてんだよ小娘が。
   失敗すりゃもう一度出口のねえ闇に舞い戻り、成功すりゃ二度とこんなクソみたいな場所を味わう義務もない」

垣根「どっちがいいかなんて、分かりきってんだろ」スタスタバタンッ

御坂(あれ? 結局、気づいたこと聞いてないわ)

事務局

土御門「『どっちがいいかなんて、分かりきってんだろ』」キリッ

海原「御坂さんを傷付けやがって……」ギリッ

17600「師匠、口調口調、とミサカは態度を急変させた師匠に指摘します」

土御門「いやー、一応全個室に盗聴器しかけといて正解だったぜい。イッツーとシズリのほうはどうやらカップリング作りに移行したようだし」

海原「垣根帝督……許すまじ」キラッ

17600「師匠、トラ槍は自重してください頼みます、とミサカは黒曜石を懐から取り出した師匠に危機感を抱きます」

土御門「だが、妙だな……」

海原「ええ妙ですね、とっても妙です。さすがは御坂さん、あんなチンピラでさえ御坂さんの前ではただのオスです」

土御門「何の話だ。違う、そうじゃなくて」

17600「削板軍覇ですね、とミサカはリーダーに問いかけます。この携帯電話で確認するかぎり、もう彼らとは一緒にいないようですが」

土御門「ああ。ミコトならともかく、ソギーが脱落するような事態は想定していなかったんだがな……帰ってこないとなると」チラ

海原「? なんです」

土御門「ドラムが、足りないんだにゃー」

海原「ほうほうそれで」

土御門「ソギーが万一帰ってこなかった場合」

海原「ふんふん」

土御門「よろしく」ポンッ

海原「はいは……、……えっ?」

土御門「ほら、一応超能力者の集まりっていう体でお届けするバンドだから。ソギーの代役はお前しかいないんだ」

17600「たしかに、他の人間で補うとバンドの価値が下がってしまいますね、とミサカはリーダーの意見に賛同します」

海原「えっ、いや、つまり?」

土御門「こんなこともあろうかと、昨晩全員が寝ている間に皮膚をちょっといただいておいた。とはいえ、ゲットできたのはソギーの皮膚だけだが」

海原「どんだけ寝てる間の痛覚ないんですかあの根性馬鹿」

土御門「イッツーのはこわいからやめといた。カッキーのは剥ごうとしたら自動防御で翼出てきた。ミコトはなんか静電気的なものがばちってきた」

17600「第四位は? とミサカは若干わくわくしながら先を促しますが」

土御門「……怖かったんだよ。すごく」

17600「ああ、一方通行みたいな? とミサカは例を持ち出して問いかけます」

土御門「いや、そうじゃない。寝言。寝言が、すごく怖くて、ちょっと勇気が出なかった」

海原「そういえば盗聴している際に女性の声で『×××を根こそぎちょん切ってやる』とかそういう放送禁止用語が聞こえてきていたような」

土御門「それはまだ可愛いもんだった……思い出すだけでトイレ行きたくなるぜい」ブルッ

海原(土御門さんがここまで怯えるなんて)

17600「まあとにかく、その皮膚はどこにあるんですか、とミサカは早速削板軍覇の皮膚を鑑賞したい衝動に駆られます」

土御門「ああ、あっちでホルマリン漬けにしてある」

17600「病院すげえ」

海原「いや、ホルマリン漬けはちょっと……」

土御門「えっ、だめだったか?」

海原「自分で判断するのは難しいですが、こう、若干科学側のような気がしますね」

土御門「oh……」

17600「ホルマリンホルマリンー、とミサカは削板軍覇の皮膚目指して猛ダッシュです!」スタタタタタッ

土御門「なにあの物好きな娘」

海原「自分も知りませんでしたよ。まさかあんなにホルマリン好きだとは」

土御門「ところで、仮にソギーが帰ってこない場合なんだが。お前ドラム叩ける?」

海原「無理ですよ。アステカの民族舞踊にドラムなんてありませんし」

土御門「……なんかあるだろ?」

海原「ないですってば。何ちょっとわくわくしてるんですか、民族舞踊見たいんですか」

土御門「特殊メイクとかして上半身裸でなんか騒ぐんじゃねえの?」

海原「だからそれどんなイメージですか!」

一方通行「……バカの作曲はできた」

麦野「まあいいんじゃない。ちょっと弾いてみるわ」

〜♪〜〜♪〜♪〜〜〜♪〜

一方通行「あァ、悪くねェな。最初の曲だしこンなモンじゃねェのか」

麦野「ま、今はピアノで弾いたからちょっと違和感あったけど。バンドでやればいいかもね」

一方通行「ンで、なンだよその手。なンで白い用紙俺に差し出してきてンだよオマエ」

麦野「作詞。しろって言ってんだよ」

一方通行「わかったから出てけ! 一応書いてみるからここで見つめてンじゃねェ!」

麦野「あら、照れてんの? 恥ずかしがってんの? ねえねえ」

一方通行「照れてねェよ恥ずかしがってもいねェよイイから出てけ年増ァ!」

麦野「んだとこのクソほっせえもやし野郎が! 年上のお姉さんと呼べ!」

一方通行「とーしーま! とーしまァ!」バンバン

麦野「て、め、え……首輪なんてつけてるSM好きのクソッたれのくせにいい度胸してんじゃねえかァァアアア!!!」

一方通行「これは首輪じゃありませんー、チョーカーですゥー! オマエあれだろその腕取り外し可能なンだろ、ハハッマジぱねェ」

麦野「オーケーわかったそんなに私に見られたいなら意地でもここに居座ってやるよいいから書け書けよ書きやがれェェェェエエエエエエ!!!!」

一方通行「だから見られて作業できねェっつってンだろ耳まで遠いンですかァこのアマ! いいからバカでも探してブチ殺してろ、」


垣根「バカって呼ぶなっつったろ!」バーン


麦野・一方通行「……、……」

垣根「あれっ、なんか悪いな。邪魔しちゃって」パタン

麦野「……ごめん、ちょっと頭に血が上ってたわ。今からあいつで鎮めてくる」

一方通行「いってらァ」

パタン

一方通行「……歌詞、ねェ……バラード……どンなモンを書きゃイインだかさっぱりだ」

垣根「しっかし、言っちまったはいいが実際に抜けられてもなー……」

麦野「何の話よ?」

垣根「ん? ああ、ミコトだよ。あいつ、最初っから妙にはしゃいで世界に出るとかなんとか言ってたろ」

麦野「ああ、言ってたわね。まだガキだし別におかしくないと思うけどさ」

垣根「半端な気持ちで言われても困るんだよ」

麦野「……あ?」

垣根「お前もさ、その片目と片腕。まさか無償で学園都市が治してくれたとは思ってねえだろうが」

麦野「……なるほどね。私はまだ一部で済んでるけど、あんたは体ほとんどだっけ? 心臓を上層部に掴まれてるようなもんだな、ははっ」

垣根「ははっ」

麦野「……、……」

垣根「……、……」

麦野「いや、否定しとけよ」

垣根「だってきっとマジだし」

麦野「はあ……私やあんたでこの調子なら、イッツーもだろうね。補助を受けてる以上、どうなったっておかしくないよ」

垣根「ああ。あのクソ野郎がこうしてバンドなんてもんをやってる時点で、あいつはとっくに気づいてるだろうけど」

麦野「で、何の枷もないミコトに釘を刺しちゃった、ってわけ? やめるなよって?」

垣根「まっさかー、その逆だよ。やめんならとっととやめちまえって言っただけだ」

麦野「!?」

垣根「大丈夫だろうとは思うぜ? 俺らみてえに薄汚れてるわけでもねえ第三位だ、一度やるって決めたことを覆せるほどプライドも低くねえはずだし」

麦野「これであの子がやめたら、私が女の子ひとりで可哀想よねー」

垣根「えっ」

麦野「んだよ」

垣根「いやあ、なんでも」

麦野「とにかく、今はイッツーの仕上がりを待つばかり、なんだけどさあ」

垣根「仕上がり?」

麦野「ああ、あんたには言ってなかったっけ。一曲じゃだめなのよ」

垣根「聞いてねえよ。もう一曲書き下ろせばいいのか」

麦野「てめえはいらねえよバカ」

垣根「だからバカってやめろカッキーだ」

麦野「ちげーよ今のはほんとにバカって罵ったんだよバカ」

垣根「ほんとに罵るのもやめろ俺お前より頭いいんだぞバカ」

麦野「ふざけんなよバカ」

垣根「ふざけてねーよバカ」

麦野「死ねよバカ」

垣根「しっ……なにそれ急にそういうのなしだろこういう場面は!」

麦野「なしとかありとか関係ねえな。カァンケ、」


バタンッ


一方通行「コンビニ行ってくる!」

バタバタバタ

垣根「……コンビニ行ってくるって」

麦野「……作詞のほう、終わったのかしら」

スタスタスタ
ヒラリ

垣根「なあ、ピアノの上に乗っかってるの、これ歌詞か?」

麦野「あー、多分。って字うまっ!」

垣根「すっげえ、なにこいつ。機械のような字だな」

麦野「っていうか、この短時間で書き上げてるってことは、相当感情込めたか、あるいは」

垣根「適当か、のどっちかだな。読み上げていいか」

麦野「待って、今読む」

読了後

麦野「……、……」

垣根「完全に前者だったな」

麦野「あのさあ」

垣根「あ?」

麦野「前から喋り方でちょっと引っ掛かってはいたけど、あいつなんで『ン』とか『ァィゥェォ』とかカタカナなの」

垣根「アイデンティティだろ」

麦野「んー、少し手直しはしなくちゃいけないけど……でも、うん。悪くないわ、あんたのよりはずっといい」

垣根「これ明らかにオマエ=打ち止めだよな。あのガキだよな」

麦野「これはミコトに歌わせる予定だから、俺の部分は僕、オマエの部分は君に変えて、所々やわらかくしなきゃだめね」

垣根「俺じゃねえのかよ!」

麦野「バラードで私がピアノ伴奏、ミコトが歌うの。もう決まってるんだよバーカ」

垣根「ちょっと待てよ、それ俺らいらなくね」

麦野「コーラスでもしてれば?」


 麦野がふふっと笑いをこぼし、椅子に座る。歌詞が書き込まれた用紙をじっと見つめた後、彼女は机の上に残されていた赤ペンで歌詞を少しずつ訂正していった。
 その様子をしばらく眺めていた垣根だが、自分の出番がないことを数度訴えても効果がなかったため、すごすごと部屋を出ていったらしい。麦野は一度も顔をあげなかった。
 一方通行が書いた歌詞は、あまりにも素直すぎて、自分ではとても書けそうにない。けれど、あの少年は共同ならいいと、言っていたような気がするから。
 書かせたのは自分で、だったら手直しは心を込めてやってやろうじゃないか、と麦野は口元の笑みを深めた。


第四回(合宿)、第二日目午前の部・終了

「……くしゅん! ってミサカはミサカは鼻をおさえてみたり」

 打ち止めはむずむずと鼻を動かしながら、こてんと首を傾げた。こんな時期に風邪なんて引かないだろうし、そもそも具合はちっとも悪くない。
 どうしてくしゃみをしてしまったのか、とわけがわからず苦悩する少女の横で、けらけらと黄泉川愛穂は笑ってみせた。

「さては、誰かが打ち止めの噂でもしてるじゃんねー?」

「えっ、そうなの!? ってミサカはミサカはあの人だったらいいのになって願望を述べてみるんだけど!」

 きゃいきゃいとはしゃぐ打ち止めを見ながら、黄泉川は曖昧に笑うばかりで答えようとはしない。
 くしゃみ一つはたしか謗りじゃなかったかなあ、と彼女は内心で思い返してみるものの、確信のないことを打ち止めの前で言うとあとで自分に降りかかってくるのである。
 主に、打ち止めの『あの人』によって。
 保護者は自分だったはずだが、自分よりも過保護なあの少年はいったいどういうことだろう、と黄泉川は思うに至り。

「桔梗、何してるんだろうね」

 朝早く出かけていった同居人に思いを馳せる。ここのところ、仕事があるからと言って外出する芳川は、今までの数倍輝いていた。
 友人の働き口が見つかったことは、おそらく祝福するべき事項である。だが、引っ掛かるのは、芳川の部屋に散乱している大量のCDだ。

(仕事っていうのは……聴覚に関連してる、とか)

 あまり深く追及しないでほしい。そんな態度を芳川が取っていたから、黄泉川も仕事について訊ねたことはない。
 少し、妙だなあと思う程度である。

「ヨシカワならきっと大丈夫、ってミサカはミサカは世渡り上手なヨシカワに高評価を下してみる」

 黄泉川は一方通行を過保護だと思っている。しかし、打ち止めにしてみれば黄泉川も十分に過保護だと思う。
 ヨシカワはもう立派な大人なのに、という呟きをもらさない打ち止めは、おそらく黄泉川よりも芳川の常識人っぷりを信頼しているだろう。
 どちらが正しいのかどうかはともかくとして、おなかがすいたねえ、とふたりは同時に腹を押さえ、昼食の準備に取りかかるのだった。


午後一時、コンビニ近く

一方通行(しまった、歌詞持ってくンの忘れた)

一方通行(あれをシズリに見られる分には構わねェが、あのバカもいたよなァ)

垣根『あははははっ! なにこれ! なにこれねえわ! ねーよ! うまくねえ! ちっともうまくねえよ、あひゃひゃひゃひゃ!!!』

一方通行(……あァ、笑いそォだ。とっても)

一方通行「だが、今さら戻ンのも格好つかねェし」

一方通行「……金もねェからコーヒーすら買えねェ」

一方通行「そもそも歌詞ってなンだよ。なンで俺あンな必死に書いてたンだよ意味わかンねェよ」

削板「必死になることはいいことだぞ。根性のないやつに必死という言葉はまったく似合わないからな」

一方通行「あァ。たしかに必死にならねェとクリアすることのできねェステージなンざ、人生には山ほどある……、?」クルッ

削板「ようイッツー、奇遇だな」

一方通行「……、……」クルリ

削板「なんでもっかい前向いた!? オレの挨拶は!?」

一方通行「コーヒー飲みてェ……」

削板「そして独り言タイム!」

一方通行「うっせェな、オマエ家出したンだろォが。母さン悲しンでたぜ?」

削板「か、母さんが!? ……待て、父さんはコーチだよな」

一方通行「おォ。父さンはオマエのこと露ほども心配してなかった」

削板「マジで」

一方通行「マジで」

削板「マジかよ……」

一方通行「場所わかるとか言ってた」

削板「コーチぱねえ」

一方通行「むしろぱねえのは学園都市の技術なンだが、オマエまだジャージ着てたンだなァ」

削板「おう。だってもらったもんは着ないとだめだろ」

一方通行(着てるおかげで居場所特定されてンならどォしよォもねェけど)

削板「ところで母さんって誰だ?」

一方通行「あれ、あいつ。17600号」

削板「……?」

一方通行「ミコトにそっくりの、でもやる気のねェ目をしたガキだ」

削板「ああ! マネージャー!」

一方通行「……案外記憶力イイな、オマエ」

削板「記憶力は根性でどうにでもなるからな。お前も鍛えればすぐ記憶力がつくぞ」

一方通行「べつに、鍛えなくてもそこそこの記憶力はあっからなァ。ンで、オマエどォすンの」

削板「どうするって、何が」

一方通行「だァから、戻ってくンのかそれともこのままおいしいご飯にほかほかおふろ、あったかい布団が待ってるオウチに帰ンのか、ってことだ」

削板「にーんげんっていーいーなー、……うん。帰らねえよ」

一方通行「ほォ?」

削板「数時間ほどヨシピーにこき使われて、コーチのほうが優しかったって気づいた」

一方通行「ヨシピ……誰だそりゃ」

削板「年齢聞いたら『女性に訊ねる質問としては不合格ね』ってにやにや笑ってた」

一方通行「オマエ、そンな断片的な情報で俺が個人を特定できると思ってンのか」

削板「あと、『一日一時間外歩いたら死ぬ』とか言いながらオレをパシった」

一方通行「……そいつ、白衣着用してたか?」

削板「ああ。白衣にジーンズとカットソーだった。なんかこう、着古した感じの」

一方通行「口癖、『優しくなくて、甘いから』とかじゃねェ?」

削板「そうそうそうっ! すげえな、なんでわかったんだ!?」

一方通行「……なァにしてンだ、あのクソニートはよォ……」

削板「? 知り合いなのか?」

一方通行「ちっとも知り合いじゃねェ。ンで、オマエはそいつンとこで何してたンだよ」

削板「ああ、えっとな。朝病院出てから走り続けて、そんでヨシピー一行に遭遇して」

一方通行「一行ってェのは、あれか。他にも白衣の研究者共がいたってのかァ?」

削板「いや。白衣はいなかったぞ!」

一方通行「はァア? あいつが仕事以外で家から出るわけねェだろォが」

削板「なんだ、やっぱり知り合いじゃねえか」

一方通行「いやちっとも全然知り合いじゃねェけど」

削板(じゃあなんでさっきから苦虫噛み潰して飲み込んじゃったー、みたいな変な顔してんだろう)

削板「まあいいや。で、ヨシピーはプロデューサーなんだよ。だから色んな連中を引き連れててな!」

一方通行「……あン? プロデューサー、だァ?」

削板「なんでも、補完なんちゃらって言ってたけどオレちょっと覚えてねえ」

一方通行「記憶力いいンじゃなかったのかよ!」

削板「面倒なことは覚えない主義だ」

一方通行「あァもォイイわ面倒くせェ。要するに、芳川は補完何とかでプロデューサーやってンだろ……、……あ?」

削板「どうしたイッツー、まさかほんとに虫食べちゃったのか!?」

一方通行「ほンとにって何だよ。いつから俺は虫食うキャラになってンだよ、そォじゃねェ」

削板「じゃあなんなんだ。もっとオレとわかりやすくコミュニケーションしてくれ」

一方通行「その言葉そのまま反射してやろォか」

削板「反射された言葉を根性で打ち返してやるよ」

一方通行「根性で打ち返された言葉をベクトル操作でブチ込ンでやらァ」

削板「ベクトル操作でブチ込まれた言葉を根性で、」

一方通行「!」

一方通行(ンだァ、この妙に絡みつく視線はよォ……)サッ

店員「……、……」ジィー

一方通行「! ……出ンぞ」

削板「ん、ということは言葉は現在オレとイッツーの間を浮遊してるのか!」

一方通行「ハイハイわかった俺の負けでイイから出ンぞクソ馬鹿!」グイッ

スタスタウィーン

店員「はっ! い、行ってしまいました……とミサカは追いかけられないアルバイターの辛さによよよと泣き出し——」

店員「と思ったけどどうせ人こねーし待ってくださいいいいいい!!!! とミサカはあの方を追いかけますうううううっ!!!!!」


一方通行「!?」ブルッ

削板「どうした、まさか虫が」

一方通行「だからイイ加減その虫の発想から離れろやァァァァアア!!!!」

削板「……、……」テクテク

一方通行「……、……」カツカツ

削板「……なあ、イッツー」テクテク

一方通行「……あァ?」カツカツ

削板「お前、能力に制限があるんだよな」テクテク

一方通行「だったらどォした」カツカツ

削板「その杖、不便じゃないのか?」テクテク

一方通行「慣れた、それよりも訊きてェことがある」カツカツ

削板「? それより?」テクテク

一方通行「オマエ。そもそもどォしてバンドなンざやろォと思ったンだよ」カツカツ

削板「それは、——」ピタッ

一方通行「あン?」カツピタリ

削板「……たいした理由じゃない。気にするな」スタスタスタ

一方通行「……、へェえ。もしかして、結構面白そォな理由抱えてンじゃねェのか、オマエ」

削板「とくにやることもなくて、理事会直々の命令だったから従っただけだぞ。あと、バンドってのも楽しそうだと思ったし」

一方通行「本当に、そンだけかよ」

削板「それだけ、ということにしておく。そういうイッツーこそ、和気藹々とバンド活動に励むような人柄じゃないって聞いたんだが」

一方通行「あァ、その通りだな。オマエの理由がどンなモンかは知らねェが、俺やあのバカ、シズリあたりはもォ上に真っ向から対立できねェ」

削板「なんでだよ。お前らオレよりも序列上だろ」

一方通行「俺のこのチョーカーやバカの肉体蘇生、それからシズリの片目片腕。すべて上からの支給品なンだが、わかってるか」

削板「一応知ってはいたが、だからどうした」

一方通行「つまり、上の連中はいざとなったら俺達を自由自在に操れンだよ。柵、と捉えても構わねェがな」

削板「……言っておくが、オレにはそんな枷なんてないからな。オレはただオレの意志でのみ動く」

一方通行「あァ、そォだろォよ。見たトコロ、オマエは上の連中も易々と手は出せねェらしいし」

削板「だけどな」

一方通行「だけど?」

削板「居心地が、良いんだよ。どうしてだかわからねえが」

一方通行「ナニが。っつかドコが」

削板「イッツー達と過ごした時間だ。オレはついさっきまでヨシピー達と一緒に『似たようなこと』をしてた、だけど……違うんだよ」

一方通行(似たよォな、こと?)

削板「知っての通り、オレはナンバーセブン。つまり、このオレの上に立つ人間は六人しかいない。この六人がいない場所において——オレは最強だ」

一方通行「間違っちゃいねェな」

削板「いつだったか……きっと最初の日だろうけど、オレ達がバンドの名前を決めているときに共通点を探しただろ?」

一方通行「そォだったか?」


麦野『私らの共通点ってまったくない気がするけど』

垣根『ないな。イケメンかつ学園都市第二位の俺がお前らとの共通点を持っているわけがないし』

御坂『……うーん……考えれば考えるほどまとまりに欠ける集団よね、レベル5って』

削板『それぞれが強すぎてほかを寄せ付けないからな、オレ達レベル5は』

一方通行『まったくだ。おかげで常に孤独を味わってきたよなァ、レベル5ってだけで』

垣根『周囲との壁を取り除くために仮面の付けっぱなしだぜ、レベル5だからよお』

麦野『誰からも理解されない化け物だからね、レベル5である以上』


一方通行「……あァ、探してたな」

削板「お前はあのとき軽い気持ちで発言したのかもしれない。多分、他の連中も軽く言ったんだろう。でも、オレは——」

一方通行「……、……」

削板「——ここなら、本気を出せると思った」

一方通行「本気、ねェ」

削板「こいつらなら、オレがどれだけ根性出して本気になろうとも、壊れないんじゃねえかって、思ったんだ」

一方通行「あー、つまりアレか。自分より格下のやつ相手じゃつまらねェと。もォ飽きたと。そォいうワケか」

削板「なんか違うけどそんな感じでいいぞ。それからコーチから少し気になることを聞いちまったからな」

一方通行「でェ? 結局、オマエは戻ってくンだよなァ?」

削板「戻るも何も、オレの居場所ははじめからあそこだけ、だッ!」バシッ

一方通行「っ!」キィン

削板「……とまあ、反射もされるしな! あはは!」

一方通行「あははじゃねェよいきなり殴りかかってくンな根性馬鹿!」

削板「いやあ、お前の根性がどれだけあるかは知らないが、オレのパンチを防ぐなんてやっぱり第一位だな」

一方通行「不意打ちにゃ慣れてるンだ、よッ!」ガンッ

削板「うおっ!」ガシッ

一方通行「ほォ……根性馬鹿だけあって軽々と俺の拳を受け止めるじゃねェか」

削板「そりゃ、オレはどっちかっていうと能力云々より体で戦うほうが好みだからな!」

一方通行「オマエ、アレか。脳味噌まで筋肉さンかァ」カツカツ

削板「おい、もうちょっと殴り合いしないのかー」テクテク

一方通行「だァれがするかよ。オラ、帰ンぞクソギー」カツカツ

削板「さりげなくクソ呼びしてんじゃね、……え?」

一方通行「まだ何かあンのか!?」

削板「いや、能力制限って、さっき解いてなかったか。オレのパンチ反射してたし」

一方通行「あれは一瞬だよ。そォ簡単に能力に頼ンのはどォも癪だ」

削板「でも、どうせ使えるなら使ったほうが得だと思うがな」

一方通行「悪党には悪党なりのプライドってモンがある。オマエに根性っつゥ筋があるよォにな」

削板「……! つまり、漢の美学ってことだな! わかった、ならばオレは杖をついて歩くイッツーを気にせずにさっさと走って帰る!」シュタッ

一方通行「はァア? おい、ちょっ」

削板「安心しろ! オレは自分にも厳しいが他人にだって厳しく出来る男だからな!」ドドドドドドッ

一方通行「……そォじゃねェだろ……、!」ブルッ

一方通行「なーンか、妙な気配がすンだよなァ」カツカツ

廃病院

ガッシャァァァアアアン!

削板「ただいまああああああっ!!!!!」

土御門「ドアは壊さずともキミのIDはあと九十日ほど有効よ、ソギー」

海原「どこのネタですかそれ……おかえりなさい、削板さん」

削板「ああ、ただいま! それでみんなどこに行ったんだ!? 姿が見当たらないんだが!」

17600「メンバーならそれぞれ自主練中ですよ、とミサカは突き当たりの一室を指差し、あそこにお姉様がいることを明らかにします」

削板「お姉様? ああ、ミコトか。よし、ちょっと行ってくる!」ダダダダダッ

海原「はっや!」

土御門「何にせよ、戻ってきてくれて何よりだぜい。海原のドラムとか正直ちょっとアレだし」

海原「頼んでおいてアレってひどすぎませんかね。自分だってお断りですよ」

17600「あ、そういえば突き当たりの一室には第二位と第四位の偶数コンビもいましたね、とミサカは思い出し、なにやら一波乱起きそうな気配を察します」

土御門「あー、いたな。なんだ、ほぼ全員集合、」

カツカツカツ
ウィーン

一方通行「オイ。クソギーはもォ来たよなァ?」

17600「おや一方通行、あなたがビリですよ、とミサカは親切心で教えてあげますが」

一方通行「そォか、ならイイ。どこの部屋だ」

海原「突き当たりです。もうみなさんおそろいのようですし、急いだ方がいいかもしれませんね」

一方通行「ンなこたァわかってる。……ツチピーさンよォ」

土御門「なんだ?」

一方通行「オマエ、あのクソ野郎を一週間鍛えたンだろ。そンときに何か吹き込みでもしたか」

土御門「……、……いや、ちっとも」

一方通行「ふゥン。まァ、俺には関係ねェが」

カツカツカツ
バタン

海原「……吹き込んだ、とは」

土御門「たいしたことじゃないにゃー。ちょっと、毎日『お前の居場所はあのバンドだけだ』って囁き続けただけ」

17600「なるほど洗脳ですか、とミサカはプロデューサーの手腕に愕然とします。毎日とかこえーよ」

土御門「つっても、普通はあんな簡単に洗脳されないものだがな。根性一辺倒というか、一度信頼した相手の言葉を信じすぎるというか」

海原「思いっきりつけ込んでますねそれ。汚いなさすが土御門さんきたない」

土御門「褒め言葉ですたい、っと。そんじゃ、さくっとモニターで確認するかにゃー」

17600「たった今一方通行が部屋に入りましたね、とミサカは部屋に漂っている不思議な空気に首を傾げつつも実況モードです」


モニター、突き当たりの一室

ガチャ

一方通行「……、えェー」

垣根「ぜえ、ぜえ……っ」

麦野「はあ、はあ……」

削板「ふーっ、ふー……」

御坂「……あら、イッツーじゃない。おかえり」

一方通行「ただいまァ、ってかこの気色悪い状況はなンだよ」

御坂「見て察してくれる? シズリとカッキーが口論になって止めに入ったソギーに殴られてキレたふたりが反撃して、まあそんな感じ」

一方通行「バカじゃねェの。ンで、オマエはナニしてンだ」

御坂「見守ってた、っていうよりは……シズリが書いたっていう歌詞を読んでリズムを考えてたんだけどね」

一方通行「——!」

垣根「そ、んなの、俺は、みとめっ、ね、え……」ゼェゼェ

麦野「まだ言う、か、あ、この、バカ、が……」ハァハァ

削板「いいから、おま、えら、ちょっとそこ直れえええええ!!!」

御坂「復活早っ!」

一方通行「ソギーの根性は筋金入りだかンな。とりあえずその歌詞とやらを貸せ」

御坂「え、いいわよ。はい」スッ

17600「な、なんですかあの紙……! とミサカはズームできないジレンマを抱えてイライラしてみます」

土御門「あの紙に書いてある歌詞が、イッツーの原作を手直ししたシズリの歌詞、ってことだろうな。ちょっと気になる」

海原「一方通行さん超ガン見ですね。いっそ音読してくれないでしょうか」

17600「あーこれは無理だろ。なんかもう熟読の域に達してるわー、とミサカは師匠の願望を打ち砕きます」


一方通行(所々手直しされてやがる)

御坂「どう? 私はけっこういいかなって思ったんだけど」

一方通行「あァ? イイのかこンなンで」

麦野「こんなん、って失礼ね。それなりにいい出来でしょうが」

一方通行(……で、俺が書いたっつゥコトはバラさねェと。なかなかやるじゃねェか)
麦野(バラしたらいろいろ面倒くさいんだよ、あんたの歌詞)

御坂「ただ、強いて言えば、なんとなく……」

一方通行「なンとなく?」

御坂「読んでたら、あんたが打ち止めに対して抱いてる思いってこれかなあ、とか思っちゃって。気のせいよねー」

麦野「気のせいね。私はさっき適当に書いたから。イッツーとか知ったこっちゃないわ」
一方通行「気のせいだなァ。俺はシズリが書いている横で自主練してたしィ」

垣根「そんなん言って、お前らほんとはびょるぶっ! 足退けろクソギー!」

削板「なんかよくわかんねえが踏んづける場面だと思った。あとオレがクソならお前はバカだな!」

一方通行「バカとクソでイイじゃねェか。で? コレは採用ってコトか」

御坂「そうねー、シズリはバラードっぽい感じって言ってたけど、こういうのけっこう好きかも」

垣根「とりあえずさ、その歌詞ちゃんと発表しろよ。このクソはまだ見てねえし……、な?」チラッ


17600「! 師匠、どうやら垣根さんは監視カメラに気づいている様子です、とミサカはあからさまにこちらへ視線を寄越した第二位に畏怖します」

海原「チャラく見えても暗部組織の元リーダー……侮れませんね」

土御門「まあ、この流れはどうやら音読になりそうだし、まだ出て行く必要はないぜい」

海原「御坂さんの言い様だと、かなり偏った歌詞みたいですけど。一方通行さんが書いたのなら納得ですね」

17600「お姉様を陰から守ると嘯いてダークナイト気取ったり義妹みたいな褐色美少女におにいちゃん呼びさせてる師匠はきわどい歌詞を書きそうですね、とミサカは」

海原「おいコラ弟子明らかに今自分をバカにしてませんか」

一方通行(今、きっとこの部屋はツチピーどもに監視されてンだろォな……そンな感じの視線のやり方だった)

麦野「えーっと、でもこれ音読だけじゃ分かりづらいとこあるんだよね。ちょうどここになぜかあるホワイトボードに書こうかしら」

削板「なんで病院の普通の病室にホワイトボードがあるんだ?」


土御門「それは備えあれば憂いなしってやつだにゃー」

海原「でも、これで歌詞が見られますね。おっと……書き始めたようですよ」

17600「心なしか少し大きめの字で書いているような、とミサカは第四位も監視カメラに気づいている可能性を指摘します」


麦野「ふっふっふーん♪」キュッキュ

垣根「……俺ちょっと考えてたんだけどな。CD出すってことは、PV必要なんじゃねえの、と」

一方通行「ピーブイ?」

御坂「プロモーションビデオ——要するに、宣伝映像ってとこよ。ほら、オリコンとかで流れる映像」

削板「オレはてっきりポケモンのイーブイを間違えて言ったのかと思った。あいつ根性あるよな」

垣根「なんで俺らのCDにイーブイが必要なんだよおかしいだろうが」

一方通行「あー、そのPVはどォすンだ? 作ンのか?」

麦野「ツチピーが何も言ってなかったからね。とはいえ、ジャケット撮影のときに作るんじゃないかとは思ってるんだけど」キュッキュキュ

御坂「あれって一日で撮り終えられるものなのかしら。ちょっと時間が足りないような気もしてくるわねー」

垣根「PVの内容にもよるんじゃねえのか。まあ、普通にバンドのPVを撮るなら俺が一番多く映るだろうし、さっさと終わらせてオーケー出してやるよ」

削板「えっ? こういうのは根性あるやつが一番多く映るだろ。カッキーはちょっと……出直してこいよ」ハハッ

垣根「それどういう意味ですかクソギーくんなんですかその笑い」

麦野「クソバカうっせえよ、どっちも映らないPVでいいじゃない」キュキュキュー

一方通行「しゃァねェな。肌の白さで顔吹っ飛ばねェよォに気をつけねェと」

御坂「なにそのプリクラ撮るときの女子高生みたいな言い分!」


海原「だそうですけど。どうなんです、プロデューサー」

土御門「正直考えてなかった……アレイスターもそこまで言ってなかったしな」

17600「その気になればエキストラでざっと千人は集められますけど、とミサカはとりあえず学園都市付近の妹達の収集を打診しかけます」

麦野「ま、そこらへんはツチピーがなんとかしてくれるでしょ、ってね。はい終わり」キュッキュ

一方通行「……字ィでかくねェか」

麦野「気のせいよ、気のせい」

垣根(ほんとは一方通行が書いたんだぜーとか言いてえけど言ったら多分ボッコボコなんだろうな)

削板「なんていうか、落ち着いた感じの歌詞なんだな。騒げなさそうだ」

麦野「そりゃ、バラードっぽいの目指したからね」


17600「……むう、とミサカは歌詞の露骨さにビビりつつ書き写す作業に入ります」カキカキ

海原「おや、書き写してどうするんですか」

17600「もちろん一方通行語にうまく翻訳して上位個体に教えてあげるんですよ、とミサカは我ながらナイスアイディアだなあとにやにや……」


≪暑い夏のあの日 僕のすべてが変わった
 何かを壊すだけの手は 何かを守ることが出来ると知った
 闇の中でもがいていた僕に ためらいなく手を差し伸べた君
 今でもまだ覚えてる 君は最初から僕を見つけてくれた

 君はlight あんまり眩しすぎるから
 きらきら笑う君の隣には まだいられないよ
 だけどその笑顔 ちゃんと僕が守るから
 君はただずっと 笑っていて

 ひと回り小さい君の手が 痩せて骨ばってる僕の手を
 ためらいなく ぎゅっと捕まえて握り締める
 「こうすれば迷子にならないよ」
 それはこっちの台詞と 一笑したっけ

 君はright いつだって正しかった
 迷子になった僕の隣 もう君はいないけど
 君の右隣を いつか歩くときは
 そのやさしい手を 繋いでほしい

 君は正しい僕の光 闇に差し込む一筋の光
 ずっと守るよ だから 笑っていて≫


17600「……これどうやって一方通行語に直せばいいんだおい、とミサカはけっこう手直しが加えられていることに憤りを覚えます」

土御門「とりあえず僕を俺、君をオマエにするだけで違うんじゃないか」

海原「これ本人に知られたら即死ですね。顔から火が出るレベルの恥ずかしさを伴いますよ」

一方通行「……まァ、なンだ。その」

垣根「?」

一方通行「PV云々よりも先に、まずは一遍合わせてみねェとどォしよォもねェだろ」

御坂「たしかにね。セッションしないことにはPVも何も、CD化すらできないでしょ」

麦野「っていうか、私はキーボードの代わりにピアノがあったからいいけど……あんたら楽器あるの?」

削板「ない。まったくない」

垣根「だめじゃねえか。どうすんだよ」


土御門「んーっ、と。そろそろ行くか、合同練習の流れになっているようだし」

海原「何か策があるんですか? 楽器のない状態で何をするつもりです」

土御門「策なんてないさ。そもそも、あいつらだって自分の楽器を調達しているのかどうか怪しいからな」スタスタ

17600「じゃあ買いに行くんですか!? とミサカは買い物の予感に胸をときめかせ後を追いますが」スタスタ

土御門「金はアレイスターからもらってる。かと言って、あいつら総出で買い物に行っている時間はない……ここはアレだ」スタスタ

海原「アレ?」スタスタ

土御門「カタログを準備している。こんなときのマネージャーだろう……ふたりとも」

17600「えっ」
海原「はっ」

土御門「適当に楽器選ばせてそのご希望に沿ったものをお前らで調達してくるんだにゃー。まあドラムとか重いだろうけど頑張れ」ポン

海原「いやポンじゃなくて。肩たたいてポンじゃなくて。え? なんですかそれ? それなんてパシリ?」

土御門「マネージャーはイコールでパシリだぜい? がーんばーってー」ダッ

17600「……まあミサカは女性スタッフとしてこの場に残る必要がありますし、とミサカは我先に駆け出します!」ダッ

海原「はい? いや、だから、待てやコラァァァァアアアアアア!!!!! そういう抜け駆けはよくないって教えませんでしたか!?」ダダッ


麦野「そして足音である」

一方通行「だなァ。そォいや、オマエら自分の楽器もねェの?」

垣根「俺はあるにはあるけど……でも満足できねえってか、ちょっと使ってたやつだからあんま馴染んでねえっていうか」

御坂「私とイッツーは一応あるわよね。前に楽器店で鉢合わせしたし」

削板「オレなんてコーチに『お前はまだ太鼓で十分だ。ていうかボディパーカッションで十分だ、自分の太ももを太鼓に見立てるんだにゃー』とか言われたぞ」

垣根「テメェがすっげー初心者扱いされてんのはわかった。で、まあおそらく——」

ギーバタンッ

土御門「話し合いは済んだみたいだな」

麦野「きた……」

一方通行「あァ、一応な。ンで、今は楽器がねェっつゥ話をしてンだがよ」

17600「そんなことだろうと思ってこれ、とミサカは分厚いカタログを手渡します」

御坂「重っ! なにこのカタロ、……楽器?」

海原「ええ。皆さん楽器をお持ちの方もそうでない方もいらっしゃるようですが、ここはまとめて購入するという方針で固めました」

一方通行「買った意味ねェじゃねェかよ! そォいうンはもっと早く言え!」

垣根「ハハッ、ざまあ」

麦野「ん? これって、もしかして楽器に文字入れたりできるサービスがついてるの?」

土御門「よくぞ気がついてくれた。つまり、今ここで購入する楽器は、お前らのライブ時にも使う、大切な一品になるってことだ」

御坂「でも、普通楽器は複数持ってるわよね」

17600「まあそこらへんは個人の自由でおkですんで、とミサカは説明をめんどくさがります」

削板「っつーことはあれか! オレのドラムに名前が! 入れられると! そういうアレか!」

土御門「ああ、だがお前は自分の名前を入れるんじゃない。——バンド名、『LEVEL5』と入れるんだ」

垣根「おー、ライブっぽいな。すげえアレっぽい。そういえばさ、バンド名のロゴとか考えてんの?」

海原「まだそこまで考えてませんが……なんなら自分がアステカチックに書いてみましょうか」

一方通行「なンでここでアステカチックに書かなきゃなンねェンだよボケ」

海原「ちっ」

一方通行「露骨に舌打ちすンな、っつゥか今の舌打ちじゃねェだろ口で言ってたろクソが」

海原「……一方通行さんのベースだけ思いっきりロリコン仕様にしておきますね。いえいえ感謝の言葉なんていりませんよ」

一方通行「なァツチピー、マネージャーチェンジで」

御坂「ライブでも使う、かあ……なんかほんとにバンドねえ」

垣根「あん? まだお前迷ってたわけ? いいんだぜ、とっととやめちまっても」

御坂「やめないわよ。私は学園都市第三位の超能力者、御坂美琴——最強の電撃使いである私が、やめるわけないでしょ!」

麦野「なんかそれいまいち理由になってないわよね。どうでもいいけど」

一方通行「それより、楽器もそォだが曲はどこで収録するンですかァ?」

17600「この病院ですよ、とミサカは簡潔に答えます。この病院は一見ただの廃病院ですが、実は奥の棟が少し改築されているんです、とミサカは追加説明をします」

垣根「改築?」

 どういうことだ、と超能力者達が一様に首を傾げる中で、削板軍覇だけは何か思い当たる節があったのか、目を瞬かせている。
 土御門が不思議そうに彼を見つめると、削板は少しの間迷った末、口を開いた。

「イッツーには言ったんだが、オレは午前中ずっとヨシピーと一緒にいたんだ」

 ヨシピーって誰だよ。そんな野次が垣根から飛んだ。削板は続ける。

「ヨシピーは向こうのプロデューサーで、まあ、なんだっけ……この病院を先に使うのは向こうだったらしい」

「……、向こう」

 土御門が考え込むような仕草で腕を組む。一方通行はようやく『似たようなこと』が一体どんなことであるのかを察した。
 つまり、どういうメンバーかはわからないが、芳川桔梗は土御門元春と同じことをしているのだ。
 土御門が一方通行ら超能力者にアンドを組ませているように、彼女もどこかの誰かをデビューさせようとしている。

「それで、なんでもヨシピーはこの病院をスタジオとして使えるようにしていたらしいんだが……まあオレ達が使っちまったし、他の場所で練習してるよ」

 午前中、削板軍覇と行動を共にしていた人間を、土御門は二人知っている。
 『グループ』の結標淡希、友人である上条当麻。結標のほうはともかく、上条が関わっているとなると、どうにも厄介だ。
 補完なんとか——と削板が言っていたことを思い出し、一方通行は推理をすすめる。

(俺達のバンドはたしか最終計画っつゥ野暮ってェ名前がついていたはずだ——その補完として芳川が動いているとなれば、向こうの陣営にも相応の能力者は存在する。
 相応ってのは……この場合、超能力者に最も近い、大能力者!)

 音楽を奏でることにおいて能力者のレベルはたいした問題にならないが、ここでレベルを考慮してしまうのは、彼が他ならぬ学園都市最強だからである。
 芳川は一筋縄ではいかない人間だ。まして、彼女がプロデュースするともなれば、その学生でさえ一癖も二癖もある連中だと思って間違いはない。

「どォもキナ臭ェな。楽勝だと思っちゃいたが、存外易々とオリコン第一位は獲らせてもらえねェらしい」

 一方通行の発した呟きに、バンド『LEVEL5』のメンバーはこくりと頷きあった。
 え、オリコン第一位狙ってんの? とプロデューサーである土御門が心中で驚いたことは内緒である。


第四回(合宿)、第二日目昼の部・終了


 ————

 少女はやわらかに微笑み、小さな手を少年に差し伸べる。
 少年は、信じられないものを見るかのように、その目を見開いた。
 さあっと風が吹く。少年と少女はただ、その風に髪を揺らせていた。

 少年は立ち上がり、その手を取り、強く握り締める。言葉なんていらなかった。
 ただ、そこに彼女がいて、彼がいて、その事実だけで、世界は完結する。

 少年は歩く。少女の隣を歩く。
 身長差があるふたりは、少女の歩くペースで進んでいく。
 少年は少女に合わせている。
 少女の頭部の花が、今日は控えめだった。

 はじめて会ったあの日、彼女は真っ直ぐな黒い瞳を少年に向け、真っ向から彼に対抗した。
 懐かしいな、と少年は笑い、茶色い髪を一層揺らし——


「だからなンでオマエだボケ!」

 ズビシ、と少年……垣根の頭に華麗なショップが決まった。


合宿三日目、午後三時、廃病院中庭

一方通行「オマエアレだろバカだろバカなンだろ! 意味がわからない! なンでオマエがラブストーリーじみた演出してンだよ!」

垣根「いいだろべつに! こういうPVはイケメンボーカルが主人公になってゲストと絡むって相場が決まってんだから!」

御坂「初春さんもごめんね、変なことに巻き込んじゃって……」

初春「あ、いいえ。ちょうど風紀委員の仕事でちょっとこちらに用事があっただけですし」

麦野「ほんとあのバカの茶番に付き合ってくれてありがとね。もう帰っていいわよ」

初春「え? あの、でも」

土御門「とりあえずこのPVはだめだな。撮り直しだ、気持ち悪い」

海原「えー、せっかく頑張ってカメラを回し続けたのに自分の努力をブチ壊すんですか」

17600「いやでもこのPVほんとどこの三流だよってレベルですね、とミサカは脚本が間違っていたことを指摘します」

削板「……、……」パンパンタカタンッ

一方通行「ンでこっちのクソはナニしてンだ」

土御門「ボディパ中だ。さっきの合わせで自分だけミスしまくってたから凹んでるらしい」

垣根「だっせー」

麦野「てめえのバカメルヘンっぷりのほうがだせえよバカ」

初春「帰りたいのは山々なんですけど、あのう」

御坂「ん? どしたの」

初春「まだ料金を頂いていないので」

海原「……、……はい?」

初春「ですから、ええっと私、さっき外歩いてるときにそこの、バカ……垣根さんに捕まえられたんですよね。金出すから相手してくれって」

一方通行「……オマエ和解したンじゃなかったのかよ、この花飾りと」

初春「和解? それはちょっと無理ですね、だって私殺されかけましたから」ブチブチッベシッ

御坂「ちょっ、なんでいきなり頭のお花ブチ抜いて……って投げた! カッキーに投げた!」

垣根「いって! わかった、悪かった殺しかけてすみませんでした今お金払うんで、ってハチ!? ハチが頭上旋回してんだけどこれ!」ブゥゥウン

初春「ああそれスズメバチですから大丈夫ですよ」

御坂「何が大丈夫!? っていうか初春さんちょっと落ち着いて目が据わってるわよ!」

初春「ちくしょーこっちは金くれるっつーから仕方なく相手してやったのに金よこせよ天使の羽根(笑)」ブツブツ

麦野「なんかよくわかんないけど、とりあえず金渡してやりなよ。スズメバチと戯れてないで」

垣根「戯れてねえ! ちがう、このハチすげえブンブンいってる! 怖い! そこの白い人助けて!」ブゥゥゥゥンブゥゥウウウン

一方通行「ドラムっつゥのはボディパだけじゃだめだろォが。俺が付き添ってやっからもう一度叩いてみろよ」

削板「イッツー……! ありがとうな、じゃあ今からオレ練習するから! イッツーもベースの練習しようぜ!」スタスタ

一方通行「おォ。もォ少しリズム落とさねェよォにしねェとな」カツカツ

垣根「!? ……、……」ジー

土御門「まったく聞いてないな。っていうかオレを見ないでくれるか、オレもハチは好きじゃない」

垣根「……シズリちゃん」

麦野「ブチ殺すぞ」

垣根「いやいっそブチ殺してほしいんだがその前にあの、ベッドの上から俺の財布取ってきてくんねえかな……」

初春「いいから金よこせよ。なんで殺されそうになった相手と和やかにカメラの前で笑顔つくったと思ってんだ、金のためだよ」ブツブツ

御坂「初春さんが……怖い……」ガタガタ

17600「ていうかお姉様ならあのハチ撃ち落とせるんじゃねえの? とミサカは恐怖に震えているお姉様に教えてあげますが聞いちゃいねえ」

数分後

初春「とまあ、私はいつも巻き込まれるほうなので慣れているんですが……みなさん、いったいどんな集まりなんですか?」

御坂「初春さんが戻った……」

麦野「どんなって言うと難しいわね。ここにいるのが全員超能力者っていうのは理解できてるかしら」

初春「まあ、威圧感半端ないですからね。なんとなくそんな気はしてました」

麦野「そう。じゃあ……これ以上は聞かないで」

初春「? なにか怪しい実験でもしているんですか?」

土御門「いんや全然。あと数日で全部明るみに出る、だが今は言えない。言いたくても言えないんだにゃー」

海原「正確に表現するなら、言おうとしても完成していないから言いようがない、ですね」

初春「完成していない、……? そういえばさっきベースとかボディパとか言ってましたね。もしかしてバンドでも組んでいるんですか?」

17600「おやおやこの花飾り、お花が咲いているのは外見上だけみたいですね、とミサカは彼女を見直してあげます」

垣根「ていうか、普通バンドに直結しなくねえ? 初春ちゃん、風紀委員だっけか」

初春「気軽にちゃん付けしないでくれますかそこの人」

垣根「金渡したのにこの冷ややかな眼差し!」

初春「申し訳ありませんが、私はあなたとは違って忘れるなんてできませんし、許すつもりだってないんですよ」

麦野「おーおー、女泣かせじゃねえのバカ」

御坂「えっと、初春さんとカッキーはどんな知り合いなの? やけに険悪そうだけど」

垣根「えー、喋るのめんどくせーし、ていうかあれ、俺の負け戦だしって前も言ったな」

初春「簡単に言うとそこの人が私を殺そうとして白い人が助けてくれました、以上です」

土御門「そこだけ聞くとイッツーがヒーローみたいだぜい……」

17600「まあそのあと暴走して幼女に止められてるんですけどね、とミサカはしょーもねーヒーローだなと一方通行をpgrしますが」

麦野「ま、とりあえず口外はしないでほしいわね。まだ曲も完成してないし、PVなんか撮ってる場合でもないってのに」

垣根「はいすみません」

御坂「そういえばさ、初春さんはなんてこんな学区にいたの? 普通なら用事はないと思うんだけど」

初春「えーと、それはですねー、御坂さんはかれこれ数日寮の方に戻ってませんよね」

御坂「ん、そうなるかも。合宿中だし、……まさか黒子がなんか迷惑かけちゃったとか!?」

初春「いえいえ、そうじゃないんです。むしろ、白井さんも今ちょっと留守にしてて、私は白井さんに用事があってこの学区に来たんですよ」

土御門「!!! ということは、その、白井というジャッジメントはこの学区にいると」

初春「はい。最初はこの廃病院にいるって聞いてたんですけど、いなかったので……御坂さんが知っていればなあって思ってたんですけど、知らないみたいですね」

御坂「ていうかまず黒子がこの学区にいることさえ今知ったわよ。なにしてんのかしら、あの子」

初春「……、……」

垣根「あのさあ、これは個人的な見解で、昨日ヨシピー云々ってクソと白いのが言ってたことからの推測なんだが」

麦野「前置きはいいから言うなら言えバカ」

垣根「その、初春ちゃんが用事あるっていう白井さんは、ソギーが言ってたヨシピーと行動を共にしてんじゃねえのか」

御坂「!? どういうことよ」

垣根「最初この廃病院を使うはずだったのは、ソギーが言うには向こうのヨシピー達だったらしいじゃねえか。そんで、初春ちゃんの知り合いもここにいるはずだった」

土御門「まあ、この寂れた学区でこの廃病院をチョイスすること自体が奇跡の確率だな。一緒に行動しているとしても何らおかしくはないが」

初春「……、……」

麦野「沈黙、っていうのは大方肯定なのよね。この場合も認めてるってことでいいかにゃーん?」

御坂「黒子がヨシピーと一緒にいる、ってどういうことよ。そもそもヨシピーって誰よ」

垣根「さあな。俺も会ったことねーしわかんねえけど、昨日の一方通行の様子から考えるに——めんどくさい相手なんだろうな」

17600「めんどくさいっつーかめんどくさがりですよ、とミサカはさりげなく彼女を知るものとして名乗りを上げます」

海原「おや、あなたが知っているということは研究者ですか」

土御門「研究者……なるほど、だったらイッツーが知り合いのような反応をしていたのも頷ける。だがなぜ、研究者がこの場面で出てくるんだ?」

初春「白井さんは、『何か起きたらわたくしに知らせにくるんですのよ。十九学区の廃病院にいますわ』って言って数日前から支部に顔を出していないんです」

御坂「十九学区の廃病院、ってやっぱりここよね」

初春「はい。そこの人の意見は概ね合ってますね、特に訂正する必要がないほどです」

垣根「ってことはだ。初春ちゃんはその白井さんが関わっていることが何だか知っている——だから俺らがバンドを組んでいると即座に見抜いた。違うか?」

初春「ちょっと違いますね。私は白井さんが『何をしているのか』詳しいことは何一つ聞かされていませんから。でも、バンドの件は簡単にわかりましたよ」

麦野「一見してわかるもんかな。あんたは今バカに捕まってちょっとカメラの前で演技をしただけ、その間ウチらはバンドらしいことなんて何もしてないけど?」

初春(まさか数週間前に御坂さんがギターについて調べていたのを知っているだなんて言えない)

土御門「まあ、細かいことはさておき。その白井という風紀委員のレベルは?」

御坂「大能力者よ。ちなみに空間移動の」

土御門「! 結標しかり、白井という生徒しかり……厄介だな」

海原「厄介ですかね? 向こうがどういう戦略で売り出してくるかはわかりませんが、こちらには御坂さんという究極の広告塔がいるんですよ! 最高のアイドルですよ!」

御坂「一応本人いるからそんなに勢い込んで主張しないでくれるかしら……あとアイドルじゃないし」

麦野「あんたは普通のアイドルならともかく、グラビアには向いてないわよねえ」ニヤニヤ

17600「それはちょっと聞き捨てなりません、とミサカは全世界の貧乳を代表して胸を張り、一部には大受けであることをアピールします!」

垣根「まあないよりはあったほうがいいけど、俺は正直胸よりくびれだな、くびれ。それもあんまり締まりすぎてる感じじゃなくて、こう、エロい感じの」

初春「うわあ」

垣根「心配するな。中学生のくびれにエロスを感じる俺じゃねえ」キリッ

土御門「そろそろ話を戻すが、昨日のイッツーの話を覚えてるか?」

御坂「ええ、補完計画の話でしょ? 覚えてるわよ——黒子は、私達が途中で潰れたときの保険ってことなんじゃないの?」

土御門「おそらく、アレイスターならそう考えているだろうが……厄介なのは、向こうの選定基準が曖昧であることだよ。
    オレ達の場合は超能力者のみが集められているものの、向こうはどんな人材が集っているのかわからない」

垣根「んな、デビューする前から他の連中のことなんざ考えたってしょうがねえよ。俺の歌詞はメジャーで通用するに決まってる」

麦野「私はてめえの自信がどこからくるのか一度真剣に調べてみたいんだけど」

海原「人材……ですか。少なくとも、結標さんと白井さんは女性ですね。こちらと同じように」

17600「つっても、向こうがバンドとは限らないわけですけどー、とミサカは何か知っていそうな花飾りの少女に視線を向けます」

初春「……、……」

御坂「あ、結局初春さんの用事って何なんだっけ?」

初春「……ちょっと言えないですね。白井さんに叱られるかもしれませんし」

垣根「へー、つまりそういう話な訳?」

初春「ご想像にお任せしますよ」タッ

御坂「ま、言いたくないならいっか。黒子によろしく言っておいてね、他人に迷惑かけるんじゃないわよって」

初春「わかりました。では、皆さん頑張ってくださいね」ペコ スタスタスタ ウィーン

海原「……においますね」

土御門「放屁するならすると言ってくれ、トイレにぶち込むから」

海原「違いますよ! 御坂さんの前ではしません! あと御坂さんもしないって自分は信じてます!」

麦野「あんた随分好かれてんのね、一昔前のアイドルかよ」

御坂「わかってる……わかってるから言わないで。ああいうとこ以外は普通にいい人だから、多分」

17600「つーかお姉様だって人間なんだから放屁もするし放尿もするし脱糞だってしますよ、とミサカはいまいち現実が見えてない師匠の目を覚ましてみます」

垣根「そうそう、そのうち自慰だって覚えてセックスだってす」

海原「黙れホスト剥ぎますよ」

垣根「何を!?」

土御門「しかしまあ、厄介極まりないことは事実だな。向こうの面子が面子だにゃー」

御坂「面子、って、他に誰か知ってるの? 黒子とあの結標さんだけじゃなくて?」

土御門「……これを言ったらミコトのやる気がなくなってしまうかもしれないからな。今はまだ言わないでおこう」

麦野「ふーん。じゃあさ、私には教えてくれたっていいんじゃない?」

御坂「なんでそうなるの。っていうか私に教えたらやる気がなくなるような相手って誰よ!」

海原「……、……」
17600「……、……」

御坂「なっ、なんで黙るのよ!?」

垣根「いやー、あれだな。この反応で大体の予想はついちまうわけだが」

麦野「あー、あれねー。たしかに向こうにいたらやる気なくなるっつーか、むしろあっち応援したくなるかもね」

御坂「だからなんなの、誰なのってば!」

17600「ていうか確定したわけじゃないんで、とミサカは荒ぶるお姉様を体裁上はなだめますが」

垣根「にしてもよ。根性馬鹿とクソモヤシは随分仲良くなったらしいじゃねえか」

麦野「あんた置いてけぼりよね。同性にまで嫌われてるとか」

垣根「ふっ……あいつら俺のイケメンっぷりに嫉妬してるのか、可愛いやつらめ」

土御門「まあ、バンドメンバーが仲良くなるに越したことはないからな。もともと一方通行はああ見えて熱いノリが嫌いじゃない」

海原「つーか結構熱いですもんね。垣根さんがついていけないのも無理ありませんよ」

垣根「いやべつに俺ついていけてねえわけじゃねえし。ってかさあ、夜寝るとき全員同じ部屋で寝るのやめねえ?」

17600「おや、どうしてでしょうとミサカは首を傾げます。女性であるふたりが言うのならともかく、普通年頃の男性ならば女性と同じ部屋で眠るのは僥倖では?」

垣根「……どっちも化け物じゃねえか」

麦野「な、ん、か、い、っ、た、?」

垣根「いえいえ、何でもありませんよお嬢さん。んでさ、女の子と眠るとかそういうのはまあ好きなんだけど」

土御門「とりあえずリア充マジ爆発しろにゃー」

垣根「うっせーな話進めさせろよ! だから! 俺を個室で寝かせろっつってんだよ!」

海原「理由をお聞かせ願いたいものですね。こちらにも事情がありますし」

垣根「あ? 話の流れで察しろよ。さっきまであの根性モヤシの話してたろうが、だったらそいつらが理由って考えられねえ訳?」

17600「このホスト崩れはなんでこう喧嘩腰になるんですか、とミサカは半眼になりつつため息です」

土御門「あのふたりが原因……? ソギーはともかく、イッツーは寝ている間は人畜無害だと思うが」

御坂「ああ、それ聞いたわ。打ち止めが『あの人の寝顔は天使みたいなんだよ』って言ってたの」

麦野「たしかにまあ……顔は整ってるわよねえ。それ言ったら私ら一応美形な方だと思ってるけど」

17600「うわあ自分で言っちゃった、とミサカはつっこみますが内心悪い気はしてません」ニヤニヤ

海原「ものすごく嬉しそうですね。一方通行さんが天使の寝顔かどうかはともかく、眠っているときは静かですよ?」

垣根「……、……だと思うだろ?」

麦野「なーに、その意味深なフリは。いいからさっさと言えよ、いつふたりが練習に飽きるかわかんないわよ」

御坂「ああ、そういえばまだ練習してるんだっけ。私も練習しなきゃ」

垣根「うんまあ練習もわかるけどいいから話聞け」

垣根「そもそも、発端は昨日の晩の卓球だと思うんだよな」

土御門「オレがお前らの親睦を深めさせてやろうと画策した卓球大会に何かご不満でも」

垣根「いや、卓球大会自体はどうだってよかったんだ。ただ——」


遡って二日目、午後八時

海原『ぴんぽんぱんぽーん。えー、夕食である幕の内弁当を食べ終えた皆さんにお知らせです。今から卓球大会を執り行いたいと思います』

一方通行『オイ待て今口でぴンぽンぱンぽン言わなかったか』

海原『ルールは簡単です。つまり卓球、テーボォテネス!』

垣根『アステカの発音マジ怖え』

土御門『一応曲はできているし、各自で練習はしている。だが、団結力がなければいいバンドにはなれないだろう。だからこそ、卓球だ』

麦野『相変わらず脈絡ってもんがゼロね。で、卓球台とラケット、ピンポン玉はあるの?』

ガラガラガラ

17600『ミサカをなめないでいただきたい、とミサカは威風堂々と卓球セットを運んできました』

削板『威風堂々と運んでいるわけでもなくだるそうなんだが』

17600『仕様です、デフォなんですとミサカは無表情のうちに潜む激情をアピールしてみますが』

御坂『わかんないわよ……まあ、卓球なら負けないわ。シングルス? ダブルス?』

土御門『ダブルスだ。ここにオレと海原と17600号の使用済み割り箸がある。記号を振っておくから同じ記号を引いた人間と組んでくれ』

一方通行『……もォちっとマシなクジはねェのか。汚ェンだよ』

海原『時代はエコですよ、エコ。ちなみに御坂さん、自分の箸は上の部分がちょっと割るときにうまくいかなくて偏ってますから』

御坂『ええわかったわ。選ばないようにする』

海原『……、……』

17600『わかってたことでしょ師匠、とミサカは肩に手を置き慰めます』

垣根『とりあえずその割り箸洗ってきてくんね? 17600号のは洗わなくてもいいけど』

削板『男卑女尊はよくないぞカッキー。ここは正々堂々、誰の使用済み割り箸を引いても笑って流すのが根性ある男ってもんだ』

麦野『あーもうアミダクジでもなんでもいいじゃない。割り箸ってそんな……』

土御門『いいから早く引け。……あ、それから、ひとりだけシングルスになるけどそいつはまあ、ドンマイってことで』

垣根『なにそれひっでえ! まあ、俺はぜったいならねえけどな』

全員(あー今これフラグ立ったな)

……

海原『全員引き終えたようですね。では、早速組み分けといき、……垣根さん?』

垣根『うっせーな俺はどうせ無印だったよ俺はシンプルな男なんだお前らと組むまでもなく圧勝してやるよ』

一方通行『ほォ……だ、そォだが。どォするクソギー』

削板『ああ、根性で叩きのめしてやろうじゃねえか!』

御坂『あら、こっちだって負ける気はしないわよ。ねえ、シズリ!』

麦野『卓球ごときで熱くなるのは好きじゃないんだけどさあ……潰していいってんなら、全力で行くしかないわよね』

垣根『えっちょっと君達挑発に弱すぎじゃないですか。しかもなんで綺麗に男女にわかれたんですか』

17600『そりゃそういう集団ですし、とミサカは孤立無援四面楚歌な第二位をプークスクス』

土御門『うーん、じゃあまずは女子対男子ってことでいいか。カッキーはシードで』

一方通行『待った。俺は勿論女にゃ負けねェが、あのバカを優遇するのは納得がいかねェ』

麦野『お? ウチらもそっちの男には負けないけど、バカをシードにするのは納得できないね』

垣根『おいおいやめろよなんだよこの三角関係……お前らどんだけツンデレで俺のこと大好きなんだよ』

御坂『カッキーの脳ってすごいポジティブよねえ。黒子並みだわ』

海原『では、こうしましょう。とりあえず全員戦う』

削板『うん! 分かりやすくていいな、初戦はオレらとカッキーでどうだ?』

土御門『ま、どうでもいいんだがな。はいじゃあとっとと準備、ラケットはこれだ』

垣根『……上等じゃねえか。ラケット? んなもんこの俺には必要ねえよ!』

ファサバサッ

御坂『!? 背中から未元物質を出し!』

ブッチィ!!!

一方通行『躊躇なく羽根を引き抜いた、だァ!?』

垣根『ふは、あははははっ!!! 何驚いた面してやがる、俺の能力は「この世界に存在しないもの」だぞ?』

麦野『いや、言いたいことはわからなくもないけど行動の意味がわかんねーよ』

削板『ていうかさっき羽根引っこ抜いたときちょっと痛そうだったんだが大丈夫なのか』

垣根『心配するな。ちょっとだけ痛かったけどちょっとだけだ』

一方通行『痛かったンじゃねェか。すげェ音したもンなァ』ニヤニヤ

海原『で、ラケットを持たずにその羽根を握っている真意は?』

垣根『この羽根は今デフォルトで反射設定にしてある……つまり、ラケットなんざ使わなくても自動的に打ち返せるってわけだ』

御坂『卑怯極まりない!』

麦野『傍目からするとメルヘンなだけでバカにしか見えないわよ』

土御門『反射、か。自信満々に解説してしまう癖を直したほうがいいぞ、カッキー』

垣根『は? っていうか、——あ』

一方通行『……、……ぎゃはっ! そォかいそォかい、だったら俺も素手で戦ってやっかなァ!』カチリ

垣根『しまった』

削板『イッツーが能力使用モード、反射状態の素手で戦うというなら……残ってるラケットは俺が使わせてもらう!』

17600『まさかの両手持ちかよ! とミサカはなんかもう羽根やら素手やらラケットふたつやら正気じゃねーなおい、とつっこまざるを得ません』

麦野(原子崩しは卓球に向いてないし……うーん)

御坂(なんかいまシズリが対抗策を講じている気がする……)チラッ

土御門『自分の能力に頼ること自体は悪くない。よし、ゲームスタート!』


五分後

海原『いやあ、あっさり決まりましたね』

垣根『ぜえ、はあ、ぜえ……だってあいつら妙に息合ってるから……』

一方通行『つゥか羽根を反射設定にした時点で、オマエは勝てるルートを失ってンだろォが』

垣根『んだよ、勝者の余裕か? 勝者の情けか? ああ?』

麦野『バカねえ。卓球で球を反射したって、同じところにしか返らないでしょ。シングルスならまだ勝負はわかんないけど、ダブルスなんだからさ』

垣根『俺だって好きでシングルスやってんじゃねーよ! 運がなかったんだよ!』

削板『こっちは簡単だったぞ。カッキーが反射させて返してくるならイッツーが対応して、あとはオレが決めればいいだけだったからな』

御坂『たしかに一方的な試合だったわね。素手で球打ち返してるのも羽根で打ってるのもシュールだったけど』

一方通行『そォ言うオマエらはなンでピンポン球溶かして中に磁石詰め込ンでンですかァ?』

麦野『あんたらに対して講じた策よ。このままじゃ勝てないかもしれないからね』

垣根『なんだこいつらはなっから俺のこと眼中にねえ!』

海原『ドンマイ(笑)ですよ』

垣根『うわあなにこの笑いをこらえてるけどこらえきれてなくて吹き出す寸前みたいな腹立つ表情……』





垣根「ということがあっただろ」

麦野「ああ、あの後一応あんたと戦ったけど余裕でフルボッコだったっけ」

垣根「あれはフルボッコというよりフェミニストな俺がわざと負けてやったようなことがまあ無きにしも非ずだけどな」

17600「ほんと口が達者ですねとミサカはフェミニストを笑いつつ、それがどうして部屋を個室にする要求につながるのかと不思議がります」

垣根「まあ、あれくらいのハブられっぷりだったら俺の心がすさんでいくのも分かっていただけるかと思う」

海原「だから個室っていうのはちょっと……監視するほうも楽じゃないので」

御坂「監視?」

海原「いえなんでもありません」キリッ

麦野「あんた知らなかったの? この病院は全部屋監視されてるって」

御坂「とっ、トイレも!? お風呂も!?」

17600「さすがにそこらへんはしてないと思います、とミサカは監視担当の師匠に視線を向けてみます」

海原「してませんよ。そんなシーンまで監視したら自分が出血多量で死んでしまう可能性がありますから」

垣根「してないのはいいことだと思うが理由がアレだなお前……」

土御門「まあ、たしかに昨日はちょっと孤立させすぎたな。悪かった、リア充が憎かったわけじゃないんだが」ギロ

垣根「なにこのプロデューサー、サングラスの奥の目がすげえ怖い」

御坂「ま、まあこの話はここで打ち切るとして。昨日の一件で私達と一緒に寝るのが嫌になったとか、そういうことなの?」

垣根「あー、いや、そうじゃなくてな? ていうか一緒に寝るとか言われるとほら見て向こうのアステカさんが怖いだろ」

海原「……、……」

垣根(笑いもしねえ!)

麦野「ああ、イッツーとソギーが原因って言ったわね。夜何かあったのかしら」

土御門「目立った何かはなかったように思うんだが。ウホッとかアッーとかそういうのもなかったし」

垣根「あったら俺はガチで逃げんぞ!? そういう展開でもなくて、あーもうちょっともっかい回想!」

17600「メタ発言、ダメ、ゼッタイ、とミサカはここぞとばかりにつぶやいてみますがまあどうでもいいか」


遡って二日目、午後十一時

御坂『ふー、今日はけっこう楽しかったわね!』

麦野『曲もできたし演奏技術も身についてきてるし、いい感じじゃないかしら』

削板『オレはまだドラムを満足に叩けないけどな。明日には根性でどうにかしてみせるさ!』

一方通行『あァ、そォいや明日は一度合わせてみるンだったな。ソギーはまァ出来なくても仕方ねェが』

垣根『……、……』モゴモゴ

麦野『あいつ何で布団にもぐってんの? すげえうざいんだけど』

一方通行『思春期だろ。ほっとけ、拗ねてンだよアレ』

御坂『私達も思春期じゃない』

削板『そういえばそうだった』

アハハハハ

垣根(……卓球大会を終えてのこの仲良し具合! 気持ち悪っ!)

一方通行『……なァオイ。アレ、寝てると思うか』

麦野『どうだかね、……やる?』

御坂『!!! なんかこういうの修学旅行っぽい!』ワクワク

削板『おっ、何かするのか? 根性いるのか?』ワクワクワウワク

垣根(何しようとしてんのこいつら!)

一方通行『誰かペン持ってねェか、油性』

麦野『油wwwwww性wwwwwwwwww落ちなくなるじゃねえかwwwwwwwwwwwwwwwwww』

御坂『シズリ落ち着いて! 落ち着いて笑って!』

垣根(どんな宥め方だちくしょー!)

一方通行『どンな落書、……フェイスペイントを施してやるかが問題だな』

垣根(ははーん? つまりこいつら俺の顔に落書きする気か、そうかそうか)

垣根(ってバァァァアカ!!! 俺の未元物質に落書きは通用しねえ! だって自動防御が働いているから、ブワァァァァアアカ!!!!!)バタバタ

一方通行『……寝てねェな』

麦野『寝てない』

御坂『どうする?』

削板『こういうときは……』ムクッ

ツカツカガバッ

垣根『!?』

削板『引っぺがす! 悪い子はいねがあああああッ!!!!!』バッ

垣根『いきなり布団持ってくな!』

一方通行『おォ、拗ねてたクソガキが口きいた』

垣根『……あ』

麦野『あんたが無言だと気持ち悪いんだからさあ、思春期くらい脱しとけよ童貞』

垣根『いや思春期じゃねえしっつかまだ童貞ネタ引きずるんだなお前!』

御坂『ていうか私この布団いらないんだけど。はい、返す』バサッ

垣根『お、おお……』





垣根「よくいるよな、いじられるやつって」

海原「よくわかりませんが御坂さんから布団をいただいている時点でなんかもうむしゃくしゃする」

垣根「でまあ、その後は寝ただろ」

麦野「あー、眠かったしね。大体一時くらいには全員眠ってたんじゃないの」

垣根「俺も寝た。多分最後に寝たのは俺だと思う。でな」


三日目、午前二時

垣根(あー、やべ、中途半端に目え覚めた……)ウトウト

一方通行『……さァいーたァー』

垣根(!? えっ、何こいつ!)

一方通行『さァ、……いィたァー……』

垣根(ね、寝言か……)

一方通行『チュゥリップーのォ、……はァ、な……ンがっ』

垣根(んがっwwwwんがっておまwwwwwwwwwチョイス童謡wwwwwwwwwwwwwwwwww)

一方通行『すー……、らン、だァ……なァら……だァ……』

垣根(なーらんだー、なーらんだー、ってとこか)

一方通行『あァかー……しィ、ろ、ォ……き』

垣根(赤白、)

削板『yellow!』

垣根『ぶっ!?』

一方通行『……すぴー……、……』

削板『くかー……、ぐー……』





垣根「と、いうことがあったんだよ」

麦野「……なんつータイミング」

土御門「そういえば監視カメラにそのときの映像があったような気がしてきた」

17600「あ、ありましたありました。とミサカは映像を大きく映し出してみます」ミニョーン

映像≪……——あァかー……しィ、ろ、ォ……き……——yellow!……——≫

御坂「……これは……見逃して損したレベルね」

垣根「だろ、おかげでもう笑いたいけどみんな寝てて笑えねえし腹痛くて腹痛くて!」

土御門「しかも、イエローじゃないんだな。こう、『イエァロォウ!』みたいな、ネイティブな発音なんだな」

垣根「だからこそ吹いた」

海原「イエァロォウ……」

17600「師匠なに対抗しようとしてるんですか、とミサカは呆れ眼で師匠を見つめま、……おっと」

カツカツバタバタガチャ

削板「遅くなった! みんな集まって何してるんだ?」

垣根「ぶはっ!」

一方通行「……ンだァ? ヒトの顔見るなり吹き出しやがって……」

麦野「そういう心理状態だったし仕方ないわ。それで、ソギーのほうは叩けるようになったわけ?」

削板「ああ! なんとか両手両足をバラバラに動かせるようになった! これはもちろん根性で動かしているわけだが!」

垣根「それってドラマー的にどうなんだろうな……いや、上達したのはいいことなんだけど。ドラムが下手ってどうしようもねえよ」

土御門「むしろ、この短期間でよくここまで実力を伸ばしたと褒めるべきところだろ。ソギーはよくやってると思うぞ」

削板「コーチ……! いやっ、オレはまだまだやれる! この削板軍覇、これくらいでへこたれる根性は持ってねえ!」

一方通行(ツチピー……飴と鞭、うめェよなァ)

御坂「さて、と。じゃあどうする? もう一度合わせてみよっか」

麦野「ん、そうね。まだ三日目だし、時間はあるからさ」


同時刻、空きマンション

芳川「……もうそろそろ夕食の準備に取り掛かってもいいんじゃないかしらね」

白井「まだまだですのっ! 補完といえどもトップセールスを記録してみせますわよ!」

結標「あー、相方がこうも熱いんじゃ、私も努力するしかないわよねー」

上条・浜面「「でも腹減った……」」

初春「あ、私一応カロリーメイト持ってきてますよ。あと、途中でお金拾ったのでよければコンビニ行ってきますけど」

浜面「カロリーメイトくれ!」

芳川「わたしはあれ、ぱさついてて嫌いだからやめておくわ。それよりコンビニに行ってウイダーでも買ってきてくれると嬉しいのだけれど」

初春「はい。じゃあ行ってき」

結標「待ちなさい。手伝ってもらっているのにパシるのは気がひけるし、上条がついていくべきよ」

白井「それもそうですわね。初春、そこのウニ頭の殿方と行ってきなさいな」

上条「あー、まあいいけど。そんじゃ初春さん、行くか?」

初春「ひとりでも問題ないんですけどねー、じゃあお願いします」

パタパタパタン

芳川「……マネージャー、ねえ。わたしの仕事がますます楽になるのはいいことよね」

結標「あなたほんとにやる気ないわね」

芳川「やる気がなかったらこんなところにいないわ。ただ、人より自分に甘いだけなのよ」

白井「それにしても、初春から男物の香水の香りがしたのは気のせいですの?」

浜面「ああ、したな。あれ、どっかで嗅いだことあるんだよな……めずらしい香りだったから覚えてるんだが、誰だったかな……」

結標「ここにくる途中で誰かに会ったんじゃないかしら。まあ、助かってるしいいじゃない」

白井「……それにお金を持っている、というのも引っ掛かりますの。初春がマネージャーを無償で引き受けたのも不思議ではありますけれど」

芳川「好意ってやつでいいんじゃないかしら。ていうかもう面倒だからテレビつけるわね」


 芳川桔梗が話し合いを放棄してさっさとテレビの前に座り込む。彼女はプロデューサーでありながら、土御門元春のように積極的にメンバーをむやみにつつくことはしなかった。
 ガラではないし、そもそも彼女よりもメンバーのほうが真面目であったため、心配せずともよかったのである。
 ちなみに、彼女が持ち込んだテレビは特別製らしく、電波をどこからか引っ張っているらしい。怪しい。
 結標淡希が深いため息とともに練習——白井黒子とのハモリの練習を続ける。浜面は手持ち無沙汰に部屋をうろうろしていたが、やがで大人しく芳川の隣に座る。

「……なあ、ヨシピーさん。売れたら、本当に金が入るのか?」

「当たり前田のクラッカー、よ。入らないわけないでしょう」

 古いよ、ヨシピーさんそれめちゃくちゃ古い。そう声に出さなかった浜面だが、彼はただ単に空腹で限界なためにツッコミが面倒だっただけである。


第四回(合宿)、第三日目半分・終了

 パソコンの画面を睨みながら文字を打ち込んでいく御坂美琴と、その隣で鼻歌交じりに画面を覗き込んでいる垣根帝督。彼らのバンドにおけるポジションはボーカルかつギター、と同じである。
 他のメンバーはおらず、このふたりだけがパソコンをいじっている理由は、バンドメンバーの中である程度技術が完成されているふたりにある任務が課せられたからだ。
 ある任務。それは、バンド『LEVEL5』が今後売れたならば、必ず必要になるもの——サイト作りであった。

「っつーか、ブログもほしいよな。ブログ」

「ああ、じゃああんたはそっちで適当にサーバー借りて作っちゃえば?」

「ん、そうするわ。ていうか金って誰払うんだこれ」

「ツチピーかアレイスターでしょ」

 カタカタカタ、とブラインドタッチで手元を見ることなく文字を入力する御坂は、もちろん垣根を見ることもない。
 垣根はというと、しばらく複数のサーバーを比べていたが、やがて一際使用料の高いサーバーを選択した。

「超能力者が借りるんだ、チンケなサーバーに頼る訳にはいかねえよな」

 どうやら隣の男は高級志向らしい、と御坂はこっそり嘆息する。
 たしかに持ってきていた服や小物も金のかかっていそうなデザインが多かったし、そもそも見た目がホスト崩れである。
 それを言い出したらおそらく麦野沈利もブランド物が好きだろうし、一方通行の独特な服も安くはなさそうだ。
 あれ、と御坂はある人物まで思考を飛ばしたところで首を傾げる。

「……ソギーって、疎そー……」


午後六時、とある会議室

垣根「は?」

御坂「あー、今ちょっと考えてたんだけどね。ソギーの服って、いつも白い学ランだったなあって」

垣根「それもそうだな……つーか俺ら集まるときは大抵制服だったと思うんだが」

御坂「私、シズリの制服姿見たことない」

垣根「俺もねえ。ついでに言うとイッツーもない」

御坂「学校行ってるんだっけ、あいつ」

垣根「いやー、来てなかったぞ。いたら目立つし」

御坂「『来てなかった』?」

垣根「ああ、あいつ事件起こしてからは俺と同じ学校だったんだよ。長点上機」

御坂「事件っていうと、あんたが負けたっていう」

垣根「あーもう何度目だこのやり取り!」

御坂「私服かー……ライブのときとか、衣装ってどうするのかしら」

垣根「常盤台の電撃姫は随分せっかちだな。成功しねえと大きなライブはやれねえぞ」

御坂「成功するに決まってんでしょ、あんたは失敗するつもりなの?」

垣根「んなわけあるか。俺はリーダーだぞ、リーダーが自分のバンド信じなくてどうすんだよ」

御坂「んー、そうねー」

垣根(会話する気まったくねえなこいつ)

御坂「っていうかさ」

垣根「あー?」

御坂(会話する気全然ないわよねこいつ)

御坂「普通、写真が必要だと思うんだけど。サイト用っていうか、宣伝用の」

垣根「……背景とかに使うアレか」

御坂「そ。文字だけだとつまんないと思うのよね……ほら、ジャケ画とかでもいいんだけど」

垣根「まだ撮影してねーしどうしようもねえだろ」

御坂「どうすんの?」

垣根「どうすんの?」

御坂「……おいリーダー」

垣根「だってどうしようもなくね? ここはとりあえず俺の華麗なる写真でも撮っとくかコラ」

御坂「いや、コラって言いながらなんで全力でモデルポーズしてるのよ!? 口元にバラでもくわえこみそうな雰囲気!」

垣根「えっ、バラが似合う男だなんてそんな……照れるわ」

御坂「言ってねえええええええ! 誰も一言も褒めてないわよ!」

垣根「まあ冗談はここまでにして、だ」

御坂「冗談じゃなかった! あんた今目が本気だった!」

垣根「サイト作るっつってもよ、ほとんどすることねえだろ。まだシングルも発売してねーしっていうか出来上がってねーし」

御坂「そう、よねー……一週間でシングル完成させるってのは無理があるんじゃないかしら」

垣根「それだけじゃない。冷静に考えてもみろよ、いくら俺らが超能力者で学園都市の頂点で生徒の羨望の的だとしてもな」

御坂(合ってるっちゃ合ってるけど癪に障る言い方よね)

垣根「売れる——とは限らねえ」

御坂「!!!」

垣根「ま、言っちまえば俺らは能力開発においては成功したほうかもしれねえが、音楽に関しちゃズブのド素人だ。認めるしかねえな」

御坂「一応私はヴァイオリンなら弾けるんだけど」

垣根「違うんだよ、そうじゃない。ツチピーはプロデューサーだと言っちゃいるが、あいつだって学生なんだ……売り出すためのテクニックが足りねえ」

御坂「テクニック、って商売戦法とかそっちのこと?」

垣根「ああ。たとえば、俺らがデビューシングルを発売する日に国民的アイドルがシングルを出したらどうなる?」

御坂「そりゃ、みんなそっち買うわよね。こっちはたかが学生だし」

垣根「つまり、タイミングなんだ。腹の探りあいっつーのかな……曲ができたからとっとと売り出そうぜー、じゃダメだと思うんだよ。俺はな」

御坂「それ、他のメンバーにはまだ言ってないんでしょ? 言ったほうがよくない?」

垣根「どうだろうなー、やる気に水を差しちまうのはいただけねえし。それに、ちょっと引っ掛かってることもある」

御坂「何よ。この際言ってみてくれる?」

垣根「……、……」

御坂「なーにーよー?」

垣根「いや、こう見えても俺は自信のあることしか口にしないようにしてんだよ。やっぱやめとくわ」

御坂「気になるんだけど、まあいいわ。それより、私もリーダーとしてのあんたに言わなきゃならないことがあんのよね」

垣根「おう、言ってみろヒラ」

御坂「お前は社長か!」ビシッ

垣根「! 決まった、今思いついたぞ」

御坂「はあ?」

垣根「ライブのMCのとき! ミコト、お前はツッコミな! イッツーにツッコミ任せてもいいんだけどよ、あいつは無気力キャラでやらせようと思ってんだよ」

御坂「……カッキー、あんたさっきライブの話した私にせっかちって言わなかった?」

垣根「言ったな。でも俺リーダーだしそういうとこちゃんと考えなきゃだめだろ」

御坂「……リーダーなんでもありかよ!」

垣根「そうだ、今キャラ付けの話になったから言っておくけど。俺はリーダーでボケるイケメンやるから、頼んだ」

御坂「何を頼んだの今! なんかすごくお断りしたいんだけど」

垣根「だからな、こう、そのうちテレビ出演とかもあるんじゃねえかと思うわけだ。そんときにリーダーたる俺がバンド紹介とともにボケて」

御坂「私がつっこみ、スタッフも視聴者も大爆笑……と」

垣根「その通り」

御坂「……その役、私じゃなくてシズリにでも頼んだらいいんじゃないかしら」

垣根「残念なことにあいつは生粋のボケだ。というかまあ、俺らって比較的常識人じゃねえだろ? その中でもダントツで常識ねえのはソギーだと思うわけ」

御坂「反論はしないわよ。そんな気がしてる、あんたも常識ないけど」

垣根「でな、正直あんまり認めたくはないんだが、イッツーはけっこう常識があんだよ」

御坂「……え?」

垣根「だから、常識があるんだ。一見なさそうに見えるだろ、ていうかキチって見えるだろ?」

御坂「まあ、第一印象は相当ひどかったけどね。たしかにわりと常識人かもしれない」

垣根「なんつーかさ、あいつの場合はどっかでスイッチが入らねえかぎり常識人で通用するんじゃねえかと思う」

御坂「だったらツッコミやらせればいいじゃない。私じゃなくてもいいでしょ」

垣根「だから、あいつは無気力系のさ、こう、『自分、ベースが弾けりゃいいんで』みたいなキャラで通してえわけよ」

御坂「うーん……そういうキャラに見えなくもないけど、なんか納得いかないわ」

垣根「お前が納得いくかいかないかはどうでもいいの。俺らはまだバンドを組んだことを公表してねえし、メディア露出が増えない限り、キャラ設定だって生かせねえんだから」

御坂「ちなみに、私のキャラ設定はどんな感じなのよ」

垣根「『ギ、ギター弾いてるときのあんたは、ま、まあかっこいいわよ……』みたいな」

御坂「それあんたが言われたいだけでしょうがああああああ!!!!」バチバチバチッ

垣根「あ、いやすみません冗談ですすみません」


とあるマンション

上条「っくしゅん! ……なんか今噂されてんのか?」ジャカジャカジャーン

浜面「上条、そこ指動いてねえぞ」ドッドッドッ

御坂「あー、えっとさあ。話戻していい?」

垣根「おお、そういやさっき何か言いかけてたよな。聞いてやるよ、なんだ?」

御坂「……前に。中途半端な気持ちでやるならやめろって、言ったじゃない」

垣根「前にっつうか今でも思ってるんだけどよ、やめる気にでもなったか」

御坂「逆よ。やってやろうじゃないの、もう全部吹っ切れたわ」

垣根(多分向こうに幻想殺しがいるって知ったら揺れんだろうな)

御坂「だいたい、私はレベル1からレベル5にのし上がったんだからね。音楽だって同じよ」

垣根「音楽を軽んじているかのような発言だなおい」

御坂「そうじゃないわよ。それくらい本気でやってやる、って言ってんの——だから」

垣根「だから?」

御坂「とりあえず、正直な評価を下すけど……あんたより私のほうがギター上手いと思うし、リードギターは私でいいわよね?」

垣根「それはだめ」

御坂「」イラッ

垣根「俺はリーダーだからソロも俺がやるんですう」

御坂「さっきからリーダーリーダーってあんたねえ……私より下手なくせにボーカルやってソロなんかやったらバンドどして質が下がるっつってんの!」

垣根「んなっ……わかった、そこまで言うなら他の連中にリードギターを決めさせようじゃねえか絶望しろコラァァァアアア!!!!!」

コンコン ギィー

一方通行「なンか呼ばれた気ィした」

御坂・垣根「お前かよ!」

一方通行「ンだオマエらその反応……つゥか作業はどォした、作業は」

御坂「一応私のほうは終わってるわよ。枠組みだけね」

一方通行「あァ、そォいやサイト作ンなら撮影も早めにしておくか、ってよ。ツチピーからの伝言だ」

垣根「なにあいつ会話聞いてんの? っつかまだ監視してんの?」

一方通行「合宿中はずっと監視下に置かれンだろォよ。で、オマエは何してンだバカ」

垣根「バカって言うな」

御坂「ギターがふたりでしょ。それでどっちがリードギターやるかって話でもめてたのよ」

一方通行「ふゥン。ンで? どっちがやンだよ」

垣根「ああ、俺が全面的に請け負うということでさっき決着が」

御坂「つ、い、て、な、い、わ、よ!」ビリバリッ

垣根「チッ」

一方通行(えェー……何このそり合わねェ感じ)

御坂「ねえ、イッツーはどう思う」

一方通行「ハイ?」

垣根「俺とこいつ、どっちのほうがリードギターに向いてるかってことだよ」

一方通行「いやァ……俺オマエらより音楽疎いンですけどォ……そォいうのは適当に」

御坂・垣根「適当っ!?」ガタガタッ

一方通行(反応うっぜェェェェエエエ!!!)

御坂「適当ってどういうことよ。あんたそれでもバンドメンバーなの? どっちがリードギターやるのか、適当に決めていいと思ってるわけ?」

一方通行「あー、いや、だからァ……」

垣根「へー、そういうやつだったんだ! へええー! イッツーさんマジストイックっすねー! 自分とベース以外はどうでもいいってか! へええええー!」

一方通行「……、あァン?」

垣根「あ、なんすか赤い目で睨んじゃって。図星っすよね、イッツーさんベーシストですもんねー! 俺らギタリストのいざこざなんてどうでもい」

一方通行「上等じゃねェかオマエら今すぐこの俺が審査してやっからギター鳴らせやァァァァアアアアアア!!!!!」

御坂(乗せられやすっ)
垣根(計画通り……!)

カツカツ バタンッ

麦野「ちょっとー、叫び声うっさいんだけ……何してんの? 何でパイプイスとテーブル用意してんのオイ」

一方通行「俺が座るための審査席準備してンだよ。オマエも座りたきゃイス出せ」ガタガタ

垣根「さすがにオーディションっぽい雰囲気出そうとするとは思わなかったわマジで」

麦野「なんか面白そうだから座るわ」ガタガタギー

数分後

麦野「はいじゃあエントリナンバー1番、垣根さんお願いしまーす」

一方通行「——、——」キリッ

垣根「何か色々言いてえけどイッツーは何なの? なンでお前サングラスかけてこちらを睨むように見つめてんの?」

一方通行「このサングラスはツチピーのだ。あと睨ンでンじゃねェ、俺はまだ見ぬダイヤモンドの原石を発掘しよォとしているだけだ」キリッ

垣根(うっわ……スイッチ入ってるぞこいつ)

麦野「無駄口叩いてないで演奏しやがってくださーい」

垣根「えー、あの何でもいいんすか」

一方通行「俺はただ君の可能性を見出してェだけだ。好きなよォに演奏してくれ」キリッ

垣根(うわーこいつ一丁前に気取ってやがる)

垣根「あーはい、んじゃ……」

ジャーンジャカジャカジャジャーン

一方通行「……、……」キリッ

麦野「……正直あんま上手くないのよね」ボソッ

垣根「すんません聞こえてますんでその批評」ジャカジャージャジャジャンッ

一方通行「——ストップ、もォイイ」キリッ

垣根「はっ?」

一方通行「ありがとう、もォ十分だ」キリッ

垣根「だからそのキリッてやめてくんね!? すげえ腹立つ!」

麦野「イッツーさんがいいって言ってるんでもう退出なさって結構ですよ」ハッ

垣根「テメェも鼻で笑うな!」

麦野「お帰りはあちらです」クイッ

垣根「見下すな! 顎で出口示すなぁぁあああ!」バタバタ

バタンッ

一方通行「……前から思ってたが、あいつ自分で言うほど上手くねェンだよなァ」

麦野「ああ、やっぱそう思う? 基礎がしっかりしてないくせに、技術だけ無駄に高度なのよね」

一方通行「指が追いついてねェ。ンで妙な音を出しやがるモンだから、本人は超絶テクだと勘違いしちまってンな」

麦野「しかもほら、プライド高いからね。自分がまだまだだって認めもしねえ」

一方通行「総合評価・Bと……ハイ次ィ」

麦野「エントリナンバー2番、御坂さんどうぞー」

ギーパタン

御坂「あ、あの、よよよ、よろしくお、おねが」

一方通行「あァ、楽にしてくださいよォ、楽に」キリッ

御坂「は、はあはは、はひっ」

麦野「……えーっと、これはあくまでごっこだからそこまで演じなくても」

御坂「え、えええ演じてなくて、ささささっきカ、カッキーが」

一方通行「……垣根くンが、ナニか?」

御坂「そっ、その、審査員マジ辛辣だけど俺でほぼ確定だな、って、いいい、い、言ってて」

一方通行「他の候補者を揺さぶった……だと……」

麦野「どんだけ意地汚いんだあのバカ」

御坂「え、えっと、それで」

一方通行「まァ、イイからとりあえず弾いて——聞かせてください、あなたの思いを」キリッ

麦野(そしてこいつは審査員をなんだと思ってんだろう)

御坂「! は、はい……っ」

ジャッジャガジャジャジャーガジャカジャカジャンッ

一方通行「……、……」キリッ

麦野「……さっきよりはマシね」ボソッ

御坂「あの、ほんと聞こえてるんでその批評」

一方通行「……思ったンですが」キリッ

御坂「え?」

一方通行「君はたしか、ヴァイオリンが弾けるとか」キリッ

麦野「資料によれば、けっこうな腕前だそうですね」パラパラ

御坂(あ、この演出のためにさっき記入用紙渡されたのか)

一方通行「エレキギターには様々な奏法がありますね」キリッ

御坂「は、はあ……」

一方通行「その中に、ヴァイオリン奏法というものがあるのをご存知でしょォか」キリッ

御坂「し、知らないけど……」

麦野「まあ、要するにリードギターはミコトってことよ。カッキーはダメだわ、あいつはテクニックに酔ってる」

御坂「え、決まったの? ほんとに?」

一方通行「ええ。君は彼にないものがある——音楽に対する情熱です」キリッ

麦野(それはけっこうあっちのほうが持ってたりするんだけどねえ)

御坂「そのヴァイオリン奏法っていうのは、私じゃなきゃできないのかしら」

一方通行「それはやってみなければわかりませンが、まァ君の能力をもってすれば容易いでしょォね」キリッ

麦野「格好いいこと言ってるようで曖昧にぼかしてるだけよねイッツー、アンタ知らないだけよね」

一方通行「とまァ、とりあえず俺は最初っからリードギターがオマエでサイドギターがバカって考えてたしなァ。今さらどォのこォのと言われても困る」

御坂「そうなの? てっきり何も考えてないんだと思ってたわよ」

一方通行「バカがメインボーカル張るンだろォが。だったら普通リードギターはサイドボーカルじゃねェのか?」

麦野「普通はね。例外なんていくらでもあるし、……まあ例外になる必要もないけどさ。さて、ポジションも決まったし」

バタバタバタンッ

垣根「異議ありぃぃぃいいいいいッ!!!」

一方通行「えェまァ来ると思っていましたよ」キリッ

御坂「ねえその審査員キャラはどっからきたわけ? ねえどっからきたの?」

垣根「俺は! お前が!! 俺をリードギターと認めるまで!!! 抗議することを!!!! やめ」

麦野「うっせえな男なら潔く認めろよバカが」

垣根「だからバカとか言うな」

垣根「俺がソロやったほうが見栄えいいだろ? だろ?」

一方通行「いやァ、見栄えっつゥ点に関して言うなら……そっちのミコトのほォがイイと思う」

麦野「ていうかどんだけ目立ちたいのかと」

垣根「だって俺リーダーだぞ? リーダーが目立たないとかないわー」

御坂「リーダーっていうのはまとめ役だから、必ずしも目立つとは限らないと思うんだけどどうなのかしらね」

垣根「!?」

一方通行「ンだよその顔。リーダーの意味履き違えてねェかオマエ」

垣根「えっ、……いやー、その」

麦野「もしかしてあんたさ、まさか『一番目立てるから』っていう理由だけでリーダーになったわけじゃないよね」

垣根「ヘァッ!?」

御坂「どこのヒトデマンだ!」ビシッ

垣根「くっ、電気ポケモンとは……不覚なり……」バタリ

一方通行「えっナニ今のスムーズな流れ」

麦野「一連の流れが気持ち悪い」

垣根「どうよ、テレビの前ではこんなノリでやりてえんだけど」

御坂「うっかり乗っちゃったなんて……不覚なり……」パタリ

麦野「どうよも何も、気持ち悪い。大事なことだから2回言ったけど気持ち悪い」

一方通行「もうそれ3回言ってンじゃねェか。気持ち悪かったけどよォ」

垣根「総計4回の気持ち悪いという評価か。まずまずだな」

御坂「全然まずまずじゃないわよまずいんだよバカ!」ベシッ

垣根「お前までバカとか言うの!?」

一方通行「よかったなァバカ。立派な愛称になったよォで何よりだバカ」

垣根「いやバカじゃねえし。イッツーとかいまいち改変できねえからってイキってんじゃねえぞモヤシめ」

麦野「そういえば、ソギーのことなんだけどさあ」

御坂「あ、ソギーがどうかしたの?」

麦野「どうかした、っていうよりはどうもしてないのよね。無器用なんだか単純なんだかわかんないけど、手を動かしてると足がおろそかになるみたいで」

一方通行「一応できるよォになったはずだったンだがな。熱中しちまうとどォもだめらしい」

垣根「うーん……どうにかできねえかな……」

御坂「ドラマーが普段どんな風に練習してるのかわからないし——あ」

タンッカタカタカタ

一方通行「どォした、いきなり猛スピードでタイピングしやがって」

御坂「わからないなら情報を仕入れればいいの。ソギーが頑張ってるんだから、余裕のある私達はそのサポートをしなきゃならない……それが仲間ってもんでしょ?」

麦野「『それが仲間ってもんでしょ?』」キリッ

垣根「『袴って紋でしょ?』」キリッ

一方通行「なにちゃっかり上手いこと言おうとしてンだオマエ……」

麦野「ドラマー、ドラマーねえ……、……ん?」


麦野『浜面、どうしたの?』

滝壺『はまづらなら、今日もきっとドラムの練習をしていると思う』

絹旗『まだやってたんですね。浜面にしては超続いてるほうですよ』


麦野「……浜面、そういえばドラムやってたっけ」

一方通行「ハマーか」

麦野「うん、ハマー」

垣根「あの無能力者か」

麦野「ああ、あんたは知ってるわよね。あいつ、ドラムやってるらしいのよ」

一方通行「ドラマー・ハマーか」

御坂「ぶっ」

垣根「さりげなく聞き耳立ててたのかよ!」

麦野「どーしよっかなあ。あいつにお願いするのって癪だしなあ」

垣根「シズリが土下座すればすべて丸く収ま、っぶふぇ!」

一方通行(たまにこいつはわざと言ってンじゃねェかと思うときがあンな)

麦野「ミコトぉ、そっちどんな感じー?」

御坂「芳しくはないわよ。ドラムのテクとかは転がってるのに、具体的な練習法はさっぱり」

一方通行「そりゃ、上達への一番の近道は愚直な基礎練だろォがよ」

垣根「うっわあ、テメェが言うと妙に腹立つわ」

一方通行「あァ? やンのかコラ」

垣根「バンド内での揉め事は厳禁だ」キリッ

麦野「リーダーぶってんじゃねえよ。……で、どうする?」

御坂「んー、その浜面って人が教えてくれるならそっちのほうがソギーのためになるかもしれないわね」

麦野「そっかあー……んー……」

一方通行「その浜面ってェのは、オマエの組織の下っ端なンだろ? 命令でもすりゃイイじゃねェか」

麦野「……なんていうかさあ。多分、命令でもしたら渋々来るとは思うのよ。だけど」

垣根「だけどー?」

麦野「……頑張ってる姿、っていうのかな。私が努力しているところを、あいつには見られたくないの」ボソッ

一方通行「……、……」

御坂「……、……」

垣根「……、え、それってあいつのこと好」

一方通行「オマエちょっと空気読め」ガツッ

垣根「いって! 杖いって!」

御坂「……いいじゃない。そんなの」

麦野「え?」

御坂「完璧な人って近寄りがたいでしょ? 普段なんでもこなしちゃう人が陰で努力してるって知ったら、きっともっと仲良くなれるよ」

麦野「な、に言って……」

御坂「だって、経験者の私がそうなんだもん。嘘じゃないわよ?」

麦野「……、……」

垣根(なにこの女の子な雰囲気)

一方通行(知るかよ。ただ、ミコトが説得しにかかってンのはわかる)

麦野「……かっこ悪いじゃない。大体、馬鹿にされるのが目に見えてるのに」

垣根「あー、えっとだな。男の視点から言わせてもらうと」

麦野「は?」

一方通行「普段何の隙も見せねェヤツが、ふとした瞬間に脆くなンのは見てて面白ェ」

垣根「テメェもっと言い方ってもんがあんだろうがよおおおおお!!!!!」ユサユサユサ

一方通行「ちょっ、オマ、揺すンなやめろ外れる! 脱臼する!」ガクガクガク

麦野「……面白い」

御坂「い、今のはちょっと言葉のチョイス間違えただけよ!? 面白いんじゃなくて、そのお、可愛いと思——」

麦野「わかったわ」

垣根「へっ?」ユサユサユサ

麦野「浜面に電話してみるっつってんの。あいつの手なんか煩わせてなんぼ、だからさ」

一方通行「アー……景色が、飛ぶゥ……ダメだ……目ェガクガク……」ガクガクグルグル

御坂「でも、やりたくないなら無理にやらなくたっていいんだからね?」

麦野「いや、むしろあいつのドラムテクも気になってたし。ちょうどいいわよ」

カチカチッピップルルルルル

垣根「わざわざ十九学区までお越しいただけるとか素晴らしい下っ端だなおい」ユサユサユサユサ

御坂「それよりそろそろイッツー離したら? 後で半殺しにされると思うんだけど」

一方通行「……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……あとで殺すゥ……」グルグル

垣根「さ、三半規管よっぽど弱いんだなこいつ! な!」

御坂「私知ーらないっ」

麦野(そういえば、仕事以外で電話かけたことないなあ……)プルルルルル

浜面『はい、もしもし——麦野?』

麦野「!!! あ、う、うん! 浜面、あんた今どうせ暇よね!」

垣根「高圧的にも程があるだろシズリちゃんよー……」

御坂「なんかとっても親近感がわいた」

浜面『どうせってお前、暇じゃねえよ俺』

麦野「ふぇっ!?」

垣根「キャラチェンジか」

御坂「ちょっとカッキー黙りなさいよ」

浜面『あのなあ、俺にだって色々な付き合いっつーもんがあるんだ。いつでもお前らの相手できるわけじゃ——』

麦野「……、……」カタカタ

浜面『だいたいまた仕事か何かだろ、たまには俺以外の下っ端でも雇って——』

麦野「……、……」ガタガタ

浜面『でもまあ仕方ないから話だけは聞いて、……おい、麦野?』

麦野「……にしか、……いの」ボソッ

垣根(お、若干涙目だ涙目)ニヤニヤ

御坂(あんた後で刺されるわよ。イッツーとシズリに)

浜面『あ? 何て?』

麦野「あ、あんたにしか頼めねえっつってんだよこのチンピラ耳年増がぁぁぁああああっ!!!!」

浜面『うぎゃっ!? い、いきなり耳元で叫ぶなよ!』キーン

麦野「同じことを二度も言わせんじゃねえよバカが! テメェにしか頼めねえからこうして電話してんだろ、あぁん!?」

浜面『ひっ、いや、あの、すみませんマジちょっと調子乗りましたすみませんでした麦野さ』

麦野「ひ、ま、だ、よ、ね?」

浜面『もうめちゃくちゃ暇です四肢と時間を持て余してましたッ!』

垣根(恐喝じゃねえか……)

御坂(やっぱり親近感……)

麦野「んでね、頼みたいことがあんだけどさ」

浜面『はいもう何なりと』

麦野「あんた、ドラムできるんでしょ?」

浜面『……? おう、まあそれなりに叩けるけど』

麦野「ちょっと十九学区まで来てくんない?」

浜面『えっ』

麦野「ひ、ま、な、ん、だ、よ、な?」

浜面『あ、いや今のは否定でも拒否でもなくてだな! えっと、十九学区って言ったか?』

麦野「そうよ。ま、何もなくて廃れてるとこだしファミレスさえ見当たらないくらいなんだけど……まさか場所がわからないなんて言わないよね」

浜面『……、ちょっと待ってくれ』ピッ

〜♪〜〜〜♪〜♪〜〜♪〜〜〜♪〜

麦野「保留音になった」

垣根「っていうかお前あんな高圧的で大丈夫な訳? 好きなんじゃねぐふぁっ!」

御坂「シズリと相手の人の仲の良さがよくわかったわ! すぐ来てくれるなんてすごいと思う!」バシバシ

垣根「痛い。痛いすげえ痛いごめんなさいからかおうとしてすみませんでしただから痛い」

麦野「まだ出ない」

一方通行「向こォにも事情ってモンがあンだろ。待てる女がイイ女だぞ」ムクリ

麦野「あ、復活したのね。っていうか何悟ったようなことほざいてんだ」

垣根「待てる女がいい女だぞぎゅえッぐぉおおおおお! ミコトの叩きとは比べ物にならない激痛が俺の喉を襲ってる! 死ぬ! 死んじゃう!」

一方通行「いっそ窒息死してしまえ」ギュウウウウウ

御坂「イッツー、……首を絞めると証拠が残っちゃうけど大丈夫か?」キリッ

一方通行「大丈夫だ、問題ねェ」キリッ

垣根「いや大丈夫じゃねえしマジ死ぬってリーダー死んじゃうぞおい」

麦野「……まだ出ない」イラッ

〜♪〜♪〜〜〜〜♪〜〜〜♪〜、

浜面『もしもし、遅くなって悪い』

麦野「何秒待たせんのよバカ」

浜面『いや、だから俺にもそれなりに用事が……まあいいや。で、どこ行けばいいんだ?』

麦野「……き、てくれるの?」

浜面『? 来いって言ったのお前だろ』

垣根(すげえな。何がすげえってあの無能力者が麦野をすでに陥落してることだよ)

一方通行(まァ、恋愛は自分にねェモンを求めちまうンだろ)チラ

御坂(なんでそこで私を見るのかわからない)

麦野「じゅ、十九学区の廃病院! 最速でっ、何ももってこなくていいから早く来なさいよ!」

浜面『はいはい了解、ったく人使い荒いな』

麦野「何か言った?」

浜面『なーにーもー。んじゃ、十分ちょいで着くからよ』プッ


 はて、と麦野沈利は相手に切られた電話に憤る前に首を傾げる。
 ここは第十九学区、置き去りにされた街。浜面仕上が現在どこにいるのかわからないが、十数分で到着するなど不可能だ。
 会話が丸聞こえだった三人も麦野と同様首を傾げた。ってェことはよ、ココにいンじゃねェの。一方通行が声を出す。
 おそらくそれがもっとも正しい見解なのだろうが、麦野には納得できなかった。浜面がこの学区にいる、理由がない。
 いくら元スキルアウトといえど、この街にいたところで何にもなりはしないのだから。

「たしか、今この学区には……ヨシピーとかいうやつが率いる集団が滞在してんだったな」

 垣根帝督が思案げに呟き、そういえば黒子がいたんだったっけ、と御坂美琴も考えを進める。
 麦野は携帯電話の液晶画面を気にしながら、浜面がその集団の一員とは思えないけど、と否定した。

「だって、あいつは研究者とかそういう類の連中とは縁のない男だよ」

 それぞれが浜面の十数分という言葉に引っ掛かりを覚える中、しっかり監視していた土御門元春は眉間に皺を寄せた。

「結標、白井という大能力者に、カミやん、それから浜面——両人とも超能力者を撃破したという過去がある、が……ソギー、また手足一緒になってるにゃー」

「うおっ!? ちくしょう、オレの足の根性が足りんばっかりに!」

 土御門の指摘を受けて悔しそうに地団太を踏む削板軍覇は、彼のために一波乱起きそうなことなど知る由もないのである。


第四回(合宿)、第三日目夕方・終了


 時計を少し巻き戻すとしよう。

 超能力者達がとある合宿を始めて二日目の朝、カップラーメンを食されたことに腹を立てた削板軍覇は合宿所である廃病院からの脱走を試み、とりあえず成功していた。
 もっとも、厳密に言えばプロデューサーである土御門元春が事前にメンバーに渡していた合宿専用のジャージには超小型発信機が取り付けられており、
 脱走を企てたところでジャージを着ているかぎり、彼らが最終計画から逃れることは不可能である。
 だが、少なくとも削板は完全に逃げおおせたと思っていたので、彼の顔を立ててまあそういうことにしておこう。

 そして、廃病院を後にした削板と偶然出会ったのが補完計画を任されている芳川一行であった。
 奇遇といえば奇遇だが、そもそも十九学区に用事のある人間こそ珍しいという点を考慮してみれば、必然であったかもしれない。

「……よく食うなあ、お前」

 がつがつがつと勢いよくチャーハンをかっ込む削板に、呆れた声を投げたのは浜面仕上だった。
 なんだかんだで芳川一行はプロデューサーである芳川桔梗を除いて皆常識人であり、どちらかといえばツッコミ属性に偏りがちなのだが、今回は浜面がつっこんでみたようだ。

「ふぐ? はは、ほほははいほふはんはははは」

「何を言っているのかわからないわね。とりあえず食べながら喋るのはやめなさい」

 芳川がぴしゃりと削板を叱る。
 自堕落な彼女が誰かを叱責したことに動揺した上条当麻が目を丸くして芳川を見つめたが、彼女は視線を意に介すことなく悠々とコーヒーを飲み下す。
 どこまでもマイペースな女である。

 ここは十九学区に点在しているマンションのひとつであり、そのうちのもっとも広そうな部屋に集まっている六人は、それぞれフローリングに座り込みながらも誰かが話し出すのを待っている状態だ。
 誰か、とはイコールで芳川なのだが。

(第七位の超能力者、原石の削板軍覇——なぜ彼がこんな僻地にいるのかしら)

 結標淡希は見る見るうちに減っていくチャーハンと削板を交互に見つめながら、思考を進める。
 以前の集会で彼女が打ち立てた補完計画、および最終計画の実態に対する推測が正しいとすれば、削板軍覇のいるこの十九学区にはほかの超能力者もいるはずだ。

 たとえば彼女の同僚である一方通行、戦ったことのある超電磁砲。
 ……ないわね、と結標は決め付けた。因縁のあるふたりが組むなど考えられない。
 結標の知る一方通行は頑固だ。そして、あの戦いっぷりや噂を聞く分には超電磁砲も十分に頑固である。

 どうしたって、ふたりが瓦解するとは思えない。
 そもそも、現在学園都市の頂点七人のうち、数名はすでに存在を消されている。
 生きているか死んでいるかもわからないのだ。

 最終計画という名前から察するにアレイスターが一枚噛んでいることは明白だが、いくら上からの指示と言っても、あれだけ溝のある人間同士が自分達と同じように音楽活動をするはずがない。
 とすれば、削板は何か別の用事で偶然この学区にいたのだろう。
 イッツーだかカッキーだかツチピーだか、よくわからない単語を発していたような気もするが、一緒につるんでいた友人に違いない。

「っぷはー! ごちそうさま、すっげえうまかったぞ。根性の入るいいチャーハンだった!!!」

 両手をあわせ、ひょいと頭を下げる削板。礼儀はそれなりにしっかりしているらしい。根性の入るチャーハンってなんだよ、とまたも浜面がつっこむ。
 削板の食事が終了したことで、各々の気持ちは別の方向に向いた——すなわち、これからの合宿について、である。
 基本的に自分が知ってりゃいいや、と非情に自己中心的な考えで動いている芳川は、今回の合宿についても詳しい連絡は一切していない。
 ただ、十九学区で合宿をするから適当に準備をしてきてほしいと述べただけだ。
 放任主義といえば聞こえはいいが、はっきり言ってしまえば、芳川はプロデューサーとしての何かに欠けている。

「そう。じゃあ、早速話に入るのだけれど」

 コーヒーを飲み終えた芳川が、紙コップをぐしゃりと丸めて上条に放り投げる。
 うっかり掴み損ねた上条はゴミを顔面でキャッチしてしまったがこれは彼本来の不幸体質のせいだろう。
 決して芳川のコントロールが悪かったわけでも、上条のキャッチ力がなかったわけでもない。ということにしておく。

「これから一週間ほど、わたしたちはこのマンションで合宿を行うわ。それはいいわね?」

「ええ、問題ありませんの。しいていえば、このマンションでというくだりが気になりますが」

 白井黒子が指摘した点は、結標も考えていたことである。当初の予定は病院であり、マンションよりは合宿に適した場所であった。
 マンションで一体何をどうしろというのか。ごみ箱にごみを投げ捨てた上条が座りなおし、「壊すんだっけ?」と言い出した。

「壊す、ですって?」

 物騒な響きに眉をひそめる結標だが、何かを破壊することそのものに嫌悪感はない。
 ただ、わりと使い勝手のよさそうなマンションなだけに、ちょっともったいないかなあ、と思っただけである。

「ああ。だっていくらなんでもこんなマンションじゃ、練習とか、レコーディングとか、できねえだろ」

「それはそうだけどよ……こう、壊す以外にもなんかねえのかよ」

 最初から壊すつもりの上条とは反対に、浜面は消極的だった。
 元スキルアウトリーダーで暗部の下っ端でもある彼は、もちろん破壊に対して何のためらいもない。彼もまた、結標同様このマンションが気に入ったのだ。
 もっと言えば、こんな高そうなマンションに滝壺と住めたらいいのに、とまで考えてしまっている。実現不可能な願望というやつだ。

「なんだかよくわからねえが、ここをブチ壊すのか? そういうのは得意だ」

 それまで話を黙って聞いていた削板が立ち上がって天高く拳を突き上げた。
 なるほど、彼ならばこのマンションも破壊してしまえるだろう。だが、忘れてもらっては困るとばかりに結標がじとりと削板をにらみ、座るように促した。

「マンションはたしかに合宿する空間には適していないわね。でも、破壊しなくたって——」

 結標が能力使用時に用いる懐中電灯。今日は珍しく腰になかったのだが、どうやらボストンバッグに詰め込んでいたらしい。
 懐中電灯をくるりと回転させると、彼らが座り込んでいた部屋の天井が綺麗にすっ飛んだ。正確に言うなら、消えた。

「……相変わらず、お見事ですの」

 同じ空間移動系の能力者としては癪だが、結標の能力の強大さは認めるしかない。
 白井がぱちぱちと手を叩く横で、浜面は呆然と天井のなくなった頭上を見上げていた。
 彼らがいるのは一階だったが、二階との仕切りである天井が消えたことで、空間が上に伸びたのである。
 天井を座標移動させたわよ。あっさり結標は言ったが、空間移動系の能力を初めて目にした浜面には少々刺激が強かったようだ。
 上条はというと、消えた天井はどこに飛ばしたんだ、と結標に訊ねている。ここにくる途中の空き地、と結標は簡潔に答えた。

「あら、これで声が響かせやすくなったじゃない」

 成り行きを見守っていた、というかただ傍観していた芳川が驚いた様子も見せずに感想を述べる。
 彼女にしてみれば、自分が一週間過ごしやすければどこでもいいのだ。
 最終計画の責任者である土御門元春に比べると、やはり彼女はどうにもだらけている。
 だらけていても勝手に物事が進んでいくあたりが、この補完計画に参加しているメンバーのまともであるという何よりの証拠であろう。

「よくわからんから説明してくれ。お前らはなんなんだ? あとチャーハンに入ってた赤いピーマンみたいなあれはなんなんだ?」

 思いっきり、場の空気をクラッシュするのが削板軍覇という男である。
 よくわからんも何も、彼は最終計画のメンバーであって補完計画に関わるべき人間ではないため説明の必要はどこにもない。
 しかし、この場にいる以上気になるらしい。説明するのが面倒な芳川は、ちらりと上条を見た。
 彼女はこの面子の中で最も「頼られたら断れない」人間が上条である、と見抜いている。要領のいい芳川のべつにすごくもない特技だ。

「えーっと、俺たちは補完計画っていうプログラムに参加してる学生で、あと赤いピーマンはパプリカ」

「パプリカ……」

 削板は唸るようにそう呟き、そうか、あれが噂に聞くパプリカか、と頷いた。
 前半の説明が無駄になったことを悟った上条が、気の抜けた笑い声を出す。
 『補完計画というプログラムに参加している学生』。
 上条は自分をそんな言葉で表現したが、正確に言えば、上条と浜面は正式に参加しているわけではない。サポートメンバーである。
 しかし、いまさら追加説明をしたところで、目の前の削板に聞き流されてしまいそうな気がした彼は、それ以上語らなかった。

「けっこう美味かったなパプリカ。戻ったらコーチに喋ってみるとするか」

「戻る? あなた、どこに戻るのよ」

 結標が不思議そうに訊ねる。だから、コーチのとこだよ、と削板はあっけらかんと言い放つが、そのコーチがわからないのだ。
 先ほどからうずうずと何かを堪えていた白井が勢いよく片手を挙げて切り出した。

「会ったときもおっしゃっていましたけれど、イッツーやらカッキーやらツチピーやらと……あなた、どなたと一緒にいらしてるんですの?」

 芳川はなんとなく最終計画の面子を思い描いていたし、事実それは正解だったのだが、面倒臭がりな彼女は口にしない。
 そして、この場でもっとも政界に辿り着けるはずの結標は、すでにその可能性を検討した上で捨てている。
 である以上、削板が分かりやすく、
 「自分は最終計画の一員としてこの十九学区で合宿を行っている真っ最中で脱走してきたのだが、ちなみに残りの構成員は一方通行をはじめとした第五位第六位を除く全超能力者である」
 ——と解説でもしない限り、到底理解できるものではない。
 けれど、削板軍覇という一途かつ単純すぎて逆に難解なこの男が、そのような解説ができるのかといえば——答えはノーである。

「どなたと? ……だから、イッツーとカッキーとツチピーと、あとそれから」

「で、す、か、らっ! それは先に聞きましたの! そうではなくて、もっと具体的に言っていただけませんこと!?」

 ここで白井が遮っていなければ、彼女は削板の口から「ミコト」という彼女の敬愛してやまないお姉様の名前を聞くことができただろう。
 だが、もっと具体的に、と言われてしまった削板は、一度口を閉ざし、どうにかして合宿の実態を具体的に説明しようと試みた。
 結果。

「えーっと、具体的にっていうとアレか? 白と黒と紫とピンクとこのオレ赤で、それから何やったっけ……トランプとかしたな」

「どこの戦隊モノだよ! っていうかもしかして全員おそろいのジャージだったりすんのか!? っつかそれだと紫じゃなくて黄色でよくね!?」

 このオレ赤、と言ったあたりで削板が胸を張ってジャージを指したため、なんとなく他の面子も同じジャージを着ているのだろうと決め付けた浜面だが、まったくもって正しい。
 しかし、まさか彼も自分のよく知る少女が紫色のジャージに身を包んでいるとは思うまい。包んでいるのだが。しかも黄色と悩んだ末に紫を選んでいるのだが。

「よくわかったな! オレたちは仲間だからおそろいのジャージを着てるんだが、いわばユニフォームみたいなものだとオレは思う!」

「……まるで、運動部の合宿みたいね」

 結標がぼそりとつっこんだ。しかし、呟きを拾えなかった削板は首肯することができない。
 よって、結標のツッコミはそのまま流れることとなり、より一層彼女の中で最終計画に対する不信感が募っていく。

「ジャージねえ、その発想はなかったわ」

 芳川が感心したような発言をし、その言葉にびくりと上条が反応する。

(多分この人めんどくさがってやんねえだろうけど、仮にジャージ案が採用されたら間違いなくなんか仕事押し付けられる……!)

 ここ数週間で、すっかり自分のポジションを理解している上条だった。
 もっとも、土御門が超能力者にジャージ着用を義務付けた理由は「脱走されても居場所を特定できるように」という明快なもので、削板の考えるようなユニフォーム的なアレではまったくない。
 そして、芳川はしばらく考え、でも面倒だしいいわね、と却下した。

「ところで、削板くん。キミは戻ると言ったけれど、いつ戻るのかしら」

「まだ戻らない! もうちょっと、あいつらが反省したら戻るつもりだ」

 あらそう、と芳川はゆるく相槌を打つだけにとどめた。
 あの子は本当に自分で悪いと思っていない限り反省なんてしないと思うわよ、と心の中で呟いたものの、言い出せば削板に深く追及されそうだったからである。
 彼女の直感は、削板軍覇を最高レベルの面倒くさい人間であると認定した。実際、彼の前で自分を甘やかす発言でもしようものなら噛み付かれるのは明白だ。

「じゃ、せっかくだから参加していきなさいな。これからいろいろやることがあるのよ」

 寛大な処置を選んだようにも受け取れる台詞に、感激した削板が勢いよく首を縦に振る。
 彼女の本心は、これから機材などを搬入する際に手伝わせよう、という実に邪なものでしかなかったが、幸い削板が察することはなさそうだった。


裏第三回・終了

さて。廃マンションをどうにかうまいことスタジオ風に仕上げた芳川一行(ただし芳川除く)だが、あるひとつの問題が浮上していた。
 それは、イレギュラーともいうべき削板軍覇の存在——ではなく、もっと根本的な問題である。

「……曲が、ないじゃない」

 超能力者達同様、彼らの目的もまたメジャーデビューだ。
 そして、芳川はとくに明言していなかったものの、今回の合宿で曲をある程度完成させるつもりであることは疑いようがなかった。
 舞台は整っているというのに、肝心の曲がまったくない。この場合の「まったくない」とは、イコールで「まだ作ってすらいません」という意味である。
 結標の半ば呆然と吐き出された言葉は、一同の胸に重く圧し掛かった(ただし芳川除く)。
 曲がないなら、いったい何の練習をしろというのだろう。
 この点において、最終計画の責任者たる土御門はやはり手際が良かったといえる。

「ん? キミたち、誰も作ってないのかしら」

「あんた何も言ってねえだろ!」

 不思議そうに小首をかしげた芳川に鋭いツッコミをかました浜面は、わざとらしく深いため息を吐いた。
 そもそも彼はなんとなくなりゆきで参加しているものの、別段そこまでドラムが得意なわけではない。まあそりゃ叩けるっちゃ叩けるけど、という程度だ。
 上条も同じくため息を吐き出す。
 彼に至っては、つい最近友人からアコースティックギターを受け取りなんとか形になってきた、つまり初心者と中級者の中間レベルである。
 いきなり楽器隊扱いをされ、しかも持ったことのないエレキギターを手渡され、どこをいじればいいのかよくわからなかった上条はすでに最初の支給品を持ち前の不幸っぷりで壊してしまっている。

「あらあらまあまあ……どなた様も頼りないですのね」

 と、ここで意味ありげな顔をしつつ周囲を見渡した白井である。
 彼女は口元の笑みを深めると、「作曲程度なら嗜んでおりましてよ」といかにもお嬢様らしく付け足した。
 おお、と男性陣から声があがる。結標は数秒きょとんと白井を見つめていたが、すぐに芳川を見やった。
 先ほどから無責任っぷりを存分に披露しているプロデューサーは、普段通りのおだやかな表情で微笑んでいる。
 微笑む場面ではない、と結標は心中でつっこんだ。

「じゃあこうしましょうか。白井さんが作曲できるというのなら、——」

「私は作詞なんかできないわよ」

 芳川の提案を遮るように、結標は先手を打って発言した。
 というのも、話の途中で芳川の視線が明らかに自分に注がれていることに気づいたからである。
 これ以上の負担はごめんだといわんばかりの態度だが、このマンションをスタジオに仕立て上げた功労者は紛れもなく結標であるためか、芳川も強く言うことはなかった。
 困った。そんな顔をしてみせる芳川に、それまで押し付けられたルービックキューブで遊んでいた削板が声をかける。

 ——ヨシピーがすればいいじゃねえか。

 その一言は、彼がまだ芳川と出会って数時間しか経っていないからこそ言えた言葉であろう。
 ちなみになぜ彼がルービックキューブで遊んでいたかというと、話をややこしくされたくない芳川が、白衣のポケットから色がどれひとつ揃っていない立方体をこれ見よがしに出してちらつかせた結果である。
 負けず嫌いな削板は見事に彼女の策略にはまり、今の今まで熱心にルービックキューブを揃えようとしていたのだ。
 種明かしをすると、芳川が削板に渡したルービックキューブはそれぞれ一色につき一ブロックずつ欠如しているため、ぜったいに色が揃うことのないイジメに近い商品であり、
 そして以前これを解こうとした一方通行はわずか2分でそのトリックに気づき、腹いせにキューブごと解体した過去があったりする。

「芳川さんが?」

 上条が引き攣った笑顔で問いかける。おう、と削板は明快に頷いた。
 ぽいと無造作に、まるでサイコロのように投げられたルービックキューブはそのまま結標のもとに渡った。

「プロデューサーってのは、現場の責任者だからな。こういうときに根性見せんのはプロデューサーだってツチピーなら言うはずだ!」

 再び登場した「ツチピー」という単語に気を取られた上条だが、そもそも芳川に見せるだけの根性があるかどうかすら怪しい。
 案の定、芳川は露骨に面倒くさそうな顔をしている。
 大人げねえ、と浜面は思わず呟いてしまった。が、幸い一同はみな例外なく賛同である。

「わたしが作詞、ねえ……無理よ?」

 あえて断定ではなく疑問系で答える芳川である。暗に「無理ってわからないのかしら」と責めたてられているような気がしなくもない言葉だが、気づいているのかいないのか、削板はなおも「プロデューサーなんだろうが」と続けている。こうなってしまうと、削板の扱いに長けていない一同はどうすることもできない。

「だいたい、わたしは理系だもの。ロマンチストにはなれないわ」

「そんなん言ったら学園都市はほぼ全員理系ってことになるけどな、俺らスキルアウトも含めてな!」

「それに、わたしの小学生のときの詩はなかなかひどいものだったのだし」

「よしじゃあそれ今から朗読お願いします芳川さん!」

 だるそうな芳川の言い訳に対応する浜面と上条、そしてそれを冷ややかな目で見つめる白井、ルービックキューブをきゅるきゅると動かしながら、違和感をおぼえる結標。
 削板はじっと芳川を見つめている。逃れられない状況に、芳川は半眼になった。

「朗読? わたしがおぼえていると思っているのかしらね」

「まあ、おぼえていないのが普通ですの」

 白井がフォローにまわる。ように見えて、彼女がおそらく芳川の作った歌詞に曲をつけるのが嫌なのだろう。どんな歌詞になるか未知数だからな、と上条は考える。
 うーん、と芳川は少しの間目を瞑った。そして。

「『はじめてのりょうり』、にねんさんくみよしかわききょう」

「!?」

 おぼえてんのかよ! という意見で一致する学生を意に介さず、芳川は続ける。

「『きのうのよる はじめてつくったカレーライス
  おとうさんとおかあさん しんぱいそうにみてたよる

  とんとんとん ざくざくざく
  じゅーじゅーじゅー ぐつぐつぐつ
  ぱっぱっぱっ じゃーじゃーじゃー

  できあがったカレーライス がんばったよる
  もぐってたべたおとうさん
  ぱくってたべたおかあさん
  ごくっとのどをならしたわたし

  からんからん スプーンがおちる
  わたしはあまいみたいです
  しおとさとう まちがえたよる』。

 ってところだけれど」

「……、……」

「あら、反応がないのは寂しいわね」

せっかく思い出したのに、と芳川は不満そうに口を尖らせたが、結標はそんな彼女の反応にかまっていられなかった。

(これは——、だめ!)

 ばっと勢いよく立ち上がった結標に一同の注目が集まる。
 この場におけるリーダーはほぼ彼女になっているため、おそらく芳川の詩に何か物申すのであろうと結標以外は全員(芳川も含めて)予想していた。
 ところが、である。
 仁王立ちした結標は視線を芳川に向け、びしっとルービックキューブを突き出した。

「このルービックキューブ、不良品じゃないの! いくら動かしてもまったく揃わないわよ!」

 詩に関してはノーコメント。結標が淡々と、しかし勝ち気な彼女らしくはっきりと芳川に意見をぶつけたのは、他ならぬルービックキューブのことだった。

「え? ああ、やっぱり不良品だったか! 道理で根性で動かしても揃わないわけだ!」

 ぽん、と古めかしい動作で手を打った削板もまた、なぜか詩の出来には触れない。
 なんとなくいたたまれない空気の中、最初に「なんつーか、あれだな。作詞はちょっと置いとこう」と切り出したのは、やはり上条当麻なのであった。


裏第四回・終了

ったくよー、と浜面仕上はとぼとぼ歩きながら考える。
 麦野沈利からのありがたいお呼び出しを受けた彼は廃マンションから廃病院へと足をすすめているのだが、彼の頭は数分前に芳川桔梗から聞いた言葉でいっぱいだった。

 ——向こうの仕上がり具合をしっかり見てきなさい、あちらにこちらの計画がばれないように。

 向こうってなんだ? そんな考えがふつふつとわき上がる。仕上がり? 計画?

(たしか俺らは補完計画、だけど……麦野が似た計画に参加してるなんて、まさかな)

 ここで、鋭い結標ならば気づいただろう。彼女の一度は想定した意見が的を射ていたと確信できただろう。
 しかし、結標の意見を聞いていない浜面は、まったくの情報不足だった。
 そういえば、昨日数時間だけ一緒に活動した超能力者・削板軍覇はまだこの第十九学区にいるのだろうか。
 最後まで彼の言っていることは理解できなかったが、もう二度と会うことはないだろうし、問題ないはずだ。

 そこまで思考をすすめた浜面は、やがてその足を止める。
 目の前には、当初の宿泊施設であった廃病院。
 夕方であるせいかすでに明かりが灯っていて、たしかに人の存在を感じさせる。
 麦野は用件を言わなかった。浜面は彼女にただ、最速で来いと指示されただけだ。
 十数分で行けると豪語したものの、途中コンビニに寄ったせいで二十分はかかってしまった。
 自分用の炭酸飲料と、麦野の機嫌を取るための鮭とばの入った袋を片手にぶら下げて、浜面が病院の自動ドアの前に立つ——前に、自動ドアが開いた。


合宿三日目、午後五時、廃病院玄関

浜面「……、……えっ?」

一方通行「はァ?」

浜面「いやいやいや、ええ? えっ?」

一方通行「だァから、はァ?」

浜面「……、間違えました」クルッ

一方通行「ナニをだよ」ガシッ

浜面「ひっ! 違うんです俺はあれですちょっとここに用事があったと見せかけて実はないんだあああああッ!!!」

一方通行「よくわかンねェがあやしいからオマエちょっと来い」

浜面「あやしくねえ! 俺は清廉潔白とは言いがたいがでもまああやしいもんじゃねえ! だからすみません離してく」

一方通行「うっせェな……、あ、アレだ。オマエあンときのイイ悪党じゃねェか」

浜面「思い出すのおっそ! っていうかいい、思い出さなくていいから頼む見逃してくれ!」

一方通行「ライオン前にクソびびってるネズミみてェな面してンじゃねェ。だいたい、オマエなンでここにいンだよ」

浜面「なんでってそりゃ、麦野って女に呼び出されたからに決まってんだろ」

一方通行「……、……おォ。そォいうコトか」

浜面「は?」

一方通行「いや、こっちの話だ。するってェとアレか、オマエもしかしてハマーか」

浜面「ハマー? いや、浜面だけどハマー呼びははじめてだ」

一方通行「なァるほど。へェー、ほォ……ふゥン」ジロジロ

浜面「な、なんだよそのすっげえ好奇心むき出しな感じ!」

一方通行「いやァ? なンつゥか……オマエすげェな」

浜面「だからもっとわかりやすく説明してくれ」

一方通行「説明するつもりなンざねェ。ンで、麦野に呼ばれたンだろ? さっさと入れよ」

浜面「? そうだけど、お前こそなんでここにいるんだ?」

一方通行「合宿してンだよ、合宿。そォか、オマエがハマーかァ……感慨深いもンはとくにねェな」カツカツ

浜面「ねえのかよ! あっいや、なくて結構だけどな!? っていうかあれ、マジで俺入っちゃっていいのこれ」

一方通行「構わねェよ。むしろこれ以上待たすとシズリが面倒だ」カツカツ

浜面(は? あれ、いま沈利つった? 麦野を? 下の名前で? 呼んでる?)ピタッ

一方通行「ンだよ、早く来いっつってンだろォが。クソチンピラ」

浜面「うっ、否定したくてもできねえ」スタスタスタ

一方通行「つゥかオマエ、なンで呼ばれたかわかってンのかよ」カツカツ

浜面「全然。とりあえず鮭とばは持ってきてるけど」

一方通行「へェへェ、女王のご機嫌取りは大変ですねェ」

浜面「……さっきから気になってるんだが、麦野とどういうご関係で?」

一方通行「どォもこォもねェ、ただの仲間だ」

浜面「!?」

一方通行「オマエさっきからリアクションでけェな」

浜面「いやいやお前がそうさせてんだよ! 何ですか!? 麦野さんは俺たちアイテムを捨てたんですか!」ダンダンッ

一方通行「地団駄踏むなきめェ」

スタスタカツカツ

浜面「どういうことだよちょっとマジで説明してくんねえかなほんとマジで」

一方通行「知的探究心が悪いコトだとは言わねェが、オマエ鬱陶しい」

浜面「でもでもだってなんか変だろ! 麦野の仲間ってなんだよ! 俺だよ!」

一方通行「錯乱のあまり気色悪いことになってンぞ、落ち着け」

浜面「いやべつにな? いいんだ麦野が誰を仲間と思ってようが。でもあれだろ? なんつーか、……あ」

一方通行「あ?」

浜面「お前、そういえば第一位だっけ」

一方通行「そォですがナニか」

浜面「麦野は」

一方通行「第四位だろォが」

浜面「つまり、えっと、お前らもしかして、超能力者的な意味での仲間か」

一方通行「あながち間違っちゃいねェな」

浜面「なんだなんだそっかそっか。そうかそうか、ならいいや」

一方通行(こいつどンだけ仲間意識強ェンだ……)

浜面「で? 肝心の麦野はどこにいるんだよ」

一方通行「そこの突き当たりの事務室。俺は上に用がある、後はオマエひとりで行け」

浜面「おお! ありがとなー、またな!」

一方通行「また会う気はまったくねェンだけどなァ」

浜面「人生わかんねえからな。お前、けっこういいやつじゃねえか」

一方通行「……オマエ。チンピラのくせに随分暢気なモンだな」カツカツ

浜面「そうでもねえ、ってもう行くのかよ!」

一方通行(暢気、ってェよりは常識人なンだろォな。どォでもイイが)カツカツカツ

突き当たりの事務室

麦野「……おせえ」

垣根「イライラしてっとシワになんぞ? ほらほら眉間に兆候ぐわえっ」ベチン

麦野「黙れ」

御坂「ま、まあ、ほら、ちょっと迷ってるのかもしれないじゃない。ね?」

麦野「下っ端のくせに私を二十分を待たせようなんていい度胸じゃない」

垣根「お前、仮にも一応来てくれるやつにそれはねえだろ。嫌われりゅくるごすっ!」ベシン

麦野「だから黙れよ」

御坂(場の空気を和ませようとしてるなら大失敗だと思うわよ、カッキー)

垣根(だって暇なんだもん)

御坂(もんってあんた……)

パタパタパタ

麦野「!」

垣根「おお、来たんじゃねえの。足音的に」

麦野「……、……」スタスタ

カチャ ソローッ

御坂(なんであんなにそろそろ顔を出すのかしら)

垣根(そりゃお前、あいつなりにちょっと緊張してんじゃねえの。知らねえけど)

麦野「……! ったくおっせえんだよ浜面のくせに!」

浜面「あ、いたいた。悪いなー遅れちまった」

麦野「遅れたのはわかってんのよ。で、何か言うことは?」

浜面「だから悪かったって。これ、一応もってきたけど……っていうか」

垣根「あ、どうぞどうぞお気になさらずに」ジー

御坂「ええ、ほんとこっちは気にしなくていいわよ」ジー

浜面「……いや、だから部屋の隅っこで凝視されるとなんか気になるんだが」

麦野(あいつらぜったいわざとだちくしょうあとでころす)

垣根「いやー、どうもすんませんね。うちのシズちゃんが迷惑をおかけしまして」

浜面「(シズちゃん……?)いえ、慣れてるんでいいっすっつうか……お前、垣根帝督!? なんで生きて、」

御坂「No, he isn't. He is kacky.」

浜面「……、は?」

麦野「まあとにかく、えーっと、そいつはバカッキーだから」

垣根「バカって言うな。ところで話移すけどよ、ハマーくん。君、ドラム叩けるんだって?」

浜面「だからハマーってどっからきたの!? 麦野!? お前が言い出したのか!?」

麦野「ちっげえよ、唾飛ばしてくんな気色悪い」

御坂「それでね、ハマーさんにちょっと教えてもらいたいことがあって」

浜面「ハマー固定かよ! 俺の意見総無視か!」

垣根「お前あれだな、すげえツッコミだな。ボケを知らない男・ハマーだな」

浜面「喧しいわ! どういう集団だここは! なに? 麦野に垣根に」

垣根「カッキー」

浜面「……カッキーに、あとそこの常盤台のはたしか」

御坂「ミコトよ。よろしくね」

浜面「あ、はい」

麦野「おいこらそこの包茎野郎、お嬢様にデレデレしてんじゃないわよ」

浜面「包茎違う!」

垣根「恥ずかしがんなよ。俺は軽蔑しねえから」キリッ

浜面「だーかーらー、包茎違うっつってんだろうが!」

御坂「……、……」コソッ

浜面「でっ、そこのお嬢さん隠れんなよ!? 包茎をなんだと思ってる! いや包茎じゃねえけどな俺!」

麦野「はーまづらあ、あとで滝壺に『あいつロリコンで包茎だった』って言っておくわ」

浜面「事実無根だ!」

垣根「えっ、去勢したわけ?」

浜面「いちいちネタ拾わんでいいから!」

浜面「来て数分でこんだけ疲れるってどうなってんだよ……」

麦野「ああ、そういやあんた、よく迷わずに事務室来たわよね」

浜面「途中まで案内してもらったからな。えっと、あいつ、第一位」

垣根「もう会ったのか。ってことはさ、お前そろそろここにいる連中の特徴もわかってんじゃねえの?」

浜面「特徴? って、なんだ?」

御坂「手っ取り早く言うと、私らは全員超能力者なのよ。この病院にいる人間はほとんどね」

麦野「あとはまあ、マネージャーとかだけど」

浜面「マネージャー……、待て、どういう集まりなんだよ。わけわかんねえぞ」

垣根「どういうって、だからあれだよ。バンド」

浜面「!!」

垣根「ほんとはこれ一応機密事項ってやつだったりするんだけどよ、どうせお前に言ったってわからねえだろうから、俺らの独断でぶちまけてみた」

麦野「ま、これくらいならツチピーも怒んないでしょ」

御坂「初春さんにもバレちゃったしね」

浜面「……、……」

麦野「? はーまづらあ、どした?」

浜面「……いや。なんでもねえよ」

浜面(もしかして、こいつら)

浜面「俺、よくわかんねえんだけどさ。お前らは自主的に集まってんのか」

垣根「んなわけねえだろ。俺らが仲良しこよしに見えんの?」

浜面「つまり?」

御坂「だから、うーん……これも学園都市のプログラムの一種みたいなものよね」

浜面(プログラムの、一種)

麦野「プログラムっていうか、プランよね。最終計画とか大層な名前つけられてるけど」

浜面「——!」

垣根「なあ、さっきから青ざめたり目を見開いたりしてっけどこいついつもこうなの?」

麦野「まあ大体そんな感じよ」

浜面「あー……そういうことか。わかった、ようやくわかった」

麦野「何がよ」

浜面「何でもねえ。それより、バンドってことはなんか目標でもあるのかよ。メジャーデビューとか」

垣根「よくぞ聞いてくれたっ! 俺らの最終目標は世界的なバンドだ。つまり、学園都市からのだっしゅもご」

御坂「ストップストップなんでもないから。今のなんでもないから忘れて」

浜面(だっしゅもご……?)

麦野「ええっと、あのバカのことはスルーしていいわよ。あんたを呼んだのは、うちのドラマーがに少し問題があるからなのよね」

浜面「ああ、それさっきも軽く言ってたな。超能力者でバンド組んでるっつーことは……もしかして、ドラマーは第一位か」

御坂「えっ」

浜面「だって、問題があるんだろ。あいつ杖使ってたしさ」

垣根「違うっつうの。あれはベース」

浜面「へ? じゃあ誰がドラム?」

麦野「ソギー」

浜面「だからなんであだ名で言うんだよ! わかんねえんだぞこっちは!」

御坂「第七位よ、第七位」

浜面「あれ? あいつドラムだったのか……」

垣根「おやおやお知り合いで?」

浜面「いやー、ちょっとな」

麦野「あっそ。どうでもいいけど、知り合いなら話は早いわ。あいつにドラムテク叩きこんでやって」

垣根「ドラムだけになぁいたっ」

御坂「うまくないから」

浜面(序列は一応垣根が上だよな?)

垣根「っつうかその前に訊きてえんだけど、お前なんでこの学区にいたわけ?」

浜面「うおえっ?」

垣根「あからさまな動揺だなおい」

浜面「いやいやいやそんなまさか動揺だなんて」

垣根「第十九学区っつうとさ、寂れちまってほとんど廃墟同然の学区なわけ。めったに人もこねえし、だからこそ俺らはこうして合宿してんだけど」

浜面「……、……」

垣根「ま、たしかに予定よりは遅かったよな。けどよ、それにしたってずいぶん早い到着だったじゃねえか」

御坂「この学区にいたんじゃないの? ってくらいには早かったかな」

浜面「……それで?」

垣根「べつに、何か言いたいわけじゃねえ。ただ、少しばかり気になることがあってな——あのクソモヤシはどうもわかってるらしいが、あいにく俺らはまだわかってねえし」

麦野「あいつは結論出すまで口にしなそうよね。んでさ、浜面。あんたにはもちろん黙秘権はないから答えてもらえるかしら」

浜面「……へいへい」

垣根「お前、『ヨシピー』って研究者とつながりはあるか?」

浜面(たしか、あの人は秘密だっつってたよな。だとしたらバレるわけにはいかねえってことだ)

浜面「あー、ない。まったくない」

御坂「じゃあどうしてこの学区にいたわけ? 用事なんてないでしょ?」

浜面「元スキルアウトなめんなよコラ。こっちに昔のツレのアジトがあんだよ」

垣根「ほー。そいつはすげえ、さっすがスキルアウト様様だな」

浜面「で、ほかに質問は?」

垣根「いや、特にはねえな。考えてみりゃあ、お前みてえな無能力者がプランに関わるわけがねえ」

浜面「……、……」イラッ

垣根「大体、俺らで最終計画って名を背負ってる以上、いくら格下でも大能力者レベルじゃねえと困るよなあ」

浜面「……、……、……、……」イライラッ

垣根「おっと、そんなにキレんなよ。俺は素直だからうっかり本音が出ちまったが、べつにテメェを馬鹿にしてるわけじゃねえんだから」

浜面「思いっきり馬鹿にしてたろうが! だから能力者は嫌いなんだよクソったれ! どいつもこいつもパシりやがって!」

垣根「はいはいどーどー、俺のほかにも誰かにけなされたか? ん?」

浜面「さっきまでな! 大能力者だかなんだか知らねえが、なんでああ女ってのはやたらと男をパシりたが——あっ」

麦野「……滝壺、絹旗の話じゃあなさそうね?」

御坂「白井黒子。あんた、この名前に聞き覚えはある?」

浜面「しっ、知るわけねえだろあんな常盤台の空間移動者なん、——ああっ」

 どうしてこうなった、と浜面仕上は頭を抱えていた。
 実際に彼が抱えているのはコンビニの袋で、両腕の中には近くのコンビニで買い占めたチューハイやらビールやらがたっぷりつまっている。
 数時間前と違うのは、隣を少女が歩いている点だろうか。彼女は、第三位である御坂美琴そっくりに見えた。両者の間に会話はない。
 どことなく緊張感をおぼえている浜面だが、相手である少女は無表情に浜面の荷物を持つのを手伝っている。
 落ち着かねえ。浜面はちらりと隣に視線をやると、先ほどから気になっていたことを口に出した。

「……あー、なんだ。その、ミコトの妹か」

「いえ。ミサカはただのコンビニ店員でありこの場で名乗り出るつもりはさらさらありません、とミサカはDQN男に答えます」

「ど、どきゅっ!?」


合宿三日目、午後八時、第十九学区

浜面「今ミサカっつったろうが! ってか、どこまでついてくる気だよ!」

店員「ミサカの一人称はミサカでありそれ以上でもそれ以下でもありませんが、とミサカは廃病院まであと数分であることを告げますそわそわ」

浜面「そわそわ!? 自分でそわそわとか言っちゃったぞこいつ!」

店員「やややっぱり、その、ここらへんで帰ったほうがいいのかな、とミサカは自分に問いかけます」

浜面「自問自答でドモるやつはじめて見た」

店員「ところで、とミサカは隣のDQN男に」

浜面「浜面。DQN男じゃない、浜面仕上だ」

店員「……浜面に、どうして缶コーヒーを購入していないのかと厳しく問いただしますが」

浜面「缶コーヒー?」

店員「だっておまえ一方通行さんのパシリだろ? そうなんだろ? とミサカは畳み掛けます!」

浜面「へ? いや、間接的にそうなってはいるけどよってか、え? なに? なんで鬼気迫る形相?」

店員「うらやまにくたらしいわボケ、とミサカはどうせ誰も見ていないのでここぞとばかりに舌打ちをかましてみます」チッ

浜面「だからおまえ誰なんだよ!? 羨ましいなら代われよ!」

店員「パシリに名乗る名前はねえ、とミサカはかっこつけてみますが実際は名前がないだけです」

浜面「無表情で淡々と語られたっ!?」

店員「う、ううう……ミサカだってほんとは一方通行さんにパシられたいんです! とミサカは、ミサカはあああああ!!!!!」ダッ

浜面「あああああ!!! おい、待てって! 逃げんのはいいけどせめて袋置いてけ、袋ーっ!」ダダッ

店員「うらやましいいいいい!!! ミサカのほうがぜったい働くもんっ、ミサカはちゃんと缶コーヒーも選びますうううううう!!!!!」バタタタタ

浜面「だからせめて説明するか荷物置いてくかしろやコラー!!!!!」ダダダダダ


廃病院、大会議室

垣根「パシリおせえな」

麦野「勘違いしてんじゃねえよ。浜面は私のパシリなんだから」

一方通行「べつに誰のパシリでもかまわねェが、喉渇きすぎて死ぬ」

御坂「水道水飲めば? ベクトル操作で分解、浄化できるんでしょ?」

削板「人間濾過装置か! すげえな、根性いる仕事じゃねえか」

一方通行「違ェ!」

土御門「シズリ。あいつは信用できるのか?」

麦野「あれでも暗部の下っ端よ。そう簡単に口は割らないわ」

土御門「いや、そうじゃなくて。パシリ的な意味でちゃんと戻ってくるのかっていう……」

   ウラヤマシイイイイイ…
       エラビマスウウウウウウ

                 ダカラセメテ…
                   シロヤコラァァァァアアアア

海原「? 外が騒がしいですね、ちょっと見てきましょうか」

17600「……いやー、見てこなくていいんじゃね? むしろ待機しといたほうがよくね? とミサカは面倒事を回避しようとしますが」

一方通行「つゥかよ。ハマーがいねェ間に簡単に状況把握といきてェンだが、結局あいつは何なンだ?」

垣根「んなもん決まってんだろ、あいつは『向こう』のスパイだよ。直接口を割ったわけじゃねえが、墓穴堀りまくってたからな」

土御門「暗部に向いていない男だにゃー。たしか、シズリをぶっ倒したんだったか」

麦野「はいぃー? 聞っこえないにゃーん?」

削板「ていうかオレもよくわかってないんだが、『向こう』ってのはヨシピーとかのことでいいんだな?」

御坂「あー、もう埒があかないわね。ここになぜかあるホワイトボードで簡単にまとめればいいじゃないの」

海原「はい! そうですね御坂さん! ちなみにそのホワイトボードを準備したのは自分です!」

17600「堂々とうそついてんじゃねえよ、とミサカはふたりがかりでホワイトボードの運搬にあたったことを声高に主張します」

一方通行「だから誰でもイイっつの。オラ、書けよシズリ」

麦野「また私? いいけどさあ」キュポッ

土御門「まず、一点目。『向こう』とはすなわち『補完計画』のことで、オレら『最終計画』のサブみたいなもの」

垣根「ま、メインプランであるところのイッツーに対するスペアプランの俺、ってとこだな」

一方通行「ンで、二点目。ヨシピーってのは芳川桔梗。俺の絶対能力進化計画にも加担してた、まァまァ優秀な元研究職現ニート」

削板「えっと、三点目か。オレの知るかぎり今のメンバーは四人。名前は忘れた!」

海原「名前についてはこちらで把握しているので問題ありません。結標淡希、白井黒子、上条当麻、そして浜面仕上です」

御坂「黒子に、あいつも。何やってんのかしら」

17600「それから、これはついさっきミサカがつかんだ情報ですが——と、ミサカは午前中の訪問者があちら側であることを指摘します」

垣根「え、初春ちゃんが? どこ情報? それどこ情報よ?」

17600「彼女が少し不審だったので一応探知機つけといたんです、とミサカは自身のスネーク能力の高さを誇りつつ、マップのとあるマンションを指し示します」ピッ

麦野「んー。この赤い点が集まってるのが敵の陣中ってわけ?」

土御門「そんなところだ。マンションで合宿ってのもおかしな話だが、第十九学区に合宿施設はないしな」

一方通行「あー……あの花飾りが向こうにいるってェコトは、つまり午前中に話した内容は筒抜けってワケだ。周囲をよく観察してやがったし、けっこう情報漏れてンじゃねェか?」

海原「その可能性は高いですね。もっとも、彼女自身はさほど危険視するような存在でもな、」

御坂「——甘いわ」

海原「はい、甘かったです」

御坂「!?」

垣根「いやニコニコ肯定してんなよ。予想外の反応にミコトがびっくりしてんじゃねえかよ」

海原「! それはすみませんでした」

御坂「あ、べつに責めてるわけじゃないの。ただ、最近の楽曲って、CDで発売するだけじゃなくて……モバイル配信とかさ、ダウンロード配信とかしてるから気になって」

一方通行「そォいや、俺らはCDオンリーで配信の展開はねェのか?」

17600「それに関してはまだ白紙ですね、とミサカはそもそもレコーディングレベルにさえ達していないことを考慮します」

麦野「で。その配信と午前の花頭に何の関係があるわけ」

御坂「何の関係が、って言われるとちょっと困るんだけど……その、ネットでそういう商法に出られた場合、負けるんじゃないかと思うのよね」

垣根「ああ、たしかに俺らん中にゃ誰も売り込み方に詳しいやつはいねえけど。でも、初春ちゃんは関係ねえだろ」

一方通行「オマエさっきからウイハルチャンウイハルチャンってうっせェ」

垣根「昔虐げた女の子をちゃん付けで呼んでる俺に酔ってるんだ」

削板「それ最悪じゃねえか。どういう神経してんだよ」

土御門「どうせ常識が通用しないんだろうさ」

垣根「!!」

麦野「お株取られてるわね、ざまあ」

垣根「なんつーかさ、自分で言うのと他人に言われんのとじゃ心境がな? なんつーか、な?」

一方通行「バカはほっとけ。あの、花頭が甘くねェってのはどォいう意味だ」

御坂「えーっと……その、ね。ほら、私電撃使いトップでしょ? クラッキングっていうか、ハッキングは得意なんだけど」

麦野「ああ。能力でゴリ押しすれば大抵のセキュリティは突破できるわね。それで?」

御坂「簡単に言えば、初春さんは私に匹敵するハッカーなのよ。彼女、風紀委員なんだけどね、その腕を買われて試験に合格したらしいの」

土御門「つまり、この場にいる誰よりもネットに詳しいと。そういうことか?」

御坂「ええ。ちょろっと昔関わった事件でも有能な働きをしてたし……純粋な戦闘能力でいえばたいしたことはないのかもしれないけど、脅威だわ」

17600「なるほど。つまり、こちらは全面的にCDを押し出していくつもりですが、向こうがネット中心で展開されたら勝てない可能性が高いわけですね、とミサカは頷きます」

削板「何言ってんだ? だったらオレらもネット使えばいいじゃねえか。目には目を、歯に歯をって昔から言うだろ!」

一方通行「……あのなァ。同じ土俵に立たねェほうがイイ相手ってのもいンだよ、この根性バカ」

垣根「え? おまえそういう弱気なこと言っちゃうの? ねえねえ言っちゃうわけ?」

一方通行「ウイハルチャンうっせェ」

麦野「ふむ。まあ向こうがそもそも私らと同じようにデビュー狙ってるのかどうかはわかんないけどさ、同じ時期に売り出す必要もないわよね」

海原「と、言いますと」

御坂「タイミングね、それはカッキーとも考えたわ。どうせ私たちは素人だから、人気絶頂のアイドルやらファンの多いバンドやらと競争して勝てる見込みはほとんどゼロ」

垣根「だから、わざと外していかなきゃならねえ。それもひとつの正攻法だと思うんだが」

削板「真っ向勝負を捨てるってのか!? おまえら自分の演奏、自分の歌にこめる激情に自信がねえのかよっ!」

一方通行「熱くなってるとこ悪いンだがな、俺らが一番危惧してンのはオマエの演奏技術だ。覚えとけ」

削板「それはすまん!!!」

土御門「素直でよろしい。とにかく、まだレコーディングさえ終えていない状況でどう売り込むだのと考えている暇はないんだ、おまえ達は『向こう』のことなんて気にしなくていい」

麦野「なかなか頼もしいじゃない。何か手立てでもあんのかしらね?」

土御門「オレを誰だと思ってる——LEVEL5のプロデューサーだぞ。すべての責任はオレが負う。もちろん、おまえらを一位にするためならどんな手だって使ってみせるさ」

一方通行「ひゅゥー、カッコイイー惚れちゃいそォだぜツチピーくンよォー」

海原「驚くほどの無表情でいわれるとそこはかとなく馬鹿にされている気さえしてきますね」

垣根「まあ、そんじゃ俺らは当面、おとなしくテメェの技術を磨き上げりゃあいいわけだ。ところで、気になってたんだけどよ」

17600「はい? とミサカはカレンダーに視線を向けたカッキーに続きを促しますが」

垣根「どんだけ俺らが人外で、どんだけ俺らが努力しようとも……この一週間でレコーディング、んでCD完成、売り出すってのは無理があんだろ」

御坂「たしかに、この調子じゃ無理よねー。まだ三日目だけどさ」

土御門「その点だが、さっきのカッキーやシズリ、ミコトの提案も踏まえて、ひとまず今週は曲作りに専念しようかと思う。どうだ?」

一方通行「どォだ、ってなァ。そりゃ、時間はねェよりあったほォがイイモンが仕上がる。当たり前の話だ」

削板「オレも同意する。オレは自分の根性が足りねえとは思わない! だが、いかんせん技術がオレについてこねえ!」

垣根「練習不足だ、ちゃんとやっとけ。大体よー、こん中じゃテメェが一番ドラムに向いてんのは疑いようのない事実じゃねえか」

麦野「……あんたそれ自分のギターボーカルの地位を守ろうとしてるだけじゃないわよね?」

垣根「バカ言え、そうじゃねえよ。俺はソギーの身体能力のことを言ってんだ」

土御門「ああ、たしかにそうかもしれないな。本来なら、おまえほどの適任者はいないんだ」

削板「え? そうなのか?」

一方通行「基礎が一番突拍子もねェのはオマエだからな。その気になりゃ、世界屈指のドラマーにだってなれる、そンくれェの人外な速さで叩けるはずだ」

御坂「それもそうかも。たぶん、コツさえつかめば最高のドラマーになれるんじゃないかしら。ギタリストにもなれると思うけどね」

垣根「ギター枠は定員オーバーなんでけっこうです」

17600(えっなにこの賞賛の流れ、とミサカは空気が読めないのであえて発言を控えます)

海原(おそらく、彼らの言っていることは事実でしょう。それに、現段階でもっとも伸び悩んでいるのはソギーさんです。ここで激励することで彼のやる気を高めるつもりかと)

一方通行「にしても、おせェな」

垣根「そういやもう30分経ってるぞ。ついに外からは何も聞こえなくなったし」

17600「数分前からいちまんよんせ、じゃなかった、外にいた人間の反応が消えていますので、とミサカはしれっと答えます」

麦野「浜面のバカは何をチンタラしてんのかしらねえ……こりゃ鉄拳制裁もやむなしかなー?」

海原「仕方がありませんね、自分がすこし見てきますよ。みなさんは寛いでいてください」

一方通行「俺も喉渇いたし、見てこよォか」

17600「イッツーはあかん! とミサカは必死に引き止めます。無表情ですけど」

土御門(いちまんよんせ、……一万四千? 何もしなくても反応がわかるってことは、つまり浜面が一緒にいた相手は妹達のひとりか)

海原「よくわかりませんが、そういうことなので自分がひとりで行きますね。では」スタスタスタ

パタン

垣根「でさー、俺らは未成年だから飲酒はいけないわけですけどー、シズリちゃんはオッケーですよね」

麦野「テメェいきなり何言ってんだブチ殺すぞ」

御坂「えっ、あの、シズリっていくつ?」

麦野「あァ!?」プチッ

一方通行「バカじゃねェの。21だろ」ゴクゴクプハッ

麦野「あァンッ!?」ブチッ

土御門「……まだ、成人前だと思ってたんだが」

麦野「だが、じゃねえよ成人前だコラァ!!!」

垣根「んじゃさー、イッツーはいくつなわけ」

一方通行「あー……いくつだったかなァ、忘れた」

削板「自分の年齢を忘れることってあるのか? オレは忘れてるけどな!」

17600「忘れてんじゃねえか、とミサカはすがすがしく宣言したソギーにツッコミつつ、一番若くてピチピチしているのはミサカですねと優越感に浸ります」

麦野「黙れ小娘」

一方通行「イヤ、正直肌のきれいさで言えば俺の一人勝ちだな。ざまァ」

麦野「黙れ男女」

一方通行「オイこら」

垣根「それ男みてえな女じゃね?」

麦野「ってか、ついてんのかよ。はじめて見たときから気になってたんだけど、テメェほんとに男かよ? あァ? ほっせえんだよクソが」ゴクゴクプハッ

御坂「つ、つつついてるって、ついて」

一方通行「ったり前だろォが。あン? なンなら見ますかァ? オマエよォ、下ネタ連発するわりに処女っぽいよなァ?」

御坂「みみみ、みますかって、しょっ、しょじょって」

麦野「は、ァ、あ? 誰がテメェみてえな男のなっさけねェモン見たがるかよ。なあに? 見てもらいたいの? しごかれたいのかにゃーん?」

垣根「……なあおい、いきなりどうしたんだよこいつら」

土御門「いや、オレも今ちょっとよくわからん。元から口は汚いがなんでこう……」

削板「あ、これさっきイッツーとシズリが勝手に飲んでた水だ。オレも飲ませてもらおう」ゴクゴクプハッ

17600「へっ? あ、それ、あー……アウチ、とミサカは頭を抱えます」

御坂「ちょっと、どういうことよ。あんた何か仕込んだの?」

17600「いえ、仕込んだというか……その、酔った一方通行が見たいというリクエストがあったんで、パシリが戻ってきたらさりげなく混ぜて飲ませようと画策していた、その」

削板「お、おおお? おお、お——ひゃっはああああああああああああ!!! なんだか知らんが! 体に熱いパトスがほとばしってる! すげえ! なんかテンションあがるぞこれ! まじかるうぉーたー!!!!」

垣根「ペロッ……こ、これはアルコール濃度が50%を超えた……ってかもう水じゃねえだろ!」ゴクゴク

一方通行「あァアアア!? オマエなに飲ンでやがるそれァ俺ンだぞオマエこら吐けや吐けよバカ吐きやがりましょォよバカッキー」バッ

麦野「なぁあああに言ってんのそれ私のだからー私が飲むべき水だからー。第一位とかお子様はおとなしく水道水分解でもし・て・ろ☆」バッ

土御門「おまっ、待てこら落ち着けそれ以上飲むなもごっ」ゴクッ

削板「まあまあ飲めよコーチ。うんまいぞぉ〜? 目の前に桃源郷が見えちゃうぞぉー? おっとあそこにカルガモの親子が! 今助けるぜ!」バタタタタッ

御坂「いやあああああ!?!? あんたら何酔ってんのよってかソギーその爬虫類みたいに壁這うのやめんくっ」ゴクンッ

麦野「きゃーっははははははは!!! なにをイイコぶってんのよぉぉおお!!!! 飲めよ飲めよ飲めよそんで潰れちまえあーっはっはっはあああ!!!!!!」

一方通行「だからァー、それ俺のなンだってェ。わかってンの? なァわかってる? 俺の水奪った責任とってくれる? ねェ死ンで? 吐いてくれますかァ?」ガクガクガクガクユサユサユサユサ

垣根「うおえっぷ、ん、うぼえっ、ぐえっ、お、ぇ」ユサユサユサガクガクガク

17600(じ、地獄絵図や……ここに地獄絵図が今完成したでえ……とミサカは己の所業を呪い反省しつつ、我を忘れるためにぐいっと)グイ、ゴクッ

17600「……、……」

17600「あ、やば、マジつよ、とミサカは、……ばたり」パタッ

土御門「これwwwwwアルコールだけじゃねえwwwwwwなんかwwwwwww入れたろwwwwwwお見通しだにゃーwwwwwwww」

削板「カルガモぉぉおおおお!!! そうだ、羽ばたけ! オレはおまえらを信じてる! クルッポォォォオオウ!!!!!!」カササササ

御坂「だいったいねえ! 私をさしおいてなにをしてんのよ! ねえなに! むすじめあわきとかあ! くろことかあ! 合宿う? なによ、なんなのよお!」

一方通行「ジャカジャーン……ジャカジャカジャカジャンッ、あのころー、おォれたちはァー、ゆゥめにぃー、むゥかァァアアいー……」

垣根「そぉーしてー……なかぁまとー……であぁいー、すごぉーしたーあ……」

一方通行「ゆめのォー……おォーわりィー……オマエはァー、つぶやいたァー……」

垣根「おらー、とぉぎょうさー、いぐだああああああああっ!!!!!」

一方通行「ランランラララー、ランラララァァァアアアアア」

垣根「ルンルンルールルルルゥゥゥウウウウウウウ」

一方通行「ラーラララールララーァァアアアアア」

垣根「ルンルンルールララーァァアアア……そぉーしてーえー」

一方通行「おォれーたちはァー……」

垣根「ばぁらーばらにーなりぃー、やぁがてー」

麦野「ウルトラソウッ!」

一方通行・垣根「「はァい!」」

麦野「そーしてー、あーのひー、かわーしたーああああ」

一方通行「やァくそくーゥ、むゥーねにィー」

垣根「ちぃかいのーお、こぉーとばーあ」

麦野「ぜーったいー、わすれないー」

御坂「だからあ! 私もいれてっていってんのよ! 私だってあいつと遊びたいし歌いたいし音楽かなでたいしってかもうなによなによなによぉ! なにしとんじゃーああああ!!!!」

土御門「ちょwwwwおまえらwwwwwミコトはともかくwwwwwwなに歌ってんだwwwwうはwwwwwww録音しとけよwwwwwww待ってろいま録画するぜいwwwwww」

三人「「「ルルルールラララー、あいにいこーうー」」」

削板「カァァァルガモォォォオオオオ!!!! そこだ! まだまだやれる大丈夫だ! 負けんな負けんな! そうだ、はい死んだ! はい死んだよカルガモっておおおおいカルガモぉぉぉおおおお!!!」


会議室ドア前

浜面「俺が遅かったばっかりにあいつら発狂しちまったのか……」

海原「というか自分が出てきたときはわりとシリアスな雰囲気だったんですが……」

浜面「くそっ、店員にかまうんじゃなかった……てか第七位は見えないカルガモと戯れてんのか……」

海原「むしろ御坂さんはいったい誰に話しかけているんでしょうか……あ、17600号は死んでますね」

浜面「もうどうなってんだ? 麦野たちはなんで三人並んでゴスペルのように高らかに歌い上げてんだ? なにあの歌?」

海原「おそらく酔った勢いの即興ですね、なんで土御門さんが録画してるんだか意図が読めませんが」

数時間後

麦野「……正直酔ってた、まあ反省はしてるわ」

海原「ですよね。じゃなきゃ会議室ではしゃいだあげく自分に目をつけて髪を坊主にするなんてことできませんもんね。頭が寒いですよ」

一方通行「だってオマエあれだろ、それ偽の姿なんだろ? 皮とか剥いでなンかすりゃまた元通りだろ?」

浜面「いやそれよりなんで俺の脛毛を一本一本抜いたのか詳しく」

垣根「目の前にあったから」

浜面「しれっと言うなちょっとは反省しろ! 見てこの足! すげえ赤くなってる! もう炎症モンだぞ!?」

麦野「脱毛できてよかったじゃない。私脛毛濃い男ってあんまり好きじゃないのよね」

一方通行「あァ、なンか見ててうわってなるなァ。完璧に手入れして剃ってるのもきめェが」

垣根「きもくない。ていうか俺はべつに暇つぶしに除毛してるだけで手入れを心がけてるとかそういうわけじゃない」

海原「自分たちを放置して言い争いをしないでいただけますか? 謝罪の一言もないんですね」

麦野「だから、悪かったって言ってるでしょ」

一方通行「あァ、言ってる」

垣根「おう、言ってる」

浜面「反省の色が皆無だってかおまえらマジ飲酒禁止! あとそっちの転がってるやつらはどうすんだよ!」

土御門「」
御坂「」
削板「」
17600「」

一方通行「……俺らなンもしてなくね?」

垣根「してねえな。ちょっとまあ遊んだけども」

麦野「あいつらが酔いつぶれたのと私らがはしゃいでいたことの因果関係はまったくないわ。なさすぎてむしろあるレベルよ」

浜面「あるんじゃねえか」

一方通行「いや、たいしたことはしてねェよ。まァちょっと気分良かったンでェ、腕相撲とかしかけただけだ」

海原「だからあの肉体派の土御門さんが倒れ伏してるんですね……能力全開じゃないですか」

一方通行「普段もやしとかおちょくってくるから内心仕返しの機会狙ってたンですゥ」チラッ

垣根(え? なに今の目線のよこし方なに? 次はオマエだ的な今のアイコンタクトなに?)ゾクッ

麦野「まあ、済んだことは仕方がないわ。毛なんてそのうち生えてくるじゃないの、腕と違って」

浜面「その返しをされるとグウの音も出ねえよ……」

垣根「ああ、でも俺全力で脱毛しちまったしな。埋もれ毛に気をつけろよ」

一方通行「ウモレゲ?」

垣根「なんか脱毛ばっかしてると、生えてきた毛が皮膚下にもぐったまま出てこねえことがあるんだよ。かゆくなるぞ」

海原「個人的にはどうしてあなたがそこまで毛に詳しいのか非常に気になるところですが」

浜面「ってか俺べつに脱毛しろとか頼んでねえし生贄にされただけなのにそんな弊害まであんのかよ!」

一方通行「毛の悩みとか正直理解できねェわ」

麦野「あんた毛も白いもんね。脱色してる人間が羨ましがるわよ」

一方通行「つゥかまず毛が薄いンだよな。能力のせいかどォかすらわかンねェ」

垣根「そうやって2対1でいじめるのって……超能力者的にどうなんですか……」

一方通行「どォもこォもねェ。勝てば官軍、っつゥンは昔から言われてンだろ」

麦野「そもそもいじめてすらいないわよ。いじめるっていうのはたとえば——」

バタバタバタンッ

浜面「悪い、遅くなったけど水もってきた……じゃなくて持ってまいりました麦野様っ!」

麦野「……こいつみたいに媚びへつらってくるレベルまで虐げることだからね」

一方通行(なンかここまでくると哀れなのってシズリの方だよなァ)

海原「あれ、まだ御坂さんは目を覚ましていないんですか? ちゃんと介抱しました?」

垣根「した。あ、嘘してない。ミコトはノータッチです、俺ロリコンじゃないんで」

麦野「誰が性癖の話しろっつったよ」

浜面「つうかよ、俺そろそろもどり……、……じゃない、あー、えっと、帰りたいんだけど」

一方通行「どこに? オマエに帰る家なンてあンのか? あァ、愛の巣とか?」キョトン

浜面「えええ!? いきなり精神攻撃きた! 唐突にホームレス呼ばわりきた!」

垣根「愛の巣! ネスト・オブ・ラブ! ファッキン! リア充死ね! 二度とくんな……いや、二度とこれなくしてやるいますぐここで殺してやる覚悟はいいか俺は出来てる」ファサッ

海原「ちょっと、戦闘ならよそでお願いしますよ。ここには白雪姫のように王子からの目覚めのキスを待ちわびている御坂さんがいるんですから!」

一方通行「まさかとは思うがオマエ、自分がその王子サマだなンて思ってねェよな」

海原「いえわりと普通に思ってますが?」

麦野「……えっ、そういう関係なの?」

海原「ええ、そういう関係なんです」

一方通行「いけしゃァしゃァと嘘ついてンじゃねェぞコラ。オマエ全然そォいう関係じゃねェだろ」

海原「大体そういう関係ってなんていうか、不確かですよね。定まっていないというか。つまり千差万別っていうか」

浜面「そういうってことはつまり恋人的なポジションなの? って話だろ?」

海原「……まーたこのリア充は」チッ

浜面「俺なんかおまえにした!? してないよね!? なんで舌打ち!」

垣根「バッカ、おまえリア充はこの場にいるだけで淘汰されるべき存在となっているんだよ。わかるか? 淘汰って言葉知ってる?」

浜面「と、とう……知らねえ……」

一方通行「アホだ……」

浜面「やめろ! 元スキルアウトリーダーにそういう知識を求めて辱めるのはやめろ!」

麦野「あれ、あんた辱めるってわかるんだ。へえー、漢字書けるわけ?」

浜面「か、書けません……はい……すんません調子乗りました……」

海原「元スキルアウトリーダー(笑)」

一方通行「なァ、オマエ自分の名前漢字で書けるのか? 書けないンじゃねェの?」

浜面「さすがに書けるわボケェェェエエ!!!! なめてんじゃねえぞ! 浜面仕上という俺のフルネームはすべて小学4年くらいで習う! 全部書けるわ!!!」

垣根「あー、俺昔帝督の督書けなかったわ。テストじゃいっつも垣根てーとくって書いてたわ」

一方通行(こいつ多分帝督の督って漢字知らねェだろォなァ)

麦野(そういや『アイテム』の資料読み通すときもたまに滝壺に読み方教わってたっけな)

海原「あ、督の字くらいわかりますよね? アステカ出身の自分でさえわかりますしね」

浜面「おっお、おおう! わからねーわけねえだろ! なめすぎだわ、そりゃいくらなんでも浜面様をなめすぎってもんだわ」

一方通行(こいつ多分督って漢字知らねェだろォなァ)

麦野(そういや『アイテム』の資料読み通すときもたまに滝壺に読み方教わってたっけなあ)

浜面「んなことより! 早くそこの削板起こして練習をですね! しなければならないと思うんですけれどもね!」

一方通行「ドラムの練習なら明日だな。今日はもォ無理だろ」

麦野「んー、まあそうね。明日も二日酔いひどそうだけどさ」

浜面「マジでか」

垣根「ところでこの録音されたデータ……どうする」

海原「自分と浜面さんは先程生で聞きましたからね。本人であるあなた方は聞かないほうがいいかもしれませんが」

麦野「……え? 本人?」

浜面「おまえら酔ってるとき歌ってたんだよ。なんかよくわかんなかったけど高らかーに歌い上げてた」

垣根「……、記憶あるか?」

一方通行「いンや全く。ちっとも」

海原「何といえばいいでしょうか、卒業式っぽい曲というか……サライっぽいというか」

麦野「愛は地球を救う、ってかァ? あっりえねえ」

一方通行「そもそも解せねェな。なンでわざわざ録音なンざしてやがる」

垣根「——おまえら、シークレットトラックって知ってるか」

海原「と、いうのは?」

垣根「所謂隠し曲だよ、表立って公表はしねえ曲でな。まあアーティストによってどんな曲かは異なるが、遊んでる場合が多い」

浜面「あー、俺一時期ハマったバンドはCDの1曲めをさらに巻き戻すと隠しが聞けたな。ネットでDLできねえってんでそのバンドは全部CD買うはめになったけど」

一方通行「ネットでDLできねェ? どォいうことだ」

浜面「だからさ。最近じゃすっかりネットで音楽落とせるしCDなんてかさばるもんは買わない風潮だけど、CDじゃないと聞けない曲を聞きたいくらいハマってたってことだよ」

麦野「購入特典みたいなもんなの? 違う?」

垣根「ちょっと違うけどそれに近いかな。要するに、CDの利点を最大限に活かして売り込んでんだ」

麦野・一方通行「「!」」

浜面「ん、どした?」

海原「……なるほど。アナログにはアナログの長所がある、そういうことでしょうか」

一方通行「そのシークレットトラックでファンの心を掴めるかもしれねェな」

麦野「さっすがツチピー。よく考えてるじゃない」

浜面(アナログには、ってことはデジタルで売り出す予定はねえのか……? いや、むしろ俺らはどっちなんだろう)

海原「とりあえず聞いてみますか、再生っと」

垣根「待った」

海原「はい?」

垣根「……、イッツー。シズリ。ちょっと来い」

一方通行「?」

麦野「なによ」

垣根「いいから来い! ちょっと隣の部屋行くぞ!」

隣の部屋

麦野「何なのよ一体」

垣根「さっき隠しについて考えていて思ったことがある」

一方通行「ンだよ」

垣根「そもそも、だ。どうしてアレイスターは俺たちにバンドなんてもんをやらせていると思う」

麦野「そっからかよ。上の考えなんてモルモットにわかるわけないでしょ」

一方通行「……少し昔の話になるンだが、打ち止めが死にそォになった時があった」

垣根(最終信号ってしょっちゅう危険に晒されてるイメージがあるな)

一方通行「まァ、そンときの俺もくたばりそォになってたからな。あいつにしてやれることなンざほとンど残されちゃいなかった」

麦野「己の無力さを歯痒くも噛み締めていたわけだ。それで?」

一方通行「素性は知らねェが、通りすがりのシスターが出てきてなァ。『歌』を歌ったンだよ」

垣根「そりゃまた、素っ頓狂な話だな」

麦野「まさかそれで回復したなんて言わないでしょうね」

一方通行「それが——状況が少し落ち着いたンだから驚きだよ」

垣根「マジかよ」

一方通行「まァ似たよォな話が続くが、ロシアでも『歌』で打ち止めを救えたことがある。もっとも、俺が歌った歌やシスターの聞かせた歌は、およそ一般的な歌じゃァねェらしいが」

麦野「……そういや、ちょっと前に幻想御手事件とかいうのもあったわね。ちょっとっつーかだいぶ前か」

垣根「ああ。なんだっけか、曲聞かせて脳いじくって無理やりレベル上げんだろ? まあそれでも超能力者レベルのはいなかったようだが」

一方通行「つまり、俺たちが考えている以上に『音楽』っつゥのは力があるンじゃねェのか。キャパシティダウンも聴覚を利用していることだし」

麦野「それもそっか。目は自分で瞼下げりゃ自然に閉じられるけど、耳は自力でふさげねえしなあ」

垣根「日本じゃ神に捧げるっつーと大概舞踊だが、西欧やらなんやらだと聖歌なんてもんもあるな……そうだ、ついでと言っちゃなんだがひとつ前から気になっていたことがある」

麦野「あん?」

垣根「今西欧って言って思い出したんだ。昔のヨーロッパにアレイスター=クロウリーっていう不世出の魔術師がいたらしい」

一方通行「……、それで?」

垣根「うちのトップと名前かぶってんなーってだけだ」

麦野「たしかにアレイスターって名前はあんまり聞かないけどさ。そのオカルトチックな魔術師とやらは、何百年前の人間なのよ」

一方通行「常識的に考えりゃ、別人だとは思うがなァ」

垣根「常識的、ねえ。俺に常識なんて通用しねえのはわかってると思うが、アレイスターにも通用しなさそうだよな」

土御門(そこに気づくとは、やはり天才か)

一方通行「……、オイ」

土御門「にゃー」

麦野「ツチピー、あんたいつから……」

土御門「ついさっきだぜい。浜面と海原がお前らは隣の部屋に行ったっていうから最初はドアに耳つけて話聞いてたわ」

垣根「そこは普通に入ってこいよ!」

一方通行「入ってこれねェ理由でもあったか」

土御門「……いや、べっつにい?」

麦野「ま、さっきの話はバカの妄想でしかないでしょうし。いくら学園都市だっつっても人間が数百年レベルで生きてられっかよ」

土御門(それがガチだっつーから怖いんだにゃー)

垣根「妄想って断言するのもどうかと思うんだけどな。話戻すけど、アレイスターが俺らにバンド組ませてる本当の理由ってなんなんだろうな?」

一方通行「だから歌で世界を——、!」

麦野「? どうしたのよ、んな変な顔で固まって」

一方通行「ツチピー……、いや土御門。オマエ、本当はどこまで知ってやがる」

垣根・麦野「「!?」」

土御門「んー? 何のことだかオレにはさっぱりだぜーい?」

一方通行「薄々気づいてはいたンだよ。超能力者集めてバンド組ませて、それが平和的に終わるワケねェってのはな」

垣根「あー、たしかに今更感はあるよな。あんだけ平気で人殺しまくっといてーみたいなー」

麦野「でも、暗部は表面上解体されたじゃない。これからはハッピーエンド目指しましょう……っつー都合のいい言葉が出てくるわけもねえか」

土御門「……、……」

一方通行「オマエは計画を早く進めよォとしていたな。いくら超能力者と言えども、俺達は音楽に関しちゃズブの素人だっつゥのにだ。つまり、迅速に曲を完成させて売り出す必要があったワケだ」

土御門「……、ふむ。それで?」

一方通行「それから、構成面子もよく考えてみりゃァおかしい。オマエは俺達をトップに押しあげたい。だったらまず曲を大勢に買わせなきゃならねェ——手っ取り早い方法は洗脳だろォが」

麦野「第五位がいない、か」

一方通行「あァそォだ。俺や垣根、麦野のよォな元暗部の連中を肉体的に引き止めておきながら、どォして第五位がいねェ? この面子はどォなってる」

土御門「……遅いぞ、一方通行」

一方通行「!」

土御門「あーあ、すっかり待ちくたびれたぜい。おまえは勘が鋭いからすぐに思い至ると期待してたのに、今の今までご指摘ゼロってどういうことだにゃー」

垣根「えっ待って俺は? 俺は期待されてなかったわけ?」

土御門「おまえも一部じゃ満点合格だ。もっとも、最速で合格点を叩きだしたのは削板だがな」

麦野「ソギ—? なんであいつの名前がここで出てくるのよ」

土御門「追々話してやる。まずは……そうだな、第五位についてだが。アレイスターは彼女を最後の切り札としている」

垣根「ってことは、あれか? 売れなかった場合の予防線みたいな感じか」

土御門「そうなるな。さらに詳しく言えば、『出来れば使いたくない切り札』だ」

麦野「どうしてよ、最初っから心理掌握でばーんどきゃーんずががががってやっちゃえば済む話でしょ?」

土御門「話はそう簡単には終わらないんだよ。これはあくまでもオレ個人の予想でしかないが、アレイスターがお前らにさせようとしていることは『科学的』じゃない」

一方通行「……、……」

麦野「はあ? ここは学園都市、科学の最高峰なんだけど?」

土御門「だからこそ意味がある。科学の申し子である超能力者にさせることで意味を持つ」

麦野「まだるっこしいわね、結論を述べろ結論を」



土御門「——、——融合だよ。科学と、非科学のな」


一方通行「……俺らはともかく、第三位はどォなる。あいつにまで血反吐はかせる気かよ」

垣根「血反吐? 歌うだけなのになんでそんなことになんの」

一方通行「俺がそォなったンだよ。歌うだけでな」

土御門「お前が行ったのは融合じゃなく拝借だな。向こうの技術をそっくりそのまま能力者が使いこなせば、そりゃ血反吐もはくさ」

麦野「よくわかんねえんだけど。つまりあんたらは私たちにもっかい死ねって言ってんのかにゃーん?」

土御門「失敗すれば死ぬ可能性も低くはない。だが、それこそ今更じゃないか? お前らが今まで身を置いてきた場所はこんな生温くなかっただろ?」

垣根「……は。要領を得ねえよ、クソプロデューサー。もっとはっきり言ったらどうだ、『科学と魔術を足して2で割れ』ってよ」

麦野「!?」

一方通行「……、……」

土御門「ふむ。垣根、お前いつ気づいた」

垣根「結構前だな。確信に至ったのはさっきだけど、その反応だと当たりらしい」

麦野「ちょっと待てよ、魔術ってアホか? んなオカルトな話信じられるわけが」

土御門「学園都市の統括理事長たるアレイスターは他ならぬ世界最高にして世界最低の魔術師、アレイスター=クロウリーだよ」

一方通行「そりゃまた、クズってレベルじゃねェなァ」

垣根「俺の予想はとことん大当たりだな! 今日は調子いいわ!」

麦野「いや、ふざけんなよ。魔術ってどういうことよ、神話レベルの話じゃないの? この科学が発達した現代でそんな馬鹿げたお伽話にすがってる連中がまだ生きてるわけ?」

土御門「学園都市で暮らしていればそんな考えが身につくのも仕方ないことだが、日本を一歩出てみればわかるさ。なあ、一方通行」

一方通行「……少なくともシズリが考えているよりはずっと、現代的だ」

麦野「っ!」

垣根「で。要はそのふたつの分野を融合させて、アレイスターは何がしたいんだよ」

土御門「さあな、詳しくは聞いてないが——世界でも掌握したいんじゃないのか」

一方通行「……、クソッタレが」

麦野「んでぇ? クソ上層部の狙いはわかったわよ、でも第五位不在の説明も完璧じゃねえよなあ? 納得いくまで説明してもらわないとブチ殺すぞ」

土御門「
まあそう短気になるなよ。第五位は曲ができた際にサポートに回る手筈になってる、あまり能力を使わせない方向でな」

垣根「だぁからー、なんで心理掌握を使わせないわけ? そこんとこが気になってんだよ」

土御門「……繊細すぎるからだ」

一方通行「繊細、ねェ」

土御門「ああ。たしかに心理掌握の能力を持ってすれば、曲を学園都市中に広め、ひいては日本、世界をも圧巻できるかもしれない。だが、コントロールが難しいそうだ」

垣根「演算能力の限界とかそういう話か?」

土御門「本人はそう言っていたな。本当かどうかはわからないが」

麦野「そんな理由で重役出勤が認められていいわけないでしょ、引っ張りだしてこいよ」

一方通行「概ね同意だな。演算が狂うのは俺だって、そこのバカやシズリも同じだ」

土御門「まあぶっちゃけオレも第五位はちょっと苦手だからにゃー。扱いにくいしなんか近寄りがたいし? できればあんまり関わりたくないなーみたいなー?」

垣根「そういや『スクール』にも心理定規っつー仲間がいたけど、あいつも最初は近寄りがたかったな」

麦野「……気に食わない。いいわ、この一週間は曲作りに専念してやるよ。けどそっから先は第五位を混じえなきゃ許さねえ」

土御門「えー」

垣根「精神系の連中って扱いめんどくさいぜー? べつにいなくてよくねー?」

一方通行「じゃじゃ馬が増えるだけだろ。大して変わらねェよ」

コンコン

御坂「ちょっとー入っていいー?」コンコン

土御門「!」

垣根「(……どうするよ)」

麦野「(さすがにミコトに今の話全部聞かせんのも荷が重いんじゃないの)」

一方通行「(いずれ知らなきゃならねェことだ。削板はもう知ってンだろ)」

土御門「(いや、ソギーも全部は知らない。ただほら、あいつ原石だからそこらへんと絡めてゆるーくもわーっと説明したんだよ)」

御坂「ねえ聞いてるー?」コンコン

麦野「(ああもうほら、入ってきちゃうじゃない!)」

一方通行「(どォすンだよツチピ、)

垣根「は、入ってますう! 踏ん張ってますう! 今ちょっと便秘気味なんでえ!!」

御坂「……、失礼しました」

一方通行「ってアホかァァァアアア!!!!」スパーン

垣根「いだっ! なに、だめだったの!? 渾身のトイレで踏ん張る真似はだめだったんですか!」

御坂「ああもう入るわよ!」

土御門「ついでに海原とか削板呼んできていいぞ、浜面はどうでもいいけど」

麦野「オイどうでもいいってなんだオイ」

土御門「だってあいつスパイじゃん。なんだかんだぐだぐだ話したけど他の計画に負けたくないだろ」

垣根「そりゃまあたしかに。負ける気もしねえけど」

一方通行「ただ向こうのプロデューサーはなァ……うン……」

麦野「……ああ、知り合いだっけ」

一方通行「なンつゥか……本気出したら半端ねェニートなンだよ」

垣根「なにそれ無駄にハイスペック」

御坂「海原さんなら浜面送りに外行っちゃったわよ。あとこのスマホ、ツチピーのよね? 録音アプリ動いてるみたいだけど」

土御門「ああ、それは数時間前酔っ払ってたカッキー達のクッソい生歌を録音したんだにゃー」

垣根「クッソい!? は? いやこれシークレットトラックに使うつもりで録音してたんじゃなくて!?」

土御門「なんだそれ。オレはただ面白かったし後々黒歴史になるかなって思って録音しといただけだが」

一方通行「隠し曲(笑)」

麦野「CDならでは(笑)」

垣根「おいやめろちょっとやめて恥ずかしいやめて」

削板「そのシークレットなんちゃらってなんなんだ?」

一方通行「CDに隠し曲を仕込むと売上伸びるンじゃね、みたいな話らしい」

削板「へー。オレもそれに参加したい」

垣根「おうおう、こぞって参加してくれ……、……ってソギー! お前生きてたのか!」

御坂「いやそもそも死んでないからっ!」





17600「つーかこの会議室誰が掃除すんだよボケ、とミサカはアルコールのせいでぐわんぐわんに揺れている脳を叱咤しつつ立ち上が……れねえわこれきっついわー」


第四回(合宿)、第三日目夜・終了

書き溜めしゅーりょォー
まあなんかこんなかんじでこそこそ投下しようと思います。
前回は展開がすすまなくて落としちゃったんだけど、みさきちとか公式キャラも固まってきたし出せたらいいなー

「曲、ですけれど……」

 白井黒子は鈴を転がすような声、ではなく極めて低い声——獣の唸り声にも似た低音で話題を切り出した。
 もちろんそれは、彼女を尋常ならざる状況下に置いた芳川への反抗心にほかならない。

「ええ、どうかした?」

「無理にわたくしが作る必要がないように思えますの。ていうかこんな中身のない歌詞に曲なんてつけたくありませんわ!」

 ばん、とデスクを勢い良く叩きながら力任せに自分の主張を述べる白井を、他のメンバーは濁りきった眼差しで見つめる。
 あーやっちゃったーついに言っちゃったー。そんな感情がこめられた目だ。

「たしかに我ながら斬新な歌詞かなーとは思っていたけれど、むしろ斬新すぎて困っちゃうのかしら」

「いいええ! 斬新かどうかはどうでもいいですの、問題はこの歌詞に! つける曲! メロディが! 浮かんでこないことにありますのっ!」

「それはわたしの管轄外よ、白井さん。キミの力不足だわ」

「く……くわーっ!!」

 こんなろくでもなく古めかしい歌詞をつらつらと書いて押し付けてきやがった女に力不足とかほざかれた。
 心外だ、と言わんばかりに白井は歯をむき出し吠える。見かねた結標が助け舟を出した。

「た、たしかにこの歌詞はなんていうか……そう、独創的だわ。ちょっとなかなか見ないレベル」

「でしょう? わたしの才能もまだまだ捨てたものじゃないわね」

 結標の精一杯の皮肉はまったく伝わっていない。
 芳川にしてみれば、歌詞を書ける人材がいなかったからプロデューサーの自分が一肌脱いだわけで、彼女自身は自分の作り出した詞になんだかんだ満足しているのである。
 彼女は白井ががなりたてる理由もわからなければ、他のメンバーがなぜ意気消沈しているのかも理解できないのだった。

「……、……わかりました。わかりましたわプロデューサー様。そういうことならわたくしにもある提案がありますの。ちょっと失礼」

 額に青筋を浮かべた白井が部屋を出ていく。片手に握った携帯電話でおそらく誰かに電話をかけるのだろうと推測はできた。
 上条と浜面は暇を持て余し指スマに興じていた。指スマさんっ、と浜面が叫び、指を上げなかった上条はよっしゃ、と小さく頷いている。

「ヨシピー。いいえ、芳川桔梗。あなた、そもそもどうしてこんなことをしているの」

 場を持たせるためか、結標が眠そうに目をこする芳川に疑問を投げた。
 結標が上層部からの連絡を受け、芳川と接触したのはつい最近のことである。結標以外のメンバーは合流してそのまま拉致された格好になるが、彼女は違う。
 もともと、補完計画というプランは結標淡希を中心に組まれており、白井や上条、浜面はおまけのようなものなのだ。
 芳川と初めて会ったときに、「歌で子供たちを救う」という名目をつきつけられた結標はこうしてこの場にいるのだが、彼女にはずっと気になっていたことがある。

「——あなた、遺伝子学の権威よね。なぜ研究職を追われたのかはわからないけれど、数カ月前まで在籍していた研究所では女だてらに副所長も務めていた……違う?」

「そういうことも、あったかしらね」

「あなたの論文も読んでみたわ。私は遺伝子学にあまり興味がないから言っていることの半分程度しか理解はできなかったけれど。
 それでもあなたの優秀さは伝わってきた」

「それはよかった、今度講義でも開きましょうか」

「とぼけないで。あなたほどの研究者がなぜ、こんなところでこんな真似を——」

 暗部に長らく身を置いていた結標は、警戒心が人一倍強い。芳川桔梗という人間を裏の裏まで詳しく調べあげた結果、いくつかの疑問が生じたのである。
 彼女の経歴には最後の最後で傷がある。何らかの事情で学者生命を絶つ羽目に陥っているのだ。そしてその事情は、いくら調べてもわからなかった。
 おそらく。芳川が在籍していた研究所で行われていた実験は、表沙汰にできないような内容なのだろう。
 嗅ぎ慣れた、闇の臭いを感じ取った結標はあえて計画に加担した。

(もし再びあの闇に舞い戻るようなことになっても、私は逃げたりしない)

 強大すぎるこの能力がなぜ自分に宿っているのか。
 この能力のせいで、どれほどのものを犠牲にしてきたか。
 この能力のおかげで、どれほどのものを救ってきたか。
 結標は知っている。理解している。自身が参加しているこの計画の掲げる真っ当な理由は、建前であろうことを。


「わたしね、『教師』に憧れていたのよ」

 芳川は白衣の袖をいじりながら結標の目を見て、そう言った。

「別段、こどもが好きというわけではないのだけれど。生徒に好かれ、頼られるような教師になりたかったの。教員免許も持ってるし」

「……、正直あんまり向いてねーと思うぞ?」

 会話を流しながら聞いていたらしい浜面が横槍を入れる。そうね、と芳川は彼の意見を肯定した。

「壊滅的に向いていなかったわね。わたしは誰よりも自分に甘かったから——責任感のある仕事には就けないってすぐに気づいたわ」

「研究者は、責任感がなくてもなれたのかよ」

 上条のつぶやきには、咎めるような響きがあった。ええ、とこれも芳川は受け入れる。

「研究者には責任なんてないわ。成功したら大々的に公表するし、失敗したなら闇に葬るだけ……研究者なら、こどもに責任を感じる必要もなかったもの」

 上条は、ある実験を思い出す。序列第一位の超能力者、一方通行を絶対能力者にするための実験。たくさんの妹達が犠牲になった——そして、自分が潰した実験。

(あれも、公表はされてなかった)

 芳川の言うように、失敗は学園都市の歴史から消されるのだろう。ふと、妙な考えが脳裏をかすめる。絶対能力進化実験、被験者は一方通行。
 自分が目撃した場面はまさに彼が妹達に手を掛ける瞬間だった。だから、加害者に見えた。こいつは悪いやつだと即座に判断した。
 けれど、たとえ一方通行が学園都市最強だといっても。

(あいつだって、『被験者』だ。研究材料だったはずだ。責任を放棄された——こどもだった、かも、しれない)

 上条は過去の自分に後悔なんてしない。結果的に、彼は一万弱の妹達を救ったヒーローだ。
 ただし、彼自身もまた、物事を多面的に捉えられるほど大人ではなかった。

「でも、だめね。甘い考えで研究職に逃げたわたしは、結局最後のツケを自分の命で払わなければならなかったのだから」

「自分の命? あんた、今普通にピンピンしてるだろ」

 浜面のツッコミに反応することなく、芳川は薄く微笑む。詳細を語るつもりはないらしい。

「……まあ、それからなんやかんやあってわたしはニートになったわけだけれど。同居人が働け働けってうるさいから、こうして仕事にありついたという話よ」

 わかったかしら、とでも言うように結標に視線を寄越す芳川である。結標は、そんな芳川の言葉尻を引っ掴んだ。

「仕事、ってことは、給料が出ているのね……」

「ええ。でも、わたしがここにいる一番の理由はお金じゃなくて——」

「皆さん、ちょっとよろしいかしら」

 芳川の台詞を遮って、白井が部屋に戻ってきた。彼女の表情は数分前に比べるとこれまたえらく不遜なものへと変貌している。
 どうやら電話により、彼女の心境は良い方向へ転じたらしい。

「まず、あなた方はこの歌詞について何か意見はありませんの?」

「いやー特にねえかな。最近こういうちょっと古めのテクノは流行ってるっちゃ流行ってるし」

 浜面は頭を掻きながら意見を述べる。彼はどちらかといえば所謂ロキノン系のほうが好きだったりするが、ここでは触れない。

「俺もこれは悪くないと思うぜ? ただ、歌詞っつーか音だよな」

 上条も反論らしい反論はないようで、歌詞の中身の無さをやわらかく指摘する程度である。一方結標は、返答すらなしに黙って頷いている。

「……まあ、ぶっちゃけわたくしも電話中に言われて考えなおしましたの。こういうジャンルならそこそこアリかなーと」

「あら。だったら曲もつけられるのね?」

「いーえ! それとこれとは別問題ってやつですわ。知っての通り、わたくしの学校は常盤台。自分で言うのもなんですがお嬢様学校ですの」

 慎ましい胸を張りながらドヤ顔をしてみせる白井だが、言いたいことがいまいち伝わっていない他のメンバーは首を傾げる。

「で、す、か、ら! わたくし、作曲は少々嗜んでおりますが……クラシックならまだしも、テクノはちょっと畑が違いますのよ。ていうかなんでそもそもテクノポップですの」

「これといって理由はないわね。ただ、音を大切にしたら意味が疎かになってしまっただけよ?」

 もっとも、さらに理由を付け足すなら。
 芳川桔梗は80年代の歌謡曲が好みでよく聴いていたため大いに影響を受けていたりいなかったりするが、彼女を除く全員が10代でありもちろん80年代のポップスなど守備範囲外である。

「理由はない! まあそうですの、ぜんっぜん理由はございませんのね!」

 白井はしつこく何度も再確認している。

「ないわ。強いて言うならわたしの全女子力……と言ったところかしら」

「でしたらわたくしからある提案をさせていただきます。先ほどわたくし、友人に救援を頼みましたの」

 白井に芳川に備わっているらしい女子力を気にかける様子はない。哀れみの視線を結標から受ける芳川だった。

「それというのも、その友人が電子機器に滅法強いからですわ。ほら、最近はやりの……ええっと、ニマニマ動画というものがありますでしょう?」

「ああ! わかる、わかるぜ。人間っぽい音声で歌ってくれるなんかすげえやつで作曲してる動画とかあるよな。俺はよくバニー動画見てるけど」

「バニー……? まあいいですの。とりあえずわたくしの友人は、そのなんかすげえやつで数曲ほど曲をつくっているんですのよ」

 浜面は白井の言う『ニマニマ動画』のプレミアム会員で巷では彼のような愛用者はニマ厨と呼ばれているが、もちろんここでは触れない。
 話についていけなくなった上条は、芳川が書き下ろした歌詞カードを見つめる。ぶっちゃけ、テクノポップで売り出すなら俺ら楽器隊はいらなくね? と彼は思う。

「えーと、何? つまり、あなたのお友達に作曲依頼しようっていう提案なの?」

「さすが結標さん。ご名湯ですの」

 にっこりと笑顔を作った白井は、微笑みを浮かべたままの芳川につかつかと詰め寄った。そして、じいっとこの自堕落なプロデューサーの瞳を覗き込みながら畳み掛ける。

「歌詞に思い入れがないようですし、構いませんわよねっ!」

 思い入れがないとまでは言っていない。
 しかし、芳川はなおも微笑みを絶やさなかった。

「ええ。むしろキミのお友達もここに呼んでくれたほうが助かるわね——わたし、いろんなタイプの生徒を持ってみたいのよ」


 上条当麻は、手にある歌詞カードに視線を落とす。
 彼のプロデューサーが全女子力をぶち込んだというその歌詞は、やはり少し古臭かった。



  『シークレット・ハイド・アンド・シーク』

  せなか背けてキミとばいばい 離れちゃった   
  あした話してキミの恋こい 聴かなくっちゃ
  キミの前じゃ 隠しちゃうわ
  ほんとは伝えたいけど やっぱやめやめ

  シークレット シークレット ハイドしてるの
  シークレット シークレット ハイドしてたの

  おみみ近づけキミの声こえ 響いちゃって
  いっそ傷つけキミと愛あい 愛しちゃって
  キミの前で 隠しきれない
  一気に伝えたいのに やっぱまだまだ

  シークレット シークレット 見つけてほしいの
  シークレット シークレット 見つけてくれれば

  (seek seek my love
   let let me love...)




裏第五回・終了

で、これがそのまま>>163からの初春に繋がるかんじー。
芳川の年齢的に80'sはちょうどよく音楽きいてるあたりじゃないかなーなんて思ってたけどわかんない!違うかも!
歌詞は笑う所だぜ!!!!

あれってかご名湯じゃねーよwwwwご名答だわwwwwww誤字ったサーセン

sageすらできてねえワロタ……
んじゃまた!



 手元には、音楽雑誌があった。表紙を見て、彼は少し顔をしかめる。雑誌を開き、ページを捲る。


【人気爆発! LEVEL5のすべて〜解禁独占インタビュー〜】


 ——"LEVEL5"というバンドを知らない読者は、果たしているのだろうか。彼らのパワフルかつアクロバティックなライブパフォーマンスは話題を呼び、繊細な年代ならではの反社会的メッセージを含んだ楽曲は10代から20代を中心に爆発的ヒットを飛ばした。
 今回は、そんなモンスターバンド"LEVEL5"の実質的リーダーであるカッキーへのインタビューを試みた。

記者(以下、記):今回はインタビューを受けてくれると思ってなかったよ。

カッキー(以下、カ):いえいえそんな。すみません、俺インタビューとかって慣れてないんです。

記:そっか、楽にしてくれていいよ。まずはデビューシングルについて話を聞きたいんだけど。

カ:あの曲は最初全然売れなかったんですよ。まあほら、俺らってド新人じゃないっすか。

記:確かに(笑)。僕らもメジャーシーンにまさか学園都市のミュージシャンが現れるとは思わなかったな。

カ:やっぱりそこなんですよね。学園都市っていうところは、よくも悪くも閉鎖的なんで。正直、外部……っていうとあれですけど、学園都市の外に出たことのなかった俺らにとって冒険でしかなかった。

記:じわじわ売れ始めて、発売から半年でミリオン。

カ:驚きましたね。俺らの歌をちゃんと聴いてくれるひとがいるんだって、メンバー全員で泣いちゃいましたよ。

記:LEVEL5といえば、ライブでのみ許されているパフォーマンスがあるとか。

カ:許されているっつーとちょっと語弊がありますかね。もともと、バンド名のLEVEL5ってのも俺らメンバーのレベルからきてるんです。

記:レベル?

カ:学園都市ならではの制度ですかね。学園都市の生徒は超能力を開発している——それが前提なんですが、俺らはその生徒のトップクラスなんですよ。

記:つまり、エリートってこと?

カ:自分で言うのもなんですが、そんなかんじっすね(笑)。

記:僕はまだ君たちのライブにお邪魔したことがないんだけど、ファンの子は揃ってライブでシビれるって言うね。

カ:ああ(苦笑)。多分それ、文字通りシビれちゃってんじゃねえかな、うちのギターはそういう能力持ちなんで。



記:そういう能力っていうと?

カ:つまり、ギターボーカルのミコトは電撃使いなんです。ライブじゃしょっちゅう火花散ってますよ。一度だけ、アンプがぶっ壊れたときはあいつが電力引き出してたんすけど。
 
記:なるほど。ライブ以外でパフォーマンスに能力を使う予定はないの?

カ:今のところないっすね。俺らは売れたいわけじゃないんすよ。ただ、同世代の誰かを救いたい。俺らが歌うことで誰かに勇気を与えられたら、歌ってきた甲斐がある。

記:最近のバンドはみんな売れたいっていうのにめずらしい(笑)。

カ:そうっすかね? ま、売れちゃったんで結果オーライみたいな?

記:メンバーはそれぞれ多方面で活躍中だそうだけど。

カ:キーボードのシズリは今モデルやってるんですけど……ここだけの話、いいっすか?

記:どうぞ(笑)。

カ:あいつ、素手で俺に勝っちまうくらい強いんすよ。一応俺がリーダーってことになってはいるんですけど、取り仕切ってんのはシズリかな。

記:尻に敷かれているみたいだね。

カ:ベースのイッツーは普段医療に携わってるんですけど、あいつもあいつでチームワークに欠けるというかなんというか。ライブでもMCが苦手だから滅多に喋らねえし、口開いたら攻撃的な文句しか言わねえし。扱いにくいっすね。

記:つまり、LEVEL5は曲者揃いだと。

カ:ほんと、曲者ってレベルじゃねえな。俺は一番常識人ですよ、超常識通じますよ俺(笑)。

記:そういえば、ドラムのソギーは楽譜が読めないとか。

カ:あいつはー……そうだな、ちょっと特別ですね。演奏面でも、能力面でも。

記:特別?

カ:音楽的センスが壊滅的に無いんですよ。これもオフレコでお願いしたいんすけど、あいつ一人じゃドラム叩けないんで。

記:誰かがそばにいなければ叩けない?

カ:いや、ライブ中は問題ないんですけどね。曲が出来上がったとき、見本として誰かが最初から最後まで叩いたのを見稽古で覚えてるんですよ。だからその点で言えば、音楽的センスの無さを凌駕する動体視力、卓越した器用さがあるとも言えるし。

記:確かに独特だね。

カ:はい。ソギーは演奏中に燃えると半裸になるせいでなかなかテレビに出られなかったっすね(笑)

記:かくいうカッキーは来期の月9でドラマデビューを果たすとか。

カ:あ、そこらへんの質問は今度じっくり(笑)。今の俺はカッキー個人じゃなく、LEVEL5のリーダーとしてきてるんで。

記:しっかりしてるね(苦笑)。

カ:リーダーですしね(苦笑)。




記:LEVEL5はライブパフォーマンスの派手さでファンを集めていったね。

カ:俺らの取り柄を活かすにはそれしかなかった。音楽に関しちゃ素人もいいところだったんで、それ以外に何かで人を惹きつけなきゃなって。

記:楽曲も同世代から熱い支持を受けているけど?

カ:そこまで持っていくのが大変でしたね。いくら魂削って曲を作って歌っても、歌声が届かければどうしようもない。最初は売れればどうでもいいって思ってたんです、正直。

記:さっき売れたいわけじゃないって言ってなかった?

カ:今は、売れなくてもいいって思える余裕ができましたよ。でもバンド結成時はひどいもんだった。メンバー全員がプライド高いし自己中だし、協調性なんて全然ねえしでまとまる気配さえなかったんです。

記:とすると、今のバンドになるまでに何か転機があったのかな。

カ:いや、それがまったく。今でも全員が個人競技向きなのは変わってませんよ、でも強いて言えば——俺らを陰で支えてくれたプロデューサーのおかげですかね。

記:ふむ。

カ:プロデューサーがいたから、俺らはなかなか芽の出なかった狭い箱時代も乗り越えられた。今じゃ昔みたいにファンの興奮がダイレクトに伝わってくるような場所でライブすることもなくなっちまったんだけど。

記:ちょっと懐かしそうだね。

カ:俺らを育ててくれた場所っすからね。やっぱり、売れない期間ひたすらライブで腕を磨いたことは無駄じゃなかったなって。今だから思えるんだろうな。


「……、俺はもっと格好よく答えてた気がするんだけどな」

 ため息と共に雑誌を閉じ、棚に戻したところで彼は目を覚ました。



四日目朝、病室


垣根「夢かよ!」

一方通行「はァ?」

垣根「つーかいつ寝たっけ!」

御坂「夜でしょ」

削板「オレが合流してすぐに寝ただろ」

一方通行「まァ深夜まわってたしなァ」

麦野「あんたが一番遅起きだよ、バカッキー」

垣根「いや! うむ! うむ、うむそれどころではない!」

麦野「いやうぜーよその口調」

垣根「俺は気づいた、とんでもないことに気づいた」

削板「とんでもないこと?」

一方通行「……、ツチピー呼ばなくてイイのかよ」

垣根「呼ぶ。それくらい大事だ」



数分後

土御門「ようやくお目覚めか。いいご身分だにゃー」

垣根「俺が遅く起きたとかイケメンだとかはどうでもいい。さっき気づいたんだけどな」

御坂(さらっとイケメン発言したわね)

土御門「聞いてやる。気づいたこと、とはなんだ?」

垣根「俺たちはとにかくCDを出そう、売れなきゃいけない、って考えて行動してきただろ?」

一方通行「あァ。つゥかオマエが世界に羽ばたくバンドになるっつってたろォが」

垣根「だけどさ、現状俺らの演奏スキルじゃ素人に毛が生えた程度でしかない」

麦野「ま、そりゃそうね。専門学校出てるわけでもないし」

垣根「一般的なバンドっていうのは、ちっさい箱で実力積んでのし上がってくもんなんだ」

削板「なるほど。根性で人気を勝ち取っていくわけだな!」

土御門「ふむ、一理ある。それで?」

垣根「その段階をすっ飛ばして売れようったって、そうはいかないだろ。知名度がまったくないんだから」

御坂「えーっと……まずは知名度をあげようってこと?」

垣根「ああ。もっといえば、俺たちに惚れ込んでCDを買ってくれるようなファンを作る必要があると思う」

麦野「でも、私達は超能力者よ? 名前だけなら知名度バツグンでしょ?」

一方通行「……、逆に考えてみろ。名前こそ知ってはいるが、とくに興味もねェ相手に1000円もかけられっかよ」

削板「たしかにそう言われてみると返答に詰まるな。ぶっちゃけ買う気にはならん」

垣根「そういうことなんだよ。俺たちはCDの売上をどう伸ばそうか、そればっか考えてたけどさ」

土御門「……、……」

麦野「だったら、私達がすべきことは——PVやらジャケやらの撮影じゃないわね。もっと根本的なことよ」

御坂「そうね。チケット売らなきゃ」

一方通行「……、はァ?」



御坂「え?」

一方通行「いや、だからオマエ話聞いてたか。素人に金出さねェだろっつゥ話だぞ」

御坂「あ、そっか。……でも、だったらどうやってライブに人集めるのよ?」

垣根「そこが問題だ。まあぶっちゃけ人脈に頼るしかねえんだよな、人脈は宝っていうし」

土御門「知名度をあげるためには赤字覚悟か」

麦野「金銭的な問題は正直ないわね。あんたら全員金持ってるでしょ」

削板「……、オレはあんまり持ってないんだが」

垣根「はじめは小さなライブハウスでやるからそんなに金はかからねえと思う。大事なのは評判をあげることだ」

一方通行「人脈に頼るっつゥなら俺にできるコトはほぼねェな。知り合いなンざほとンどいねェし」

土御門「ふむ。ここはやっぱりミコトの出番じゃないか?」

御坂「え? わ、私?」

麦野「この中じゃ一番知り合い連れてこれそうじゃない」

垣根「友達は少なそうだけどな!」

御坂「おい」

麦野「でもほら、後輩とかいっぱいいるでしょうが。あんたが来いっつったらホイホイ来てくれそうな後輩、いないの?」

御坂「ぱっと思いつく該当者は向こうに加担してるん……、あ」

土御門「お?」

御坂「いない、わけでもないわ。がんばれば5、6人くらい……いやもうちょいいけるかな?」

垣根(すっくな」

一方通行「おいコラ声出てンぞぼっち」

垣根「ぼっちじゃありませんー! ケータイぶっこわされて連絡先がジィロォになっただけですうー!」

削板「じ、二郎……」

麦野「その発音良くゼロって言うのやめろ」



土御門「となると、まずはライブの準備だな。適当にどこかおさえるか」

垣根「そうだな。人を呼び込むなら路上ライブが一番手っ取り早いんだけどさすがに無理だろ?」

土御門「できないこともないが、学生がよく通る学区で大きなスペースとなると限られてくるな」

削板「大丈夫だ。コーチならそこをなんとかできるってオレは信じてるぞ」

御坂「プレッシャーかけるわねアンタも……」

麦野「場所は多分なんとかなるわよ。それより問題は人をどれだけ集められるか——ついでに、緊張せずノーミスで演奏できるかどうかも大事かな」

一方通行「俺は問題ねェが、ソギーとかは厳しいンじゃねェの」

削板「そんなこと! 根性で! 乗りきれるって! オレは信じたい!」

垣根「自信ねえじゃねえか」

削板「いや、自信がないっていうか、こう、理解できてない? みたいな? なにか手本でもあればそれを真似できるんだが」

垣根「手本。手本ねー……あ」ポン

土御門「なんだ、その名案思いつきましたみたいな古臭いポーズ」

垣根「だから、見本がありゃいいんだろ。アレイスター直々の計画っつーことは、この学園にいるであろうクッソうめえドラマーをここに引きずってこれる訳だ」

一方通行「……、まさかオマエ、部外者に一度やらせるつもりか」

垣根「何か問題でもあるか? 使えるもんは全部使い切る、それがエコだ」

麦野「ソギーに演奏させる前に非メンバーの誰かにドラムパートを任せるってか? バンドも何もあったもんじゃないわね」

御坂「浜面さんに頼むんじゃだめなの? たしか結構ドラムできるのよね?」

土御門「許可をすぐ出すわけにはいかないな。一応ライバルだし、できれば違うやつ引っ張ってこなきゃだぜい」

削板「おまえらどうでもいいけど本人の意向総無視か。オレにも意見くらい言わせろ」

一方通行「異論があンならハイどォぞ」

削板「ありませんっ!」

麦野「ねえのかよ! プライドもねえなてめえ!」

削板「だってドラム難しい……軍覇わかんない……」

御坂「テクニックとか、一朝一夕で身につくようなもんでもないでしょ。できるかしら」

土御門「そこはソギーのポテンシャルに賭けるしかないだろう。正直、オレは他のお前らも十分心配なんだが」

垣根「ま、大丈夫っしょ。俺らを誰だと思ってんの? 天下のLEVEL5だぜ?」



土御門(ぶっちゃけお前らだからこそ心配なんだけどまあ言う必要もないか)

一方通行「そォいや、マネージャー二人はどォした」

土御門「あいつらなら朝食の買い出しに行かせてる。腹が減っては戦はできぬというしな」

御坂(当初は自分たちで用意しろーとか言ってたような)

削板「じゃあオレたちはあれだな! 体力をつけよう、気合と根性で!」

垣根「はあ? なんで今さらそんなスポ根ドラマみてえな真似……」

麦野「あら、体力をつけるのは最優先でしょ。路上ライブするってんだから相当な体力がなきゃだめじゃない」

一方通行「……ココになぜかなわとびがある」

御坂「うわっ! なにそのカラーバリエーション! なんかバラエティみたいな準備の良さ!」

垣根「ああそれ俺のー、夜にみんなでなわとび大会しようと思って。ちなみに俺の得意技はバク宙五重跳びだ!」

削板「ふっふーん! オレは自慢じゃないけど十重跳びできる!」

麦野「思いっきり自慢じゃねえか。ドヤ顔じゃねえか」

御坂「ていうか十重跳びってどういう仕組みよ!?」

削板「なんかこう、すごくヒュヒュン! ってする」

一方通行「オマエあれだわ、マジ説明下手だわ」


 それぞれのテーマカラーに合わせた縄跳びを手にした超能力者たちを見て、彼らのプロデューサーは思案に暮れる。
 つい先程垣根が指摘するまで土御門自身はライブ、いわゆる演奏面は徐々に鍛えあげていけばいいと思っていた。しかし、冷静に考えてみるとたしかに垣根の言い分にも一理ある。
 急がば回れと古人は言った。音楽に近道など存在しないのである。付け焼刃の演奏技術で世界的なバンドを目指そうなどおこがましい。
 超能力者としての彼らは十分に実力がある。名だって通っている。しかし、それはあくまでも能力開発における成功例としての羨望を受ける存在でしかない。
 彼らは学生であり、同時にモルモットであり、けれどミュージシャンではない。
 彼らをミュージシャンと認識させるためには、ある程度の時間が必要だった。超能力者という肩書きに、アーティストという一文を書き加える時間が。

(ローマは一日にして成らず。この計画は最終計画、短期間で成し遂げられるとはアレイスターも思っていまい)

 土御門は密やかに笑うと、「見てこれ! なあ! ヒュヒュンって! なあ!」と自信満々に十重跳びをしながら自分に向かってドヤ顔を向けてくる削板に「速すぎて全然見えないぜい」とツッコミをいれた。


第五回・四日目朝、終了

自分に向かってドヤ顔を向けてくるって日本語おかしいな、自分にドヤ顔を向けてくるだな

それはそうと!!!
>>82あたりの! ジャージの!! イラストを!!! 友達に!!!! 描いていただいた!!!!!
自慢がてらおまえらにも見せたげるね!どや!どやあ!!!!!!!!!!
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3519409.png


たぶんこれで見れるはず!堪能するがよいわ!!!
んじゃまた!!!!!!


 ライブをやるってことは、もっと曲も増やさなきゃならねえって訳だろ。そう考えた垣根はいそいそとホワイトボードに言葉を書き連ね始める。運動に飽きた一方通行が真っ先に彼の指先に視線を向けた。きゅっきゅっ、とホワイトボードが鳴る。同時にまだ縄跳びを続けていた削板のほうからはひゅんひゅんと縄の音が聞こえている。

「……、オマエ意外と字汚ェな」

「そこはスルーしろよ今関係ねえだろ」

 一方通行の軽口に乗りながら、垣根の手は休まず動く。少々急いでいるせいか、字は崩れ気味だ。
 字の綺麗さって必ずしも頭脳の良し悪しに直結しないわよねえ、と麦野が呟いた。ノートもさ、綺麗にきっちり取る子に限って成績優秀じゃなかったりするわね。御坂が答える。



第五回・四日目昼



一方通行「つゥか読みにくいンですけど」

麦野「お習字でも習えばーぁ?」

垣根「るっせ! そこの破壊魔コンビるっせえ!」

削板「オレが言うのもあれだけど、お前もなかなか破壊魔だと思うぞ」

御坂「ほとんど全員破壊魔じゃない。ま、まあ私はちが」

麦野「わねーだろメスガキ」

垣根「書き終わった!」



 ゼロかイチしかないんだ 可能か不可能しかないんだ
 生きにくそうだと笑われても いまさら変えられるもんか
 だってほら 三つ子の魂百までって言うだろ? 
 今までを否定した先には きっと何もないだろうさ

 なあ聞いてくれ
 (正真正銘)この俺自身が (一生懸命)ここで叫んでる
 バラの棘よりも真綿を恐れて 必死で夢中で喚き散らして
 目に見える痛みなら喜んで受けるよ だから自分だけの現実を覗かないでくれ

 ゼロになったらどうするか イチからやり直すしかないさ
 融通が利かないとけなされても いまさら変えられやしない
 だってほら 失敗は成功の元とも言うだろ?
 試行錯誤を繰り返して 俺は今立っているんだ

 なあ聞いてくれ
 (満身創痍)疲れ果てても (臥薪嘗胆)投げ出さないから
 あたたかい激励より身を刺す冷水ぶっかけてくれ

 まだ立ち止まりたくないよ もっと続けなきゃ
 俺が俺であるための 簡潔で簡単なたったひとつの証明を

 なあ見てくれよ
 (この足は)地面踏みしめてるんだ (この手は)ギターを握ってるんだ
 (この目は)世界を捉えてるんだ (この胸は)鼓動刻んでるんだ

 これこそがそう 俺の存在証明



一方通行「……、……」

麦野「……、……」

御坂「……、……」

削板「……、オレはギターを握る予定がないんだが」

垣根「それはお前、これ俺視点の歌詞だし」

一方通行「いろいろツッコミてェが、とりあえず——」

御坂「ねえ、タイトルは?」

一方通行「——ソレだな」

麦野(かっこつけてわざとミコトに言わせたみたいな雰囲気出してるけどバレバレにゃーん)


ごめんなさいまだここまでしかできてないです!またあとで続き投下しときます!ね!


垣根「タイトルはまだない。決めてないっつーか浮かばなかった」

削板「シンプルに存在証明、とかじゃ駄目なのか? わりと合ってると思うんだ」

垣根「ええー? それはちょっとひねりなさ過ぎじゃねー?」

御坂「歌詞だってべつにひねってないでしょうに。これはカッキーがメインボーカルでいいの?」

麦野「ミコトが歌うなら一人称は俺から僕に変えたほうがいいような気もするし、まあバカでいいでしょ」

垣根「ああ、歌詞は前にちょっと思いついてたやつだからさほど思い入れはねえし、俺でもミコトでもどっちでもいい」

削板「つまりオレでもいいと」

麦野「アンタドラムぶっ叩きながら歌える? そんな器用な真似できるくらい成長した訳?」

削板「ぐぬぬ! ぐぬ! ぬう!」

一方通行「……——Quod Erat Demonstrandum」

垣根「あ?」

一方通行「タイトルだ。証明終了、Q.E.D.だな」

麦野「歌詞のラスサビは存在証明を完了してるんだっけ?」

垣根「あーうん、面と向かって聞かれると恥ずかしいけどそういうことだ」

御坂「だったらイッツーのそれでいいじゃない。ギリシャ語だとhoper edei deixaiだったかしら」

削板「ギリシャはさすがにちょっと日本から遠いからなしだわ」

一方通行「なンで距離で判断するンだよ」

垣根「じゃあともかく、この曲はQ.E.D.ってタイトルで異論はねえな?」

一方通行「でオマエは何ドヤ顔して仕切ってンだボケ」


麦野「歌詞といえば数点気になるところがあるんだけどさ。サビの一部に()がついてるけど、これは何なのよ?」

垣根「コーラス」

御坂「……、コーラス」

垣根「そう。コーラス」

一方通行「お、おォ……コーラス」

削板「つまりハモリか」

垣根「ああ。俺はそう言いたかった」

麦野「えーっと、要はこの()内は私らが歌うの? それともアンタが歌ってるのと一緒にハモればいいの」

垣根「この曲は疾走感のあるメロディにしたいから、できればハモリのほうが盛り上がるよな」

一方通行「()内を俺達が歌って、若干食い気味にオマエが続けた方が疾走感は出るンじゃねェのか」

垣根「ああー……」

御坂「盛り上げたいなら()のとこ以外のサビの語尾とかハモらせちゃえばいいんじゃない?」

垣根「おおー……」

削板「オレはとりあえず速く叩けばいいんだろ!?」

垣根「いや、リズムは乱さないでもらいたい」

削板「ちっ」

麦野「今回の曲は王道ロックでいきたいってことね」

垣根「うん! そう! そうなの!」

麦野「イッツー、アンタ無理よね?」

一方通行「あァ、無理」

垣根「は!? なんで!」

一方通行「(打ち止めがよく聴いていたのをなンとなく)知っている曲にロックナンバーはねェ」

麦野「だと思ったわ」

御坂(心の声が聞こえる)

麦野「だから!」

削板「だから?」

麦野「私に任せとけ」

垣根「」


一方通行「ンじゃ任せ」

垣根「待った待った待った待った、よしてくれよシズリィ」

麦野「ああ?」

垣根「君が作曲だなんて冗談だろ? ははっどこの国のジョークなんだい?」

御坂「アメリカンコメディに逃げるくらい嫌なの!?」

垣根「だああああってよおおおお!!! お前らこいつぜったいあれだってわかってんだろ、ぜったいなんかヘドバンしちゃうかんじの曲調にするじゃん!」

削板「一理ある」

麦野「失礼ね、私だって抑えりゃそこそこ……会いたくて震える系のもいけるわよ」

御坂「誰に会いたくて震えるの?」

麦野「そりゃもちろんはっ、……」

垣根「はぁ〜?」

一方通行「まァ〜?」

御坂「づぅ〜?」

麦野「し、[ピーーー]っ!!!!」

削板(浜津……って誰だ……)

sasasageってなんだ……
とりあえずここまで!またあとで!



同時刻 第七学区

 とある病院の廊下に設置されている長椅子に、ふたりの少女が腰掛けている。
 片割れである幼い方の少女は、アホ毛をぴょんぴょんと揺らしながら楽譜を眺めていた。
 ふんふんふーん。歌詞のない楽譜らしく、彼女の歌は鼻歌である。ふんふんふん、ふんふっふーん。

「……、子どもは即興で作曲するのが得意ですよねーとミサカはお子ちゃまな上位個体を上から目線で評価しますが」

 そんな少女の隣には、無表情ながらもどこか優越感を漂わせたもうひとりの少女が座っている。年は隣の少女よりも数歳上であろうか。彼女らは非常によく似ていた。

「ぶっぶー。これはねー、あの人が作曲したものなんだよってミサカはミサカはドヤ顔であの人の音楽的才能を開花させた自分に酔いしれてみたり!」

「音楽的才能なんてあいつにあんのかようっそだー、とミサカはこっそり舌を出したい気持ちを抑えつつ無表情を貫きます」

 無表情、と自己申告している割に、少女の顔にはわずかばかりの驚愕の色がみえた。どうやら初耳だったらしい。
 ちょっとそれ貸してください。引ったくる勢いで年下の少女から楽譜を奪った少女はそのまま逃走する。
 背後からは一瞬の隙を突かれ呆然としかけていた幼い少女が大声を出していた。

「ちょっとー! それはミサカの大事な大事な宝物なんだからいくらミサカといえどもそう簡単には渡せなーい! ってミサカはミサカは……あれ? 今どっちのミサカだったかな」

 叫びながら少し混乱している幼い少女——上位個体たる打ち止めが走りだす前に姿を消さねば自分が得た貴重なネタが奪還されてしまう。
 そう考え、数ヶ月前に行われていたはずの某実験時よりもよっぽど速いスピードで院内を駆け抜ける少女は、ミサカ10032号。通称御坂妹である。

「ええいっ、もうとにかくそれはミサカのなんだからーってミサカはミサカは10032号をとりあえず追いかけることに専念しちゃう!」

「ちっ、最近このガキ思考放棄すんの早くねーかとミサカは妹が近年のゆとり教育の弊害を受けているのではと考えますが思い返すとそもそもミサカ達教育らしい教育受けてねーや」

 ほぼ息継ぎなしで呟ききった御坂妹はさらにスピードをあげると、一目散に病院の外に飛び出す。数十秒遅れて打ち止めも同様に病院を後にした。

「……教育を受けていないことは、病院で騒いではいけないという常識を破る理由にはちょっと足りないね?」

 ふたりの少女が騒がしく出ていったあとで、カエル顔の医者は眉尻を下げながら苦笑した。



 さて、冒頭の楽譜である。

 数日前、一方通行が作詞作曲をした非常に(本人としては)恥ずかしい曲を覚えているだろうか。
 いかにも僕と打ち止めのことを歌にしましたといわんばかりのあの曲である。あまりの赤面必至な歌詞にさすがの麦野も手を貸すほかなかった、あの曲である。
 話は少し遡るが、打ち止めの言った通り、一方通行の「音楽的才能」のステップアップを手助けしたのは他ならぬ彼女である。
 楽譜だァ? どォ見たって成長前のカエルが上やら下やらに蔓延ってるだけじゃねェか、と思っていた一方通行をどうにかこうにか楽譜を無事に読めるまで育て上げたのは打ち止めである。
 もっとも、物覚えのいい一方通行が音楽の基礎知識を身につけるのに所要した時間は一時間程度であった。

 実際のところ、一方通行の耳は能力全開時には常人のそれより数段階上の機能を有するため、音の識別能力も段違いである。
 よって、おそらく将来的には打ち止めの言う「あの人の音楽的才能」とやらも大言壮語ではなくなる可能性もあったが、今はまだ彼の優れた聴覚に対して作曲能力が追いついていないと言うしかない。
 ともかく。そんな一方通行の作った曲の楽譜をなぜ打ち止めが持っていたのかという点に話題は尽きる。
 早い話が「打ち止めが脅して一方通行にデータを寄越させた」のだが、彼女自身に脅したという自覚はない。
 だが、彼女と一方通行の電話を通しての言い合いを聴いていた黄泉川は、
 「あの一方通行に対してここまで強気に出れる幼女もなかなかいないよなあ……ほんとに」と感想を述べていた。
 その楽譜データを持って走る御坂妹は、病院から離れた公園まで逃げ切ることに成功していた。平日のお昼時である。ちらほらと学生の姿も見えるが、公園にいる人間の大半は大人だった。

「ぜえ、ぜえ……っとミサカはさすがにダッシュで数キロはきついかなあと感想をもらしつつベンチに腰掛けます」

 額にうっすらと汗を浮かべた彼女は、それでもこみあげてくる笑いを抑えきれないのか口端がゆるんでいる。
 あの一方通行が作曲したらしい曲の楽譜ともなれば、さぞかし大笑いできることだろう。
 そう考え、にやにやと楽譜を読み込もうとした御坂妹は、ある失態に気づいてしまった。

「……、……やべえ。楽譜読めねえ、学習装置で音楽の知識は得てないんだった、とミサカは頭を抱えます」

 データをガン見したところで、おたまじゃくしの行進にしか見えなかった。どこをどう読めばメロディになって流れるのか、皆目見当もつかない。

「そもそもこれ、上位個体は読めてたんかなーとミサカは自身に不可能なことをあの幼女ができるわけねーわと否定しますが」

 あ、と御坂妹は思い至る。ミサカネットワークの元締めたる上位個体、最終信号。
 彼女は普通の妹達に比べ、ミサカネットワークに依存する傾向にある。
 つまり、自分一人では成し得ないこともミサカネットワークを通じてさくっと行なってしまうわけで。

「ネットワークにアクセス、参照。楽譜の読み方……うむ、ヒットしましたね、とミサカはガッツポーズを決めてみます」

 打ち止めが音楽に関する基礎知識を持っていたのは芳川が暇つぶしがてら教員ぶって教えこんだからであったが、御坂妹にはどうでもいいことでしかない。
 ふんふんふん、とやはり鼻歌まじりに楽譜を読み上げていった御坂妹は、あれ?、と首を傾げる。

「この楽譜、メロディにしてみると少々ぎこちないのでは、とミサカは違和感を抱きますが」

 妙な部分をピックアップして並べ替えてみると、暗号のようにも思える。
 そういえば数日前に見た映画で楽譜に暗号を仕込んでいたスパイがいたっけなー、と御坂妹は思い出した。
 カエル顔の医者は情操教育と言ってはよく妹達に映画やドラマ、アニメを見せているのである。
 暗号であるなら答えは簡単だった。妹達は軍事的な知識であれば一通りマスターしている。
 ああだこうだした結果、どうにか彼女は楽譜に隠されていた暗号の解読に成功した。



 そして。

「ああー! こんなとこにいやがったのか、ひっとらえよー! ってミサカはミサカは昨晩見た時代劇に影響されながらも突進し……ってあれ? なんで逃げないの?」

 背後からぶつかってきた打ち止めは、逃げも隠れもせず——むしろ遠い目をして立ち尽くしたままの10032号をがっちりホールドしつつも訊ねる。
 捕まった形の御坂妹だが、抵抗の意思すらないのか黙って楽譜を差し出す。

「ねえってばー、あっさり捕まっちゃうのもなんだか味気ないしつまんないもんだぜーってミサカはミサカはとりあえず楽譜を受け取って一安心してみるんだけど」

「あいにくこっちもつまんねーよとミサカは心の中でつばを吐きます。ぺっぺっ」

 不思議そうな顔をする打ち止めに、御坂妹はため息を混ぜながら暴言を吐いた。
 なにそれー、と言う打ち止めはおそらく暗号に気づいていないのだろう。

「『くそがきはおうちでねんねでもしてろ』、と御坂は平坦に告げます」

「なっ!? な、なんだいきなり! さっきまでミサカと一緒におっかけっこしてたくせにぃぃいいいいい、ってミサ」

「その楽譜、白モヤシからのメッセージ付きだったようですねとミサカはまだ理解していない上位個体は遠慮なくpgrします。マジだっせえ」

「え? ……、え?」

 ようやく御坂妹の言わんとするところに行き着いたのか、打ち止めは楽譜をじいいっと見つめ始める。
 が、統率者としての立場でつくられた彼女は10032号よりも軍事的知識が乏しいらしい。
 楽譜を読み込んでみてもいまいち納得できていないようだ。

「困ってますね、困りまくってますねとミサカは困ったときに使う魔法の呪文を授けます」

 まほうのじゅもん。そのフレーズに心惹かれた打ち止めは視線を上げ、御坂妹に続きを促した。

「簡単です、こう唱えればいいのです——『助けてカブトムシさん』、と」








垣根「おいそれはだめだろアウトだよ、むしろAUTOだよ」

麦野「あ? 誰に向かって言ってやがんだクソ野郎」

垣根「いえこっちの話ですはい」


とりあえずここまで!


新約6なwwwww読んだんだけどなwwwwwwwちょっとなwwwwwwww
未元物質マジチートすぎてあれだったけどとりあえず麦のんがいい女すぎたわ
個人的に麦のんの口調ってもうちょい普段は女の子っぽくなかったっけーあれーみたいな!さばさば系になってたな!
一方さんと仲良くなっててなんか親御さんポジみたいな?な??

んじゃまたー

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